説明

水性エマルジョン

【課題】 重合安定性、機械的安定性、凍結融解安定性、顔料や無機充填剤等を混和した際の分散安定性および皮膜の透明性等の特性に優れた水性エマルジョンを提供すること。
【解決手段】 下記一般式(I)で表される基を末端に有し、変性量が0.01〜18モル%であるビニルアルコール系重合体(A)、および、主としてエチレン性不飽和単量体単位からなる重合体(B)を含有することを特徴とする水性エマルジョン。
【化1】


(式中、Rは水素原子またはOM基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、1/2アルカリ土類金属原子またはアンモニウム基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性エマルジョンに関する。より詳しくは、重合安定性、機械的安定性、凍結融解安定性に優れ、さらに、顔料や無機充填剤を混和する際等における分散安定性および塗膜の透明性等に優れた水性エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体を主体とする単量体を乳化重合する際、分散安定剤として界面活性剤が単独で使用されている(非特許文献1、ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイアティ Vol.69,1428ページ(1947年))。しかしながら、このような方法で製造される水性エマルジョンは、塗料、接着剤、紙加工材等の広範な用途において有用であるものの、界面活性剤を多量に使用することに起因する多くの問題点を有していた。これらの問題点としては、例えば、(a)水性エマルジョンの放置安定性、機械的安定性、凍結融解安定性、顔料や無機充填剤等を混和する際の分散安定性等が不十分であること、(b)水性エマルジョンの粘度が低いため、接着剤等の用途に供する場合には、何らかの方法で増粘する必要があり、調製操作が煩雑であること、(c)水性エマルジョンのせん断速度の増加に対するみかけ粘度の変化が大きく、高速塗工性が十分とはいえないこと、および、(d)水性エマルジョンに含有されている界面活性剤が、塗膜等とした時に表面へ移行して接着阻害が発生するため、粘接着剤用途においてトラブルとなることが多いこと、等を挙げることができる。
【0003】
以上のように、分散安定剤として界面活性剤のみを用いる従来の乳化重合法の問題点に対し、これまでも(1)反応性(共重合性)乳化剤を用いる方法(非特許文献2、ジャーナル オブ ポリマー サイエンス ポリマー ケミストリー エディション Vol.14,2089ページ(1976年))、(2)ソープフリー重合を行う方法(非特許文献3、ジャーナル オブ ポリマー サイエンス ポリマー ケミストリー エディション Vol.15,2193ページ(1977年))、(3)水溶性高分子を乳化安定剤として用いる方法(特許文献1、特開昭54−021485号公報)、等種々の工夫が提案されている。しかしながら、上記(1)の場合は、粒子表面に乳化剤が化学的に結びつき、安定性が向上したり、乳化剤の樹脂表面への移行の問題がなくなる等の効果が見られるものの、重合させる単量体との反応性とも関連して、必ずしもすべてのエマルジョンに適用できるわけではなく、また適用できる場合でも粘度の高いエマルジョンが得られないためエマルジョンを得た後さらに増粘等の操作を必要とする場合がある。また、上記(2)の場合は、不飽和カルボン酸やその塩、不飽和スルホン酸塩等の極性を有する不飽和単量体を共重合したり、イオン性の開始剤切片を与える過硫酸塩等を開始剤として用い、その極性基でエマルジョンの安定化を図ろうとするものであり、これより乳化剤の樹脂表面への移行の問題や乳化剤の存在によるエマルジョンを用いて得た被膜の耐水性低下の問題に対しては有効となる場合がある。しかしながら、この方法により得られたエマルジョンは、安定性、特に機械的安定性、凍結融解安定性等が一般に低下する場合があり、また得られたエマルジョンの粘度も上記(1)と同様に低いため、エマルジョンを得た後さらに増粘等の操作を必要とする場合がある。
【0004】
一方、上記(3)の場合、酢酸ビニル系単量体や塩化ビニル系単量体等の乳化重合において、水溶性高分子化合物であるポリビニルアルコール(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記することがある)を分散安定剤として用いて得られたエマルジョンは、機械的安定性、凍結融解安定性、顔料や無機充填剤等を混和する際等における分散安定性に優れ、重合処方により所望の粘度のエマルジョンを得ることができるため後で増粘する必要がなく、また表面への移行も低分子界面活性剤に比べて小さいという特徴がある。そして、水溶性高分子化合物の中でもPVAは、比較的少ない使用量で上述の特徴を有するエマルジョンを与えることができる分散安定剤であるといえる。
【0005】
しかしながら、PVAを分散安定剤として用いる場合、PVAのグラフト反応がエマルジョンの安定性に関係していると考えられており、適用できる単量体はもっぱらラジカル反応性が大きい酢酸ビニルや塩化ビニルに通常限られている。そしてラジカル反応性が小さいスチレン系単量体、ブタジエン等のジエン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体等に対しては、界面活性剤を主体としさらにPVAを併用する系が採用され比較的安定なエマルジョンが得られるが、この場合でもPVAのグラフト反応は起こりにくいため、PVAは単にエマルジョン中の重合体粒子に物理的に吸着している場合が多く、機械的安定性、凍結融解安定性、顔料や無機充填剤等を混和する際等の分散安定性が十分とはいいがたい状況であった。
【0006】
以上のような理由から、スチレン系単量体、ジエン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体等に対してPVAを分散安定剤に用いて、化学的吸着(例えばグラフト反応)によって安定化する方法が考えられている。この点に関して、特許文献2(特開昭60−197229号公報)には、分散安定剤としてメルカプト基を有するポリビニルアルコール系重合体を用い、メルカプト基をグラフトサイトとして、スチレン、ブタジエン、n−ブチルアクリレート等からなる重合体粒子に化学的に吸着させることにより安定化する方法が提案されている。この方法は、化学的にPVAがエマルジョン中の重合体粒子に吸着されている割合が多いことから機械的安定性、凍結融解安定性、顔料や無機充填剤等を混和する際等の分散安定性を得ることが可能であり、重合処方により所望の粘度を有するエマルジョンが得られ、また塗膜等とした後に樹脂表面への移行も少ないという特徴を有している。しかしながら、この場合、通常用いられる開始剤、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素単独あるいは各種還元剤との組合せによるレドックス開始剤等では、該PVA系重合体へのグラフト効率が低く、十分実用的な安定性の確保が難しいという問題があり、また、該PVA系重合体のメルカプト基とレドックス反応によってのみラジカルを発生する臭素酸カリウム等の開始剤では、重合安定性の向上は認められるが、PVA系重合体のメルカプト基が消費された時点で、いわゆるDead−Endとなり重合のコントロールおよび完結が難しいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭54−021485号公報
【特許文献2】特開昭60−197229号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイアティ Vol.69,1428ページ(1947年)
【非特許文献2】ジャーナル オブ ポリマー サイエンス ポリマー ケミストリー エディション Vol.14,2089ページ(1976年)
【非特許文献3】ジャーナル オブ ポリマー サイエンス ポリマー ケミストリー エディション Vol.15,2193ページ(1977年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかして本発明の目的は、上記従来の技術における問題点を解消し、重合安定性、機械的安定性、凍結融解安定性、顔料や無機充填剤等を混和した際の分散安定性および皮膜の透明性等の特性に優れた水性エマルジョンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記一般式(I)で表される基を末端に有するビニルアルコール系重合体を分散安定剤として用いることで、該ビニルアルコール系重合体を分散質である重合体の粒子に化学的に吸着させ、かつ一般式(I)で表される基によるイオン反発で安定化させることにより、この水性エマルジョンが目的に適うものであることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は、下記一般式(I)で表される基を末端に有し、変性量が0.01〜18モル%であるビニルアルコール系重合体(A)、および、主としてエチレン性不飽和単量体単位からなる重合体(B)を含有することを特徴とする水性エマルジョンである。この場合において、重合体(B)が(メタ)アクリル酸エステル系重合体であることが好ましい。
【0011】
【化1】


(式中、Rは水素原子またはOM基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、1/2アルカリ土類金属原子またはアンモニウム基を表す。)
【0012】
また、本発明は、前記ビニルアルコール系重合体(A)を分散安定剤として、主として水を含む分散媒中でエチレン性不飽和単量体を重合する、上記の水性エマルジョンの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性エマルジョンは、重合安定性、機械的安定性、凍結融解安定性、顔料や無機充填剤等を混和した際の分散安定性および皮膜の透明性等の特性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において用いられるビニルアルコール系重合体(A)(以下、ビニルアルコール系重合体をPVAと略記することがある)は、上記一般式(I)で表される基を末端に有する。
【0015】
Mで示されるアルカリ金属原子としては、ナトリウム原子、カリウム原子等が挙げられる。Mで示される1/2アルカリ土類金属原子としては、1/2マグネシウム原子、1/2カルシウム原子等が挙げられる。Mが1/2アルカリ土類金属原子である場合は、残りの1/2アルカリ土類金属原子(すなわち2価のアルカリ土類金属原子の残りの結合手)は、一般式(I)における酸素原子、下記一般式(II)における酸素原子、P(H)等と結合してよい。
【0016】
【化2】


(ただし、Mは水素原子、アルカリ金属原子、1/2アルカリ土類金属原子またはアンモニウム基を表す。)
【0017】
PVA(A)は上記一般式(II)で表される基を主鎖中に含んでいてもよい。
【0018】
PVA(A)のけん化度は、特に限定されないが、通常70モル%以上であり、70〜99モル%が好ましく、75〜99モル%がより好ましく、80〜98モル%がさらに好ましく、80〜95モル%が特に好ましく、83〜95モル%が最も好ましい。けん化度が70モル%未満の場合、PVA(A)の水溶性が低下するおそれがある。なお、PVAのけん化度は、JIS−K6726に準じて測定し得られる値である。
【0019】
PVA(A)の粘度平均重合度(P)については特に制限はないが、100〜3000が好ましく、200〜2500がより好ましく、300〜2000がさらに好ましい。粘度平均重合度が上記範囲内であるとき、後述する乳化重合の操作性および安定性が向上する。PVA(A)の粘度平均重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、該PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。

P=([η]×10/8.29)(1/0.62)

なお、粘度平均重合度は、単に重合度と呼ぶことがある。
【0020】
PVA(A)の製造方法は、得られるPVAが一般式(I)で表される基を末端に有する限り特に制限はないが、例えば、ビニルエステル系単量体を、リンを含む化合物の存在下でラジカル重合する工程、および得られた重合体をけん化する工程を含む方法によって製造することができる。
【0021】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられるが、中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
【0022】
リンを含む化合物としては、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸アンモニウムおよびその水和物等の次亜リン酸化合物等が挙げられるが、工業的には最も安価な次亜リン酸ナトリウムまたはその水和物が好適に用いられる。
【0023】
リンを含む化合物の使用量は、特に制限はなく、PVA(A)に導入したい一般式(I)で表される基の量に応じて適宜設定すればよい。リンを含む化合物の使用量は、ビニルエステル系単量体100重量部に対して0.001〜30重量部が好ましい。
【0024】
ビニルエステル系単量体の重合は、アルコール系溶媒等の溶媒中で、または無溶媒で行うことができる。
【0025】
ビニルエステル系単量体の重合を行うのに用いられる重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を用いることができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を混合して用いることができる。重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。また、ビニルエステル系単量体の重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPVAの着色等が見られることがあるため、その場合には着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤を1〜100ppm(ビニルエステル系単量体に対して)程度添加することはなんら差し支えない。
【0026】
ビニルエステル系単量体の重合を行う際に採用される温度は0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られないため好ましくない。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、目的とするPVAを得ることが困難になるため好ましくない。重合を行う際に採用される温度を0〜200℃に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0027】
ビニルエステル系単量体の重合に際して、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体と共重合しても差し支えない。ビニルエステル系単量体と共重合可能な単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のオキシアルキレン基含有単量体;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0028】
また、ビニルエステル系単量体の重合に際し、得られるPVAの重合度を調節すること等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で重合を行っても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール、n−ドデカンチオール、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプタン類;テトラクロロメタン、ブロモトリクロロメタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハライド類が挙げられる。
【0029】
リンを含む化合物存在下でのビニルエステル系単量体の重合により、リンを含む化合物を末端に組み込んだビニルエステル(共)重合体が得られる。
【0030】
ビニルエステル系重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒またはp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類:ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0031】
以上の方法によれば、一般式(I)で表される基を末端に有するPVA、および一般式(I)で表される基を末端に有し、かつ一般式(II)で表される基を主鎖中に有するPVAを、混合物として得ることができる。
【0032】
PVA(A)において、一般式(I)で表される基の変性量は0.01〜18モル%であることが必要である。0.01モル%未満では、分散安定剤のグラフト効率が悪くなり、また分散質に吸着したPVA(A)のイオン反発力が弱くなるため、乳化重合の十号安定性が悪くなる。18モル%を超える場合は、PVA(A)の重合度が10未満になる可能性があるため、生産性が低下し、実用性が損なわれる。
【0033】
本発明において用いられる重合体(B)は、主としてエチレン性不飽和単量体単位からなる。重合体(B)を構成するエチレン性不飽和単量体としては、特に限定されず、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類;塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの四級化物;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩等のアクリルアミド誘導体;スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸およびそのナトリウム塩、カリウム塩等のスチレン系単量体;N−ビニルピロリドン等が挙げられる。エチレン性不飽和単量体としては、これらを単独で用いることもできるし、2種以上の混合物を用いることもできる。また、上記の単量体と共重合可能な他の単量体を40質量%以下の割合で含有する混合物を用いることもできる。共重合可能な他の単量体としては、特に制限されないが、例えばブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系単量体等を挙げることができる。
【0034】
上記の単量体の中でも、主として(メタ)アクリル酸エステルを使用することが好ましい。すなわち、重合体(B)が(メタ)アクリル酸エステル系重合体であることが、耐候性、透明性および柔軟性等の観点から好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に制限されないが、前述の炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。
【0035】
本発明の水性エマルジョンは、PVA(A)、上記の重合体(B)を含有することを特徴とする。より詳しくは、分散安定剤としてPVA(A)を、分散質として重合体(B)をそれぞれ含有し、分散媒として水を主体とする溶媒を含有する。
【0036】
本発明の水性エマルジョンを製造する方法としては、特に制限されず種々の方法を採用することができる。例えば、(1)水、PVA(A)および重合開始剤が混合された系に、上記のエチレン性不飽和単量体を、一時にまたは連続的に添加して、加熱、攪拌下に乳化重合する方法、(2)上記のエチレン性不飽和単量体を、予めPVA(A)を含有させた水溶液と混合・乳化した後、重合開始剤を含有する水溶液を充填した重合系に分割添加または連続的に添加して乳化重合する方法、(3)アルコール/水混合溶媒等を分散媒とし、PVA(A)を用いて分散重合する方法等が挙げられる。
【0037】
上記の重合において用いられるPVA(A)の量は特に制限されないが、用いる単量体100重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部、より好ましくは2.5〜10重量部である。PVA(A)の使用量が1重量部未満であると、重合安定性が低下する恐れがあり、一方、20重量部を越える場合には得られるエマルジョンの粘度が高くなり、操作性に劣る懸念が生じる。
【0038】
重合の際に用いられる重合開始剤としては特に制限されず、各種のものが使用できるが、例えばPVA(A)と、臭素酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の水溶性酸化剤とからなるレドックス系重合開始剤も使用可能である。中でも過酸化水素は、通常の重合条件下では単独ではラジカルを発生せず、PVA(A)中の一般式(I)で表される基とのレドックス反応によってのみ分解し、ラジカルを発生することから、PVA(A)とのブロック共重合体を有効に生成し、これにより安定化効果を大ならしめるので、特に好ましい開始剤である。また重合開始時に過酸化水素を用いたのち、他の酸化剤を追加添加する等、酸化剤の併用も可能である。
【0039】
本発明の水性エマルジョンの製造において、PVA(A)を分散安定剤として用いて乳化重合を行うに際し、重合系が酸性であることが重要である。これは、ラジカル重合において極めて活性な反応を示す一般式(I)で表される基が、塩基性下においては、モノマーの二重結合へイオン的に付加、消失する速度が大きく、重合効率が著しく低下する場合があるためであり、エチレン性不飽和単量体の種類にもよるが、全ての重合操作をpH6以下、好ましくはpH4以下、より好ましくはpH2〜3.5で実施することが望ましい。得られた水性エマルジョンは、用途等により、中和処理して用いることもできるし、このまま用いることもできる。例えば、塗料用途等に使用する場合には、アンモニア等で中和してpHが5〜7.5程度の範囲に調整することが好ましい。
【0040】
上記の乳化(共)重合には、鉄化合物を使用してもよい。鉄化合物としては特に制限されないが、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)および硫酸鉄(III)等が好ましく用いられる。
【0041】
上記の乳化(共)重合は、連鎖移動剤を重合初期に添加することで、さらに重合安定性を向上させることが可能となる。連鎖移動剤としては、乳化重合時に連鎖移動をおこす化合物であれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、チオグリコール酸オクチル等のメルカプタン類等が挙げられる。これらの中でも、メルカプタン類が好適である。連鎖移動剤の添加量は特に制限されないが、全単量体100重量部に対して、0.01〜50重量部、好ましくは0.1〜30重量部である。
【0042】
上記の方法で得られる水性エマルジョンはそのままの状態で用いることができるが、必要であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョンや、通常使用される添加剤を添加することができる。添加剤の例としては、有機溶剤(トルエン、キシレン等の芳香族化合物、アルコール、ケトン、エステル、含ハロゲン系溶剤等)、界面活性剤、可塑剤、沈殿防止剤、増粘剤、流動性改良剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、充填剤、湿潤剤、着色剤、結合剤、保水剤等が挙げられる。
【0043】
上記の界面活性剤としては特に制限はなく、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、および、高分子界面活性剤が使用できる。アニオン性界面活性剤としては、例えばアルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸−ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられ、カチオン性界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられ、両性界面活性剤としては、例えばアルキルベタイン、アミンオキシド、イミダゾリウムベタイン等が挙げられる。高分子界面活性剤としては、基本的には、分子中に親水基と疎水基を有するものであればよく、例えば、各種カルボン酸型高分子界面活性剤、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックポリマー(プルロニック型界面活性剤)、前記PVA(A)を除くPVA系重合体、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等が挙げられる。これらのうち、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、前記PVA(A)を除くPVA、ヒドロキシエチルセルロース等が好ましく用いられる。
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例においては、特に断りがない限り、部および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
【0045】
実施例、比較例における諸物性の測定方法および評価方法を以下に示す。
(1)エマルジョンの濃度
エマルジョンを1g程度アルミパンに採取し、90℃で水分の揮発による質量の減少がなくなるまで乾燥させ、エマルジョンの濃度を次式により求めた。

エマルジョンの濃度(%)={(Ws−We)/(Wt−We)}×100

Wt:アルミパンおよび採取したエマルジョンの質量(g)
Ws:乾燥後のアルミパンおよび残った固形分の質量(g)
We:アルミパンの質量(g)
【0046】
(2)エマルジョンおよび塗工液の粘度
エマルジョンまたは塗工液を容器に500g程度採取し、25℃の恒温槽中でB型粘度計(B8H型:TOKIMEC社製)を用いて粘度を測定した。
【0047】
(3)エマルジョン中の重合体の平均粒子径
エマルジョンをセル(内寸法:10.5mm×10.5mm×40.5mm高)中で基準散乱強度値が8000〜12000の範囲になるような濃度に希釈して、動的光散乱法粒径測定装置(Photal:OTSUKA ELECTRONICS社製)を用いて重合体の平均粒子径を測定した。
【0048】
(4)機械的安定性
マロン式機械的安定性測定装置を用いて、JIS K−6828に準拠して、試料50g、荷重20kg、10分間の条件で試験したのち、試験液を80メッシュの金網でろ過し、金網上の凝固物の量を測定して、次式により凝固率を求め、機械的安定性の指標とした。凝固率の数値の少ないほうが安定性のよいことを示す。

凝固率(%)=[凝固物の乾燥質量(g)/(50×エマルジョンの固形分濃度)]×100
【0049】
(5)高温放置安定性
エマルジョン50gを密封容器に分けとり、温度60℃の恒温槽に5日間放置後、3時間放冷し、外観の状態を観察し、下記の基準に従って評価した。

優 :外観、粘度の変化がない。
良 :わずかに増粘傾向がある。
可 :流動性はあるが、増粘傾向が大きい。
不可:凝固物が発生する。
【0050】
(6)凍結融解安定性
エマルジョン50gを密封容器に分けとり、−15℃の温度で16時間保持して凍結させ、さらに30℃で1時間保持して融解させた後、外観の状態を観察し、上記(5)と同様に評価した。
【0051】
(7)フィルムの透過度
分光光度計「UV2100」(島津製作所製)を用いて、フィルムの波長500nmにおける透過率(%)を測定した。
【0052】
(8)フィルムの光沢度
インクジェットプリンター「PM2000C」(セイコーエプソン(株)社製)を用いて、フィルムのインク受理層にブラックのインクをベタ刷りし、JIS Z−8714の方法(入射角60度の鏡面光沢度)に従って、グロスメーター(日本電色工業社製)で光沢度を測定し、5回の測定値を平均した。
【0053】
製造例1
(PVA−1の製造)
メタノール400gおよびホスフィン酸ナトリウム・一水和物3.4gを反応器に仕込み、ホスフィン酸ナトリウム・一水和物のメタノール溶液を調整した。次いで、酢酸ビニル1200gを反応器に仕込み、窒素ガスのバブリングにより反応器内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.5gを反応器に添加して重合を開始した。重合中は重合温度を60℃に維持した。4時間後に重合率が50%に達したところで冷却して重合を停止した。次いで、減圧下にて未反応の酢酸ビニルを除去し、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液を得た。40%に調整したPVAc溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/PVAc中の酢酸ビニル単位のモル数)が0.008となるようにNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。アルカリ溶液を添加後、約20分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール4000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してPVA−1を得た。この重合体の粘度平均重合度は550、けん化度は88モル%であった。
【0054】
得られたPVA−1の一般式(I)で表される基の変性量は、H−NMRにより以下のようにして求めた。得られたPVA−1をメタノールで48時間ソックスレー抽出による精製を行った後、d−DMSOに溶解し、500MHzのH−NMR(JEOL GX−500)を用いて分析を行い、PVAの主鎖メチレンに由来するピーク(1.1〜1.9ppm)の面積αと一般式(I)で表される基のリンに付いたプロトンに由来するピーク(7.5〜7.7ppmと6.3〜6.6ppm)の面積βから、下記式を用いて一般式(I)で表される基の変性量を算出した。PVA−1において、一般式(I)で表される基の変性量は0.12モル%であった。結果を表1に示す。

一般式(I)で表される基の変性量(モル%)={(ピーク面積β)/((ピーク面積α)/2+(ピーク面積β))}×100
【0055】
製造例2〜4
酢酸ビニル、メタノールおよびホスフィン酸ナトリウム・一水和物の仕込み量、けん化時における酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を変更した以外は、製造例1と同様にしてPVA−2〜PVA−4を得た。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1
(水性エマルジョンの合成)
還流冷却器、滴下ロート、温度計および窒素吹込口を備えた2リットルガラス製重合容器に、製造例1で得られたPVA−1の4.4%水溶液747.6g、硫酸鉄(II)0.0032gを仕込み、希硫酸でpHを2.8に調整した。次いで窒素を流し(以下、重合中は窒素を流し続ける)、70℃に昇温しながら、1時間攪拌を行った。予め混合しておいた混合モノマー(メタクリル酸メチル(MMA)/アクリル酸n−ブチル(BA)=1/1、重量比)53.3gを仕込んだ後、濃度0.6%の過酸化水素水溶液105gを用いて、初期重合反応を1時間行った。次いで、残りの混合モノマー479.36gを、容器に4時間に渡って滴下して、濃度0.6%の過酸化水素水溶液210gを、さらに加えながら滴下し、重合を進行させた。滴下終了後に、濃度0.6%の過酸化水素水溶液32gを加え、70℃で1時間熟成させ、重合率が99.5%となったところで冷却した。生成したエマルジョンをpH7.4に調整後、100メッシュの金網でろ過したが、凝固物は全く認められなかった。得られたエマルジョンの粒子径は190nm、固形分濃度は45.3%、粘度は123mPa・sであった。このエマルジョンの物性について評価した結果を表2に示す。
【0058】
(フィルムの作製)
得られたエマルジョンを26.5g、「PVA135H」(株式会社クラレ製)の8%水溶液を350g、無機微粒子「アエロジルA−300」(粒子径90nm、日本アエロジル株式会社製)の20%分散液を1000g、および、水35.3gを混合し、固形分濃度17%の塗工液を調製した。この塗工液を、PETフィルム上に流延して液膜を形成し、熱風乾燥機にて100℃、3分間乾燥してフィルムを得た。得られたフィルムを用いて評価を行った。結果を表3に示す。
【0059】
実施例2
PVA−1の代わりにPVA−2を使用した以外は実施例1と同様にしてエマルジョンを得て評価した。結果を表2に示す。また、実施例1と同様にしてフィルムを得て評価した。結果を表3に示す。
【0060】
実施例3〜5
使用するPVAの種類および仕込み量、並びに、混合モノマーの種類を表2のように変更した以外は実施例1と同様にしてエマルジョンを得て評価した。結果を表2に示す。また、「PVA135H」の代わりに「PVA235」(株式会社クラレ製)を、「アエロジルA−300」の代わりに「酸化アルミニウムC」(粒子径95nm、日本アエロジル株式会社製)を、それぞれ使用した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得て評価した。結果を表3に示す。
【0061】
比較例1
PVA−1の代わりに「PVA205」(株式会社クラレ製)を使用した以外は実施例1と同様にして重合を開始したが、重合開始から30分後、重合率15%の時点で数mm大の粗粒が発生し、重合の継続が困難となったため、重合を打ち切った。
【0062】
比較例2
PVA−1の代わりにPVA−4を、混合モノマーとして、メタクリル酸メチル(MMA)/アクリル酸n−ブチル(BA)=1/1(重量比)の代わりにメタクリル酸メチル(MMA)/アクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)=44/56(重量比)を、それぞれ使用した以外は実施例1と同様にしてエマルジョンを得て評価した。結果を表2に示す。また、エマルジョンを19.9g、「PVA135H」の8%水溶液を262g、それぞれ使用した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得て評価した。結果を表3に示す。
【0063】
比較例3
PVA−1の4.4%水溶液747.6gの代わりに、イオン交換水725.6gおよびノニオン性界面活性剤「NL−450」(第一工業製薬株式会社製)5.3gを使用した以外は実施例1と同様にしてエマルジョンを得て評価した。結果を表2に示す。また、得られたエマルジョンを用いて、実施例3と同様にしてフィルムの作成を試みたが、塗工液中に「酸化アルミニウムC」の凝集が発生したため、作成を断念した。
【0064】
比較例4
「NL−450」の代わりに、カチオン性界面活性剤「コータミン24P」(花王株式会社製)5.3gを使用した以外は比較例3と同様にしてエマルジョンを得て評価した。結果を表2に示す。また、エマルジョンを26.3g、「PVA135H」の8%水溶液を262g、「酸化アルミニウムC」の20%分散液を1000g、それぞれ使用した以外は実施例1と同様にしてフィルムを作成したところ、得られたフィルムに欠陥(ひび割れ)が発生したため、以後の評価を行わなかった。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される基を末端に有し、変性量が0.01〜18モル%であるビニルアルコール系重合体(A)、および、主としてエチレン性不飽和単量体単位からなる重合体(B)を含有することを特徴とする水性エマルジョン。
【化1】


(式中、Rは水素原子またはOM基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、1/2アルカリ土類金属原子またはアンモニウム基を表す。)
【請求項2】
重合体(B)が(メタ)アクリル酸エステル系重合体である、請求項1に記載の水性エマルジョン。
【請求項3】
前記ビニルアルコール系重合体(A)を分散安定剤として、主として水を含む分散媒中でエチレン性不飽和単量体を重合する、請求項1または2に記載の水性エマルジョンの製造方法。

【公開番号】特開2012−57073(P2012−57073A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202603(P2010−202603)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】