説明

水中ホウフッ化物除去剤及び水中ホウフッ化物の処理方法

【課題】ホウフッ化物含有水中から1段階の処理で簡便かつ効率的にホウフッ化物を除去することができ、かつ、水中ホウフッ化物除去率の高い優れた水中ホウフッ化物除去剤及びホウフッ化物除去後の処理液から簡便かつ効率的にホウフッ化物を回収可能な水中ホウフッ化物の処理方法の提供。
【解決手段】マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、ハイドロタルサイトの焼成物、及びマグネシウムアルミネートの少なくともいずれかを含有し、ホウフッ化物含有水中からホウフッ化物を除去することを特徴とする水中ホウフッ化物除去剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウフッ化物含有水中のホウフッ化物を除去する水中ホウフッ化物除去剤及び水中ホウフッ化物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウフッ化物は、金属表面処理やメッキ用電解浴、有機合成の触媒などに利用され、これらの工程から生じる廃水は、ホウフッ化物を含有している。また、ホウ素及びフッ素は、ガラス工業をはじめ、医薬品、化粧品、染料などの原料、石鹸工業、合金や半導体材料の成分、電気メッキなどの種々の工業用途で利用され、これらの製造工程などから生じる廃水は、ホウ素及びフッ素を含有している。また、発電所から発生する廃水やゴミ焼却場における洗煙廃水、埋立処分場浸出廃水などにもホウ素及びフッ素が含まれることが多い。また温泉を営む旅館業の廃水中にもホウ素及びフッ素が含まれることがある。このようにホウ素及びフッ素は種々の廃水に含有されている。
【0003】
ホウ素及びフッ素は動物や植物にとって必須微量元素であるが、過剰の摂取は植物の成長阻害、動物の生殖阻害毒性、神経及び消化器系の障害などが懸念される。そこで、2001年に水質汚濁防止法施行令の一部が改正され、河川、湖沼など海域以外の公共用水域におけるホウ素及びその化合物の排水基準が10mg/L以下、フッ素の排水基準が8mg/L以下に定められた。そのため廃水中のホウ素濃度及びフッ素濃度を前記排水基準以下に低減する必要がある。
【0004】
ホウ素及びフッ素が同一の廃水中に混在する場合に酸性にすると、難分解性のホウフッ化物が生成する。一般に廃水中からホウ素及びフッ素をそれぞれ除去する方法としては、凝集沈殿法、イオン吸着法、溶媒抽出法、蒸発濃縮法、逆浸透膜法などが知られているが、ホウフッ化物は、ホウ素とフッ素とが強力に結合した非常に安定な物質であるため、従来のホウ素やフッ素の処理方法では除去性能が低く、ホウフッ化物が残存する点で問題である。
【0005】
このように廃水中から除去することが困難であるホウフッ化物を除去する方法としては、ホウフッ化物を含む廃水にカルシウム塩又はアルミニウム塩を添加し、酸性条件下でフッ化カルシウム又はフッ化アルミニウムとホウ酸とに分解後、生成したフッ素をカルシウム塩又はアルミニウム塩として除去する方法が知られている(特許文献1〜3参照)。
しかし、この方法は反応速度が遅く、また分解工程及び除去工程の2段階の工程を経なければ除去できないため、処理時間が長くなる点で問題である。
【0006】
また、廃水中からホウフッ化物を除去する別の方法として、塩基性アニオン交換樹脂により、フルオロホウ酸イオンを交換除去する方法が知られている(特許文献4参照)が、この方法は除去性能が低い点や処理コストが高く除去後のキレート樹脂からフルオロホウ酸イオン回収が困難である点で問題である。
【0007】
したがって、ホウフッ化物含有水中から1段階の処理で簡便かつ効率的にホウフッ化物を除去することができ、かつ、ホウフッ化物除去率の高い優れた水中ホウフッ化物除去剤、及びホウフッ化物除去後の処理液から簡便かつ効率的にホウフッ化物を回収可能な水中ホウフッ化物の処理方法の開発が、未だ望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−16577号公報
【特許文献2】特許第2912934号公報
【特許文献3】特許第3229277号公報
【特許文献4】特許第3976219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ホウフッ化物含有水中から1段階の処理で簡便かつ効率的にホウフッ化物を除去することができ、かつ、ホウフッ化物除去率の高い優れた水中ホウフッ化物除去剤及びホウフッ化物除去後の処理液から簡便かつ効率的にホウフッ化物を回収可能な水中ホウフッ化物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、ハイドロタルサイトの焼成物、及びマグネシウムアルミネートの少なくともいずれかを含有する水中ホウフッ化物除去剤は、水中ホウフッ化物除去率が非常に高いこと、前記水中ホウフッ化物除去剤を用いることにより、ホウフッ化物含有水中のホウフッ化物を、分解工程を経ることなく1段階の処理で簡便かつ効率的に除去できること、前記ホウフッ化物除去後の処理液にアニオン性高分子凝集剤を添加することにより前記処理液から簡便かつ効率的にホウフッ化物を回収可能であることを見出し本発明の完成に至った。
【0011】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、ハイドロタルサイトの焼成物、及びマグネシウムアルミネートの少なくともいずれかを含有し、ホウフッ化物含有水中からホウフッ化物を除去することを特徴とする水中ホウフッ化物除去剤である。
<2> ホウフッ化物含有水に前記<1>に記載の水中ホウフッ化物除去剤を添加してホウフッ化物を除去する除去工程と、該除去工程の処理液にアニオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理する凝集工程と、該凝集工程の処理液の固液分離を行う分離工程と、を含むことを特徴とする水中ホウフッ化物の処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ホウフッ化物含有水中から1段階の処理で簡便かつ効率的にホウフッ化物を除去することができ、かつ、ホウフッ化物除去率の高い優れた水中ホウフッ化物除去剤及びホウフッ化物除去後の処理液から簡便かつ効率的にホウフッ化物を回収可能な水中ホウフッ化物の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(水中ホウフッ化物除去剤)
本発明の水中ホウフッ化物除去剤は、マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、ハイドロタルサイトの焼成物、及びマグネシウムアルミネートの少なくともいずれかを含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含む。
【0014】
<マグネシウムアルミネート>
前記マグネシウムアルミネートとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物の少なくともいずれかであることが好ましい。
Mg1−xAl1+0.5x ・・・一般式(1)
(1−x)MgO・0.5xAl ・・・一般式(2)
前記一般式(1)及び前記一般式(2)中、「x」は0<x<1の範囲を満足する数である。また、「x」は0.1≦x<0.5を満足する数が好ましく、0.1≦x<0.4を満足する数がより好ましく、0.1≦x<0.3を満足する数が更に好ましい。
【0015】
前記一般式(1)及び前記一般式(2)の少なくともいずれかを満たすマグネシウムアルミネートとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Mg0.7Al0.31.15、Mg0.333Al0.6671.333などが挙げられる。
【0016】
<<入手方法>>
前記マグネシウムアルミネートの入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販品より入手する方法、合成により入手する方法などが挙げられる。
【0017】
<マグネシウムアルミネート水和物>
前記マグネシウムアルミネート水和物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記一般式(3)で表される化合物及び下記一般式(4)で表される化合物の少なくともいずれかであることが好ましい。
Mg1−xAl1+0.5x・mHO ・・・一般式(3)
(1−x)MgO・0.5xAl・mHO ・・・一般式(4)
前記一般式(3)及び前記一般式(4)中、「x」は0<x<1の範囲を満足する数である。「x」は0.1≦x<0.5を満足する数が好ましく、0.1≦x<0.4を満足する数がより好ましく、0.1≦x<0.3を満足する数が更に好ましい。「m」は正の数である。
【0018】
前記一般式(3)及び前記一般式(4)の少なくともいずれかを満たすマグネシウムアルミネート水和物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Mg0.556Al0.4441.222・mHO(協和化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0019】
<<入手方法>>
前記マグネシウムアルミネート水和物の入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販品より入手する方法、合成により入手する方法などが挙げられる。前記マグネシウムアルミネート水和物を焼成することにより、前記マグネシウムアルミネート水和物の焼成物を得ることができる。
【0020】
<<焼成温度>>
前記マグネシウムアルミネート水和物を焼成する温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、400℃〜900℃が好ましく、400℃〜700℃がより好ましい。前記焼成する温度が400℃未満であると、ホウフッ化物除去率が低下する。これは、水和水の脱水が不十分となるためと考えられる。前記焼成する温度が900℃を超えても、ホウフッ化物除去率が低下することがある。これは、生成物の分解が起こるだけでなく、生成物の融点に近づくと粒子同士が融着するためと考えられる。
【0021】
<<焼成時間>>
前記マグネシウムアルミネート水和物を焼成する時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記焼成温度の保持時間が、10分間以上が好ましく、15分間以上がより好ましく、30分間以上が更に好ましい。
【0022】
<ハイドロタルサイトの焼成物>
前記ハイドロタルサイトとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記一般式(5)で表される化合物であることが好ましい。
Mg1−xAl(OH)αn−x/n・mHO ・・・一般式(5)
前記一般式(5)中、「αn−」はOH-、SO2−、CO2−、Cl、NO、CHCOOなどのn価のアニオンを示す。「x」は0<x<1の範囲を満足する数である。「x」は0.1≦x<0.5を満足する数が好ましく、0.1≦x<0.4を満足する数がより好ましく、0.1≦x<0.3を満足する数が更に好ましい。「m」は正の数である。
【0023】
前記一般式(5)を満たすハイドロタルサイトとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Mg0.692Al0.308(OH)(CO0.154・0.538HO、Mg0.75Al0.25(OH)(CO0.125・0.5HO、Mg0.667Al0.333(OH)(CO0.167・0.5HOなどが挙げられる。
【0024】
<<入手方法>>
前記ハイドロタルサイトの入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販品より入手する方法、合成により入手する方法などが挙げられる。前記ハイドロタルサイトを焼成することにより、前記ハイドロタルサイトの焼成物を得ることができる。
【0025】
<<焼成温度>>
前記ハイドロタルサイトを焼成する温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、400℃〜900℃が好ましく、400℃〜700℃がより好ましい。前記焼成する温度が400℃未満であると、ホウフッ化物除去率が低下する。これは、水和水の脱水や、層間水、炭酸根、水酸基などの脱離が不十分となるためと考えられる。前記焼成する温度が900℃を超えても、ホウフッ化物除去率が低下することがある。これは、生成物の分解が起こるだけでなく、生成物の融点に近づくと粒子同士が融着するためと考えられる。
【0026】
<<焼成時間>>
前記ハイドロタルサイトを焼成する時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記焼成温度の保持時間が、10分間以上が好ましく、15分間以上がより好ましく、30分間以上が更に好ましい。
【0027】
<含有量及び配合比率>
前記水中ホウフッ化物除去剤中の前記マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、前記ハイドロタルサイトの焼成物、及び前記マグネシウムアルミネートの少なくともいずれかの含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記水中ホウフッ化物除去剤は、記マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、前記ハイドロタルサイトの焼成物、及び前記マグネシウムアルミネートの少なくともいずれかそのものであってもよい。
前記水中ホウフッ化物除去剤中の前記マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、前記ハイドロタルサイトの焼成物、及び前記マグネシウムアルミネートの配合比率としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
<その他の成分>
前記水中ホウフッ化物除去剤中のその他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホウフッ化物含有水のpH調整を目的とした酸やアルカリなどが挙げられる。
前記酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。
前記アルカリとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0029】
<剤型>
前記水中ホウフッ化物除去剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塊状、粒状、粉状などが挙げられる。
前記粒状及び前記粉状の前記水中ホウフッ化物除去剤の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、前記ハイドロタルサイトの焼成物、及び前記マグネシウムアルミネートの少なくともいずれか、更に必要に応じて、前記その他の成分を、粉砕することにより製造することができる。
前記粉砕する方法としては、特に制限はなく、公知の装置を用いて行うことができ、前記マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、前記ハイドロタルサイトの焼成物、及び前記マグネシウムアルミネートの少なくともいずれか、更に必要に応じて、前記その他の成分を、混合する前に粉砕してもよいし、混合した後に粉砕してもよい。
【0030】
<添加方法>
前記水中ホウフッ化物除去剤をホウフッ化物含有水に添加する方法としては、特に制限はなく、前記水中ホウフッ化物除去剤の剤型などに応じて適宜選択することができ、前記マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、前記ハイドロタルサイトの焼成物、及び前記マグネシウムアルミネートの少なくともいずれか、更に必要に応じて、前記その他の成分を、前記ホウフッ化物含有水中に一度に添加する方法でもよいし、前記マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、前記ハイドロタルサイトの焼成物、及び前記マグネシウムアルミネートの少なくともいずれか、更に必要に応じて、前記その他の成分を、前記ホウフッ化物含有水中に別々に添加する方法でもよい。
【0031】
<製造方法>
前記水中ホウフッ化物除去剤の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、前記ハイドロタルサイトの焼成物、及び前記マグネシウムアルミネートの少なくともいずれか、更に必要に応じて、前記その他の成分を混合し、所望の剤型に応じて、常法により製造することができる。
【0032】
<水中ホウフッ化物除去率>
前記水中ホウフッ化物除去剤が、ホウフッ化物含有水中のホウフッ化物を除去したか否かを測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ホウフッ化物含有水に前記水中ホウフッ化物除去剤を添加し、一定時間攪拌した後処理液をろ過し、硫酸水溶液で中和した後メチレンブルー水溶液を加え、生成したイオン会合体をクロロホルムにより抽出し、その抽出液の吸光度を測定することによりホウフッ化物濃度を測定する方法などが挙げられる。
前記水中ホウフッ化除去率は、下記計算式(1)により算出することができる。
水中ホウフッ化物除去率(%)=(1−C/C)×100 ・・・計算式(1)
前記計算式(1)中、「C」は処理後のホウフッ化物濃度(mg/L)を示し、「C」は処理前の初期ホウフッ化物濃度(mg/L)を示す。
【0033】
前記水中ホウフッ化物除去率としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましい。
【0034】
<使用>
前記水中ホウフッ化物除去剤は、1種単独で使用されてもよいし、2種以上を併用してもよく、他の成分を有効成分とする薬剤と併用してもよい。また、前記水中ホウフッ化物除去剤は、他の成分を有効成分とする薬剤中に、配合された状態であってもよい。
【0035】
<用途>
前記水中ホウフッ化物除去剤は、ホウフッ化物含有水中から1段階の処理で簡便かつ効率的にホウフッ化物を除去することができ、かつ、ホウフッ化物除去率が高いため、廃水中のホウフッ化物の除去に好適に用いることができる。
【0036】
(水中ホウフッ化物の処理方法)
本発明の水中ホウフッ化物の処理方法は、ホウフッ化物含有水に前記水中ホウフッ化物除去剤を添加してホウフッ化物を除去する除去工程と、該除去工程の処理液にアニオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理する凝集工程と、該凝集工程の処理液の固液分離を行う分離工程と、を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の処理を含む。
【0037】
<除去工程>
前記除去工程は、ホウフッ化物含有水に前記水中ホウフッ化物除去剤を添加してホウフッ化物を除去する工程である。
ホウフッ化物含有水からホウフッ化物を除去する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ホウフッ化物含有水に前述した水中ホウフッ化物除去剤を添加し、攪拌することにより除去する方法が、操作が簡便である点で好ましい。
前記水中ホウフッ化物除去剤の添加量としては、ホウフッ化物を除去できれば、特に制限はなく、前記水中ホウフッ化物除去剤の剤型などに応じて適宜選択することができるが、ホウフッ化物の質量の、1倍〜500倍が好ましく、10倍〜300倍がより好ましい。
前記攪拌の温度及び時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ホウフッ化物含有水からホウフッ化物を除去する際の、前記ホウフッ化物含有水のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pH2以上が好ましく、pH4以上がより好ましい。前記pHが2未満であると前記水中ホウフッ化物除去剤中のマグネシウムアルミネート水和物の焼成物、ハイドロタルサイトの焼成物、及びマグネシウムアルミネートの少なくともいずれかが分解してしまい、除去率が低下することがある。
【0038】
<凝集工程>
前記凝集工程は、前記除去工程の処理液にアニオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理する工程である。
前記凝集処理を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記除去工程の処理液にアニオン性高分子凝集剤を添加し攪拌する方法などが挙げられる。
前記アニオン性高分子凝集剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ダイヤフロックAP350M(アクリル酸系、分子量約500万、ダイヤニトリックス株式会社製)、アロンビスMS(アクリル酸系、分子量約300万、日本純薬株式会社製)、ダイヤフロックAP825B(アクリルアマイド・アクリル酸系、分子量約1,600万、ダイヤニトリックス株式会社製)などが挙げられる。
前記攪拌の温度及び時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
<分離工程>
前記分離工程は、前記凝集工程の処理液の固液分離を行う工程である。
前記固液分離を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記凝集工程で得られた処理液を静置する方法などが挙げられる。
前記静置する温度及び時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
<凝集性の評価>
前記分離工程により得られた処理液中に存在する、ホウフッ化物が結合した前記水中ホウフッ化物除去剤の凝集性を評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記処理液の上澄みの濁度により評価する方法などが挙げられる。
前記濁度を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Water Analyzer 2000N(日本電色工業株式会社製)を用い、積分球式光電光度法により測定する方法などが挙げられる。
【0041】
前記濁度としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20度以下が好ましく、10度以下がより好ましい。
【0042】
<用途>
前記水中ホウフッ化物の処理方法は、簡単な装置及び操作により1段階の処理で効率良くホウフッ化物を除去することができ、更にホウフッ化物除去後の処理液から簡便かつ効率的にホウフッ化物を回収可能であるため、廃水中のホウフッ化物の除去に好適に用いることができる。
従来のホウフッ化物の除去は、ホウフッ化物をホウ酸とフッ素とに分解した後、生成したフッ素を除去するといった2段階で行われていたが、本発明の水中ホウフッ化物の処理方法は、ホウフッ化物を1段階で除去できる点で有利である。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(水中ホウフッ化物除去剤の検討)
<実施例1〜4、比較例1〜3>
下記表1に示す成分(成分B−1、成分B−2、及び成分B−3)約8gをそれぞれ磁製るつぼ(容量100mL)に取り、電気炉(ヤマト科学株式会社製、FP41)を用いて、下記表2〜3の「水中ホウフッ化物除去剤の調製方法」に示した焼成温度及び焼成時間に従い焼成することにより、実施例2〜4の水中ホウフッ化物除去剤をそれぞれ製造した。実施例1〜4及び比較例1〜3の水中ホウフッ化物除去剤を用い、下記表2〜3の「水中ホウフッ化物除去処理の条件」に従いホウフッ化物含有水を処理した後、後述する方法により水中ホウフッ化物除去率を測定した。
なお、下記表2〜3に示す、「焼成後重量減少率(%)」は、焼成前の重量と、焼成後の重量とを比較し、下記計算式(2)より算出した。
焼成後質量減少率(%)=(焼成前の質量−焼成後の質量)/焼成前の質量×100 ・・・計算式(2)
【0045】
【表1】

【0046】
<<水中ホウフッ化物除去率の測定>>
−測定方法−
ホウフッ化物の濃度が100mg/Lであるホウフッ化物含有水500mLを1Lビーカーに入れ、実施例1〜4及び比較例1〜3の水中ホウフッ化物除去剤を、それぞれ1質量%の濃度で添加し、4cmの撹拌子を使用し、マグネティックスターラーにより、約300rpmで室温にて300分間撹拌した。この処理液を0.45μmのフィルターでろ過し、0.2mol/Lの硫酸で中和した。前記処理液15mLに0.4g/Lメチレンブルー溶液を3mL、クロロホルムを10mL加えて、ポリエチレン製分液漏斗中で1分間激しく振り混ぜ放置した。クロロホルム層を別の分液漏斗に移し、0.3g/Lの硫酸銀溶液5mLを加えて約1分間振り混ぜ、放置した。クロロホルム層の一部を吸収セルに入れ、波長660nmの吸光度を確認し、予め調製したホウフッ化物検量線を用いて処理液中のホウフッ化物濃度を測定した。吸光度測定には分光光度計(Shimadzu MultiSpec−1500、株式会社島津製作所製)を用いた。水中ホウフッ化物除去率は下記計算式(3)により算出した。
水中ホウフッ化物除去率(%)=(1−C/C)×100 ・・・計算式(3)
前記計算式(3)中、「C」は処理後のホウフッ化物濃度(mg/L)を示し、「C」は処理前の初期ホウフッ化物濃度(mg/L)を示す。
【0047】
−評価基準−
水中ホウフッ化物除去率は、100%に近い方が、ホウフッ化物除去率が高いことを示す。水中ホウフッ化物除去率が60%以上のものを水中ホウフッ化物除去剤として有効とした。水中ホウフッ化物除去率の結果は、下記表2〜3に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表3の結果より、水中ホウフッ化物除去剤としてマグネシウムアルミネート水和物(比較例1)及びハイドロタルサイト(比較例2〜3)を焼成せずに用いた場合、ホウフッ化物除去率は非常に低く、水中のホウフッ化物を除去することができなかった。一方、表2の結果より、水中ホウフッ化物除去剤としてマグネシウムアルミネート(実施例1)、マグネシウムアルミネート水和物の焼成物(実施例2)、及びハイドロタルサイトの焼成物(実施例3〜4)を用いた場合は、水中ホウフッ化物の除去率が高く、効率よくホウフッ化物を除去できることが認められた。
【0051】
<実施例5〜9>
<<焼成温度の検討>>
マグネシウムアルミネート水和物(成分B−1)又はハイドロタルサイト(成分B−3)を用い、下記表4〜5の「水中ホウフッ化物除去剤の調製方法」に従い焼成することにより、実施例5〜9の水中ホウフッ化物除去剤(成分A−2及び成分A−4)をそれぞれ製造した。ホウフッ化物除去剤として、実施例2及び実施例4〜9のホウフッ化物除去剤を用いた以外は、前述した方法と同様の方法で水中ホウフッ化物除去率を算出した。各焼成温度における水中ホウフッ化物除去率の結果は、下記表4〜5に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
表4〜5の結果より、マグネシウムアルミネート水和物又はハイドロタルサイトを400℃以上の温度で焼成することにより、良好な水中ホウフッ化物除去率を得ることができた。
【0055】
<実施例10〜17>
<<焼成時間の検討>>
マグネシウムアルミネート水和物(成分B−1)又はハイドロタルサイト(成分B−3)を用い、下記表6〜7の「水中ホウフッ化物除去剤の調製方法」に従い焼成することにより、実施例10〜17の水中ホウフッ化物除去剤(成分A−2及び成分A−4)をそれぞれ製造した。ホウフッ化物除去剤として、実施例2、4及び実施例10〜17のホウフッ化物除去剤を用いた以外は、前述した方法と同様の方法で、水中ホウフッ化物除去率を算出した。各焼成時間における水中ホウフッ化物除去率の結果は、下記表6〜7に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
表6〜7の結果より、ハイドロタルサイトを10分間以上焼成することにより、良好な水中ホウフッ化物除去率を得ることができた。また、ハイドロタルサイトの焼成時間を長くすることで更に良好な水中ホウフッ化物除去率を得ることができることが認められた。
【0059】
<実施例18〜20>
<<ホウフッ化物含有水のpHの検討>>
ホウフッ化物の濃度が100mg/Lであるホウフッ化物含有水500mLを1Lビーカーに入れ、下記表8の「水中ホウフッ化物除去剤の処理条件」に従い、1mol/L塩酸又は1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いてホウフッ化物含有水のpHを調整した。ホウフッ化物除去剤として、ハイドロタルサイトの焼成物(成分A−4)を用い、前述した方法と同様の方法で、水中ホウフッ化物除去率を算出した。各pHにおける水中ホウフッ化物除去率の結果は、表8に示す。
【0060】
【表8】

表8の結果より、ホウフッ化物含有水のpHを2以上に調整することにより、良好な水中ホウフッ化物除去率を得ることができた。また、ホウフッ化物含有水のpHを4以上にした場合、更に良好な水中ホウフッ化物除去率を得ることができた。
【0061】
<実施例21〜22>
<<水中ホウフッ化物除去剤の併用の検討>>
マグネシウムアルミネート(成分A−1)を用いた実施例1の水中ホウフッ化物除去剤、マグネシウムアルミネートの水和物の焼成物(成分A−2)を用いた実施例2の水中ホウフッ化物除去剤、及びハイドロタルサイトの焼成物(成分A−4)を用いた実施例4の水中ホウフッ化物除去剤の少なくともいずれかを、下記表9に従い併用した以外は、実施例1〜4と同様の方法で、水中ホウフッ化物除去率を算出した。結果は、下記表9に示す。
【0062】
【表9】

表9の結果より、マグネシウムアルミネート(成分A−1)及びハイドロタルサイトの焼成物(成分A−4)を併用した場合(実施例21)、並びにマグネシウムアルミネートの水和物の焼成物(成分A−2)及びハイドロタルサイトの焼成物(成分A−4)を併用した場合(実施例22)ともに、良好な水中ホウフッ化物除去率を得ることができた。
【0063】
(水中ホウフッ化物の処理方法の検討)
<実施例23〜25及び比較例4〜8>
ハイドロタルサイトの焼成物(成分A−4)を用い、水中ホウフッ化物の処理方法について検討を行った。
【0064】
<<除去工程>>
ホウフッ化物濃度が20mg/Lであるホウフッ化物含有水500mLを1Lビーカーに入れ、ハイドロタルサイトの焼成物(成分A−4)を0.25質量%の濃度で添加し、4cmの撹拌子を使用し、マグネティックスターラーにより、約300rpmで室温にて300分間撹拌した。
【0065】
<<凝集工程>>
前記除去工程で得られた処理液を、前記ホウフッ化物除去処理を行った1Lビーカーのままジャーテスター(株式会社宮本製作所製)にセットした。室温にて、4cmの撹拌子を使用しマグネティックスターラーにより120rpmで撹拌しながら下記表11〜12に示す条件に従い高分子水溶液を添加した。次いで、室温にて、4cmの撹拌子を使用しマグネティックスターラーにより120rpmで5分間撹拌後、30rpmで2分間撹拌した。なお、凝集工程で用いた凝集剤の詳細は、下記表10に示す。
【0066】
【表10】

【0067】
<<分離工程>>
前記凝集工程で得られた処理液を室温にて3分間静置後、上澄み溶液をサンプリングした。
【0068】
<<水中ホウフッ化物除去率の測定>>
水中ホウフッ化物除去率は、前述した方法と同様の方法で行った。評価基準も前述の評価基準と同様とした。
【0069】
<<凝集性の測定>>
−測定方法−
凝集性の評価は、前記上澄み溶液の濁度により行った。濁度は、Water Analyzer 2000N(日本電色工業株式会社製)を用い、積分球式光電光度法により測定した。
【0070】
−評価基準−
凝集性は、上澄み溶液の濁度の値が小さい程凝集性が良好であることを示し、20度以下のものを凝集性が良好であると判断した。
【0071】
【表11】

【0072】
【表12】

【0073】
表11〜12の結果から、アニオン性高分子凝集剤を添加した処理方法(実施例23〜25)では、ノニオン性高分子凝集剤、両イオン性高分子凝集剤、及びカチオン性高分子凝集剤を添加した処理方法(比較例4〜8)と比較すると、濁度の値が小さく凝集性が良好であることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の水中ホウフッ化物除去剤は、ホウフッ化物含有水中から1段階の処理で簡便かつ効率的にホウフッ化物を除去することができ、かつ、ホウフッ化物除去率が高いため、例えば、各種産業廃水におけるホウフッ化物除去に、好適に利用可能である。また本発明の水中ホウフッ化物の処理方法は、ホウフッ化物除去後の処理液から簡便かつ効率的にホウフッ化物を回収可能であるため、従来のホウフッ化物の処理方法と比較して有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムアルミネート水和物の焼成物、ハイドロタルサイトの焼成物、及びマグネシウムアルミネートの少なくともいずれかを含有し、ホウフッ化物含有水中からホウフッ化物を除去することを特徴とする水中ホウフッ化物除去剤。
【請求項2】
ホウフッ化物含有水に請求項1に記載の水中ホウフッ化物除去剤を添加してホウフッ化物を除去する除去工程と、
該除去工程の処理液にアニオン性高分子凝集剤を添加して凝集処理する凝集工程と、
該凝集工程の処理液の固液分離を行う分離工程と、
を含むことを特徴とする水中ホウフッ化物の処理方法。

【公開番号】特開2011−25158(P2011−25158A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173541(P2009−173541)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】