説明

水分散型粘着剤組成物および粘着シート

【課題】機械的安定性に優れた水分散型ゴム系粘着剤組成物および該粘着剤組成物を用いてなる粘着シートを提供する。
【解決手段】本発明に係る水分散型粘着剤組成物は、ゴム系ラテックスおよび粘着付与樹脂エマルジョンと、疎水性側鎖を有するポリカルボン酸(例えばスチレン−アクリル酸共重合体)またはその塩を主成分とする分散剤と、平均重合度16〜80のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル(ただしアルキル基の炭素数は8〜18)を主成分とする乳化剤と、を含有する。上記分散剤としては、20℃における1質量%水溶液の表面張力が25〜45mN/mであり、且つ中和滴定により求められるカルボキシル基含有量が2〜6mmol/gであるものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散型の粘着(感圧接着ともいう。以下同じ。)剤組成物および該組成物を用いて形成された粘着剤層を備える粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着成分が水に分散した態様の水分散型(水性)粘着剤組成物は、分散媒として水を用いることから、溶剤型の粘着剤組成物に比べて環境衛生上望ましい。このため、種々の粘着剤組成物において溶剤型から水分散型への転換が図られている。
【0003】
このような水分散型粘着剤組成物に要求される性能の一つとして、機械的なシェア(剪断力)に対する分散安定性が挙げられる。一般に、ゴム系ポリマーをベースポリマーとする組成物(水分散型ゴム系粘着剤組成物)では、アクリル系ポリマーをベースポリマーとする組成物に比べて上記機械的安定性が不足しやすい傾向にあることが知られている。水分散型粘着剤組成物の機械的安定性が不足すると、ギヤポンプによる送液やロール塗工機による塗工等の際に加わる機械的シェアによって凝集物が発生しやすくなる。かかる凝集物の発生は、該粘着剤組成物を用いて製造される粘着シートの商品価値(品質)を低下させる要因となり得る。また、機械的安定性の低い水分散型粘着剤組成物は、攪拌、輸送、塗工等の生産方式において制限を受けやすいため、生産性が低くなりがちである。
【0004】
水性粘着剤組成物の機械的安定性向上に関する従来技術文献として特許文献1〜3が挙げられる。なお、特許文献4は水分散型粘着剤組成物のガラス基板接着性、耐熱性および耐湿性の向上に関する従来技術文献である。
【0005】
【特許文献1】特開2007−211231号公報
【特許文献2】特開平7−331208号公報
【特許文献3】特開平7−133437号公報
【特許文献4】特開2007−056248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3には、粘着付与樹脂を特定の材料(乳化剤等)の存在下で乳化してなる粘着付与樹脂エマルジョンを配合することによって水性粘着剤組成物の機械的安定性の向上を図る技術が記載されている。これらの技術とは異なる手段によって水性粘着剤組成物の機械的安定性を向上させる技術、例えば、一般的な乳化剤を用いて製造された粘着付与樹脂エマルジョンを配合してなる水分散型粘着剤組成物等にも適用し得る課題解決手段が提供されれば有益である。
【0007】
本発明の目的は、ゴム系ポリマーをベースポリマーとする組成であって機械的安定性に優れた水分散型粘着剤組成物を提供することである。本発明の他の目的は、かかる粘着剤組成物を用いてなる粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、水分散型粘着剤組成物に特定の分散剤および乳化剤を含有させることにより上記課題を解決し得ることを見出して本発明を完成した。
【0009】
本発明により提供される水分散型粘着剤組成物は、ゴム系ラテックスと粘着付与樹脂エマルジョンとを含む。該組成物は、また、疎水性側鎖を有するポリカルボン酸またはその塩(以下、「ポリカルボン酸(塩)」と表記する。)を主成分とする分散剤(実質的にポリカルボン酸(塩)からなる分散剤であり得る。)を含有する。該組成物は、さらに、平均重合度16〜80のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル(ただし、該アルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素数は8〜18である。)を主成分とする乳化剤を含有する。
かかる粘着剤組成物は、機械的シェアに対して優れた安定性を示す(例えば、ギヤポンプにより送液されても凝集物の発生量が少ない)。したがって、該粘着剤組成物によると高品質な粘着シートを生産することができる。また、該組成物および/または粘着シートの生産方式において上述のような制限が緩和されるので、より高い生産性を実現することが可能である。
【0010】
ここに開示される粘着剤組成物の好ましい一態様では、前記分散剤の1質量%水溶液の表面張力が20℃において凡そ25〜45mN/mである。他の好ましい一態様では、前記分散剤のカルボキシル基含有量(中和滴定により求められる。)が凡そ2〜6mmol/gである。上記表面張力およびカルボキシル基含有量のうち少なくとも一方(好ましくは両方)を満たす分散剤を含む粘着剤組成物は、特に良好な機械的安定性を示すものであり得る。
【0011】
前記疎水性側鎖を有するポリカルボン酸(塩)としては、該疎水性側鎖がフェニル基であるポリカルボン酸(塩)が好ましく選択され得る。このようなポリカルボン酸(塩)の一好適例としてスチレン−アクリル酸共重合体が挙げられる。スチレン−アクリル酸共重合体を主成分とする分散剤を含む粘着剤組成物は、特に良好な機械的安定性を示すものであり得る。
【0012】
上記分散剤の含有量は、不揮発分(固形分)基準で、ゴム系ラテックス100質量部に対して凡そ0.3〜10質量部であることが好ましい。また、上記乳化剤の含有量は、不揮発分基準で、ゴム系ラテックス100質量部に対して凡そ0.1〜6質量部であることが好ましい。ゴム系ラテックス100質量部に対する分散剤と乳化剤との合計含有量は凡そ15質量部以下(典型的には凡そ0.4〜15質量部)とすることが好ましい。かかる粘着剤組成物は、良好な機械的安定性を示し、且つ耐水性(例えば、水に浸っても接着強度等の特性の低下が少ないという性質)に優れた粘着シートを形成するものであり得る。
【0013】
上記粘着付与樹脂エマルジョンの含有量は、不揮発分基準で、前記ゴム系ラテックス100質量部に対して20〜200質量部であることが好ましい。かかる粘着剤組成物は、良好な機械的安定性を示し、且つ高性能な(例えば、接着性、凝集性等の特性が高レベルでバランスした)粘着シートを形成するものであり得る。
【0014】
本発明によると、また、ここに開示されるいずれかの水分散型粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える粘着シートが提供される。上述のように機械的安定性に優れた上記粘着剤組成物によると、該組成物および粘着シートの製造時における凝集物の発生が抑えられるので、高品質な粘着剤層(ひいては、該粘着剤層を備えた粘着シート)を効率よく形成することができる。
【0015】
上記粘着シートは、例えば、支持体としての塩化ビニル系樹脂シートまたは紙の少なくとも片面に前記粘着剤層が設けられた構成であり得る。かかる支持体にゴム系の粘着剤層が設けられた構成の粘着シートは、電気絶縁用、ワイヤーハーネスの保護および/または結束用等の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
ここに開示される水分散型粘着剤組成物におけるゴム系ラテックスは、公知の各種ゴム系ポリマーが水に分散したものであり得る。天然ゴムラテックスおよび合成ゴムラテックスのいずれも使用可能である。合成ゴムラテックスの例としては、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(SBRラテックス)、クロロプレンラテックス等が挙げられる。かかるゴム系ラテックスは、一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
天然ゴムラテックスとしては、例えば、水分散型粘着剤組成物に用いられる公知の材料を特に制限なく使用することができる。解重合されたものでもよく、解重合されていないものでもよい。また、ここでいう天然ゴムラテックスは、未変性の天然ゴムラテックスに限定されず、例えばアクリル酸エステル等により変性された変性天然ゴムラテックスであってもよい。未変性天然ゴムラテックスと変性天然ゴムラテックスとを併用してもよい。
合成ゴムラテックス(SBRラテックス、クロロプレンラテックス等)についても、粘着剤用等として市販されているものを特に制限なく使用することができる。未変性の合成ゴムラテックスおよび変性(例えばカルボキシ変性)された合成ゴムラテックスのいずれも使用可能である。
【0018】
本発明に係る粘着剤組成物の好ましい一態様では、該組成物がゴムラテックスとして天然ゴムラテックスおよびSBRラテックスを含有する。このような粘着剤組成物によると、接着性等の性能に優れた粘着シート(例えば電気絶縁用粘着テープ)が形成され得る。使用する天然ゴムラテックスとSBRラテックスとの質量比(天然ゴムラテックス:SBRラテックス)は、不揮発分基準で、凡そ10:90〜90:10の範囲にあることが好ましく、より好ましくは凡そ20:80〜80:20、さらに好ましくは凡そ30:70〜70:30である。
【0019】
ここに開示される水分散型粘着剤組成物における粘着付与樹脂エマルジョンは、公知の各種粘着付与樹脂が水に分散したものであり得る。該粘着付与樹脂は特に制限されず、例えばロジン系、炭化水素系、テルペン系、アルキルフェノール系等の粘着付与樹脂であり得る。これらのうち一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
【0020】
ロジン系の粘着付与樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンの未変性ロジン(生ロジン);該未変性ロジンを水素添加処理、不均化処理、重合等により変性した変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、その他の化学的に修飾されたロジン等);その他の各種ロジン誘導体;等が挙げられる。
上記ロジン誘導体の例としてはロジンエステル類、ロジンフェノール類が挙げられる。上記ロジンエステル類としては、未変性または変性ロジンと多価アルコールとをエステル化反応させて得られたロジンエステル;未変性または変性ロジンを不飽和脂肪酸(フマル酸、マレイン酸等)で部分的に変性し、次いでエステル化して得られる不飽和脂肪酸変性ロジンの多価アルコールエステル;未変性または変性ロジンを不飽和脂肪酸で部分的に変性した後、不均化し、次いでエステル化して得られる不飽和脂肪酸変性不均化ロジンの多価アルコールエステル;等が例示される。上記ロジンフェノール類としては、ロジン類にフェノール類を付加させ熱重合したもの;該熱重合物をエステル化したもの;等が例示される。なお、上記エステル化に用いられる多価アルコールは特に制限されず、例えば、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール等の公知の各種多価アルコールを使用することができる。
【0021】
また、炭化水素系(石油系と称されることもある。)の粘着付与樹脂としては、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族/芳香族系炭化水素樹脂、これらの水素化物等が例示される。
脂肪族系炭化水素樹脂の例としては、石油ナフサの分解留分のうち主にC5留分(ピペリレン、ピペリレン、イソプレン、2−メチル−2−ブテン、ジシクロペンタジエン等)の単独重合体、共重合体、これらの水素添加物(いわゆるC5系石油樹脂等)が挙げられる。芳香族系炭化水素樹脂の例としては、石油ナフサの分解留分のうち主にC9留分(スチレン、メチルスチレン、インデン、メチルインデン、クマロン等)の単独重合体、共重合体、これらの水素添加物(いわゆるC9系石油樹脂等)が挙げられる。脂肪族/芳香族系炭化水素樹脂の例としては、石油ナフサの分解留分のうち主にC5留分およびC9留分を共重合したものおよびその水素添加物(いわゆるC5−C9共重合系石油樹脂等)が挙げられる。
【0022】
テルペン系の粘着付与樹脂としては、例えば、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、ジペンテンのようなテルペン類の単独重合体、共重合体、これらの水素添加物等のテルペン系樹脂;テルペン類とスチレン等の芳香族モノマーとを共重合させた芳香族変性テルペン系樹脂やその水素添加物等の変性テルペン系樹脂;等が挙げられる。
アルキルフェノール系の粘着付与樹脂としては、一般に粘着剤用として知られているもの等を特に限定なく使用することができる。レゾール型およびノボラック型のいずれも使用可能である。
【0023】
かかる粘着付与樹脂が水に分散した粘着付与樹脂エマルジョンは、公知の粘着付与樹脂乳化方法を適宜採用して作製することができ、あるいは市販の粘着付与樹脂エマルジョンを使用してもよい。上記乳化方法としては、高圧乳化法、反転乳化法等が例示される。
上記高圧乳化方法は、例えば、粘着付与樹脂を溶剤(典型的にはベンゼン、トルエン等)に溶解した溶液に水および適当な乳化剤を添加し、高圧乳化機を用いてエマルジョン化した後、必要に応じて上記溶剤を除去(例えば減圧留去)する態様で行うことができる。また、粘着付与樹脂を軟化点以上に加熱して溶融状態とし、これに水と適当な乳化剤とを混合し、高圧乳化機にてエマルジョン化することにより(無溶剤系高圧乳化法)、有機溶剤を実質的に使用することなく粘着付与樹脂エマルジョンを調製することができる。
上記反転乳化法は、例えば、粘着付与樹脂に少量の溶剤(ベンゼン、トルエン等)を混合し、次いで適当な乳化剤を練り込み、さらに熱水を徐々に添加して転相乳化させることによりエマルジョン化する態様で行うことができる。また、粘着付与樹脂をその軟化点以上に昇温して乳化剤を練り込み、これに熱水を徐々に添加して転相乳化させることにより(無溶剤系転相乳化法)、有機溶剤を実質的に使用することなく粘着付与樹脂エマルジョンを調製することができる。
【0024】
粘着付与樹脂のエマルジョン化に使用する乳化剤は特に限定されず、公知の乳化剤から適宜選択して使用することができる。アニオン系乳化剤および/またはノニオン系乳化剤の使用が好ましい。アニオン系乳化剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸塩型アニオン系乳化剤;スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム等のスルホコハク酸型アニオン系乳化剤;等が挙げられる。また、ノニオン系乳化剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー;等が挙げられる。
【0025】
粘着剤組成物に含まれるゴム系ラテックスと粘着付与樹脂エマルジョンとの割合は、用途に応じて適宜決定することができる。通常は、不揮発分基準で、ゴム系ラテックス100質量部に対して粘着付与樹脂エマルジョン凡そ20〜200質量部(好ましくは凡そ30〜150質量部、例えば凡そ40〜100質量部)を含む組成とすることが適当である。ゴム系ラテックスに対する粘着付与樹脂エマルジョンの含有量が上記範囲よりも少なすぎると、該組成物を用いて得られる粘着シートの接着性が低下傾向となることがある。一方、粘着付与樹脂エマルジョンの含有量が上記範囲よりも多すぎると、得られる粘着シートの凝集性が低くなりがちである。
【0026】
ここに開示される粘着剤組成物は、上記ゴム系ラテックスおよび粘着付与樹脂エマルジョンに加えて、疎水性側鎖を有するポリカルボン酸(塩)を主成分とする分散剤(以下、「特定分散剤」ということもある。)を含有する。ここで「主成分」とは、不揮発分のうち50質量%以上を占める成分をいう。上記特定分散剤は、典型的には上記疎水性側鎖を有するポリカルボン酸(塩)が不揮発分の75質量%以上(例えば90質量%以上)を占めるものであり、該ポリカルボン酸(塩)から実質的に構成されるものであってもよい。
上記ポリカルボン酸(塩)の有する疎水性側鎖は、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、炭素数5以上(好ましくは8以上、典型的には20以下)の直鎖状または分岐状アルキル基、シクロアルキル基等の疎水性官能基(ペンダント基)であり得る。上記疎水性官能基が極性の低い置換基(例えば、メチル基等のアルキル基)をさらに有する構造の疎水性官能基であってもよい。
上記特定分散剤に含まれるポリカルボン酸(塩)は一種であってもよく二種以上であってもよい。また、該ポリカルボン酸(塩)の有する疎水性側鎖は一種であってもよく二種以上であってもよい。少なくともフェニル基を含む構造の疎水性側鎖を有するポリカルボン酸(塩)を含有する(例えば該ポリカルボン酸(塩)を主成分とする、典型的には該ポリカルボン酸(塩)から実質的に構成される)分散剤の使用が好ましい。換言すれば、少なくともフェニル基を含む構造の疎水性側鎖を有するポリカルボン酸(塩)を含有する粘着剤組成物が好ましい。
【0027】
このような疎水性側鎖を有するポリカルボン酸(塩)が粘着剤組成物中に含まれることは、例えば、該組成物のIRスペクトル等に基づいて(典型的には、該IRスペクトルについて疎水性官能基の特性吸収を帰属することにより)把握することができる。一例として、ポリカルボン酸(塩)にスチレンが共重合されている場合(すなわち、疎水性官能基として少なくともフェニル基を有する場合)、例えば図7および図8に示されるように、IRチャートの3030cm−1付近、1550〜1580cm−1付近、760cm−1付近および700cm−1付近の特性吸収から、該ポリカルボン酸(塩)が共重合成分としてスチレンを含むこと(したがって、ここに開示される技術における特性分散剤に該当すること)を把握することができる。
【0028】
かかる疎水性側鎖を有するポリカルボン酸(塩)は、例えば、上記のような疎水性側鎖を導入可能なモノマーとカルボキシル基を導入可能なモノマーとを含むモノマー原料を適当な方法で重合させることにより得ることができる。ポリカルボン酸(塩)の分子量は特に限定されないが、例えば質量平均分子量が凡そ1×10〜200×10(より好ましくは凡そ5×10〜50×10)程度のものを好ましく使用することができる。
【0029】
上記カルボキシル基を導入可能なモノマー(カルボキシル基含有モノマー)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等のチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸およびその無水物、イタコン酸およびその無水物、シトラコン酸およびその無水物、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸およびその無水物;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸等の不飽和ジカルボン酸モノエステル;2−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、2−メタクリロイルオキシエチルピロメリット酸等の不飽和トリカルボン酸モノエステル;カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート等のカルボキシアルキルアクリレート;等が挙げられる。上記モノマー原料は、このようなカルボキシル基含有モノマーから選択される一種または二種以上を含むものであり得る。例えば、アクリル酸、カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有モノマーを好ましく使用することができる。
【0030】
上記疎水性側鎖を導入可能なモノマー(疎水性官能基含有モノマー)としては、一分子中に上述のような疎水性官能基とエチレン性不飽和基とを有する単量体、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ケイ皮酸等が挙げられる。なお、ケイ皮酸はカルボキシル基含有モノマー且つ疎水性官能基含有モノマーとして用いることができる。
【0031】
ポリカルボン酸の塩を形成するカチオンは特に制限されない。例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオンのアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン、モノアルキルアンモニウムイオン、ジアルキルアンモニウムイオン、トリアルキルアンモニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン等の四級アンモニウムイオン;等が挙げられる。上記カチオンがアンモニウムイオンまたはナトリウムイオンであるポリカルボン酸塩が好ましい。
【0032】
上記特定分散剤としては、20℃における1重量%水溶液の表面張力の値が凡そ25〜45mN/m(より好ましくは凡そ30〜40mN/m、例えば凡そ35〜40mN/m)であるものを好ましく使用し得る。上記範囲よりも表面張力が大きすぎると、水分散型粘着剤組成物を構成する分散粒子への吸着が弱くなり、分散剤としての機能が十分に発揮され難くなる場合がある。上記表面張力としては、例えば、市販の表面張力測定装置を用いて公知のウィルヘルミ法等により求めた値を採用することができる。
【0033】
また、上記特定分散剤としては、中和滴定により求められるカルボキシル基含有量の値が凡そ2〜6mmol/g(好ましくは2.5〜3.5mmol/g)であるものを好ましく使用し得る。上記範囲よりもカルボキシル基の含有量が多すぎるかまたは少なすぎると、水分散型粘着剤組成物の機械的安定性を向上させる効果が十分に発揮され難くなる場合がある。
なお、上記中和滴定によってカルボキシル基含有量を求める操作は、例えば、概略以下の手順により行うことができる。すなわち、測定対象たる分散剤の所定量を秤量して希釈した後、該希釈液に含まれる分散剤に対して過剰量の酸性標準溶液(塩酸等の酸性水溶液)を添加して滴定用試料を調製する。そして、上記滴定用試料を塩基性標準溶液(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性水溶液)で中和滴定(逆滴定)する。このときpH電極等を用いて得られた第1当量点および第2当量点から、分散剤のカルボキシル基含有量を求めることができる。
【0034】
上記特定分散剤の主成分たるポリカルボン酸(塩)の好適例として、スチレンとアクリル酸とを含むモノマー原料を重合してなる共重合体(すなわち、疎水性側鎖としてフェニル基を有するポリアクリル酸またはその塩)が挙げられる。上記モノマー原料は、実質的にスチレンおよびアクリル酸のみを含む組成であってもよく、スチレンおよびアクリル酸に加えて他のモノマーを含む組成であってもよい。かかるモノマー原料組成は、上述した好ましい表面張力および/またはカルボキシル基含有量が実現されるように適宜設定することができる。好ましく使用される特定分散剤の市販品としては、サンノプコ株式会社の商品名「SNディスパーサント5027」(ポリカルボン酸アンモニウム塩系分散剤。該ポリカルボン酸はフェニル基を含む構造の疎水性側鎖を有する。)、第一工業製薬株式会社の商品名「DKSディスコートN−14」(ポリカルボン酸アンモニウム塩系分散剤。該ポリカルボン酸はフェニル基を含む構造の疎水性側鎖を有する。)、荒川化学株式会社の商品名「アラスター703S」(スチレンマレイン酸樹脂半エステル系分散剤)等が挙げられる。
【0035】
上記特定分散剤の配合割合は、不揮発分基準で、例えば、ゴム系ラテックス100質量部に対して凡そ0.3〜10質量部とすることができる。ゴム系ラテックス100質量部に対して特定分散剤凡そ2〜8質量部を含有する粘着剤組成物がより好ましい。特定分散剤の配合割合が上記範囲よりも少なすぎると、水分散型粘着剤組成物の機械的安定性を向上させる効果が十分に発揮されないことがある。特定分散剤の配合割合が上記範囲よりも多すぎると、この粘着剤組成物を用いてなる粘着シートの特性(耐水性等)が低下傾向となることがある。
【0036】
ここに開示される粘着剤組成物は、また、平均重合度が凡そ16〜80のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩ともいう。)を主成分とする乳化剤(以下、「特定乳化剤」ということもある。)を含有する。上記アルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素数は8〜18である。ここで「主成分」とは、上記と同様に、不揮発分のうち50質量%以上を占める成分をいう。上記特定乳化剤は、典型的には上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルが不揮発分の75質量%以上(例えば90質量%以上)を占めるものであり、該ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルから実質的に構成されるものであってもよい。
【0037】
かかる特定乳化剤の典型例として、下記式(1):
RO−(CHCHO)−SOX (1);
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルを主成分とするものが挙げられる。式(1)中のRは炭素数8〜18の直鎖状または分岐状アルキル基であり、具体例としては2−エチルヘキシル基、オレイル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、セチル基、ステアリル基等が挙げられる。また、式(1)中のnは16〜80であり、好ましくは20〜60である。式(1)中のXは一価のカチオンであり、例えば、ポリカルボン酸の塩を形成するカチオンとして例示したアルカリ金属イオン、第四級アンモニウムイオン等であり得る。Xがアンモニウムイオンまたはナトリウムイオンであるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルが好ましい。
【0038】
このようなポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルは、一種を単独で使用してもよく、二種以上(例えば、アルキル基の炭素数および/または構造、平均重合度等が互いに異なるもの)を併用してもよい。
好ましく使用される特定乳化剤の市販品として、日本乳化剤株式会社の商品名「ニューコール1020SN」、同「ニューコール2320SN」、同「ニューコール2360SN」、第一工業製薬株式会社の商品名「ハイテノールL−16」等を例示することができる。
【0039】
上記特定乳化剤の配合割合は、不揮発分基準で、例えば、ゴム系ラテックス100質量部に対して凡そ0.1〜6質量部(好ましくは凡そ0.5〜5質量部)とすることができる。特定乳化剤の配合割合が上記範囲よりも少なすぎると、水分散型粘着剤組成物の機械的安定性を向上させる効果が十分に発揮されないことがある。特定乳化剤の配合割合が上記範囲よりも多すぎると、この粘着剤組成物を用いてなる粘着シートの特性(耐水性、凝集性等)が低下傾向となることがある。
【0040】
また、ここに開示される粘着剤組成物における特定分散剤と特定乳化剤との合計含有量は、不揮発分基準で、ゴム系ラテックス100質量部に対して凡そ15質量部以下(典型的には凡そ0.5〜15質量部)とすることが好ましく、凡そ10質量部以下(典型的には凡そ2.5〜10質量部)とすることがより好ましい。この合計含有量が少なすぎると十分な機械的安定性向上効果が得られ難くなることがあり、多すぎると粘着シートの特性(耐水性、凝集性等)が低下傾向となることがある。
【0041】
上記粘着剤組成物は、必要に応じて、粘度調整剤(増粘剤等)、レベリング剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、顔料や染料等の着色剤、光安定化剤、老化防止剤、酸化防止剤、耐水化剤、消泡剤、防腐剤、架橋剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤を含有するものであり得る。上記粘着剤組成物は、必要に応じて、特定分散剤に加えて他の(すなわち、特定分散剤以外の)分散剤を含んでもよい。かかる分散剤としては、保護コロイドとして機能し得るものが好ましく、例えばゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、セルロースの水溶性塩、セルロース誘導体、疎水性側鎖を有しないポリアクリル酸(塩)、等の水溶性ポリマーを用いることができる。また、上記粘着剤組成物は、必要に応じて、特定乳化剤に加えて他の乳化剤を含んでもよい。かかる乳化剤としては、例えば、粘着付与樹脂のエマルジョン化に使用する乳化剤として例示したものであって特定乳化剤以外のものを用いることができる。
【0042】
ここに開示される粘着剤組成物は、例えば、ゴム系ラテックス、粘着付与樹脂エマルジョン、特定分散剤、特定乳化剤および必要に応じて使用される任意成分(上記添加剤等)を混合することにより製造することができる。特定分散剤、特定乳化剤および上記任意成分は、そのままの形態で混合されてもよく、水溶液または水分散液(エマルジョン等)の形態で混合されてもよい。また、例えば上記任意成分(特定分散剤、特定乳化剤についても同様である。)をゴム系ラテックスと予備混合した後、その任意成分含有ゴム系ラテックスを粘着付与樹脂エマルジョン等の他成分と混合してもよい。あるいは、例えば上述した高圧乳化法による粘着付与樹脂エマルジョンの調製において粘着付与樹脂とともに上記任意成分をエマルジョン化し、その任意成分含有粘着付与樹脂エマルジョンをゴム系ラテックス等の他成分と混合してもよい。
【0043】
本発明に係る粘着シートは、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える。かかる粘着剤層をシート状基材(支持体)の片面または両面に有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、あるいは該粘着剤層が剥離ライナー上に設けられた形態等の基材レスの粘着シートであってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。なお、上記粘着剤層は連続的に形成されたものに限定されず、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。
【0044】
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1〜図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち図1,図2は、両面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図1に示す粘着シート11は、基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層2が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す粘着シート12は、基材1の両面に粘着剤層2が設けられ、それらの粘着剤層のうち一方が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有している。この種の粘着シート12は、該粘着シート12を巻回することにより他方の粘着剤層を剥離ライナー3の裏面に当接させ、該他方の粘着剤層もまた剥離ライナー3によって保護された構成とすることができる。
図3,図4は、基材レスの粘着シートの構成例である。図3に示す粘着シート13は、基材レスの粘着剤層2の両面が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によってそれぞれ保護された構成を有する。図4に示す粘着シート14は、基材レスの粘着剤層2の一面が、両面が剥離面となっている剥離ライナー3により保護された構成を有し、これを巻回すると粘着剤層2の他面が剥離ライナー3に当接して該他面もまた剥離ライナー3で保護された構成とできるようになっている。
図5,図6は、片面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図5に示す粘着シート15は、基材1の片面に粘着剤層2が設けられ、その粘着剤層2の表面(接着面)が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー3によって保護された構成を有する。図6に示す粘着シート16は、基材1の一面に粘着剤層2が設けられた構成を有する。その基材1の他面は剥離面となっており、粘着シート16を巻回すると該他面に粘着剤層2が当接して該粘着剤層の表面(接着面)が基材1の他面で保護された構成とできるようになっている。
【0045】
このような粘着シートを構成する基材としては、例えば、オレフィン系樹脂シート(ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合体フィルム等)、塩化ビニル系樹脂シート(ポリ塩化ビニルフィルム等。以下「PVCシート」ともいう。)、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等のフォーム基材;クラフト紙、クレープ紙、和紙等の紙;綿布、スフ布等の布;ポリエステル不織布、ビニロン不織布等の不織布;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;等を、粘着シートの用途に応じて適宜選択して用いることができる。上記プラスチックフィルムとしては、無延伸フィルムおよび延伸(一軸延伸または二軸延伸)フィルムのいずれも使用可能である。電気絶縁用、ワイヤーハーネスの保護および/または結束用等の粘着シートでは、上記基材(支持体)としてPVCシート、紙(例えばクレープ紙)等を好ましく選択することができる。基材の厚みは目的に応じて適宜選択できるが、一般的には概ね10μm〜500μm(典型的には10μm〜200μm)程度である。
なお、上記基材には印刷等の装飾加工が施されていてもよい。また、基材のうち粘着剤層が設けられる面には、必要に応じて下塗剤の塗布、コロナ放電処理等の表面処理が施されていてもよい。基材の一面に粘着剤層が設けられる構成において、該基材の他面(背面)には、必要に応じて離型処理が施されていてもよい。
【0046】
上記粘着剤層は、例えば、ここに開示されるいずれかの水性粘着剤組成物を基材または剥離ライナーに付与(典型的には塗布)し、該組成物を乾燥させることにより形成され得る。粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。特に限定するものではないが、粘着剤組成物の塗布厚は、乾燥後に形成される粘着剤層の厚みが例えば凡そ2μm〜150μm(典型的には凡そ5μm〜100μm、例えば凡そ10μm〜80μm)となる程度の塗布厚とすることができる。架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。基材の種類にもよるが、例えば凡そ40〜120℃程度の乾燥温度を採用することができる。なお、基材付き粘着シートの場合、基材に直接粘着剤組成物を付与して粘着剤層を形成してもよく、剥離ライナー上に形成した粘着剤層を基材に転写してもよい。
【0047】
ここに開示される水分散型粘着剤組成物は、高い機械的安定性を有することから、ギヤポンプによる送液やロール塗工機による塗工等において加わる機械的シェアに対し、凝集物の発生を高度に抑制することができる。したがって、かかる凝集物に起因する商品価値の低下を未然に防いで高品質の粘着シートを生産することができる。また、上記粘着剤組成物の機械的安定性が改善されていることにより、該組成物の攪拌、輸送、塗工等の生産方式における制限が緩和されるので、上記粘着剤組成物および/または粘着シートの生産性を高めることができる。
【0048】
本発明を実施するにあたり、上記特定分散剤および特定乳化剤の使用によって機械的安定性が向上する理由を明らかにする必要はないが、例えば次のように推察される。すなわち、本発明に係る粘着剤組成物では、上記特定分散剤が主としてゴム系ポリマー(天然ゴム等)の分散安定性向上に寄与し、上記特定乳化剤が主として粘着付与樹脂の分散安定性向上に寄与するものと考えられる。これは、各材料のSP(溶解度パラメータ)の関係から、SP値のより近い材料同士が相互作用して安定性が向上するものと推測されるためである。このように粘着剤組成物に含まれる複数種類の分散粒子に対し、それらの材質に応じてそれぞれ適切に選択された特定の安定性向上成分を含有させることにより、全体として高い機械的安定性向上効果が実現されたものと推察される。
【0049】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り、不揮発分の質量基準である。
【0050】
以下の例において使用した分散剤は次のとおりである。
分散剤A:スチレン−アクリル酸共重合体のアンモニウム塩を主成分とする分散剤(サンノプコ株式会社、商品名「SNディスパーサント5027」)。
分散剤B:スチレン−アクリル酸共重合体のアンモニウム塩を主成分とする分散剤(第一工業製薬株式会社、商品名「DKSディスコートN−14」)。
分散剤C:ポリアクリル酸ナトリウムを主成分とする分散剤(日本触媒株式会社、商品名「アクアリックDL−522」)。
分散剤D:アンモニア変性されたイソブチレン−無水マレイン酸共重合体を主成分とする分散剤(クラレ株式会社、商品名「イソバン110」)。
【0051】
これら分散剤A〜Dの表面張力およびカルボキシル基含有量を、疎水性側鎖(ここではフェニル基)の有無と併せて表1に示す。また、分散剤AおよびBのIRスペクトルを常法により測定した。得られたIRチャートを、分散剤Aについては図7に、分散剤Bについては図8に示す。これらの図に示されるように、分散剤A,BのいずれについてもIRチャートの3030cm−1付近、1550〜1580cm−1付近、760cm−1付近および700cm−1付近に特性吸収を有することが確認された。この結果は、これら分散剤A,Bのいずれにおいてもポリカルボン酸(塩)にスチレンが共重合されている(したがって、疎水性側鎖としてのフェニル基を有する)ことを支持するものである。
【0052】
【表1】

【0053】
また、以下の例において使用した乳化剤は次のとおりである。
乳化剤A:平均重合度20のポリオキシエチレンアルキル(炭素数8)エーテル硫酸エステル、すなわち上記式(1)におけるnが20であり、Rが炭素数8のアルキル基である化合物を主成分とする乳化剤(日本乳化剤株式会社、商品名「ニューコール1020SN」)。
乳化剤B:平均重合度60のポリオキシエチレンアルキル(炭素数12)エーテル硫酸エステル、すなわち上記式(1)におけるnが60であり、Rが炭素数12のアルキル基である化合物を主成分とする乳化剤(日本乳化剤株式会社、商品名「ニューコール2360SN」)。
【0054】
なお、各分散剤の表面張力は以下の方法により求めた。すなわち、イオン交換水を用いて各分散剤の1%水溶液を調製し、該水溶液の表面張力を、20℃の条件下において表面張力測定装置(株式会社島津製作所、型式「ST−1S」)およびプローブとしてのガラス製張力測定板を使用してウィルヘルミ法により求めた。
【0055】
また、各分散剤のカルボキシル基含有量は、自動滴定装置(平沼産業株式会社、商品名「COMTITE」)、比較電極(同、形式「RE201」)およびガラス電極(同、形式「GE−101」)を用いた中和滴定により定量した。より具体的には、まず各分散剤をイオン交換水で10倍に希釈した後、該分散剤希釈液1g(有姿)を秤量し、これにイオン交換水50gおよび0.1N−HCl 5〜6mlを添加して滴定用試料を調製した。次いで、自動滴定装置を用いて上記滴定用試料を0.1N−KOHで中和滴定した。このときの第1当量点および第2当量点から、各分散剤のカルボキシル基含有量を下記式(2)により算出した。
【0056】
カルボキシル基含有量[mmol/g]
=0.1[mol/ml]×(V−V)[ml]×1000/WS[g] (2)
(ただし、上記式(2)中、Vは第1当量点におけるKOH量[ml]であり、Vは第2当量点におけるKOH量[ml]であり、WSは滴定用試料中に含まれる分散剤の不揮発分基準の質量[g]である。)
【0057】
<例1>
ゴム系ラテックスとして、天然ゴムラテックス(GOLDEN HOPE社製品、商品名「HYTEX HA」)およびSBRラテックス(日本ゼオン株式会社製品、商品名「Nipol LX426」)を用意した。また、テルペン系粘着付与樹脂(ヤスハラケミカル株式会社製品、商品名「YSレジンPX800」)60部をトルエン15部に溶解して樹脂溶液を作製し、この樹脂溶液75部(トルエン15部を含む。)と、ノニオン系界面活性剤(第一工業製薬株式会社製品、商品名「ノイゲンEA120」)8部と、老化防止剤(大内新興化学株式会社製品、商品名「ノクラックNS−6」)4部とを攪拌機によりイオン交換水87部に分散させて、粘着付与樹脂を含む樹脂エマルジョンを作製した。上記天然ゴムラテックス50部、上記SBRラテックス50部および上記樹脂エマルジョン174部(有姿量。すなわちトルエン15部およびイオン交換水87部を含む。)を混合してベース粘着剤を調製した。
上記ベース粘着剤に含まれるゴム系ラテックス(すなわち、天然ゴムラテックスとSBRラテックスの合計量)100部当たり、分散剤A4部および乳化剤A3部を添加混合して、例1に係る水分散型粘着剤組成物を得た。
【0058】
<例2〜10>
使用した分散剤および乳化剤の種類とゴム系ラテックス100部に対する添加量を表2に示すとおりとした点以外は例1と同様にして、例2〜10に係る水分散型粘着剤組成物を得た。なお、表2中の数値はゴム系ラテックス100部当たりの添加量[部]を表す。
【0059】
例1〜10に係る粘着剤組成物につき、以下の機械的安定性試験により機械的シェアに対する安定性を評価した。また、各粘着剤組成物を厚さ80μmのPVCシートの片面に塗布して乾燥させることにより例1〜10に係る粘着シートを作製し、該粘着シートの耐水性を以下の耐水性試験により評価した。なお、粘着剤組成物の塗布にはキスロールコーターを使用し、乾燥後に形成される粘着剤層の厚さが20μmとなるように塗布量を調整した。得られた結果を表2に示す。
【0060】
[機械的安定性試験]
例1〜10に係る粘着剤組成物50リットルを、ギヤポンプ(高千穂機械株式会社、型式「CDSE−50G」、吐出量6.25cc/rev)を用いて2.5kg/分の流量で80メッシュのナイロンメッシュを通しながら30分間循環させた。その後、ナイロンメッシュの質量を使用前と比較することにより、該ナイロンメッシュに付着した凝集物の質量を求めた。その凝集物の質量(凝集物発生量)から、各粘着剤組成物の機械的安定性を以下の3段階で評価した。
○:凝集物発生量が10g以下。
△:凝集物発生量が10gを超えて50g以下。
×;凝集物発生量が50g超。
【0061】
[耐水性試験]
例1〜10に係る粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットして試験片を作製した。被着体としてのSUS304ステンレス板に上記試験片を、2kgのローラを1往復させる方法で圧着した。これを23℃に30分間放置した後、JIS Z0237に準じ、温度23℃、相対湿度50%の測定環境下、引張試験機を使用して引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件で接着強度[N/20mm]を測定した(初期接着強度)。一方、同様にしてSUS304ステンレス板に試験片を圧着したものを常温の水中に7日間浸漬し、水から取り出して2時間後に上記と同様にして接着強度[N/20mm]を測定した(浸漬後接着強度)。これらの測定値を下記式(3)に代入することにより、水浸漬後における接着強度の維持率を求めた。
接着強度維持率[%]=(浸漬後接着強度/初期接着強度)×100 (3)
上記維持率の値から粘着シートの耐水性を以下の3段階で評価した。
○:接着強度維持率が80%以上。
△:接着強度維持率が50%以上80%未満。
×;接着強度維持率が50%未満。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示されるように、特定分散剤に該当する分散剤(分散剤A,B)および特定乳化剤に該当する乳化剤(乳化剤A,B)が添加された例1〜6に係る粘着剤組成物は、いずれも上記機械的安定性試験における凝集物の発生量が少なく、機械的シェアに対する安定性に優れていた。一方、分散剤および乳化剤のいずれも添加しなかった例7に係る組成物は機械的安定性が低かった。また、特定分散剤に該当しない分散剤(分散剤C,D)と乳化剤とを添加した例8,9に係る組成物や、特定分散剤(分散剤A)を添加したが乳化剤を添加しなかった例10に係る組成物も機械的安定性が不十分であった。なお、分散剤と乳化剤との合計含有量がゴム系ラテックス100部に対して15部以下(より具体的には5〜10部)である例1〜4に係る粘着剤組成物を用いて作製された粘着シートは、上記合計含有量が15部を超える例5,6に係る粘着剤組成物を用いて作製された粘着シートに比べて、より良好な耐水性を示す(接着強度維持率がより高い、すなわち水浸漬による接着強度の低下がより少ない)ものであった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上に説明したとおり、本発明の水分散型粘着剤組成物は分散安定性(特に、機械的シェアに対する安定性)に優れる。したがって、該組成物によると高品質の粘着シートを効率よく生産することができる。本発明の粘着剤組成物および粘着シートは、例えば、従来からゴム系の粘着剤層(溶剤系の粘着剤組成物から形成されたゴム系粘着剤層であり得る。)を備える粘着シートが用いられている各種分野に適用することができる。例えば、電気絶縁用、ワイヤーハーネス(自動車のワイヤーハーネス等)の保護または結束用、電気部品(トランス、コイル等)、電子部品等の層間や外面の絶縁用、表示用、識別用等の粘着シートおよび該粘着シートの製造に用いられる粘着剤組成物として好適である。また、ダンボール包装用、医療用、マスキング用等の各種用途にも適用することができる。なかでも電気絶縁用、ワイヤーハーネスの保護または結束用として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図7】分散剤AのIRスペクトルを示すチャートである。
【図8】分散剤BのIRスペクトルを示すチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1:基材(支持体)
2:粘着剤層
3:剥離ライナー
11,12,13,14,15,16:粘着シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム系ラテックスおよび粘着付与樹脂エマルジョンを含み、さらに、
疎水性側鎖を有するポリカルボン酸(塩)を主成分とする分散剤と、
平均重合度16〜80のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル(ただし、該アルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素数は8〜18である。)を主成分とする乳化剤と、
を含有する、水分散型粘着剤組成物。
【請求項2】
前記分散剤は、以下の条件:
20℃における1質量%水溶液の表面張力が25〜45mN/mである;および、
中和滴定により求められるカルボキシル基含有量が2〜6mmol/gである;
をいずれも満たす、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸(塩)はスチレン−アクリル酸共重合体である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
不揮発分基準で、前記ゴム系ラテックス100質量部に対して前記分散剤0.3〜10質量部および前記乳化剤0.1〜6質量部を含有し、且つ前記分散剤と前記乳化剤との合計含有量が15質量部以下である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
不揮発分基準で、前記ゴム系ラテックス100質量部に対して前記粘着付与樹脂エマルジョン20〜200質量部を含有する、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の水分散型粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える、粘着シート。
【請求項7】
支持体としての塩化ビニル系樹脂シートの少なくとも片面に前記粘着剤層が設けられた構成を有する、請求項6に記載の粘着シート。
【請求項8】
支持体としての紙の少なくとも片面に前記粘着剤層が設けられた構成を有する、請求項6に記載の粘着シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−173689(P2009−173689A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10562(P2008−10562)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】