説明

水処理方法及び超純水製造方法

【課題】 原水中の尿素及び尿素誘導体の濃度が変動しても、これに迅速に追従して尿素を高度に分解することができる水処理方法を提供する。
【解決手段】 1は図示しない原水貯槽から供給される原水Wの前処理システムであり、この前処理システム1で処理された原水Wは、給水槽2に一旦貯留される。そして、この給水槽2は、生物処理手段3に連続していて、この生物処理手段3で処理された原水Wは処理水W1として一次純水装置に供給可能となっている。そして、この生物処理手段3の前段には図示しないpHセンサと供給手段4とが設けられていて、この供給手段4からアンモニア性の窒素源(NH−N)及びpH調整剤としての硫酸が添加可能となっている。このような処理フローにおいて、生物処理手段3の後段で一次純水装置の前段に還元処理手段6を有するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、市水、地下水、工水等の原水の水処理方法及びこの水処理方法で処理した処理水を用いた超純水製造方法に関し、特に原水中の尿素を高度に除去することができる水処理方法及びこの水処理方法で処理した処理水を用いた超純水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、市水、地下水、工水等の原水から超純水を製造する超純水製造装置は、基本的に、前処理装置、一次純水製造装置及び二次純水製造装置から構成される。このうち、前処理装置は、凝集、浮上、濾過装置で構成される。一次純水製造装置は、例えば、2基の逆浸透膜分離装置及び混床式イオン交換装置、あるいはイオン交換純水装置及び逆浸透膜分離装置で構成される。また、二次純水製造装置は、例えば、低圧紫外線酸化装置、混床式イオン交換装置及び限外濾過膜分離装置で構成される。
【0003】
このような超純水製造装置においては、その純度の向上への要求が高まってきており、これに伴いTOC成分の除去が求められている。超純水中のTOC成分のうち、特に尿素はその除去が困難であり、TOC成分を低減すればするほど尿素の除去がTOC成分の含有率に与える影響が大きい。そこで、超純水製造装置に供給される水中から尿素を除去することにより、超純水中のTOCを十分に低減することが特許文献1〜3に記載されている。
【0004】
特許文献1には、前処理装置に生物処理装置を組み込み、この生物処理装置で尿素を分解することが開示されている。また、特許文献2には、前処理装置に生物処理装置を組み込み、被処理水(工業用水)と半導体洗浄回収水との混合水を通水し、この半導体洗浄回収水中に含有される有機物が生物処理反応の炭素源となり、尿素の分解速度を向上させることが開示されている。なお、この半導体洗浄回収水中にはアンモニウムイオン(NH)が多量に含有されている場合があり、これが尿素と同様に窒素源となり、尿素の分解を阻害することがある。さらに、特許文献3には、特許文献2の上記問題点を解決するために、被処理水(工業用水)と半導体洗浄回収水とを別々に生物処理した後に混合し、一次純水製造装置及び二次純水製造装置に通水することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−63592号公報
【特許文献2】特開平6−233997号公報
【特許文献3】特開平7−313994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の水処理方法のように、被処理水に炭素源を添加すると、生物処理装置での尿素分解除去効率は向上するものの、生物処理装置内の菌体の増殖量が大きくなり、当該生物処理装置からの菌体の流出量が増加する、という問題点がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の水処理方法では、炭素源を含有する水として、アンモニウムイオンの含有量の多い半導体洗浄回収水を用いると、アンモニウムイオンが尿素の分解を阻害する、という問題点がある。
【0008】
すなわち、特許文献2に記載された水処理方法では、硝化菌ではなく、BOD資化細菌(従属栄養細菌)が有機物を分解・資化するに当たり、窒素源として尿素及び尿素誘導体を分解し、アンモニアとして摂取することで、尿素及び尿素誘導体を除去する処理機構であると推測される。
【0009】
そこで、本発明者らは、原水にアンモニア性窒素を添加した後、生物処理を実施することにより、尿素を短時間でより低濃度まで除去することが可能な水処理方法及び超純水製造方法を先に提案した(特願2010−105151号等)。
【0010】
この水処理方法は、生物処理にアンモニア性窒素を添加することで、硝化菌群(アンモニア酸化菌群)を増殖させて尿素分解能を向上させるものである。しかしながら、その後の研究の結果、硝化菌群は尿素を分解しなくても、アンモニアの酸化によりエネルギーを生成し増殖可能であり、運転条件によっては、添加したアンモニア性窒素のみを利用し、尿素を分解しない系となる場合があることがわかった。具体的には、尿素及び尿素誘導体の濃度は、市水や工業用水においては季節変動があることが知られており、給水の尿素及び尿素誘導体の濃度に応じて硝化菌群の活性も変化する。すなわち、給水の尿素及び尿素誘導体の濃度が低下するとその活性も低下し、その後給水の尿素及び尿素誘導体の濃度が急激に上昇しても追従できず、処理水に尿素及び尿素誘導体がリークするおそれがあることがわかった。
【0011】
そこで、給水中の尿素及び尿素誘導体の濃度変動に追従して生物処理水の尿素濃度を低く維持するため、常時アンモニア性の窒素源を添加し、硝化菌群の活性を維持することが考えられるが、アンモニア性の窒素の除去性能は維持できても、尿素及び尿素誘導体の除去尿性能は必ずしも維持できない。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、原水中の尿素及び尿素誘導体の濃度が変動しても、これに迅速に追従して尿素を高度に分解することができる水処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この水処理方法を利用した超純水製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、有機物を含有する原水を生物処理する水処理方法において、原水にアンモニア性の窒素源を添加した後、pHを5〜6.5に調整して生物処理を行うことを特徴とする水処理方法を提供する(発明1)。
【0014】
上記発明(発明1)によれば、尿素の除去には硝化菌群が関与しており、原水にアンモニア性の窒素源を添加することにより、硝化菌群(アンモニア酸化菌)がアンモニア性の窒素源を酸化して亜硝酸イオン(NO)とすることで、硝化菌群の活性を維持し、尿素を分解除去することができる。このとき、pHを5〜6.5に調整することにより、中性域に最適値をもつ硝化菌群は、アンモニア酸化活性と尿素分解活性のいずれも至適pHに比べ低下するが、アンモニア酸化活性の低下よりも尿素分解活性の低下の方が少ない。さらに、イオンの状態のアンモニアが増加し、硝化菌群に取り込まれるアンモニアの量が低下する。これらにより、硝化菌群に消費される尿素が増加するので、尿素濃度が大きく変動しても硝化菌群の活性を維持することができ、尿素を効果的に分解・除去することができる。
【0015】
上記発明(発明1)においては、前記アンモニア性の窒素源が、尿素の濃度に対してNH−N/尿素で20以下であるのが好ましい(発明2)。かかる発明(発明2)によれば、アンモニアの濃度を尿素濃度に対して20倍以下とすることで、尿素を優先的に分解除去する機能を維持することができる。
【0016】
上記発明(発明1、2)においては、生物担持担体を有する生物処理手段により前記生物処理を行うのが好ましい(発明3)。また、上記発明(発明3)においては、前記生物処理が、生物担持担体の固定床を有する生物処理手段であるのが好ましい(発明4)。
【0017】
かかる発明(発明3,4)によれば、生物処理手段が生物担持担体を用いた生物膜法であるため、流動床の場合よりも生物処理手段からの菌体の流出を抑制することができ、処理の効果が高く、かつその効果を長期間維持することができる。
【0018】
上記発明(発明1〜4)においては、前記アンモニア性の窒素源が、アンモニウム塩であるのが好ましい(発明5)。
【0019】
上記発明(発明5)によれば、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩は、アンモニア酸化菌により酸化されて亜硝酸イオン(NO)となることで、硝化菌群の活性化に好適であり、また、その添加・制御も容易であり、尿素の濃度を低く維持するのに好適である。
【0020】
上記発明(発明1〜5)においては、前記生物処理の後段において還元処理を行うのが好ましい(発明6)。
【0021】
上記発明(発明6)によれば、生物処理の原水には、塩素系の酸化剤(次亜塩素酸など)が存在することが多いが、これらはアンモニア性の窒素源と反応し結合塩素化合物を形成することがある。結合塩素は遊離塩素と比較して酸化力は低いが、後段の処理において処理部材の酸化劣化を引き起こす可能性があるので、還元処理することにより、この結合塩素化合物を無害化する。
【0022】
また、第二に本発明は、上記発明(発明1〜6)に係る水処理方法で得られた処理水を一次純水装置及び二次純水装置で処理して超純水を製造することを特徴とする超純水製造方法を提供する(発明7)。
【0023】
上記発明(発明7)によれば、一次純水装置及び二次純水装置の前段の生物処理(水処理)において、尿素が十分に分解除去されているため、高純度の超純水を効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の水処理方法によれば、原水にアンモニア性の窒素源を添加し、硝化菌群(アンモニア酸化菌)によりアンモニア性の窒素源が酸化されて亜硝酸イオン(NO)となることで、硝化菌群の活性を維持し、尿素を分解除去することができる。このとき、pHを5〜6.5に調整することにより、硝化菌群に消費される尿素が増加するので、尿素濃度が大きく変動しても硝化菌群の活性を維持することができ、尿素を効果的に分解・除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る水処理方法を示す系統図である。
【図2】前記第一の実施形態の作用効果を示す概略図である。
【図3】本発明の第二の実施形態に係る水処理方法を示す系統図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る水処理方法を利用した超純水製造方法を示す系統図である。
【図5】実施例1及び比較例1の尿素除去効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の第一の実施形態に係る水処理方法を示す概略図である。
【0027】
図1において、1は図示しない原水貯槽から供給される原水Wの前処理システムであり、この前処理システム1で処理された原水Wは、給水槽2に一旦貯留される。そして、この給水槽2は、生物処理手段3に連続していて、この生物処理手段3で処理された原水Wは、処理水W1として一次純水装置に供給可能となっている。この生物処理手段3の前段には図示しないpHセンサと供給手段4とが設けられていて、供給手段4からアンモニア性の窒素源(NH−N)及びpH調整剤としての硫酸が添加可能となっている。なお、5は送給管路である。
【0028】
上述したような構成の生物処理装置において、処理対象となる原水Wとしては、地下水、河川水、市水、その他の工業用水、半導体製造工程からの回収水等を用いることができる。原水(処理対象水)W中の尿素濃度は、5〜200μg/L、特に5〜100μg/L程度が好適である。
【0029】
また、前処理システム1としては、超純水の製造工程における一般的な前処理システム又はこれと同様の処理システムが好適である。具体的には、凝集・加圧浮上・濾過等からなる処理システムを用いることができる。
【0030】
生物処理手段3は、下水等の廃水中の汚濁物質を生物学的作用により分解、安定化させる処理を行う手段であり、好気性処理と嫌気性処理とに区別される。一般的に有機物は、生物処理により酸素呼吸・硝酸呼吸・発酵過程等で分解されて、ガス化されるか、微生物の体内に取り込まれ、汚泥として除去される。また、窒素(硝化脱窒法)やリン(生物学的リン除去法)の除去処理もできる。このような生物処理を行う手段を一般に生物反応槽という。このような生物処理手段3としては、特に制限はないが、生物担持担体の固定床を有するものが好ましい。特に、菌体の流出が少ない下向流方式の固定床が好ましい。
【0031】
生物処理手段3を固定床とする場合、固定床を必要に応じて洗浄するのが好ましい。これにより、生物(菌体)の増殖による固定床の閉塞、マッドボール化、尿素の分解除去効率の低下等が生じることが防止される。この洗浄方法には特に制限はなく、例えば逆洗、すなわち、原水の通水方向と逆方向に洗浄水を通水して担体を流動化させ、堆積物の系外への排出、マッドボールの粉砕、生物の一部の剥離等を行うようにするのが好ましい。
【0032】
また、固定床の担体の種類に特に制限はなく、活性炭、アンスラサイト、砂、ゼオライト、イオン交換樹脂、プラスチック製成形品等が用いられるが、酸化剤の存在下で生物処理を実施するためには、酸化剤の消費量の少ない担体を用いるのが好ましい。ただし、生物処理手段に高濃度の酸化剤が流入する可能性がある場合には、酸化剤を分解し得る活性炭等の担体を用いるのが好ましい。このように活性炭等を用いた場合、被処理水中の酸化剤の濃度が高い場合であっても、菌体が失活、死滅することが防止される。
【0033】
生物処理手段3への通水速度は、SV5〜50hr−1程度とするのが好ましい。この生物処理手段3への給水の水温は常温、例えば10〜35℃であることが好ましい。したがって、必要に応じて生物処理手段の前段に熱交換機を設けるのが好ましい。
【0034】
この生物処理手段3に供給手段4から添加されるアンモニア性の窒素源としては、特に制限はなく、アンモニウム塩(無機化合物)、アンモニア水(水酸化アンモニウム)、さらには蛋白等の生分解によりアンモニウムイオン又は遊離アンモニアが生成され得る有機物等を好適に用いることができる。これらの中では、塩化アンモニウム等の無機アンモニウム塩が好ましい。
【0035】
次に上述したような構成の装置及び添加剤等を用いた水処理方法について説明する。
【0036】
まず、原水Wを前処理システム1に供給して、原水W中の濁質成分を除去することにより、該濁質成分により後段の第一の生物処理手段3での有機物の分解除去効率が低下するのを抑制するとともに、第一の生物処理手段3の圧力損失の増加を抑制する。
【0037】
そして、必要に応じ図示しない熱交換器により、この前処理した原水Wを該原水Wの水温が低い場合には加温し、高い場合には冷却して所定の水温となるように、必要に応じ温度調節を実施する。すなわち、原水Wの水温が高いほど反応速度が高まり分解効率が向上する。一方、水温が高い場合には、生物処理手段3の処理槽や送給管路5の配管等に耐熱性を持たせる必要が生じ、設備コストの増大に繋がる。また、原水Wの水温が低い場合には、加温コストの増大につながる。具体的には、生物反応は水温が40℃以下であれば、基本的には水温が高いほど生物活性および除去速度は向上する。しかしながら、水温が40℃を超えると、逆に生物活性および除去効率は低下する傾向を示すことがある。以上の理由より、処理水温は20〜40℃程度が好ましい。したがって、原水Wの初期の温度が上記範囲内であれば、何もしなくてもよい。
【0038】
このようにして、必要に応じ温度調整を行った原水Wを生物処理手段3に供給し、有機物、特に尿素などの難分解性の有機物を分解除去する。このとき、供給手段4からアンモニア性の窒素源を添加するとともに、硫酸を添加して原水WのpHを5〜6.5に調整する。
【0039】
上述したようなアンモニア性の窒素源の添加量は、0.1〜5mg/L(NH換算)とすればよい。具体的には、原水W中のアンモニウムイオンの濃度が上記範囲内となるように添加する。原水W中のアンモニウムイオン濃度が0.1mg/L(NH換算)未満では、硝化菌群の活性を維持するのが困難となる一方、5mg/L(NH換算)を超えても、さらなる硝化菌群の活性が得られないばかりか、生物処理手段3からのリーク量が多くなりすぎるため好ましくない。
【0040】
アンモニア性の窒素源を、原水W中のアンモニウムイオンの濃度が上記範囲内となるように添加することにより、約10〜30日経過後の生物処理手段3における処理水W1中の尿素濃度を5μg/L以下、特に2μg/L以下にすることができる。
【0041】
このように原水Wにアンモニア性の窒素源を添加することにより、TOCとしての尿素及び尿素誘導体を安定的に分解することができる。これは以下のような理由によるものと推測される。すなわち、尿素及び尿素誘導体の濃度は、市水、工業用水においては季節により変動があることが知られており、原水W中の尿素及び尿素誘導体の濃度が低くなれば、尿素を資化する硝化菌群の活性が低下し、その後急激に尿素の濃度が上昇しても、硝化菌群の活性が追従できず、分解しきれないため、処理水W1にリークする。このため、アンモニア性の窒素源を添加することで、硝化菌群はアンモニア性の窒素源を酸化して亜硝酸イオン(NO)とすることで活性を維持する。これにより、原水W中の尿素及び尿素誘導体の濃度変動に追従し、生物処理手段3での処理水W1の尿素濃度を低く維持することができる。
【0042】
アンモニア性の窒素源は、常時添加する必要はなく、例えば生物担体交換時の立上げ期間のみ添加する方法、あるいは一定期間毎に添加、無添加を繰り返す方法等を用いることができる。このように常時アンモニア性の窒素源を添加しないことにより、アンモニア性の窒素源の添加コストを低減することもできる、という効果も奏する。
【0043】
なお、硝化菌は、溶存酸素の存在下において、餌(アンモニア性の窒素源、尿素、尿素誘導体等)の存在しない状態(空曝気状態)が続くと活性が低下する。この活性低下を回避するための具体策としては、(1)常時又は間欠的にアンモニア性の窒素源を添加する方法(本発明に係る方法)、(2)生物処理給水又は処理水中のアンモニア性窒素、尿素等の濃度に応じてアンモニア性窒素源を添加制御する方法、(3)上記(2)と同様に溶存酸素濃度を制御する方法(脱酸素剤の添加、還元剤の添加、脱気処理、窒素ガス曝気による溶存酸素除去等)が挙げられる。簡便性及びコストの観点から、本発明の方法(上記(1)の方法)がより好ましい方法と考えられる。
【0044】
また、このとき原水WのpHを5〜6.5に調整する理由は以下のとおりである。すなわち、図2に示すように、尿素分解能を有する硝化菌群(アンモニア酸化菌)は、尿素とアンモニアの両方を資化でき、環境条件により優先的に利用する基質は変化する。例えば、高pHやアンモニア/尿素比が高い場合、優先的にアンモニアを利用し尿素分解能はかえって低下する。そこで、原水WのpHを5〜6.5に調整することにより、中性域に最適値をもつ硝化菌群は、アンモニア酸化活性と尿素分解活性のいずれも至適pHに比べ低下するが、アンモニア酸化活性の低下よりも尿素分解活性の低下の方が少ない。さらに、イオンの状態のアンモニアが増加し、アンモニア酸化菌に取り込まれるアンモニアの量が低下する。これらにより硝化菌群により分解される尿素が増加する。これらの作用により、尿素濃度が大きく変動しても硝化菌群の活性を維持することができ、尿素を効果的に分解・除去することができる。なお、pHの下限については、原水WのpHを5未満にすると、硝化菌群の活性が大きくなる。
【0045】
同様の理由により、供給手段4から添加するアンモニア性の窒素源は、原水W中の尿素の濃度に対してNH−N/尿素で20以下となるように添加するのが好ましい。アンモニア性の窒素源の濃度が尿素の濃度の20倍を超えると、尿素分解菌である硝化菌群はアンモニア性の窒素源の分解を優先することになるため、尿素の分解能が低下し、尿素濃度が大幅に増大に追従できず、処理水W1に尿素がリークしやすくなる。なお、アンモニア性の窒素源の添加量の下限は、少なすぎるとその添加による硝化菌の活性維持の効果が軽減することから、NH−N/尿素で1以上とするのが好ましい。
【0046】
なお、この原水W中には、必要に応じさらに酸化剤及び/又は殺菌剤を添加することができる。添加する酸化剤及び/又は殺菌剤の種類には特に制限はなく、尿素を効率的に分解する菌種を優先化し得るものが好適に用いられる。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素等の塩素系酸化剤、モノクロラミン、ジクロラミン等の結合塩素剤(安定化塩素剤)等を好適に用いることができる。
【0047】
次に本発明の第二の実施形態に係る水処理方法について、図3を参照して説明する。第二の実施形態の水処理方法は、前述した第一の実施形態において、生物処理手段3の後段で一次純水装置の前に還元処理手段6を有する以外は同じ構成を有する。
【0048】
このような構成を採用することにより、前述した第一の実施形態において、塩素系酸化剤(次亜塩素酸など)を使用し、余剰塩素が存在する場合には、これらがアンモニア性の窒素源と反応して結合塩素化合物となる。この結合塩素化合物は、遊離塩素と比較して酸化力は低いものの、後段の一次純水装置などにおいて、これらの構成要素の部材の酸化劣化を引き起こす可能性があるが、還元処理を施すことによりこれら結合塩素化合物を無害化することができる。
【0049】
なお、生物処理手段3の生物担持担体の固定床として活性炭を用いた場合、活性炭は塩素系酸化剤を触媒反応により還元処理できることが知られているが、結合塩素化合物を迅速に還元できないためにリークし易く、後段の一次純水装置まで残存し影響する可能性があることから、活性炭を用いる場合であっても、還元処理手段6を設けるのが好ましい。
【0050】
上記還元処理手段6としては、例えば、水素ガスなどの気体、二酸化硫黄などの低級酸化物、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、亜硝酸塩などの低級酸素酸塩、鉄(II)塩などの低原子価金属塩、ギ酸、シュウ酸、L−アスコルビン酸などの有機酸又はその塩、ヒドラジン、アルデヒド類、糖類などのその他の還元剤を添加すればよい。これらの中で、亜硝酸塩、亜硫酸塩、鉄(II)塩、二酸化硫黄、重亜硫酸塩、シュウ酸又はその塩及びL−アスコルビン酸又はその塩を好適に用いることができる。また、還元処理手段6として、活性炭塔を設けて、活性炭によりさらに還元してもよい。
【0051】
還元剤を添加する場合、その添加量は、例えば、還元剤が亜硫酸ナトリウムである場合、亜硫酸イオン(SO2−)と次亜塩素酸イオン(ClO)とが等モル以上となるように添加すればよく、安全性を考慮して1.2〜3.0倍量を添加すればよい。処理水の酸化剤濃度には変動があることから、より好ましくは、処理水の酸化剤濃度を監視し、酸化剤濃度に応じ還元剤添加量を制御することが好ましい。また、簡易的には、定期的に酸化剤濃度を測定し、測定濃度に応じた添加量を適宜設定する方法を用いてもよい。なお、酸化剤濃度の検出手段としては、酸化還元電位(ORP)、また残留塩素に関しては残留塩素計(ポーラログラフ法等)が挙げられる。
【0052】
具体的には、生物処理の給水(原水)W中に遊離塩素が存在した状態で、アンモニア性の窒素源としてアンモニウム塩等を添加する場合、遊離塩素とアンモニウムイオンとが反応し結合塩素(クロラミン)が生成する。結合塩素は遊離塩素と比較して活性炭でも除去し難い成分であり、生物処理水に結合塩素がリークすることとなる。結合塩素は遊離塩素と比較して酸化力は低い成分といわれているが、平衡反応により結合塩素から再度遊離塩素が生成することも知られており、後段の一次純水処理システム等での酸化劣化を引き起こす可能性がある。
【0053】
また、生物処理手段3で処理した原水Wに、スライムコントロール剤を添加してもよい。スライムコントロール剤は、生物処理手段3の処理水中に含まれる菌体(生物担体より剥離してしまった菌体)により引き起こされる後段処理での障害(配管の詰まり、差圧上昇といったスライム障害、RO膜のバイオファウリングなど)の回避を目的に必要に応じて適宜添加すればよい。
【0054】
さらに、必要に応じて菌体分離装置により、生物処理手段3の処理水中に含まれる菌体を除去してもよい。
【0055】
これら還元剤及び/又はスライムコントロール剤の添加や菌体分離装置による処理は、生物処理手段3からの生物処理水の水質に応じて、1又は2以上を適宜行えばよく、水質が良好であれば行わなくてもよい。
【0056】
前述した第一及び第二の実施形態に係る水処理方法によれば、尿素を高度に分解・除去した処理水W1が得られるので、これを純水製造装置によりさらに処理することで、尿素濃度が極めて低い超純水を製造することができる。
【0057】
次に、本発明の水処理方法を利用した超純水製造方法の一実施形態について、図4を参照して説明する。本実施形態における超純水製造方法では、原水Wを、前処理システム11、生物処理装置12、菌体分離手段13、還元処理手段14で処理した後、処理水W1を一次純水装置15及びサブシステム(二次純水装置)19でさらに処理する。なお、菌体分離手段13としては、濾過器、カートリッジフィルタ、精密濾過膜分離装置、限外濾過膜分離装置等を用いることができる。なお、生物処理装置12としては、前述した第一及び第二の水処理方法に示されたものを用いる。
【0058】
一次純水装置15は、第1の逆浸透膜(RO)分離装置16と、第2の逆浸透膜(RO)分離装置17と、混床式イオン交換装置18とをこの順に配置してなる。ただし、この一次純水装置15の装置構成はこのような構成に制限されるものではなく、例えば、逆浸透膜分離装置、イオン交換処理装置、電気脱イオン交換処理装置、UV酸化処理装置等を適宜組み合わせて構成されていてもよい。
【0059】
サブシステム19は、サブタンク20と、熱交換器21と、低圧紫外線酸化装置22と、混床式イオン交換装置23と、UF膜分離装置24とをこの順に配置してなる。ただし、このサブシステム19の装置構成はこのような構成に制限されるものではなく、例えば、脱気処理装置、UV酸化処理装置、イオン交換処理装置(非再生式)、限外濾過膜処理装置(微粒子除去)等を組み合わせて構成されていてもよい。
【0060】
このような超純水製造システムによる超純水製造方法を以下に説明する。まず、前処理システム11は、凝集、加圧浮上(沈殿)、濾過(膜濾過)装置等よりなる。この前処理システム11において、原水中の懸濁物質やコロイド物質が除去される。また、この前処理システム11では高分子系有機物、疎水性有機物等の除去も可能である。
【0061】
この前処理システム11からの流出水に、アンモニア性の窒素源(NH−N)を添加するとともに及びpH調整剤としての硫酸を添加してpHを調整し、必要に応じさらに酸化剤及び/又は殺菌剤を添加した後、生物処理装置12により上述した生物処理が行われる。この生物処理装置12の下流側に設置された菌体分離手段13では、生物処理装置12から流出する微生物や担体微粒子等を分離除去する。この菌体分離手段13は省略してもよい。生物処理装置12の流出水には、上述したように結合塩素化合物が含まれていることがあるため、還元処理手段14により、結合塩素化合物を無害化する。原水W中の塩素系酸化剤の濃度がほとんどない場合には、生物処理装置12の流出水中にも結合塩素化合物がほとんど含まれないので、還元処理手段14における還元剤の添加を省略してもよい。
【0062】
一次純水処理装置15では、第1の逆浸透(RO)膜分離装置16と、第2の逆浸透(RO)膜分離装置17と、混床式イオン交換装置18とにより、生物処理装置12の処理水W1中に残存するイオン成分等を除去する。
【0063】
さらに、サブシステム19では、一次純水装置15の処理水をサブタンク20及び熱交換器21を経て低圧紫外線酸化装置22に導入し、含有されるTOC成分をイオン化又は分解する。このうち、イオン化された有機物は、後段の混床式イオン交換装置23で除去される。この混床式イオン交換装置23の処理水は更にUF膜分離装置24で膜分離処理され、超純水W2を得ることができる。
【0064】
上述したような超純水製造方法によれば、生物処理装置12において、尿素を十分に分解除去し、その後段の一次純水装置15及びサブシステム19でその他のTOC成分、金属イオン、その他の無機・有機イオン成分を除去することにより、尿素が高度に除去された高純度の超純水W2を効率よく製造することができる。
【0065】
また、上記超純水製造方法によれば、原水Wを生物処理装置12に導入する前に前処理システム11に導入して原水W中の濁質を除去している。このため、生物処理装置12での尿素の分解除去効率が濁質のために低下することが防止されるとともに、濁質によって生物処理装置12の圧力損失が増加することが抑制される。また、この超純水製造方法によると、生物処理装置12の下流側に菌体分離手段13、一次純水装置15及びサブシステム19が設けられているため、生物処理装置12から流出する生物又は担体を、これら菌体分離手段13、一次純水装置15及びサブシステム19によって良好に除去することができる、という効果も奏する。
【実施例】
【0066】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0067】
〔実施例1〕
模擬原水Wとして、市水(野木町水:平均尿素濃度10μg/L、平均TOC濃度500μg/L、アンモニウムイオン濃度0.1mg/L未満)に試薬尿素(キシダ化学社製)を適宜添加したものを用いた。
【0068】
図1に示す構成の装置において、生物処理手段3として、生物担体としての粒状活性炭(「クリコール WG160、10/32メッシュ」、栗田工業社製)を円筒容器に2L充填して固定床としたものを用いた。なお、生物処理手段3の粒状活性炭としては、新炭を洗浄後、硝化汚泥200mLを添加した市水2Lに浸漬することで充填し、その後通水を開始した。
【0069】
試験期間中市水の水温は25〜28℃であり、pHは6.5〜7.5であったため、熱交換器により模擬原水Wの水温を約25℃に調整した。このような生物処理装置において、模擬水1を前処理システム1で前処理した後、供給手段4から硫酸を添加して、模擬原水のpHを約6.0〜6.5に調整するとともに、アンモニア性の窒素源として塩化アンモニウム(キシダ化学社製)を添加し、アンモニウムイオン濃度が約0.5mg/L(NH換算)となるように添加した。これらを添加した原水Wを生物処理手段3に下向流にて通水した。通水速度SVは20/hr(毎時通水流量÷充填活性炭量)とした。なお、上記通水処理においては、1日1回、10分間の逆洗を実施した。逆洗は、生物処理水にて、円筒容器下部から上部の上向流にて、LV=25m/hr(毎時通水流量÷円筒容器断面積)にて実施した。
【0070】
上述したような通水条件において、原水Wの連続通水を60日間にわたり実施し、処理水の尿素濃度の分析を行った。この際、まず原水Wの尿素濃度約100μg/Lで27日間通水し、次に28日目以降は原水Wの尿素濃度約25μg/Lで41日目(14日間)まで通水し、さらに、42日目から再度原水Wの尿素濃度約100μg/Lとした。その結果を原水の尿素濃度の変動とともに図5に示す。
【0071】
尿素濃度の分析の手順は以下の通りである。すなわち、まず、検水の全残留塩素濃度をDPD法にて測定し、相当量の重亜硫酸ナトリウムで還元処理する(その後、DPD法にて全残留塩素を測定して、0.02mg/L未満であることを確認する。)。次に、この還元処理した検水をイオン交換樹脂(「KR−UM1」、栗田工業社製)にSV50/hrで通水し、脱イオン処理してロータリーエバポレータにて10〜100倍に濃縮した後、ジアセチルモノオキシム法にて尿素濃度を定量する。
【0072】
図5から明らかなように、アンモニア性の窒素源を添加するとともにpHを約6.0〜6.5に調整した実施例1では、通水21日目で処理水の尿素濃度が2μg/L以下となり、42日目から再度原水Wの尿素濃度約100μg/Lとしてもこれを維持することができた。
【0073】
〔比較例1〕
実施例1において、原水WのpHが7.0〜7.5となるように調整した以外は、同様にして原水Wの処理を行った。この原水Wを60日間にわたり連続通水した際の尿素濃度の分析を行った。その結果を図5にあわせて示す。
【0074】
図5から明らかなように、アンモニア性の窒素源を添加するとともにpHをほぼ中性である約7.0〜7.5に調整した比較例1では、通水21日目で処理水の尿素濃度が2μg/Lとなったが、42日目から再度原水Wの尿素濃度約100μg/Lとしたところ、処理水の尿素濃度は10μg/L以上に上昇し、その後も期間中は10μg/L付近を維持し続けていた。なお、この間に添加したアンモニア性の窒素源は全て硝酸へと変換されていることが確認できた。
【0075】
このような生物処理装置を超純水の製造に適用することで、原水中の尿素を高度に除去することができる超純水製造方法とすることができる。
【符号の説明】
【0076】
3…生物処理手段
4…供給手段
6…還元処理手段
14…還元処理手段
15…一次純水装置
19…サブシステム(二次純水装置)
W…原水
W1…処理水
W2…超純水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含有する原水を生物処理する水処理方法において、
原水にアンモニア性の窒素源を添加した後、pHを5〜6.5に調整して生物処理を行うことを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記アンモニア性の窒素源が、尿素の濃度に対してNH−N/尿素で20以下であることを特徴とする請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記生物処理が、生物担持担体を有する生物処理手段であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記生物処理が、生物担持担体の固定床を有する生物処理手段であることを特徴とする請求項3に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記アンモニア性の窒素源が、アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記生物処理の後段において還元処理を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の水処理方法で得られた処理水を一次純水装置及び二次純水装置で処理して超純水を製造することを特徴とする超純水製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−125732(P2012−125732A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281570(P2010−281570)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】