説明

水性シランナノ複合材料

本発明は、少なくとも1種の以下の成分:(i)グリシジルオキシプロピルアルコキシシラン、(ii)SiO固体含量>20質量%を有する水性シリカゾル、(iii)有機酸加水分解触媒、および(iv)架橋剤としてのn−プロピルジルコネート、ブチルチタネートまたはチタニウムアセチルアセトネート、の反応に基づく組成物、その製造方法およびその使用、特に耐引掻き性被覆のための組成物としての使用を提供し、さらには、このようにして被覆された製品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾル−ゲル法によるシランおよびシリカゾルをベースとする水性組成物(以下、シランナノ複合材料または単にナノ複合材料と呼称する)および製造方法ならびにその使用に関する。
【0002】
シランは、ゾル−ゲル法によるナノ複合材料の製造における使用のための物質として、ますます重要視されている;特にEP 1 288 245 A, EP 0 982 348 A, DE 19816136 A, WO 99/036359。この種のナノ複合材料は、一般には被覆材料として、たとえば多くの適用において使用されている。
【0003】
ゾル−ゲル配合物をベースとする公知の被覆材料系の本質的な欠点は、しばしば、塩化物および有機性の一般に揮発性の溶剤、さらには毒性溶剤の高い含分が存在することであり、この場合、これらは、シラン加水分解における副生成物として得られるか、あるいは、希釈剤として添加されるものである。シランの完全な加水分解のために十分ではない水含量の使用および酸性加水分解触媒の使用は、溶剤を含有するにもかかわらず、貯蔵時において数ヶ月に亘って安定性であるゾル−ゲル系を製造することを可能にする。水の量の増加は、アルコキシ基の完全な加水分解を招き、それによって系の貯蔵安定性における顕著な減少および/または加水分解方法の終了時における急速なゲル化を、特にこのような系が極めて高い固体含量を有する場合に招く。
【0004】
したがって本発明の対象は、ゾル−ゲル方法によるさらに反応性であって、本質的に水性のナノ複合材料を提供することである。特に本発明は、付加的に相対的に高い固体含量であるにもかかわらず、極めて環境に優しいナノ複合材料を見いだすことであり、この場合、これは貯蔵時に極めて安定性であり、さらに有利な特性を有する被覆を得ることが可能である。
【0005】
本発明の目的は、請求項において特定した発明により達成される。
【0006】
驚くべきことに、被覆の目的のために特に反応性である本質的に水性の加水分解物は、簡単かつ経済的な方法で、少なくとも(i)1個のグリシジルオキシプロピルアルコキシシラン、(ii)1個のコロイド状の分散性水性シリカゾル、この場合、これらは、>20%質量、好ましくは>30質量%の固体含量を有するものであって、(iii)1個の有機酸加水分解触媒、特に酢酸、プロピオン酸またはマレイン酸、および(iv)ジルコニルムテトラプロポキシド[n−プロピルジルコネートとして呼称される:Zr(O−C−H]、ブチルチタネート、特にn−ブチルチタネート[Ti(O−C]またはチタニウムアセチルアセトネートを架橋剤として含有する。さらに、加水分解アルコールを、加水分解物から、有利な方法で、特に、毒性のメタノールの場合には、本質的に、すなわち<5%まで、検出限界の範囲まで、残留分を除去することが可能であり、かつ必要である場合には、これらを定量的に水で置換する。本発明の加水分解物(以下、組成物、被覆材料、ナノ複合材料または略して組成物と呼称する)は、さらに、相対的に顕著な貯蔵安定性、すなわち、4ヶ月までの貯蔵安定性によって特徴付けられる。さらに本発明の組成物は、環境に優しいものであって、この場合、これは、本質的に塩化物不含、すなわち、好ましくは0.8質量%未満、特に0.5質量%未満の塩化物を組成物に対して含有し、かつ、相対的に低い含量のみの揮発性有機性成分(VOC画分)、火炎危険物質さらには毒性物質を、DIN ISO3251の意味における高い固体と一緒に有する。本発明のこのような組成物は、一般には、高い引火点、好ましくは90℃前後の高い引火点を有する。さらに、本発明の組成物の一つの以下の適用によって得ることが可能な被覆は、顕著な耐水性および優れた硬度および耐引掻き性によって特徴付けられる。
【0007】
したがって本発明は、少なくとも以下の成分:
(i)グリシジルオキシプロピルアルコキシシラン、
(ii)>20質量%のSiO含量を有する水性シリカゾル、
(iii)有機酸加水分解触媒、および
(iv)架橋剤としてのn−プロピルジルコネート、ブチルチタネートまたはチタニウムアセチルアセトネート、
の反応に基づく組成物を提供する。
【0008】
成分(i)は、好ましくは、3−グリシジルオキシ−プロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシ−プロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピル−メチル−ジメトキシシランおよび3−グリシジルオキシプロピル−メチル−ジエトキシシランまたは前記シランの少なくとも2個の混合物から成る群から選択されている。
【0009】
成分(ii)として、好ましくは、通常のカチオン性コロイド状分散シリカゾルであり、この場合、これは固体含量>20〜50質量%、より好ましくは30〜50質量%、特に40〜50質量%、すなわち45質量%前後であり、その際、固体含量は、DIN EN ISO 3251にしたがって測定されている。好ましい水性シリカゾルは、特にpH3〜5、特に3.5〜4を有する。二者択一的に、アルカリに安定化されたシリカゾルを使用することができる。粒度分布は、通常の方法で、レーザー回折(Coulter LS particle size meter)によって測定することができる。さらに、本発明によって使用されたシリカゾルは、非晶質の、水性SiO粒子のみならず、さらにはゾルゲル形成性の、水性の元素(element)酸化物、たとえば酸化アルミニウムまたは珪素/酸化アルミニウムを含有していてもよい。さらに好ましいシリカゾルは、一般には、40〜400nmの平均粒径を有する非晶質の、水性酸化物粒子を含有し、この場合、これに限定されるものではないが、たとえばLevasil 200S / 30 %またはLevasil 10OS/ 45 %である。pHは、通常の方法で、たとえばpH紙、pHスティックによって測定することができる。
【0010】
さらに好ましくは、成分(iii)としての酢酸、プロピオン酸およびマレイン酸から成る群からの有機酸である。したがって、本発明の組成物は、好ましくは、組成物に対して0.01〜3質量%の成分(iii)、より好ましくは0.5〜2質量%、特に1〜2質量%を含有する。
【0011】
成分(iv)の架橋剤は、粉末またはアルコール溶液として、本発明の組成物を製造する場合に使用することができる。本発明の組成物は、好ましくは、0.5〜8質量%を含有する成分(iv)をベースとする。
【0012】
本発明の組成物に関して、さらに、他の成分(v)として、テトラアルコキシシラン、特にテトラエトキシシラン、少なくとも1種のアルキルシラン、好ましくはアルキルアルコキシシラン、特にジメチルジエトキシシランまたはメチルトリメトキシシランおよび/またはフェニルトリメトキシシラン、特にフェニルトリエトキシシランまたはフェニルトリメトキシシランを使用することが可能である。したがって本発明の組成物は、成分(v)を、組成物に対して1〜10質量%の量で含有していてもよい。この場合において適しているのは、成分(ii)の画分が、相応して成分(v)により置き換えられることである。
【0013】
本発明の組成物は、一般には、わずかに濁った液体ないし乳光の液体であり、かつ驚くべきことに40〜200nm、好ましくは50〜100nmの平均粒径を有するゾル粒子によって特徴付けられる。ゾル粒子の直径は、有利には、たとえばレーザー回折によって測定することができる。これに関して特に驚くべきことには、本発明の組成物は、有利には、実際に変化のない粒度分布を3.5ヶ月前後の貯蔵時間に亘って有することであって、すなわち、これは、貯蔵において適している。
【0014】
さらに本発明の組成物は、全組成物に対しての固体含量>40〜<60質量%、好ましくは45〜55質量%、特に好ましくは45〜50質量%によって特徴付けられる。本発明の組成物の固体含量は、DIN ISO 3251に基づく方法によって、実施例に記載したようにして適切に測定される。付加的に、固体含量を調整することが可能であり、かつ、さらに本発明の組成物の粘度を水の添加によって調整することが可能である。有利には、この場合において、水の添加によって固体含量を約50質量%とする。この種の高い固体含量を有する組成物は、本発明によれば、一般には安定であり、有利には約4ヶ月に亘っての貯蔵において安定である。
【0015】
さらに本発明の組成物は、全組成物に対して<5質量%、好ましくは<3質量%の、相対的に低いアルコール含量によって特徴付けられる。本発明の組成物のアルコール含量は、たとえば通常の方法で、ガスクロマトグラフィーによって測定することができる。
【0016】
貯蔵安定性は、さらに水の添加のみならず、特に適した有機溶剤、たとえば10質量%の1−メトキシ−2−プロパノールを添加することによって延長させることができる。
【0017】
したがって本発明の組成物は、有利には、全組成物に対して10質量%、好ましくは5〜10質量%の含量の1−メトキシ−2−プロパノール含量を有していてもよい。この種の系は、一般には高い引火点によって特徴付けられる。
【0018】
本発明の水性組成物は、好ましくは、算定されたパラメータとして、全組成物に対して70〜30質量%前後、より好ましくは65〜50質量%の水含量を有する。>50%前後の水の量を溶剤として用いた場合に、このような被覆剤組成物の「非揮発性含分」が一般には測定される。測定は、通常は、水さらにはアルコールを蒸発することによってDIN EN ISO 3251「非揮発性含分の測定」にしたがっておこなう。組成物の目的のために、一般には、125℃で1時間に亘って、使い捨てのアルミニウム皿中で調整し、かつ非揮発性含量を、種々のウエイトによって測定する。測定方法は、主に被覆材料、被覆材料のための結合剤、ポリマー分散液、縮合樹脂、充填剤含有ポリマー分散液、顔料等に関して使用する。この方法によって測定された値は、相対値である。したがって、本発明の組成物の場合において、特に好ましい非揮発性含量は45〜50質量%である。
【0019】
本発明の組成物は、さらに少なくとも1種の界面活性剤を含有していてもよい。この手段によって、特にシリコーン界面活性剤、たとえばBYK−348(ポリエーテル−改質化ポリジメチルシロキサン)を添加することによって、基板中の湿潤に付加的な改善をもたらすことが可能であり、この場合、これは有利には、特に金属基板上の被覆の製造中におけるレベリングの問題を防止するのに寄与するものであってもよい。好ましくは、一般には、組成物に対して<0.5質量%、特に0.1〜0.3質量%の界面活性剤含量である。
【0020】
いわゆるヒドロシル系(hydrosil systems)を、本発明の組成物に添加することが可能である。
【0021】
ヒドロゾル系とは、ここでは、本質的に水ベースの、塩化物不含の、主にわずかに酸性、水性の系を意味し、この場合、これらは、可溶性の、ほぼ完全に加水分解された(フルオロ)アルキル/アミノアルキル−/ヒドロキシ(またはアルコキシ−)シロキサンの混合物を含み、この場合、これらは、たとえばEP 0 716127 A、EP 0 716128 A、EP 0 846 717 A および EP 1 101 787 A中で見いだすことができる。特に有利にはDYNASYLAN(R) F 8815を、1:0.01〜0.01:1、より好ましくは1:0.1〜0.1:1の質量比で、本願発明の組成物に添加し、ここで使用された水性DYNASYLAN(R) F 8815は、組成物に対して<40質量%、より好ましくは0.1〜20質量%、特に13〜15質量%前後の活性物質含量を有し、かつDIN EN ISO 3251にしたがって、前記に示したようにして測定した。この方法で得られた本発明の組成物は、適用において有利には、被覆の強い疎水性および疎油(oleophobic)性によって特徴付けられる(これは「易清浄化性(easy to clean)」とも呼称される)。
【0022】
本発明によって同様に適用されるのは、本発明による組成物を製造するための方法であって、この場合、この方法は、成分(i)、(ii)、(iii)、(iv)および好ましくは(v)を組み合わせることによって、これらを、少なくとも1種の他の希釈剤を添加するかまたは添加しないで混合し、かつ反応させる。
【0023】
希釈剤として、本発明の方法において、水、メタノール、エタノールおよび/または1−メトキシ−2−プロパノールの使用が可能である。
【0024】
本発明の方法において、反応は0〜35℃、より好ましくは5〜25℃の温度で、この場合、1〜60分、より好ましくは5〜20分に亘って実施し、かつ生じる生成物混合物は35〜85℃、好ましくは50〜60℃または60〜70℃の範囲内で、すなわち、好ましくは加水分解アルコールの沸点を下回る温度で、10分〜4時間、より好ましくは30分〜3時間に亘って、後反応させるのに適している。反応および後反応は、一般には、完全に混合することによって実施され、この場合、これは、たとえば撹拌手段によって達成される。
【0025】
引き続いて、反応中で形成された加水分解アルコールを、生じる生成物混合物から除去することが可能であり、その際、前記アルコールは、特にメタノール、エタノールおよび/またはn−プロパノールであり、かつ、系からは蒸留によって減圧下で除去され、かつ望ましい場合には、相当量の水を除去することによって、アルコールの量を置換することが可能である。
【0026】
さらに反応混合物または生成物混合物に、界面活性剤、たとえば、これに限定されることはないが、BYK348を添加することが可能である。
【0027】
二者択一的な可能性は、一般には混濁ないし乳光の、得られる生成物混合物を希釈することであるか、あるいは、水および/または1−メトキシ−2−プロパノールを使用して、可能な限り好ましい固体含量に調整することである。
【0028】
付加的に、ヒドロシル、好ましくはフルオロ官能性活性物質を含有するものを、存在する生成物混合物または存在する組成物に添加することが可能である。この場合において、ヒドロシルは、活性物質として算定し、かつ後の組成物に基づいて、特に濃縮物の形で13〜15質量%の量で、完全な混合によって添加する。この方法で得られた組成物は、硬質の、耐引掻き性被覆によって、引き続いての適用を特徴付けるものであり、かつ付加的に、このような被覆は、水との湿潤試験における接触角>105゜を有する。
【0029】
引き続いて、さらに本発明は、本発明の方法によって得ることが可能な組成物を提供する。
【0030】
一般には、本発明の組成物は以下のようにして製造することができる:
一般に組成物(i)、(ii)、(iii)および(iv)を、最初の装填物として導入し、かつ混合し、その際、好ましい場合には、他の成分として(v)および好ましい場合には希釈剤を添加する。
【0031】
高い含量のシリカゾルの結果として、成分(i)当たりのシランの加水分解に対して必要とされるよりも、本質的により多くの水を混合物に導入することが可能である。加水分解の開始は、一般には、反応混合物の温度のわずかな上昇と同時に生じる。この場合において、付加的に冷却を実施することが可能であるか、あるいは、必要である場合にはゆっくりと加熱する。反応混合物または生成物混合物は、一定の期間に亘って、わずかに高い温度で、撹拌しながら後反応させるのに適している。引き続いて、反応後の生成物は、一般には高い含量の水およびさらには加水分解アルコール、たとえばメタノール、エタノールまたはn−プロパノールを用いて加水分解する。これにもかかわらず、加水分解物は、貯蔵時において安定である。さらに加水分解は、シラン分子同士の、さらにはSiO粒子表面上のOH基との、ゆっくりとした縮合の出発点であり、この場合、これらは、有機/無機ネットワークの最初の形成を導くが、これにもかかわらず一般には反応生成物の堆積は生じない。
【0032】
さらなる可能性は、加水分解アルコール、特に毒性メタノールを、生じる生成物混合物から除去し、かつ相当する量の水で置換することである。
【0033】
この方法において、有利には貯蔵安定性の、わずかに混濁ないし乳光の、高流動性液体が、高い固体含量で得られる。さらに本発明の組成物は、一般には、そのレオロジー特性によって特に適用しやすい。
【0034】
他の成分を、本発明による組成物に混合することは有利であってもよく、この場合、これらは界面活性剤、さらなる量の水、1−メトキシ−2−プロパノールおよびヒドロゾル混合物であるが、この場合、これらはいくつかの例に過ぎない。
【0035】
本発明の組成物は、一般には支持体に対して、たとえば、はけ塗り、噴霧、噴射、ナイフ塗布または浸漬による適用によって使用し、これらは、いくつかの可能性を挙げているに過ぎない。通常、その後に被覆は、最初の乾燥を簡単におこない、その後に、熱的後処理をおこなう。したがって、被覆操作の後に、熱的処理を温度>150℃で実施することは好ましい。さらに本発明の組成物は、優れた適用特性によって特徴付けられる。
【0036】
本発明の組成物(いわゆるゾル−ゲル系)を用いて、これに限定されることはないが、たとえば、透明な、耐引掻き性を有する層を、約1〜5μmの層厚で、有利には、アルミニウム支持体上に、本発明の被覆材料の制御されたナイフ塗布、室温で10分に亘っての乾燥および200℃前後で5分に亘っての熱処理によって生じさせることが可能である。
【0037】
被覆の機械的特性および水に対するその耐性は、有利には、n−プロピルジルコネート、n−ブチルチタネートまたはチタニウムアセチルアセトネートを架橋剤として添加することにより生じる。
【0038】
付加的に、ジメチルジエトキシシランの相当する添加によって、被覆の疎水性効果および弾性を改善させることが可能である。本発明の塗料組成物の製造の中に、フェニルアルコキシシランを添加することによって、このような被覆の熱的安定性および弾性の双方に有利に影響させることが可能である。メチルトリエトキシシランの添加は、被覆の疎水特性を改善させる有利な効果を有する。さらに耐引っ掻き性および耐摩耗性は、さらに被覆材料の製造中に、テトラエトキシシランを添加することによって改善することができる。
【0039】
したがってさらに本発明は、被覆支持体表面のための本発明の組成物の使用を提供し、その際、組成物は支持体上に適用され、かつ熱的に硬化する。したがって、本発明の組成物の支持体への適用に引き続いて、被覆を適切には5〜15分、好ましくは10分前後に亘ってフラッシュオフさせることができ、かつ、有利には、150〜220℃の温度範囲で、有利に硬化させることができる。
【0040】
したがって、硬化は、たとえば、これに限定されることはないが、以下の条件:予備加熱乾燥ユニットで、その後に150℃で30分に亘ってか、あるいは180℃で5〜10分に亘って、あるいは、200℃で3分前後、あるいは、220℃で約1分で実施することができる。
【0041】
この場合において、フィルム厚を<1〜15μm、好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜5μmで得ることが可能である。
【0042】
さらに本発明は、本発明の組成物を使用した場合に得られる被覆を提供する。
【0043】
本発明の被覆およびさらにこのようにして被覆された支持体または製品は、顕著な耐摩耗性および耐引っ掻き性および良好な耐候性、特にUV照射および雨に対する安定性によって、特に有利に特徴付けられる。
【0044】
したがって本発明のゾル−ゲル系は、特に機械的安定性、耐引っ掻き性および耐摩耗性、高い疎水性を生じさせるのに適しているが、さらには金属表面上で優れた腐食制御作用を有する化学的耐性被覆を生じさせるのに適している。
【0045】
したがって、本発明の被覆は、好ましくは、これに限定されることはないが、紙上で有利に生じ、ベニヤの製造、厚紙、木材、ソリッドウッド、たとえチップボード、プラスチック、たとえばメラミン、合成繊維、天然繊維、テキスタイル繊維、テキスタイル、皮革または皮革製品、ガラス繊維またはガラス繊維製品、ロックウールまたはロックウール製品、被覆、煉瓦、セラミックまたは金属、たとえばアルミニウム、アルミニウム合金または鋼、金属シートまたは成形体、たとえば、自動車工業中で、インナーコートまたはトップコートとしてか、あるいは、腐食防止コートとして有利に加工されるが、しかしながらこれはいくつかの例に過ぎない。
【0046】
さらに、特に有利な適用は、木材表面およびプラスチック表面、特に家具の製造において、内側および外側のための直接的な使用において生じてもよい。紙支持体上の加工は同様に、水性組成物に関して、たとえば装飾紙上の保護被覆のために、上層を製造するために、かつ家具工業におけるこれらの適用のために特に有利である。
【0047】
したがって、本発明は同様に、本発明の被覆を有する製品を提供する。
【0048】
さらに本発明は、鋳型造形または中子砂と、前記本発明による鋳物用結合材とを組み合わせることによって、鋳型造形および鋳物用中子を生じさせるための、本発明の組成物の結合剤としての有利な使用を提供する。
【0049】
本発明は、例によって例証され、この場合、これらは、本発明の対象を何ら制限するものではない。
【0050】
実施例
被覆材料中の固体含量の測定:
DIN ISO 3251によれば、被覆材料の固体含量は非揮発性含量であり、その際、測定は良好に定義された条件下で実施される。
【0051】
本発明の被覆組成物の固体含量の測定は、DIN ISO 3251に基づく方法で、以下のようにして実施した:
約1gの試料を分析ばかり上で計量し(1mg精度)、使い捨てのアルミニウム皿中に入れた(d=約65mm、h=約17mm)。生成物を、簡単にかき混ぜることにより皿中に均一に分散した。皿を、乾燥箱中で、約125℃で、1時間に亘っておいた。乾燥操作の終了後に、皿をデシケーター中で室温に20分に亘って冷却し、かつ再度分析ばかり上で、1mgの精度で計量した。それぞれの試験のために、少なくとも2個の測定を、報告された平均値で実施することは必要不可欠である。
【0052】
比較例A
適した反応溶液を、278部の3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランで装填し、かつ撹拌しながら、278部のシリカゾル(Levasil 2008/30%)を添加した;たとえばDE19816136 Aの例11による。この混合物を室温で5時間に亘って撹拌した。その後に、エトキシ基の加水分解によって形成されたエタノールを、減圧下で、40℃で留去し、粘度は急速に増加した。遊離エタノール6.3質量%が生成物中に残存した。プロピオン酸7.4gを、反応生成物に添加し、かつ得られた混合物を1時間に亘って撹拌した。さらにアルコキシ基を加水分解した。遊離アルコール含量が9.9質量%に増加した。引火点は39℃であった。
【0053】
透過光中で乳光である、高い粘度の乳白色の生成物が得られた。
【0054】
例1
適した反応容器に、283部の3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン (DYNASYLAN(R) GLYMO)を装填し、引き続いて撹拌しながら、4部の濃酢酸、20部のジルコニウムn−プロポキシドおよび693部のシリカゾル(Levasil 100S / 45%)を添加した。数分後、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランのメトキシ基の加水分解が開始し、かつ温度は10分に亘って、約10〜15℃上昇した。引き続いて反応混合物を1時間に亘って、約55℃の液相温度で撹拌した。
【0055】
乳白色の、低い粘度の貯蔵安定性被覆材料、この場合、これらは透過光中で乳光であり、かつ52質量%の固体含量を有するもの、が得られた。シリカゾルからの水に加えて、約80部の加水分解メタノールがなおも溶剤として含まれていた。
【0056】
例2
適した反応容器に、283部の3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(DYNASYLAN(R) GLYMO)を装填し、引き続いて撹拌しながら、4部の濃酢酸、20部のジルコニウムn−プロポキシドおよび693部のシリカゾル(Levasil 100S / 45%)を添加した。数分後、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランのメトキシ基の加水分解が開始し、かつ温度は10分に亘って、約10〜15℃上昇した。引き続いて反応混合物を、1時間に亘って、約55℃の液相温度で撹拌した。その後に、83部のメタノールを、減圧下で、54℃で蒸留した。蒸留に引き続いて、92部の1−メトキシ−2−プロパノールを添加し、かつ生成物混合物を冷却した。
【0057】
乳白色の、低い粘度の貯蔵安定性の生成物、この場合、これらは透過光中で乳光であり、かつ54質量%の固体含量を有するもの、が得られた。引火点は37℃であった。
【0058】
例3
適した反応容器を、76部の3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン (DYNASYLAN(R) GLYMO)で装填し、引き続いて撹拌しながら、8部の濃酢酸、8部のジルコニウムn−プロポキシドおよび159部のシリカゾル(Levasil 100S / 45%)を添加した。短時間の後に、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランのメトキシ基の加水分解が開始し、かつ温度は3分に亘って、約10〜15℃で上昇した。引き続いて反応混合物を2時間に亘って、約70℃の液相温度で撹拌した。その後に34部のメタノールを、減圧下で52℃で蒸留した。蒸留中に、40部の脱イオン水を連続的に滴加した。生成物混合物を冷却した。
【0059】
乳白色の、低粘度の貯蔵安定性生成物、この場合、これは、透過光中で乳白であり、かつ53質量%の固体含量を有するもの、が得られた。
【0060】
例4
適した反応容器に、3部のジルコニウムn−プロポキシドを装填し、かつ引き続いて、撹拌しながら、3部の濃酢酸、60部の3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(DYNASYLAN(R) GLYMO)、10部のテトラエチルオルトシリケート(DYNASIL(R) A)および104部のシリカゾル(Levasil 100S / 45%)を添加した。短時間の後に、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランのメトキシ基の加水分解が開始し、かつ温度は8分に亘って約15℃上昇した。最大温度に達した後に、20部のエタノールを添加した。引き続いて、反応混合物は2時間に亘って、約75℃の液相温度で撹拌した。メタノール/エタノール42部を、減圧下で、51℃で蒸留した。蒸留中に脱イオン水53部を連続的に滴加した。生成物混合物を冷却した。
【0061】
乳白色の、低い粘度の貯蔵安定性の生成物、この場合、これは、透過光中で乳光であり、かつ47質量%の固体含量を有するもの、が得られた。
【0062】
例5:疎水性および疎油性効果を有する被覆のための被覆材料
例3からのゾル170部を、水ベースの改質化フルオロアルキルシロキサン(DYNASYLAN (R) F8815)30部と一緒に、撹拌しながら混合した。これは、乳白色の液体に黄色をもたらし、この場合、これは、疎水性および疎油性の機械的安定性の被覆を生じるために、有利に適している。
【0063】
例6:疎水性および疎油性効果を有する被覆のための被覆材料
例4からのゾル170部を、水ベースの改質化フルオロアルキルシロキサン(DYNASYLAN (R) F8815)30部と一緒に、撹拌しながら混合した。これは、乳白色の液体に黄色をもたらし、この場合、これは、疎水性および疎油性の機械的安定性の被覆を生じるために、有利に適している。
【0064】
例7
適した反応容器に、71部の3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランを装填し、引き続いて撹拌しながら、5部のジルコニウムn−プロポキシドおよびさらに10分に亘って、171.5部のシリカゾル(Levasil 100S/45%)、この場合、これは、マレイン酸2.5部が添加されているもの、を装填した。短時間の後に、3−グリシジルオキシプロピルメトキシシランのメトキシ基の加水分解が開始され、かつ温度は20分に亘って約15〜20℃上昇した。引き続いて反応混合物を1時間に亘って、液相温度約55℃で撹拌した。その後に、加水分解によって形成されたメタノールを、減圧下で、54℃で留去した。反応混合物を10%の1−メトキシ−2−プロパノールで希釈し、かつ冷却した。
低粘度の乳白色の生成物、この場合、これは、透過光中で乳白であり、かつ、55質量%の固体含量を有するもの、が得られた。
【0065】
例8
適した反応容器に、182部の3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン (DYNASYLAN(R) GLYMO)を装填し、引き続いて撹拌しながら、9部の濃酢酸、18部のジルコニウムn−プロポキシドおよび391部のシリカゾル(Levasil 100S / 45%)を添加した。短時間の後に、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランのメトキシ基の加水分解が開始し、かつ温度は10分に亘って約10〜15℃上昇した。引き続いて、反応混合物を約78℃で、液相温度で2時間に亘って撹拌した。その後にメタノールを減圧下で、53〜61℃で留去した。同時に蒸留が開始され、脱イオン化された水156部を添加した。蒸留によるメタノールの除去の終了時に、さらに70部の脱イオン水を添加することで、蒸留により除去された脱イオン水の含量を置換し、かつ45質量%または50質量%前後の固体含量に調節した。
【0066】
乳白色の低い粘度の貯蔵安定性の生成物、この場合、これは、透過光中で乳光であり、かつ48質量%の固体含量を有するもの、が得られた。
第1表:以下に、例8からの生成物データと、比較例Aからの生成物データとの比較を示す。
【0067】
【表1】

1)プロピオン酸の添加前に、6.3質量%の量の遊離エタノールが測定された。
【0068】
試験は、例8からの生成物と比較例Aからの生成物の被覆特性についておこなった。この目的のために、比較例Aからの生成物を、脱イオン水を添加することにより希釈して固体含量48.1質量%にした。使用された支持体は、アルミニウム試験パネル(Pausch)を含み、この場合、これらは、合金Alu3105H24を含むものであった。パネルは、酢酸エチルおよびマイクロファイバークロスを用いて予め洗浄した。被覆系は、6μmのドクター刃を用いて適用した(生成物の製造後12日間、周囲条件:24℃、45〜65%相対湿度)。これを引き続いて乾燥させた:室温(24℃)で10分、その後に200℃で10分。被覆を、製造後1日で試験し、かつ見出された特性は、以下の第2表で比較した。
【0069】
第2表
【表2】

【0070】
以上をまとめると、本発明の被覆材料は、有利には、比較例Aからの組成物よりも高い引火点を有することが見出された。さらに、有利には、本発明の組成物をベースとする被覆は、比較試験のものよりもより硬質である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の以下の成分:
(i)グリシジルオキシプロピルアルコキシシラン、
(ii)>20質量%のSiO含量を有する水性シリカゾル、
(iii)有機酸加水分解触媒、および
(iv)架橋剤としてのn−プロピルジルコネート、ブチルチタネートまたはチタニウムアセチルアセトネート、
の反応をベースとする組成物。
【請求項2】
3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシランまたは前記シランの少なくとも2種の混合物から成る群から選択された、成分(i)を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
成分(ii)として、>20〜50質量%の固体含量を有するコロイド状分散シリカゾルを含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
成分(iii)として、酢酸、プロピオン酸およびマレイン酸から成る群からの有機酸を含有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
組成物に対して、0.5〜8質量%の成分(iv)を含有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
他の成分(v)として、少なくとも1種のテトラアルコキシシラン、少なくとも1種のアルキルシランおよび/またはフェニルトリアルコキシシランを含有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
40〜200nmの平均粒径を有するゾル粒子を含有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
全組成物に対して>40〜<60質量%の固体含量を有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
全組成物に対して<5質量%の加水分解アルコールを含有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
全組成物に対して10質量%の1−メトキシ−2−プロパノールを含有する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
全組成物に対して70〜30質量%前後の水を含有する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
少なくとも1種の界面活性剤を含有する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
添加されたヒドロシル系を1:0.01〜0.01:1の質量比で含有し、その際、ここで使用されたヒドロシル系は、好ましくは前記活性物質シロキサンの<40質量%を含有する、請求項1から12までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
成分(i)、(ii)、(iii)、(iv)および好ましい場合には(V)を組み合わせて、これらを、少なくとも1種の他の希釈剤を添加してまたは添加せずに混合し、かつ反応させる、請求項1から13までのいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項15】
水、メタノール、エタノールおよび/または1−メトキシ−2−プロパノールを希釈剤として使用する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
反応を0〜35℃の温度で1〜60分に亘って実施し、かつ生成物混合物を35〜85℃の温度で10分〜4時間に亘って後反応させる、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
反応中で形成された加水分解アルコール、メタノール、エタノールおよび/またはn−プロパノールを系から除去し、かつ好ましい場合には、除去されたアルコールの量を水の相当量に置き換える、請求項14または16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
界面活性剤を、反応混合物または生成物混合物に添加する、請求項14から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項14から18までのいずれか1項に記載のようにして得ることが可能な組成物。
【請求項20】
請求項14から18までのいずれか1項に記載のようにして製造されたか、あるいは、請求項19に記載のようにして得られた、請求項1から13までのいずれか1項に記載の組成物の、鋳型造形および鋳物用中子を製造するための結合剤としての使用。
【請求項21】
請求項14から18までのいずれか1項に記載のようにして製造されたか、あるいは、請求項19に記載のようにして得られた、請求項1から13までのいずれか1項に記載の組成物の、支持体表面を被覆するための使用。
【請求項22】
組成物を支持体に適用し、かつこれを熱的に硬化させる、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
紙、厚紙、木材、チップボード、プラスチック、合成繊維、天然繊維、テキスタイル繊維、テキスタイル、皮革、ガラス繊維、ロックウール、ペイントコート、煉瓦、セラミック、金属または金属合金の被覆のための、請求項21または22に記載の使用。
【請求項24】
請求項21または22に記載のようにして得ることが可能な被覆。
【請求項25】
請求項23または請求項24に記載の被覆を有する製品。

【公表番号】特表2008−508370(P2008−508370A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522918(P2007−522918)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052857
【国際公開番号】WO2006/010388
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】