説明

水処理方法及び水処理装置

【課題】 原水を凝集処理した後、多孔質ろ過膜でろ過する水処理方法において、凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が負である多孔質ろ過膜でろ過する場合に、安定的に長期間運転するために有効な凝集処理条件の制御方法を提供する
【解決手段】 原水を凝集処理した後、多孔質ろ過膜でろ過する水処理方法において、凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が負である多孔質ろ過膜でろ過を行うにあたり、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位を求め、このゼータ電位が負荷電となるように前記凝集処理条件を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集処理した後、膜でろ過処理する水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質ろ過膜によるろ過は、省エネルギー、省スペース、省力化および処理水の品質向上等の特長を有するため、食品工業や医療の分野、用水製造分野、水浄化処理分野、廃水処理分野等の様々な分野での適用が拡大している。
【0003】
しかし、原水をそのまま、膜でろ過すると、原水中に含まれる濁質や有機物、無機物等の除去対象物が膜面に蓄積し、膜の目詰まり(膜ファウリング)が起こる。これにより膜のろ過抵抗が上昇し、やがてろ過を継続することができなくなる。そこで、膜のろ過性能を維持するため、膜の洗浄を定期的に行う必要がある。膜の洗浄方法として、膜ろ過水を膜の2次側(ろ過水側)から1次側(原水側)へ逆流させる逆流洗浄(以下「逆洗」と称する。)や、気体を膜の一次側に供給して膜の汚れを取る空気洗浄(以下「空洗」と称する。)等の物理洗浄がある。膜のろ過抵抗の上昇速度が速い場合、逆洗を行う頻度を増加させることが必要となるが、逆洗頻度の増加は回収率の低下につながるという問題がある。また、膜面に膜ファウリングが強固に付着した場合、空洗量を増加させることが必要となるが、空洗量を増加させると膜の擦過、劣化が促進される問題がある。
【0004】
一方、物理洗浄だけでは除去できない汚れに対しては、酸、アルカリ、界面活性剤、塩素等の酸化剤等を含む薬液を一定時間膜と接触させて洗浄する薬品洗浄が行われる。しかし、薬品洗浄を行うと膜の劣化が促進され膜寿命が短くなるという問題がある。また薬液洗浄後の廃液の処分も問題となる。
【0005】
これら方法による洗浄の効率を高め、頻度を下げるために、膜ろ過を行う前に前処理を行い、膜ファウリングを低減させることが有効であり、この前処理として、凝集処理を行うことが有効である。
【0006】
膜ろ過の前処理として凝集処理を行う場合、凝集剤の種類や凝集剤注入量等の凝集処理条件を適切に決定することが重要である。そこで、特許文献1には、特定波長の紫外線吸光度が溶存有機物の濃度の指標となることを利用し、凝集処理水を膜ろ過して取り出された膜ろ過水の紫外線吸光度を測定し、この測定値に基づき凝集剤注入量を制御することが記載されている。また、特許文献2には、原水中の有機物濃度を測定し、この測定値に基づき凝集剤注入量を制御することが、特許文献3には、凝集処理水中の有機物濃度を測定し、この測定値に基づき、凝集剤注入量を制御することが記載されている。しかし、膜ファウリングの原因物質は有機物だけではないことから、有機物に着目するだけでは膜ファウリングの進行を十分に抑制することができなかった。
【0007】
特許文献4には、凝集処理水を固液分離した試料水をフィルタで所定量ろ過するのに要する時間から凝集剤注入量を制御することが記載されている。しかし、長期間ろ過継続した場合、前記指標のみでは膜ファウリングの蓄積を制御し、安定に長期間運転することは困難であった。
【0008】
また、既往の凝集沈殿砂ろ過法においては、凝集フロックのゼータ電位が凝集の適否を表すことから、これを測定し凝集処理条件を制御することが行われている。従来の凝集沈殿砂ろ過法において良好に凝集沈殿処理を行うためには、凝集フロックのゼータ電位がゼロmV近辺となるように、即ち−10mV〜+10mVの間になるように制御することがよいとされている。しかし、凝集処理を膜ろ過の前処理として適用する場合、前記範囲内に凝集フロックのゼータ電位を制御することでは、膜ファウリングの蓄積を抑制することはできず、安定に長期間運転することが困難であった。
【0009】
【特許文献1】特許第3312507号公報
【特許文献2】特開2007−203249号公報
【特許文献3】特開2007−245078号公報
【特許文献4】特開2006−055804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、原水を凝集処理した後、多孔質ろ過膜でろ過する水処理方法において、凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が負である多孔質ろ過膜でろ過する場合、安定的に長期間運転するために有効な凝集処理条件の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明の水処理方法は、次の特徴を有するものである。
(1)原水を凝集処理した後、多孔質ろ過膜でろ過処理する水処理方法において、凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が負である多孔質ろ過膜でろ過を行うにあたり、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位を求め、このゼータ電位が負荷電となるように前記凝集処理条件を制御することを特徴とする水処理方法。
(2)凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位が−10mV以上0mV未満の範囲内となるように凝集処理条件を制御することを特徴とする、前記(1)に記載の水処理方法。
(3)凝集フロックのゼータ電位に基づき制御する凝集処理条件が、凝集剤注入量および/または凝集pHであることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の水処理方法。
【0012】
(4)凝集フロックのゼータ電位を、凝集処理水の流動電位から算出することを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の水処理方法。
(5)凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が、−15mV以上0mV未満である多孔質ろ過膜でろ過を行うことを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の水処理方法。
(6)ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる多孔質ろ過膜を用いることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の水処理方法。
(7)原水に凝集剤を添加して凝集処理する凝集処理装置と、該凝集処理装置にて凝集処理した水をろ過するための多孔質膜モジュールと、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位もしくは凝集処理水の流動電位を測定するための電位測定装置とを備え、さらに、該電位測定装置の測定による凝集フロックゼータ電位値に基づいて凝集処理装置の凝集処理条件を制御する凝集処理条件制御装置を備えていることを特徴とする水処理装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明法によって凝集処理条件を制御すれば、多孔質ろ過膜のファウリングを抑制でき、膜モジュールを安定的に長期間運転することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明法を実施するための最良の実施形態を、加圧型中空糸膜モジュールろ過装置を用いて膜ろ過する場合を例にとって、図1を参照しながら以下に説明する。ただし、本発明が以下に示す実施形態に限定される訳ではない。
【0015】
図1は本発明法が適用される膜ろ過装置を示す概略フロー図である。この図の工程では、加圧型の中空糸膜モジュール10による膜ろ過が行われる。この図において、原水水槽1に溜められた原水は取水ポンプ2によって、急速攪拌槽3に導入される。急速攪拌槽3において、原水は凝集剤溶液貯槽4から凝集剤注入ポンプ5により注入された凝集剤と共に、攪拌機6により攪拌され凝集処理される。また、凝集pHを制御するためには、pH調整溶液貯槽7からpH調整溶液注入ポンプ8により、pH調整溶液を注入することが好ましい。
【0016】
急速攪拌槽3において凝集処理された凝集処理水は供給ポンプ9により中空糸膜モジュール10に供給される。凝集処理水は中空糸膜モジュール10内に収められた中空糸膜によって中空糸膜1次側(原水側)から中空糸膜2次側(透過水側)にろ過され、ろ過水水槽11に溜められる。
【0017】
凝集処理水の特性を測定するために、適宜、膜供給水採水弁12を開にして、膜供給水採水管13より凝集処理水を採水し、凝集フロックのゼータ電位を測定する。凝集フロックのゼータ電位に基づき、前記凝集処理条件を制御する。
【0018】
ゼータ電位とは、固体と液体の界面を横切って存在する電気的ポテンシャルを示すものであり、水中のコロイド粒子についての表面電荷を示す。通常、自然水中に含まれるコロイド粒子は負に帯電しているため、粒子同士が電気的に反発し、水中に分散している。凝集剤は、この荷電を中和することによって反発力を弱め、その後集塊、つまり凝集を行う。また、ゼータ電位は、凝集pHによっても変化する。このため、凝集pHを酸やアルカリによって制御することも、凝集処理には有効である。なお、凝集pHとは、凝集剤を注入した後の凝集処理水のpHのことである。
【0019】
凝集フロックのゼータ電位は、電気泳動光散乱装置(ELS−8000:大塚電子(株)製)などの表面電位測定装置を用い、凝集フロックの電気泳動による移動速度から測定することができる。また、一定圧力で凝集処理水を押し流した際に電極間に発生する電位を測定することにより得られる流動電位から、Helmholtz−Smoluchowskiの式(下記の式)を用い、凝集フロックのゼータ電位を算出する方法によって求めることもできる。
【0020】
【数1】

【0021】
流動電位は、コロイド粒子電荷計(日本ルフト社製)などの流動電位測定装置により測定を行うことができる。なお、ゼータ電位測定や流動電位測定には、オンラインで連続測定可能な電位測定装置を用いることが好ましい。更に、希釈せずに原水をそのまま連続測定可能な電位測定装置を用いることがより好ましい。
【0022】
凝集フロックのゼータ電位を測定する位置、即ち、測定試料を採水する場所は、凝集剤添加後からろ過膜モジュールの前であればどこで採水しても構わないが、急速攪拌槽3からろ過膜モジュール10への供給までの間に、凝集フロックの性状が変化することがあることから、ろ過膜モジュール10に極力近い位置(直前位置)で採水することが好ましい。採水のためには、膜供給水採水管13を分岐させ、膜供給水採水弁12を設けることが好ましい。
【0023】
凝集フロックのゼータ電位が負荷電となるように、そのゼータ電位に応じて調整する凝集処理条件は、凝集剤注入量および/または凝集pHであることが好ましい。
【0024】
また、原水を凝集処理する際に注入する無機凝集剤としては、例えば、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等のアルミニウム塩や、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄塩等を用いることができる。またこれらの無機系凝集剤とともに、有機高分子凝集剤を凝集補助剤として併用することもでき、この併用により極めて良好な凝集処理を行うことができることがある。pHの調整には、硫酸や塩酸や硝酸といった無機酸溶液や、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムといった無機アルカリ溶液等を添加すればよい。
【0025】
凝集攪拌を行う槽としては、図示したように急速攪拌槽3のみでも構わないが、急速攪拌槽の後段に緩速攪拌槽を設置しても良い。攪拌手段としては、攪拌翼を用いる攪拌手段や水路を迂回させて攪拌する手段等の一般的な撹拌手段を用いてもよい。また、攪拌槽を設けず、配管内でポンプやスタティックミキサーを用いて、原水と凝集剤を攪拌しても良い。
【0026】
また、凝集処理水は、沈殿処理、加圧浮上処理および砂、その他のろ材を用いたろ過等で懸濁物質を除去した後に、ろ過膜モジュールに供給しても良い。
【0027】
本発明法において処理対象とする原水は、河川水、湖水、地下水、伏流水などの天然水、各種工場廃水や農業廃水、下水あるいはその処理水、海水等が挙げられる。なお、海水等の導電性の高い水を処理する場合のように、電場強度を上げることが難しくゼータ電位の測定が難しい場合には、希釈して測定してもよい。
【0028】
本発明におけるろ過膜モジュールで使用する多孔質膜は、その膜表面の細孔径が特に限定されず、精密ろ過膜であっても限外ろ過膜であっても構わないが、0.001μm〜10μmの範囲内の細孔径で便宜選択すればよい。また、その膜形態は平膜であっても中空糸膜であっても良い。前記除去性能を有する膜であれば、膜の厚み方向に同様の構造が連続した均質膜、2種類以上の構造が積層された非対称膜のいずれでもよい。多孔質膜の膜素材としては、ポリアクリロニトリル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフォン、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン等の有機素材および、セラミック等の無機素材等を挙げることができる。
【0029】
本発明の主旨からいって特に限定されないが、一般的に膜ファウリングが起こりやすいと言われている疎水性のポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる多孔質膜の場合に本発明の効果が発揮され易い。ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデン残基構造を主単位として有するポリマーであり、即ち、フッ化ビニリデン単独重合体および/またはフッ化ビニリデン系共重合体を含有する樹脂のことである。複数の種類のフッ化ビニリデン系共重合体を含有しても構わない。この共重合体としてはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマー等の共重合体が挙げられる。
【0030】
本発明に使用する多孔質膜のゼータ電位の測定には、レーザードップラー電気泳動法を用いるのが好ましい。レーザードップラー電気泳動法の測定手段自体は、特に限定されないが、測定装置としては例えば電気泳動光散乱装置(ELS−8000:大塚電子(株)製)などを用いるのが好ましい。本発明における膜表面ゼータ電位は、未使用状態のろ過膜を測定前に10分間、所定のpHの水溶液中に保持した後、測定を行うことによって求められる膜表面ゼータ電位である。
【0031】
通常、自然水中に含まれる膜ファウリング成分は負に帯電していることが多いことから、静電吸着による膜ファウリング抑制のためには、凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が負であることが効果的である。また、膜表面電位が−15mVよりも小さい(負側に大きい)場合は、正に帯電する膜ファウリング成分と静電吸着しやすくなる。従って、膜ファウリング抑制のためには、凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が−15mV以上0mV未満であることがより好ましい。
【0032】
本発明においては、前記負荷電を有する多孔質ろ過膜との静電気的作用の観点から、凝集フロックのゼータ電位を負荷電となるように凝集処理条件を制御することが重要である。凝集フロックのゼータ電位が−10mV以上0mV未満となるようにすることが好ましい。凝集フロックのゼータ電位が−10mV未満であると荷電中和が十分に起こらず、反発力を保ったままコロイド粒子が浮遊するため、凝集不十分となり易く、膜ファウリングを十分に抑制することが困難である。また凝集フロックのゼータ電位が0mV以上となると、膜表面ゼータ電位が負である膜への付着力が急激に上昇し、ファウリングが促進される。凝集フロックのゼータ電位はさらには、−5±2.5mVの範囲内であることが、より好ましい。これは、凝集フロックのゼータ電位を0mVに近づけすぎて制御すると、原水水質の変化によって凝集フロックのゼータ電位の制御が誤って0mV以上となる危険性があり、凝集フロックのゼータ電位が0mV以上になると、急激に膜ファウリングが起こりやすくなるためである。
【0033】
本発明の水処理方法は、以下に説明する本発明の水処理装置を用いて行うことが好ましい。本発明の水処理装置の一例を図2に示す。図2において、実線矢印は被処理水、注入液、処理水の流れを示し、点線は、フィードバック制御するための情報伝達の流れを示す。
【0034】
本発明の水処理装置は、多孔質膜モジュール10を備えており、多孔質膜モジュール10の上流側には凝集処理装置14を備えている。凝集処理装置14には、少なくとも、原水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、その添加後に原水と凝集剤とを混合させるための攪拌手段を設ければよい。図2の場合、凝集剤添加手段として、凝集剤溶液貯槽4、凝集剤注入ポンプ5及びこれから延びる注入配管とを設け、また、凝集処理槽として、急速撹拌槽3と撹拌機6とを設けている。
【0035】
また、凝集処理装置からろ過膜モジュール10へ至る前までの凝集処理水について、その中の凝集フロックのゼータ電位を測定するためのゼータ電位測定装置15を備えている。ゼータ電位測定装置用バイパス16により凝集処理水の一部が分取されてゼータ電位測定装置15に供給され、凝集フロックのゼータ電位を自動測定する。
【0036】
この水処理装置には、凝集フロックのゼータ電位に基づき、前記凝集処理装置の凝集処理条件を制御する凝集処理条件制御装置17を備えている。凝集フロックのゼータ電位は、凝集剤の注入量、凝集剤の種類、凝集水のpH等を変更することにより調整することができる。そこで、凝集フロックのゼータ電位の測定値が本発明の範囲外であった時には、凝集処理条件制御装置17によって、例えば、凝集剤の添加量やpH調整溶液の注入量を変更する操作をとればよい。
【0037】
凝集剤の注入量変更のためには、凝集剤注入ポンプ5の吐出量を本発明のゼータ電位範囲内となるようにフィードバック制御する。本発明の範囲内よりもゼータ電位の値が小さい時には、凝集剤注入量を増やし、ゼータ電位の値が大きい時には、凝集剤注入量を減らすことで制御すればよい。また、pH調整溶液の注入量を変更のためには、pH調整溶液注入ポンプ8の吐出量を、本発明のゼータ電位範囲内となるようにフィードバック制御する。この場合、本発明の範囲内よりもゼータ電位の値が小さい時には、凝集水pHを酸性側にシフトさせ、ゼータ電位の値が大きい時には、アルカリ性側にシフトさせるようにpH調整溶液の注入量を制御すればよい。
【0038】
凝集処理条件の制御としては、前記した凝集剤注入量の変更、pH調整溶液の注入量の変更のいずれか一方のみのフィードバック制御でも良いし、また、両方をフィードバック制御しても良い。また、凝集処理水の流動電位をオンラインで連続測定し、フィードバック制御しても良い。
【0039】
以下に具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
凝集処理条件の違いによる膜ファウリングの生成度合いを調べるため、凝集処理水を膜でろ過し、その後に膜の洗浄を行い、洗浄後のろ過抵抗を調べた。洗浄後のろ過抵抗が小さいほど、汚れが膜から剥離し易く、膜ファウリングが起こりにくかったことを示している。試験の詳細を以下に示す。
【0041】
減圧ろ過用フィルターホルダー(ADVANTEC社)を用い、ポリフッ化ビニリデン樹脂製MF平膜(細孔径0.08μm、直径47mm)で凝集処理水を定圧吸引ろ過(60kPa)した。凝集処理水を50mlろ過した後、前記平膜の洗浄を行い、次いで、60kPaで100mlの対照水(純水)をろ過した。対照水をろ過するに要した時間tおよび対照水の水温Tを測定した。
【0042】
なお、予めろ過試験を行う前に、使用する平膜を用い、60kPaで100mlの対照水をろ過し、ろ過するに要した時間tおよび水温Tを測定した。対照水には純水(逆浸透膜処理水:電気伝導度15μS/cm以下)を用いた。また、平膜の洗浄は、洗瓶を用いて平膜上に純水(RO処理水:電気伝導度15μS/cm以下)を約10秒間吹き付ける方法を用いた。
【0043】
洗浄後のろ過抵抗は以下に示す式(1)を用いて算出した。
【数2】

【0044】
上記式(1)中、Rは、次の式(2)より算出した値である。
【数3】

【0045】
ここで、t:洗浄後、対照水を100mlろ過するに要した時間、
:未使用膜において対照水を100mlろ過するに要した時間、である。
また、式中の膜面積は、ろ過に使用された平膜の面積であり、粘度、密度は各水温(T、T)における水の粘度、密度である。
【0046】
<実験例1>
凝集処理水は、下水二次処理水1Lに凝集剤として塩化第二鉄(FeCl)を1mg−Fe/L添加し、pH調整を行うことなく、ジャーテスターを用い、150rpmで急速攪拌を5分間行うことにより調製した。この凝集処理水の凝集pHは6.5であり、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位は−5.4mVであった。また、pH6.5における膜表面ゼータ電位は−9.7mVであった。
【0047】
この凝集処理水をフィルターホルダーに入れ、前記手順にてろ過および洗浄を行い、ろ過抵抗を測定した。この場合は、ゼータ電位の関係が本発明の範囲内であったので、洗浄後のろ過抵抗は1.6×1010(m−1)と小さく、膜ファウリングが抑制されていた。
【0048】
<実験例2>
凝集処理水は、下水二次処理水1Lに凝集剤として塩化第二鉄(FeCl)を10mg−Fe/L添加し、pH調整を行うことなく、ジャーテスターを用い、150rpmで急速攪拌を5分間行うことにより調製した。この凝集処理水の凝集pHは5.5であり、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位は3.5mVであった。また、pH5.5における膜表面ゼータ電位は−5.5mVであった。
【0049】
この凝集処理水をフィルターホルダーに入れ、前記手順にてろ過および洗浄を行い、ろ過抵抗を測定した。この場合は、ゼータ電位の関係が本発明の範囲外であったので、洗浄後のろ過抵抗は1.3×1011(m−1)と、実験例1の場合の8.2倍であり、膜ファウリングが大きかった。
【0050】
<実験例3>
凝集処理水は、下水二次処理水1Lに凝集剤として塩化第二鉄(FeCl)を0.5mg−Fe/L添加し、pH調整を行うことなく、ジャーテスターを用い、150rpmで急速攪拌を5分間行うことにより調製した。この凝集処理水の凝集pHは6.9であり、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位は−12.9mVであった。また、pH6.9における膜表面ゼータ電位は−11.4mVであった。
【0051】
この凝集処理水をフィルターホルダーに入れ、前記手順にてろ過および洗浄を行い、ろ過抵抗を測定した。この場合のゼータ電位は負荷電であるものの−10mVよりも小さかったので、洗浄後のろ過抵抗は4.4×1010(m−1)と、実験例1の場合の2.8倍であった。
【0052】
以上の実験例から、膜表面ゼータ電位が負である多孔質ろ過膜でろ過を行う場合には、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位が負荷電となるように、特に−10mV以上0mV未満の範囲内となるように、凝集処理条件を制御することが、膜ファウリングの生成を抑え、ろ過抵抗の上昇を抑えるために有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明法は、河川水、湖水、地下水、伏流水などの天然水、各種工場廃水や農業廃水、下水あるいはその処理水、海水などを凝集処理した水を膜モジュールで膜ろ過する際に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明法が適用される膜ろ過工程を示す概略フロー図である。
【図2】本発明を実施するための水処理装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0055】
1:原水水槽
2:取水ポンプ
3:急速攪拌槽
4:凝集剤溶液貯槽
5:凝集剤注入ポンプ
6:攪拌機
7:pH調整溶液貯槽
8:pH調整溶液注入ポンプ
9:供給ポンプ
10:ろ過膜モジュール
11:ろ過水水槽
12:膜供給水採水弁
13:膜供給水採水管
14:凝集処理装置
15:ゼータ電位測定装置
16:ゼータ電位測定装置用バイパス
17:凝集処理条件制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を凝集処理した後、多孔質ろ過膜でろ過処理する水処理方法において、凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が負である多孔質ろ過膜でろ過を行うにあたり、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位を求め、このゼータ電位が負荷電となるように前記凝集処理条件を制御することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位が−10mV以上0mV未満の範囲内となるように凝集処理条件を制御することを特徴とする、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
凝集フロックのゼータ電位に基づき制御する凝集処理条件が、凝集剤注入量および/または凝集pHであることを特徴とする、請求項1または2に記載の水処理方法。
【請求項4】
凝集フロックのゼータ電位を、凝集処理水の流動電位から算出することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項5】
凝集pHにおける膜表面ゼータ電位が、−15mV以上0mV未満である多孔質ろ過膜でろ過を行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項6】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる多孔質ろ過膜を用いることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項7】
原水に凝集剤を添加して凝集処理するための凝集処理装置と、該凝集処理装置にて凝集処理した水をろ過するための多孔質膜モジュールと、凝集処理水中の凝集フロックのゼータ電位もしくは凝集処理水の流動電位を測定するための電位測定装置とを備え、さらに、該電位測定装置の測定による凝集フロックゼータ電位値に基づいて凝集処理装置の凝集処理条件を制御する凝集処理条件制御装置を備えていることを特徴とする水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−248028(P2009−248028A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101064(P2008−101064)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】