説明

気道異物の排除剤及び気道異物の排除用組成物

【課題】効果的かつ安全な気道異物の排除剤及び気道異物の排除用組成物を提供する。
【解決手段】重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンからなる気道異物の排除剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気道疾患の原因となる花粉、ほこり、ウイルス、雑菌等の汚れへの自浄作用(クリアランス)を向上させ、気道疾患のリスクを低減させる気道異物の排除剤及び気道異物の排除用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、風邪や花粉症に対しては対症療法として内服薬や点鼻薬に代表される医薬品があげられるが、医薬品特有の副作用の問題があり、その使用には注意を要するという問題があった。一方、副作用の心配が無い予防的な対策としてマスク、うがい、手洗いが挙げられるが、それぞれ、効果、利便性等に問題を抱えており、消費者ニーズを十分に満たしているとはいえなかった。
【0003】
特許文献1(特開2001−131057号公報参照)ではポリグリセリン脂肪酸エステルを配合した組成物が検討され、ポリグリセリン脂肪酸エステルの添加により鼻粘膜へ薬剤を吸着させ、脳内での薬剤の作用性を高める技術が提案されている。
【0004】
また、特許文献2(特表2002−539240号公報参照)ではポリグリセリンを含有するエアロゾル噴射剤に溶解した薬剤組成が検討され、ポリグリセリンの混和作用により高分子薬剤を目的部位へ移送、到達させる作用が開示され、特許文献3(特開2001−240547号公報参照)ではグリセリン類を含有する花粉症抑制剤が検討され、グリセリン類の添加によって花粉症による痒みや炎症を抑制する作用が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献4(特開2004−018432号公報参照)では多価アルコールを含有する眼科用又は耳鼻科用組成物が検討され、多価アルコールの添加による温感作用が開示され、特許文献5(特開2007−084501号公報)ではポリグリセリンを含有する口腔用組成物が検討され、ポリグリセリンの添加による口腔湿潤作用が開示され、特許文献6(特開2007−099688号公報)では多価アルコールを含有する鼻炎用組成物が検討され、多価アルコールの添加による鼻炎、特に鼻詰まりの改善作用が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−131057号公報
【特許文献2】特表2002−539240号公報
【特許文献3】特開2001−240547号公報
【特許文献4】特開2004−018432号公報
【特許文献5】特開2007−084501号公報
【特許文献6】特開2007−099688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1や特許文献2で開示された鼻粘膜付着マトリックスやエアロゾル噴射剤に溶解した薬剤組成は、それぞれ鼻粘膜付着による脳内での薬剤の作用性向上や高分子薬剤を目的部位へ移送・到達作用が示されているものの、気道クリアランス向上作用については何ら言及されてはいない。一方、特許文献3で開示された花粉症抑制剤は、花粉症による痒みや炎症を抑制するためのポリグリセリンの使用に触れているが、気道クリアランス剤としての作用性を言及しおらず、さらにポリグリセリンの分子量による作用性の向上に全く言及されていない。さらに、特許文献4,5で開示された眼科用又は耳鼻科用組成物や口腔用組成物は、それぞれ多価アルコールやポリグリセリンによる温感作用や湿潤作用が示されているものの、気道クリアランス剤としての作用性には触れられていず、さらに高分子量によるポリグリセリンの作用性も言及されていない。加えて、特許文献6で開示された鼻炎用組成物は多価アルコールの添加による鼻炎、特に鼻詰まりの改善作用示しているものの気道クリアランス作用には触れられていず、さらに分子量1000以上のポリグリセリンの作用性について何ら言及されてはいない。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品等の分野への応用が可能な、効果的かつ安全な気道異物の排除剤及び気道異物の排除用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、重量平均分子量が15000〜30000の範囲であるポリグリセリンが極めて効果的な気道クリアランス向上効果、つまり気道異物の排除作用を有することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
従って、本発明は下記気道異物の排除剤及び気道異物の排除用組成物を提供する。
[1].重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンからなる気道異物の排除剤。
[2].重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンを有効成分として含有する気道異物の排除用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ごく少量の添加量でも花粉、ほこり、ウイルス、雑菌等の汚れを効果的に除去することができる気道異物の排除剤が提供される。本発明の気道異物の排除剤は安全性が高いため、医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品等の各分野において広く利用することができ、気道異物の排除用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
上述したように、これまで重量平均分子量が15000〜30000の範囲であるポリグリセリンが気道クリアランス向上効果、つまり気道異物の排除作用を有するという知見はなく、これは、本発明者らの新知見である。
【0013】
本発明は重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンからなる気道異物の排除剤であり、重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンを気道異物の排除用途に用いるものである。なお、ポリグリセリンは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0014】
ポリグリセリンとはグリセリンを基本単位とした重合物をいう。外観は白濁、又は透明な粘性液状物質である。ポリグリセリンは直鎖型、分岐型いずれでもよいが、本発明としては分岐型ポリグリセリンが好ましい。分岐型ポリグリセリンは、例えば、グリセロール−1,3−ジグリシジルエーテルのエポキシ開環付加重合反応後の残存エポキシ基開環処理によって調製することができる。なお、直鎖型、分岐型の区別は化合物の構造中に分岐鎖を有するかどうかで行い、赤外吸収スペクトルや核磁気共鳴スペクトル等を用いた構造分析により判断する。
【0015】
本発明のポリグリセリンは多数の水酸基を含むが、その水酸基の一部又は全部が脂肪酸等の有機酸とエステルを形成した形態を取ることもできるが、脂肪酸等の有機酸とエステルを形成したものを除くポリグリセリンが好ましい。
【0016】
本発明のポリグリセリンの重量平均分子量は15000〜30000であり、この範囲内であれば良好な気道異物の排除効果、分散性、安定性が得られる。また、より良好な気道異物の排除効果を得るための重量平均分子量の範囲は17000〜27000である。分子量が30000を超えると気道クリアランス向上活性が低下すると共に粘性が増加するため、品質上良好な気道異物の排除効果を得ることができない。一方、重量平均分子量15000未満でも気道異物の排除効果が低下するという不具合が生じる。
【0017】
また、上記のポリグリセリンの重量平均分子量は、SB−804HQを分離カラムとし、移動相には10mM濃度の硝酸ナトリウムを水・アセトニトリル混合溶液(混合体積比80:20)に溶解したものを用い、カラム温度40℃、流速1.0mL/minの条件下、光散乱検出器(MALLS)により確認する。
【0018】
一般に、鼻、喉といった気道の粘膜は常に外気に接していることから、いろいろなトラブルのリスクに曝され、花粉症に代表される気道アレルギーや、インフルエンザ等の気道感染症といった不具合が生じる。本発明の重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンは、気道内に侵入した異物を排除し、外気由来の気道リスクを低減することができる。なお、本発明において、気道とは、鼻から鼻腔、鼻咽腔、咽頭及び喉頭等の上気道、ならびに肺側の気管をいう。
【0019】
本発明のポリグリセリンの気道異物の排除効果(気道クリアランス向上活性)は、例えば、繊毛を含む気道粘膜層を用いた培養系での繊毛運動周波数(CBF値)の変動率を数ppm〜数十ppmと極めて低濃度で向上させる。本発明のポリグリセリンがいかなる作用機序で気道異物の排除効果を示すかは明確ではないが、本発明の気道異物の排除剤は極めて高度な外気由来の気道リスクの低減効果を有する。
【0020】
上記繊毛を含む気道粘膜層を用いた培養系での繊毛運動周波数(CBF値)の変動率とは、後述の試験例1において示すように、ウサギから摘出、調製した粘膜層を10質量%子牛血清、ペニシリン、ストレプトマイシンを含むダルベッコイーグルMEM(シグマ社製 D6046)で培養し、本培養系に所定濃度のサンプルを添加したときのCBF値を顕微鏡観察を通した画像解析にて算出し、サンプル無添加のコントロールと比較したときの変化の割合をもって繊毛運動周波数(CBF値)の変動率を調べる系のことをいう。上記ポリグリセリンは、この測定系において数ppm〜数十ppmと極めて低濃度で繊毛運動周波数(CBF値)の変動率の向上作用を示す。なお、上記ppm、%は質量比率である。
【0021】
また、本発明は上記重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンを有効成分として含有する気道異物の排除用組成物を提供する。例えば、本発明の気道異物の排除剤を溶媒中に溶解又は分散させた状態に調製することができる。溶媒は一般的に用いられているものであればいずれのものでも用いることができ、特に限定されるものではない。具体例としては水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、キシレン、ブタノール、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、これらの溶媒を1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、水を含む溶媒のpHは特に限定されず、適当な酸、アルカリ、重金属を除く金属イオンを用いて任意のpHに調整することができるが、2〜12のpHが安定性の上で好ましい。該溶解液又は分散液中のポリグリセリンの濃度は任意の濃度で調製することができるが、製剤への配合性の面から下限は1質量%以上であることが好ましく、粘性や安定性の面から上限は50質量%以下であることが好ましい。
【0022】
さらに、重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンを有効成分として含有する気道異物の排除用組成物としては、医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品等の広範囲な分野の製剤が挙げられ、具体的には、うがい薬、点鼻薬、感冒薬、肌等に塗布し、呼吸することにより気道に導入される揮発性製剤等の医薬品、キャンディー、グミ、飲料水等の食品、ポリグリセリンを含浸させたマスク、ティッシュ、手袋等の日用品が挙げられる。
【0023】
重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンの気道異物の排除用組成物中の配合濃度は特に限定されるものではなく、製剤の設計に影響がなければ任意の濃度の配合が可能であるが、気道異物の排除効果の点から、ポリグリセリン換算で0.5ppm以上であることが好ましく、5ppm(0.0005質量%)以上がより好ましく、50ppm(0.005質量%)以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが製剤によってはその組成上の不具合より5質量%が好ましい。ポリグリセリン換算で0.5ppm未満の配合量の場合、十分な気道異物の排除効果が得られないおそれがある。なお、ppmは質量の比率である。
【0024】
本発明の気道異物の排除用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、本発明の気道異物の排除剤以外の既知の薬効成分や通常製剤に配合される任意成分を必要に応じて適宜配合することができ、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。これらの成分としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、油分、アルコール類、殺菌剤、抗炎症剤、鎮咳去痰薬、鎮痛剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、糖類、ビタミン類、アミノ酸類、生薬類、水等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下、調製例、試験例及び配合例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下のppm、%は質量比率である。
【0026】
[調製例1]
グリセロール−1,3−ジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製)100gに炭酸カリウム6.77gを加え、窒素雰囲気下、140℃で2時間加熱攪拌し開環付加重合させた。放冷後、反応混合物をメタノールに溶解させ、濾過により固形物を除去し濾液を減圧濃縮することにより、ポリ(グリセロール−1,3−ジグリシジルエーテル)99gを得た。次に、ポリ(グリセロール−1,3−ジグリシジルエーテル)99gを水100gに溶解し、10質量%硫酸水溶液100gを添加し室温で2時間攪拌しエポキシ基の開環反応を行った。反応混合物を1(mol/L)水酸化ナトリウム水溶液で中和し透析を行なったのち、減圧濃縮、乾燥によって分岐型ポリグリセリンHBPG73(重量平均分子量7300)14.9gを得た。
【0027】
[調製例2]
グリセロール−1,3−ジグリシジルエーテルの重合工程において反応温度を120℃とした以外は調製例1と同様にして、分岐型ポリグリセリンHBPG128(重量平均分子量12800)23.6gを得た。
【0028】
[調製例3]
グリセロール−1,3−ジグリシジルエーテルの重合工程において反応温度を100℃とした以外は調製例1と同様にして、分岐型ポリグリセリンHBPG177(重量平均分子量17700)33.7gを得た。
【0029】
[調製例4]
グリセロール−1,3−ジグリシジルエーテルの重合工程において反応時間を3時間とした以外は調製例1と同様にして、分岐型ポリグリセリンHBPG257(重量平均分子量25700)29.7gを得た。
【0030】
[調製例5]
グリセロール−1,3−ジグリシジルエーテルの重合工程において反応時間を4時間とした以外は調製例1と同様にして、分岐型ポリグリセリンHBPG354(重量平均分子量35400)26.3gを得た。
【0031】
[調製例6]
グリセロール−1,3−ジグリシジルエーテルの重合工程において炭酸カリウムの量を10.16gとした以外は調製例1と同様にして、分岐型ポリグリセリンHBPG1123(重量平均分子量112300)30.7gを得た。
【0032】
また、これらに加えて下記のサンプルを比較例で使用した。
グリセリン:関東化学製、試薬1級
【0033】
[試験例1:繊毛運動機能評価試験]
ウサギ(NZW、16−21週齢、オス)から摘出した気管を生理食塩水中でシート状に切り開き、ピンセットを用いて粘膜層を剥離した。得られた粘膜層を10%子牛血清、ペニシリン、ストレプトマイシンを含むダルベッコイーグルMEM(シグマ社製 D6046)の中に入れ、5%炭酸ガス条件にて、37℃でインキュベートすることで繊毛を含む気道粘膜層の培養を行った。本培養液に下記表1,2に示す所定量の各サンプルを評価の直前に添加し、下記の方法にて繊毛運動機能を評価した。
【0034】
20倍の対物レンズを用いた透過型倒立顕微鏡にて繊毛部分を観察し、一定区画の画像情報を100Hz程度の頻度で連続的にコンピューターに取り込んだ。1024点の画像情報の輝度変化を数値データとして保存した後、フーリエ変換することで繊毛の運動周波数(CBF値)を解析した。
【0035】
各サンプルの評価は、リン酸緩衝性生理食塩水(PBS)を添加した場合のCBF値を100とした時の相対値をCBF変動率として評価を行った。各サンプルについて計算したCBF変動率の値を表1,2に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1,2に示すとおり、重量平均分子量が15000未満や30000を超えるポリグリセリンを投与した比較例のサンプルではCBF変動率が100未満となりコントロールと比較して繊毛の運動性が低下したが、重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンを配合した実施例のサンプルは、1以上のCBF変動率を示し繊毛の運動性向上作用が示され、重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンには、気道異物の排除効果が確認された。
【0039】
以下に、本発明の気道異物の排除剤を配合した点鼻薬、うがい薬及び健康食品の配合例1〜3を示す。下記の配合例1〜3は、いずれも気道異物の排除効果に優れており、安全性も良好なものであった。
【0040】
【表3】

※1 調製例3
※2 坂本薬品株式会社製 日本薬局方グリセリン
【0041】
【表4】

※1 調製例4
【0042】
【表5】

※1 調製例4
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンは、花粉、ほこり、ウイルス、雑菌等の外気由来の気道リスクを極めて効果的に抑制できる。本発明の気道クリアランス向上剤は、重金属成分等身体に毒性を有する成分を含有せずとも気道クリアランスを極めて効果に向上できるので、優れた安全性を有し、医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品等の広範囲な分野に対し応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンからなる気道異物の排除剤。
【請求項2】
重量平均分子量が15000〜30000のポリグリセリンを有効成分として含有する気道異物の排除用組成物。

【公開番号】特開2010−18593(P2010−18593A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182617(P2008−182617)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】