説明

水中溶接装置

【課題】シールドカバーの劣化を抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することのできる水中溶接装置を提供する。
【解決手段】レーザ発振器およびシールドガス供給源に接続され、溶接ワイヤ供給系と、レーザ光を集光する光学系とを有する水中溶接ヘッドを具備し、当該水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接装置において、前記水中溶接ヘッド先端側に位置しレーザ光を射出するノズル部の周辺に、レーザ光の反射光を吸収する反射光吸収体を設けるとともに、前記反射光吸収体の周囲に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設けた水中溶接装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば原子炉の炉水中における炉内構造物の溶接など、水中での溶接を行うための水中溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から水中で溶接を行う水中溶接装置、例えば、原子炉の炉水中で炉内構造物の補修等を行う水中溶接装置が知られている。このような水中溶接装置では、水中において気中を形成することが必要であるが、装置を小型化するため、部分的なシールドを行うことによって気中を形成するいろいろな方法が提案されている。
【0003】
溶接部周辺を局部的に被うシールドカバー方式は、シールドの確保と装置の小型化をしやすい特徴がある。このような水中溶接装置として、例えば、加工部を局部的に被うシールドカバーを有する装置が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0004】
また、このような水中溶接装置としては、例えば、気中を形成するためのシールドカバーのシールド性を向上させるため、少なくとも2重の可撓性がある固体隔壁を設けるようにした装置が提案されている。
【0005】
さらに、上記のような水中溶接装置において、特に開先肉盛溶接を行う場合、開先傾斜部からシールドカバーが浮き、シールドカバー内部に水が浸入する。このため、シールドカバーを支える部材をノズルから独立させばねで母材に押圧する機構、及び、シールドカバーの外側に高速流体を噴き付け、シールドカバーを母材に押し付ける機構を併用することが知られている。しかしながら、かかる構成を採用した場合、加工ヘッドのノズル周辺の構造が複雑かつ大型になってしまう。
【0006】
また、レーザ溶接に使用する場合、図7に示すように、溶接部70に照射されたレーザ光71の反射光72を反射する反射シールド機構73を設け、この反射シールド機構73からの反射光を溶接部70に照射して溶接エネルギーとして利用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3006370号公報
【特許文献2】特許第3006412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したとおり、従来から水中溶接装置では、加工部を局部的に被うシールドカバーを設け、水中において気中を形成することが行われている。しかしながら、かかる構成の水中溶接装置でレーザ光を用いた溶接を行った場合、溶接部からの反射光がシールドカバーにあたり、シールドカバーに劣化が生じ、シールドカバーに穴が開くこともあり、徐々に気中形成が困難になるという問題があった。
【0009】
このような問題は、例えば水中において開先肉盛溶接を行う場合に開先傾斜部におけるシールド性を確保するため、シールドカバーの長さを延長したような場合に特に顕著となる傾向があった。
【0010】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、シールドカバーの劣化を抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することのできる水中溶接装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、レーザ発振器およびシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接装置において、前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、レーザ光の反射光を吸収する反射光吸収体を設けるとともに、前記反射光吸収体の周囲に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シールドカバーの劣化を抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することのできる水中溶接装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水中溶接装置の全体の概略構成を示す図。
【図2】第1実施形態の水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【図3】第2実施形態に係る水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【図4】第3実施形態に係る水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【図5】第4実施形態に係る水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【図6】第5実施形態に係る水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【図7】従来の水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の水中溶接装置の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1実施形態に係る水中溶接装置の全体の概略構成を示す図であり、図2は、第1実施形態の水中溶接装置の水中溶接ヘッドの断面概略構成を示す図である。なお、図1では、後述するシールドカバー11の一部を切り欠いて内部の状態を示してある。
【0016】
図1に示すように、水中環境下にある被溶接材1を溶接する場合、レーザ発振器2は大気中に設置され、水中溶接ヘッド4の部分だけが水中に設置される。そして、大気中に設置されたレーザ発振器2から照射されたレーザ光3は光ファイバー5を通して水中溶接ヘッド4に伝送される。また、シールドガス12も、大気中から水中溶接ヘッド4に供給されるようになっている。
【0017】
水中溶接ヘッド4は、略円筒状に形成されている。そして、図2に示すように、水中溶接ヘッド4の内部にはレーザ光3を集光するための光学系6が設けられている。水中溶接ヘッド4の先端側(図1,2の下側)には、外周方向に向けてフランジ状に突出する大径部4aが設けられ、この大径部4aの略中央部に、光学系6によって集光されたレーザ光3を射出するとともに、シールドガス12を吐出するためのノズル部13が設けられている。
【0018】
上記大径部4aの先端側の面には、ノズル部13の周囲を囲むように、レーザ光3の反射光9を吸収するための反射光吸収体15が設けられている。本実施形態では、反射光吸収体15は、環状に形成された板状部材から構成されており、大径部4aの先端側の面に形成された溝14内に嵌合されるようにして配置されている。反射光吸収体15を構成する板状部材としては、例えばカーボン板を好適に使用することができる。また、例えば表面を黒くなるまで酸化させたステンレス鋼製の板材等、酸化した金属板を用いることもできる。さらに、入射した反射光9が内部で乱反射し外部に漏洩しないように構成された金網状の構造物を用いてもよい。
【0019】
また、反射光吸収体15としては、上記のように板状部材等の部材を配置するのではなく、大径部4aの先端側(図2の下側)の面に、反射光9を吸収する酸化物の膜、反射光9を吸収する塗料を塗布して形成された塗布膜、反射光9を吸収する物質を溶射等によってコーティングしたコーティング膜等の反射光9を吸収する膜等を用いてもよい。このような反射光吸収体15としては、反射光9(レーザ光3)の反射率が低くその大部分を吸収するものが好ましく、少なくとも、反射光9(レーザ光3)が垂直入射した際の反射率が20%以下で、80%以上を吸収するものが好ましく、反射率が10%以下で、90%以上を吸収するものがさらに好ましい。
【0020】
上記反射光吸収体15の周囲には、溶接部の周囲に気中を形成するためのシールドカバー11が設けられている。このシールドカバー11は、内側シールドカバー11aと、この内側シールドカバー11aの外側に設けられた外側シールドカバー11bの2重構造とされている。内側シールドカバー11aの内部には、シールドガス12と、図示しない溶接ワイヤ供給系から溶接ワイヤ7が供給されるようになっている。
【0021】
上記内側シールドカバー11aとしては、厚さが比較的薄い弾性部材、例えば厚さが0.3〜0.5mmのシリコンゴム等を用いることが好ましい。これによって、耐水性と変形する機能を確保することができる。一方、外側シールドカバー11bは、内側シールドカバー11aより厚い弾性部材、例えば厚さが1.0〜2.0mmのシリコンゴム等を用いることが好ましい。また、内側シールドカバー11aを長くし、外側シールドカバー11bを短くすることで内側シールドカバー11aが変形することを阻害しない構造とすることができる。
【0022】
上記の構成とすることにより、例えば、開先肉盛溶接に適用する場合、良好なシールド性を確保することができる。すなわち、薄く長い内側シールドカバー11aが開先傾斜部16に沿って変形するため、シールド性の確保が容易になる。また、このような内側シールドカバー11aだけでは強度が低く大きく変形するとシールドガス12が逃げるため、外側シールドカバー11bによって内側シールドカバー11aの変形を抑え、これによって良好なシールド性を確保することができる。なお、シールドカバー11の耐久性や強度が不足している場合は、シールドカバー11を3重又はそれ以上の多重の構造としてもよい。その場合、シールドカバーの長さは外周側ほど短くし、厚さは外周側ほど厚くする、又は同等とすることが好ましい。
【0023】
上記構成の水中溶接装置では、光ファイバー5によって水中溶接ヘッド4に伝送されたレーザ光3は、水中溶接ヘッド4の内部に設けられた光学系6により集光され、ノズル部13から被溶接部に向けて照射される。これとともに、溶接ワイヤ7が供給され、被溶接部に溶接池8が形成され、溶接作業が実行される。
【0024】
上記の溶接作業の際、ノズル部13から被溶接部に向けて照射されたレーザ光3の一部は、被溶接部及びその近傍で反射して反射光9となり、大径部4aの先端側(図2の下側)の面にあたる。本実施形態では、この反射光9があたる部分に反射光9を吸収するための反射光吸収体15が設けられているので、反射光9は反射光吸収体15によってその大部分が吸収され、さらに反射を繰り返して内側シールドカバー11aに反射光9が到達する可能性を従来に比べて大幅に低減することができる。
【0025】
これによって、反射光9により内側シールドカバー11aが損傷を受け、穴が開くなどして気中形成が困難になることを抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することができる。
【0026】
図3は、本発明の第2実施形態に係る水中溶接装置の構成を示すものである。この第2実施形態の水中溶接装置では、冷却水等の冷媒を循環するための冷媒流路からなる冷却機構19が設けられており、反射光吸収体15を冷却することができるようになっている。すなわち、反射光吸収体15は、レーザ光である反射光9を吸収するため、その温度が上昇し、その周囲に設けられた内側シールドカバー11aを熱により損傷させる可能性がある。このため、第2実施形態では、冷却機構19によって反射光吸収体15を冷却し、内側シールドカバー11aの熱による損傷を防止できるようになっている。
【0027】
図4は、本発明の第3実施形態に係る水中溶接装置の構成を示すものである。この第3実施形態の水中溶接装置では、周囲の炉水等の水を冷媒として循環するための冷媒流路からなる冷却機構19aが設けられており、反射光吸収体15を冷却することができるようになっている。この冷却機構19aでは、冷媒流路内に周囲の炉水等が流入し、この炉水等によって反射光吸収体15を冷却する。また、反射光吸収体15を冷却することによって温度上昇した炉水等は上昇するため、冷媒流路内に自然対流が形成される。したがって、冷却水を外部から供給するための機構等を必要とせず、簡易に反射光吸収体15の冷却を行うことができる。
【0028】
なお、図3の第2実施形態及び図4の第3実施形態において、上記の部分以外は、前述した第1実施形態と同様に構成されているので、対応する部分には、同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0029】
次に、図5を参照して第4実施形態について説明する。この第4実施形態では、前述した第1〜第3実施形態のシールドカバー11とは異なった形状のシールドカバー111を用いている。このシールドカバー111は、その基端側(水中溶接ヘッド4側)から先端側へ向かう中間部分が外周側に向かって膨出する曲率を有する形状となっている。
【0030】
シールドカバー111をこのような形状とすることにより、開先傾斜部16に沿ったシールドカバー111の変形が容易となる。このため、シールドガス12がシールドカバー111の外側に漏れ難くなり、シールドカバー111内に水が浸入し難くすることができる。
【0031】
また、シールドカバー111の内側からシールドカバー111に向かってシールドガス12を噴きつけることにより、シールドカバー111の外周側に向かって膨出する形状を保つことができる。このような構造の水中溶接装置を用いることにより、シールドカバー111が損傷を受け、穴が開くなどして気中形成が困難になることを抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することができるとともに、開先傾斜部16においてもシールド性を確保することができ、健全な溶接を行うことができる。
【0032】
なお、図5の第4実施形態において、上記の部分以外は、前述した第1実施形態と同様に構成されているので、対応する部分には、同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0033】
次に、図6を参照して第5実施形態について説明する。この第5実施形態では、前述した第1〜第3実施形態のシールドカバー11とは異なった形状のシールドカバー211を用いている。このシールドカバー211は、その断面形状が環状のチューブ形状とされている。
【0034】
シールドカバー211をこのような形状とすることにより、開先傾斜部16に沿ったシールドカバー211の変形が容易となる。このため、シールドガス12がシールドカバー211の外側に漏れ難くなり、シールドカバー211内に水が浸入し難くすることができる。また、シールドカバー211をチューブ形状とすることによって、シールドカバー211の内側の部分が損傷を受けた場合においても、外側の部分においてシールド性を維持することができる。
【0035】
また、水圧によってはチューブ形状のシールドカバー211がつぶれる可能性もあるため、シールドガス12をチューブ形状のシールドカバー211内に供給するためのガス流路12aを形成し、チューブ形状のシールドカバー211内に水圧以上のガス圧をかけることによって水圧によるつぶれを抑制し、シールド性を確保することができる。このような構造の水中溶接装置を用いることにより、シールドカバー211が損傷を受け、穴が開くなどして気中形成が困難になることを抑制することができ、長期に亘り安定的に水中における溶接作業を実行することができるとともに、開先傾斜部16においてもシールド性を確保することができ、健全な溶接を行うことができる。
【0036】
なお、図6の第5実施形態において、上記の部分以外は、前述した第1実施形態と同様に構成されているので、対応する部分には、同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【符号の説明】
【0037】
1……被溶接材、2……レーザ発振器、3……レーザ光、4……水中溶接ヘッド、5……光ファイバー、6……光学系、7……溶接ワイヤ、8……溶接池、9……反射光、11……シールドカバー、12……シールドガス、13……ノズル部、14……溝、15……反射光吸収体、16……開先傾斜部、19……冷却水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器およびシールドガス供給源に接続され、レーザ光を集光する光学系を有する水中溶接ヘッドを水中に配置して水中で構造物の被溶接部を溶接する水中溶接装置において、
前記水中溶接ヘッド先端側のレーザ光を射出するノズル部の周辺に、レーザ光の反射光を吸収する反射光吸収体を設けるとともに、前記反射光吸収体の周囲に、弾性部材からなり、前記水中溶接ヘッドの先端側に気中を形成するためのシールドカバーを設けたことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項2】
請求項1記載の水中溶接装置であって、
前記反射光吸収体が、少なくとも表面がレーザ光を吸収する吸収体からなる板状部材によって構成されていることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項3】
請求項2記載の水中溶接装置であって、
前記板状部材がカーボン製の板体又は表面を酸化させたステンレス製の板体であることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項4】
請求項1記載の水中溶接装置であって、
前記反射光吸収体が、レーザ光を吸収する酸化物の膜、レーザ光を吸収する塗料を塗布して形成された塗布膜、レーザ光を吸収する物質をコーティングしたコーティング膜のいずれかから構成されていることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項5】
請求項1記載の水中溶接装置であって、
前記反射光吸収体が、金網状の構造物によって構成されていることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項記載の水中溶接装置であって、
前記反射光吸収体を冷却するための冷媒を循環させる冷却機構を具備したことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項記載の水中溶接装置であって、
前記シールドカバーが、第1シールドカバーと、当該第1シールドカバーの外側に設けられた第2シールドカバーとによって、少なくとも2重に形成されていることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項8】
請求項7記載の水中溶接装置であって、
前記第1シールドカバーより前記第2シールドカバーの長さが短いことを特徴とする水中溶接装置。
【請求項9】
請求項1〜6いずれか1項記載の水中溶接装置であって、
前記シールドカバーが、前記水中溶接ヘッド側から前記構造物側へ向かう中間部分が外周側に向かって膨出する曲率を有することを特徴とする水中溶接装置。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか1項記載の水中溶接装置であって、
前記シールドカバーに沿って前記シールドカバーの内側からシールドガスを吹き付ける機構を有することを特徴とする水中溶接装置。
【請求項11】
請求項1〜6いずれか1項記載の水中溶接装置であって、
前記シールドカバーが、チューブ状の形状とされていることを特徴とする水中溶接装置。
【請求項12】
請求項11記載の水中溶接装置であって、
チューブ状の前記シールドカバーのチューブの内部にガス圧を印加するためのガス供給機構を具備したことを特徴とする水中溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−16153(P2011−16153A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162735(P2009−162735)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】