説明

水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた出没式水性ボールペン

【課題】顔料沈降抑制しつつ、紙面に対するインキ浸透性を向上することで擦過性能に優れ、手脂性能に優れた水性ボールペン用インキ組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも水、顔料、擬塑性付与剤からなる水性ボールペン用インキ組成物において、20℃の環境下で、ずり速度500(sec-1)の回転剪断を加えた前記水性ボールペン用インキ組成物を、20℃の環境下で、ずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度の測定開始時点を0(sec)とした場合、A(sec)時間経過後のずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度をVA(Pa・s)、B(sec)時間経過後のずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度をVB(Pa・s)とすると、前記経過時間とインキ粘度の関係が、1<(VA−VB/A−B)であり、前記インキ粘度VA(Pa・s)、VB(Pa・s)が、6〜30(Pa・s)であることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。(A、Bは整数、A<Bで、0<A、B≦10とする)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性ボールペンに関し、さらに詳細としては、顔料沈降抑制しつつ、擦過性能、手脂性能に優れる水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水性ボールペン用インキ組成物について、筆感の向上や、筆跡のカスレ、線とびなどが発生しないように、特開2006−282870号公報「ボールペン用水性インキ組成物」、特開平7−62288号公報「水性ボールペン用インキ組成物」等、様々な潤滑剤などを含有する水性ボールペン用インキ組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】「特開2006−282870号公報」
【特許文献2】「特開平7−62288号公報」
【0004】
特許文献1では、イソプレンスルホン酸−アクリル酸共重合体を含有することで、インキが途切れることなく安定した吐出が行われるため、軽い書き味で筆記することができ、筆跡の線切れやカスレを抑制すること、特許文献2では、ジベンジリデンソルビトールを含有することで、ボールの回転によりインキが容易に流動する事によりスムースに筆記が可能となり、カスレ等の筆記性能を向上することが開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1、2で、顔料系のインキを用いた場合では、染料系の水性ボールペン用インキ組成物と違い、顔料の凝集やそれに伴う沈降が発生することで、筆跡の濃度変化が発生したり、また、チップ先端部の部分的な増粘でインキの流れが悪化し、筆跡にカスレが発生したり、筆記不能になるといった課題が解決されない問題も抱えていた。そこで、新たに、特定のインキ粘度の回復挙動に着目することで、顔料沈降抑制の問題を解決できると考えた。
【0006】
さらに、手帳などを使用する場合、手めくりを繰り返すことによって紙面に手脂が付着することで、筆記時に線とび、カスレが発生してしまうため、新たに手脂性能の向上を一層求められるようになっており、特許文献1、2等の従来の水性インキ組成物では、手脂性能については、十分満足する性能は得られないため、手脂性能の向上といった課題が解決されない問題も抱えていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような問題を解決するもので、水性ボールペン用インキ組成物において、顔料沈降抑制しつつ、紙面に対するインキ浸透性を向上することで擦過性能に優れ、手脂性能に優れた水性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.少なくとも水、顔料、擬塑性付与剤からなる水性ボールペン用インキ組成物において、20℃の環境下で、ずり速度500(sec-1)の回転剪断を加えた前記水性ボールペン用インキ組成物を、20℃の環境下で、ずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度の測定開始時点を0(sec)とした場合、A(sec)時間経過後のずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度をVA(Pa・s)、B(sec)時間経過後のずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度をVB(Pa・s)とすると、前記経過時間とインキ粘度の関係が、1<(VA−VB/A−B)であり、前記インキ粘度VA(Pa・s)、VB(Pa・s)が、6〜30(Pa・s)であることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。(A、Bは整数、A<Bで、0<A、B≦10とする)。
2.前記顔料の一次粒径が、10〜40nmであることを特徴とする第1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
3.前記水性ボールペン用インキ組成物に、フッ素系界面活性剤を含有することを特徴とする第1項または第2項に記載の水性ボールペン。
4.前記フッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルキルエチレンオシド付加物を有するフッ素系界面活性剤であることを特徴とする第3項に記載の水性ボールペン。
5.第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物を直詰めしたインキ収容筒の先端部に、チップ本体のボール抱持室にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して具備したボールペンレフィルを、軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップを前記軸筒の先端開口部から出没可能としたことを特徴とする水性ボールペン。」である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、特定のインキ粘度の挙動を示す水性ボールペン用インキ組成物を用いることで、インキ中において、顔料が沈降せずに分散性に優れ、手脂の付着した筆記面において、手脂性能に優れる水性ボールペン用インキ組成物と水性ボールペンを得る効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の水性ボールペン用インキ組成物を、測定した時の時間(sec)−ずり速度(sec-1)の関係を示す。
【図2】本発明の水性ボールペン用インキ組成物を、測定した時の時間(sec)−インキ粘度(Pa・s)の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の特徴としては、少なくとも水、顔料、擬塑性付与剤からなる水性ボールペン用インキ組成物において、20℃の環境下で、ずり速度500(sec-1)の回転剪断を加えた前記水性ボールペン用インキ組成物を、20℃の環境下で、ずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度の測定開始時点を0(sec)とした場合、
A(sec)時間経過後のずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度をVA(Pa・s)、B(sec)時間経過後のずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度をVB(Pa・s)とすると、前記経過時間とインキ粘度の関係が、(VB−VA/B-A)>1.0であり、前記インキ粘度VA(Pa・s)、VB(Pa・s)が、6〜30(Pa・s)であることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。(A、Bは整数、A<Bで、0<A、B≦10とする)
【0012】
本発明は、前記水性ボールペン用インキ組成物にずり速度500(sec-1)の回転剪断を加えた前記水性ボールペン用インキ組成物を、20℃の環境下で、ずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度の測定開始時点を0(sec)とした場合の、インキ粘度の挙動について、新たに着目することで、筆記後の筆跡擦過性能と、泣きボテ性能を向上することが可能となることが解った。
【0013】
具体的には、顔料系のインキについては、筆跡カスレや筆記不良の一因は、チップ先端内の顔料沈降によるものであるので、筆記終了直後におけるチップ先端内のインキ粘度の挙動を検討することにより、チップ先端内の顔料沈降抑制を解決することが可能であることが分かった。筆記時では、ボールの回転剪断が掛かっている状態をずり速度500(sec-1)のインキ粘度とし、筆記終了後のチップ先端内のインキについては、静止時のずり速度0.0(sec-1)のインキ粘度を近似値のずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度として、着目検討した。
【0014】
そこで、本願発明者は、鋭意研究した結果、前記ずり速度におけるインキ粘度の挙動と顔料沈降抑制との相関性があることが解り、前記時間A(sec)、時間B(sec)のインキ粘度VA(Pa・s)VB(Pa・s)を、(VB−VA/B-A)>1.0とすることで、インキ粘度の回復を早くすることで、インキ中で、顔料凝集や顔料沈降せずに分散性に優れることが解った。よりインキ追従性能が劣る傾向を考慮すれば、1.0<(VB−VA/B-A)≦3.0が好ましく、最も好ましくは、1.0<(VB−VA/B-A)≦2.0である。
【0015】
また、前記インキ粘度VA(Pa・s)、VB(Pa・s)については、20℃の環境下において、ずり速度を0.1(sec-1)において、6〜30(Pa・s)とする。前記インキ粘度が6(Pa・s)未満だと、インキ粘度が低過ぎて、インキ垂れ下がりが劣ってしまい、30(Pa・s)を越えると、擦過性能、泣きボテ性能、インキ追従性が劣ってしまうためである。より擦過性能、泣きボテ性能、インキ追従性を向上する傾向を考慮すれば、6〜12(Pa・s)が好ましい。
【0016】
さらに、着色剤として、顔料を用いるが、顔料の平均一次粒径については、10〜40nmが好ましい。これは、この範囲を越えると、顔料沈降が発生しやすい傾向があり、この範囲を下まわると、粒子間の凝集が強まりやすい傾向があるためである。より顔料の分散安定性の向上を考慮すれば、10〜30nmが好ましい。なお、平均一次粒径は、顔料の透過型電子顕微鏡(TEM)写真の二次元形状において、任意の10個の顔料の長径の平均として求めることができる。
【0017】
さらに、前記(VB−VA/B-A)>1.0のような、インキ粘度の回復を早くする挙動を示す水性ボールペン用インキ組成物では、顔料沈降を抑制する効果がある反面、筆跡擦過性能と手脂性能が劣りやすい傾向がある。そのため、筆跡擦過性能と手脂性能を向上するためには、前記(VB−VA/B-A)>1.0の水性ボールペン用インキ組成物に、フッ素系界面活性剤を併用することが好ましい。これは、表面張力を低減しやすく、紙面への浸透性を高めることで、擦過性能をより向上させる傾向があるためである。さらに、前記フッ素系界面活性剤は、表面張力を低減することが可能で、濡れ性を向上させる効果があり、インキを広がりやすくし、疎水性表面となっている手脂が付着した筆記面においても、良好な筆跡が得られ易いためである。そのため、前記インキ粘度の回復挙動を示し、前記フッ素系界面活性を併用することで、顔料沈降を抑制し、同時に擦過性能、手脂性能に優れる効果が得られる。
【0018】
また、 フッ素系界面活性剤は、パーフルオロ基ブチルスルホン酸塩、パーフルオロ基含有カルボン酸塩、パーフルオロ基含有リン酸エステル、パーフルオロ基含有リン酸エステル型配合物、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロ基・親水性基・親油性基含有オリゴマー、パーフルオロ基・親水性基含有オリゴマー、パーフルオロ基・親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物等が挙げられる。その中でも、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物を用いる方が好ましい。これは、エチレンオキシドがあると、親水性が強いため、水に対して溶解しやすく、経時安定性が安定する傾向にあるためである。さらに、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物のフッ素系界面活性剤は、手脂が付着した筆記面においても、筆跡に線とび、カスレなどを抑制することが可能なため、好ましく用いることができる。
【0019】
また、フッ素系界面活性剤の具体例としては、メガファックF−447、F−410、F−444、F−445、F−552、F−553、F−554(DIC(株))、DSN−403N(ダイキン工業(株))、FC−170C、FC−430、ノベックFC−4430、FC−4432(住友スリーエム(株))等が挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0020】
フッ素系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01〜5.0質量%が好ましい。この範囲を下まわると、表面張力を十分に下げることができにくく、この範囲を越えると、筆跡に滲みが発生したり、インキ経時が不安定となりやすいため、0.01〜5.0質量%が好ましい。より筆跡滲みを向上する傾向を考慮すれば、0.1〜3.0質量%が好ましく、最も好ましくは0.1〜1.0質量%である。
【0021】
また、本発明の水性インキ組成物の表面張力は、20℃の環境下において、10〜35mN/mがより好ましい。この範囲を下まわると、筆跡に滲み、紙への裏抜けが発生しやすくなる傾向があり、この範囲を越えると、手脂性能に影響が出やすくなる傾向があるため、表面張力は、10〜35mN/mである方が好ましい。より手脂性能を向上する傾向を考慮すれば、10〜25mN/mが好ましい。
【0022】
また、本発明では、着色剤として、少なくとも顔料を用いるが、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的には、カーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。また、他に着色剤として染料など適宜併用して使用することができる。染料については、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料等が採用可能である。これらの顔料、染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。含有量は、インキ組成物全量に対し、1〜20質量%が好ましい。
【0023】
その中でも、手脂性能を向上するためには、顔料として、吸油量が1〜100gのカーボンブラックを用いる方が好ましい。カーボンブラックの吸油量は、カーボンブラックのストラクチャーを示す特性であり、乾燥された一定量のカーボンブラックがDBP(ジブチルフタレート)を吸収する量をいいJIS K6221に規定される試験方法で測定される。吸油量はカーボンブラックのつながりであるストラクチャーをあらわす代替特性であり、吸油量が大きいほどストラクチャーは大きくなる。特に、吸油量が100gを越えるカーボンブラックを含有すると、ストラクチャーが大き過ぎるため、紙面への浸透性が劣る傾向にあり、手脂の付着した紙面に対しては顕著に効果が出やすいため、所望の手脂性能が得られにくい傾向となる。そのため、ストラクチャーを適度に調整した、吸油量が1〜100gのカーボンブラックを含有すると、手脂の付着した紙面に対しても良好に浸透し、更には筆跡のカスレ、線とびを抑制する傾向がある。さらに、より顔料分散安定性を考慮すると、吸油量が、50〜100g(/100g)が好ましく、より手脂性能を考慮すれば、50〜80g(/100g)が最も好ましい。そのため、前記インキ粘度の回復挙動を示し、前記吸油量が1〜100gのカーボンブラックを併用することで、手脂性能を向上させる傾向がある。
【0024】
また、擬塑性付与剤としては、多糖類として、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、λ−カラギーナン、セルロース誘導体、ダイユータンガムや、ポリアクリル酸が挙げられる。
【0025】
その中でも、キサンタンガム、サクシノグリカンを少なくとも用いる方が好ましいが、これは、前記インキ粘度の挙動が、(VB−VA/B-A)>1.0のようなインキ粘度の回復を早くする挙動を示しやすい傾向があるためである。その中でも、キサンタンガムを用いる方が、最も好ましいが、これは、筆跡にボテがあると、筆跡擦過性が遅くなる要因となるため、キサンタンガムを含有すると、ボテが発生しづらい傾向があり、より擦過性の向上に用いることができるためである。
【0026】
また、擬塑性付与剤の含有量は、インキ組成物全量に対して、0.1質量〜1.0質量%が好ましい。この範囲より低いと、所望のインキ粘度が得られにくく、この範囲を越えるとインキ追従性能が劣ってしまう傾向があるためである。
【0027】
その他として、水分の溶解安定性、水分蒸発乾燥防止するために、エチレングリコール、グリセリンなどのグリコール類などの水溶性有機溶剤や、着色剤の経時安定性や潤滑性を向上させるために、pH調整剤や潤滑剤として、リン酸エステル系界面活性剤、脂肪酸等、1,2ベンゾイソチアゾリン−3−オン等の防菌剤、尿素、ソルビット等の保湿剤、ベンゾトリアゾール等の防錆剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤を添加することができる。また、分散剤も適宜添加可能で、水溶性樹脂として、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等や、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂などを添加することができる。これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1
水 66.5質量部
顔料(吸油量:69g(/100g)) 6.0質量部
水溶性溶剤(グリセリン) 10.0質量部
水溶性溶剤(エチレングリコール) 10.0質量部
分散剤(ノニオン性界面活性剤) 3.0質量部
フッ素系界面活性剤( パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物) 0.5質量部
pH調整剤(トリエタノールアミン) 3.0質量部
防錆剤(ベンゾトリアゾール) 0.5質量部
防菌剤(1,2ベンゾイソチアゾリン−3−オン) 0.5質量部
擬塑性付与剤(キサンタンガム) 0.40質量部
【0029】
まず、顔料、分散剤、水溶性溶剤、水、pH調整剤を適量採取し、ビーズミル、ボールミル、ロールミルなどの分散機を使用し、充分に分散した後、遠心分離を行い、粗粒分を除去して顔料分散体を得る。その後、作製した顔料分散体、水溶性溶剤、水、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、防菌剤をマグネットホットスターラーで加温撹拌等してベースインキを作成する。
【0030】
その後、上記作製したベースインキを加温しながら、増粘剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌した後、濾紙を用い濾過を行って、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。また、表面張力を、20℃の環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、ガラスプレートを用いて、垂直平板法によって測定したところ、約18mN /mであった。
【0031】
実施例2〜4
表1に示すように各成分を配合に変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜4の水性インキ組成物を得た。
【0032】
比較例1〜4
表2に示すように各成分を配合に変更した以外は、実施例1と同様な手順で比較例2〜4の水性インキ組成物を得た。
【0033】
(インキ粘度(Pa・s)と時間(sec)との関係(VB−VA/B-A)の測定方法)
実施例1で作製した水性ボールペン用インキ組成物の、インキ粘度は、TAインスツルメント社製レオメーターAR−G2粘度計(コーンプレート40mm・角度2°、測定温度20℃)を用いて、20℃の環境下で、ずり速度500(sec-1)の回転剪断を60秒加えた後、ずり速度を0.1(sec-1)に回転剪断を下げて、1秒ごとに10秒間測定したところ、5秒、10秒(A=5、B=10)では、VA=14.0、VB=21.3であり、(VB−VA/B−A)=1.46であった。実施例2〜4、比較例1〜4でも、同様な測定方法で測定値を算出した。なお、5秒、10秒(A=5、B=10)での(VB−VA/B-A)の測定値を算出した結果および評価を表1、2に示した。また、実施例1〜4のインキ粘度は、6〜30(Pa・s)の範囲であった。
【0034】
【表1】

【表2】

【0035】
試験および評価
実施例1〜4及び比較例1〜4で作製した水性インキ組成物を、インキ収容筒の先端にボール径が0.5mmのボールを回転自在に抱持したボールペンチップをチップホルダーに介して具備したインキ収容筒内(ポリプロピレン製)に充填したノック式ボールペンを作製し、以下の試験および評価を行った。尚、顔料分散性試験、擦過性能試験、手脂性能試験の評価は、筆記試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用い、以下のような試験方法で評価を行った。また、手脂性能試験に用いる人工皮脂は、
スクワラン3.0重量部、イソプロピルミリステート6.0重量部、オリーブ油12.0重量部、コレステロール0.6重量部、パルミチン酸0.6重量部、オレイン酸3.9重量部、イソステアリン酸3.9重量部、アセトン70.0重量を撹拌混合して人工皮脂を作製したものを用いた。
【0036】
顔料分散性試験:紙面上に筆記後、各チップ先端内のインキを適量採取し、顕微鏡で顔料分散状態を観察した。
顔料が均一分散されていたもの ・・・○
顔料の沈降が一部みられたが、問題ないレベルのもの ・・・△
顔料の沈降が発生したもの ・・・×
【0037】
擦過性能試験:紙面上に筆記後、指で擦過し、筆跡乾燥性を観察した。
筆記10秒未満で、筆跡が乾燥したもの ・・・○
筆記10〜15秒で、筆跡が乾燥したもの ・・・△
筆記15秒越えても、筆跡が乾燥しなかったもの ・・・×
【0038】
手脂性能試験:人工皮脂を付着させた紙面に筆記した筆跡を観察した。
筆跡に線とび、カスレがないもの ・・・◎
筆跡に若干線とび、カスレがあるもの ・・・○
筆跡に線とび、カスレがあるが、実用上問題ないもの ・・・△
筆跡に線とび、カスレがあるがひどく、実用性に乏しいもの ・・・×
【0039】
表1の結果より、実施例1〜4では、顔料分散性試験、擦過性能試験、手脂性能試験ともに良好もしくは、実用上問題のないレベルの性能が得られた。
【0040】
表2の結果より、比較例1〜4では、(VB−VA/B-A)≦1.0であったため、顔料の沈降が発生してしまった。
【0041】
特に、水性ボールペン用インキ組成物を直詰めしたインキ収容筒の先端部に、チップ本体のボール抱持室にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して具備したボールペンレフィルを、軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップを前記軸筒の先端開口部から出没可能としたことを特徴とするノック式水性ボールペンや回転繰り出し式水性ボールペン等においては、インキ垂れ下がりが問題になるため、本発明のような20℃の環境下、ずり速度0.1(sec-1)において、インキ粘度が6〜30(Pa・s)である水性ボールペン用インキ組成物を好適に用いることが可能である。
【0042】
本実施例では、ボールペンチップ先端縁の内壁に、ボールを押圧するコイルスプリングを配設していないが、コイルスプリングを配設することによって、インキ垂れ下がりの抑制効果が向上するため、より好ましい。
【0043】
また、インキ消費量については、本発明の水性ボールペン用インキ組成物をインキ収容筒内に直詰めした水性ボールペンとして使用し、筆記用紙として、JIS P3201筆記用紙A上に筆記角度65°、筆記荷重100gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、試験サンプル5本用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義すれば、100mあたりのインキ消費量については、50〜300mg/100mであることが、好ましい。この範囲以下だと、インキ消費量が少ないので、筆跡にカスレが発生しやすく、この範囲を越えると、インキ消費量が多いので、筆跡擦過性に影響を及ぼす可能性もある。より、好ましくは、80〜250mg/100mである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は水性ボールペンとして利用でき、さらに詳細としては、該水性ボールペン用インキ組成物を充填した、キャップ式、出没式等の水性ボールペンとして広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、顔料、擬塑性付与剤からなる水性ボールペン用インキ組成物において、20℃の環境下で、ずり速度500(sec-1)の回転剪断を加えた前記水性ボールペン用インキ組成物を、20℃の環境下で、ずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度の測定開始時点を0(sec)とした場合、A(sec)時間経過後のずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度をVA(Pa・s)、B(sec)時間経過後のずり速度0.1(sec-1)のインキ粘度を
VB(Pa・s)とすると、前記経過時間とインキ粘度の関係が、1<(VA−VB/A−B)であり、前記インキ粘度VA(Pa・s)、VB(Pa・s)が、6〜30(Pa・s)であることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。(A、Bは整数、A<Bで、0<A、B≦10とする)
【請求項2】
前記顔料の一次粒径が、10〜40nmであることを特徴とする請求項1に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記水性ボールペン用インキ組成物に、フッ素系界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の水性ボールペン。
【請求項4】
前記フッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルキルエチレンオシド付加物を有するフッ素系界面活性剤であることを特徴とする請求項3に記載の水性ボールペン。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物を直詰めしたインキ収容筒の先端部に、チップ本体のボール抱持室にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して具備したボールペンレフィルを、軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップを前記軸筒の先端開口部から出没可能としたことを特徴とする水性ボールペン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−6971(P2013−6971A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141014(P2011−141014)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】