説明

水の浄化処理装置及び浄化処理方法

【課題】 水中に配設した簡単な構造の水浄化処理槽を用いて池や濠の水を浄化する際に、凝集剤と水との撹拌混合をポンプから送出されてくる水流の有するエネルギーを用いて行うと共に、凝集物の分離除去を極く簡易なフイルタを用いて行うことにより、浄化処理に要する動力や設備費の削減を図り、処理コストを引下げする。
【課題解決手段】 水中に設置する水浄化処理槽であって凝集反応部と凝集沈澱部とを備えると共に、凝集反応部から凝集沈澱部へ向けてその内部を水が流動する水浄化処理槽と、前記凝集反応部の水中へポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸架橋物を主たる成分とする凝集剤を攪拌混合させる凝集剤攪拌混合装置と、前記凝集沈澱部に配設した疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体からなるフイルタとから構成され、凝集剤の攪拌混合により凝集されて水中に浮遊する汚濁物質の凝集物をフイルタの外表面に固着させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、池や河川、濠、沼湖等の水を、ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸架橋物を主たる成分とする凝集剤を用いて浄化する処理装置及び処理方法の改良に関するものであり、特に浄化処理装置を、簡単な構造で組立及び設置が容易で、少ない動力消費で以って凝集剤を水内へ撹拌混合することができ、汚濁物質の凝集並びに凝集物の分離回収を高能率で行える構成とすることにより、処理装置の製造コストと浄化処理コストの大幅な削減を可能とした水の浄化処理装置及び浄化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水環境の回復が強く求められており、特に庭園や公園の池、城や古墳等の濠、都市区域内の小河川等の水の浄化は緊急の課題となって来ている。そのため、従来から各種の水の浄化処理技術が開発されており、特に、毒性が皆無で自然界に対する環境汚染を生じない生分解性凝集剤、例えばポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤を用いた浄化処理技術は、広く注目を集めている。
【0003】
本件発明者等は、先に上記ポリグルタミン酸架橋物を主体とする生分解性凝集剤(日本ポリグル株式会社製 商品名 PGα21Ca)を開発すると共に、これを用いた河川や池、湾内等の水の浄化処理技術を開発し、これを公開している(特許第4365190号、特許第4381154号、特許第4490795号等)。
【0004】
即ち、上記特許第4381154号や特許第4490795号等の技術は、何れも船舶や筏に搭載した凝集剤供給装置を用いて、所定量の凝集剤又は凝集剤混合水を被処理区域内の水内へ散布若しくは噴射混合し、船舶のスクリューの回転力や凝集剤混合水の噴射圧を利用して凝集剤と被処理区域内の水とを強制的に撹拌混合させ、汚濁物質を凝集沈澱させるようにしている。
また、水中に漂う汚濁物質の凝集物は、薄板材を格子状に組み合せて形成した回収体を船舶等で牽引することにより、回収体の表面に吸着、回収するようにしている。
【0005】
しかし、上記のような広い処理水域の全面に亘って同時に凝集剤を散布し、且つ同時に水内へ攪拌混合するようにした各浄化処理方法には、(1)凝集沈澱した凝集物の回収が容易でないと、(2)凝集沈殿物が池や河川の底面に溜って未分解物がヘドロ化し易いこと、(3)水内へ供給した凝集剤と水との撹拌混合が十分でないと汚濁物質が効率よく凝集せず、しかも、一旦凝集沈澱した凝集物が解離して再浮上し易いこと、(4)水の浄化処理に要する設備費が嵩み、浄化処理コストの引下げが図り難いこと等の問題がある。
【0006】
一方、上記(1)〜(4)の如き問題を避けるため、比較的狭い水域面積の公園の池や濠等では図9及び図10に示す如く、池の水中に凝集反応槽Aと凝集沈澱槽Bと放流槽Cから成る浄化処理槽Aoを配設し、ポンプPにより水流を発生させると共に凝集剤供給装置Dから凝集反応槽A内へ凝集剤を供給し、ポンプPの水流を利用して水を矢印方向にジグザグ状に流動させ、その間に供給装置Dから供給した凝集剤を水内へ撹拌混合させるようにしている。
【0007】
上記図5及び図10に示した水の浄化処理方法は、ポンプPによる水流を用いて池内の水を強制循環させるようにしているため、池内の水の全てを処理するためには、数日を必要とすることになるが、浄化処理槽は合成樹脂板等によって簡単に組み立て設置したり、或いは分解撤去することができるため、水浄化処理量の大幅な削減が図れると云う効用を有している。
【0008】
しかし乍ら、前記図9及び図10に示した水浄化処理装置の凝集反応槽Aでは、ポンプPにより水を矢印方向にジグザグ状に放流槽C側へ向けて流動させるだけであるため、水内へ供給された凝集剤(又は凝集剤と水との混合液)が水と十分に撹拌混合されず、結果として凝集剤利用率の低下や汚濁物質の凝集沈澱量の低下を招いて、水浄化処理性能が低いと云う問題がある。
【0009】
また、所謂重力沈殿を利用して凝集物を水中から分離する方式であるため、凝集物の回収除去効率が極めて低く、その結果、凝集物が再び池内へ放流されて行くと云う問題がある。
【0010】
また、ポンプPにより水をジグザグ状に流動させるようにしているため、所定流量の水を流動させるのに要する動力が増大することになり、ポンプ動力量ひいて浄化処理費の増加を招くと云う難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−144340号公報
【特許文献2】特許第4381154号公報
【特許文献3】特許第4490795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記図9に示したような池等の内部に水浄化処理装置Aoを設置して水の浄化処理を行うようにしたシステムに於ける上述の如き問題、即ち、(1)凝集物の沈殿分離性能が極めて低いため、凝集物が浄化処理水と共に池内へ放流され易いこと、(2)凝集反応槽A内における凝集剤の撹拌混合能力が低いこと及び(3)水を循環流動させるために必要とするポンプ動力量やポンプ設備費が嵩み、水浄化処理費の削減が図り難いこと等の問題を解決せんとするものであり、1基のポンプでもって凝集反応槽内への凝集剤の供給及び凝集反応槽内に於ける凝集剤の完全な撹拌混合を可能とすると共に、メッシュ状薄板材からなるフイルタを配設して凝集物をこれに吸着分離させることにより動力量や設備費の大幅な削減と凝集沈澱物の回収効率の向上を図り、これによって水浄化処理費用の引下げを可能とした池等の水の浄化処理装置及び浄化処理方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明に係る水の浄化処理装置は、水中に設置する水浄化処理槽であって凝集反応部と凝集沈澱部とを備えると共に、凝集反応部から凝集沈澱部へ向けてその内部を水が流動する水浄化処理槽と、前記凝集反応部の水中へポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸架橋物を主たる成分とする凝集剤を攪拌混合させる凝集剤攪拌混合装置と、前記凝集沈澱部に配設した疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体からなるフイルタとから構成され、凝集剤の攪拌混合により凝集した汚濁物質の凝集物をフイルタの外表面へ固着させることを発明の基本構成とするものである。
【0014】
前記凝集剤攪拌混合装置は、凝集反応部の水中に環状に配設され、縦断面視に於いて軸心に水平な方向の両側壁と軸心に垂直な方向の上側壁に夫々小径の噴出口を長さ方向に所望の間隔をおいて穿設した導水管と、水中に配設されて側壁に設けた通水孔より水が内部へ流入すると共に、上方開口より凝集剤が投入される混合液形成槽と、混合液形成槽内に配設されて槽内部の混合液を前記導水管の入口側へ圧送して凝集剤と水との混合液を噴出口から凝集反応部内へ噴出する水中ポンプとから構成するのが望ましい。
【0015】
又、水浄化処理槽外に設けた水流発生器により、或いは、河川等の水流を利用して、水浄化処理槽内の水を流動させるようにするのが望ましい。更に、凝集剤攪拌混合装置の水中ポンプにより水浄化処理槽内の水を流動させるようにしても良い。
【0016】
フイルタは、疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体を所定の間隔を置いて並列に配置したり、或いは、長方形の連続した長尺の疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体を屏風状に折り曲げ形成してフイルタとすることができる。
【0017】
前記水浄化処理槽は、木材又は合成樹脂材若しくは木材又は合成樹脂材と築堤の一部により形成するようにしてもよい。
【0018】
導水管は、合成樹脂製又は布製のホースとし、且つ凝集反応部の底面より水位の約1/4〜3/4の高さ位置に水平に複数段配設するのが望ましい。
【0019】
凝集剤は、ポリグルタミン酸架橋物を主体とする生分解性の粉体状凝集剤若しくは液体状の凝集剤とするのが良い。又、前記導水管は、凝集反応部の内部にその側壁から所定距離だけ離して配設した、平面視で四角形又は多角形若しくは円形を呈する環状の導水管とするのが望ましい。
【0020】
本願発明に係る水の浄化処理方法は、水浄化処理槽の凝集反応部の水内へ凝集剤を攪拌混合すると共に、凝集沈澱部内に疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体からなるフイルタを設置し、凝集剤の攪拌混合により水内に凝集、浮遊する汚濁物質の凝集物を前記フイルタの外表面へ固着させ、下流側への凝集物の流出を防止することを発明の基本構成とするものである。
【0021】
本発明の処理対象である被処理水は池、河川、沼湖の水又は港湾の塩水等であり、また、使用する凝集剤はポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤とするのが最適である。
【0022】
フイルタを形成する疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体は、長尺の四角状の合成樹脂製メッシュ薄板体であり、当該長尺の四角状の合成樹脂製メッシュ薄板体を一定の間隔を於いて連続的に折り返す形態で凝集沈澱部の内方に配設して、フイルタを形成するのが望ましい。
【0023】
又、フイルタを形成する疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体は、平面視に於いて水流方向に対して所望の傾斜角度を保持する状態で凝集沈澱部内に配設され、前記メッシュ薄板体の外表面にこれに平行な方向の水流を生じるようにするのが望ましい。
【0024】
更に、フイルタは、疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体を屏風状の折畳み可能な形態に形成し,凝集沈殿槽部の内部で折畳みしたメッシュ薄板体を展開することによりフイルタを形成すると共に、撤去時には折畳みして搬出するのが望ましい。
【発明の効果】
【0025】
本願発明に係る水の浄化処理装置は、合成樹脂材等により形成した凝集反応部と凝集沈澱部とを備えた水浄化処理槽と、前記凝集反応部の水中へポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸架橋物を主たる成分とする凝集剤を攪拌混合させる凝集剤攪拌混合装置と、前記凝集沈澱部に配設した疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体からなるフイルタとから構成されている。そのため、水の浄化処理装置自体の構成が簡単化されると共に、池等の水の処理でも水循環用ポンプは水中ポンプ1基だけでよく、装置の製造コストや水の浄化処理費の大幅な削減が可能となる。
【0026】
また、凝集剤にポリグルタミン酸架橋物を主体とする生分解性凝集剤を使用すると共に、水浄化処理槽の凝集沈澱部内で疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体からなるフィルタを用いて凝集物を固着回収する構成としているため、汚濁物質の凝集を効率よく行えると共に、凝集物そのものの槽外への回収を極めて効率よく行える。
【0027】
更に、疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体からなるフィルタを、水流に対して所定の傾斜角度を保持した状態で凝集沈澱部に設けているため、フイルタの外表面にこれと平行に沿って流れる水流が発生することになり、この発生した水流によって、フイルタに吸着された凝集物が順次下流側の一側寄りに押し集められ、最終的には凝集沈澱部の底部に溜まることに成る。その結果、フイルタの目詰まりが有効に防止されるだけでなく、凝集物の槽外への排出も極めて容易に行える。
【0028】
加えて、長尺の四角状の合成樹脂製メッシュ薄板体を屏風状に連続的に折り曲げしてフイルタを形成しているため、フイルタの設置や使用後のフイルタの除去が容易となり、水浄化処理費の大幅な削減が可能となる。
【0029】
又、本発明に於いては、水浄化処理槽の凝集反応部内へ凝集剤を、水中に設けた環状の導水管から、縦断面視に於いて導水管の軸心と水平な両側方向及び軸心と垂直な上方向へ向けて夫々噴出するようにしているため、凝集反応部の内部に縦向きの循環流が発生することになり、噴出された凝集剤が極めて効率よく水内に撹拌混合されることになる。その結果、より少ない動力でもって凝集剤の撹拌混合と処理すべき水の供給並びに送出を行うことができ、水の浄化処理コストの大幅な削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水の浄化処理装置の使用状態を示す平面図である。
【図2】第1実施形態に係る水の浄化処理装置の平面図である。
【図3】第1実施形態に係る水の浄化処理装置の縦断面図である。
【図4】凝集沈澱部におけるフイルタの配置の第2例を示す平面図である。
【図5】凝集沈澱部におけるフイルタの配置の第3例を示す平面図である。
【図6】凝集沈澱部におけるフイルタの配置の第4例を示す平面図である。
【図7】凝集剤攪拌混合装置を形成する導水管の断面図である
【図8】本発明の第2実施形態に係る水の浄化処理装置の使用状態を示す平面図である。
【図9】従前の水の浄化処理装置の使用状態を示す平面図である。
【図10】従前の水浄化処理装置の概要を示す斜面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る水の浄化処理装置の使用状態を示す平面図であり、図2は、第1実施形態に係る水の浄化処理装置の平面図、図3は、第1実施形態に係る水の浄化処理装置の縦断面概要図である。
図1乃至図3に於いて、1は池、1aは水の流入口、1bは水の流出口、2は水の浄化処理装置、3は水浄化処理槽、3aは凝集剤反応部、3bは凝集沈澱部、3cは放流部、3eは仕切壁、4は混合液形成槽、5は導水管、6は水中ポンプ、7は凝集剤供給機構、8は凝集剤攪拌混合装置、Fはフイルタ、Gは凝集物の塊、Wは主水流、Mはフイルタの外表面に沿う方向の水流である。
【0032】
即ち、水の浄化処理装置2は、水浄化処理槽3と凝集剤攪拌混合装置とフイルタFとからその主要部が構成されており、また、凝集剤攪拌混合装置は混合液形成槽4と導水管5と水中ポンプ6と凝集剤供給機構7から形成されている。更に、水浄化処理槽3には、上流側より順に凝集反応部3a、凝集沈澱部3b、放流部3cが夫々設けられている。
【0033】
前記水浄化処理槽3は木版や合成樹脂板、合成樹脂シート材等を用いて長方形に形成されており、その内部に、側壁高さの0.5倍位の高さ寸法の仕切板3eを設けることにより、凝集反応部3a及び凝集沈澱部3bが形成されている。
また、当該水浄化処理槽3は、その側壁の上端部が僅かに池の水面上に突出する状態で池等の底に適宜の方法、例えば支持杭や重錘を用いて配設固定されており、水流によって移動することはない。
【0034】
前記フイルタは合成樹脂製メッシュ薄膜板から形成されており、本実施形態ではポリエチレンやポリプロピレンからなる疎水性の連続した薄膜板が使用されている。即ち、当該合成樹脂製メッシュ薄膜板は、一般家庭用の水きりネット(株式会社オーエ製 ストッキングタイプ水きりフィットネット)と同一の材料から形成されており、0.05から0.1mm径のポリエチレン繊維を細かく編み込んで伸縮自在な薄板ネット状に仕上げたものであって、張力の無い非伸縮時に100mm×150mmのも(平均孔径0.1から0.5mm)が、張力を加えた伸縮時には220mm×300mm(平均孔径0.2から1.0mm)に伸びることが出来る。そして、当該合成樹脂製メッシュ薄膜板は高さ約1000mm、厚さ約0.2から0.4mmの連続した薄膜板に形成されている。
尚、当該フイルタは、上記水切りネットと同じ材質のもだけでなく、一般家庭の台所用換気扇のフイルタ等と実質的に同一の多孔性薄膜板(厚さ2から3mmm)であっても良い事は勿論であり、図2及び図3に示すように、水浄化処理槽3の凝集沈澱部3b内に主水流Wの方向と傾斜角10~30度を持ってジグザグ状に配置されている。
【0035】
当該フイルタを形成する合成樹脂製メッシュ薄膜板の上辺及び下辺には心材9が設けられており、この心材9によって、合成樹脂製メッシュ薄膜板はしっかりと水中で其の位置が保持されている。
また、合成樹脂製メッシュ薄膜板の彎曲部(折り曲げ部)には固定用支柱10が設けられており、この支柱10によって、樹脂製メッシュ薄膜板は適宜の張力を付与された状態で固定保持されている。
【0036】
尚、図1乃至図3の実施形態では、水浄化処理槽3の長手方向寸法を約15m、横幅寸法を約1.8m、高さ寸法を約1mに選定しているが、水浄化処理槽3の外形寸法等は浄化処理対象である池や壕の形態によって適宜に変更されることは勿論である。
また、図1乃至図3の実施形態では、水浄化処理槽3の内部を3分し、凝集反応部3aと其の約2倍の容積を有する凝集沈澱部3bと放流部3cを形成しているが、各部3a、3b、3cの容積比は適宜に変更可能なこと勿論である。
【0037】
また、図1乃至図3の実施形態では、直方体状の水浄化処理槽3を水中に沈めるようにしているが、図1の点線で示すように、池等の築堤の一部分を利用して水浄化処理槽3の側壁部を形成し、且つその底面を防水性シート等によって形成するようにしてもよい。
【0038】
前記凝集剤攪拌混合装置の一部を構成する混合液形成槽4は、二重壁構造を有する上方開放型の角形槽に形成されており、槽4を形成する2重の側壁面には多数の通水孔が設けられており、所謂ストレーナの機能を果している。また、当該混合液形成槽4は、前記水浄化処理槽3に近接して水中に設置されており、その内部には水中ポンプ6が設置されている。
【0039】
当該混合液形成槽4の上方には凝集剤供給機構7が設けられており、当該凝集剤供給機構7を介して所定量のポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸架橋物を主たる成分とする凝集剤7aが順次混合液形成槽4内へ供給されて行く。
尚、凝集剤供給機構7としては、設定量の粉体又は液体状の凝集剤を正確に形成槽4内へ供給できるものであれば、如何なる構成のものであってもよい。本実施形態においては、小型掻出羽根(図示省略)の回転により粉体状凝集剤を定量放出する構造の供給機構7が使用されている。
【0040】
前記ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸架橋物を主たる成分とする凝集剤7aは粉体状の凝集剤であり、本実施形態に於いては、粉体状の凝集剤として、下記の成分量(wt%)を有する凝集剤7a(日本ポリグル株式会社製・製品名PGα21Ca)が用いられている。
成分構成(wt%)
PGα21Ca=14%、C=0.5%、O=45%、Na=8%、Al=0.5%、Si=12%、Cl=0.4、Ca=15%、K=0.1%、Fe=15%
【0041】
尚、前記PGα21Caは、生分解性を有するγ=ポリグルタミン酸を主体とする新規な自然分解性の物質であり、下記の構造式であらわされるものである。
【化1】

【0042】
また、凝集剤7a内のO、Ca、Fe、Si等は通常2CaSO・HO、NaCO・HO、NaSO、MgSO・6HO、Al(SO)・18HO等の化学構造式で表される物質の型で当該凝集剤7a内に含まれている。
【0043】
前記導水管5は、水中ポンプ6から圧送されて来た凝集剤7aと水Wとの混合液Waを凝集反応部3a内へ導入する管路であり、凝集反応部3aの水中内に環状形態を呈して配設されている。即ち、導水管5は25A〜100A程度(本実施形態では50A)の布製ホースや合成樹脂管により形成されており、その先端は閉鎖され且つ基端部は水中ポンプ6に接続されている。
【0044】
当該、導水管5は、平面視で円形又は四角形、多角形等の環状に形成されており、凝集反応槽3aの各側壁から30〜100cm程度の間隔を置いて配設されている。
また当該導水管5は、凝集反応部3aの高さ(底面と水位レベルWL間の距離)の1/4〜3/4の範囲、即ち水位高さが約1mの場合には底面より25cm〜75cmの高さの範囲内にほぼ水平状態で配設固定されている。
【0045】
更に、導水管5の管壁には、図7に示す如く、ホースの軸心φと水平方向の両側及び軸心φの垂直方向の上側に、適宜の外径寸法の3個の噴出孔5aが穿設されており、且つ当該噴出孔5aのホース長手方向の間隔は10〜30cmに選定されている。尚、本実施例では環状の導水管5を水平に1段設けているが、環状の導水管5を2〜3段設けるようにしても良い。
【0046】
図4は、凝集沈澱部3b内におけるフイルタの配置の第2例を示すものであり、連続する合成樹脂製メッシュ薄膜板を直角状に所定の間隔を置いて折り曲げ配置するようにしたものである。この場合には、後述するように、フイルタの外表面に固着した凝集物を水浄化処理槽の一側へ自動的に寄せ集めする事は出来ないが、より確実に凝集物を吸着回収することが出来る。
【0047】
図5は、凝集沈澱部3b内におけるフイルタの配置の第3例を示すものであり、連続する合成樹脂製メッシュ薄膜板に代えて所定寸法に裁断したフイルタを所定の間隔を置いて凝集沈殿部3b内に配置するようにしたものである。なお、この第3例の場合には,フイルタとして所謂合成樹脂製メッシュ薄膜板を枠体の両面に貼り付けした構造のものとし、フイルタの逆洗浄が可能なようにするのが望ましい。
【0048】
図6は、凝集沈澱部3b内におけるフイルタの配置の第4例を示すものであり、連続する合成樹脂製メッシュ薄膜板を予め屏風状に折畳み形成しておき、この屏風状に折畳みした連続する合成樹脂製メッシュ薄膜板を沈澱凝集部3B内へ搬入し、ここで展開することによりフイルタを配置するようにしたものである。
【0049】
図1乃至図3を参照して、池等の水の浄化処理に際しては、先ず、フイルタを装着した水浄化処理槽3及び凝集剤攪拌混合装置を構成する混合液形成槽4、導水管5、水中ポンプ6等を水W内に配設する。また、凝集剤供給機構7に所定量の凝集剤7aを充填する。更に、処理すべき水W内の凝集剤濃度(通常100ppmに設定する)、処理水量(水域面積×水深)、1日稼動時間及び浄化処理期間(日数)、ポンプ容量(流量)等から必要薬剤量及び凝集剤投入量を求める。
【0050】
次に、水中ポンプ6を運転すると共に混合液形成槽4内へ所定量の凝集剤7aを投入する。混合液形成槽4内へ流入した水及び投入された凝集剤7aは、水中ポンプ6内へ吸引されることにより撹拌混合され、両者の所定濃度の凝集剤を含有する混合液Waは、導水管5の各噴出孔5aから凝集反応槽3a内の水内へ噴出される。
【0051】
導水管5に形成された各噴出孔5aは、図7に示す如き配置になっているため、ポンプ圧送された混合液は凝集反応部3aの側壁方向に向う水平流と中心方向に向う水平流と上方向へ向う垂直流となって噴出され、且つ導水管5が環状を呈していることと相俟って、凝集反応部3a内には図3に示す如き循環流Cが形成されると共に、凝集反応部3aの側壁近傍には複雑な乱流が起生することになる。
【0052】
その結果、凝集反応部3a内では、特別な撹拌装置等を使用することなしに水Wと凝集剤7aとが十分に撹拌混合されることになり、水W内の汚濁物質の凝集作用が促進される。
【0053】
凝集反応部3a内で凝集剤と撹拌混合された水は、仕切板3eをオーバーフローして凝集沈澱部3bへ流入し、フイルタを通過することにより、水内に浮遊する汚濁物質を主体とする凝集物がフイルタに吸着されて除去される。また、凝集物が除去された浄化水は、放流部3cを経て池1内へ戻される。
また、前記凝集剤7aの撹拌混合により形成された水W内の汚濁物質の凝集物は、フイルタの外表面に吸着されるが、フイルタの外表面にはこれに沿う方向の水流Mが生じている為、この水流Mによって順次水浄化処理層3の一側へ向けて押し流され、その塊Gの大きさ(直径)が順次大きくなって水浄化処理槽の側壁部近傍に集まることになる。なお、フイルタの外表面にはこれに沿う方向の水流Mは、フイルタが主水流Wに対して一定の傾斜角を持って配置されていることにより生ずるものであり、当該傾斜角としては10〜30度が最適であることが、水浄化試験を通して確認されている。
更に、凝集沈澱部3b内でフイルタにより分離され、凝集沈澱部3bの側壁よりに溜った凝集物Gは、適宜にバキュームポンプ等により沈澱部3b内から吸引排出される。
【0054】
尚、水の処理速度は使用するポンプ容量に応じて通常150l/min〜1000l/min程度に選定され、これを基準にして水浄化処理装置3の容量や浄化処理時間、投入凝集剤量等が決められることは、前述の通りである。
【実施例1】
【0055】
水域面積1000m、水深1m、総貯水量1000トン、主たる汚染原因がアオコ及び水底ヘドロである池の水を対象として浄化処理をした。
【0056】
使用した水浄化処理槽3は、長さ15m、幅1.8m、深さ1mであり、凝集反応部3aの長さは2.5m(凝集沈澱部3B及び放流部3cの長さ12.5m)である。また、水中ポンプ6には、吐出流量約200〜250l/分、吐出圧力1.2〜1.5kg/cm2、使用電圧AC100Vの水中ポンプが使用されている。
また、導水管5にはゴム引き布製ホース(50mm)を使用しており、噴出孔7aの内径1.5〜2.5mφ、噴出孔のピッチ10〜15cm間隔、ホース亘長16mであった。
【0057】
凝集沈澱部3bの縦方向寸法5mの領域内に、連続したメッシュ薄膜板を10度の傾斜角αでもって7列配置(メッシュ薄膜板の使用量は1.83m×7=12.81m)することにより、フイルタを形成した。尚、フイルタの高さ寸法は約1mである。
【0058】
凝集剤7aの投入量は、全水量に規定濃度の凝集剤7aを投入することとし、水1000トン×濃度100ppm=100kgの凝集剤(PGα21Ca)を投入した。
また、凝集剤の投入時間(即ち、浄化処理時間)は、1日10時間稼動して7日間で全水量分の凝集剤を投入することとし、その結果、水処理流量は238l/min、凝集剤投入量は23.8g/min、1日当りの投入凝集剤量は14.3kgであった。
【0059】
水の浄化処理に際して、投入された凝集剤は十分に反応し、反応槽3aを通過するのに要した時間は、反応槽4.5トンに対して238l/min水量であるので、約19分であった。さらに、22.5トンの水浄化処理槽3内を水が通過するのに要する時間は、約95分であった。尚、反応部3aを通過した処理水は、沈澱凝縮部3bにてフイルタにより固液分離が行われ、上澄みの清水のみが再び池へ戻されて行く。
【0060】
下表は、本実施例に於ける浄化処理の結果を示すものである。
【表1】

【0061】
図8は、本発明の第2実施形態に係る水の浄化処理装置の仕様状態を示す平面図である。当該第2実施形態では、凝集反応部3aに反転壁11を設け、水浄化処理槽3の外部の水中に設けた水流発生器(水中ポンプ)12により水を強制循環させて蛇行流とすることにより、凝集剤の攪拌混合を行う構成としている。なお、この凝集剤攪拌混合装置の構成以外は、前記第1実施形態の場合と同一の構成であるため、ここでは其の説明を省略する。
【0062】
本発明でもちいる連続状の合成樹脂製メッシュ薄膜板は、通常の家庭用に使用する汎用フイルタに相当するものであり、従前のこの種水浄化処理装置で使用するフイルタに比較して、極めて安価に製造することが出来る。また、フイルタの取替えに際して、水中からの引き上げ時に水分が略完全に分離される為、以後の洗浄作業が著しく容易なもとなる。更に、廃棄に際しても、合成樹脂製メッシュ薄膜板の有する毛細管現象により水分除去が容易に行われ、フイルタの運搬処分が容易となる。
加えて、合成樹脂製メッシュ薄膜板は上流側から順次そのフイルタ効果を喪失し、最下流側に位置する合成樹脂製メッシュ薄膜板がフイルタ効果を喪失すれば、全ての合成樹脂製メッシュ薄膜板を一度に取替えする。そのため、フイルタの取替えに要する作業が能率的におこなえ、しかも凝集沈澱部3bへの合成樹脂製メッシュ薄膜板の設置は、特別な装置・器具等をまったく必要とすることなしに行える為、どの様な形態の水浄化処理槽3へも簡単に適用することが出来る。
フイルタの取替費用の大幅な削減が可能となる。
【0063】
合成樹脂製メッシュ薄膜板の外表面に沿う方向に水流Mを発生させるようにしたフイルタの配置にあっては、薄膜板内部の微細孔周辺に捉えられた凝集物は、其の外径が大きくなるにつれて外表面に沿う方向の水流Mによって分離、除去される為、フイルタの全面が一度に目詰まりを起こす事は全くない。その結果、効率の良い水の浄化処理が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は池や濠の水の浄化処理だけでなく、海の塩水や河川、沼湖等の水、貯水槽内の水等の浄化処理にも適用出来るものである。
【符号の説明】
【0065】
Wは主水流または水
Waは混合液
WLは水位レベル
Cは循環流
Mはフイルタの外表面に沿う方向の水流
Gは凝集物の塊
Fはフイルタ
1は池
1aは水の流入口
1bは水の流出口
2は水の浄化処理装置
3は水浄化処理槽
3aは凝集剤反応部
3bは凝集沈澱部
3cは放流部
3eは仕切板
4は混合液形成槽
5は導水管
5aは噴出孔
6は水中ポンプ
7は凝集剤供給機構
7aはポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸架橋物を主たる成分とする凝集剤
8は凝集剤攪拌混合装置
9は心材
10は固定用支柱
11は反転壁
12は水流発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に設置する水浄化処理槽であって凝集反応部と凝集沈澱部とを備えると共に、凝集反応部から凝集沈澱部へ向けてその内部を水が流動する水浄化処理槽と、前記凝集反応部の水中へポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸架橋物を主たる成分とする凝集剤を攪拌混合させる凝集剤攪拌混合装置と、前記凝集沈澱部に配設した疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体からなるフイルタとから構成され、凝集剤の攪拌混合により凝集されて水中に浮遊する汚濁物質の凝集物をフイルタの外表面に固着させることを特徴とする水の浄化処理装置。
【請求項2】
凝集剤攪拌混合装置を、凝集反応部の水中に環状に配設され、縦断面視に於いて軸心に水平な方向の両側壁と軸心に垂直な方向の上側壁に夫々小径の噴出口を長さ方向に所望の間隔をおいて穿設した導水管と、水中に配設されて側壁に設けた通水孔より水が内部へ流入すると共に、上方開口より凝集剤が投入される混合液形成槽と、混合液形成槽内に配設されて槽内部の混合液を前記導水管の入口側へ圧送して凝集剤と水との混合液を噴出口から凝集反応部内へ噴出する水中ポンプとから構成したことを特徴とする請求項1に記載の水の浄化処理装置。
【請求項3】
水浄化処理槽外に設けた水流発生器により水浄化処理槽内の水を流動させる構成とした請求項1に記載の水の浄化処理装置。
【請求項4】
凝集剤攪拌混合装置の水中ポンプにより水浄化処理槽内の水を流動させる構成とした請求項2に記載の水の浄化処理装置。
【請求項5】
フイルタを、疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体を所定の間隔を置いて並列に配置するようにした請求項1に記載の水の浄化処理装置。
【請求項6】
フイルタを、長方形の連続した長尺の疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体を屏風状に折り曲げて形成するようにした請求項1に記載の水の浄化処理装置。
【請求項7】
水浄化処理槽を木杭又は合成樹脂材若しくは溶剤又は合成樹脂材と築堤の一部により形成するようにした請求項1に記載の水の浄化処理装置。
【請求項8】
導水管を合成樹脂製又は布製のホースとし、且つ凝集反応部の底面より水位の約1/4〜3/4の高さ位置に水平に複数段配設するようにした請求項2に記載の水の浄化処理装置。
【請求項9】
凝集剤を、ポリグルタミン酸架橋物を主体とする生分解性の粉体状凝集剤若しくは液体状の凝集剤とするようにした請求項1に記載の水の浄化処理装置。
【請求項10】
導水管を、凝集反応部の内部にその側壁から所定距離だけ離して配設した、平面視で四角形又は多角形若しくは円形を呈する環状の導水管とするようにした請求項2に記載の水の浄化処理装置。
【請求項11】
請求項1に記載の水浄化処理槽を用いた水の浄化処理方法であって、凝集反応部内の水内へポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸架橋物を主たる成分とする凝集剤を攪拌混合すると共に、凝集沈澱部内に疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体からなるフイルタを設置し、凝集剤の攪拌混合により水内で凝集して浮遊する汚濁物質の凝集物を前記フイルタの外表面へ固着させ、下流側への流出を防止するようにした水の浄化処理方法。
【請求項12】
請求項11に記載の水の浄化処理方法に於いて、被処理水を池、河川、沼湖の水又は港湾の塩水とすると共に、凝集剤をポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤とするようにした水の浄化処理方法。
【請求項13】
フイルタを形成する疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体を長尺の四角状の合成樹脂製メッシュ薄板体とし、当該長尺の四角状の合成樹脂製メッシュ薄板体を一定の間隔を於いて連続的に折り返す形態で凝集沈澱部の内方に配設するようにした請求項11の記載の水の浄化処理方法。
【請求項14】
凝集沈澱部内にフイルタを形成する疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体を、平面視に於いて水流方向に対して所望の傾斜角度を保持する状態に配設し、前記メッシュ薄板体の外表面に平行な方向の水流が生じるようにした請求項13に記載の水の浄化処理方法。
【請求項15】
疎水性の合成樹脂製メッシュ薄板体を屏風状に折畳み可能な形態に形成し,凝集沈殿槽部の内部で折畳みしたメッシュ薄板体を展開することによりフイルタとすると共に、撤去時には折畳みして搬出するようにした請求項13に記載の水の浄化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−35173(P2012−35173A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176296(P2010−176296)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(510191012)ポリグルトレーディング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】