説明

水中のウイルスの除去及び分解方法

【課題】懸濁物質を含んだ被処理水中のウイルスを除去及び分解する方法の提供。
【解決手段】懸濁物質を有する被処理水をろ過して懸濁物質を除去した後、当該ろ過水に紫外線を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は懸濁物質を有する水中に含まれるウイルスを分解及び除去する方法に関する。特に、下水、下水処理水、河川水、湖沼水、海水、浴水、プール水等の汚水中に含まれるノロウイルスをはじめとした腸管系病原ウイルスの除去及び分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な腸管系疾病の病原体としてウイルスの存在が知られている。特にノロウイルスは、魚貝類や飲料水を介して人体に侵入し、食中毒を起こすことが知られており、さらには人対人で二次感染して重篤な集団感染に至ることが社会問題となっている。ノロウイルスは魚貝類の体内で増殖しないことから、例えばカキの体内にノロウイルスが検出される理由は下水などの排水中に存在するノロウイルスが下水または下水処理水として水域に放流され、放流先の水域に生息するカキの体内に濃縮、保持されるためと考えられている。
【0003】
ところで、一般に水の消毒方法として塩素消毒と紫外線消毒が多用されているが、塩素消毒に関して言えば、ウイルスに対しては不活化効果がないと言われており、ノロウイルスに対しても同様である。
【0004】
一方、紫外線消毒は、波長254nmの殺菌線が遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)などの核酸を変性させて不活化させる消毒方法であり、従来の紫外線消毒においては、波長254nmの殺菌線を効果的に発生させることができる低圧の水銀蒸気放電灯が用いられている。
【0005】
紫外線照射によって核酸が変性すると感染性が消失することから、ポリオウイルスやアデノウイルスなど宿主細胞や動物への感染を検定する方法が確立されている一部のウイルスについては、ウイルスが不活化されたか否かを判定することができる。
【0006】
しかしながら、ノロウイルスについてはかかる宿主細胞や動物を用いた検定方法がないため、紫外線消毒によるノロウイルスの不活化の効果を判定できないという問題がある。
【0007】
したがって、ノロウイルスに関する衛生検査においては、ノロウイルス由来の核酸の有無を判定する遺伝子検査方法が採用されている。
【0008】
ところが、遺伝子検査方法では正常な核酸と紫外線よって損傷を受けた核酸とを鑑別することができないことから、ウイルスの感染性を保持しているか否かに関わらず、ウイルスの存在の有無についての判定結果しか下せない。
【0009】
よって、紫外線消毒によりウイルスの核酸に損傷を与えて食中毒性を消失させることができても、これを判定する方法がなく、また、不活化の有無によらずウイルスの核酸の存在の有無に基づいて判定せざるを得ないという現状を考慮すると、1)ウイルスを物理的に除去すること、2)ウイルスの核酸を分解にまで至らしめ、遺伝子検査方法でも検出されないレベルまで分解消毒すること、の少なくともいずれかを行うことが求められている。
【0010】
以下に示す非特許文献1は、紫外線照射によりウイルスを不活化できるが、遺伝子検査ではウイルスが検出されることを記している。
【0011】
以下に示す特許文献1は、光触媒を併用した紫外線照射によれば水中に希薄に含まれるウイルスをOHラジカルの作用で分解できることを開示している。しかしながら、この光触媒/紫外線処理法は、高濃度のウイルスを含んだ、または、懸濁物質をある程度以上含んでいる被処理水(例えば、1mg/L以上)に対しては、被処理水中の懸濁物質が紫外線透過を妨害し、光触媒の活性化に十分な紫外線照射量が確保できないことから、効果が希薄であるという難点がある。
【0012】
また、該特許文献1は、紫外線照射前に予め濁質を前ろ過により除去することを開示しているが、好適な前ろ過の方法や装置については記載がない。
【0013】
以下に示す特許文献2は、懸濁物質(SS成分)を有する水中に生息するウイルスは、懸濁物質に吸着されていることが多いことから、ウイルスの大きさよりも大きな公称孔径膜を持つ膜ろ過によって物理的に除去する方法を開示している。
【0014】
この方法では、懸濁物質濃度が3000mg以上と高濃度である被処理水に対しては、ウイルスの大きさをはるかに上回る0.1μm超の公称孔径のろ過膜を用いて、膜の透過流速を低下させることなく効率的に、被処理水中の懸濁物質と共にウイルスを完全に除去することできる。しかしながら、3000mg/L未満の濃度で懸濁物質を含んだ被処理水に対しては、ウイルスの大きさを上回り、膜の透過流速を低下させない0.1μm以上の公称孔径のろ過膜を用いた効率的なウイルス除去は困難である。さらに、500mg/L未満の濃度で懸濁物質を含んだ被処理水に対しては、0.01μm以下の公称孔径のろ過膜を使用する必要があるが、0.01μm以下の公称孔径のろ過膜を使用した場合のろ過速度は0.1μm超の公称孔径のろ過膜を用いた場合のろ過速度の数分の1以下となる。したがって、下水等の多量の被処理水を処理することは、処理コストや処理効率の点から現実的に困難である。
【特許文献1】特開2004−130196号公報
【特許文献2】特開2004−255250号公報
【特許文献3】特開2003−1066号公報
【非特許文献1】片山浩之ら、UV照射により不活化されたRNAファージのRT−PCR法による定量、環境工学研究論文集、第34巻、83頁(1997)
【非特許文献2】大垣眞一郎、ウイルスの代替指標としてのバクテリオファージ、水道協会雑誌、第62巻、第5号、22頁(1992)
【非特許文献3】加藤敏朗ら、小型球形ウイルス(SRSV)対策技術としての光触媒/紫外線消毒法、下水道協会誌、第41巻、第504号、123頁(2004)
【非特許文献4】片山浩之ら、陰電荷膜を用いた酸洗浄・アルカリ誘出によるウイルス濃縮法の開発、水環境学会誌、第25巻、第8号、469頁(2002)
【非特許文献5】日本水道協会編、上水試験方法(2001年版)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
懸濁物質を有する水中(濃度1mg/L以上)のウイルスは、以下の問題点を有する:
1)そのまま紫外線照射、又は、光触媒を併用した紫外線照射しただけでは、懸濁物質がウイルスの分解を阻害するため、分解効果が薄いという問題点、及び
2)膜ろ過のみでは、懸濁物質濃度3000mg/L未満の場合は、0.1μm以下と小さな公称孔径の膜を使用しなければならず、特に、懸濁物質濃度500mg/L未満の場合は、0.01μm以下とより小さな公称孔径の膜を使用しなければならず、膜の透過流量が小さいため、多量の被処理水の処理は困難である問題点。
【0016】
上記問題点に鑑み、本発明は、懸濁物質を有する水中のウイルスを、多量処理が可能で、且つウイルスの除去及び分解効率がよい、懸濁物質を含んだ被処理水中のウイルスの除去及び分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、懸濁物質を有する水中のウイルスは、1)懸濁物質(SS成分)に吸着された形態、2)より微細な粒子(バクテリア等)に吸着された形態、及び、3)遊離の形態、で存在することを知見し、膜分離ないしは砂ろ過などで1)の形態のウイルスを物理的に除去した後に、2)及び3)の形態のウイルスを紫外線または光触媒/紫外線などにより不活化ないしは化学的に酸化分解することで、水中のウイルスをほぼ完全に除去及び分解するする方法を発明した。
【0018】
すなわち、本発明は、水中のウイルスの除去及び分解方法であって、その構成は、以下の通りである:
(1)懸濁物質を有する水中に含まれるウイルスを除去及び分解する方法であって、当該水をろ過して当該懸濁物質を除去した後、得られたろ過水に紫外線を照射することを特徴とする前記方法。
【0019】
(2)前記ウイルスが大腸菌ファージであることを特徴とする(1)記載の方法。
【0020】
(3)懸濁物質を有する水中に含まれるウイルスを除去及び分解する方法であって、当該水をろ過して当該懸濁物質を除去した後、得られたろ過水を、光触媒を装着した紫外線照射反応容器内に通し、当該ろ過水及び当該光触媒に、紫外線を照射することを特徴とする前記方法。
【0021】
(4)前記ウイルスがノロウイルスであることを特徴とする(3)記載の方法。
【0022】
(5)前記水中の懸濁物質の濃度が1〜2500mg/Lであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
【0023】
(6)前記水中の懸濁物質の濃度が3〜500mg/Lであることを特徴とする(5)に記載の方法。
【0024】
(7)前記ろ過が、砂ろ過又は孔径0.1〜10μmの膜ろ過であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
【0025】
(8)前記紫外線を照射する光源が、水銀蒸気放電灯であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
【0026】
(9)前記ろ過水の濁度を連続的又は断続的に測定し、得られた測定値の変化に基づいて前記紫外線照射の前に過酸化水素、オゾン、及び塩素剤から選ばれる1種又は2種以上の酸化剤を前記ろ過水に予め投入することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
【0027】
(10)前記懸濁物質を有する水に凝集剤を添加した後に、これをろ過することを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
【0028】
なお、ここでいう懸濁物質とは、いわゆるSS成分のことであり、孔径1μmのろ紙上に捕捉される不溶解性物質のことをいう。
【発明の効果】
【0029】
下水、下水処理水、河川水、湖沼水、海水、浴水、プール水等の汚水中に含まれるノロウイルスをはじめとした腸管系病原ウイルスを、その存在形態に応じて除去・分解することができる。すなわち、これらウイルスは、1)水中では懸濁物質に吸着した形態、2)極微細な粒子に吸着した形態、及び、3)遊離の形態で存在することから、1)の形態をろ過で除去するとともに、ろ過で捕捉できない2)及び3)の形態を光化学的および物理化学的に分解することができる。
【0030】
ろ過工程の後に分解工程を有しているため、前段のろ過工程でウイルスを完全に除去する必要がない。したがって、前段のろ過工程において、ウイルスの大きさをはるかに上回る公称孔径のろ過膜を採用した精密ろ過、または、安価な砂ろ過などを採用することができ、経済的な処理を実現できる。
【0031】
特に、1〜2500mg/Lの濃度の懸濁物質を含む被処理水であっても、多量処理可能で、且つウイルスの除去及び分解効率良く、水中のウイルスを除去及び分解できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、水中に含まれるウイルスをその存在形態に応じて効果的に除去及び分解する方法に関するものであり、大別して2つの処理工程で構成される。つまり、第一の処理工程としては、懸濁物質(孔径1μmのろ紙上に捕捉される不溶解性物質)に吸着または懸濁物質中に包含され、水中の懸濁物質と挙動をともにするウイルスを物理的に除去するためのろ過工程があり、第一の処理工程に続いて実施される第二の処理工程としては、遊離の状態またはろ過後の液中に浮遊する不溶解性物質に吸着した状態で存在するウイルスを物理化学的に分解する分解工程である。
【0033】
懸濁物質の濃度としては、1mg/L未満であれば、ろ過をせずに、紫外線照射、又は光触媒と組合せた紫外線照射だけでも効率的にウイルスを分解できることから、1mg/L以上が好ましく、ろ過をしない場合との相対的な効果を明確に発揮するためには、3mg/L以上がより好ましい。
【0034】
懸濁物質濃度が非常に高い場合は、事前に沈殿除去、又は凝集剤を使用して沈殿除去させて、その後にろ過すれば良いが、ろ過前の濃度としては、2500mg/L以下が好ましい。ろ過前の懸濁物質濃度が、2500mg/L超の場合は、水中のウイルスは殆ど懸濁物質に吸着又は懸濁物質中に含包されている。そのため、ろ過だけでも大部分のウイルスを除去できる上、ろ過膜の孔径を1μm超と大きくして通過流速を高めても遊離のウイルスが殆ど存在しないことから、効率よくウイルスを除去できる。従って、第二の処理工程は不要となる可能性があるためである。
【0035】
更により好ましくは、500mg/L未満である。ろ過のみの場合と比べた相対的効果がより明確になる。
【0036】
以下、添付の図面に従って、本発明にかかわる水中のウイルスの除去及び分解方法の好ましい様態について詳述する。
【0037】
図1は、ろ過および紫外線照射を用いて本発明を実施する場合の概略フローシートの一例である。
【0038】
図1に示すように、被処理水貯槽1に一次貯留した被処理水2を送水ポンプ3aでろ過器4に送水して被処理水2をろ過した後に、さらに送水ポンプ3bで紫外線照射槽5に送水して紫外線を照射することによって処理水7を得ることができる。
【0039】
被処理水中の懸濁物質の濃度が高いと、後述する第二の処理工程における紫外線照射、又は光触媒と組合せた紫外線照射の効果が薄れることから、処理水中の懸濁物質は除去する必要がある。
【0040】
ろ過器4は、被処理水中の懸濁物質を10mg/L以下、より好適には1mg/L以下まで除去できる性能を有していれば、いかなる方式でも採用することができ、例えば、砂ろ過、活性炭ろ過、木炭ろ過、生物活性炭ろ過、膜ろ過などの方式が挙げられる。膜ろ過としては、精密ろ過、限外ろ過、ナノろ過、逆浸透ろ過などが挙げられるが、公称孔径がウイルスの大きさ程度以下での分離膜を採用した場合、処理効率や経済性の面で課題が残るため、公称孔径0.1μm以上の分離膜の使用が好適である。また、下水中の懸濁物質は数μm程度が主体であることから孔径が大きいろ過膜ではそれらの懸濁物質を除去できないため、公称孔径は10μm以下が好適である。更により好ましくは、0.8μm超、3μm以下である。ろ膜の透過流速をより高めながら、ウイルスの除去を効率化できる。
【0041】
本発明は、第二の処理工程としてウイルスを物理化学的に分解する工程を備えていることから、ろ過工程においては遊離のウイルスを完全に除去する必要はない。したがって、大水量を効率的にろ過することができる精密ろ過や砂ろ過などの高効率かつ低コストなろ過方式を採用することができる。被処理水をろ過するろ過器は、多段で設置することができる。同じ方式のろ過器を多段にしてもよいが、被処理水中に懸濁物質が多い場合には捕捉可能な粒子径の異なる方式を多段で設置して、粒子径が大きな粒子から順次除去するほうが好ましい。
【0042】
紫外線照射槽7に用いられる紫外線ランプ6は、特に限定はないが、水銀蒸気放電灯、重水素ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、エキシマランプなどが挙げられるが、波長180nm以上240nm未満の紫外線を発する紫外線ランプを用いれば、その波長域、特に波長185nmの紫外線が有する光化学的反応の作用により水が分解して酸化力の強いOHラジカルを発生させうることからウイルスの分解に効果的である。
【0043】
さらに、紫外線照射槽7には紫外線ランプ6から発せられる紫外線を受光でき、かつ、紫外線照射槽内を通過する被処理水に接する位置に光触媒を装着することができる。波長180nm以上240nm未満の紫外線の効果のみならず、光触媒の作用によって、更に効果的に水中にOHラジカルを発生させることができ、ウイルスの分解をより効果的に発現させることができる。
【0044】
光触媒の材料は特に限定がないが、酸化チタン、酸化亜鉛が挙げられ、特にアナターゼ型の結晶構造を含んだ酸化チタンが高い光触媒活性を示すことから実用的である。
【0045】
また、光触媒の形状は特に限定はないが、粉末タイプの光触媒は紫外線照射後の処理水から分離除去する必要があるため好ましくない。したがって、板状、球状、繊維状の硝子、金属、プラスチックなどに光触媒を固定化したタイプを使用することが好ましい。
【0046】
ろ過器4や紫外線照射槽7への通水条件を満足できるのであれば、被処理水貯槽1、送水ポンプ3a、送水ポンプ3bなどを省略することができる。また、必要に応じて、ろ過器4と紫外線照射槽7との間にろ過水を一次貯留するための貯槽を設置してもよい。
【0047】
図2は、浸漬型ろ過および紫外線照射を用いて本発明を実施する場合の概略フローシートの一例である。
【0048】
図2に示すように、一次被処理水2を貯留した被処理水貯槽1に浸漬型ろ過器8を浸漬し、送水ポンプ3bでろ過水を引抜き、かつ、紫外線照射槽7に送水して紫外線を照射することによって処理水7を得ることができる。
【0049】
浸漬型ろ過器8は特に限定はないが、被処理水の水質に応じて選定すればよく、平膜式精密ろ過膜、セラミックろ過膜などが挙げられる。
【0050】
図3は、ろ過および紫外線照射を用いるウイルス除去・分解方法において化学酸化剤を併用した本発明を実施する場合の概略フローシートの一例である。
【0051】
図3に示すように、被処理水貯槽1に一次貯留した被処理水2を送水ポンプ3aでろ過器4に送水して被処理水2をろ過した後に、ろ過水に酸化剤を添加し、送水ポンプ3bで酸化剤注入ユニット9に送水し、さらに、送水ポンプ3cで紫外線照射槽7に送水して紫外線を照射することによって処理水7を得ることができる。
【0052】
酸化剤の併用処理は、常用してもよいが、例えばろ過器のトラブル等によってろ過水中に懸濁物質が漏出した場合に、それを検知して緊急対策として酸化剤を添加することもできる。つまり、ろ過器のトラブル等によってろ過水中にウイルスの漏出が高まると、後段の紫外線照射による酸化分解工程への負荷が高まり、完全分解が困難になることを回避するために、ろ過水への懸濁物質(ウイルスが吸着又は含包されている)の漏出を、ろ過水の濁度変化により検知して、酸化剤添加によって分解性能を強化することができる。
【0053】
水中の懸濁物質濃度は水処理プロセス内で連続的に計測することはできないが、その代替指標として濁度が汎用されている。濁度は、例えば上記の非特許文献5に記載の散乱光測定法、透過光測定法などで計測することができ、自動濁度計(例えば東亜ディーケーケー株式会社製の散乱光測定用光電式濁度計モデルTUF−100、透過光測定式濁度計COL−11など)を用いて容易に連続計測ができる。例えば、下水二次処理水の濁度とノロウイルス濃度とは図4に示すように極めて相関性が高いことから、ろ過水の濁度を自動濁度計を用いて連続的ないしは断続的に計測し、濁度が平常時の数値を上回った場合に酸化剤を添加すればよい。酸化剤を添加する濁度の基準値は、設置箇所ごとの実情に合わせて、ろ過が良好になされている場合の濁度計測に基づいて設定すればよい。
【0054】
酸化剤は特に限定はないが、後段の紫外線照射槽7で光化学反応によってラジカルを発生させうる化学酸化剤を用いることが好ましく、例えばオゾン、過酸化水素、塩素などの化学酸化剤を用いることができる。酸化剤注入ユニット9は、注入する酸化剤の使用方法に適した方式を採用すればよく、例えば酸化剤としてオゾンを用いる場合は、気液混合槽方式、オゾン水注入方式、イジェクター注入方式がある。
【0055】
図5は、ろ過および紫外線照射に用いるウイルス除去・分解方法において凝集剤を併用した本発明を実施する場合の概略フローシートの一例である。
【0056】
図5に示すように、被処理水貯槽1に一次貯留した被処理水2を送水ポンプ3aでろ過器4に送水して被処理水2をろ過した後に、さらに送水ポンプ3bで紫外線照射槽7に送水して紫外線を照射することによって処理水7を得る前記図1に記載の方法において、ろ過前の被処理水2に凝集剤10を添加することができる。
【0057】
凝集剤10を使用すれば、被処理水中の懸濁物質やそれよりも粒径の小さな成分を効果的に凝集、粗大化させることができ、ろ過工程でのウイルスの除去率を高めることができる。用いる凝集剤の種類は特に限定はないが、アルミ系凝集剤(ポリ塩化アルミニウムなど)、鉄系凝集剤(ポリ硫酸第二鉄、ポリ塩化第二鉄など)、高分子凝集剤(アニオン系有機凝集剤、カチオン系有機凝集剤、ノニオン系有機凝集剤など)などが挙げられる。凝集剤10は簡便には図5に例示したように被処理水貯槽1に添加し、撹拌機11によって最適な方法で撹拌混和することができるが、より高度なウイルス除去を目的とした場合には、急速撹拌および/または緩速撹拌を実施できる独立した混和槽を設置してもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。
実施例1
下水処理場の二次処理水を被処理水として、図1に示すような、精密膜ろ過器および紫外線照射槽を用いてウイルス除去及び分解性能を調べた。精密膜ろ過は公称孔径1μmのろ過膜を用い、紫外線照射槽は紫外線源として低圧水銀蒸気放電灯を用いた。被処理水を、精密膜ろ過し、その後に紫外線照射した処理水について懸濁物質濃度、腸管系病原ウイルスの代替指標として汎用されている大腸菌ファージを測定した。
【0059】
なお、比較例1として、被処理水を膜ろ過のみ行った場合、紫外線照射のみ行った場合の水試料についても同様の項目を測定した。
【0060】
大腸菌ファージは、下記の非特許文献2にウイルスの代替指標の有意性が記されており、本実施例においては活性の有る大腸菌ファージ濃度を前記した非特許文献1に記載の方法で測定した。結果を以下の表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
処理前に1570cfu/mLの濃度で検出された大腸菌ファージは、ろ過およびその後の紫外線処理にて不検出となり、本発明により水中のウイルスを完全に除去・不活化することができた。
【0063】
これに対して、比較例1として示したようにろ過だけでは懸濁物質はほぼ完全に除去できるにも拘わらず、大腸菌ファージの除去率は70%程度に過ぎず、ろ過水中に440cfu/mL残存した。これは用いたろ過膜の公称孔径が大腸菌ファージの大きさよりもはるかに大きいため、懸濁物質と挙動を共にしていない遊離の形態で存在する同ファージは容易に膜面を透過し、ろ過水中に移行することを示している。また、紫外線照射だけでは大腸菌ファージの不活化率が97%となり、完全な不活化が確認されなかった。これは被処理水中の懸濁物質が紫外線照射を遮断して、殺菌効率が低下したことを示している。
【0064】
つまり、ろ過と紫外線照射とを組み合わせて処理した場合に限って、水中のウイルスを完全に除去・不活化することができた。
【0065】
実施例2
ノロウィルス濃度が異なる2種類の下水処理場の二次処理水を被処理水として、精密膜ろ過器および光触媒を搭載した紫外線照射槽を用いてウイルス除去・分解性能を調べた。精密膜ろ過は公称孔径1μmのろ過膜を用い、光触媒を搭載した紫外線照射槽は特許文献3に記載の光触媒反応容器を用いた。すなわち、紫外線照射槽の内側に二酸化チタン光触媒成膜したステンレス波箔を内張りし、当該反応容器の紫外線源として中圧水銀蒸気放電灯を用いた。
【0066】
被処理水を、精密膜ろ過し、その後に光触媒反応容器に通水して紫外線照射した処理水について懸濁物質濃度、ノロウイルスを測定した。
【0067】
なお、比較例2として、1)被処理水を膜ろ過のみ行った場合、2)被処理水を膜ろ過せずに光触媒反応容器に通水して紫外線照射した場合の水試料についても同様の項目を2種類の被処理水共に測定した。ノロウイルスは、非特許文献3に記載の方法に準拠し、リアルタイムRT−PCR法でノロウイルス濃度を測定した。なお、別途実施したノロウイルスの含有濃度が既知の標準試料(米国Ambion RNA Diagnostics社製Armored RNA Norwalk Virus Genogroup II)に関するリアルタイムRT−PCRによって作成した検量線に基づいてノロウイルスの絶対濃度を算出した。処理前の被処理水のノロウィルス濃度が高い場合を実施例2aとして結果を以下の表2に示し、そして濃度が低い場合を実施例2bとして結果を以下の表3に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
実施例2a、2b共に、処理前に検出されたノロウイルスは、ろ過およびその後の光触媒/紫外線処理にてほぼ不検出となり、本発明により水中のウイルスを完全に除去及び分解することができた。
【0071】
これに対して、比較例2a、2bとして示したようにろ過だけでは懸濁物質はほぼ完全に除去できるにも拘わらず、ノロウイルスの除去率は80%程度に過ぎず、ろ過水中に2割程度が残存した。これは用いたろ過膜の公称孔径がノロウイルスの大きさよりもはるかに大きいため、懸濁物質と挙動を共にしていない遊離の形態で存在する同ウイルスは容易に膜面を透過し、ろ過水中に移行することを示している。また、光触媒/紫外線照射だけではノロウイルスの分解率は9割となり、1割程度が残存した。
【0072】
本実施例2aで処理後のノロウイルスが不検出となったのは、ろ過によって被処理水中のノロウイルスの絶対濃度が低減したことにより、後段の光触媒/紫外線処理の効果が増進したことが考えられる。
【0073】
しかしながら、表4に示すように、実施例2bで処理前のノロウイルス濃度が150個/Lと、実施例2aのろ過後のノロウィルス濃度と同程度の被処理水を処理した場合であっても、実施例2bでは不検出であったのに対して、比較例2bの光触媒/紫外線処理のみでは50個/Lが残存したことから、本発明の処理性能は、単にろ過によるノロウイルス絶対濃度の低減による光触媒/紫外線処理の効果増進のみではないことが判り、効果としてはそれ以上の分解性能を達成できる。
【0074】
これは被処理水中の懸濁物質が紫外線照射を遮断して光触媒へ到達する紫外線光量を低下させてOHラジカルの発生が抑制され、その結果として分解効率が低下するメカニズムによるものと考えられる。
【0075】
したがって、ろ過にて紫外線透過の妨害物質を除去すれば光触媒/紫外線処理の効果を飛躍的に高めることが可能であり、つまり、ろ過と光触媒/紫外線照射とを組み合わせて処理した場合に限って、水中のウイルスを完全に除去及び分解することができる。
【0076】
実施例3
海水を被処理水として、砂ろ過器および光触媒を搭載した紫外線照射槽を用いてウイルス除去及び分解性能を調べた。砂ろ過器は下層から4〜8mm径の砂利、2〜4mm径の砂利、0.6mm径の砂をそれぞれ30cm厚で積層したろ床を下向流する方式を用いた。光触媒を搭載した紫外線照射槽は前記特許文献3に記載の光触媒反応容器を用いた。すなわち、紫外線照射槽の内側に二酸化チタン光触媒成膜したステンレス波箔を内張りし、当該反応容器の紫外線源として中圧水銀蒸気放電灯を用いた。
【0077】
被処理水を、砂ろ過し、その後に光触媒反応容器に通水して紫外線照射した処理水について懸濁物質濃度、ノロウイルスを測定した。
【0078】
なお、比較例3として、被処理水を砂ろ過のみ行った場合、光触媒反応容器に通水して紫外線照射した場合の水試料についても同様の項目を測定した。
【0079】
ノロウイルスは、非特許文献4に記載の方法で被験試料から濃縮・回収し、前記した非特許文献3に記載の方法に準拠し、リアルタイムRT−PCR法でノロウイルス濃度を測定した。なお、ノロウイルスの含有濃度が既知の標準試料(米国Ambion RNA Diagnostics社製Armored RNA Norwalk Virus Genogroup II)に関するリアルタイムRT−PCRによって作成した検量線に基づいてノロウイルスの絶対濃度を算出した。結果を以下の表4に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
実施例3では、処理前に検出されたノロウイルスは、ろ過およびその後の光触媒/紫外線処理にてほぼ不検出となり、本発明により水中のウイルスを完全に除去・分解することができた。
【0082】
これに対して、比較例3として示したようにろ過のみで懸濁物質はほぼ除去できるにも拘わらず、ノロウイルスの除去率は95%程度に過ぎず、ろ過水中に5%程度が残存した。
【0083】
これは海水中の懸濁物質と挙動を共にしているノロウイルスは砂ろ過で除去できるが、懸濁物質と挙動を共にしていない遊離の形態でもノロウイルスが海水中に存在し、これは容易にろ床を通過し、ろ過水中に移行することを示している。また、光触媒/紫外線照射だけではノロウイルスの分解率は9割となり、1割程度が残存した。これは被処理水中の被処理水中の懸濁物質に包含されたノロウイルスがラジカルの暴露から逃れて分解されなかったものと考えられる。
【0084】
つまり、ろ過と光触媒/紫外線照射とを組み合わせて処理した場合に限って、水中のウイルスを完全に除去・分解することができた。
【0085】
実施例4
懸濁物質濃度が1mg/L未満から8000mg/Lの範囲となるように、下水処理場の二次処理水と曝気槽活性汚泥との混合液を被処理水として、精密膜ろ過器および光触媒を搭載した紫外線照射槽を用いてウイルス除去・分解性能を調べた。ろ過膜は公称孔径10μmのセラミックス製円筒膜を用いた。また、光触媒を搭載した紫外線照射槽は特許文献3に記載の光触媒反応容器を用いた。すなわち、紫外照射槽の内側に二酸化チタン光触媒成膜したステンレス波箔を内張りし、当該反応容器の紫外線源として中圧水銀蒸気放電灯を用いた。
【0086】
被処理水を、精密膜ろ過し、その後に光触媒反応容器に通水して紫外線照射した処理水についてノロウイルス濃度を測定した。
【0087】
なお、比較例4として、1)被処理水を膜ろ過せずに光触媒反応容器に通水して紫外線照射した場合、2)被処理水を前記公称孔径10μmのセラミックス膜にてろ過のみを行った場合、3)被処理水を公称孔径0.4μmの有機高分子膜にてろ過のみを行った場合、4)被処理水を公称孔径0.01μmの有機高分子膜にてろ過のみを行った場合についてもノロウイルス濃度を測定した。
【0088】
ノロウイルスは、非特許文献3に記載の方法に準拠し、リアルタイムRT−PCR法でノロウイルス濃度を測定した。なお、ノロウイルスの含有濃度が既知の標準試料(米国Ambion RNA Diagnostics社製Armored RNA Norwalk Virus Genogroup II)に関するリアルタイムRT−PCRによって作成した検量線に基づいてノロウイルスの絶対濃度を算出した。結果を以下の表5に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
被処理水の懸濁物質濃度が1mg/L未満では、ろ過なしの比較例4aと比べてウイルス除去効果に大差がなくいずれの場合も不検出となった。被処理水の懸濁物質濃度が1mg/L以上、特に3mg/L以上ではろ過なしの比較例4aに比べ、実施例4では著明なウイルス除去効果が確認できた。つまり、公称孔径10μmのろ過膜を用いた場合であっても本願発明は、課題を解決できる。
【0091】
被処理水の懸濁物質濃度が高まると比較例4cおよび4dのように孔径1μm未満の膜ろ過のみで実施例4と大差ない著明なウイルス除去効果が得られる。これは、水中の懸濁物質濃度が高い場合、大部分のウイルスは懸濁物質に吸着または懸濁物質中に包含されているため、ろ過だけで大部分のウイルスが除去されるからである。
【0092】
しかしながら、以下の表6に示すように、公称孔径が小さい比較例4cおよび4dにおいては実施例4に比べてろ過速度が大幅に小さく、生産性の点で本願発明の優位性は明らかである。但し、被処理水中の懸濁物質濃度が2500mg/Lを超えた場合においては、本願発明におけるろ過速度も急速に低下し、比較例4cとの格差が減じることから、本願発明の好ましい適用範囲は2500mg/L以下と結論される。更には、500mg/L以下であれば、更にろ過速度が向上することからより好ましい。
【0093】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】ろ過および紫外線照射を用いるウイルス除去及び分解方法を実施する装置の一例を示す概略フローシートである。
【図2】浸漬型ろ過および紫外線照射を用いるウイルス除去及び分解方法を実施する装置の一例を示す概略フローシートである。
【図3】ろ過および紫外線照射を用いるウイルス除去及び分解方法において化学酸化剤を併用する装置の一例を示す概略フローシートである。
【図4】下水二次処理水の濁度とノロウイルス濃度の相関性を示す図である。
【図5】ろ過および紫外線照射を用いるウイルス除去及び分解方法においてろ過前に凝集剤を併用する装置の一例を示す概略フローシートである。
【符号の説明】
【0095】
1 被処理水貯槽
2 被処理水
3a〜c 送水ポンプ
4 ろ過器
5 紫外線照射槽
6 紫外線ランプ
7 処理水
8 浸漬型ろ過器
9 酸化剤注入ユニット
10 凝集剤
11 撹拌機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁物質を有する水中に含まれるウイルスを除去及び分解する方法であって、当該水をろ過して当該懸濁物質を除去した後、得られたろ過水に紫外線を照射することを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記ウイルスが大腸菌ファージであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
懸濁物質を有する水中に含まれるウイルスを除去及び分解する方法であって、当該水をろ過して当該懸濁物質を除去した後、得られたろ過水を、光触媒を装着した紫外線照射反応容器内に通し、当該ろ過水及び当該光触媒に、紫外線を照射することを特徴とする前記方法。
【請求項4】
前記ウイルスがノロウイルスであることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記水中の懸濁物質の濃度が1〜2500mg/Lであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水中の懸濁物質の濃度が3〜500mg/Lであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ろ過が、砂ろ過又は孔径0.1〜10μmの膜ろ過であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記紫外線を照射する光源が、水銀蒸気放電灯であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ろ過水の濁度を連続的又は断続的に測定し、得られた測定値の変化に基づいて前記紫外線照射の前に、過酸化水素、オゾン、及び塩素剤から選ばれる1種又は2種以上の酸化剤を前記ろ過水に予め投入することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記懸濁物質を有する水に凝集剤を添加した後に、これをろ過することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−160165(P2007−160165A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357349(P2005−357349)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】