説明

水中油型乳化組成物

【課題】加熱調理される魚肉切り身の肉質改良効果に優れた水中油型乳化組成物を提供する。
【解決手段】水中油型乳化組成物であって、該組成物100質量%中、油脂を25〜70質量%、ジグリセリン脂肪酸エステルを0.05〜2.5質量%、平均重合度が5以上のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルを0.02〜0.5質量%、増粘安定剤を0.01〜0.5質量%および食塩濃度が10〜25質量%の調味水溶液を25〜70質量%含むことを特徴とする魚肉の肉質改良用水中油型乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉の肉質改良に好適な水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉は加熱調理により蛋白質が変性し、水分が蒸発するため、硬くぱさぱさとした食感になりやすい。そこで、加熱調理される魚肉の肉質を改良するため、油脂、水およびその他の成分を含有する水中油型の乳化組成物に魚肉を浸漬することや、このような組成物を魚肉に注入することが従来行われている。
【0003】
例えば、魚肉又は魚肉加工食品に、液状水中油滴型エマルジョンを注入添加することを特徴とする魚肉利用食品の製造方法(特許文献1参照)などが知られている。
【0004】
しかし、上記技術によれば、油脂添加により魚肉の旨みは増すものの、加熱調理された魚切り身の食感向上に関しては十分とはいえない。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−036757号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、加熱調理される魚肉切り身の肉質改良効果に優れた水中油型乳化組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水中油型乳化組成物の水相部に、約10〜25質量%の食塩を含む調味水溶液を用いて調製した水中油型乳化組成物が良好な魚肉の肉質改良効果を発揮することを見出し、その知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、水中油型乳化組成物であって、該組成物100質量%中、油脂を25〜70質量%、ジグリセリン脂肪酸エステルを0.05〜2.5質量%、平均重合度が5以上のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルを0.02〜0.5質量%、増粘安定剤を0.01〜0.5質量%および食塩濃度が約10〜25質量%の調味水溶液を25〜70質量%含むことを特徴とする魚肉の肉質改良用水中油型乳化組成物、からなっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水中油型乳化組成物を注入したサケの切り身は、約−40℃に冷凍した後にその芯温が約85℃となるように焼成してもジューシーな食感が損なわれない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いられる油脂としては、食用に適する動物性、植物性の油脂及びそれらの硬化油、エステル交換油、分別油等が挙げられる。植物性油脂としては、例えばサフラワー油、大豆油、綿実油、コメ油、ナタネ油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油等が挙げられる。
【0011】
本発明の水中油型乳化組成物100質量%中の油脂の含有量は、通常約25〜70質量%である。油脂の含有量がその数値範囲外であると、魚肉の肉質改良効果が十分に得られないため好ましくない。
【0012】
本発明に用いられるジグリセリン脂肪酸エステルは、ジグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応生成物であり、エステル化反応など自体公知の方法で製造される。
【0013】
ジグリセリン脂肪酸エステルの原料として用いられるジグリセリンとしては、通常グリセリンに少量の酸(例えば、濃硫酸、p−トルエンスルホン酸等)又はアルカリ(例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等)を触媒として添加し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下で、例えば約180℃以上の温度で加熱し、重縮合反応させて得られるグリセリンの平均重合度が約1.5〜2.4、好ましくは平均重合度が約2.0のジグリセリン混合物が挙げられる。また、ジグリセリンはグリシドール又はエピクロルヒドリン等を原料として得られるものであっても良い。反応終了後、所望により中和、脱塩、脱色等の処理を行ってよい。
【0014】
本発明においては、上記ジグリセリン混合物を、例えば蒸留又はカラムクロマトグラフィー等自体公知の方法を用いて精製し、グリセリン2分子からなるジグリセリンを約50%以上、好ましくは約85%以上に高濃度化した高純度ジグリセリンが好ましく用いられる。
【0015】
ジグリセリン脂肪酸エステルの原料として用いられる脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)又は不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等)等が挙げられる。とりわけオレイン酸を約70%以上、より好ましくは約90%以上含有する不飽和脂肪酸を用いるのが好ましい。これら脂肪酸は一種類で用いられても良いし、2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明で用いられるジグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、モノエステル体の含有量が約50%以上、好ましくは約70%以上であるジグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0017】
ジグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えばポエムDO−100V(商品名;理研ビタミン社製)などが商業的に製造および販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0018】
本発明の水中油型乳化組成物100質量%中のジグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、通常約0.05〜2.5質量%である。ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量がその数値範囲外であると、魚肉の肉質改良効果が十分に得られないため好ましくない。
【0019】
本発明に用いられる平均重合度が5以上のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルは、平均重合度が5以上ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化生成物であり、自体公知のエステル化反応等により製造される。前記ポリグリセリンは、通常グリセリン又はグリシドールあるいはエピクロルヒドリン等を加熱し、重縮合反応させて得られる重合度の異なるポリグリセリンの混合物である。本発明で用いられる平均重合度が約5以上のポリグリセリンとしては、例えばヘキサグリセリン(平均重合度6)、オクタグリセリン(平均重合度8)又はデカグリセリン(平均重合度10)等が挙げられる。
【0020】
上記ポリグリセリンと脂肪酸とのエステルの構成脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びエルカ酸等の群から選ばれる1種あるいは2種以上の混合物が挙げられる。
【0021】
上記ポリグリセリンと脂肪酸とのエステルとしては、平均重合度が5以上のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルを含有する組成物を使用することができる。そのような組成物としては、例えばポエムJ−0081HV(商品名;理研ビタミン社製)、ポエムJ−0381V(商品名;理研ビタミン社製)、ポエムL−021(商品名;理研ビタミン社製)、ポエムJ−0021(商品名;理研ビタミン社製)、ポエムC−781(商品名;理研ビタミン社製)、サンソフトQ−17F(商品名;太陽化学社製)、Decaglyn 1−SV(商品名;ニッコーケミカルズ社製)リョートーポリグリエステルS−24D(商品名;三菱化学フーズ社製)SYグリスターMO―500(商品名;阪本薬品工業社製)SYグリスターML−310(商品名;阪本薬品工業社製)SYグリスターML−500(商品名;阪本薬品工業社製)MCA―750(商品名;阪本薬品工業社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0022】
本発明の水中油型乳化組成物100質量%中の平均重合度が5以上のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルの含有量は、通常約0.02〜0.5質量%である。該エステルの含有量がその数値範囲外であると、魚肉の肉質改良効果が十分に得られないため好ましくない。
【0023】
本発明で用いられる増粘安定剤としては、特に制限はないが、例えばアラビアガム、カラヤガム、ガティガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、サイリウムシードガム、タマリンド種子多糖類、ペクチン、寒天、カラギナン、アルギン酸ナトリウム、グルコマンナン、キサンタンガム、ジェランガム、カードラン、プルラン等が挙げられ、好ましくはキサンタンガムである。
【0024】
本発明の水中油型乳化組成物100質量%中の増粘安定剤の含有量は、その種類などにより異なるが、例えばキサンタンガムを用いる場合、通常約0.01〜0.5質量%である。増粘安定剤の含有量がその数値範囲外であると、魚肉の肉質改良効果が十分に得られないため好ましくない。
【0025】
本発明で用いられる調味水溶液としては、例えば食塩濃度が通常約10〜25質量%の食塩水が用いられる。さらに該調味水溶液は、食塩の他に、醤油、魚醤、L−グルタミン酸ナトリウムその他の旨み調味料などを含有するものであってよい。
【0026】
上記調味水溶液の食塩濃度が10質量%未満であると魚肉の調味効果が十分に得られない場合があるため好ましくなく、約25質量%を超えると水中油型乳化組成物の乳化安定性が低下するおそれがあるため好ましくない。本発明の水中油型乳化組成物100質量%中の調味水溶液の含有量は、通常約25〜70質量%である。調味水溶液の含有量がその数値範囲外であると、魚肉の肉質改良効果が十分に得られないため好ましくない。
【0027】
本発明の水中油型乳化組成物の製造方法に特に制限はないが、例えば、以下の工程(1)〜(3)を実施することにより製造できる。
工程(1):調味水溶液に平均重合度が5以上のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルおよび増粘安定剤を加え、これらが均一に分散するまで室温(0〜30℃)で攪拌して水相を調製する。
工程(2):油脂にジグリセリン脂肪酸エステルを加え、これらが均一に分散するまで約60〜80℃に加熱・攪拌した後、室温(0〜30℃)まで冷却し油相を調製する。
工程(3):(1)の水相に(2)の油相を加え、攪拌機を用いて攪拌・分散して本発明の水中油型乳化組成物を得る。
【0028】
攪拌機としては、TKホモミクサー(プライミクス社製)、クレアミックス(エムテクニック社製)などの高速回転式分散・乳化機を使用することができる。さらに、攪拌機以外にも、超音波乳化機などの均質化処理機を用いてもよい。
【0029】
上記の如くして得られる本発明の水中油型乳化組成物を適用できる魚肉としては、切り身の状態で加熱調理して食される魚類のものが好ましく、例えばさけ、さば、たら、たい、さわら、はまち、すずき等が挙げられる。
【0030】
本発明の水中油型乳化組成物の使用方法としては、例えば食肉用インジェクターを使用して水中油型乳化組成物を魚肉に強制的に注入するインジェクション法、また該組成物と魚肉を共にロータリータンブラーに仕込み浸漬させていくタンブリング法、さらに該組成物に魚肉を浸すカバー法(湿塩浸法)などが挙げられ、好ましくはインジェクション法である。インジェクション法により本発明の水中油型乳化組成物の使用する場合、その使用量は、魚肉100質量%に対して通常約5〜30質量%である。
【実施例】
【0031】
以下に本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
[水中油型乳化組成物の作製]
(1)水中油型乳化組成物の作製のための原材料
1)米油(ボーソー油脂社製)
2)ジグリセリン脂肪酸エステル(製品名:ポエムDO−100V;理研ビタミン社製)
3)ポリグリセリン脂肪酸エステル(製品名:ポエムJ−0081HV;ポリグリセリンの平均重合度約10;エステル約40質量%および水約60質量%を含む;理研ビタミン社製)
4)キサンタンガム(製品名:グリンステッドキサンタンJ;ダニスコジャパン社製)
5)調味水溶液(食塩約20質量%およびL−グルタミン酸ナトリウム1質量%を含む)
6)着色料(製品名:リケカラーパプリカ240RG;理研ビタミン社製)
【0033】
(2)原材料の配合組成
上記原材料を用いて作製した水中油型乳化組成物(実施品1〜8)の配合組成を表1に示した。また、同様に作製した水中油型乳化組成物(比較品1〜8)の配合組成を表2に示した。これらの内、実施品1〜8は本発明に係る実施例であり、比較品1〜8はそれらに対する比較例である。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
(3)水中油型乳化組成物の作製
表1および表2に示した配合に基づく量の原材料を使用し、水中油型乳化組成物(実施品1〜8および比較品1〜8)各400gを作製した。その作製方法を以下に示す。
<水中油型乳化組成物の作製方法>
1)調味水溶液、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびキサンタンガムを300ml容ビーカーに入れ、これらを室温(0〜30℃)でスリーワンモーター(型式:FBL−600;HEIDON社製)を用いて500rpmにて約15分撹拌し、水相とした。
2)米油、ジグリセリン脂肪酸エステルおよび着色料を300ml容ビーカーに入れ、70℃に加熱しながら、スリーワンモーター(型式:FBL−600、HEIDON社製)を用いて500rpmで15分間撹拌した後、25℃に冷却し、油相とした。
3)1)水相と2)油相を500ml容ビーカーに入れ、TK−ホモミキサー(型式:MARKII;プライミクス社製)を用いて、8000rpmにて3分間攪拌し、水中油型乳化組成物を得た。
【0037】
[魚肉の肉質改良試験]
水中油型乳化組成物(実施品1〜8および比較品1〜8)を使用して、インジェクション法により魚肉の肉質を改良する場合について、下記の評価試験を実施した。
【0038】
(1)冷凍サケの作製
インジェクターを用いてサケ切り身に水中油型乳化組成物(実施例1〜8および比較例1〜8)を注入した。注入は、下記に示すインジェクター使用条件で行った。注入後のサケ切り身の重量を測定した結果、サケ切り身100質量%に対する水中油型乳化組成物の注入量は約15質量%であった。続いて、注入後のサケ切り身を−40℃で急速凍結して、冷凍サケ1〜16を得た。
<インジェクター使用条件>
装置 ピックルボーイ(PB−2型;アイディー技研社製)
注射針の間隔 10mm
注射針の外径 2mm
注入圧 2.5kg/cm2
注入量 10mL(定量)
【0039】
(2)加熱調理した冷凍サケの食感の評価
上記(1)で得た冷凍サケ1〜16を、中心温度が−5℃になるまで室温(約0〜30℃)で解凍した後に、ホットプレート(表面温度150℃)で内部温度が80℃になるように焼成した。焼成された冷凍サケについて、表3に示す評価基準に従い、食した際の食感を評価した。評価は10名のパネラーで行い、結果は10名の評点の平均値として求め、以下の基準に従って記号化した。結果を表4に示した。
◎:評点の平均値が3.5以上
○:評点の平均値が2.5以上、3.5未満
△:評点の平均値が1.5以上、2.5未満
×:評点の平均値が1.5未満
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
本発明の水中油型乳化組成物(実施品1〜8)を注入したサケの切り身は、冷凍後に加熱調理してもジューシーな食感を有していた。これに対し、対照品の水中油型乳化組成物を注入したサケの切り身は、冷凍後に加熱調理するとぱさぱさとした食感であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中油型乳化組成物であって、該組成物100質量%中、油脂を25〜70質量%、ジグリセリン脂肪酸エステルを0.05〜2.5質量%、平均重合度が5以上のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルを0.02〜0.5質量%、増粘安定剤を0.01〜0.5質量%および食塩濃度が10〜25質量%の調味水溶液を25〜70質量%含むことを特徴とする魚肉の肉質改良用水中油型乳化組成物。

【公開番号】特開2010−81802(P2010−81802A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250959(P2008−250959)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】