説明

気体軸受スピンドル

【課題】回転軸の振れ回り振動を効率的に減衰させることが可能で、かつ製造が容易な気体軸受スピンドルを提供する。
【解決手段】気体軸受スピンドル1は、回転軸10と、回転軸10の外周面11Aの一部を取り囲む円筒状スリーブ貫通穴33を有するスリーブ30と、スリーブ30を取り囲み、ゴム製のOリング41、42を介してスリーブ30を保持するハウジング20とを備えている。スリーブ30は、スリーブ貫通穴33を有し、外周面の一部がスリーブ30の外周面を成し、スリーブ貫通穴33の内周面が回転軸10の外周面に対向するように構成された非金属焼結体からなる軸受部31と、スリーブ貫通穴33の延びる方向における軸受部31の両側の端部のそれぞれに嵌め込まれ、Oリング41、42を介してスリーブ30をハウジング20に対して保持する金属製の保持リング32とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気体軸受スピンドルに関し、より特定的には、精密加工機、穴加工機、静電塗装機などに使用される気体軸受スピンドルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転軸とハウジング内部において回転軸に対向する部材との間の微小なすき間に圧縮空気などの気体が供給されることにより、回転軸がハウジングに対して支持される気体軸受を備えた気体軸受スピンドルにおいては、回転軸がハウジングに対して非接触の状態で支持される。そのため、軸受における摩擦損失が小さいだけでなく、回転軸と、回転軸に対向する部材とが直接接触しないため、正常な運転状態である限り、部材の疲労や摩耗が生じない。このような特徴を生かして、気体軸受スピンドルは精密加工機、穴加工機、静電塗装機などに使用される高速スピンドルとして広く使用されている。
【0003】
この気体軸受スピンドルに対しては、その性能を向上させるため、種々の提案がなされている。たとえば、回転軸と、回転軸に対向する部材とが万一接触した場合でも、回転軸の焼付きを回避するため、回転軸に対向する部材として黒鉛からなる内壁を有するスリーブを採用した気体軸受スピンドルが提案されている。また、Oリングを介して回転軸に対向する部材としてのスリーブをハウジングに対して支持することにより、回転軸の振れ回り振動を吸収可能な気体軸受スピンドルが採用される場合もある(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
図3は、従来の気体軸受スピンドルの一例を示す概略部分断面図である。図3を参照して、従来の気体軸受スピンドルの一例について説明する。
【0005】
図3を参照して、従来の気体軸受スピンドル100は、回転軸110と、回転軸110の外周面の一部を軸受すき間150を隔てて取り囲む軸受スリーブ130と、軸受スリーブ130を取り囲むハウジング120とを備えている。そして、軸受スリーブ130はゴム製のOリング141、142を介してハウジング120に対して支持されている。また、軸受スリーブ130は、黒鉛などの焼結材からなる内筒部材131と、金属からなる外筒部材132とから構成されている。外筒部材132は、内筒部材131の外周面に焼嵌めにより所定の締め代で嵌合されている。さらに、軸受スリーブ130の両端の近傍部分には、ノズル160が形成されている。ノズル160は、スリーブ給気路161と、軸受スリーブ130、ハウジング120およびOリング142により閉じられた環状空間170と、給気通路180とを介して図示しない軸受用気体供給部に接続されている。
【0006】
次に、従来の気体軸受スピンドル100の動作を説明する。図示しない軸受用気体供給部から供給された高圧気体を給気通路180、環状空間170、スリーブ給気路161およびノズル160を介して軸受すき間150に供給することにより、回転軸110は、軸受スリーブ130に対して回転自在に非接触支持される。そして、回転軸110が図示しない駆動手段により駆動力を与えられることにより、回転軸110の周方向に回転する。
【0007】
このとき、軸受スリーブ130は、黒鉛などの焼結材からなる内筒部材131を有しているため、回転軸110と、軸受スリーブ130とが万一接触した場合でも、回転軸110の焼付きを抑制することができる。また、Oリング141、142を介して軸受スリーブ130がハウジング120に対して支持されていることにより、回転軸110の振れ回り振動を減衰させることができる。
【特許文献1】特開2002−295470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、図3に示す気体軸受スピンドル100によれば、Oリング141、142の弾性を利用して、回転軸110の振れ回り振動を減衰させることができる。しかし、軸受スリーブ130の質量が大きくなると、Oリング141、142が支持する系全体の固有振動数が低下するとともに、回転軸110の振れ回り振動に対する軸受スリーブの応答性が低下する。その結果、Oリング141、142による回転軸110の振れ回り振動を減衰する効果が低下する。
【0009】
図3に示すように、軸受スリーブ130が黒鉛製の内筒部材131を質量の大きい金属製の外筒部材132で取り囲む二層構造とした場合、軸受スリーブ130の質量が大きくなり、上述のようにOリング141、142による回転軸110の振れ回り振動を減衰する効果が低下する。
【0010】
一方、軸受スリーブ130全体を黒鉛などの焼結材製とすることにより、軸受スリーブ130を軽量化することができる。しかし、焼結材は金属に比べて脆いため、気体軸受スピンドル100の組立て等を行なう場合において、ハウジング120に対して軸受スリーブ130を抜き差しする際、不慮の接触による衝撃等によって、軸受スリーブ130に損傷が発生しやすいという問題点がある。
【0011】
また、軸受スリーブ130の内周面は、微小な軸受すき間150を形成するために、きわめて高精度に加工されている必要がある。一般に、当該加工は、軸受スリーブ130の一部を保持することにより、軸受スリーブ130を強固に固定した上で実施される。しかし、焼結材は金属に比べて脆いため、上述と同様に、軸受スリーブ130の保持された部分に損傷が発生しやすい。さらに、焼結材は一般に縦弾性係数が小さいため、保持された部分に変形が生じやすく、安定した固定が困難となり、高精度の加工の実現が難しい。そのため、高精度の加工を実現するためには複雑な工程を含む加工が必要となり、製造コスト上昇の原因となる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、回転軸の振れ回り振動を効率的に減衰させることが可能で、かつ製造が容易な気体軸受スピンドルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に従った気体軸受スピンドルは、回転軸と、回転軸の外周面の少なくとも一部を取り囲む円筒状の貫通穴であるスリーブ貫通穴を有するスリーブと、スリーブを取り囲み、弾性部材を介してスリーブを保持するハウジングとを備えている。スリーブは、スリーブ貫通穴を有し、外周面の一部がスリーブの外周面を成し、スリーブ貫通穴の内周面が回転軸の外周面に対向するように構成された非金属焼結体からなる軸受部と、スリーブ貫通穴の延びる方向における軸受部の両側の端部のそれぞれに嵌め込まれ、弾性部材を介してスリーブをハウジングに対して保持する金属製の保持リングとを含んでいる。
【0014】
本発明の気体軸受スピンドルによれば、スリーブを黒鉛製の内筒部材と金属製の外筒部材との二層構造とするのではなく、スリーブは基本的には比重の小さい非金属焼結体によって構成されている。これにより、スリーブの軽量化が図られ、弾性部材によって支持されるスリーブを含む系全体の固有振動数が上昇するとともに、回転軸の振れ回り振動に対する応答性が向上する。その結果、弾性部材による回転軸の振れ回り振動を減衰させる効果を向上させることができる。さらに、本発明の気体軸受スピンドルにおいては、スリーブの端部である軸受部の端部には、金属製の保持リングが嵌め込まれている。そのため、ハウジングに対してスリーブを抜き差しする際に、不慮の接触による衝撃で欠けが生じ易いスリーブの両端部分を金属製の保持リングで保護することで、スリーブの損傷が抑制できる。また、スリーブの内周面を加工する際に、非金属焼結体に比べて靭性の高い金属製の保持リングに応力が負荷されるようにスリーブを保持することで、スリーブに損傷が発生することを抑制することができる。
【0015】
さらに、スリーブの内周面を加工する際に、焼結材に比べて縦弾性係数が大きい金属製の保持リングに応力が負荷されるようにスリーブを保持することで、強固な固定が容易となり、高精度の加工が容易に実現することができる。
【0016】
以上のように、本発明の気体軸受スピンドルによれば、回転軸の振れ回り振動を効率的に減衰させることが可能で、かつ製造が容易な気体軸受スピンドルを提供することができる。
【0017】
ここで、スリーブの軸受部を構成する非金属焼結体としては、たとえば焼結により成形された黒鉛、セラミックなどを採用することができる。また、スリーブの軽量化の観点から、スリーブの軸受部を構成する非金属焼結体の比重は小さいことが好ましく、たとえば比重5以下の非金属焼結体を採用することがより効果的である。
【0018】
また、スリーブの軽量化の観点から、スリーブ貫通穴の延びる方向における保持リングの長さは短く、厚みは小さいことが好ましい。具体的には、保持リングの長さは、たとえばスリーブ貫通穴の延びる方向におけるスリーブの長さの30%以下であることが好ましい。一方、ハウジングに対してスリーブを抜き差しする際や、スリーブの内周面を加工する際に、他の部材によって保持される部位として十分機能するためには、保持リングはある程度の長さおよび厚みを有していることが好ましい。具体的には、保持リングの長さは、たとえばスリーブ貫通穴の延びる方向におけるスリーブの長さの5%以上、厚みはスリーブの厚みの20%以上であることが好ましい。また、上述の弾性部材としては、たとえばニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等を採用することができる。
【0019】
また、保持リングを構成する金属としては、鉄系合金、アルミニウム系合金、マグネシウム系合金などを採用することができ、具体的には、たとえばJIS規格 SUS304、SUS303(ステンレス鋼)、A2000系(アルミニウム系合金)などを採用することができる。
【0020】
上記気体軸受スピンドルにおいて好ましくは、保持リングには、弾性部材を保持するための、保持リングの外周に沿った方向に延びる環状の溝が形成されている。
【0021】
これにより、上述の弾性部材としてたとえばゴム製のOリングを採用し、上記環状の溝にOリングを嵌め込むことにより、Oリングの位置を固定することができる。また、弾性部材を固定するための溝を金属に比べて脆い非金属焼結体からなる軸受部に形成すると、加工が困難となる。さらに、高い表面精度に加工することが難しく、また内部に気孔が存在する非金属焼結体と弾性部材との接触部によっては気密性を十分確保することができないおそれがあるため、当該接触部によって気密性を確保する必要のある気体軸受スピンドルには、当該構成は好適であるとはいえない。これに対し、内部に気孔が存在するおそれが小さく、かつ高い表面精度に加工することが比較的容易な金属製の保持リングに上記環状の溝を形成することにより、溝の加工が容易となるとともに、金属製の保持リングと弾性部材との接触部によって気密性を十分確保することが可能となる。
【0022】
上記気体軸受スピンドルにおいて好ましくは、スリーブには、スリーブの周壁において、スリーブ貫通穴の内周面と回転軸の外周面との間に設けられた軸受隙間に気体を供給するためのノズルが複数形成されている。そして、ノズルは、スリーブ貫通穴の円周方向に延びる複数の列を構成するように配置されている。
【0023】
回転軸は、ノズルを通じて供給される圧縮空気などの軸受用気体によって生じる軸受隙間内の圧力により、スリーブに対して非接触に保持される。したがって、当該ノズルを複数形成し、かつ複数の列を構成するように配置することにより、気体軸受の剛性を高め、より高い軸受性能を得ることができる。
【0024】
上記気体軸受スピンドルにおいて好ましくは、ノズルは、スリーブ貫通穴の延びる方向におけるスリーブの中央部を挟む両側のそれぞれに、少なくとも1列以上形成されている。これにより、回転軸の傾きに対して高い角度剛性を有する気体軸受スピンドルにすることが可能である。
【0025】
上記気体軸受スピンドルにおいて好ましくは、スリーブ貫通穴の延びる方向において、複数のノズルのうち両端に位置する端部ノズルは、スリーブの両側の端部のうち最も近い一方の端部からの距離がスリーブの長さの25%以下である位置に形成されている。軸受が回転軸の傾きに対して高い角度剛性を持つためには、所定の間隔以上離れた位置において軸受用気体を供給する軸受ノズルが設けられていることが好ましい。上述の構成により、ジャーナル軸受は回転軸の傾きに対して高い角度剛性を持つことができる。
【0026】
上記気体軸受スピンドルにおいて好ましくは、スリーブ貫通穴の延びる方向において、スリーブの中央部からの距離が、スリーブの長さの20%以下である位置に、少なくとも1つのノズルが形成されている。
【0027】
本発明の気体軸受スピンドルのように、スリーブが弾性部材を介してハウジングに保持されている気体軸受スピンドルにおいては、スリーブとハウジングとの間の熱伝導性が低いため、スリーブおよび回転軸に熱が溜まりやすい。回転軸が高速で長時間回転する場合などにおいては、軸受すき間内の気体が摩擦によって発熱することで軸受すき間周辺の温度が上昇し、熱膨張に起因した気体軸受スピンドルの不具合、たとえば軸受すき間が小さくなることによる回転軸とスリーブとの接触などが発生するおそれがある。
【0028】
これに対し、上述のように、スリーブの中央付近にノズルが形成されていることにより、スリーブの中央付近に面する軸受すき間の気圧が周囲の軸受すき間に比べて高くなる。そのため、軸受すき間のスリーブの中央付近に面する領域から、スリーブの端部に面する領域に向かう気流が発生し、軸受用すき間に存在する温度の上昇した軸受用気体が効率よくスリーブの端部に面する領域に向けて排出されて、温度の上昇が緩和される。その結果、上述の熱膨張に起因した気体軸受スピンドルの不具合を回避することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から明らかなように、本発明の気体軸受スピンドルによれば、回転軸の振れ回り振動を効率的に減衰させることが可能で、かつ製造が容易な気体軸受スピンドルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1の気体軸受スピンドルの概略断面図である。図1を参照して、本発明の実施の形態1における気体軸受スピンドルの構成について説明する。
【0032】
図1を参照して、実施の形態1の気体軸受スピンドル1は、回転軸10と、回転軸10の外周面11Aの一部を取り囲む円筒状の貫通穴であるスリーブ貫通穴33を有するスリーブ30と、スリーブ30を取り囲み、弾性部材としてのゴム製のOリング41、42を介してスリーブ30を保持するハウジング20とを備えている。回転軸10とスリーブ30とは、10μm以上40μm以下程度のジャーナル軸受すき間13を隔てて配置されている。
【0033】
回転軸10は、円筒状の軸部11と、軸部11の一方の端部に形成された軸部11よりも直径の大きい円盤状の形状を有するフランジ部12とを有しており、軸部11の他方の端部には工具などを保持するための保持部19が形成されている。そして、スリーブ30には、スリーブ30の周壁に形成され、スリーブ貫通穴33の内周面と回転軸10の軸部11の外周面11Aとの間に設けられたジャーナル軸受隙間13に軸受用気体を供給するための複数個のノズルであるジャーナルノズル51が形成されている。
【0034】
ジャーナルノズル51は、スリーブ貫通穴33の円周方向に延びる2つの列を構成するように配置されており、ジャーナルノズル51は、スリーブ貫通穴33の延びる方向(回転軸10の軸部11における軸方向)におけるスリーブ30の中央部を挟む両側のそれぞれに1列ずつ形成されている。
【0035】
以上の構成により、スリーブ30は、ハウジング20に対して回転軸10を軸部11の軸方向に垂直な方向(ラジアル方向)に非接触に軸支する気体ジャーナル軸受として機能する。なお、軸部11の軸方向におけるスリーブ30の中央部から両側のジャーナルノズル51までの距離がほぼ等しくなるように、ジャーナルノズル51は形成されていることが好ましい。これにより、ジャーナル軸受隙間13内の圧力分布が軸方向にほぼ対称となり、回転軸10はスリーブ30に対して、軸方向にバランスよく軸支される。
【0036】
さらに、ハウジング20の内部には、円環状の形状を有する気体スラスト軸受60が、回転軸10のフランジ部12の両側の底面12Aのそれぞれに対して一方の底面が対向するように配置されている。ここで、気体スラスト軸受60と回転軸10のフランジ部12とは、10μm以上50μm以下程度のスラスト軸受すき間14を隔てて配置されている。気体スラスト軸受60には、当該一方の底面と、これに対向するフランジ部12の底面12Aとの間に設けられたスラスト軸受すき間14に気体を供給するための複数個のスラストノズル61が形成されている。スラストノズル61は、フランジ部12の周方向に沿った方向に複数個形成されている。
【0037】
さらに、ジャーナルノズル51は、スリーブ給気路52と、スリーブ30、ハウジング20およびOリング42により閉じられた空間である環状空間22とを介してハウジング20内に形成された軸受用気体供給路21に接続されている。また、スラストノズル61は、スラスト軸受給気路62を介して軸受用気体供給路21に接続されている。そして、軸受用気体供給路21は、空気などの高圧の気体を供給する機能を有し、気体軸受スピンドル1の外部に配置された図示しないエアコンプレッサなどの軸受用気体供給源に接続されている。
【0038】
さらに、フランジ部12の一部である外周部には、フランジ部12内において隣接する部分よりも軸方向の厚みの薄い薄肉部12Bが形成されており、薄肉部12Bの一方の底面には、フランジ部12の円周方向に配列され、板状の形状を有し、吹き付けられた気体を受けて回転軸10をフランジ部12の周方向に回転させるための複数のタービン翼15が形成されている。さらに、ハウジング20の内部には、フランジ部12の外周側に配置され、タービン翼15に対向する位置に開口を有し、ハウジング20の内壁からタービン翼15に向けて圧縮空気などの駆動用気体を噴出できるように構成されたタービンノズル73が形成されている。タービンノズル73は、フランジ部12の外周に沿った方向に延びるように形成された円周溝72を介して駆動用気体供給路71接続されている。そして、駆動用気体供給路71は、高圧の空気などの気体を供給する機能を有し、気体軸受スピンドル1の外部に配置された図示しないエアコンプレッサなどの駆動用気体供給源に接続されている。さらに、ハウジング20には、フランジ部12の薄肉部12Bのタービン翼15が形成された側の面であって、タービン翼15が形成された領域よりも内周側の領域に対向する位置に一方の開口を有し、ハウジング20の外壁に他方の開口を有する駆動用気体排出路75が形成されている。
【0039】
次に、図1を参照して、実施の形態1の気体軸受スピンドル1の動作について説明する。図示しない軸受用気体供給源から供給された圧縮空気などの軸受用気体は、軸受用気体供給路21、スリーブ給気路52およびジャーナルノズル51を通じてジャーナル軸受すき間13に供給される。さらに、図示しない軸受用気体供給源から供給された軸受用気体は、軸受用気体供給路21、スラスト軸受給気路62およびスラストノズル61を通じてスラスト軸受すき間14に供給される。これにより、ジャーナル軸受すき間13およびスラスト軸受すき間14においては、供給された軸受用気体により気体膜が形成される。その結果、回転軸10は、回転軸10を軸方向に垂直な方向(ラジアル方向)および軸方向(アキシアル方向)において、ハウジング20に対して非接触かつ回転自在に軸支される。
【0040】
さらに、図示しないエアコンプレッサなどの駆動用気体供給源から供給された駆動用気体は、駆動用気体供給路71から円周溝72を通じてタービンノズル73に供給される。タービンノズル73に供給された駆動用気体は、タービン翼15に向けて噴出する。そして、噴出した駆動用気体をタービン翼15で受けることにより、フランジ部12には回転軸10の軸まわりに回転する駆動力(トルク)が与えられて、回転軸10が軸まわりに回転する。回転軸10に駆動力を与えた駆動用気体は、駆動用気体排出路75から気体軸受スピンドル1の外部へと排出される。
【0041】
ここで、スリーブ30は、スリーブ貫通穴33を有し、外周面の一部がスリーブ30の外周面を成し、スリーブ貫通穴33の内周面が回転軸10の外周面11Aに対向するように構成された非金属焼結体からなる軸受部31と、スリーブ貫通穴33の延びる方向(回転軸10の軸方向)における軸受部31の両側の端部のそれぞれに外嵌めされることにより嵌め込まれ、弾性部材であるゴム製のOリング41、42を介してスリーブ30をハウジング20に対して保持する金属製の保持リング32とを含んでいる。なお、保持リング32の軸受部31への嵌め込みは、たとえば焼嵌めにより実施することができる。
【0042】
以上のように、実施の形態1の気体軸受スピンドル1ではスリーブ30は基本的には比重の小さい非金属焼結体によって構成されている。これにより、スリーブ30の軽量化が図られ、弾性部材であるゴム製のOリング41、42によって支持されるスリーブ30を含む系全体の固有振動数が上昇するとともに、回転軸10の振れ回り振動に対する応答性が向上する。その結果、回転軸10の振れ回り振動をOリング41、42の変形により効果的に減衰させることができる。さらに、実施の形態1の気体軸受スピンドル1においては、スリーブ30の端部である軸受部31の端部には、金属製の保持リング32が外嵌めされている。そのため、ハウジング20に対してスリーブ30を抜き差しする際や、スリーブ30の内周面を加工する際に、非金属焼結体に比べて靭性の高い金属製の保持リング32に応力が負荷されるようにスリーブ30を保持することで、スリーブ30に損傷が発生することを抑制することができる。また、不慮の接触による衝撃で欠けが生じ易いスリーブの両端部分を金属製の保持リングで保護することで、スリーブの損傷が抑制できる。
【0043】
さらに、スリーブ30の内周面を加工する際に、焼結材に比べて縦弾性係数が大きい金属製の保持リング32に応力が負荷されるようにスリーブ30を保持することで、安定した固定が容易となり、高精度の加工が容易に実現できる。
【0044】
以上のように、実施の形態1の気体軸受スピンドル1によれば、回転軸の振れ回り振動を効率的に減衰させることが可能で、かつ製造が容易な気体軸受スピンドルを提供することができる。
【0045】
さらに、実施の形態1の気体軸受スピンドル1においては、保持リング32には、Oリング41、42を保持するための保持リング32の外周に沿った方向に延びる環状の溝32Aが形成されている。そして、Oリング41、42は、溝32Aに嵌め込まれることにより、その位置が固定されている。
【0046】
これにより、Oリング41、42の位置を安定して固定することができる。また、非金属焼結体に比べて表面精度の高い加工が容易で、かつ内部に気孔が存在するおそれの小さい金属製の保持リング32に溝を形成してOリング41、42することにより、環状空間22の気密性を十分に確保することができる。また、金属製の保持リング32は、非金属焼結体に比べて欠けや割れが発生しにくいため、薄肉部が存在するような複雑な形状への加工も容易である。
【0047】
さらに、実施の形態1の気体軸受スピンドル1においては、スリーブ貫通穴33の延びる方向において、複数のジャーナルノズル51のうち両端に位置する端部ノズル(ジャーナルノズル)51は、スリーブ30の両側の端部のうち最も近い一方の端部からの距離がスリーブ30の長さの25%以下である位置に形成されていることが好ましい。これにより、ジャーナル軸受は回転軸の傾きに対して高い角度剛性を持つことができる。ここで、端部ノズル51は、端部ノズル51の回転軸10に対向する側の開口の中央(たとえば、開口が円形であれば中心、楕円形であれば2つの焦点の中点)が上述の位置に配置されていれば、上記端部ノズル51の位置に関する条件は満たされる。
【0048】
なお、保持リング32は縦弾性係数の大きい金属、たとえばステンレス、鉄鋼、アルミニウム、アルミニウム合金などから構成されていることが好ましい。これにより、スリーブ30の加工の際に、保持リング32を保持することによってスリーブ30を固定することで、保持リング32の変形が抑制され、スリーブ30を一層高精度に加工することが可能となる。
【0049】
また、回転軸10が高速回転した場合、軸受損による発熱が大きくなり、スリーブ30が熱膨張する。この場合、非金属焼結体に比べて線膨張係数の大きい金属製の保持リング32が嵌め込まれたスリーブ30の両端において、スリーブ貫通穴33の内径が大きくなる。しかし、ジャーナル軸受すき間13を適当な大きさに設定しておくことにより、スリーブ貫通穴33の内径の変化による軸受性能への影響を回避することができる。また、保持リング32の素材としてインバー材(ニッケル36%、鉄64%の合金)等の線膨張係数の小さい材質を採用することにより、スリーブ30の両端におけるスリーブ貫通穴33の内径の変化を抑制し、スリーブ貫通穴33の内径の変化による軸受性能への影響を回避してもよい。
【0050】
また、回転軸10の材質としては比較的安価な鉄鋼系金属材料を採用することができる。また、耐食性や耐摩耗性を向上させるために、回転軸10の表面に硬質クロムめっきなどのめっき処理のような表面処理を実施してもよい。さらに、回転軸10の材質として、鉄鋼系金属材料よりも線膨張係数の小さいインバー材やセラミックなどを採用してもよい。回転軸10が高速回転した場合、軸受損による発熱が大きくなり、回転軸10の外径が大きくなる。その結果、ジャーナル軸受すき間13が狭くなり、軸受性能に影響するおそれがある。これに対し、回転軸10の材質としてインバー材やセラミックなどの線膨張係数の小さい材質を採用することにより、回転軸10の外径の変化を抑制し、軸受性能への影響を抑制することができる。
【0051】
(実施の形態2)
図2は、本発明の一実施の形態である実施の形態2の気体軸受スピンドルの概略断面図である。図2を参照して、本発明の実施の形態2における気体軸受スピンドルの構成について説明する。
【0052】
図2を参照して、実施の形態2の気体軸受スピンドル1は、基本的には実施の形態1の気体軸受スピンドル1と同様の構成を有しており、同様の効果を有している。しかし、実施の形態2の気体軸受スピンドル1では、スリーブ30の軸方向における中央部において中央ジャーナルノズル51Cが形成されている点で、実施の形態1の気体軸受スピンドル1とは異なっている。
【0053】
そして、スリーブ貫通穴33の延びる方向において、スリーブ30の中央部からの距離が、スリーブ30の長さの20%以下である位置に、中央ジャーナルノズル51Cは形成されている。ここで、中央ジャーナルノズル51Cは、中央ジャーナルノズル51Cの回転軸10に対向する側の開口の中央(たとえば、開口が円形であれば中心、楕円形であれば2つの焦点の中点)が上述の位置に配置されていれば、上記中央ジャーナルノズル51Cの位置に関する条件は満たされる。
【0054】
回転軸10が高速で長時間回転する場合などにおいては、ジャーナル軸受隙間13内の気体が摩擦によって発熱することでジャーナル軸受すき間13周辺の温度が上昇し、ジャーナル軸受すき間13が小さくなることによる回転軸10とスリーブ30との接触などの不具合が発生するおそれがある。これに対し、上述のように中央ジャーナルノズル51Cが形成されていることにより、スリーブ30の中央付近に面するジャーナル軸受すき間13の気圧が周囲に比べて高くなる。そのため、ジャーナル軸受すき間13のスリーブ30の中央付近に面する領域から、スリーブ30の端部に面する領域に向かう気流が発生し、ジャーナル軸受すき間13に存在する温度の上昇した軸受用気体が効率よくスリーブの端部に面する領域に向けて排出されて、温度の上昇が緩和される。その結果、上述の熱膨張に起因した気体軸受スピンドル1の不具合を回避することができる。
【0055】
なお、上記実施の形態1および実施の形態2においては、本発明の気体軸受スピンドルの一例として、ノズルが2列および3列に形成された場合について説明したが、本発明の気体軸受スピンドルはこれに限られず、ノズルが4以上の列を成すように形成されたものであってもよい。また、実施の形態1および実施の形態2においては、保持リングの端面側および側面側のそれぞれに1つずつ、合計2つの溝が形成され、弾性部材としてのOリングが嵌め込まれた場合について説明したが、気密性向上などを目的として、溝が3本以上形成され、3つ以上の弾性部材が嵌め込まれていてもよい。また逆に、弾性部材の剛性を小さくすること等を目的として、弾性部材を各保持リングに対して1つとし、ジャーナル軸受用の弾性部材とスラスト軸受用の弾性部材との機能を当該1つの弾性部材(たとえばOリング)で兼用可能な構造にしてもよい。また、実施の形態1および実施の形態2においては、保持リングの一例として一体の保持リングがスリーブの各端部に嵌め込まれた態様について説明したが、たとえば各保持リングがスリーブの端部側の保持リングと側面側の保持リングとに分割された態様であってもよい。
【0056】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の気体軸受スピンドルは、精密加工機、穴加工機、静電塗装機などに使用される気体軸受スピンドルに特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施の形態1の気体軸受スピンドルの概略断面図である。
【図2】実施の形態2の気体軸受スピンドルの概略断面図である。
【図3】従来の気体軸受スピンドルの一例を示す概略部分断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 気体軸受スピンドル、10 回転軸、11 軸部、11A 外周面、12 フランジ部、12A 底面、12B 薄肉部、13 ジャーナル軸受すき間、14 スラスト軸受すき間、15 タービン翼、19 保持部、20 ハウジング、21 軸受用気体供給路、22 環状空間、30 スリーブ、31 軸受部、32 保持リング、32A 溝、33 スリーブ貫通穴、41,42 Oリング、51 ジャーナルノズル、51C 中央ジャーナルノズル、52 スリーブ給気路、60 気体スラスト軸受、61 スラストノズル、62 スラスト軸受給気路、71 駆動用気体供給路、72 円周溝、73 タービンノズル、75 駆動用気体排出路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の外周面の少なくとも一部を取り囲む円筒状の貫通穴であるスリーブ貫通穴を有するスリーブと、
前記スリーブを取り囲み、弾性部材を介して前記スリーブを保持するハウジングとを備え、
前記スリーブは、
前記スリーブ貫通穴を有し、外周面の一部が前記スリーブの外周面を成し、前記スリーブ貫通穴の内周面が前記回転軸の外周面に対向するように構成された非金属焼結体からなる軸受部と、
前記スリーブ貫通穴の延びる方向における前記軸受部の両側の端部のそれぞれに嵌め込まれ、前記弾性部材を介して前記スリーブを前記ハウジングに対して保持する金属製の保持リングとを含んでいる、気体軸受スピンドル。
【請求項2】
前記保持リングには、前記弾性部材を保持するための、前記保持リングの外周に沿った方向に延びる環状の溝が形成されている、請求項1に記載の気体軸受スピンドル。
【請求項3】
前記スリーブには、前記スリーブの周壁において、前記スリーブ貫通穴の内周面と前記回転軸の外周面との間に設けた軸受隙間に気体を供給するためのノズルが複数形成され、
前記ノズルは、前記スリーブ貫通穴の円周方向に延びる複数の列を構成するように配置されている、請求項1または2に記載の気体軸受スピンドル。
【請求項4】
前記ノズルは、前記スリーブ貫通穴の延びる方向における前記スリーブの中央部を挟む両側のそれぞれに、少なくとも1列以上形成されている、請求項3に記載の気体軸受スピンドル。
【請求項5】
前記スリーブ貫通穴の延びる方向において、複数の前記ノズルのうち両端に位置する端部ノズルは、前記スリーブの両側の端部のうち最も近い一方の端部からの距離が前記スリーブの長さの25%以下である位置に形成されている、請求項3または4のいずれかに記載の気体軸受スピンドル。
【請求項6】
前記スリーブ貫通穴の延びる方向において、前記スリーブの中央部からの距離が、前記スリーブの長さの20%以下である位置に、少なくとも1つの前記ノズルが形成されている、請求項3〜5のいずれか1項に記載の気体軸受スピンドル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−170534(P2007−170534A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368500(P2005−368500)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】