説明

水性クリヤ塗料組成物及び上塗り複層塗膜形成方法

本発明は、(A)水酸基価が30〜200mgKOH/g、酸価が5〜50mgKOH/g及び平均粒子径が50〜300nmである水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水分散体、並びに(B)架橋剤を含有し、且つその塗料固形分90質量%以上での30〜150℃における周波数0.1Hzの条件で測定した粘性率の最低値が30Pa・s以下であることを特徴とする水性クリヤ塗料組成物、並びに、この水性クリヤ塗料組成物を用いた複層塗膜形成方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性クリヤ塗料組成物及び該水性クリヤ塗料組成物を用いた上塗り複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模で環境問題に大きな関心が寄せられている。自動車産業においても製造工程における環境問題対策が積極的に進められている。自動車の製造工程においては、特に、塗装工程における揮発性有機物質(VOC)の排出の低減が、急務となっている。
【0003】
通常、自動車車体の外板部等は、防食及び美感の付与を目的として、下塗り塗膜、中塗り塗膜及び上塗り塗膜からなる複層塗膜により被覆されている。これらの塗膜の内、下塗り塗膜は、カチオン電着塗料組成物等の水性塗料組成物により形成されている。また、VOC削減の観点から、中塗り塗膜及び上塗り塗膜を形成する中塗り塗料組成物及び上塗り塗料組成物の水性化が進められている。
【0004】
複層上塗り塗膜は、例えば、自動車車体等の被塗物に、着色ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化することなく、クリヤ塗料組成物を塗装し、次いで両塗膜を同時に加熱硬化する2コート1ベーク方式等の塗装工程により、塗装されている。これらの上塗り塗料組成物を水性化する場合、特に、最上層に塗装される水性クリヤ塗料組成物においては、自動車車体等の外観品質向上の観点から、平滑性等の塗膜外観が良好であること、ワキ等の塗面異常の発生がないことが要求される。
【0005】
US Patent No.5,075,370は、ヒドロキシル及びカルボキシレートを有するポリオール成分及び該ポリオール成分に乳化の形で存在するポリイソシアネート成分を含有する2成分系水性塗料組成物を、開示している。しかしながら、この2成分系塗料組成物は、従来の有機溶剤型塗料に比べて、ワキ等の塗面異常が発生しやすく、平滑性等の塗膜外観も不十分であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、平滑性等の塗膜外観が良好で、しかもワキ等の塗面異常の発生が無く、自動車車体等を2コート1ベーク方式等の塗装工程により、上塗り塗装する場合に好適に使用できる水性クリヤ塗料組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、当該水性クリヤ塗料組成物を用いた上塗り複層塗膜形成方法を提供することにある。
【0008】
本発明者は、水性クリヤ塗料組成物について、特にワキ等の塗面異常の発生に及ぼす塗料の粘性値の影響に着目し、鋭意研究した。その結果、特定の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体、及び架橋剤を含有し、特定範囲の粘性値を有する水性塗料組成物によれば、上記目的を達成できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、完成されたものである。
【0009】
本発明は、以下の水性クリヤ塗料組成物及び上塗り複層塗膜形成方法を提供するものである。
【0010】
1.(A)水酸基価が30〜200mgKOH/g、酸価が5〜50mgKOH/g及び平均粒子径が50〜300nmである水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体、並びに
(B)架橋剤を含有し、且つその塗料固形分90質量%以上での30〜150℃における周波数0.1Hzの条件で測定した粘性率の最低値が30Pa・s以下であることを特徴とする水性クリヤ塗料組成物。
【0011】
2.(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の固形分96質量%以上での溶融粘度が、温度140℃、せん断速度564秒−1で測定して、1Pa・s〜12Pa・sである上記項1に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【0012】
3.(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の重量平均分子量が、3,000〜30,000である上記項1に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【0013】
4.(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂のガラス転移温度が、−30℃〜+40℃である上記項1に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【0014】
5.架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物及びメラミン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤である上記項1に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【0015】
6.架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物及び/又はブロックポリイソシアネート化合物である上記項5に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【0016】
7.(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水酸基とポリイソシアネート化合物及び/又はブロックポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の当量比(NCO/OH)が、0.5〜2.0である上記項5に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【0017】
8.架橋剤(B)が、メラミン樹脂である上記項5に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【0018】
9.(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂とメラミン樹脂との重量比が、両者の合計に基づいて、前者が50〜90重量%で、後者が50〜10重量%である上記項8に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【0019】
10.固形分濃度が、35〜65質量%である上記項1に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【0020】
11.被塗物に、1層又は2層の着色ベースコート及び1層又は2層のクリヤコートを形成する方法であって、最上層のクリヤコートを形成する塗料組成物が上記項1に記載の水性クリヤ塗料組成物であることを特徴とする上塗り複層塗膜形成方法。
【0021】
以下、本発明の水性クリヤ塗料組成物及び上塗り複層塗膜形成方法について詳細に説明する。
【0022】
水性クリヤ塗料組成物
本発明の水性クリヤ塗料組成物は、特定の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体(A)及び架橋剤(B)を含有するものであって、その塗料固形分90質量%以上での30〜150℃における周波数0.1Hzの条件で測定した粘性率の最低値が30Pa・s以下となるように設定されている。
【0023】
水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体(A)
水性分散体(A)は、水酸基価が30〜200mgKOH/g程度の範囲内で、酸価が5〜50mgKOH/g程度の範囲内である水酸基及び酸基含有樹脂を水分散することにより、平均粒子径50〜300nm程度の範囲内の粒子状樹脂の水性分散体としたものである。また、この水酸基及び酸基含有樹脂は、溶融粘度を低下させる観点から、重量平均分子量が3,000〜30,000程度の範囲内であるのが好ましく、又ガラス転移温度が−30℃〜+40℃程度の範囲内であるのが好ましい。
【0024】
水分散させる水酸基及び酸基含有樹脂としては、水酸基価が30〜200mgKOH/g程度且つ酸価が5〜50mgKOH/g程度である限りにおいて、種々の樹脂を、使用できる。この水酸基は、主として、(A)成分の樹脂が架橋剤(B)と反応する際の官能基として作用する。また、この酸基は、主として、樹脂に水分散性を付与し、又(A)成分の樹脂が架橋剤(B)と架橋反応する時の内部触媒としても作用する。
【0025】
上記水酸基及び酸基含有樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂などをあげることができる。酸基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。これらの内、水酸基及び酸基含有アクリル樹脂、水酸基及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂、水酸基及びカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂等が好ましい。
【0026】
水酸基及び酸基含有アクリル樹脂は、水酸基含有ビニルモノマー(M−1)、酸基含有ビニルモノマー(M−2)及びその他の共重合可能なビニルモノマー(M−3)を、常法により共重合せしめることによって製造することができる。
【0027】
水酸基含有ビニルモノマー(M−1)は、1分子中に水酸基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個有する化合物である。該モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と炭素数2〜10の2価アルコールとのモノエステル化物;ε−カプロラクトンを開環重合した化合物等を、挙げることができる。ε−カプロラクトンを開環重合した化合物としては、市販品を使用でき、市販品としては、例えば、「プラクセルFA−1」、「プラクセルFA−2」、「プラクセルFA−3」、「プラクセルFA−4」、「プラクセルFA−5」、「プラクセルFM−1」、「プラクセルFM−2」、「プラクセルFM−3」、「プラクセルFM−4」、「プラクセルFM−5」(以上、いずれもダイセル化学(株)製、商品名)等を挙げることができる。
【0028】
上記モノマー(M−1)は、1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。モノマー(M−1)の使用量は、水酸基及び酸基含有アクリル樹脂の水酸基価が、30〜200mgKOH/g程度となるような量とすればよい。
【0029】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸又はメタクリル酸」を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は、「アクリロイル又はメタクリロイル」を意味する。
【0030】
酸基含有ビニルモノマー(M−2)は、1分子中に1個以上の酸基と1個の重合性不飽和結合とを有する化合物である。該モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及び無水マレイン酸などのカルボキシル基含有不飽和単量体;ビニルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレートなどのスルホン酸基含有不飽和単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−メタクロイルオキシエチルフェニルリン酸などの酸性リン酸エステル系不飽和単量体などを挙げることができる。
【0031】
上記モノマー(M−2)は、1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。モノマー(M−2)の使用量は、水酸基及び酸基含有アクリル樹脂の酸価が、5〜50mgKOH/g程度となるような量とすればよい。
【0032】
その他の共重合可能なビニルモノマー(M−3)は、上記水酸基含有ビニルモノマー(M−1)及び酸基含有ビニルモノマー(M−2)以外の1分子中に1個の重合性不飽和結合を有する化合物である。モノマー(M−3)の具体例を、(1)〜(6)に列挙する。
【0033】
(1)アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数1〜20の1価アルコールとのモノエステル化物:例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)クリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等。
【0034】
(2)芳香族系ビニルモノマー:例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等。
【0035】
(3)グリシジル基含有ビニルモノマー:1分子中にグリシジル基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個有する化合物で、具体的には、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等。
【0036】
(4)重合性不飽和結合含有アミド系化合物:例えば、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルプロピルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等。
【0037】
(5)その他のビニル化合物:例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、バーサティック酸ビニルエステル等。バーサティック酸ビニルエステルとしては、市販品である「ベオバ9」、「ベオバ10」(以上、商品名、ジャパンエポキシレジン(株)製)等を挙げることができる。
【0038】
(6)重合性不飽和結合含有ニトリル系化合物:例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
【0039】
その他のビニルモノマー(M−3)は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
水酸基及び酸基含有アクリル樹脂を製造するための重合方法としては、溶剤の存在下に、モノマー混合物を溶液重合する方法が好ましい。また、溶液重合する場合、一括重合法又は多段階重合法のいずれであってもよい。
【0041】
一括重合法は、モノマー混合物及び重合開始剤を、反応容器中に、一括して滴下して、重合反応を行う方法である。また、多段階重合法とは、モノマー混合物を2以上のモノマー混合物に分け、反応容器中に、順次、各モノマー混合物を滴下して、多段階で重合反応を行う方法である。
【0042】
水酸基及び酸基含有アクリル樹脂の水性分散体(A)としての分散安定性及びこれを塗料組成物とした時の分散安定性に優れる点から、2段階以上の多段階重合法で合成された該アクリル樹脂を使用することが好ましい。具体的には、例えば、最初に酸基含有モノマーを全く又は殆んど含有しないモノマー混合物を重合し、その後、さらに酸基含有モノマーを含有するモノマー混合物を滴下、重合して、2段階で重合された水酸基及び酸基含有アクリル樹脂は、分散安定性が良好であり、好ましく使用できる。
【0043】
水酸基及び酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、30〜200mgKOH/g程度、好ましくは50〜180mgKOH/g程度である。水酸基価が30mgKOH/g未満であると、組成物の硬化性が不十分な場合があり、一方200mgKOH/gを越えると塗膜の耐水性が低下する場合がある。
【0044】
水酸基及び酸基含有アクリル樹脂が有する水酸基は、1級水酸基であっても2級水酸基であってもよい。組成物の硬化性に優れる点からは、1級水酸基であることが好ましいが、1級水酸基に2級水酸基を併有する場合には、塗膜の耐ワキ性がより向上するという利点が得られる。2級水酸基をもたらす水酸基含有ビニルモノマー(M−1)としては、たとえばヒドロキシイソプロピル(メタ)アクリレート等をあげることができる。
【0045】
水酸基及び酸基含有アクリル樹脂の酸価は、5〜50mgKOH/g程度であり、好ましくは10〜40mgKOH/g程度である。酸価が5mgKOH/g未満であると、水性分散体とした時の分散安定性が低下することがあり、又50mgKOH/gを越えると塗膜の耐水性が低下することがある。
【0046】
水酸基及び酸基含有アクリル樹脂の重量平均分子量は、塗膜の耐酸性及び塗面平滑性に優れる点から、3,000〜30,000程度が好ましく、5,000〜20,000程度がより好ましい。
【0047】
本明細書において、樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)により、標準ポリスチレンを基準として、測定した。後記製造例等における測定は、GPC装置として、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー(株)製)、カラムとして、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)製、商品名)の4本を用いて、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行った。
【0048】
水酸基及び酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度は、塗膜硬度及び塗面平滑性に優れる点から、−30℃〜+40℃程度が好ましく、−20℃〜+20℃程度がより好ましい。
【0049】
本明細書において、ガラス転移温度はDSC(示差走査型熱量計)でJISK7121(プラッスチックの転移温度測定方法)に基づいて10℃/分の昇温スピードで測定した値である。後記製造例等における測定は、DSCとして、「SSC5200」(商品名、セイコー電子工業(株)製)を用い、試料をサンプル皿に所定量秤取した後、130℃で3時間乾燥させてから行なった。
【0050】
水酸基及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂は、常法により、例えば、多塩基酸と多価アルコールとのエステル化反応によって製造することができる。
【0051】
該多塩基酸は、1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多塩基酸;これらの無水物などが挙げられる。また、該多価アルコールは、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、水素化ビスフェノールA等のジオール類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の三価以上のポリオール類;2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、2,2−ジメチロールヘキサン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。
【0052】
また、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドなどのα−オレフィンエポキシド、「カージュラE10」(ジャパンエポキシレジン社製、商品名、合成高分岐飽和脂肪酸のグリシジルエステル)などのモノエポキシ化合物を、酸と反応させて、該化合物をポリエステル樹脂に導入しても良い。
【0053】
ポリエステル樹脂へのカルボキシル基の導入は、例えば、水酸基含有ポリエステルに酸無水物を付加し、ハーフエステル化することで導入することもできる。酸無水物としては、例えば無水トリメリット酸等を挙げることができる。
【0054】
水酸基及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の水酸基価は、30〜200mgKOH/g程度であり、好ましくは50〜180mgKOH/g程度である。水酸基価が30mgKOH/g未満であると、組成物の硬化性が不十分な場合があり、又200mgKOH/gを越えると塗膜の耐水性が低下することがある。
【0055】
水酸基及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の酸価は、5〜50mgKOH/g程度であり、好ましくは10〜40mgKOH/g程度である。酸価が5mgKOH/g未満であると水性分散体とした時の分散安定性が低下することがあり、又50mgKOH/gを越えると塗膜の耐水性が低下することがある。
【0056】
水酸基及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、塗膜の耐酸性及び塗面平滑性に優れる点から、3,000〜30,000程度が好ましく、5,000〜20,000程度がより好ましい。
【0057】
水酸基及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、塗膜硬度及び塗面平滑性に優れる点から、−30℃〜+40℃程度が好ましく、−20℃〜+20℃程度がより好ましい。
【0058】
水酸基及びカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂としては、カルボキシル基含有ポリオールを含むポリオールとジイソシアネートとを反応させることにより得られる分子中にカルボキシル基が導入された水酸基及びカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂等の水性塗料用として公知のものを使用できる。
【0059】
上記ポリオールとしては、カルボキシル基を含有しないポリオールとカルボキシル基含有ポリオールとを併用するのが好ましい。
【0060】
カルボキシル基を含有しないポリオールとしては、例えば、低分子量のものとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどの2価のアルコール;トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの3価アルコールなどをあげることができる。高分子量のものとして、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、エポキシポリオールなどをあげることができる。ポリエーテルポリオールとしてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどがあげられる。ポリエステルポリオールとしては、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの2価アルコールとアジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸などの2塩基酸との重縮合物;ポリカプロラクトンなどのラクトン系開環重合体であるポリオール;ポリカーボネートジオールなどをあげることができる。
【0061】
カルボキシル基含有ポリオールとしては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸などが挙げられるが、特に2,2−ジメチロールプロピオン酸が好ましい。これらを使用する際に、反応を速やかに進行させるためにN−メチルピロリドンのような溶媒を少量使用することもできる。
【0062】
ポリオールと反応させるポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類;これら脂肪族ジイソシアネートのビューレットタイプ付加物又はイソシアヌレート環付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,6−ジイソシアネート、1,3−ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート類;これら脂環族ジイソシアネートのビューレットタイプ付加物又はイソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4−フェニルイソシアネート)などの芳香族ジイソシアネート化合物;これら芳香族ジイソシアネートのビューレットタイプ付加物又はイソシアヌレート環付加物;トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4’−ジメチルジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネートなどの1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート;これらポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物又はイソシアヌレート環付加物;などを挙げることができる。
【0063】
水酸基及びカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水酸基価は、30〜200mgKOH/g程度であり、好ましくは50〜180mgKOH/g程度である。水酸基価が30mgKOH/g未満であると、組成物の硬化性が不十分な場合があり、又200mgKOH/gを越えると塗膜の耐水性が低下することがある。
【0064】
水酸基及びカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の酸価は、5〜50mgKOH/g程度であり、好ましくは10〜40mgKOH/g程度である。酸価が5mgKOH/g未満であると水性分散体とした時の分散安定性が低下することがあり、又50mgKOH/gを越えると塗膜の耐水性が低下することがある。
【0065】
水酸基及びカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、塗膜の耐酸性及び塗面平滑性に優れる点から、3,000〜30,000程度が好ましく、5,000〜20,000程度がより好ましい。
【0066】
水酸基含有ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、塗膜硬度及び塗面平滑性に優れる点から、−30℃〜+40℃程度が好ましく、−20℃〜+20℃程度がより好ましい。
【0067】
水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体(A)は、水酸基及び酸基含有樹脂を水分散して得られ、その粒子状樹脂の平均粒子径は50〜300nm程度の範囲内である。水酸基及び酸基含有樹脂の水分散は、例えば以下のように行なうことができる。種々の合成反応により、通常、有機溶剤溶液として得られた水酸基及び酸基含有樹脂を、その固形分濃度が95質量%程度となるまで溶剤の減圧留去を行なう。減圧留去時の温度は、樹脂合成に用いた溶剤の種類等に応じて、最適温度に設定して行なわれる。有機溶剤は、VOC削減の観点から可能な限り留去したほうが好ましい。有機溶剤を減圧留去終了後、例えば、温度を90℃程度として中和剤を加えて中和した後、所定量の脱イオン水を80℃程度の温度で攪拌下、滴下して添加することにより、水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体(A)を得ることができる。
【0068】
中和剤としては、例えば、アンモニア、エチルアミン、イソプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチレンジアミン、モルホリン、ピリジン、イソプロパノールアミン、メチルイソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンなどのアミン化合物を好適に使用することができる。
【0069】
添加する中和剤の量は、適宜選択することができるが、水酸基及び酸基含有樹脂の酸基に対して0.4〜0.9当量程度、特に0.5〜0.8当量程度であるのが分散安定性の観点から好ましい。上記水分散においては、分散性向上の観点から必要に応じて乳化剤を使用することもできる。
【0070】
本発明の水性クリヤ塗料組成物において、水性分散体(A)中の粒子状樹脂は、その平均粒子径が、50〜300nm程度、好ましくは100〜250nm程度、より好ましくは100〜200nm程度の範囲内となるように、水酸基及び酸基含有樹脂を水分散する必要がある。分散した樹脂粒子の平均粒子径が、50nm未満であると水性分散体(A)の粘度が高くなり、耐ワキ性等が低下する場合があり、一方300nmを越えると塗面平滑性が低下する場合がある。
【0071】
本明細書において、粒子状樹脂の平均粒子径は、サブミクロン粒度分布測定装置を用いて、常法により脱イオン水で希釈してから20℃で測定した値である。サブミクロン粒度分布測定装置としては、例えば、「COULTER N4型」(商品名、ベックマン・コールター社製)を用いることができる。
【0072】
水性分散体(A)中の水酸基及び酸基樹脂粒子の粘度は、塗面平滑性、塗装作業性及び塗膜硬度が良好である点から、該樹脂粒子の固形分96質量%以上での溶融粘度が、温度140℃、せん断速度564秒−1で測定して、1Pa・s〜12Pa・s程度の範囲であるのが好ましく、1Pa・s〜8Pa・s程度の範囲であるのがより好ましく、1Pa・s〜6Pa・s程度の範囲であるのが更に好ましい。
【0073】
また、上記測定温度を140℃から120℃又は160℃に変更して、同様の条件で測定した場合の溶融粘度は次の通りである。120℃で測定した場合は、6Pa・s〜72Pa・s程度が好ましく、6Pa・s〜48Pa・s程度がより好ましく、6Pa・s〜36Pa・s程度が更に好ましい。160℃で測定した場合は、0.2Pa・s〜2.4Pa・s程度が好ましく、0.2Pa・s〜1.6Pa・s程度がより好ましく、0.2Pa・s〜1.2Pa・s程度が更に好ましい。
【0074】
水酸基及び酸基樹脂粒子の固形分96質量%以上での溶融粘度とは、該樹脂粒子の固形分が96質量%以上であるすべての固形分質量濃度において、上記溶融粘度の範囲内であることを意味するものである。
【0075】
本明細書において、水酸基及び酸基樹脂粒子の固形分96質量%以上での溶融粘度は、水性分散体(A)を、ガラス板に4milのアプリケーターで塗布し、110℃で3時間程度乾燥させ、固形分が96質量%以上となるように調整した後、コーンアンドプレート型粘度計を用いてせん断速度564秒−1、140℃での粘度を測定した値である。後記製造例等における測定は、コーンアンドプレート型粘度計として、「VISCONE CV−1」(商品名、マイセック社製)を使用して、100Pローター(コーン直径14.5mm、コーン角度2°)を用いて、行なった。水酸基及び酸基樹脂粒子の固形分は、上記で110℃3時間程度乾燥して得た未硬化塗膜をかきとり、その約2.0gを直径約5cmのアルミニウム箔製カップに採取し、110℃で1時間加熱後の残分(g)を測定して、算出した。
【0076】
水性分散体(A)としては、水酸基及び酸基含有樹脂を水分散して得られるものである限りにおいて、一種単独で又は2種以上を併用して使用することができる。水性分散体(A)としては、水酸基及び酸基含有アクリル樹脂又は水酸基及びカルボキシル基含有ポリエステル樹脂を水分散して得られるものが好ましい。
【0077】
水性分散体(A)の固形分濃度は、水性分散体の安定性が優れる点から、35〜55質量%程度の範囲内であるのが好ましい。後記製造例等において、該固形分濃度は、水性分散体約2.0gを直径約5cmのアルミニウム箔カップに採取し、110℃で1時間加熱後の残分(g)を測定して、算出した。
【0078】
水性分散体(A)のB型粘度は、水性分散体の安定性が優れる点から、400〜1,000mPa・s程度の範囲内であるのが好ましく、500〜900mPa・s程度の範囲内であるのがより好ましい。後記製造例等において、該粘度の測定は、Brookfield viscometerを使用し、20℃で60rpmの条件で行なった。
【0079】
水性分散体(A)のpHは、水性分散体の安定性が優れる点から、6.0〜8.5程度の範囲内であるのが好ましく、6.5〜8.0程度の範囲内であるのがより好ましい。後記製造例において、pHの測定は、pHメーターを使用して行った。pHメーターとしては、例えば「F−22」(商品名、堀場製作所製)を使用できる。
【0080】
架橋剤(B)
本発明の水性クリヤ塗料組成物の架橋剤(B)としては、水性分散体(A)中の水酸基及び酸基含有樹脂が有する水酸基と架橋反応できるものである限り、限定されない。架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂等を挙げることができる。これらの内、ポリイソシアネート化合物及びブロック化ポリイソシアネート化合物を用いるのが好ましい。
【0081】
ポリイソシアネート化合物は、1分子中に遊離のイソシアネート基を2個以上有する化合物である。ポリイソシアネート化合物としては、ポリウレタン製造用として公知のもの、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート及びこれらポリイソシアネートの誘導体などをあげることができる。
【0082】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエートなどの脂肪族ジイソシアネート;リジンエステルトリイソシアネート、1,4,8−トリイソシアナトオクタン、1,6,11−トリイソシアナトウンデカン、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアナトヘキサン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアナト−5−イソシアナトメチルオクタンなどの脂肪族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0083】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(慣用名:イソホロンジイソシアネート)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート;1,3,5−トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,6−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)−ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタンなどの脂環族トリイソシアネートなどをあげることができる。
【0084】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、ω,ω’−ジイソシアナト−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−ビス(1−イソシアナト−1−メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)、1,4−ビス(1−イソシアナト−1−メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)などの芳香脂肪族ジイソシアネート;1,3,5−トリイソシアナトメチルベンゼンなどの芳香脂肪族トリイソシアネートなどをあげることができる。
【0085】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;トリフェニルメタン−4,4’,4’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエンなどの芳香族トリイソシアネート;4,4’−ジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネートなどの芳香族テトライソシアネートなどをあげることができる。
【0086】
また、ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、上記ポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、オキサジアジンジオン等の各種誘導体を挙げることができる。
【0087】
これらポリイソシアネートは、1種単独で用いても、又2種以上併用してもよい。また、これらポリイソシアネートのうち、硬化塗膜の耐候性等に優れる点から、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、およびこれらの誘導体を好適に使用することができる。
【0088】
ブロック化ポリイソシアネート化合物は、上記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤でブロックした化合物である。
【0089】
ブロック剤は、遊離のイソシアネート基を封鎖するものである。また、ブロックされたイソシアネート基は、例えば、100℃以上、好ましくは130℃以上に加熱することにより、ブロック剤が解離し、再生したイソシアネート基が、水酸基と容易に反応することができる。
【0090】
かかるブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、エチルフェノール、ヒドロキシジフェニル、ブチルフェノール、イソプロピルフェノール、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸メチルなどのフェノール類;ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピオラクタムなどのラクタム類;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、アミルアルコール、ラウリルアルコールなどの脂肪族アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノールなどのエーテル類;ベンジルアルコール;グリコール酸;グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、グリコール酸ブチルなどのグリコール酸エステル;乳酸、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどの乳酸エステル;メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのアルコール類;ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム類;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン基含有化合物類;ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾチアゾール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン類;アセトアニリド、アセトアニシジド、アセトトルイド、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸アミド、ステアリン酸アミド、ベンズアミドなどの酸アミド類;コハク酸イミド、フタル酸イミド、マレイン酸イミドなどのイミド類;ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N−フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ブチルフェニルアミン等のアミン類;イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール類;3,5−ジメチルピラゾールなどのピラゾール類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、ジフェニル尿素などの尿素類;N−フェニルカルバミン酸フェニルなどのカルバミン酸エステル類;エチレンイミン、プロピレンイミンなどのイミン類;重亜硫酸ソーダ、重亜硫酸カリなどの亜硫酸塩類などの化合物を挙げることができる。
【0091】
ポリイソシアネート化合物にブロック剤を反応させてブロック化するにあたっては、必要に応じて溶剤を用いることができる。用いる溶剤としてはイソシアネート基に対して反応性でないものが好ましい。このような溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類;酢酸エチルのようなエステル類;N−メチルピロリドン(NMP)等をあげることができる。
【0092】
また、本発明の水性クリヤ塗料組成物の架橋剤として、水分散性の向上及び低VOC化の点から、上記ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物を親水性に変性して得られる、親水性ポリイソシアネート化合物、親水性ブロック化ポリイソシアネート化合物を使用することが好ましい。
【0093】
親水性ポリイソシアネート化合物は、例えば、ポリイソシアネート化合物とポリエチレングリコールモノメチルエーテル等の親水性ポリエーテルアルコールとを反応させることにより得ることができる。
【0094】
また、例えば、アニオン性基を有する活性水素基含有化合物の活性水素基をポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応させることにより、親水性ポリイソシアネート化合物を得ることもできる。
【0095】
アニオン性基を有する活性水素基含有化合物は、カルボキシル基、スルホニル基、リン酸基、スルホベタインなどのべタイン構造含有基などのアニオン性基を有し、かつ、イソシアネート基と反応し得る、例えば、水酸基、アミノ基などの活性水素基を含有する化合物である。
【0096】
このようなアニオン性基を有する活性水素基含有化合物としては、例えば、1つのアニオン性基を有し、かつ、2つ以上の活性水素基を有する化合物が挙げられる。より具体的には、カルボキシル基を有する活性水素基含有化合物として、例えば、2,2−ジメチロール酢酸、2,2−ジメチロール乳酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、ジメチロールヘプタン酸、ジメチロールノナン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸などのジヒドロキシルカルボン酸;1−カルボキシ−1,5−ペンチレンジアミン、ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジアミノ安息香酸、リジン、アルギニンなどのジアミノカルボン酸;ポリオキシプロピレントリオールと無水マレイン酸や無水フタル酸とのハーフエステル化物等などを挙げることができる。
【0097】
また、スルホニル基を有する活性水素基含有化合物として、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸、1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、ジアミノブタンスルホン酸、3,6−ジアミノ−2−トルエンスルホン酸、2,4−ジアミノ−5−トルエンスルホン酸などが挙げられる。
【0098】
また、リン酸基を有する活性水素基含有化合物として、例えば、2,3−ジヒドロキシプロピルフェニルホスフェートなどをあげることができる。
【0099】
また、ベタイン構造含有基を有する活性水素基含有化合物として、例えば、N−メチルジエタノールアミンなどの3級アミンと1,3−プロパンジスルホン酸との反応によって得られるスルホベタイン基含有化合物などをあげることができる。
【0100】
さらに、これらアニオン性基を有する活性水素基含有化合物には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを、アニオン性基含有化合物に付加させることによって得られるアルキレンオキサイド変性体も包含される。
【0101】
これらアニオン性基を有する活性水素基含有化合物は、単独で用いてもよく、また、2種以上併用してもよい。また、これらアニオン性基を有する活性水素基含有化合物のうち、特にスルホニル基及び/又はリン酸基を有する活性水素基含有化合物を好適に用いることができる。
【0102】
親水性に変性させるべきポリイソシアネート化合物としては、前記例示のポリイソシアネート化合物を用いることができる。この中でも好ましい例として、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)の誘導体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)の誘導体を挙げることができる。
【0103】
親水性に変性されたブロック化ポリイソシアネート化合物は、例えば、親水性に変性されたポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤でブロックすることにより合成することができる。
【0104】
ブロック剤としては、ブロック化ポリイソシアネート化合物の説明で例示したブロック剤と同様のものを用いることができ、ブロック化反応もブロック化ポリイソシアネート化合物の説明で示したのと同様の方法で行なうことができる。
【0105】
架橋剤(B)としてポリイソシアネート化合物又はブロック化ポリイソシアネート化合物を用いる場合には、硬化触媒として、有機錫化合物を用いることができる。
【0106】
メラミン樹脂としては、例えば、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等のメチロールメラミン;メチロールメラミンとアルコールとのアルキルエーテル化物;メチロールメラミンの縮合物のアルキルエーテル化物等を挙げることができる。アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等が挙げられる。
【0107】
メラミン樹脂としては、例えば、トリアジン核1個あたりメチルエーテル化されたメチロール基を平均3個以上有するメラミン樹脂;重量平均分子量500〜1,000程度の親水性イミノ基含有アルキルエーテル化メラミン樹脂等を好適に使用することができる。
【0108】
メラミン樹脂としては、市販品を使用することができる。市販品の商品名としては、例えば、「サイメル303」、「サイメル323」、「サイメル325」、「サイメル327」、「サイメル350」、「サイメル370」、「サイメル380」、「サイメル385」、「サイメル254」(以上、日本サイテックインダストリーズ社製);「レジミン735」、「レジミン740」、「レジミン741」、「レジミン745」、「レジミン746」、「レジミン747」、「(以上、モンサント社製);「スミマールM55」、「スミマールM30W」、「スミマールM50W」(以上、住友化学社製);「ユーバン20SE」(三井化学社製)などを挙げることができる。
【0109】
これらメラミン樹脂は、単独で用いてもよく、また、2種以上併用してもよい。
【0110】
また、架橋剤(B)としてメラミン樹脂を使用する場合は、硬化触媒として、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸などのスルホン酸;該スルホン酸とアミンとの中和塩;リン酸エステル化合物とアミンとの中和塩等を使用することができる。
【0111】
架橋剤(B)としては、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物及びメラミン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤を用いることが、好ましい。
【0112】
本発明の水性クリヤ塗料組成物において、架橋剤(B)として、ポリイソシアネート化合物及び/又はブロック化ポリイソシアネート化合物を使用する場合、(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水酸基とポリイソシアネート化合物及び/又はブロック化ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の当量比(NCO/OH)は、組成物の硬化性及び塗料安定性に優れる点から、0.5〜2.0程度であるのが好ましく、0.8〜1.5程度の範囲内であるのがより好ましい。
【0113】
また、本発明の水性クリヤ塗料組成物において、架橋剤(B)として、メラミン樹脂を使用する場合、(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂とメラミン樹脂との重量比が、両者の合計に基づいて、組成物の硬化性に優れる点から、該粒子状樹脂が50〜90重量%で、メラミン樹脂が50〜10重量%であるのが好ましく、該粒子状樹脂が60〜80重量%で、メラミン樹脂が40〜20重量%であるのがより好ましい。
【0114】
本発明の水性クリヤ塗料組成物には、必要に応じて、紫外線吸収剤を使用することができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等をあげることができる。
【0115】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−(1,1−ジメチルベンジル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−イソアミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0116】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(たとえばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「TINUVIN 1577FF」)、2−[4−[6(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンと2−[4−[6(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンとの混合物(たとえばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「TINUVIN 400」)、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−iso−オクチルオキシフェニル)−s−トリアジン(たとえばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「TINUVIN 411L」)、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン(たとえば三井サイテック株式会社製、商品名「CYAGARD UV1164L」)などが挙げられる。
【0117】
上記紫外線吸収剤は単独で又は2種以上を併用して使用することができる。紫外線吸収剤の使用量は、水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体(A)と架橋剤(B)の固形分合計100重量部あたり、0.1〜10重量部程度が好ましく、0.5〜5重量部程度がより好ましく、0.8〜3重量部程度が更に好ましい。
【0118】
本発明の水性クリヤ塗料組成物には、必要に応じて、光安定剤を添加することもできる。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン誘導体を用いることができる。具体的には、例えば、ビス−(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバテ−ト、4−ベンゾイルオキシ−2,2’,6,6’−テトラメチルピペリジンなどを挙げることができる。
【0119】
上記光安定剤は単独で又は2種以上を併用して使用することができる。光安定剤の使用量は、水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体(A)と架橋剤(B)の固形分合計100重量部あたり、0.1〜10重量部程度が好ましく、0.5〜5重量部程度がより好ましく、0.8〜3重量部程度が更に好ましい。
【0120】
紫外線吸収剤及び光安定剤は、塗料中への水分散化を容易に行うために、例えば、トルエンなどの溶剤に溶解後乳化剤を用いて水分散する方法;水酸基及び酸基含有樹脂の合成終了時の樹脂溶液に溶解させ、該樹脂の水分散と同時に水分散化する方法;水酸基及び酸基含有樹脂の原料モノマー混合物に溶解させ、これを重合して得られた該樹脂溶液中に取り込ませ、該樹脂とともに水分散させる方法等の方法により行なうことができる。
【0121】
本発明の水性クリヤ塗料組成物には、必要に応じて、硬化触媒、レオロジーコントロール剤、表面調整剤、着色顔料、メタリック顔料、光干渉性顔料、体質顔料などの添加剤を含有させることができる。上記着色顔料、メタリック顔料、光干渉性顔料、体質顔料等は塗膜の透明性を阻害しない範囲の量で使用できる。
【0122】
水性クリヤ塗料組成物の架橋剤(B)として、ポリイソシアネート化合物及び/又は親水性に変性されたポリイソシアネート化合物を使用する場合は、これらのポリイソシアネート化合物が水酸基と常温で容易に架橋反応するので、水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体(A)と架橋剤(B)とを、2液型組成物として、あらかじめ分離しておき、塗装直前に混合することが好ましい。その際、必要に応じて使用される紫外線吸収剤、光安定剤、その他の添加剤は、一般に、水性分散体(A)成分側に配合しておくことが望ましい。混合は、例えばアジテーター、ホモジナイザー等の公知の混合装置を用いて行うことができる。
【0123】
本発明の水性クリヤ塗料組成物は、塗料固形分90質量%以上での30〜150℃における周波数0.1Hzの条件で測定した粘性率の最低値が30Pa・s以下であることを主な特徴とする。この粘性率の最低値は、20Pa・s以下であるのが好ましく、15Pa・s以下であるのがより好ましい。この粘性率の最低値は、水性クリヤ塗料組成物の塗料固形分が90質量%以上であるすべての固形分質量濃度において、30〜150℃における周波数0.1Hzの条件で測定した粘性率が、上記粘性率の最低値の範囲内であることを意味する。
【0124】
本発明の水性クリヤ塗料組成物において、30℃〜150℃の温度範囲で測定した粘性率の最低値とは、水性クリヤ塗料組成物塗装後に、加熱により、塗装された組成物が溶融してフローする間における複素粘性率の最低値である。即ち、水性クリヤ塗料組成物が、加熱により、溶融してフローする間の温度は、30℃〜150℃の範囲である。
【0125】
本明細書において、粘性率の最低値は、粘弾性測定装置を用いて測定した測定値である。後記実施例等においては、粘弾性測定装置としては、「レオストレスRS−150」(商品名、HAAKE社製)を用いて、粘性率を測定した。具体的な測定方法は、イソプロパノールを用いて脱脂したブリキ板(300×450×0.3mm)の表面に、粘度をフォードカップ粘度計#4を用いて測定して、20℃において、15〜60秒に調整した水性クリヤ塗料組成物を乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、60℃で10分間加熱した後、ブリキ板上に形成された未硬化の塗膜を掻き取ってサンプル瓶に収集し、直ちに蓋をして密閉したものを試料とし、試料1.0gを用いて、ひずみ制御による動的粘弾性測定(周波数0.1Hz、ひずみ1.0、昇温速度6℃/分、センサー:パラレルプレート(Φ=20mm)、ギャップ:0.5mm)を30℃から150℃の温度範囲で行ない、複素粘性率の最低値を測定することにより行なった。
【0126】
粘性率測定時の塗料固形分は、上記試料約2.0gを直径約5cmのアルミニウム箔カップに採取し、110℃で1時間加熱後の残分(g)を測定して、算出した。
【0127】
粘性率の最低値が30Pa・sを越えると、水性クリヤ塗料組成物塗装後の加熱により高固形分となった塗着塗料の熱フロー性が低下して、得られる塗膜の塗面平滑性低下、ワキ発生等の不具合を生じる。塗料固形分90質量%以上で測定するのは、通常、水性クリヤ塗料組成物を塗装後、加熱されて熱フローする際の塗料固形分が90質量%以上の高固形分であることに基くものである。
【0128】
上記粘性率の値は、(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の特性によるところが大きい。上記粘性率の最低値を30Pa・s以下に調整するには、例えば、(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の固形分96質量%以上での溶融粘度が、温度140℃、せん断速度564秒−1で測定して、1Pa・s〜12Pa・s程度のものを使用することにより、行なうことができる。また、上記溶融粘度範囲となる水酸基及び酸基含有粒子状樹脂としては、重量平均分子量が3,000〜30,000程度及び/又はガラス転移温度が−30℃〜+40℃程度の範囲内であることが好ましい。
【0129】
塗料組成物の調製方法
本発明の水性クリヤ塗料組成物は、水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体(A)、架橋剤(B)、及び必要に応じて使用される紫外線吸収剤、光安定剤、その他の添加剤を、公知の方法により、混合することによって、調製することができる。また、本発明組成物が2液型である場合は、これら成分の混合を、使用直前に行うことが好ましい。また、通常、塗装するに際して、必要に応じて脱イオン水で希釈して、例えば、フォードカップ粘度計#4を用いて測定して、20℃において、好ましくは20〜60秒程度、より好ましくは30〜50秒程度の粘度に調整する。この場合、固形分濃度は、35〜65質量%程度であるのが好ましく、40〜60質量%程度の範囲内であるのがより好ましい。
【0130】
また、本発明の水性クリヤ塗料組成物は、通常、VOCが、0〜300g/lであるのが好ましく、0〜150g/l程度であるのがより好ましい。ここで、VOCは、世界保健機構(WHO)により定義されている「高揮発性有機化合物」および「揮発性有機化合物」に分類される揮発性有機物質である。
【0131】
塗装方法
本発明の水性クリヤ塗料組成物は、以下に示す種々の塗装方法において、好適に使用することができる。
【0132】
被塗物
被塗物としては、自動車、二輪車等の車体又はその部品等が挙げられる。また、これら車体等を形成する冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛合金メッキ鋼板、ステンレス鋼板、錫メッキ鋼板等の鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板等の金属基材;各種プラスチック基材等であってもよい。
【0133】
また、被塗物としては、上記車体、部品、金属基材の金属表面に、リン酸塩処理、クロメート処理等の化成処理が施されたものであってもよい。更に、被塗物としては、上記車体、金属基材等に、各種電着塗料等の下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜が形成されたものであってもよい。
【0134】
塗装及び硬化方法
本発明の塗料組成物の塗装方法としては、特に限定されないが、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装などの塗装方法でウエット塗膜を形成することができる。エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装及び回転霧化塗装においては、必要に応じて、静電印加してもよい。塗装膜厚は、通常、硬化膜厚として、10〜80μm程度とするのが好ましく、20〜60μm程度とするのがより好ましい。
【0135】
加熱は、公知の加熱手段により、行うことができる。例えば、熱風炉、電気炉、赤外線加熱炉等の乾燥炉を適用できる。
【0136】
加熱温度は、通常、80〜180℃程度、好ましくは100〜160℃程度の範囲であることが適当である。加熱時間は、通常、10〜40分間程度の範囲であるのが、適当である。
【0137】
上記加熱前に、水等の揮発成分の揮散を促進するために、必要に応じて、50〜80℃程度で、3〜10分程度のプレヒートを行ってもよい。
【0138】
上塗り複層塗膜形成方法
本発明の塗料組成物によれば、塗面平滑性等の塗膜外観、耐水性、耐ワキ性等の塗膜性能に優れる塗膜を形成できるので、被塗物に上塗り複層塗膜を形成する塗膜形成方法において、トップクリヤコートを形成するクリヤ塗料組成物として使用することが好ましい。
【0139】
従って、本発明の上塗り複層塗膜形成方法は、被塗物に、1層又は2層の着色ベースコート及び1層又は2層のクリヤコートを順次形成する塗膜形成方法であって、その最上層のクリヤコートを形成する塗料組成物として、本発明の塗料組成物を用いることを特徴とする。
【0140】
本発明の上塗り塗膜形成方法を適用する被塗物としては、自動車車体及びその部品が、特に好ましい。
【0141】
上記の上塗り塗膜形成方法としては、より具体的には、例えば下記方法a〜cの複層塗膜形成方法において、トップクリヤコート形成用として本発明の水性クリヤ塗料組成物を用いる方法を挙げることができる。
【0142】
方法a:被塗物に、着色ベースコート及びトップクリヤコートを順次形成する2コート方式の上塗り複層塗膜形成方法。
【0143】
方法b:被塗物に、着色ベースコート、クリヤコート及びトップクリヤコートを順次形成する3コート方式の上塗り複層塗膜形成方法。
【0144】
方法c:被塗物に、第一着色ベースコート、第二着色ベースコート及びトップクリヤコートを順次形成する3コート方式の上塗り複層塗膜形成方法。
【0145】
これらの方法a、方法b、方法cの各上塗り塗膜形成工程について、詳細に説明する。
【0146】
上記方法aにおいて、着色ベースコートを形成する塗料組成物としては、公知の着色塗料組成物を使用できる。
【0147】
上記着色ベース塗料組成物としては、自動車車体等を塗装する場合に用いられる塗料組成物を用いるのが好適である。
【0148】
上記着色ベース塗料組成物は、基体樹脂、架橋剤、着色顔料、メタリック顔料、光干渉性顔料、体質顔料等を含有する有機溶剤型又は水性の塗料組成物である。着色ベース塗料組成物としては、低VOC化の観点から、水性塗料組成物であるのが好ましい。
【0149】
基体樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの少なくとも1種を用いることができる。基体樹脂は、例えば、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、アルコキシシリル基等の架橋性官能基を有している。架橋剤としては、例えば、アルキルエーテル化メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、カルボキシル基含有化合物などの少なくとも1種を用いることができる。基体樹脂及び架橋剤は、両成分の合計量を基準にして、基体樹脂50〜90重量%、架橋剤50〜10重量%の割合で使用することが好ましい。
【0150】
各方法において、着色ベース塗料組成物及びクリヤ塗料組成物の塗装方法としては、エアレススプレー、エアスプレー、回転霧化塗装などの塗装方法を採用することができる。これらの塗装方法は、必要に応じて、静電印加していてもよい。
【0151】
方法aにおいては、被塗物に、上記着色ベース塗料組成物を、硬化膜厚で約10〜50μmとなるように塗装する。塗装されたベース塗料組成物は、約100〜180℃、好ましくは約120〜160℃で約10〜40分間加熱して硬化させるか、又は塗装後硬化することなく室温で数分間放置もしくは約40〜100℃で、約1〜20分間プレヒートする。
【0152】
次いで、トップクリヤコートを形成する塗料として、本発明のクリヤ塗料組成物を、膜厚が硬化膜厚で約10〜70μmになるように塗装し、加熱することによって、硬化された複層塗膜を形成することができる。加熱は、約100〜180℃、好ましくは約120〜160℃で、約10〜40分間が好ましい。
【0153】
上記2コート方式において、ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化することなく、クリヤ塗料組成物を塗装し、これらの二層塗膜を同時に硬化する場合は2コート1ベーク方式であり、又ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化後、クリヤ塗料組成物を塗装し、クリア塗膜を硬化する場合は2コート2ベーク方式である。
【0154】
方法bにおける着色ベース塗料組成物としては、方法aの項で説明した着色ベース塗料組成物と同様のものを使用することができる。また、クリヤコートを形成する第1クリヤ塗料組成物としては、透明塗膜形成用塗料であればよく、例えば、上記公知の着色ベース塗料組成物から顔料の殆ど又はすべてを除去してなる塗料組成物を使用することができる。そして、トップクリヤコートを形成する第2クリヤ塗料組成物として、本発明の塗料組成物を使用する。また、第1クリヤ塗料組成物として、本発明のクリヤ塗料組成物を用いて、本発明クリヤ塗料組成物から形成されたクリヤコート及びトップクリヤコートが形成されていてもよい。
【0155】
方法bにおいては、方法aと同様にして、被塗物に、着色ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化させてから、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートしてから、着色ベース塗膜上に、第1クリヤ塗料組成物を、膜厚が硬化膜厚で約10〜50μmになるように塗装し、約100〜180℃、好ましくは約120〜160℃で、約10〜40分間加熱して硬化させるか、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートを行う。
【0156】
次に、第2クリヤ塗料組成物として、本発明塗料組成物を、膜厚が硬化膜厚で約10〜50μmになるように塗装し、加熱することによって、硬化された複層塗膜を形成することができる。加熱条件は、方法aの場合と同様である。
【0157】
ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化することなく、第1クリヤ塗料組成物を塗装し、これを硬化することなく、第2クリヤ塗料組成物を塗装し、これらの三層塗膜を同時に硬化する場合は3コート1ベーク方式である。また、ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化することなく、第1クリヤ塗料組成物を塗装し、これらの塗膜を同時に加熱硬化し、第2クリヤ塗料組成物を塗装し、これを硬化する場合は、3コート2ベーク方式である。また、ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化し、第1クリヤ塗料組成物を塗装し、これを硬化し、第2クリヤ塗料組成物を塗装し、これを硬化する場合は、3コート3ベーク方式である。
【0158】
方法cにおいて、第1着色べース塗料組成物としては、方法aの項で説明した着色ベース塗料組成物と同様のものを使用することができる。
【0159】
方法cにおいては、方法aと同様にして、被塗物に、第1着色ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化させるか、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートしてから、第1着色ベース塗膜上に、第2着色ベース塗料組成物を、膜厚が硬化膜厚で約10〜50μmになるように塗装し、約100〜180℃、好ましくは約120〜160℃で、約10〜40分間加熱して硬化させるか、又は硬化させずに室温で数分間放置もしくはプレヒートを行う。
【0160】
次に、トップクリヤコートを形成する塗料組成物として、本発明塗料組成物を、膜厚が硬化膜厚で約10〜50μmになるように塗装し、加熱することによって、硬化された複層塗膜を形成することができる。加熱条件は、方法aの場合と同様である。
【0161】
第1ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化することなく、第2ベース塗料組成物を塗装し、これを硬化することなく、クリヤ塗料組成物を塗装し、これらの三層塗膜を同時に硬化する場合は、3コート1ベーク方式である。また、第1ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化し、第2ベース塗料組成物を塗装し、これを硬化することなく、クリヤ塗料組成物を塗装し、これらの塗膜を同時に硬化する場合は、3コート2ベーク方式である。また、第1ベース塗料組成物を塗装し加熱硬化し、第2ベース塗料組成物を塗装し、これを硬化し、クリヤ塗料組成物を塗装し、これを硬化する場合は、3コート3ベーク方式である。
【発明の効果】
【0162】
本発明の水性クリヤ塗料組成物及びこれを用いた上塗り複層塗膜形成方法によれば、下記の如き顕著な効果が得られる。
【0163】
(1)本発明の塗料組成物によれば、被塗物上に、平滑性等の塗膜外観が良好で、しかもワキ等の塗面異常の発生が無い塗膜を形成できる。従って、本発明の塗料組成物は、自動車車体等を2コート1ベーク方式等の上塗り複層塗膜形成方法により、塗装する場合のトップクリヤコートを形成するための水性クリヤ塗料組成物として好適である。
【0164】
本発明組成物が、塗膜外観、耐ワキ性等に優れる塗膜を形成できる理由は、塗装後の塗着塗膜の熱フロー性が向上していることにより、ワキ発生の原因となる塗膜硬化過程における揮発成分の泡抜け性が良好となり、又塗膜上に発生した泡跡も熱フローにより消失してしまうためであると考えられる。
【0165】
また、本発明の塗料組成物の(A)成分における水酸基及び酸基含有樹脂粒子の平均粒子径が50〜300nmの範囲であることにより、組成物の粘性及び樹脂粒子粒度の最適化を図ることができたことにより、得られる塗膜の塗面平滑性が向上したと考えられる。
【0166】
(2)本発明の塗料組成物は、水性塗料であるため、自動車車体等の塗装工程におけるVOCの排出の低減を、容易に達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0167】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を一層具体的に説明する。但し、本発明は、これらにより限定されない。各例において、「部」及び「%」は、特記しない限り、質量基準による。また、塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づく。
【0168】
水酸基及びカルボキシル基含有粒子状アクリル樹脂の水性分散体の製造
製造例1
加熱装置、攪拌装置、温度計、還流冷却器、水分離器を備えた4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノプロピルエーテルを30部仕込み、窒素ガス通気下で145℃に昇温した後、窒素ガスの通気を止め、1段目として、スチレン15部、n−ブチルアクリレート31部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート29部、ジ−t−ブチルパーオキサイド2.6部を4時間かけて滴下した。その後30分間、同温度で保持した。更に、2段目として、n−ブチルアクリレート15.5部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート6.0部、アクリル酸3.5部、ジt−ブチルパーオキサイド0.88部を30分間かけて滴下した後1時間熟成させた。その後、固形分濃度が95%となるまで溶剤を減圧留去してから90℃に冷却した。次いで、ジメチルエタノールアミンを3部加えたのち、脱イオン水105部を80℃で滴下することにより、水酸基及びカルボキシル基含有粒子状アクリル樹脂の水性分散体(A−1)を得た。
【0169】
上記水性分散体(A−1)の固形分濃度は47%、粘度は570mPa・s(B型粘度計を使用し、20℃で60rpmの条件で測定した)、pHは7.08、分散粒子の平均粒子径は140nmであった。
【0170】
また、水性分散体(A−1)を110℃で3時間乾燥して、固形分濃度96%としたときの溶融粘度は、140℃、せん断速度564秒−1で測定して、4.0Pa・sであった。この固形分は、水性分散体(A−1)を、ガラス板に、4milのアプリケータで塗布し、110℃で3時間乾燥して得た未硬化塗膜をかきとり、その約2.0gを直径約5cmのアルミニウム箔製カップに採取し、110℃で1時間加熱後の残分(g)を測定して、算出した。
【0171】
この水酸基及びカルボキシル基含有粒子状アクリル樹脂は、水酸基価150mgKOH/g、酸価27mgKOH/g、重量平均分子量15,000、ガラス転移温度(Tg)0℃であった。
【0172】
製造例2〜6
表1に示す原料配合で、製造例1と同様にして、水酸基及びカルボキシル基含有粒子状アクリル樹脂の水性分散体(A−2)〜(A−6)を得た。
【0173】
表1に、各カルボキシル基含有粒子状アクリル樹脂の特性及び各水性分散体の特性を併記する。
【0174】
【表1】

【0175】
水酸基及びカルボキシル基含有粒子状ポリウレタン樹脂の水性分散体の製造
製造例7
加熱装置、攪拌装置、温度計、還流冷却器、水分離器を備えた4つ口フラスコに、N−メチルピロリドン5部、メチルエチルケトン10部、ネオペンチルグリコールアジピン酸エステル(分子量1,000、水酸基価116mgKOH/g)21.84部、ネオペンチルグリコール3.82部、2,2−ジメチロールブタン酸4.91部を加え、溶解させながら70℃に昇温した。次に、イソホロンジイソシアネート18.36部、ヘキサメチレンジイソシアネート24.24部を2時間かけて滴下し、70℃で3時間反応させた。その後、メチルエチルケトンを留去し、ジメチルエタノールアミンを2.86部を加えた後、脱イオン水108部を60℃で滴下することにより、水酸基及びカルボキシル基含有粒子状ポリウレタン樹脂の水性分散体(A−7)を得た。
【0176】
上記水性分散体(A−7)の固形分濃度は47%、粘度は460mPa.s(B型粘度計を使用し、20℃で60rpmの条件で測定した)、pHは7.98、分散粒子の平均粒子径は115nmであった。
【0177】
また、水性分散体(A−7)を110℃で3時間乾燥して、固形分濃度96%としたときの溶融粘度は、140℃、せん断速度564秒−1で測定して、4.8Pa・sであった。この固形分は、水性分散体(A−7)を、ガラス板に、4milのアプリケータで塗布し、110℃で3時間乾燥して得た未硬化塗膜をかきとり、その約2.0gを直径約5cmのアルミニウム箔製カップに採取し、110℃で1時間加熱後の残分(g)を測定して、算出した。
【0178】
この水酸基及びカルボキシル基含有粒子状ポリウレタン樹脂は、水酸基価150mgKOH/g、酸価20mgKOH/g、重量平均分子量6,000、ガラス転移温度(Tg)10℃であった。
【0179】
水性クリヤ塗料組成物の製造
実施例1〜12及び比較例1〜2
上記製造例1〜7で得られた水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体(A−1)〜(A−7)及び架橋剤(B−1)〜(B−5)を、表2に示す配合にて、アジテーターを用いて攪拌混合することにより、各水性クリヤ塗料組成物1〜14を得た。表2に示す塗料組成物の配合は各成分の固形分質量比である。表2において、架橋剤(B−1)〜(B−5)は、それぞれ下記の意味を有する。
【0180】
(B−1):「XP−2570」(商品名、住化バイエルウレタン社製、水分散性ポリイソシアネート化合物)
(B−2):「N−3100」(商品名、住化バイエルウレタン社製、親水性基含有ポリイソシアネート化合物)
(B−3):「XP−2410」(商品名、住化バイエルウレタン社製、低粘度ポリイソシアネート化合物)
(B−4):「LS2253」(商品名、住化バイエルウレタン社製、アミン類ブロックポリイソシアネート化合物)
(B−5):「Cy325」(商品名、三井サイテック社製、イミノ基含有メチルエーテル化メラミン樹脂)
上記実施例1〜12及び比較例1〜2で得られた各水性クリヤ塗料組成物1〜14について、水を加えて、フォードカップ#4を用いて測定して、20℃で45秒の粘度に調整した。
【0181】
粘度調整後の各クリヤ塗料組成物について、以下の方法により、固形分濃度(%)、VOC(g/l)及び粘性率の最低値の測定を行った。
【0182】
固形分濃度:直径約5cmのアルミニウム箔カップに、粘度調整後の水性クリヤ塗料組成物約2gを採取し、110℃で1時間乾燥させて、重量を測定し、塗料固形分濃度(%)を算出した。
【0183】
VOC量:粘度調整後の水性クリヤ塗料組成物の上記塗料固形分濃度、比重及び水分量を用いて、下記式(1)に従って、粘度調整後の各水性クリヤ塗料組成物のVOC量を算出した。比重は、JIS K−5400 4.6.2による比重カップ法によって測定し、又水分量は自動水分測定装置(商品名「KF−100」、三菱化学社製)を用いて、カールフィッシャー法によって測定した。
【0184】
VOC量(g/l)={[100−(S+W)]×ρ}/[100−(W×ρ)] (1)
式(1)において、Sは塗料固形分濃度(%)を、Wは塗料の水分量(%)を、ρは塗料の比重(g/l)をそれぞれ示す。
【0185】
粘性率の最低値:イソプロパノールで脱脂したブリキ板(300×450×0.3mm)に、粘度調整後の水性クリヤ塗料組成物を乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装して60℃で10分間程度加熱した後、ブリキ板上に形成された未硬化の塗膜を掻き取ってサンプル瓶に収集し、蓋をして密閉したものを測定用試料とし、測定用試料1.0gを「レオストレスRS−150」(商品名、HAAKE社製 粘弾性測定装置)を用いて、周波数0.1Hz、ひずみ1.0、センサー:パラレルプレート(Φ=20mm)、ギャップ:0.5mm、昇温速度6℃/分の条件で、ひずみ制御による動的粘弾性を測定し、30℃から150℃までの範囲での粘性率の最低値を測定した。
【0186】
粘性率測定時の固形分濃度(%):上記測定用試料約2.0gを直径約5cmのアルミニウム箔カップに採取し、110℃で1時間加熱後の残分(g)を測定して、1時間加熱後の残分を当初の測定用試料重量で除することにより、60℃で10分間程度加熱後の塗着塗料固形分(%)を算出した。
【0187】
表2に、水性クリヤ塗料組成物の配合、固形分濃度、VOC量、粘性率の最低値及び粘性率測定時の固形分濃度を示す。
【0188】
【表2−1】

【0189】
【表2−2】

【0190】
水性クリヤ塗料組成物の性能試験
試験板の調製
(1)実施例1〜12及び比較例1〜2で得られた上記各水性クリヤ塗料組成物1〜14に、水を加えて、フォードカップ#4を用いて測定して、20℃で45秒の粘度に調整した。
【0191】
(2)「パルボンド#3020」(商品名、日本パーカライジング社製)を用いて、リン酸亜鉛処理を施した冷延鋼板(大きさ400×300×0.8mm)に、熱硬化性エポキシ樹脂系カチオン電着塗料(商品名「エレクロンGT−10」、関西ペイント(株)製)を膜厚20μmとなるように電着塗装し、170℃で30分間加熱して硬化させた。次に、該電着塗膜上に、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系自動車用中塗塗料(商品名「アミラックTP−65−2」、関西ペイント(株)製)を硬化膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、140℃で30分間加熱硬化させた。この電着塗膜及び中塗り塗膜が形成された鋼板を被塗物として用いた。
【0192】
(3)上記(2)で得た被塗物上に、アクリル樹脂・メラミン樹脂系自動車用ベース塗料(商品名「水性メタリックベースコートWBC710T#1E7」、関西ペイント(株)製)を膜厚15μmとなるようにエアスプレー塗装し、室温で5分間放置してから、80℃で10分間プレヒートをおこなった後、この未硬化塗膜層上に、上記(1)で粘度調整した各水性クリヤ塗料組成物1〜14を硬化膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、室温で10分間放置してから、60℃で10分間プレヒートをおこなった後、140℃で20分間加熱してこの二層塗膜を一緒に硬化させた。かくして、被塗物上に、2コート1ベーク方式により、ベースコート及びクリヤコートからなる複層上塗り塗膜を形成した試験板を得た。
【0193】
性能試験
得られた各試験板について、塗膜外観、ツーコン硬度及び耐水性の塗膜性能試験を行った。また、塗装時のワキ発生膜厚(μm)についても試験を行った。試験方法は、以下の通りである。
【0194】
塗膜外観:目視により、塗面平滑性及びツヤ感により、下記の基準で評価した。
A:平滑性及びツヤ感が共に良好、B:平滑性及びツヤ感のいずれかが劣る、C:平滑性及びツヤ感共に劣る。
【0195】
ツーコン硬度:試験板を20℃の恒温室に24時間放置後、「Tukon Micro hardness Tester」(商品名、American Chain & Cable Company社製)を用いて、測定した。
【0196】
Knoop Hardness Number (KHN)とも言われるツーコン硬度は、四角錘ダイヤモンド圧子を一定の試験荷重で材料の試験面に押し込み、生じた菱形のくぼみの大きさから読み取られる塗膜の硬さを表したものであり、数値が大きいほど硬度が高いことを表す。
【0197】
耐水性:試験板を20℃の恒温室に24時間放置後、80℃の温水中に5時間浸漬し、その後浸漬させたままの状態で80℃から室温まで徐々に冷却した。その後水中より引き上げた試験板の表面状態を以下の基準で評価した。
A:ツヤ感が良好、B:ツヤ感が劣る、C:ツヤ感が劣り、塗面が白く濁っている
ワキ発生膜厚:水性クリヤ塗料組成物を膜厚20μm〜60μmの範囲で傾斜をつけて塗装した試験板を別途作製した。作成方法は、水性クリヤ塗料組成物を膜厚の傾斜をつけて塗装する以外は上記試験板の調製で示した方法と同様にして行った。塗面のワキによる気泡跡の発生状態を観察し、気泡跡が発生している部位の膜厚のうち、最小膜厚の数値をワキ発生膜厚(μm)とした。数値が大きいほど、耐ワキ性が優れることを示す。
【0198】
上記性能試験結果を表3に示す。表中「>60」とあるのは、ワキ発生膜厚が60μmより大きい値であることを表わす。
【0199】
上記性能試験結果を表3に示す。
【0200】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水酸基価が30〜200mgKOH/g、酸価が5〜50mgKOH/g及び平均粒子径が50〜300nmである水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水性分散体、並びに
(B)架橋剤を含有し、且つその塗料固形分90質量%以上での30〜150℃における周波数0.1Hzの条件で測定した粘性率の最低値が30Pa・s以下であることを特徴とする水性クリヤ塗料組成物。
【請求項2】
(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の固形分96質量%以上での溶融粘度が、温度140℃、せん断速度564秒−1で測定して、1Pa・s〜12Pa・sである請求項1に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【請求項3】
(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の重量平均分子量が、3,000〜30,000である請求項1に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【請求項4】
(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂のガラス転移温度が、−30℃〜+40℃である請求項1に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【請求項5】
架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物及びメラミン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の架橋剤である請求項1に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【請求項6】
架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物及び/又はブロックポリイソシアネート化合物である請求項5に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【請求項7】
(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂の水酸基とポリイソシアネート化合物及び/又はブロックポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の当量比(NCO/OH)が、0.5〜2.0である請求項5に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【請求項8】
架橋剤(B)が、メラミン樹脂である請求項5に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【請求項9】
(A)成分中の水酸基及び酸基含有粒子状樹脂とメラミン樹脂との重量比が、両者の合計に基づいて、前者が50〜90重量%で、後者が50〜10重量%である請求項8に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【請求項10】
固形分濃度が、35〜65質量%である請求項1に記載の水性クリヤ塗料組成物。
【請求項11】
被塗物に、1層又は2層の着色ベースコート及び1層又は2層のクリヤコートを形成する方法であって、最上層のクリヤコートを形成する塗料組成物が請求項1に記載の水性クリヤ塗料組成物であることを特徴とする複層塗膜形成方法。

【公表番号】特表2009−503122(P2009−503122A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503304(P2008−503304)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【国際出願番号】PCT/JP2006/315435
【国際公開番号】WO2007/013684
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】