説明

気液接触装置

【課題】充填物ブロック同士を水平方向に隣接させた接合部で、接合部の隙間を通って液体が下方に流れ落ちてしまうことを防止し、気液接触を効率よく行うことができる気液接触装置を提供する。
【解決手段】複数の充填物ブロック21を水平方向に隣接させて形成した規則充填物12を有する気液接触装置において、前記複数の充填物ブロック21の側端部に開口した流路同士が対向する隣接面21aの鉛直方向に対して傾斜させる。隣接面21aの傾斜角度は、波形金属板の折曲線の傾斜角度と同じ角度であることが好ましく、30〜45度の範囲が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液接触装置に関し、詳しくは、塔内に規則充填物を充填して上方から流下する液体と、下方から上昇する気体とを接触させて蒸留操作を行うための気液接触装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気液化分離装置の蒸留塔として、塔内に規則充填物を充填した気液接触装置が用いられている。規則充填物は、一般に、アルミニウムなどからなる金属薄板を波形に加工した波形金属板(コルゲート板)を使用し、板面を鉛直方向に向けるとともに、波線(折曲線)の方向を鉛直方向に対して傾斜させた状態で、かつ、隣接するコルゲート板同士の折曲線が異なる方向を向くようにして複数枚を積層することにより形成されている。このような規則充填物を使用する蒸留塔の塔径が大きい場合には、規則充填物を直列方向(上下方向)及び並列方向(水平方向)に分割した充填物ブロックを製造し、塔内で複数の充填物ブロックを組み合わせて所定の規則充填物を形成するようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−123326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来は、図6及び図7に示すように、複数の充填物ブロック51を上下方向及び水平方向に組み合わせる際に、各充填物ブロック51の隣接面51aが上下方向(鉛直方向)の平面状となっているため、充填物ブロック51同士を水平方向に隣接させた接合部52で、一方の充填物ブロック51内の流路51bを流下した液体Lが、隣接する他方の充填物ブロック51内の流路51bに流入せず、接合部52の隙間を通って下方に流れ落ちてしまい、気液接触効率が低下し、蒸留性能を悪化させてしまうという問題があった。
【0004】
そこで本発明は、充填物ブロック同士を水平方向に隣接させた接合部で、接合部の隙間を通って液体が下方に流れ落ちてしまうことを防止し、気液接触を効率よく行うことができる気液接触装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の気液接触装置は、折曲線を鉛直方向に対して傾斜させた波形金属板を組み合わせて流路を形成した充填物ブロックの複数個を水平方向に隣接させて形成した規則充填物を有する気液接触装置において、前記複数の充填物ブロックの側端部に開口した流路同士が対向する隣接面を鉛直方向に対して傾斜させたことを特徴としている。
【0006】
さらに、本発明の気液接触装置は、前記隣接面の傾斜角度は、前記波形金属板の折曲線の傾斜角度と同じ角度であること、前記波形金属板の折曲線は、鉛直方向に対して30〜45度の範囲に傾斜していることが好ましい。
【0007】
また、前記充填物ブロックは、比表面積が250〜750m/mであり、ブロックの上端及び下端の少なくともいずれか一方の流路形状を変形させた自己分配促進型規則充填物であることが好ましい。さらに、本発明の気液接触装置を、空気液化分離装置の蒸留塔に使用することにより、空気液化分離装置の小型化が図れるとともに、大幅な需要変動にも対応可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の気液接触装置によれば、充填物ブロック同士を接合する際に隣接する隣接面を傾斜させているので、上方に位置する隣接面に開口した流路を流下する液体が下方に位置する隣接面に開口した流路内に確実に流入するので、気液接触効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の気液接触装置における規則充填物の一形態例を示す斜視図、図2は図1に示した構造の規則充填物における液体の流れを示す説明図、図3は本発明の気液接触装置を蒸留塔に適用した一形態例を示す系統図である。
【0010】
まず、図3に示す蒸留塔11は、塔内部の上下2段に規則充填物12,12を充填し、規則充填物12の上部に液分配器13を配置し、規則充填物12,12間に液体捕集分配装置14を配置するとともに、塔頂部に凝縮器15を配置したものであって、塔下部には原料ガス導入経路16と缶出液導出経路17とが設けられ、塔上部には低沸点成分ガス導出経路18と凝縮器15で液化した液化ガスを下降液として導入する下降液導入経路19とが設けられている。また、凝縮器15で液化した液化ガスの一部は、留出液導出経路20に分岐して導出される。
【0011】
原料ガス導入経路16から塔下部に流入した原料ガスは、上昇ガスとなって規則充填物12,12内を上昇しながら下降液と気液接触を行い、上昇ガス中の低沸点成分はガス中に濃縮して塔上部に上昇し、高沸点成分は下降液中に濃縮して塔下部に流下する。塔上部に濃縮された低沸点成分ガスは、低沸点成分ガス導出経路18に導出されて凝縮器15に導入され、図示しない冷流体と熱交換を行うことによって液化し、液化した液化ガスの一部が留出液導出経路20に分岐して導出され、残部の液化ガスは下降液導入経路19を経て塔上部に導入され、蒸留塔11の下降液となる。
【0012】
塔上部に導入された下降液は、液分配器13によって均一に分配されて上方の規則充填物12内を流下しながら前記上昇ガスと気液接触を行い、中間の液体捕集分配装置14で捕集再分配されて下方の規則充填物12内を流下し、上昇ガスとの気液接触で高沸点成分を濃縮して塔下部に流下し、缶出液導出経路17から導出される。
【0013】
このように上昇ガスと下降液とを気液接触させるための前記規則充填物12は、図1及び図2に示すように、複数の充填物ブロック21を上下方向及び水平方向に組み合わせて形成されている。各充填物ブロック21は、複数枚の波形金属板22を積層したものであって、板面を鉛直方向に向けるとともに、波線(折曲線)22aの方向を鉛直方向に対して30〜45度傾斜させた状態で、かつ、隣接する波形金属板同士の折曲線が異なる方向を向くようにして積層され、上下の波形間に下降液や上昇ガスが流れる流体流路23が形成されている。
【0014】
各充填物ブロック21は、規則充填物12における上面及び下面となる面は水平方向を向いた状態となっており、規則充填物12における外周面となる面は、蒸留塔11の内周面に対応した鉛直方向の円弧面に形成されている。そして、規則充填物12の内側部分で、充填物ブロック21の側端部に開口した流体流路23同士が対向する隣接面21aは、鉛直方向に対して傾斜させた傾斜面となっており、傾斜した隣接面21a同士を対向させて接合し、流体流路23が開口しない面は鉛直方向の面同士で接合している。
【0015】
隣接面21aの傾斜角度は、充填物ブロック21の大きさや波形金属板22の波形状などに応じて適宜な角度を選択することができるが、通常は、波形金属板22における折曲線22aの傾斜角度と同じ角度とすることが好ましく、規則充填物12に使用される一般的な波形金属板22では、折曲線22aの鉛直方向に対する傾斜角度が30〜45度の範囲に設定されているため、隣接面21aの傾斜角度も、鉛直方向に対して30〜45度の範囲に設定することが好ましい。
【0016】
すなわち、隣接面21aを、折曲線22aの傾斜角度と同じ角度に傾斜させた充填物ブロック21同士を接合すると、図2のブロック(A)に示すように、折曲線22aに沿って形成される流体流路23と隣接面21aとが同じ角度になるので、下降液Lは流体流路23に沿って流れることになる。また、図2のブロック(B)に示すように、折曲線22aに沿って形成される流体流路23が隣接面21aで途切れる状態になったとしても、接合部分で上方に位置する隣接面21aに開口した流体流路23から流下する下降液Lは、接合部分で下方に位置する隣接面21aに開口した流体流路23内に流入し、該流体流路23に沿って流下する状態になる。
【0017】
したがって、充填物ブロック21同士を接合した隣接面21aの間に隙間が発生したとしても、従来のように隙間に下降液が集中し、隙間を通って大量の下降液Lが充填物ブロック21の下方に流れ落ちることを防止し、充填物ブロック21内の流体流路23に沿って下降液Lを流下させることができるので、同様にして流体流路23に沿って上昇する上昇ガスとの気液接触を効率よく行うことができ、全体を一体的に形成した規則充填物と同等の気液接触効率を得ることができる。
【0018】
また、充填物ブロック21の基本構造は、従来と同様の構造を採用することができるが、下降液の流れを考慮すると、波形金属板の折曲線(波線22a)を鉛直方向に対して30〜45度の範囲に傾斜させたものであることが好ましく、折曲線の角度が鉛直線に近くなると気液接触効率が低下し、水平線に近くなると下降液の流れが妨げられる。
【0019】
さらに、充填物ブロック21の比表面積は、250〜750m/mであることが好ましく、比表面積が小さすぎると気液接触効率が損なわれ、比表面積が大きすぎると気液の流れが妨げられるため好ましくない。
【0020】
また、充填物ブロック21の上端及び下端の少なくともいずれか一方の流路形状を変形させた自己分配促進型規則充填物、例えば上端や下端の断面付近の流路の向きが鉛直方向に揃うように変形させた自己分配促進型規則充填物を使用することにより、フラッディングの発生や、高負荷域でのミスト同伴などを抑制することができるので、気液接触性能を更に向上させることができる。
【0021】
図4は、本発明の気液接触装置を適用した空気液化分離装置の一形態例を示す系統図である。この空気液化分離装置は、気液接触装置を有する蒸留塔として、高圧塔31、低圧塔32及びアルゴン塔33を備えるとともに、高圧塔31と低圧塔32との間に主凝縮器34を、アルゴン塔33の頂部にアルゴン凝縮器35をそれぞれ備えており、高圧塔31の気液接触部31a、低圧塔32の各気液接触部32a,32b,32c,32d,32e及びアルゴン塔33の気液接触部33aに、前述のように形成した規則充填物を充填することができる。
【0022】
図示しない前処理設備で圧縮、精製、冷却された原料空気(Air)は、経路41から高圧塔31の下部に上昇ガスとして導入され、高圧塔31内の気液接触部31aで下降液と気液接触することにより、高圧塔31の上部に窒素ガスが分離するとともに下部に酸素成分が富化した酸素富化液化空気が分離する。この酸素富化液化空気は、高圧塔31の底部から経路42に導出されて経路42a,42bに分岐し、経路42aに分岐した酸素富化液化空気は、減圧弁43で減圧後に低圧塔32の中上部に下降液として導入され、経路42bに分岐した酸素富化液化空気は、減圧弁44で減圧後にアルゴン凝縮器35に冷却源として導入される。アルゴン凝縮器35に導入された酸素富化液化空気は、気化後に経路45を経て低圧塔32の中部に上昇ガスとして導入される。
【0023】
高圧塔31の上部に分離した窒素ガスは、経路46から主凝縮器34に導入されて液化し、液化した液化窒素の一部は経路47を通って高圧塔31の上部に下降液として導入される。さらに、主凝縮器34から経路48に導出された液化窒素は、その一部が経路48aに分岐して製品液化窒素LNとして取り出され、残部の液化窒素は経路48bを通り、減圧弁49で減圧後に低圧塔32の上部に下降液として導入される。
【0024】
低圧塔32における気液接触により、低圧塔32の上部には窒素ガスが、低圧塔32の下部には液化酸素がそれぞれ分離するとともに、低圧塔32の中下部の酸素中にアルゴンが濃縮される。低圧塔32下部の液化酸素は、主凝縮器34にて高圧塔31上部からの窒素ガスと熱交換を行い、窒素ガスを液化させるとともに自身は気化し、気化した酸素ガスの一部は、経路50を通って製品酸素ガスGOとして取り出され、残部の酸素ガスは低圧塔32の上昇ガスとなる。また、低圧塔32上部の窒素ガスは、経路51を通って製品窒素ガスGNとして取り出され、低圧塔32中上部からは、塔内ガスの一部が経路52を通って排ガスWGとして抜き出される。
【0025】
低圧塔32中下部のアルゴンが濃縮した酸素ガスは、経路53からアルゴン塔33の下部に上昇ガスとして導入され、アルゴン凝縮器35で液化してアルゴン塔33内を流下する下降液と気液接触を行うことにより、アルゴン塔33の上部にアルゴンガスが分離し、アルゴン塔33の下部にアルゴン濃度が低下した液化酸素が分離する。この液化酸素は、アルゴン塔33の下部から経路54を通って低圧塔32中下部に戻されて下降液となる。
【0026】
アルゴン塔33の上部に分離したアルゴンガスは、経路55からアルゴン凝縮器35に導入され、前記経路42bからの酸素富化液化空気と熱交換を行い、酸素富化液化空気を気化させるとともに自身は液化して液化アルゴンとなる。この液化アルゴンは、一部が経路56に分岐して製品液化アルゴンLArとして取り出され、残部が経路57を通ってアルゴン塔33の上部に下降液として導入される。
【0027】
このような構成を有する空気液化分離装置では、一般に、ガス負荷(上昇ガス量)を増加させたときに、下降液が降下しにくくなるローディングが発生することがあり、特に、各塔内の気液接触部において下降液が集中する部分が存在する場合、その部分での液の巻き上げによってローディングが発生しやすくなる。
【0028】
このような場合、前述の図2に示すように、分割形成した充填物ブロック21の接合部分において、流体流路23同士が対向する隣接面21aを鉛直方向に対して30〜45度の範囲に傾斜させた状態で充填物ブロック21を接合することにより、鉛直方向の分割面における下降液の集中を防止することができ、上昇ガスによる液の巻き上げが発生しにくくなり、ローディングを抑制することが可能となる。このようにしてローディングを抑制することにより、気液負荷の上限を大きくすることができ、運転範囲(増減量幅)の広い空気液化分離装置を提供することができる。
【0029】
図5は、図4に示した空気液化分離装置のアルゴン塔33における塔内の酸素濃度分布をシミュレーションした結果を示す図である。図5において、実線(L1)は、充填物ブロック側端面を鉛直方向として接合した従来例を示し、一点鎖線(L2)は、充填物ブロック側端面を鉛直方向に対して45度の傾斜として接合した本発明の実施例を示している。なお、波形金属板の波線の角度は鉛直方向に対して45度であり、比表面積は共に750m/mである。
【0030】
充填高さを同じ高さ(10.5m)にした場合、気液接触部33aにおける規則充填物の最上部(充填高さZ=0m)で、従来例の酸素濃度yOが約0.02%であったのに対し、実施例の酸素濃度yOは0.007%に低下しており、気液接触効率が向上していることがわかる。また、従来と同等の酸素濃度のアルゴンを得る場合は、従来の充填高さ10.5mに対して約8mの充填高さで十分であることから、アルゴン塔を大幅に小型化することが可能となる。同様に、他の高圧塔や低圧塔の気液接触部にも本発明を適用することにより、これらの小型化が図れ、また、製品採取量の大幅な増減に対応可能な空気液化分離装置を提供することができる。
【0031】
なお、本発明の気液接触装置は、前記蒸留塔に限らず、様々な気液接触操作に適用することが可能であり、液体や気体の冷却装置、浄化装置などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の気液接触装置における規則充填物の一形態例を示す斜視図である。
【図2】図1に示した構造の規則充填物における液体の流れを示す説明図である。
【図3】本発明の気液接触装置を蒸留塔に適用した一形態例を示す系統図である。
【図4】本発明の気液接触装置を適用した空気液化分離装置の一形態例を示す系統図である。
【図5】図4に示した空気液化分離装置のアルゴン塔における塔内の酸素濃度分布を示す図である。
【図6】従来の気液接触装置における規則充填物の一形態例を示す斜視図である。
【図7】図6に示した構造の規則充填物における液体の流れを示す説明図である。
【符号の説明】
【0033】
11…蒸留塔、12…規則充填物、13…液分配器、14…液体捕集分配装置、15…凝縮器、16…原料ガス導入経路、17…缶出液導出経路、18…低沸点成分ガス導出経路、19…下降液導入経路、20…留出液導出経路、21…充填物ブロック、21a…隣接面、22…波形金属板、22a…波線(折曲線)、23…流体流路、31…高圧塔、32…低圧塔、33…アルゴン塔、34…主凝縮器、35…アルゴン凝縮器、31a,32a,32b,32c,32d,32e,33a…気液接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
折曲線を鉛直方向に対して傾斜させた波形金属板を組み合わせて流路を形成した充填物ブロックの複数個を水平方向に隣接させて形成した規則充填物を有する気液接触装置において、前記複数の充填物ブロックの側端部に開口した流路同士が対向する隣接面を鉛直方向に対して傾斜させたことを特徴とする気液接触装置。
【請求項2】
前記隣接面の傾斜角度は、前記波形金属板の折曲線の傾斜角度と同じ角度であることを特徴とする請求項1記載の気液接触装置。
【請求項3】
前記波形金属板の折曲線は、鉛直方向に対して30〜45度の範囲に傾斜していることを特徴とする請求項1又は2記載の気液接触装置。
【請求項4】
前記充填物ブロックは、比表面積が250〜750m/mであることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の気液接触装置。
【請求項5】
前記充填物ブロックは、ブロックの上端及び下端の少なくともいずれか一方の流路形状を変形させた自己分配促進型規則充填物であることを特徴とする請求項4記載の気液接触装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の気液接触装置を蒸留塔に使用したことを特徴とする空気液化分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−46616(P2010−46616A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213728(P2008−213728)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】