説明

水中油型乳化物の製造方法

【課題】水溶性高分子を用いたO/W乳化物の製造において、粒径制御を容易にし、生産安定性を向上させる。
【解決手段】水溶性高分子を含む水溶液と油性成分とを乳化処理して第一の乳化物を得る工程を含み、第一の乳化物を得る工程における水溶液中の水溶性高分子の濃度が、水溶性高分子を含む標準水溶液中の水溶性高分子の濃度を横軸とし標準水溶液のB型粘度計で測定される粘度を縦軸として作成した両対数グラフにおける2直線の交点での濃度よりも低い濃度であり、かつ、油性成分と、交点での濃度で水溶性高分子を含む標準水溶液との乳化処理時の温度における界面張力が、ペンダントドロップ法にて35mN/m以下である、水中油型乳化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化物の製造方法、それによって得られる水中油型乳化物、および化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化粧料について、より一層低刺激性が期待されており、そのためにいわゆる高分子乳化剤を用いた乳化技術が種々提案されている。
非特許文献1には、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体を使用する技術が、また、特許文献1には、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体と糖類を併用する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−217624号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】田村博明、「O/W型高分子乳化剤の機能と応用」、FRAGRANCE JOURNAL、1998-8, P.79-83
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、これらの高分子乳化剤は、低分子の乳化剤に比べて乳化力が相対的に小さい。このため、乳化状態の安定性を確保するために乳化組成物を高粘度にする必要があるとされていた。こうした観点から、水中油型(以下、「O/W」とも呼ぶ。)乳化物の調製にあたり、充分な粘度が発現する程度まで水相中の高分子乳化剤の濃度を高めることが一般的であった。そして、高分子が高濃度で溶解した高粘度液に剪断力を付与することにより、乳化処理がおこなわれていた。
【0006】
ところで、このような方法で乳化物を調製した場合、乳化処理した後の乳化状態は安定する一方、乳化処理中の経時的な粒径変化が大きいため、所望の乳化粒径に制御することが困難になる場合があった。また、高粘度液の剪断処理には、大掛かりな設備が必要となる。このため、乳化物を安定して生産する観点、および設備負荷の観点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、水溶性高分子を用いたO/W乳化物の製造において、粒径制御を容易にし、生産安定性を向上させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
水溶性高分子を含む水溶液と油性成分とを乳化処理して第一の乳化物を得る工程を含み、
第一の乳化物を得る前記工程における前記水溶液中の前記水溶性高分子の濃度が、前記水溶性高分子を含む標準水溶液中の前記水溶性高分子の濃度を横軸とし前記標準水溶液のB型粘度計で測定される粘度を縦軸として作成した両対数グラフにおける2直線の交点での濃度よりも低い濃度であり、かつ、
前記油性成分と、前記交点での濃度で前記水溶性高分子を含む前記標準水溶液との乳化処理時の温度における界面張力が、ペンダントドロップ法にて35mN/m以下である、
水中油型乳化物の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記本発明における製造方法により得られる、水中油型乳化物が提供される。
さらに、本発明によれば、上記本発明における製造方法により得られる水中油型乳化物を含有する化粧料が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水溶性高分子を用いたO/W乳化物の製造において、粒径制御を容易にし、生産安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態における水溶性高分子の標準水溶液の粘度と濃度との関係を示す図である。
【図2】実施例における水溶性高分子の標準水溶液の粘度と濃度との関係を示す図である。
【図3】実施例における乳化開始からの経過時間と粒径との関係を示す図である。
【図4】実施例における水溶性高分子の標準水溶液の粘度と濃度との関係を示す図である。
【図5】実施例における乳化開始からの経過時間と粒径との関係を示す図である。
【図6】実施例における水溶性高分子の標準水溶液の粘度と濃度との関係を示す図である。
【図7】実施例における乳化開始からの経過時間と粒径との関係を示す図である。
【図8】実施例における水溶性高分子の標準水溶液の粘度と濃度との関係を示す図である。
【図9】実施例における乳化開始からの経過時間と粒径との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における水中油型乳化物の製造方法は、特定の水溶性高分子を高分子乳化剤として用いるものである。
この製造方法は、水溶性高分子を含む水溶液と油性成分とを乳化処理して第一の乳化物を得る工程を含む。
第一の乳化物を得る工程においては、水溶性高分子の標準水溶液の粘度と水溶性高分子濃度の両対数グラフにおける2直線の交点よりも水溶性高分子の濃度が低い領域、すなわち一般的には、水溶性高分子の非会合領域と考えられる濃度において、水溶液および油性成分を乳化処理する。
【0013】
ここで、上記両対数グラフにおける2直線の交点は、一般的に、水溶性高分子の会合開始濃度に対応する。また、2直線の交点すなわち会合開始濃度よりも低濃度側において、水溶性高分子は非会合状態にあり、会合開始濃度よりも高濃度側においては、水溶性高分子は会合状態にあると考えられる。
上記会合開始濃度は、予め乳化処理する工程で用いられる水溶性高分子材料を含む標準水溶液について、粘度を縦軸とし濃度を横軸とする両対数グラフを取得することにより、実験的に決定される。ここで、標準水溶液とは、会合開始濃度または界面張力を求める際に用いられる水溶液であり、第一の乳化物を得る工程で用いられる水溶性高分子を含む。図1は、水溶性高分子の標準水溶液の粘度と濃度との関係を示す両対数グラフの例である。図1のように、水溶性高分子の標準水溶液粘度と標準水溶液中の水溶性高分子の濃度とを両対数でプロットすると、2直線で表される。この2直線の交点における高分子濃度が会合開始濃度と考えられる。また、会合開始濃度より低濃度の領域を非会合領域、会合開始濃度より高濃度の領域を会合領域と決められる。
会合開始濃度の決定は、第一の乳化物を得る工程に先立ち、第一の乳化物を得る工程で用いる水溶性高分子の標準水溶液について会合開始濃度を求めておいてもよい。この場合、第一の乳化物を得る工程において、事前に取得した会合開始濃度に基づき水溶性高分子の濃度を設定することができる。一度、上記の2直線の交点を求めておけば、同じ乳化処理条件においては、その情報を会合開始濃度の決定に利用できる。つまり、予め2直線の交点を再度取得して会合開始濃度を求める必要はない。
【0014】
また、本発明において、第一の乳化物を得る工程で用いられる水溶性高分子を含む標準水溶液の粘度は、内径35mmのガラス容器に試料を入れ、B型粘度計(たとえば、東機産業社製VISCOMETER TV−10M)を用いて回転速度60rpm、保持時間60sの条件で測定した値を用いる。
粘度測定時の温度は、第一の乳化物を得る工程における条件に準じたものとする。また、pHにより高分子水溶液の粘度が変化する場合は、標準水溶液のpHを乳化処理する工程における値に調整した後に、測定をおこなう。これにより、粒径制御を容易にし、生産安定性を向上させる効果をさらに確実に得ることができる。
【0015】
本発明においては、水溶性高分子濃度が低い非会合領域において乳化処理して第一の乳化物(第一のO/W乳化物)を得る。このため、高粘度の液体を乳化処理する方法に比べて、乳化処理時の粒径制御性を向上させることができる。
【0016】
本発明においては、水溶性高分子として特定の材料を選択して用いる。すなわち、水溶性高分子として、上記会合開始濃度における標準水溶液と油性成分の界面張力が、ペンダントドロップ法にて35mN/m以下である材料を用いる。高分子の会合開始濃度における高分子標準水溶液と油相を構成する油性成分との界面張力が上記特定の値以下の材料を用いることにより、高分子乳化剤を用いる場合にも、乳化工程において充分な乳化力が得られるため、乳化物の調製を確実におこなうことができる。
第一の乳化物をより安定的に調製する観点からは、会合開始濃度における標準水溶液と油性成分の界面張力を、ペンダントドロップ法にて35mN/m以下、好ましくは33mN/m以下、さらに好ましくは32mN/m以下とする。また、界面張力の下限に特に制限はないが、一般的に入手できる高分子と油性成分の組み合わせの容易性から、たとえば10mN/m以上とする。
【0017】
なお、本発明においては、高分子水溶液を含む標準水溶液と油相を構成する油性成分との界面張力は、Tracker界面粘弾性測定装置を用いて、ペンダントドロップ法により測定し、乳化処理時の温度における測定開始5分から10分の間の平均値を用いる。
【0018】
本発明に用いることができる水溶性高分子は、具体的には、上述した会合開始濃度を有し、該会合開始濃度における標準水溶液と油相の界面張力が35mN/m以下である水溶性高分子である。水溶性高分子として、具体的には、化粧品に配合することができる材料が挙げられる。こうした材料として、たとえば、植物系高分子、微生物系高分子、動物系高分子、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系高分子、アルギン酸系高分子、ビニル系高分子、ポリオキシエチレン系高分子、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体系高分子、アクリル系高分子、無機系水溶性高分子などが挙げられる。中でもセルロース系高分子が望ましい。第一の乳化物を得る工程において、1種類の水溶性高分子を用いてもよいし、2種類以上の水溶性高分子を組み合わせて用いてもよい。
第一の乳化物を得る工程での乳化処理における粒径制御性の観点からは、より大きな効果が期待できるヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルステアリルエーテルヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウムのうち1種以上を用いることが好ましい。
【0019】
水溶性高分子の質量平均分子量は、皮膚に対する刺激性、および乳化性能の観点からは、たとえば5×103〜3×106、好ましくは1×104〜2×106である。なお、質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で測定される。
【0020】
また、油性成分としては、通常化粧料に使用される、揮発性、不揮発性のいずれでもよく、常温での形態として固体状、ペースト状、液体状のいずれでもよい。液状油としては、たとえばホホバ油、オリーブ油などの植物油;
液状ラノリンなどの動物油;
流動パラフィン、スクワランなどの炭化水素油;
リンゴ酸ジイソステアリル、乳酸オクチルドデシル、イソノナン酸イソトリデシル、イソステアリン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシルなどの脂肪酸エステル;
ジカプリン酸ネオペンチルグリコールなどの脂肪酸とアルコールからなるエステル油;
グリセリン誘導体、アミノ酸誘導体などのエステル油;
ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサンなどのシリコーン油;
フルオロポリエーテル、パーフルオロアルキルエーテルシリコーンなどのフッ素油などが挙げられる。
【0021】
固体またはペースト状の油性成分としては、たとえば、スフィンゴシンおよびその誘導体、セラミド類、セラミド類似構造物質(具体的には、N−(3−ヘキサデシロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N−2−ヒドロキシエチルヘキサデカアミド)、コレステロールおよびその誘導体;
ステアリン酸、パルミチン酸などの高級脂肪酸;
ステアリルアルコール、セチルアルコールなどの高級アルコール;
ホホバワックスなどの植物油;
グリセリンモノステアリルエーテル、グリセリンモノセチルエーテルなどのアルキルグリセリルエーテル;
ワセリン、ラノリン、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、カルナウバロウ、キャンデリラロウなどのワックスに分類されるものなどが挙げられる。
本発明においては、1種類の油性成分を用いてもよいし、2種類以上の油性成分を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明においては、特定の界面張力を有する水溶性高分子と油性成分を特定の濃度領域で用いて乳化処理をおこなうことにより、乳化処理工程での乳化物の粒径を容易に制御し、乳化物の生産安定性を向上させることができる。
このため、たとえば、第一の乳化物を得る工程で得られる第一の乳化物が、実質的に界面活性剤を含有しない構成とすることもできる。ここで、界面活性剤とは、上記水溶性高分子以外の界面活性剤のことである。また、実質的に含有しないとは、配合材料に原料として意図的に上記水溶性高分子以外の界面活性剤を添加しないことをいい、不可避的にわずかに含まれてしまうものは含む。具体的には、0.1質量%以下である。
【0023】
以下、第一の乳化物を得る工程について、さらに具体的に説明する。
第一の乳化物を得る工程では、水溶性高分子の会合開始濃度以下の領域において乳化処理をおこなう。水溶性高分子の添加方法に特に制限はなく、たとえば予め水相に溶解するか、あるいは、油相に分散させたものを水相に添加し溶解することができる。乳化は公知の乳化装置を用いて定法によりおこなうことができる。
乳化装置としては、プロペラ翼、アンカー翼、マックスブレンド翼(住友重機械工業株式会社製)やフルゾーン翼(神鋼環境ソリューション社製)などのいわゆる大型翼、ホモミキサー、ホモディスパー、ホモジナイザー、コロイドミル、超音波乳化機などを用いることができる。
【0024】
本発明では、これらの乳化装置を用いて、所望の乳化粒径に到達するように、乳化物に剪断力を付与する。すなわち、より小さな乳化粒子を得るためには、付与する剪断力を大きくすればよい。
【0025】
また、第一の乳化物中における油相濃度は、油相の組成、乳化物の用途、目的などにより適宜選定されるが、生産性を向上させる観点から、たとえば質量比で1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。また、操作性を向上させる観点から、たとえば質量比で60%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下である。
【0026】
また、乳化処理時の温度は、水溶性高分子の非会合領域かつ油性成分の融点以上の領域で適宜設定されるが、たとえば、ヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルステアリルエーテルヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウムを用いた場合には、5〜95℃の範囲で、好ましくは20〜90℃の範囲でおこなうことができる。
【0027】
また、本発明における製造方法は、第一の乳化物を得る工程で得られた第一のO/W乳化物に、さらに高分子化合物またはその水溶液を添加、混合し、増粘させて第二の乳化物(第二のO/W乳化物)を得る工程をさらに含んでもよい。つまり、本発明においては、水溶性高分子の会合開始濃度以下の領域において乳化処理し第一の乳化物を得た後、乳化物を増粘させて第二の乳化物を得る、二段階の工程とすることができる。
第一の乳化物に高分子あるいはその水溶液を添加、混合し、増粘させることにより、第二の乳化物における乳化状態の安定性をより一層向上することができる。このため、予め増粘させた状態で乳化処理をおこなう方法に対し、乳化時の粒径の制御性と乳化状態の安定性とのバランスをより一層向上させることができる。第二の乳化物を得る工程で添加する高分子あるいはその水溶液は、第一の乳化物を得る工程において使用した高分子と同じ材料としてもよいし、異なっていてもよい。さらに、その際には1種あるいは2種以上の高分子を用いても構わない。高分子添加後の乳化物の粘度は、安定性を向上させる観点から、0.05Pa・s以上、好ましくは0.1Pa・s以上、より好ましくは0.2Pa・s以上である。また、操作性を向上させる観点から、100Pa・s以下、好ましくは70Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以下である。
【0028】
また、高分子あるいはその水溶液添加後の混合は、高分子の非会合領域における乳化処理で制御された乳化粒径を維持する観点から、乳化処理時の混合よりも緩和な条件でおこなうことが望ましく、プロペラ翼やアンカー翼、大型翼などの低剪断タイプの攪拌翼を用いることが好ましい。
【0029】
本発明の製造方法により得られる第一および第二のO/W乳化物は、水溶性高分子から構成される高分子乳化剤、油性成分、および水を含有する。第一および第二のO/W乳化物の油性成分の含有量は、優れた乳化安定性を得る観点から、いずれも、1〜60質量%、好ましくは3〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%である。水は任意に配合できるが、第一および第二のO/W乳化物中の水の含有量は、優れた乳化安定性を得る観点から、いずれも、20〜99質量%、好ましくは30〜97質量%、より好ましくは40〜95質量%である。
【0030】
また、本発明の製造方法により得られた第一および第二のO/W乳化物には、本発明の効果が損なわれない範囲で、所望により、各種添加剤、たとえば分散剤、溶剤、香料、着色料、無機塩、防腐剤、酸化防止剤、pH調整剤等を添加することができる。
【0031】
本発明の製造方法により得られる第一および第二のO/W乳化物の用途に特に制限はないが、乳化安定性が良好で、低刺激性であるため、たとえば、洗浄剤分野、化粧料分野、スキンケア剤分野、衣料処理剤分野、香料分野等の各種分野で用いられる。中でも化粧料として好適に用いられ、第二のO/W乳化物は化粧料としてより一層好適に用いられる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳しく説明する。
以下の例において、界面張力は、Tracker界面粘弾性測定装置を用いて、ペンダントドロップ法により乳化処理時の温度にて測定を行い、測定開始5〜10分の間の平均値をその値として用いた。
また、以下の例で、一定粒径到達時間とは、乳化開始から5分、10分、20分、・・・(以後10分毎)に、レーザー回折/散乱式粒度分布計(SALD2100、島津製作所社製)を用いて測定した表面積基準平均粒径の変化が、単位時間(1分)当たり0.5%未満になった時間をいう。
【0033】
(実施例1〜4、比較例1)
水溶性高分子としてヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルステアリルエーテルヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウム(SPS−S−SA、花王株式会社製)を用いた。この高分子を種々の濃度で水に溶解させて標準水溶液を調製し、会合開始濃度および会合開始濃度における界面張力を測定した。図2は、この高分子の25℃における標準水溶液粘度と濃度の両対数グラフである。図2に示したように、この高分子の会合開始濃度を測定したところ、0.09質量%であった。また、この濃度における高分子標準水溶液とメチルポリシロキサンの界面張力を測定したところ、31.5mN/mであった。
【0034】
次に、表1に示す組成の乳化物を、T.K.ロボミックス(プライミクス社製)を用いて、10000rpmの攪拌条件下、25℃においてO/W乳化物を製造した。結果を表1および図3に示す。図3ならびに後述する図5、図7および図9は、乳化処理開始後の経過時間と表面積基準平均粒径との関係を示す図である。表1および図3より、非会合領域において乳化処理を行った実施例1〜4では、会合領域で乳化処理を行った比較例1と比べて、一定粒径到達時間が大幅に短縮され、乳化粒径の制御が容易になることが確認された。
【0035】
【表1】

【0036】
(実施例5〜8、比較例2)
水溶性高分子としてヒドロキシエチルセルロース(HEC SE−600、ダイセル化学工業社製)を用いた。この高分子を種々の濃度で水に溶解させて標準水溶液を調製し、会合開始濃度および会合開始濃度における界面張力を測定した。図4は、この高分子の25℃における標準水溶液粘度と濃度の両対数グラフである。図4に示したように、この高分子の25℃における会合開始濃度を測定したところ、0.42質量%であった。また、この濃度における高分子標準水溶液とメチルポリシロキサンの界面張力を測定したところ、29.6mN/mであった。
【0037】
次に、表2に示す組成の乳化物を、T.K.ロボミックスを用いて、10000rpmの攪拌条件下、25℃においてO/W乳化物を製造した。結果を表2および図5に示す。表2および図5より、非会合領域において乳化処理を行った実施例5〜8では、会合領域で乳化処理を行った比較例2と比べて、一定粒径到達時間が大幅に短縮され、乳化粒径の制御が容易になることが確認された。
【0038】
【表2】

【0039】
(比較例3、4)
水溶性高分子としてPEMULEN TR−2(ルーブリゾール社製)を用いた。この高分子を種々の濃度で水に溶解させて標準水溶液を調製し、会合開始濃度および会合開始濃度における界面張力を測定した。図6は、この高分子の25℃における標準水溶液粘度と濃度の両対数グラフである。図6に示したように、この高分子の25℃における会合開始濃度を測定したところ、0.0035質量%であった。また、この濃度における高分子標準水溶液とメチルポリシロキサンの界面張力を測定したところ、39.0mN/mであった。
【0040】
次に、表3に示す組成の乳化物を、T.K.ロボミックスを用いて、10000rpmの攪拌条件下、25℃においてO/W乳化物を製造した。非会合領域において乳化処理を行った。結果を表3および図7に示す。表3および図7より、非会合領域で乳化処理をおこなった比較例3と、会合領域で乳化処理を行った比較例4は、一定粒径到達時間が同じであり、高分子の会合開始濃度における界面張力が35mN/mより大きな高分子を用いた場合は、その非会合領域において乳化処理を行っても、乳化粒径の制御性に変化はないことが確認された。
【0041】
【表3】

【0042】
(実施例9〜11、比較例5)
水溶性高分子としてSPS−S−SAを用いた。この高分子を種々の濃度で水に溶解させて標準水溶液を調製し、会合開始濃度および会合開始濃度における界面張力を測定した。図8は、この高分子の80℃における標準水溶液粘度と濃度の両対数グラフである。図8に示したように、この高分子の80℃における臨界濃度を測定したところ、0.16質量%であった。また、この濃度における高分子標準水溶液と表4に示す油相の界面張力を測定したところ、26.5mN/mであった。
【0043】
次に、表4に示す組成のO/W乳化物をT.K.ロボミックスを用いて、7000rpmの攪拌条件下、80℃において製造した。結果を表4および図9に示す。表4および図9より、非会合領域において乳化処理を行った実施例9〜11では、会合領域で乳化処理を行った比較例5と比べて、一定粒径到達時間が大幅に短縮され、乳化粒径の制御が容易になることが確認された。
【0044】
次に、得られたO/W乳化物に、最終組成が同じになるように、別途用意したSPS-S-SA水溶液を添加、混合し、O/Wクリームを調製した。得られたクリームの感触はすべて良好であり、非会合領域において乳化処理を行った実施例9〜11では、会合領域で乳化処理を行った比較例5と比べて、同等の性能を有する化粧料をより安定的に製造できることが確認された。
【0045】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子を含む水溶液と油性成分とを乳化処理して第一の乳化物を得る工程を含み、
第一の乳化物を得る前記工程における前記水溶液中の前記水溶性高分子の濃度が、前記水溶性高分子を含む標準水溶液中の前記水溶性高分子の濃度を横軸とし前記標準水溶液のB型粘度計で測定される粘度を縦軸として作成した両対数グラフにおける2直線の交点での濃度よりも低い濃度であり、かつ、
前記油性成分と、前記交点での濃度で前記水溶性高分子を含む前記標準水溶液との乳化処理時の温度における界面張力が、ペンダントドロップ法にて35mN/m以下である、
水中油型乳化物の製造方法。
【請求項2】
第一の乳化物を得る前記工程で得られる前記第一の乳化物が、実質的に界面活性剤を含有しない、請求項1に記載の水中油型乳化物の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、ヒドロキシエチルセルロース、かつ/または、ヒドロキシエチルセルロースヒドロキシプロピルステアリルエーテルヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウムである、請求項1または2に記載の水中油型乳化物の製造方法。
【請求項4】
第一の乳化物を得る前記工程で得られた前記第一の乳化物に高分子化合物またはその水溶液を添加、混合し、増粘させて第二の乳化物を得る工程をさらに含む、請求項1乃至3いずれか1項に記載の水中油型乳化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか1項に記載の製造方法により得られる、水中油型乳化物。
【請求項6】
請求項4に記載の製造方法により得られる水中油型乳化物を含有する、化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−231049(P2011−231049A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102919(P2010−102919)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】