説明

水を原料としたポリエーテルポリオールの製造方法

【課題】ポリエーテルポリオールの合成において、アルキレングリコールを直接の原料とせず、水を原料として使用することによって、アルキレングリコールの精製工程に必要なエネルギーや廃棄物をなくし、地球の環境改善にも貢献する。
【解決手段】アルキレンオキシドを酸触媒により加水分解反応させ、その反応混合液中にアルカリ金属水酸化物触媒を添加し、アルキレンオキシドを任意に付加するポリオールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリウレタンの原料として有用な、ポリエーテルポリオール(以下、ポリオールと略称)の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオールは、一般に、触媒の存在下に活性水素化合物にアルキレンオキシドを付加させて製造される。触媒としては、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物触媒、硫酸などの酸触媒、金属触媒などが知られている。この中で一般的な工業的製造にはアルカリ金属水酸化物触媒が用いられている(非特許文献1参照)。一方、酸触媒はアルキレンオキシドの加水分解反応が付加反応よりも優先するので、ポリオールの工業的製造には用いられていない。このため、酸触媒はプロピレンオキシドを多量の水存在下で加水分解させ、プロピレングリコールを製造するための触媒として用いられている。また、近年では特定の金属触媒を使用することによってポリオールを製造することも行われている(特許文献1、特許文献2参照)。しかしながら、これらの金属触媒は、アルカリ金属水酸化物触媒や酸触媒に比べると高価である。
【0003】
開始剤としては、活性水素(官能基数)が2のポリオールには、プロピレングリコールやエチレングリコールが使用されている。これらのアルキレングリコールは相当するアルキレンオキシドを加水分解、精製して製造されている。
このため、アルキレンオキシドからポリオールを得るためには、アルキレンオキシドからアルキレングリコール、アルキレングリコールからポリオールという分割された2種類の製造工程を経ることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−302544
【特許文献2】特開平10−212348
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ポリウレタン原料工業の概要 第3版」 ウレタン原料工業会、p.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルキレンオキシドからアルキレングリコール、アルキレングリコールからポリオールという分割された2種類の製造工程を連続した工程として、アルキレンオキシドから直接にポリオールを製造することができれば、工業上、製造工程の簡略化による製造コストの削減というコストメリットだけでなく、アルキレングリコールの精製工程に必要なエネルギーや廃棄物をなくすることができるため、地球の環境改善にも貢献することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、アルキレンオキシドの付加反応によるポリオールを製造する方法を検討した結果、酸触媒を用いてアルキレンオキシドを加水分解して低分子量のグリコールを合成し、続いてアルカリ金属水酸化物触媒を添加してアルキレンオキシドを付加することにより、所定の分子量のポリオールを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、前述の問題点を解決するためのものであり、アルキレンオキシドを酸触媒により加水分解反応させ、その反応混合液中にアルカリ金属水酸化物触媒を添加し、アルキレンオキシドを任意に付加して得られるポリオールおよびその製造方法を提供するものである。
本発明は、
(1)炭素数2〜4のアルキレンオキシドを酸触媒の存在下で加水分解してアルキレングリコールを生成する工程、
(2)アルキレングリコールに炭素数2〜4のアルキレンオキシドを付加してポリエーテルポリオールを得る工程
を特徴とするポリエーテルポリオールの製造法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、プロピレングリコールを出発原料とせず、水の存在下でプロピレンオキシドを反応させることにより、簡略化された工程でポリプロピレングリコール(PPG)が製造できることを示している。また、プロピレンオキシドの代わりに、エチレンオキシドを使用することにより、ポリエチレングリコール(PEG)を、ブチレンオキシドを使用することにより、ポリブチレングリコールを合成することできる。また、これ以外のアルキレンオキシドを使用することも可能である。この方法により、価格競争力のあるポリオールを環境への負荷が少ない製造方法で生産できる。
ポリエーテルポリオールの合成において、アルキレングリコールを直接の原料とせず、水を原料として使用することによって、アルキレングリコールの精製工程に必要なエネルギーや廃棄物をなくし、地球の環境改善にも貢献する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法は、(1)加水分解反応工程、および次いでの(2)付加反応工程からなる。
【0011】
(1)加水分解反応工程について
本発明では、まず水と酸触媒を反応器内に計り入れた後、アルキレンオキシドを投入し、アルキレンオキシドの加水分解反応を進める。
この工程では加水分解反応が主反応であるが、アルキレングリコールとともにアルキレングリコールのオリゴマー(例えば、ジプロピレングリコールやトリプロピレングリコール)も一部生成する。
【0012】
アルキレンオキシドは、炭素数2〜4である。アルキレンオキシドの具体例は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドおよびこれら2種以上の混合物である。
加水分解反応工程においては、アルカリ金属水酸化物触媒は、アルキレンオキシドの加水分解反応が進行しにくいため、好ましくない。用いる酸触媒の中で好ましい触媒は、鉱酸(無機酸)、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸であり、特に好ましくは、硫酸である。酸触媒は、水との混合物(例えば、水溶液)の形態で取り扱うことができる。酸触媒と水との混合物において、酸と水の重量比は、1:99〜99:1、特に10:90〜80:20であることが好ましい。
加水分解反応において使用する酸触媒の量は、水100重量部に対して0.005〜0.5重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部が適当である。加水分解反応において使用するアルキレンオキシドの量は、水100重量部に対して10〜1000重量部、例えば100〜500重量部、好ましくは300〜400重量部が適当である。
【0013】
加水分解反応工程において反応温度は20〜90℃、好ましくは30〜50℃が適当である。反応時間は、1〜15時間、例えば、2〜10時間である。反応は、反応混合物中へ、必要により連続して、アルキレンオキシドを加えることにより進行する。アルキレンオキシドが反応温度で気体である場合には、気相の圧力は1〜5気圧であることが好ましい。
【0014】
加水分解反応は、速やかに進行するため、混合物の水分を測定することで反応の進行度合いを確認できる。この反応は、水分が系全体に対して10重量%までは速やかに進行するものの、それ以下になると反応速度が極端に落ち、混合物中の未反応アルキレンオキシドの残存量が増える。そのため、反応は、水分が10重量%以下になったところを終点とするのが好ましい。
加水分解反応工程で得られたアルキレングリコール(水を開始剤としたアルキレングリコールおよびアルキレングリコールのオリゴマー)が、次の付加反応工程において開始剤として働く。
【0015】
(2)付加反応工程
加水分解反応終了後、混合物を別反応容器に移し、あるいは同じ反応容器内で引き続いて、塩基触媒、特に、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物、好ましくは水酸化カリウムまたはその水溶液を過剰に加え、更にアルキレンオキシドを追加、付加反応させることにより、目的とする水酸基価を持つポリオールを合成する。
付加反応工程において、加水分解によって得られたアルキレングリコールおよびアルキレングリコールのオリゴマーを開始剤として、アルキレンオキシドが付加する。
【0016】
塩基触媒は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アミノ基を有する化合物(アミン化合物)であることが好ましく、塩基触媒の具体例は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、ジメチルアミンである。塩基触媒は、水との混合物(例えば、水溶液)の形態で取り扱うことができる。塩基触媒と水との混合物において、塩基と水の重量比は、1:99〜99:1、特に20:80〜80:20であることが好ましい。塩基触媒を過剰に添加することにより、酸触媒を中和し、(加水分解反応工程(1)を終了した)反応混合物を塩基性にする。反応混合物のpHは、例えば8以上、特に10以上であってよい。
【0017】
付加反応において使用するアルキレンオキシドは、一般に炭素数2〜8、特に炭素数2〜4である。アルキレンオキシドの具体例は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドおよびこれら2種以上の混合物である。
付加反応工程において追加するアルキレンオキシドは、加水分解反応工程において使用するアルキレンオキシドと同様であっていてもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0018】
付加反応において使用する塩基触媒の量は、開始剤100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部が適当である。塩基触媒は、加水分解工程で使用された酸触媒を中和する量を越える量で使用する。
付加反応においてアルキレンオキシドを追加してもよいが、追加しなくてもよい。追加するアルキレンオキシドの量は、例えば、開始剤100重量部に対して5〜5000重量部、例えば100〜2000重量部であってよい。
アルキレンオキシドの付加反応において、水酸基あるいはアミノ基を持った原料(化合物)を添加しても良い。水酸基あるいはアミノ基などの反応基を持った化合物は、分子量30〜600、例えば40〜400、特に90〜350の化合物であることが好ましい。水酸基を持った化合物の具体例は、ショ糖、ペンタエリスリトール、ソルビトール、グリセリン、トリメチロールプロパンである。アミノ基を持った化合物の具体例は、モノエチルアミン、エチレンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミンである。水酸基あるいはアミノ基を持った化合物の量は、開始剤100重量部に対して50〜2000重量部、例えば80〜650重量部であってよい。水酸基あるいはアミノ基を持った化合物がアルキレンオキシドとともに付加反応する。
アミノ基を持った化合物(特に、アミン)を(コスターターとして)用いる場合、アミンとアルキレンオキシドの反応を優先させるため、一度、酸を中和する分だけ塩基(塩基の好ましい量は酸1当量に対して0.90〜1.0当量である。)を添加し、アミンとアルキレンオキシドの反応を行った後、追加の塩基を添加し、アルキレンオキシドの付加重合を実施することが好ましい。
【0019】
付加反応において、反応温度は100〜140℃、好ましくは105〜115℃が適当である。反応時間は、1〜50時間、例えば、3〜30時間である。アルキレンオキシドが反応温度で気体である場合には、気相の圧力は1〜5気圧であることが好ましい。
【0020】
また、アルキレンオキシドの付加反応において、他の出発原料を加えることで、複数の出発原料から成る、様々な特性を持ったポリオールを合成することが可能になる。他の出発原料は、アルカリ金属水酸化物触媒を加える直前、あるいは同時に加えることが好ましい。
本発明において、水を原料として得られたポリエーテルポリオールは、アルキレングリコールを開始剤として、アルキレンオキシドを付加させて得られるポリオールと同じく、2つの水酸基を有するポリオールであり、その分子量は、一般に、110〜4000(水酸基価28〜1000mgKOH/g)である。
また、アルキレンオキシドの付加反応において、他の出発原料を加えることで、複数の出発原料から成る、様々な特性を持ったポリオールを合成することが可能になる。他の出発原料は、アルカリ金属水酸化物触媒を加える直前、あるいは同時に加えることが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明する。本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
1Lのオートクレーブに水100重量部(100グラム)と硫酸0.04重量部を加えて窒素で2気圧に加圧し、50℃でプロピレンオキシド340重量部を2時間かけて連続的に添加した。これに、水酸化カリウムを2.1重量部加え、2気圧加圧の下、110℃でプロピレンオキシド300重量部を2時間かけて連続的に添加した。その後、80℃で硫酸1.7重量部を添加し、2時間混合して中和反応を完結させた。さらに0.01気圧の減圧下に110℃で2時間脱水を行い、濾紙を用いて濾過し、ポリオールAを得た。
【0023】
実施例2
10Lのオートクレーブに水100重量部(100グラム)と硫酸0.04重量部を加えて窒素で2気圧に加圧し、50℃でプロピレンオキシド340重量部を2時間かけて連続的に添加した。そこへ、ショ糖1500重量部と水酸化カリウム18.3重量部を加え、2気圧加圧、110℃でプロピレンオキシド3900重量部を30時間かけて連続的に添加した。その後、80℃で水500重量部と硫酸15.9重量部を添加し、
2時間混合して中和反応を完結させた。さらに0.01気圧の減圧下に100℃で2時間脱水を行い、濾紙を用いてろ過し、ポリオールBを得た。
【0024】
比較例1
1Lのオートクレーブに水100重量部(100グラム)と水酸化カリウム2.3重量部を加えて窒素で2気圧に加圧し、110℃でプロピレンオキシド670重量部を30時間かけて連続的に添加した。その後、80℃で水70重量部と硫酸2.0重量部を添加し、2時間混合して中和反応を完結させた。さらに0.01気圧の減圧下に100℃で2時間脱水を行い、濾紙を用いてろ過し、ポリオールCを得た。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果から、実施例1では、プロピレングリコールを直接の原料としてアルカリ金属水酸化物触媒でプロピレンオキシドを付加する場合に比べて、酸およびアルカリ金属水酸化物触媒を併用し、連続的にプロピレンオキシドを添加すれば、大幅に反応時間を増加させることなく、目的の水酸基価のポリオールを合成することができた。実施例2では、アルカリ金属水酸化物触媒を添加前に他の出発原料を添加し、添加後にプロピレンオキシドを連続的に添加することによって、水を含む複数の出発物質を持つポリオールの合成にも本発明が適用できることが分かった。
また、比較例1では、触媒としてアルカリ金属水酸化物触媒のみを用いた。この条件でプロピレンオキシドを短時間、例えば2時間で添加すると、プロピレンオキシドはほとんど反応せずに気化し、圧力調整弁から排気されてしまう。このため、プロピレンオキシドが十分に反応できるよう、30時間でゆっくり添加した。このように、アルカリ金属水酸化物触媒のみでポリオールを合成する場合には大幅に時間が掛かかってしまう。
また、比較例1で得られたポリオールは実施例1で得られたポリオールとは異なるものだった。これは、アルカリ金属水酸化物触媒で加水分解反応を行うと、反応速度が遅いことと、加水分解反応によって生成するプロピレングリコールの量が少ないためにプロピレングリコール1分子当たりに付加するプロピレンオキシドの量が多いことによると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によって得られるポリエーテルポリオールは、種々の分野において使用できるが、特にポリウレタンの原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)炭素数2〜4のアルキレンオキシドを酸触媒の存在下で加水分解してアルキレングリコールを生成する工程、
(2)工程(1)で得られたアルキレングリコールに炭素数2〜4のアルキレンオキシドを付加してポリエーテルポリオールを得る工程を特徴とするポリエーテルポリオールの製造法。
【請求項2】
工程(1)において、酸触媒が無機酸である請求項1に記載のポリエーテルポリオールの製造法。
【請求項3】
工程(2)において、アルカリ金属水酸化物触媒を添加し、アルキレンオキシドを付加反応させることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリエーテルポリオールの製造法。
【請求項4】
アルキレンオキシドの付加反応において、水酸基あるいはアミノ基を持った原料を添加し、アルキレンオキシドを付加反応させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエーテルポリオールの製造法。
【請求項5】
請求項1の製造法によって製造されたポリエーテルポリオール。

【公開番号】特開2012−62295(P2012−62295A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209788(P2010−209788)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000183299)住化バイエルウレタン株式会社 (33)
【Fターム(参考)】