説明

気圧センサを用いて昇降移動状態を推定する携帯装置、プログラム及び方法

【課題】携帯装置に搭載された気圧センサを用いて、利用者の昇降状態をできる限り高い精度で推定することができる携帯装置等を提供する。
【解決手段】昇降状態毎に、その昇降状態時における気圧変化速度に基づく平均vu ̄及び分散σuを予め記憶した気圧変化記憶手段113と、気圧センサ101によって計測された時間経過に伴う気圧値について、所定時間範囲に所定閾値以上で変化したか否かを検出する気圧変化検出手段111と、気圧変化検出手段によって真と判定された際、当該気圧値における気圧変化速度vを算出する気圧変化速度算出手段112と、気圧変化記憶手段に記憶された平均vu ̄及び分散σuを用いて、昇降状態毎に、気圧変化速度vにおける正規確率分布を算出し、最も高い確率値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する昇降状態推定手段114とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気圧センサを搭載した携帯装置を用いて、当該携帯装置を所持したユーザの移動状態を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、センサの小型化及び高精度化に伴って、携帯電話機やスマートフォンのような携帯装置に、1つ以上のセンサが内蔵されてきている。特に、GPS(Global Positioning System)衛星からの測位電波を受信することによって、その携帯装置を所持するユーザの現在位置を測位するGPSセンサは一般的である。
【0003】
これに対し、測位電波を受信できないような屋内にあっても、複数のセンサを用いて、その現在位置を推定する技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、基準位置から、加速度センサを用いて利用者の移動距離を推定し、気圧センサを用いて、鉛直方向の移動距離及び方向を推定する。
【0004】
また、加速度センサを用いて、階段の昇降状態を推定する技術がある(例えば非特許文献1参照)。更に、加速度センサ及び角速度センサを用いて、階段の昇降状態を推定する技術もある(例えば非特許文献2参照)。この技術によれば、角速度センサから出力される特有の角速度パターンを検出する。例えば、階段の昇り時に検出される角速度パターンは、エスカレータの昇り時に検出される角速度パターンに対して、特徴的に異なるものとして現れる。例えば、エスカレータの運動は非常に滑らかであるために、鉛直方向の加速度成分にも滑らかなパターンが現れる。
【0005】
更に、加速度センサ及び気圧センサを用いて、移動状態を推定する技術もある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、加速度センサを用いて、歩行状態/停止状態を推定する。階段では、[歩行状態]+[高度変化]として検出されるのに対し、エスカレータでは、[停止状態]+[高度変化]として検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−230340号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】赤堀顕光、岸本圭史、小栗宏次、「単一3軸加速度センサを用いた行動推定」、信学技報 MBE2005 vol.105、pp.49-52、2005
【非特許文献2】興梠正克、蔵田武志、「慣性センサ群とウェアラブルカメラを用いた歩行動作解析に基づくパーソナルポジショニング手法」、信学技報 PRMU2004、vol.103、pp.25-30、2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載された技術によれば、加速度センサのみを用いておあり、携帯装置の向きを固定する(当該装置に対するユーザの持ち方を固定する)ことが前提となってしまい、現実的ではない。
【0009】
また、非特許文献2及び特許文献1に記載された技術によれば、気圧センサによって検出される気圧の変化速度に対して閾値をもって判定している。しかし、階段、エスカレータ及びエレベータのような移動設備は、設置場所や歩行速度などによって、単位時間あたり高度の変化速度も異なる。そうすると、気圧の変化速度に対する固定の閾値の判定では、十分な精度で、移動状態を判定することは難しい。
【0010】
そこで、本発明は、携帯装置に搭載された気圧センサ及び加速度センサを用いて、利用者の昇降状態をできる限り高い精度で推定することができる携帯装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、気圧センサを内蔵した携帯装置であって、
昇降状態毎に、その昇降状態時における気圧変化速度に基づく平均vu ̄及び分散σuを予め記憶した気圧変化記憶手段と、
気圧センサによって計測された時間経過に伴う気圧値について、所定時間範囲に所定閾値以上で変化したか否かを検出する気圧変化検出手段と、
気圧変化検出手段によって真と判定された際、当該気圧値における気圧変化速度vを算出する気圧変化速度算出手段と、
気圧変化記憶手段に記憶された平均vu ̄及び分散σuを用いて、昇降状態毎に、気圧変化速度vにおける正規確率分布を算出し、最も高い確率値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する昇降状態推定手段と
を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の携帯装置における他の実施形態によれば、
昇降状態とは、[階段・昇り][階段・降り][エスカレータ・昇り][エスカレータ・降り][エレベータ・昇り]及び[エレベータ・降り]であり、
昇降状態推定手段は、昇降状態毎に、気圧変化速度vにおける推定確率fu(v)を、以下のように算出する
【数1】

ことも好ましい。
【0013】
本発明の携帯装置における他の実施形態によれば、
昇降状態推定手段によって、所定時間で昇降状態がN回推定された中で、ある昇降状態uがNu回推定された場合、当該昇降状態における重み係数wを、
u=Nu/N
によって算出する重み係数算出手段を更に有し、
昇降状態推定手段は、昇降状態の推定確率fu(v)毎に、重み係数wuを乗算し、その乗算値Hu(v)が最も高い値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する
u(v)=fu(v)×wu
ことも好ましい。
【0014】
本発明の携帯装置における他の実施形態によれば、重み係数算出手段は、気圧変化検出手段によって気圧変化が検出されなかった際に、重み係数をリセットすることも好ましい。
【0015】
本発明の携帯装置における他の実施形態によれば、
昇降状態推定手段によって当該昇降状態が推定された際に、気圧変化記憶手段に記憶された当該昇降状態の平均vu ̄を、気圧変化速度算出手段よって算出された気圧変化速度vに更新する平均速度更新手段を更に有することも好ましい。
【0016】
本発明の携帯装置における他の実施形態によれば、
平均速度更新手段は、気圧変化検出手段によって気圧変化が検出されなかった際に、気圧変化記憶手段に対して更新された当該昇降状態の平均vu ̄を、元の平均vu ̄に戻すことも好ましい。
【0017】
本発明の携帯装置における他の実施形態によれば、
全ての昇降状態の推定確率fu(v)の総和Σa∈Ka(v)に対する、推定された昇降状態の推定確率fu(v)の割合を、当該昇降状態における推定信頼度ruとして
u=fu(v)/Σa∈Ka(v) (K=全ての昇降状態)
算出する推定信頼度算出手段を更に有し、
平均速度更新手段は、推定信頼度ruが所定閾値θ以下である場合、気圧変化記憶手段に記憶された当該昇降状態の平均vu ̄を更新しない
ことも好ましい。
【0018】
本発明の携帯装置における他の実施形態によれば、
全ての昇降状態の推定確率fu(v)の総和Σa∈Ka(v)に対する、推定された昇降状態の推定確率fu(v)の割合を、当該昇降状態における推定信頼度ruとして
u=fu(v)/Σa∈Ka(v) (K=全ての昇降状態)
算出する推定信頼度算出手段を更に有し、
推定信頼度ruが高いほど、気圧変化記憶手段に記憶された昇降状態毎の分散σuを小さくする分散値更新手段と
を更に有することも好ましい。
【0019】
本発明の携帯装置における他の実施形態によれば、
当該携帯装置は、加速度センサを更に内蔵し、
加速度センサによって計測された時間経過に伴う加速度値から、当該携帯装置を所持したユーザの歩行状態/停止状態を推定する歩行状態推定手段を更に有し、
昇降状態推定手段は、歩行状態推定手段によって推定された歩行状態/停止状態を用いて、以下の昇降状態のいずれかであることを推定する
[歩行状態]+[高度変化有り]=[階段又はエスカレータの昇降]
[歩行状態]+[高度変化無し]=[平地歩行]
[停止状態]+[高度変化有り]=[エレベータの昇降]
[停止状態]+[高度変化無し]=[停止]
ことも好ましい。
【0020】
本発明によれば、気圧センサを内蔵した携帯装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
昇降状態毎に、その昇降状態時における気圧変化速度に基づく平均vu ̄及び分散σuを予め記憶した気圧変化記憶手段と、
気圧センサによって計測された時間経過に伴う気圧値について、所定時間範囲に所定閾値以上で変化したか否かを検出する気圧変化検出手段と、
気圧変化検出手段によって真と判定された際、当該気圧値における気圧変化速度vを算出する気圧変化速度算出手段と、
気圧変化記憶手段に記憶された平均vu ̄及び分散σuを用いて、昇降状態毎に、気圧変化速度vにおける正規確率分布を算出し、最も高い確率値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する昇降状態推定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、気圧センサを内蔵した携帯装置を用いた昇降状態推定方法であって、
昇降状態毎に、その昇降状態時における気圧変化速度に基づく平均vu ̄及び分散σuを予め記憶した気圧変化記憶部を有し、
気圧センサによって計測された時間経過に伴う気圧値について、所定時間範囲に所定閾値以上で変化したか否かを検出する第1のステップと、
気圧変化検出手段によって真と判定された際、当該気圧値における気圧変化速度vを算出する第2のステップと、
気圧変化記憶部に記憶された平均vu ̄及び分散σuを用いて、昇降状態毎に、気圧変化速度vにおける正規確率分布を算出し、最も高い確率値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する第3のステップと
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の装置、プログラム及び方法によれば、携帯装置に搭載された気圧センサ及び加速度センサを用いて、利用者の昇降状態をできる限り高い精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によって推定される移動状態を表す説明図である。
【図2】移動状態に対する気圧の変化を表す説明図である。
【図3】昇降状態毎の気圧変化速度を、正規分布で表したグラフである。
【図4】本発明における携帯装置の機能構成図である。
【図5】本発明における昇降状態の推定を表すグラフである。
【図6】重み係数wの算出を表す説明図である。
【図7】平均vu ̄の更新を表すグラフである。
【図8】分散σの更新を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
本発明の携帯装置は、気圧センサを搭載している。「気圧センサ」は、所定単位時間毎に、その高度に応じた気圧値を電力値として出力する。高度が低いほど、気圧は高く、逆に、高度が高いほど、気圧は低い。本発明によれば、気圧変化速度の変化に基づいて、当該携帯装置を所持したユーザの昇降状態を推定する。
【0026】
また、本発明によれば、当該携帯装置に、加速度センサを更に搭載することも好ましい。「加速度センサ」は、所定単位時間毎に、軸(例えばx軸、y軸、z軸)毎の加速度を電力値として出力する。本発明によれば、合成加速度の変化に基づいて、当該携帯装置を所持したユーザの歩行状態/停止状態を推定する。
【0027】
図1は、本発明によって推定される移動状態を表す説明図である。
【0028】
本発明によれば、以下の8つの移動状態を推定することができる。
[平地歩行] :気圧・変化なし (加速度・変化あり)
[階段・昇り] :気圧・下降変化あり(加速度・変化あり)
[階段・降り] :気圧・上昇変化あり(加速度・変化あり)
[平地停止] :気圧・変化なし (加速度・変化なし)
[エスカレータ・昇り]:気圧・下降変化あり(加速度・変化なし)
[エスカレータ・降り]:気圧・上昇変化あり(加速度・変化なし)
[エレベータ・昇り] :気圧・下降変化あり(加速度・変化なし)
[エレベータ・降り] :気圧・上昇変化あり(加速度・変化なし)
【0029】
図2は、移動状態に対する気圧の変化を表す説明図である。
【0030】
図2(a)のグラフは、[エレベータ・昇り]における気圧の変化を表す。ここで、気圧値は、比較的短い時間間隔(200〜300)で、比較的急に(気圧変化が高速)、且つ、滑らかに、変化していることが理解できる。
図2(b)のグラフは、[階段・昇り]における気圧の変化を表す。ここで、気圧値は、比較的長い時間間隔(200〜1000)で、比較的緩く(気圧変化が低速)、且つ、段々に、変化していることが理解できる。
図2(c)のグラフは、[エスカレータ・昇り]における気圧の変化を表す。ここで、気圧値は、(a)及び(b)との中間の時間間隔(100〜600)で、比較的緩く(気圧変化が低速)、且つ、滑らかに、変化していることが理解できる。
このような、時間経過に伴う気圧の変化は、移動設備(階段、エスカレータ又はエレベータ)によって明確に違いが生じる。
【0031】
ここで、気圧値は、同じ高度であっても、天候(晴れ、曇り、雨、雪)によって変化する。しかしながら、気圧の変化速度(以下「気圧変化速度」という)は、移動設備によってほぼ均一化される。
【0032】
図3は、昇降状態毎の気圧変化速度を、正規分布で表したグラフである。
【0033】
各昇降状態における気圧変化速度は、「平均v及び分散σ2の正規分布に従う」と仮定する。図3によれば、移動状態毎に、以下のような違いがある。
(1)「エレベータ」の気圧変化速度の正規分布によれば、気圧変化速度の平均値vは、比較的高速(例えばv=3[Pa/s])であって、分散値σは比較的小さい(σ=1.2)。
(2)「階段」の気圧変化速度の正規分布によれば、気圧変化速度の平均値vは、比較的低速(例えばv=2[Pa/s])であって、分散値σも比較的大きい(σ=1.8)。
(3)「エスカレータ」の気圧変化速度の正規分布によれば、気圧変化速度の平均値vは、階段とエレベータの中間の速度(例えばv=2.4[Pa/s])であって、分散値σも中間の値(σ=1.5)となっている。
このように、昇降状態が異なれば、単位時間当たりの気圧変化速度も異なることとなる。
【0034】
図4は、本発明における携帯装置の機能構成図である。
【0035】
図4の携帯装置1によれば、気圧センサ101と、気圧変化検出部111と、気圧変化速度算出部112と、気圧変化記憶部113と、昇降状態推定部114と、アプリケーション処理部12とを有する。これら機能構成部は、携帯装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。
【0036】
アプリケーション処理部12は、昇降状態推定部114から出力された昇降状態に応じて、様々なサービスをユーザに提供する。昇降状態の結果は、例えば、測位電波を受信できないような屋内にあっても、所定の昇降状態を検出した時点に、当該ユーザが、その屋内地図の当該移動設備の場所に位置していると推定することができる。
【0037】
気圧変化検出部111は、気圧センサ101によって計測された時間経過に伴う気圧値について、所定時間範囲に所定閾値以上で変化したか否かを検出する。具体的には、時系列に計測された気圧値について、所定時間幅tp毎に、最高気圧と最低気圧との差を算出し、その気圧差が所定閾値θp未満であれば、[平地歩行]又は[停止]状態と推定できる。一方で、その気圧差が所定閾値θp以上であれば、[平地歩行]及び[停止]状態以外の6状態のいずれかと推定できる。
[所定閾値θp未満]
[平地歩行] :気圧・変化なし (加速度・変化あり)
[平地停止] :気圧・変化なし (加速度・変化なし)
[所定閾値θp以上]
[階段・昇り] :気圧・下降変化あり(加速度・変化あり)
[階段・降り] :気圧・上昇変化あり(加速度・変化あり)
[エスカレータ・昇り]:気圧・下降変化あり(加速度・変化なし)
[エスカレータ・降り]:気圧・上昇変化あり(加速度・変化なし)
[エレベータ・昇り] :気圧・下降変化あり(加速度・変化なし)
[エレベータ・降り] :気圧・上昇変化あり(加速度・変化なし)
【0038】
気圧変化速度算出部112は、気圧変化検出部111によって真と判定された際、当該気圧値における気圧変化速度v[Pa/s]を算出する。単位時間tp(例えば時刻tから時刻t+1tpまで)の間の気圧変化速度vは、例えば以下のように算出される。
v=(pt+tp−pt)/tp
t :時刻tにおける気圧値
t+tp:時刻tから単位時間tp経過後の時刻t+tpにおける気圧値
算出された気圧変化速度vは、昇降状態推定部114へ出力される。
【0039】
気圧変化速度vによって、以下のように推定される。
[v>0の場合]:気圧が上昇
[階段・降り]
[エスカレータ・降り]
[エレベータ・降り]
[v<0の場合]:気圧が下降
[階段・昇り]
[エスカレータ・昇り]
[エレベータ・昇り]
【0040】
尚、気圧変化速度vは、「移動平均」「ローパスフィルタ」又は「指数移動平均」を用いて、平滑化することも好ましい。例えば、指数移動平均によれば、以下の式によって算出される。
f(vt)=α・vt-1+(1−α)・f(vt-1
但し、f(vt)は、時刻tにおける指数移動平均フィルタ後の値である。その後、同様に、指数移動平均に基づく気圧変化速度vを算出していく。
【0041】
気圧変化記憶部113は、昇降状態毎に、気圧変化速度に基づく平均v及び分散σを予め記憶したものである。例えば、前述した図3に基づいて、[階段・昇り][階段・降り][エスカレータ・昇り][エスカレータ・降り][エレベータ・昇り][エレベータ・降り]の昇降状態毎に、気圧変化速度に基づく平均vu ̄及び分散σuを予め記憶する。これら平均vu ̄及び分散σuは、予め統計的に計測されたものであって、ユーザの利用形態に応じて更新される。
【0042】
昇降状態推定部114は、気圧変化記憶部113に記憶された平均vu ̄及び分散σuを用いて、昇降状態毎に、気圧変化速度vにおける正規確率分布を算出し、最も確率が高い値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する。
【0043】
各昇降状態における気圧変化速度は、前述したように「平均v及び分散σ2の正規分布に従う」と仮定している。そうすると、昇降状態推定部114は、昇降状態毎に、気圧変化速度vにおける推定確率fu(v)を、以下の式によって算出することができる。
【数2】

u:各昇降状態
u ̄:気圧変化記憶部に記憶された昇降状態uにおける気圧変化速度の平均値
σu:気圧変化記憶部に記憶された昇降状態uにおける気圧変化速度の分散値
v:気圧変化速度算出部から出力された気圧変化速度
u(v):当該気圧変化速度における、当該昇降状態uの推定確率
【0044】
図5は、本発明における昇降状態の推定を表すグラフである。
【0045】
図5によれば、[階段・昇り]の気圧変化速度について平均値v=2.0であり、[エスカレータ・昇り]の気圧変化速度について平均値v=2.4である。このとき、現に計測された気圧変化速度が、v=2.2であったとする。そうすると、昇降状態は、[階段・昇り]又は[エスカレータ・昇り]のいずれであるかは明確に区別できない。
【0046】
ここで、本発明によれば、気圧変化記憶部113には、昇降状態毎に、分散値σが記憶されている。そのために、分散値σを考慮した場合、図5からも明らかなとおり、昇降状態は、[階段・昇り]であることを明確に区別することができる。
【0047】
図4の携帯装置1によれば、加速度センサ102と、歩行状態推定部115とを更に有することも好ましい。歩行状態推定部115は、当該携帯装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムによって実現される。
【0048】
歩行状態推定部115は、加速度センサ102によって計測された時間経過に伴う加速度値から、当該携帯装置を所持したユーザの歩行状態/静止状態を推定する。計測された時系列の加速度値に対して、所定時間幅taの滑走窓を掛けて、特徴量を抽出する。特徴量としては、例えば3軸加速度センサから出力される合成加速度の平均値v、分散値σ及び周波数成分である。合成加速度は、以下の式のように、各軸加速度値の二乗和の平方根によって算出される。
G=√(Gx2+Gy2+Gz2)
Gx:x軸の加速度値
Gy:y軸の加速度値
Gz:z軸の加速度値
【0049】
ここで、特徴量として分散値σに注目する。分散値σは、歩行状態又は停止状態によって大きく異なる。
歩行状態:分散値σが大きい
停止状態:分散値σが小さい
従って、歩行状態/静止状態を判定する最も簡単な実施形態としては、以下のように区分することができる。
分散値σが所定閾値θw以上である:[歩行状態]
分散値σがθw未満である :[停止状態]
【0050】
尚、所定閾値を用いることなく、計測された加速度値における平均値v、分散値σ、周波数成分などの特徴量を用いて、機械学習によって判定するものであってもよい。例えばC4.5(決定木生成に基づく統計学的クラス分類器)やNaiveBayes(教師有り学習に基づく単純ベイズ分類器)のような機械学習技術を用いて判定することもできる。
【0051】
そうすると、前述した気圧変化検出部111及び歩行状態推定部115を用いることによって、大きく以下のように区別することができる。
[所定閾値θp未満]+[歩行状態]
[平地歩行] :気圧・変化なし (加速度・変化あり)
[所定閾値θp未満]+[停止状態]
[平地停止] :気圧・変化なし (加速度・変化なし)
[所定閾値θp以上]+[歩行状態]
[階段・昇り] :気圧・下降変化あり(加速度・変化あり)
[階段・降り] :気圧・上昇変化あり(加速度・変化あり)
[所定閾値θp以上]+[停止状態]
[エスカレータ・昇り]:気圧・下降変化あり(加速度・変化なし)
[エスカレータ・降り]:気圧・上昇変化あり(加速度・変化なし)
[エレベータ・昇り] :気圧・下降変化あり(加速度・変化なし)
[エレベータ・降り] :気圧・上昇変化あり(加速度・変化なし)
【0052】
図4の携帯装置1によれば、重み係数算出部116と、推定信頼度算出部117と、平均速度更新部118と、分散値更新部119とを更に有することも好ましい。これら機能構成部も、携帯装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。これら機能構成部は、昇降状態の推定の精度を向上させるために機能する。
【0053】
重み係数算出部116は、昇降状態u毎に、重み係数wuを算出する。具体的には、昇降状態推定部114によって、所定時間で昇降状態がN回推定された中で、ある昇降状態uがNu回推定された場合、当該昇降状態における重み係数wを、以下の式によって算出する。
u=Nu/N
算出された重み係数wuは、昇降状態推定部114へ戻される。
【0054】
これによって、昇降状態推定部114は、昇降状態uの推定確率fu(v)毎に、重み係数wuを乗算する。
u(v)=fu(v)×wu
そして、その乗算値Hu(v)が最も高い値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する。
【0055】
図6は、重み係数wの算出を表す説明図である。
【0056】
図6によれば、単位時間毎に、昇降状態が推定される。
(S61の時間範囲)昇降状態が6回推定された中で、N平地歩行は3回推定されたために、重み係数w平地歩行=3/6=0.50が、f平地歩行(v)に乗算される。また、N階段・昇りは2回推定されたために、重み係数w階段・昇り=2/6=0.33が、f階段・昇り(v)に乗算される。更に、Nエスカレータ昇りは1回推定されたために、重み係数wエスカレータ昇り=1/6=0.16が、fエスカレータ昇り(v)に乗算される。
(S62の時間範囲)昇降状態が6回推定された中で、N階段・昇りは2回推定されたために、重み係数w階段・昇り=2/6=0.33が、f階段・昇り(v)に乗算される。更に、Nエスカレータ昇りは4回推定されたために、重み係数wエスカレータ昇り=4/6=0.66が、fエスカレータ昇り(v)に乗算される。
S63以降も、同様に算出される。
【0057】
また、重み係数算出部116は、気圧変化検出部111によって気圧変化が検出されなかった際に、重み係数をリセットすることも好ましい。重み係数は、ある1つの昇降状態が継続している間のみ、算出される。
【0058】
推定信頼度算出部117は、全ての昇降状態の推定確率fu(v)の総和Σa∈Ka(v)に対する、推定された昇降状態の推定確率fu(v)の割合を、当該昇降状態における推定信頼度ruとして算出する。
u=fu(v)/Σa∈Ka(v) (K=全ての昇降状態)
【0059】
平均速度更新部118は、昇降状態推定部114によって推定された当該昇降状態について、気圧変化記憶部113に記憶された当該昇降状態の平均vu ̄を、気圧変化速度算出部112よって算出された気圧変化速度vに更新する。これは、同じ移動設備であっても、設置場所によっては、移動速度が異なることを考慮したものである。
【0060】
図7は、平均vu ̄の更新を表すグラフである。
【0061】
図7(a)によれば、気圧速度変化v=2.2の場合に、推定信頼度ruが閾値θ以上で、[階段・昇り]と推定されたとする。このとき、図7(b)によって、気圧変化記憶部113に記憶された[階段・昇り]の平均vu ̄を、2.2に更新する。
【0062】
但し、平均速度更新部118は、推定信頼度ruが所定閾値θ以下である場合、気圧変化記憶部113に記憶された当該昇降状態の平均vu ̄を更新しない。推定信頼度ruが低い場合、その昇降状態の推定自体が誤っている可能性が高いからである。そのような昇降状態に基づいて、平均vu ̄を更新すると、更なる精度の低下が予想されるためである。
【0063】
また、平均速度更新部118は、気圧変化検出部111によって気圧変化が検出されなかった際に、気圧変化記憶部113に対して更新された当該昇降状態の平均vu ̄を、元の平均vu ̄に戻す。平均速度は、ある1つの昇降状態が継続している間のみ、更新される。
【0064】
分散値更新部119は、推定信頼度ruが高いほど、気圧変化記憶部113に記憶された当該昇降状態の分散σuを小さくする。一方で、推定信頼度ruが低ければ、当該昇降状態の分散σuを所定の統計値に戻す。
【0065】
図8は、分散σの更新を表すグラフである。
【0066】
図8(a)によれば、[階段・昇り]の気圧速度変化v=2について、推定信頼度ruが閾値θβ以上と判定されたとする。このとき、図8(b)によって、気圧変化記憶部113に記憶された[階段・昇り]の分散σを小さくする。例えば、以下の式によって、分散σを変化させる。
σu2=σ2u×β/ru
β:0<β≦θβ
【0067】
以上、詳細に説明したように、本発明の装置、プログラム及び方法によれば、携帯装置に搭載された気圧センサ及び加速度センサを用いて、利用者の昇降状態をできる限り高い精度で推定することができる。
【0068】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0069】
1 携帯装置
101 気圧センサ
102 加速度センサ
111 気圧変化検出部
112 気圧変化速度算出部
113 気圧変化記憶部
114 昇降状態推定部
115 歩行状態推定部
116 重み係数算出部
117 推定信頼度算出部
118 平均速度更新部
119 分散値更新部
12 アプリケーション処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気圧センサを内蔵した携帯装置であって、
昇降状態毎に、その昇降状態時における気圧変化速度に基づく平均vu ̄及び分散σuを予め記憶した気圧変化記憶手段と、
前記気圧センサによって計測された時間経過に伴う気圧値について、所定時間範囲に所定閾値以上で変化したか否かを検出する気圧変化検出手段と、
前記気圧変化検出手段によって真と判定された際、当該気圧値における気圧変化速度vを算出する気圧変化速度算出手段と、
前記気圧変化記憶手段に記憶された前記平均vu ̄及び分散σuを用いて、前記昇降状態毎に、前記気圧変化速度vにおける正規確率分布を算出し、最も高い確率値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する昇降状態推定手段と
を有することを特徴とする携帯装置。
【請求項2】
前記昇降状態とは、[階段・昇り][階段・降り][エスカレータ・昇り][エスカレータ・降り][エレベータ・昇り]及び[エレベータ・降り]であり、
前記昇降状態推定手段は、前記昇降状態毎に、気圧変化速度vにおける推定確率fu(v)を、以下のように算出する
【数1】

ことを特徴とする請求項1に記載の携帯装置。
【請求項3】
前記昇降状態推定手段によって、所定時間で昇降状態がN回推定された中で、ある昇降状態uがNu回推定された場合、当該昇降状態における重み係数wを、
u=Nu/N
によって算出する重み係数算出手段を更に有し、
前記昇降状態推定手段は、前記昇降状態の推定確率fu(v)毎に、前記重み係数wuを乗算し、その乗算値Hu(v)が最も高い値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する
u(v)=fu(v)×wu
ことを特徴とする請求項2に記載の携帯装置。
【請求項4】
前記重み係数算出手段は、前記気圧変化検出手段によって気圧変化が検出されなかった際に、前記重み係数をリセットすることを特徴とする請求項3に記載の携帯装置。
【請求項5】
前記昇降状態推定手段によって当該昇降状態が推定された際に、前記気圧変化記憶手段に記憶された当該昇降状態の平均vu ̄を、前記気圧変化速度算出手段よって算出された気圧変化速度vに更新する平均速度更新手段を更に有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の携帯装置。
【請求項6】
前記平均速度更新手段は、前記気圧変化検出手段によって気圧変化が検出されなかった際に、前記気圧変化記憶手段に対して更新された当該昇降状態の平均vu ̄を、元の平均vu ̄に戻すことを特徴とする請求項5に記載の携帯装置。
【請求項7】
全ての昇降状態の推定確率fu(v)の総和Σa∈Ka(v)に対する、推定された昇降状態の推定確率fu(v)の割合を、当該昇降状態における推定信頼度ruとして
u=fu(v)/Σa∈Ka(v) (K=全ての昇降状態)
算出する推定信頼度算出手段を更に有し、
前記平均速度更新手段は、前記推定信頼度ruが所定閾値θ以下である場合、前記気圧変化記憶手段に記憶された当該昇降状態の平均vu ̄を更新しない
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の携帯装置。
【請求項8】
全ての昇降状態の推定確率fu(v)の総和Σa∈Ka(v)に対する、推定された昇降状態の推定確率fu(v)の割合を、当該昇降状態における推定信頼度ruとして
u=fu(v)/Σa∈Ka(v) (K=全ての昇降状態)
算出する推定信頼度算出手段を更に有し、
前記推定信頼度ruが高いほど、前記気圧変化記憶手段に記憶された昇降状態毎の分散σuを小さくする分散値更新手段と
を更に有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の携帯装置。
【請求項9】
当該携帯装置は、加速度センサを更に内蔵し、
前記加速度センサによって計測された時間経過に伴う加速度値から、当該携帯装置を所持したユーザの歩行状態/停止状態を推定する歩行状態推定手段を更に有し、
前記昇降状態推定手段は、前記歩行状態推定手段によって推定された歩行状態/停止状態を用いて、以下の昇降状態のいずれかであることを推定する
[歩行状態]+[高度変化有り]=[階段又はエスカレータの昇降]
[歩行状態]+[高度変化無し]=[平地歩行]
[停止状態]+[高度変化有り]=[エレベータの昇降]
[停止状態]+[高度変化無し]=[停止]
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の携帯装置。
【請求項10】
気圧センサを内蔵した携帯装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
昇降状態毎に、その昇降状態時における気圧変化速度に基づく平均vu ̄及び分散σuを予め記憶した気圧変化記憶手段と、
前記気圧センサによって計測された時間経過に伴う気圧値について、所定時間範囲に所定閾値以上で変化したか否かを検出する気圧変化検出手段と、
前記気圧変化検出手段によって真と判定された際、当該気圧値における気圧変化速度vを算出する気圧変化速度算出手段と、
前記気圧変化記憶手段に記憶された前記平均vu ̄及び分散σuを用いて、前記昇降状態毎に、前記気圧変化速度vにおける正規確率分布を算出し、最も高い確率値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する昇降状態推定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする携帯装置用のプログラム。
【請求項11】
気圧センサを内蔵した携帯装置を用いた昇降状態推定方法であって、
昇降状態毎に、その昇降状態時における気圧変化速度に基づく平均vu ̄及び分散σuを予め記憶した気圧変化記憶部を有し、
前記気圧センサによって計測された時間経過に伴う気圧値について、所定時間範囲に所定閾値以上で変化したか否かを検出する第1のステップと、
前記気圧変化検出手段によって真と判定された際、当該気圧値における気圧変化速度vを算出する第2のステップと、
前記気圧変化記憶部に記憶された前記平均vu ̄及び分散σuを用いて、前記昇降状態毎に、前記気圧変化速度vにおける正規確率分布を算出し、最も高い確率値となる昇降状態を、当該昇降状態として推定する第3のステップと
を有することを特徴とする昇降状態推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−237719(P2012−237719A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108473(P2011−108473)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】