説明

毛髪成長促進剤、及びその使用方法

【課題】メシマコブ抽出物を用いた発毛方法、育毛方法、及び養毛方法、並びにそれらに用いられる新規薬剤、及び化粧品を提供すること。
【解決手段】メシマコブ抽出物を含有する薬剤、又は化粧品を製造する。メシマコブ抽出物に用いられるメシマコブ(桑黄(そうおう))は、野生のものでも、一般の食料品店で販売しているものでもよい。これらをヒト又はヒト以外の脊椎動物に投与することによって、毛髪の成長を促進することができる。
本発明の毛髪成長促進剤は、育毛促進、養毛促進、薄毛の予防、毛生促進、又は発毛促進に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メシマコブ抽出物を含有する毛髪成長促進剤、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄毛に悩む人の数は、年々増加しており、30歳以下の男性の約30%は薄毛について何らかの悩みを抱えている。そのため、薄毛を防ぐ薬剤の開発が望まれていた。
【0003】
近年、薄毛に対する治療薬として、ミノキシジル(商品名:リアップ)やフィナステリド(商品名:プロペシア)等の薬剤が開発された。しかしながら、ミノキシジルは循環器系の副作用(例えば、非特許文献1参照)が、また、フィナステリドは肝機能障害又は生殖器系の副作用(例えば、非特許文献2参照)が発現するといわれている。そのため、薄毛を改善し、かつ、重篤な副作用を発現しない、新規育毛剤、養毛剤、又は発毛剤を開発する必要があった。
【非特許文献1】Satoh H et al. : Japanese Heart J., 41: 519, 2000
【非特許文献2】Kawashima, M. et al. : Eur. J. Dermatol., 14 (4): 247, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、メシマコブ抽出物を用いた発毛方法、育毛方法、及び養毛方法、並びにそれらに用いられる新規薬剤、及び化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる毛髪成長促進剤は、メシマコブ抽出物を含有することを特徴とする。ここで、前記メシマコブ抽出物は、熱水抽出物であることが好ましい。
【0006】
前記毛髪成長促進剤は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物において、例えば、育毛促進、養毛促進、薄毛の予防、毛生促進、又は発毛促進等に用いられるが好ましい。また、前記毛髪成長促進剤は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物に対して、経皮投与であることが好ましい。
【0007】
なお、前記毛髪成長促進剤は、発毛剤、育毛剤、養毛剤、又は化粧品であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる機能性食品はメシマコブ抽出物を含有し、毛髪成長促進作用を有することを特徴とする。なお、前記機能性食品は、保健機能食品であってもよい。
【0009】
さらに、本発明にかかる食品は、メシマコブ抽出物を含有し、毛髪成長促進作用を有し、毛髪成長促進のために用いられるものである旨の表示を付していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、メシマコブ抽出物を用いた発毛方法、育毛方法、及び養毛方法、並びにそれらに用いられる新規薬剤、及び化粧品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態において実施例を挙げながら具体的かつ詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0013】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0014】
===薬理作用===
本明細書に記載する「毛髪成長促進」には、育毛促進、養毛促進、薄毛の予防、毛生促進、発毛促進、毛髪形成促進、毛髪伸長促進、又は毛髪を太くする等の作用が含まれる。
【0015】
一般に、毛髪は、以下(i)〜(iii)のようにして形成されることが知られている。(i)まず、皮膚の表面を覆う表皮と、その下の真皮との間に、毛髪の形成を誘導するシグナルが送られ、そのシグナルを受けた部分に真皮細胞が集まり、細胞塊を形成する。同時に、表皮細胞が細胞分裂によって数を増やしながら、序々に真皮の中へと落ち込んでいく。そして、落ち込んでいった表皮細胞が、その先端に真皮細胞の細胞塊を包み込む。そうすると、この真皮細胞が毛乳頭細胞に変化する。(ii)次に、毛乳頭細胞が近くの表皮細胞を毛母細胞に変化させる。毛母細胞は活発に増殖しながら、ケラチンと呼ばれる毛の主成分を多量に作る。さらに、メラニンという黒い色素を吸収した後、細胞同士が固く結びつき、毛髪へと変化する。(iii)最後に、毛髪は次々と細胞分裂する毛母細胞に押し上げられながら、表皮細胞のさやの中を通って、表面に顔を出す。
【0016】
このように、毛髪の形成(成長)には、毛母細胞のみならず、毛乳頭細胞も重要な役割を果たしている。
【0017】
本発明者らは、以下の実施例に示すように、毛の成長を評価するin vitroモデル系として知られているKamiyaらの毛包器官培養方法(Kamiya T., Hair follicle elongation in organ culture of skin from newborn and adult mice, J invest Dermatol 17, 54-60 (1998))を改良し、軽度の毛髪成長しか認められない毛包(成長期後期(Anagen IV期)から退行期へ移行する時期の毛包)を用いて毛包器官培養方法を実施したところ、メシマコブ抽出物(メシマコブエキス粉末)を培地に添加した群は、コントロール群と比較して、毛の成長を促進させることを明らかにした。
【0018】
従って、メシマコブ抽出物を含有する薬剤は、ヒトを含む脊椎動物において、毛髪成長促進剤として有用である。
【0019】
===毛髪成長促進剤の製造方法===
本発明の毛髪成長促進剤は、メシマコブ抽出物を含有する。メシマコブ抽出物に用いられるメシマコブ(桑黄(そうおう))は、野生のものでも、一般の食料品店で販売しているものでもよい。ここで、メシマコブ抽出物の形態としては、乾燥物、粉末、液体等が挙げられるが、これらに限定されない。メシマコブ抽出物の製造方法は、例えば、生のメシマコブや乾燥したメシマコブを、ミキサー等を用いて裁断したり、挽いたりして断片や粉末にし、それらをエタノール等の有機溶媒や熱水等で処理してメシマコブの成分を抽出する方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
なお、本発明の毛髪成長促進剤は、本剤を使用する際に、メシマコブ抽出物の濃度が3〜3000ng/mlになるように調製されていることが好ましい。
【0021】
===毛髪成長促進剤の有用性===
本発明の毛髪成長促進剤は、発毛剤、育毛剤、養毛剤、又は化粧品である。ここで、発毛剤、育毛剤、又は養毛剤は、医薬品又は医薬部外品を含み、この医薬部外品は薬用化粧品(例えば、薬用シャンプー、薬用リンス等)を含む。
【0022】
(1)発毛剤、育毛剤、又は養毛剤
上記薬理作用より、本発明の毛髪成長促進剤は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物において、育毛促進、養毛促進、薄毛の予防、毛生促進、又は発毛促進に用いることができる。本発明の毛髪成長促進剤は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物に対して、経皮投与であることが好ましい。
【0023】
また、本発明の毛髪成長促進剤に用いられ得る薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質を用いてもよく、例えば、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等を含有してもよい。さらに必要に応じて、通常の防腐剤、抗酸化剤、吸着剤、香料等の添加物を適宜、適量含有してもよい。また、剤型としては、例えば、ローション、軟膏、クリーム、スプレー、外用液剤、テープ剤、エアゾール、シャンプー、ダスティングパウダー等の外用剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明の毛髪成長促進剤の投与量は、年齢、体重、又は適応症によって異なるが、上記薬理作用が発揮でき、かつ、生じる副作用が許容し得る範囲内であれば特に限定されない。
【0025】
(2)化粧品
本発明の毛髪成長促進剤は、頭皮又は毛髪をすこやかに保つための化粧品としても用いることができる。この場合、本剤の濃度を適宜調節して用いることが好ましい。
【0026】
化粧品の形態としては、例えば、ローション、軟膏、クリーム、スプレー等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの化粧品は、ヘアトニック、ヘアクリーム、シャンプー、リンス、クリーム等の製品に応用することができる。また、本発明の化粧品の使用量、使用回数は特に限定されない。
【0027】
また、一般に、毛髪は、頭皮の表面から外に出ている部分(毛幹部)と、頭皮表面から内側に深く潜んでいる部分(毛根部)とに区別される。ここで、毛幹部は、真ん中に毛髄質(メデュラ)、それを取り囲む毛皮質(コルティックス)、さらにそれを取り囲む毛小皮(キューティクル)から構成される。
【0028】
近年、育毛や発毛にとって、キューティクルの健康は、必要不可欠な要素であることが分かってきた。前述の通り、メシマコブ抽出物を含有する薬剤は、ヒトを含む脊椎動物において、毛髪成長促進剤として有用である。従って、本発明の毛髪成長促進剤は、キューティクルの健康を保ち、頭皮又は毛髪をすこやかに保つための化粧品としても用いることができる。
【0029】
===メシマコブ抽出物を含有する食品又は機能性食品===
以下、本明細書に記載する「機能性食品」は、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、いわゆる健康食品を含む。
【0030】
前述の薬理作用より、メシマコブ抽出物は、毛髪の成長を促進する働きを有すると考えられるので、メシマコブ抽出物を含有する食品又は機能性食品は、毛髪成長促進を可能にする。
【0031】
本発明の食品又は機能性食品は、毛髪成長促進作用が発揮でき、かつ、安全性が認められる範囲内であればその摂取の時期、摂取間隔、摂取量等、特に限定されない。
【0032】
また、上記の食品又は機能性食品には、毛髪成長促進のために用いられるものである旨の表示を付しておくことが好ましい。
【0033】
以上より、メシマコブ抽出物は、ヒト又はヒト以外の脊椎動物に投与又は摂取させることによって、毛髪の成長を促進させることができるので、発毛剤、育毛剤、養毛剤、化粧品、食品、又は機能性食品としても有用である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて、以上に説明した実施態様を具体的に説明するが、これは例示であって、本発明をこの実施例に限定するものではない。
【0035】
メシマコブの毛髪成長促進作用を検討するために、以下の実験を行なった。
【0036】
(1)器官培養液の調製
まず、毛包器官を培養するための培養液を調製した。
・insulin調製液:10mM塩酸に2mg/mL insulin(Sigma)を溶解し、これを孔径0.20μmのフィルターを用いて濾過滅菌し、使用時まで-20℃で保管した。
・培養調製液A:α-Minimum essential medium(GIBCO) 500mLにstreptomycin penicillin混合液(GIBCO)を5mL加え、これを培養調製液Aとした。
・培養調製液B:培養調製液A 120mLに20% FBS(ICN)を30mL加え、さらに、insulin調製液を750μL加え、これを培養調製液Bとした。
・器官培養液:まず、メシマコブエキス末(メシマコブ熱抽出エキス末粒)(日本生薬株式会社)を秤量し、熱水により抽出した(99℃、1時間、抽出回数1回、メシマコブエキス末に対し12倍の精製水を用いた)。次に、50μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液を凍結乾燥して、最終的にメシマコブエキス粉末を得た。このメシマコブエキス粉末を50%エタノールで3mg/mLの濃度になるように溶解し、上記の方法によって作製した培養調製液Bで10倍に希釈し、さらに、5%エタノール含有培養調製液Bで希釈系列(300ng/ml、3μg/ml、30μg/ml、300μg/ml)をそれぞれ500μlずつ作製した。さらに、各希釈液200μlに対し、培養調製液Bを19.8ml加え、器官培養液(メシマコブの最終濃度:3ng/ml、30ng/ml、300ng/ml、3000ng/ml)を作製した。
【0037】
(2)器官培養
次に、37日齢C3H/HeNCrlCrlj雄マウスの背部の毛を刈り、背部の皮膚を採取し、剃刀を用いて採取した皮膚を細切片(厚さ300μm、長さ約1mm)にした。
上記の方法によって調製した各希釈系列の器官培養液を予め6穴プレートTranswell(CORNING社、COSTAR3428)の1つのウエルに1mlずつ加え、そこに得られた各細切片を、6片/ウエルずつ入れ、37℃、5%CO2の条件で、3日間培養した。この間、毎日培地交換を行った。なお、メシマコブエキス粉末を培地に添加しない群を、コントロールとした。
培養開始3日目に、実体顕微鏡(Nikon SMZ 1500)を用いて、各細切片をデジタルカメラで撮影した。撮影後、Adobe Photoshop Elements 2.0を用いて画像を補正し、補正後の画像をImageJ 1.30vを用いて2階調化画像の黒色部分(メラニン色素により黒色を呈する毛包部位)のドット数により面積を求めた。培養開始時と3日間培養後の面積変化により、毛の成長を評価した。統計処理は、以下の方法を用いた。
【0038】
[統計処理]
Microsoft Excel用統計処理ツール「Statlight34(ユックムス株式会社)」を用いて、測定値(n=12)の上下2位の値を除いた群(n=8)の測定値に対して、統計処理を行った。検定は、一元配置分散分析及びDunnett法を用いて行った。有意水準は5%及び1%とした。
【0039】
(3)結果
図1に示すように、メシマコブエキス粉末を培地に添加した群は、コントロール群と比較して毛の成長が認められた。特に、3ng/mlでメシマコブエキス粉末を培地に添加した群(144.7±18.5)、及び30ng/mlでメシマコブエキス粉末を培地に添加した群(147.7±19.7)は、メシマコブエキス粉末を含まないコントロール群(119.7±17.7)と比較して、有意に(p<0.05)に毛の成長が認められた(図2も参照のこと)。
【0040】
以上より、メシマコブエキス末は、毛の成長を促進する作用があることが明らかになった。すなわち、メシマコブエキス末は、おそらく毛母細胞又は毛乳頭細胞を刺激することで、毛髪の成長を促進する作用があることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態において、毛包器官培養3日目の毛の成長を測定した結果を示す図である。培養0日目の毛髪内の黒色領域を100%とした。
【図2】本発明の一実施形態において、毛包器官培養の結果(培養開始時、培養3日目)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メシマコブ抽出物を含有する毛髪成長促進剤。
【請求項2】
前記メシマコブ抽出物が、熱水抽出物であることを特徴とする請求項1に記載の毛髪成長促進剤。
【請求項3】
経皮投与することを特徴とする請求項1又は2に記載の毛髪成長促進剤。
【請求項4】
育毛促進、養毛促進、薄毛の予防、毛生促進、又は発毛促進に用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の毛髪成長促進剤。
【請求項5】
発毛剤、育毛剤、養毛剤、又は化粧品であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の毛髪成長促進剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−263250(P2009−263250A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111674(P2008−111674)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(306009086)株式会社Jハーブ (1)
【Fターム(参考)】