説明

気相測定式シアン分析計

【課題】測定精度および信頼性を高めた気相測定式シアン分析計を提供する。
【解決手段】支持管をガス透過性隔膜で密閉し、この支持管内に検知電極、比較電極および内部液を収容したシアン測定電極12を用いて、液相中のシアン濃度と平衡関係にある気相中のシアン濃度を測定することにより、試料液50中のシアン濃度を求める気相測定式シアン分析計において、気相の温度を検出するとともに、検出した気相の温度に基づいて試料の気液平衡の温度特性を温度補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液から気相中に気化してくるシアン化水素を隔膜を有するシアン測定電極で検知することにより、試料液中のシアン濃度を測定する気相測定式シアン分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料液から気相中に気化してくるシアン化水素を隔膜を有するシアン測定電極で検知することにより、試料液中のシアン濃度を測定する気相測定式シアン分析計が知られている(特許文献1)。特許文献1のシアン分析計は、支持管をガス透過性隔膜で密閉し、この支持管内に検知電極、比較電極および内部液を収容したシアン測定電極を用い、液相中のシアン濃度と平衡関係にある気相中に上記ガス透過性隔膜を位置させて、この気相中のシアン濃度を測定することによって試料液中のシアン濃度を求めるものである。
【0003】
【特許文献1】特開昭55−52940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した気相測定式シアン分析計は、液相中シアン化物イオン濃度と気相中シアン化水素ガス濃度とが一定割合で存在する気液平衡を利用したもので、気相測定であることから、汚れに強い、システムがシンプルであるなどの特長を有し、温度による電極出力変動を補正する温度補償機能が内蔵されている。
【0005】
しかし、同じく温度によって変動する気相中シアン化水素ガス濃度の温度特性は補正(温度補償)されておらず、この試料の気液平衡の温度特性が考慮されていないことが、測定誤差が生じる原因の1つとなっていた。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、試料の気液平衡の温度特性を温度補償することにより、測定精度および信頼性を高めた気相測定式シアン分析計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成するため、下記(1)〜(3)の気相測定式シアン分析計を提供する。
(1)支持管をガス透過性隔膜で密閉し、前記支持管内に検知電極、比較電極および内部液を収容したシアン測定電極を用いて、液相中のシアン濃度と平衡関係にある気相中のシアン濃度を測定することにより、試料液中のシアン濃度を求める気相測定式シアン分析計において、前記気相の温度を検出するとともに、検出した気相の温度に基づいて試料の気液平衡の温度特性を温度補償することを特徴とする気相測定式シアン分析計。
(2)前記液相の温度をさらに検出するとともに、検出した液相の温度および前記気相の温度に基づいて試料の気液平衡の温度特性を温度補償することを特徴とする(1)の気相測定式シアン分析計。
(3)前記気相の温度に基づいて前記シアン測定電極の出力の温度特性をも温度補償することを特徴とする(1)または(2)の気相測定式シアン分析計。
【0008】
気相測定式シアン分析計において、試料の気液平衡の温度特性を温度補償しない場合の気液平衡温度特性を図4に示す。図4は、0.5mg/L−CN溶液での気液平衡の温度特性を示す。試料温度が高い方が気相中のシアン化水素ガス濃度が高くなっている。シアン化水素ガスは、沸点が常温付近にあることなどが影響して温度特性が大きく、気相を測定する場合はその温度補償が重要になる。本発明の気相測定式シアン分析計は、気相の温度に基づいて試料の気液平衡の温度特性を温度補償するので、温度によって変動する気相中シアン化水素ガス濃度の温度特性を温度補償することができ、これにより測定誤差を減少させて、測定精度および信頼性を向上させることができる。この場合、本発明において気相の温度に基づいて試料の気液平衡の温度特性を温度補償するのは、液相とシアン測定電極周辺との温度差が大きくない場合、気相温度を測定することによってシアン測定電極の温度特性、および気液平衡の温度特性の両方を補償することが可能であるという理由からである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の気相測定式シアン分析計によれば、測定誤差を減少させて、測定精度および信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明をさらに詳しく説明する。図1は本発明の一実施形態に係る気相測定式シアン分析計を示す正面図、図2は図1のシアン分析計のシアン測定電極を示す断面図である。
【0011】
図1のシアン分析計において、10は先端が試料液中に挿入されるパイプ、12はパイプ内の上部に設置されたシアン測定電極、14はパイプの上端部に取り付けられたキャップ、15は電極固定用ナット、16は電極リード線、18は内部に通気ポンプ(図示せず)が配設された通気ポンプカバー、20は通気ポンプに接続された通気管、22はパイプ10に設けられた排気口、24は計器取り付け用アダプタ、26はアダプタ24とパイプ10とを連結するクランプ、28は取り付け金具を示す。
【0012】
また、図2のシアン測定電極12において、30は支持管、32は検知電極(例えば、銀イオン電極)、34は比較電極、38は内部液(例えば、アルカリ性にした銀シアン錯イオン溶液)、40はシアン化水素ガスが透過する隔膜、42は隔膜支持体、44はOリング、46は隔膜固定具を示す。
【0013】
本例のシアン分析計を用いて試料液50中のシアン濃度を測定する場合、パイプ10の先端を試料液50に浸漬し、通気管20から液相中に空気を送る。これにより、液相中のシアン化水素が気液平衡によって決まる濃度で気相中に追い出され、シアン測定電極12に到達して隔膜40を透過し、内部液38と反応して検知電極32の電位変化が生じる。したがって、上記電位変化を検出することにより、試料液50中のシアン濃度を求めることができる。なお、図1において52は試料液50の最低液面、54は試料液50の最高液面を示す。
【0014】
また、本例のシアン分析計では、シアン測定電極12の内部、シアン測定電極12の近傍56、または、シアン測定電極12と試料液50の液面との間58に温度センサ(図示せず)を設置し、上記温度センサにより気相の温度を検出するとともに、この気相の温度に基づいて試料の気液平衡の温度特性を温度補償するようになっている。なお、温度センサはパイプ10の内部に設置してもよく、外部に設置してもよい。
【0015】
上記温度補償を行う温度補償式は適宜設定することができるが、例えば下記式(1)を使用することができる。下記式(1)によれば、試料の気液平衡の温度特性およびシアン測定電極の出力の温度特性の両方を温度補償することができる。すなわち、下記式(2)はシアン測定電極の出力の温度特性を温度補償する温度補償式であり、この式に気液平衡の温度補償係数VRを導入することにより、上記の両温度特性を温度補償することができる。
C=10((E−A×(T−20)−E0)/S)/VR …(1)
C=10((E−A×(T−20)−E0)/S) …(2)
C:指示濃度
E:シアン測定電極出力(mV)
A:シアン測定電極温度係数
T:気相温度(℃)
E0:ゼロ電位(mV)(基準温度での値)
S:電位勾配(mV/decade)
VR:気液平衡の温度補償係数
【0016】
上記気液平衡の温度補償係数VRは、例えば、VR=T×0.05とすることができる。また、ある気相温度T1以上とT1未満とで気液平衡の温度補償係数VRを変更してもよい。これは、低温域とそれより高い温度域で気液平衡で発生するシアン化水素ガスの濃度曲線の傾きが大きく異なっているため、ある気相温度で気液平衡の温度補償係数VRを区分することが可能であるという理由からである。例えば、ある気相温度T1以上ではVR=T×0.05とし、ある気相温度T1未満ではVR=0.4とすることができる。
【0017】
また、本例のシアン分析計では、パイプ10の試料液50に浸漬される部分60にさらに温度センサ(図示せず)を設置し、上記温度センサにより液相の温度を検出するとともに、この液相の温度および前述した気相の温度に基づいて試料の気液平衡の温度特性を温度補償するようにしてもよい。液相の温度と気相の温度との差が大きい場合は、この方法により測定精度および信頼性を高めることができる。これは、シアン測定電極の温度特性は電極周辺の気相温度に従うが、気液平衡によってシアン測定電極に到達するシアン化水素ガス濃度は、液相あるいは気相の温度の低い方によって支配されるために、液相および気相の両方の温度を測定して温度補償した方が実際の到達ガス濃度に近い値とすることができるという理由からである。したがって、この場合、シアン測定電極の温度補償は気相温度を基準とし、気液平衡の温度補償は液相あるいは気相の温度のいずれか低い方の温度を基準として、温度特性を温度補償するとよい。なお、液相の温度を測定する温度センサはパイプ10の内部に設置してもよく、外部に設置してもよい。
【0018】
上記温度補償を行う温度補償式は適宜設定することができるが、例えば下記式(1)、(2)を使用することができる。
C=10((E−A×(T−20)−E0)/S)/VR …(1)
C=10((E−A×(T−20)−E0)/S) …(2)
C:指示濃度
E:シアン測定電極出力(mV)
A:シアン測定電極温度係数
T:気相温度(℃)
E0:ゼロ電位(mV)(基準温度での値)
S:電位勾配(mV/decade)
VR:気液平衡の温度補償係数
TL:液相温度と気相温度で低い方の温度(℃)
T1:VRの関係式が異なる分岐温度(℃)
・液相温度と気相温度で低い方の温度≧T1のとき:VR=TL×0.05
・液相温度と気相温度で低い方の温度<T1のとき:VR=0.4
【実施例】
【0019】
図1に示したシアン分析計を用い、1mg/L−CN溶液中のシアン濃度の測定を行った。温度センサは、シアン測定電極に設置した。この場合、実施例1では、前述した温度補償式(1)を用いて試料の気液平衡の温度特性およびシアン測定電極の出力の温度特性を温度補償するに当たり、気相温度8℃以上ではVR=T×0.05とし、気相温度8℃未満ではVR=0.4とした。実施例2では、前述した温度補償式(1)を用いて試料の気液平衡の温度特性およびシアン測定電極の出力の温度特性を温度補償するに当たり、気相温度8℃以上ではVR=T×0.05とし、気相温度8℃未満ではVR=0.45とした。比較例(従来例)では、前述した温度補償式(2)を用いてシアン測定電極の出力の温度特性のみを温度補償した。
【0020】
結果を図3に示す。図3より、試料の気液平衡の温度特性およびシアン測定電極の出力の温度特性の両方を温度補償した実施例1、2は、プロット線の傾斜が小さく、測定精度が高いことがわかる。これに対し、シアン測定電極の出力の温度特性のみを温度補償した比較例は、プロット線の傾斜が大きく、測定精度が低いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る気相測定式シアン分析計を示す正面図である。
【図2】図1のシアン分析計のシアン測定電極を示す断面図である。
【図3】実施例および比較例における溶液中のシアン濃度の測定結果を示すグラフである。
【図4】気相測定式シアン分析計において、試料の気液平衡の温度特性を温度補償しない場合の気液平衡温度特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0022】
10 パイプ
12 シアン測定電極
30 支持管
32 検知電極
34 比較電極
38 内部液
40 隔膜
50 試料液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持管をガス透過性隔膜で密閉し、前記支持管内に検知電極、比較電極および内部液を収容したシアン測定電極を用いて、液相中のシアン濃度と平衡関係にある気相中のシアン濃度を測定することにより、試料液中のシアン濃度を求める気相測定式シアン分析計において、前記気相の温度を検出するとともに、検出した気相の温度に基づいて試料の気液平衡の温度特性を温度補償することを特徴とする気相測定式シアン分析計。
【請求項2】
前記液相の温度をさらに検出するとともに、検出した液相の温度および前記気相の温度に基づいて試料の気液平衡の温度特性を温度補償することを特徴とする請求項1に記載の気相測定式シアン分析計。
【請求項3】
前記気相の温度に基づいて前記シアン測定電極の出力の温度特性をも温度補償することを特徴とする請求項1または2に記載の気相測定式シアン分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−244034(P2009−244034A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89836(P2008−89836)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】