説明

気象レーダーを用いた突風探知システム

【課題】 小型で、空間分解能が高く、高速走査によって地表面付近に発生する突風をピンポイントで探知することができる地上交通機関安全運行のための気象レーダーを用いた突風探知システムを提供する。
【解決手段】 気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、1つの低い仰角のみでレーダーアンテナを短い時間間隔で走査し、地面付近領域をレーダーで監視し、高い空間分解能を有する小型ドップラー気象レーダー4により、地上交通機関の安全運行のための突風の探知を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気象レーダーを用いた突風探知システムに係り、特に、地上交通機関安全運行のための小型ドップラー気象レーダーによる突風探知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、広域の雨風の分布を面的に連続してモニターできるドップラー気象レーダの実用化と普及が図られてきている(下記非特許文献1〜3参照)。
【0003】
図6は従来の上空の渦パターンを気象レーダーを用いて探知する様子を示す模式図、図7はその10分間隔の渦探知の様子を示す図である。
【0004】
これらの図において、101は突風が起こる予兆といわれる上空の渦パターンであり、地上数〜10kmに存在する。102は上空の渦パターン101を探知する従来の気象レーダーである。
【0005】
従来の気象レーダーを用いた突風探知システムでは、竜巻等突風そのものを探知するのではなく、竜巻等の親雲中にある上空の渦パターン101を探知している。そのため、上空の2−10kmの広い領域を気象レーダー102で監視する必要があり、複数の仰角で時間をかけてレーダーアンテナをスキャンするようにしており、時間解像度は低く、10分間隔の探知となっていた。また、空間分解能は250mと粗くなっている。さらに、監視に用いる気象レーダー102は比較的大型になるCバンド(波長5cm台)のドップラー気象レーダーを利用しているため、その設置には種々の制限があり、全国を11〜20箇所でカバーするようにしている。この探知結果は、竜巻等の突風が発生しやすいかどうかを一般社会に向けて発信するために利用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】石原正仁,赤枝健治,鈴木修,「空港気象ドップラーレーダー」,気象研究ノート,200,pp.197−216,2001
【非特許文献2】“Terminal Doppler weather radar(TDWR)”,A briefing paper,FAA,pp. 18,1988
【非特許文献3】新野宏,「竜巻,天気」,54,pp.933−936,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記したように、従来のドップラー気象レーダーは大型であり、時間的解像度及び空間分解能が低いという問題点があった。また、上空の渦パターンを監視しているため、地表面付近に発生する突風を探知することができなかった。
【0008】
さらには、レーダー画像を見て状況を判断できるのは、特定の専門家に限られているといった問題があった。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みて、小型で空間分解能が高く、高速走査によって地表面付近に発生する突風をピンポイントで探知することができる地上交通機関安全運行のための気象レーダーを用いた突風探知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、1つの低い仰角のみでレーダーアンテナを短い時間間隔で走査し、地面付近領域をレーダーで監視し、高い空間分解能を有する小型ドップラー気象レーダーにより、地上交通機関の安全運行のための突風の探知を行うことを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、前記時間間隔が10秒から30秒、前記地面付近の領域が地表から10mから500m、前記空間分解能は30mから150mであることを特徴とする。
【0012】
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、地図上に竜巻の位置と強さを表示することを特徴とする。
【0013】
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、前記地上交通機関が鉄道交通機関であることを特徴とする。
【0014】
〔5〕上記〔4〕記載の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、前記鉄道交通機関の路線図上に危険度をカラーで表示することを特徴とする。
【0015】
〔6〕上記〔5〕記載の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、前記鉄道交通機関の路線図上に更に危険指数を数値で表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、時間間隔が30秒で、1つの低い仰角のみでレーダーアンテナを走査し、地面付近500m以下をレーダーで監視し、高い空間分解能75mを有する小型ドップラー気象レーダーを用いることで、地表付近に発生する突風を短い時間間隔で監視・探知し、地上交通機関の安全運行のために提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る突風(竜巻)を小型ドップラー気象レーダーを用いて探知する様子を示す模式図である。
【図2】小型ドップラー気象レーダーによる30秒間隔の竜巻探知と追跡の模様を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す小型ドップラー気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムの路線図上への情報表示例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施例を示す小型ドップラー気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムの路線図上への危険指数の表示例を示す図である。
【図5】本発明の実施例を示す小型ドップラー気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムの探知された突風の経過情報を示す図である。
【図6】従来の上空の渦パターンを気象レーダーを用いて探知する様子を示す模式図である。
【図7】従来の10分間隔の渦探知の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムは、1つの低い仰角のみでレーダーアンテナを走査し、地面付近領域をレーダーで監視し、高い空間分解能を有する小型ドップラー気象レーダーにより、地上交通機関の安全運行のための突風の探知を行う。
【実施例】
【0019】
図1は本発明に係る突風(竜巻)を小型ドップラー気象レーダーを用いて探知する様子を示す模式図、図2は30秒間隔の竜巻探知と追跡の模様を示す図である。
【0020】
これらの図において、1は突風(竜巻)であり、地上から数100mの領域で発生している。2は地上、3は地上を走行する地上交通機関としての鉄道列車、4は突風(竜巻)1を探知する小型ドップラー気象レーダーである。この小型ドップラー気象レーダー4は、30秒の短い時間間隔で、1つの低い仰角のみでレーダーアンテナを走査し、地面付近数100mの領域をレーダーで監視し、75mの高い空間分解能を有している。上記した数値はこれに限定されるものではなく、例えば、短い時間間隔は10秒から30秒、地面付近の領域が地表から10mから500m、空間分解能は30mから150mとすることができる。
【0021】
図3は本発明の実施例を示す小型ドップラー気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムの路線図上への情報表示例を示す模式図、図4はその路線図上への危険指数の実況表示例を示す図、図5は探知された突風の経過情報を示す図である。
【0022】
図3において、11は探知された突風の位置と強さを示しており、このように地図上で位置を示した表示と共に、図5に示すような時間経過に沿った突風の情報の表示も行う。また、実況画面である図3及び図4において、12は路線を示しており、13Aは赤色で表示された危険度が高い区間であることの表示、13Bは黄色で表示された注意を要する区間であることの表示、13Cは緑色で表示された安全な区間であることの表示をしている。図4においては、さらに、各駅間の危険度を数値で示した危険指数17A〜17Cも表示している。
【0023】
なお、ここで、危険度について説明すると、現時点では、以下の〔A〕と〔B〕となる。つまり、〔A〕:渦そのものの危険度としては、(1)推定される最大風速値、(2)推定される渦の影響範囲(風速が閾値以上の領域)、(3)渦の成長率、(4)上記した(1)〜(3)と後述する〔B〕の(5)として挙げられる。〔B〕線路等の区間や地点の危険度としては、指定した時間帯内における、(1)その区間・地点で想定される最大風速推定値、(2)その区間・地点で想定される渦の影響時間推定値(風速が閾値以上の時間)、(3)風向・風速変化と線路等の方向から推定した、列車が受ける転倒モーメント等の推定値、(4)上記(1)〜(3)と上記した〔A〕の(4)から計算される指数、(5)上記した〔B〕の(1)〜(3)に関する確率的な情報として挙げられる。
【0024】
このように、小型ドップラー気象レーダーを用いて探知した突風情報から鉄道など地上交通機関への危険度を算出し、運行に必要な情報を表示・提供できるように構成した。
【0025】
本発明では、突風が発生し被害をもたらすのが、地表付近であること、突風の寿命が短いこと、また、突風は規模が小さいことを念頭に、広域の雨風の分布を面的に連続してモニターできる小型ドップラー気象レーダーを用いて、地表付近の下層で高速スキャンし、細かい空間分解能でデータを処理するようにした。
【0026】
また、従来の突風監視システムでは、レーダー画像を見て状況を判断できるのは特定の専門家に限られていたことから、突風を引き起こす独特なレーダーパターンを自動的に抽出し、その部分を画面に抜き出して表示するようにした。
【0027】
このように、本発明は、地表付近の突風を引き起こす大気下層の特定のレーダーパターンを高頻度で観測して自動抽出することにより、列車等の地上交通機関に対して突風発生情報をリアルタイムに提供することができる。
【0028】
このように構成することにより、突風を小型ドップラー気象レーダーで事前に探知し、その情報を即時提供することで、鉄道の安全運行に寄与することができる。また、危険な領域の道路を走行する車両へ交通規制を行うことで突風による交通事故の発生を防止することができる。
【0029】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の気象レーダーを用いた突風探知システムは、地表面付近に起きる突風をピンポイントで探知し、地上交通機関の安全に寄与することができる突風探知システムとして利用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 突風(竜巻)
2 地上
3 鉄道列車
4 小型ドップラー気象レーダー
11 竜巻の位置と強さ
12 路線
13A 危険度が高い区間であることの表示
13B 注意を要する区間であることの表示
13C 安全な区間であることの表示
17A,17B,17C 危険指数表示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの低い仰角のみでレーダーアンテナを短い時間間隔で走査し、地面付近領域をレーダーで監視し、高い空間分解能を有する小型ドップラー気象レーダーにより、地上交通機関の安全運行のための突風の探知を行うことを特徴とする気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システム。
【請求項2】
請求項1記載の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、前記時間間隔が10秒から30秒、前記地面付近の領域が地表から10mから500m、前記空間分解能は30mから150mであることを特徴とする気象レーダーを用いた鉄道安全運行用突風探知システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、地図上に竜巻の位置と強さを表示することを特徴とする気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、前記地上交通機関が鉄道交通機関であることを特徴とする気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システム。
【請求項5】
請求項4記載の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、前記鉄道交通機関の路線図上に危険度をカラーで表示することを特徴とする気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システム。
【請求項6】
請求項5記載の気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システムにおいて、前記鉄道交通機関の路線図上に更に危険指数を数値で表示することを特徴とする気象レーダーを用いた地上交通機関用突風探知システム。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−249550(P2010−249550A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96568(P2009−96568)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構「小型ドップラー気象レーダーによる鉄道安全運行のための突風探知システムの基礎的研究(突風解析及び突風探知システムのプロトタイプ試作)」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(592175704)気象庁長官 (7)
【Fターム(参考)】