説明

水性ポリマー分散物、その製造及びその使用

本発明は、酸無水物モノマー単位及びビニルモノマー単位のコポリマーを含み、該コポリマーがイミド化反応に付された、水性ポリマー分散物に関する。本発明は更に、このような分散物の製造方法及び使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸無水物モノマー単位及びビニルモノマー単位のコポリマーを含み、該コポリマーがイミド化反応に付された、水性ポリマー分散物に関する。更に、本発明はこのような分散物の製造方法及び使用に関する。
【0002】
欧州特許公開第1060197号から、紙サイジング組成物として使用される、部分的にイミド化されてポリ(スチレン−コ−マレイミド)[SMI]分散物を生じる、スチレン無水マレイン酸コポリマー(一般的にSMAと省略される)の水性分散物を製造するための方法が公知である。該分散物は、紙表面の吸水性を減じ、良好なインキジェット印刷特性を与えるために、紙表面へのトップコートに適用される。欧州特許公開第1060197号によれば、該コポリマーは、一般に公知の方法を用いて合成される。コポリマーは、少なくとも95℃の温度、かつ反応混合物の沸騰を避けるように選択される圧力で、NH3水溶液又はアミン(RNH2)水溶液と接触させることにより、イミド化反応に付される。無水マレイン酸モノマー単位とNH3又はアミンのモル比は、1:0.8〜1:5の間で選択される。イミド化反応は、最高75%までの無水マレイン酸モノマー単位のイミド化度が得られるまで続けられる。その後、分散物は、紙へのトップコートに適用され、そして紙は、乾燥され、カレンダー仕上げされる。しかし、欧州特許公開第1060197号に開示されている水性コポリマー分散物をトップコートに用いた紙に印刷する場合、印刷特性が不十分であることが見い出された。特に、文字は不十分な鮮明さで印刷され、異なる色の境界画定は、色が薄れて互いに溶け込んでゆくために不十分である。
【0003】
欧州特許公開第1060197号はまた、ドイツ特許公報第1720746号に従って製造されたポリマー分散物の比較例を包含している。ドイツ特許公報第1720746号には、ほぼ等モル量の無水マレイン酸とスチレンとを含有するSMAをNH3水溶液中で、120℃を超える温度でイミド化反応に付すことにより得られたポリマーの水性分散物が記載されている。実施例におけるイミド化度は明らかにされていない。欧州特許公開第1060197号の、ドイツ特許公報第1720746号に従って製造された比較例において、SMAは89%イミド化されている。この分散物は、非常に広い範囲の粒径分布を有し、不安定な分散物を形成しており、短時間放置後、すでに沈降物を形成することが観察された。
【0004】
したがって、印刷特性の改善が達成される新規なポリマー分散組成物の要求がある。
【0005】
更に、このようなポリマー分散組成物を製造する方法の要求がある。
【0006】
それ故に、本発明は、紙の改善された印刷を達成することができる、紙のトップコートに使用する水性ポリマー分散組成物を提供することを目的とする。
【0007】
この目的は、従属請求項を特徴付ける部分の技術的特質を伴なう、本発明により達成される。
【0008】
本発明の水性ポリマー分散物は、酸無水物モノマー単位及びビニルモノマー単位のコポリマーを含み、該コポリマーの酸無水物モノマー単位の少なくとも90モル%がイミド化される。このポリマー分散物は、有機顔料と言うことができる離散粒子(discrete particle)の形態で、SMIを含有する。
【0009】
コポリマーにおいて使用するのに適切な酸無水物モノマーは、例えば、α−β−不飽和ジカルボン酸無水物、例えば、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸及びそれらの混合物である。好ましくは、コポリマーは、無水マレイン酸モノマー単位を含有する。
【0010】
コポリマーにおいて使用するのに適切なビニルモノマーとしては、ビニル芳香族モノマー(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン及びインデン)、モノ−オレフィン性不飽和炭化水素(例えば、エチレン、プロピレン及びイソブチレン)、α−β−不飽和カルボン酸エステル〔例えば、アクリル酸エステル(例えばアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシル)、メタクリル酸エステル(例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル及びメタクリル酸2−ヒドロキシエチル)及びマレイン酸ジエステル(例えばマレイン酸ジオクチル)〕、ハロゲン化オレフィン(例えば、塩化ビニル及び塩化ビニリデン)並びにそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、コポリマーは、市販で容易に入手可能なスチレン又はα−メチルスチレンを含有するが、スチレンモノマー単位の存在が最も好ましい。
【0011】
予期しないことに、酸無水物モノマー単位の少なくとも90モル%がイミド化されたポリマー分散物を用いると、表面へのコーティングに適用した場合に、改善されたコーティングをもたらすコーティング組成物が得られることが見い出された。コポリマーのイミド化度が少なくとも90%である場合、粒状物は、少なくとも160℃のガラス転移温度(Tg)を有し、改善された機械強度を有することが見い出された。機械強度の改善の結果として、粒状物は、紙表面にコーティングを適用した後に使用される、カレンダー仕上げ工程中において生じる変形力に耐えることができる。本発明のポリマー分散物を紙表面に適用する場合、粒子同士、そしてコーティングさせる表面に対して優れた付着性を示す、複数の小さな離散顔料粒子からなるコーティングが得られる。更に、本発明の水性ポリマー分散物でコーティングされた紙表面に印刷すると、印刷特性の改善が達成されることが見い出された。文字は互いが十分に区切られ、重ね合わせて次々に印刷される印刷層は互いが十分に画定され、隣接する文字及び色の互いに溶け込む色薄れが制約される。
【0012】
改善された印刷特性の観察所見は、コーティング層が複数の離散粒子で構築され、ドレインチャネル(drainage channels)が粒子の間に形成され、これらのドレインチャネルの存在でインキ溶媒が迅速に除去処理されるという事実に帰せられる。現在の技術水準のコーティングに生じる問題を分析すると、コーティングの適用は、カレンダー仕上げの間に、部分イミド化SMIコポリマー粒子が崩れ、一緒になって流れ出し、皮膜を形成するという効果を有することが観察された。皮膜形成は、印刷の際に、インキの溶媒又はインキの分散剤の除去を遅くし、印刷特性に悪影響を及ぼすという効果を有する。本発明の有機顔料分散物コーティングは、対照的に、コーティングに適用しても、カレンダー仕上げ中に皮膜を形成する傾向は示さない。
【0013】
好ましくは、最終生成物の特性のゆえに、酸無水物モノマー含量が、5〜50モル%、より好ましくは5〜43モル%、更に好ましくは5〜36モル%、最も好ましくは5〜29モル%の範囲にあるコポリマーの使用である。
【0014】
酸無水物モノマー含量15〜29モル%が、特に好ましいが、それは、この範囲において、コポリマーが、好適な水溶性を示し、最適なイミド化収率及び高い固形分含量の最終分散物をもたらすからである。予期しないことに、酸無水物モノマー含量は更に、コポリマーの粒径を決め、粒径は酸無水物モノマー含量が増加するにつれて増大し、コポリマーの硬度が高くなることが見い出された。イミド化後のコポリマー粒状物の特性は、出発原料の組成によるだけではなく、イミド化反応において用いる物理的条件、例えば濃度及び攪拌により決まる。
【0015】
コポリマーのビニルモノマー含量は、95〜50モル%、好ましくは95〜81モル%の範囲にある。
【0016】
本発明の水性ポリマー分散物は、好ましくは、20重量%を超えるか、30重量%を超えるか、あるいは更に40重量%を超える固形分含量を有する。分散物は、30nmを超えるか、時には40又は50nmを超えるが、しかし400nmよりは小さく、多くの場合、250nmか、あるいは更に120nmより小さい粒子直径を有する離散粒子を含み、粒径分布は狭い。粒子の直径が可視光の波長よりも小さいので、平滑な、高い光沢そして透明なコーティングを得ることができる。粒径を制御することにより、より高い光沢かあるいはより低い光沢で、より透明であるかあるいはいくらか不透明なコーティングを選択することができる。更に、小さな粒子の形成は、分散物の安定化を不要にするという利点を必然的に伴う。このことは、安定な分散物を得るために乳化剤の存在が必要な、より大きな粒子を含有する分散物とは対照的である。
【0017】
本発明はまた、上述の水性ポリマー分散物の製造方法に関する。本方法によれば、水性ポリマー分散物は、
1)酸無水物モノマー単位(好ましくは無水マレイン酸)及びビニルモノマー単位(好ましくはスチレン)の出発コポリマーをNH3水溶液又はアミン(RNH2)水溶液と反応させること、
2)酸無水物モノマー単位の少なくとも90モル%がイミド化されるまで、得られた反応混合物をイミド化反応に付すことにより製造する。
【0018】
できるだけ高いTgを有する粒状物の分散物を得るために、イミド化反応を、好ましくは、少なくとも95モル%まで、又は事実上すべての酸無水物モノマー単位がイミド化されるまで続ける。
【0019】
ビニルモノマー単位と酸無水物モノマー単位とを含有するコポリマーは、当業者に周知の方法、例えば、Hanson and Zimmerman, Ind.Eng.Chem.Vol.49, nr.11(1957), p.1803〜1807に記載されている方法に従って合成してもよい。
【0020】
本発明の方法では、コポリマーは、水中で反応させ、場合により乳化剤を存在させる。この混合物に、NH3水溶液又はアミンRNH2(ここで、Rは、1〜18個の炭素原子を有するアルキル基又はアリール基であってもよい)の水溶液を添加する。NH3を使用することが好ましいが、ブチルアミン及びステアリルアミンも、適切なイミド化反応剤であると考えられる。
【0021】
イミド化反応中、NH3又はアミンRNH2の過剰量はできるだけ少なく保つことが好ましい。化学物質の不必要なロスを最小限にするために、アミン又はNH3とイミド化されるコポリマー中の酸無水物モノマーとのモル比が、0.8:1〜1.2:1の範囲にあることが好ましいが、等モル比であるか又はわずかに少ないのが好ましい。後者の場合には、反応による完全な変換により、全てのアミン又はNH3が消費されるため、臭気のない分散物をもたらす。
【0022】
しかし、(NH3又はRNH2):(イミド化に付されるコポリマー中に存在する酸無水物モノマー)のモル比の上限は10:1であるように、NH3又はRNH2の量を選択することは技術的に可能である。下限は、0.5:1であってもよい。もちろん、等モル比に近い比率を保持することは技術的に適する。
【0023】
所望の場合、イミド化反応は、酸官能性モノマー単位とビニル芳香族モノマー単位とを含有する酸官能性ポリマーのアルカリ塩の存在下で行なってもよい。例えば、スチレン無水マレイン酸コポリマーのアルカリ塩を使用してもよく、好ましくは、500〜10000g/モルの分子量を有し、少なくとも30モル%の無水マレイン酸含量を有する。アルカリ塩は、乳化剤として機能することができる。
【0024】
酸無水物モノマー/ビニルモノマーコポリマーは、十分に高い固形分含量を有する分散物を得ることができるように、有する分子量は高すぎず、そして低すぎもしないことが好ましい。本発明において、酸無水物モノマー/ビニルモノマーコポリマーは、少なくとも1000g/モル、好ましくは少なくとも10000g/モル、より好ましくは少なくとも60000g/モルの分子量を有する。このコポリマーの分子量は、好ましくは500000未満、より好ましくは200000g/モル未満、又は150000g/モル未満である。理想的には、出発コポリマーの分子量は、50〜100nmの狭い粒径分布を有し、平均粒子直径が約70nmである、いわゆる単分散の分散物を得ることができるように、約50000〜80000g/モルである。最終的には、このような分散物により、最適の光沢を有するコーティングを得ることができる。
【0025】
所望の場合、使用される酸無水物モノマー/ビニル芳香族モノマーコポリマーは、異なる分子量を有する複数のコポリマーを含むコポリマー組成物であってもよい。この目的は、乳化剤により実現することができる。イミド化後のコポリマーの分子量は、それを処理加工する場合、鍵となるパラメーターであることが見い出された。
【0026】
コポリマーの分子量が高すぎることは、分散物の粘度が高くなりすぎ、固形分含量が低くなりすぎるリスクを伴う。コポリマーの分子量が低すぎることは、分散物の固形分含量が高くなりすぎ、分散物の適用性に悪影響を与えるリスクを伴う。コポリマーの分子量が低すぎることは、粒子間のファンデルワールス引力に起因して、粒子間の付着及び凝集のさらなるリスクを伴い、からみ合いそしてサイズが大きすぎる粒子の形成を伴う。
【0027】
本発明の方法において、イミド化反応はほとんどの場合、100℃を超える温度で、好ましくは120〜195℃、より好ましくは130〜180℃の温度で、又は更に150〜175℃で行われる。100℃未満では、イミド化は不十分なことが観察された。170℃を超える温度、特に195℃を超える温度では、分散物中でポリマーの粒子形成が妨げられるため、ポリマーの凝集リスクが高まり、コーティングとして適用したとき、目に見え、そして容易に皮膜の形成を伴なう、大きすぎるサイズの粒子を生ずる。主張した温度範囲内で、イミド化反応は、イミン−アミン化合物の形成よりも優位である。130〜180℃の温度範囲が好ましいが、それは、この温度範囲内で、Tg及び機械的特性に関して十分に規定された分散物及び組成物が得られ、製法は良好な再現性を示すからである。
【0028】
また、主張した温度範囲内では、経済的に適する反応時間、高すぎない圧力(例えば、約7bar)で、十分なイミド化を得ることができる。イミン−アミン化合物の形成に対するリスクは、これらの化合物が、より低いガラス転移温度(Tg)を有し、カレンダー仕上げ工程の間に皮膜形成をしやすい粒状物を生じるため、極小化するべきである。
【0029】
イミド化反応中に、反応器壁への反応混合物の付着を最小限にするために、反応混合物を攪拌する。すなわち、コポリマーの水性溶液がアンモニア又はアミンと接触した後、イミド化反応中に、ゲル相が形成されるが、このゲル相は攪拌中に破壊されるか又は切断され、反応器壁への付着が最小限に抑えられることが見い出された。この切断作用は、イミド化に伴ない形成される分散物の粒子を形づくるのを助ける。
【0030】
反応混合物の攪拌時に適用される回転速度及び反応混合物が攪拌される時間は、一般に、当業者によって調整される。このパラメーターの調整により、得られる分散物の物理的特性及び粒径を制御することが可能となり、すなわち、最終的に高い光沢及び良好な透明性を有するコーティングを与える平滑な表面を有する小さな粒子を形成させるか、あるいはより不透明なコーティングを目的とする場合には、より大きな粒子を形成させるかを制御することが可能となる。攪拌は、コーティングとして適用したとき、望ましくない散乱をもたらす粗い表面及び不均一な形状を有する粒子の形成を防ぐのを助ける。粒子の形状が均一になればなるほど、コーティングの光沢は良くなり、印刷した時、コーティングのドレイン性(drainage properties)が良くなることが観察された。粒子の形状は、イミド化反応中の有効な力、例えば、反応混合物が攪拌される時間により決まる。
【0031】
必要な場合、イミド化反応は、消泡剤及び/又は乳化剤の存在下で行なってもよい。適切な乳化剤は、アニオン性又はノニオン性の界面活性剤である。
【0032】
上述の製造方法を用いて、上述の固形分含量及び粒径を有するイミド化された有機顔料の水性分散物を得ることができる。
【0033】
所望の場合、分散物の固形分含量は、当業者に公知の方法により増大させることができ、特に適当なのは蒸発及び限外濾過である。
【0034】
1層以上の既存のコーティングの最表面に適用される場合、本発明の分散物の粒子は、その小さなサイズのために、すでに適用されたコーティング中に残る空隙を埋めることが可能である。この方法において、最適なコーティングにより覆われ、その下のコーティングによって殆んど影響を受けない最適なドレイン性を与える表面を得ることができる。
【0035】
個々の粒子のサイズが比較的小さいので、分散物をコーティングされる表面に適用し、乾燥させる時、粒子の密な充填が得られる。粒子の小さなサイズは、溶媒の脱離を促進し、コーティングの乾燥を促進し、コーティングの乾燥時のクラック形成のリスクを最小限にし、コーティングの乾燥時間を改善する。更に、小さな顔料粒子の形成は、粒子間引力がファンデルワールス力によって支配され、粒子間の強い付着をもたらし、コーティングされる表面に対する良好な付着をもたらすという利点を有する。密な充填のために、印刷した時、例えばコーティングされた紙がカレンダー仕上げ工程に付された後でさえ、良好なドレイン性を示し、インキの迅速な乾燥をもたらす、密着したトップコーティングが実現される。このことは、コーティングの乾燥時のドレインチャネルの形成に帰せられる。密なコーティングは、インキ粒子がその下のコーティングに浸透するのを最小限にするのを助け、その結果として、コーティングされた材料は、先行技術のコーティングと比較して、インプリントされる鮮明さと微細さが、すなわち全般的印刷特性が改善される。更に、本発明のコーティング組成物でコーティングされた紙の破れ及びウェットピック(wet pick)の発生を減らす。
【0036】
更に、本発明の方法でイミド化されて得られた顔料粒子が微小孔性であることが見い出された。微小孔の寸法が小さいために、インキ粒子の顔料粒子への浸透が阻害され、その結果、本発明の分散物を含有するコーティングでコーティングされた表面の印刷特性が更に改善される。
【0037】
更に、本発明は、コーティングさせる表面のためのコーティング組成物に関し、該コーティング組成物は本発明の水性分散物を含む。組み込まれる有機顔料の量は、広い範囲で変えることができ、多くは用途により決定される。安価な紙への適用の場合、密度が低いコーティングを得るために、少量の有機顔料が使用される。高濃度の有機顔料の分散物を用いる場合、より密なコーティングを得てもよいし、あるいは使用する分散物の量を減らしてもよい。
【0038】
更に、コーティング組成物は、通例の成分、例えば、バインダー(デンプン、ラテックス、ポリビニルアルコールなど)及び通常の顔料(カオリン、PCC、GCC、タルク、シリカなど)を含んでもよく、所望の場合、これらは、本発明のポリマー分散物によって部分的に置き換えてもよい。更に、コーティング組成物を、増粘剤を含有してもよい。米国特許第6392006号に開示されているような超分枝ポリエステルアミドを、コーティング組成物の粘度を制御するために添加してもよい。
【0039】
本発明の水性ポリマー分散物は、インプリントさせる多様な表面に適したコーティング材料であることが見い出された。例えば、本発明の水性分散物は、紙、板紙、厚紙、有機フィルム(例えばポリエチレンフィルム)、金属箔、布地などをコーティングするのに適していると考えられる。本発明の水性ポリマー分散物を含むコーティングでコーティングされる場合、カレンダー仕上げ後に、コーティングされた紙の光沢の5〜10ポイントの増加が観察される。この光沢の改善度は、本発明の分散物のみからなるコーティングを用いることによって更に高めることができる。
【0040】
酸無水物モノマー/ビニルモノマーコポリマーがイミド化された程度が、イミド化コポリマーの酸性度を決める。pHの制御により、コーティング工程における泡形成の制御が可能となる。このことは、しばしば不必要な起泡を示す炭酸カルシウムを含有する、公知のコーティング組成物と比較しての利点である。更に、pHは、本発明の分散物が適用される領域を決定する。本発明の分散物は、7に近いpHを有することが見い出された。
【0041】
(実施例)
キャラクタリゼーション方法:
PCS測定
イミド化後の分散物粒子の平均流体力学的半径を、光子相関分光法(Photon Correlation Spectroscopy)を用いて決定した。Vertriebsgesellschaft mbH(ランゲン、ドイツ)のALV Laserを用いて測定を行った。
【0042】
固形分含量
固形分含量は赤外線装置であるMettler LP1 6/PM600型を用いて決定した。
【0043】
pH測定
各試料のpH値をKnick 752 Cl, nr.051489 pH測定装置を用いて測定した。
【0044】
イミド化度の決定
イミド化度は、例えばラマンFTIR分光法を用いて、その吸収強度を、完全にイミド化された対照試料とイミド化されていない対照試料の同波長での吸収強度に対して相関させることにより決定することができる。計算を行う前に、ポリマー鎖中の芳香環に由来する吸収シグナルに基づいて、ラマン−FTIRシグナルを正規化した。以下の吸収に基づいて計算した:
【0045】
C=O(イミド吸収帯)、約1768cm-1に比較的強いシグナル、
C=O(酸無水物吸収帯)、約1860cm-1
C=O(カルボン酸基の比較的弱い吸収帯)、約1715cm-1
【0046】
対照として、(1)無水マレイン酸(MA)26モル%及びスチレン74モル%から出発して、NH3:無水マレイン酸比3:1、50℃で調製したイミドを含まないポリマーのアンモニア水溶液;(2)SMA(MA28重量%、スチレン72重量%;分子量110000g/モル)2gを尿素0.50gと、小型2軸スクリュー押出機(double vice mini extruder)中で、回転速度100rpm、240℃で5分間混合してイミド化反応に付したSMA粉末を使用した。
【0047】
接触角測定
接触角は接触角測定器Digidrop, GBX, Roman, Franceを用いて測定した。
【0048】
実施例1
粉砕したSMA140g及び水を、二重壁で、油加熱式の、スターラーを有する1Lの反応器に仕込んだ。SMAはMA含量26モル%及び分子量80000g/モルを有していた。この溶液に、25%NH3溶液を添加し、その結果、MA:NH3比は1:1であった。更に、分子量1000g/モル及びMA含量48モル%を有するSMAポリマーのカリウム塩を添加した。該K塩:SMA比は0.03:1であった。全量が700mLになるまで水を添加した。圧力を窒素で0.2MPaに調整した。回転速度800rpmで、温度を160℃に上げるのに伴なって、圧力は0.8MPaまで上昇した。反応時間6時間後に、固形分含量約20重量%を有し、粒径が80〜120nmであるポリマー分散物が得られた。MAは完全にイミドに変換されていた。イミド化が完了した後のポリマーのTgは、190〜200℃であることが見い出された。分散物はpH6.8であった。紙への塗布時、分散物の接触角は40°よりも小さいことが見い出された。
【0049】
実施例2
粉砕したSMA140g及び水を、二重壁で、油加熱式の、スターラーを有する1Lの反応器に仕込んだ。SMAはMA含量26モル%及び分子量80000g/モルを有していた。この溶液に、25%NH3溶液を添加し、その結果、MA:NH3比は1:1であった。全量が700mLになるまで水を添加した。圧力を窒素で0.2MPaに調整した。回転速度800rpmで、温度を160℃に上げるのに伴なって、圧力は0.8MPaまで上昇した。反応時間6時間後に、固形分含量約20重量%を有し、粒径が80〜120nmであるポリマー分散物が得られた。MAは完全にイミドに変換されていた。イミド化が完了した後のポリマーのTgは、190〜200℃であることが見い出された。分散物はpH7.0であった。紙への塗布時、分散物の接触角は40°よりも小さいことが見い出された。
【0050】
実施例3
粉砕したSMA245g及び水を、二重壁で、油加熱式の、スターラーを有する1Lの反応器に仕込み、これに、Air ProductsのSurfinol 420 0.2gを添加した。SMAはMA含量26モル%及び分子量80000g/モルを有していた。この溶液に、25%NH3溶液を添加し、その結果、MA:NH3比は1:1であった。更に、分子量1000g/モル及びMA含量48モル%を有するSMAポリマーのカリウム塩を添加した。該K塩:SMA比は0.03:1であった。全量が700mLになるまで水を添加した。回転速度800rpmで、温度を160℃に上げるのに伴なって、圧力は0.6MPaまで上昇した。反応時間6時間後に、固形分含量約35重量%を有し、粒径が80〜120nmであるポリマー分散物が得られた。MAは完全にイミドに変換されていた。イミド化が完了した後のポリマーのTgは、190〜200℃であることが見い出された。分散物はpH6.9であった。コーティングの乾燥時に、皮膜形成は観察されなかった。紙への塗布時、分散物の接触角は40°よりも小さいことが見い出された。
【0051】
実施例4
パイロット反応器で、粉砕したSMA(Stapron 28110タイプ(DSM、オランダ))60kgを水99kgに室温で溶解し、これに、Air ProductsのSurfinol 420 0.02kgを添加して、パイロットスケールでの実験を行なった。SMAはMA含量28モル%及び分子量110000g/モルを有していた。この溶液に、25% NH3水溶液11.70kgを添加し、その結果、MA:NH3比は1:1であった。NH3溶液投入時に、温度は約78℃まで上昇した。反応混合物が約155℃の温度になるまで、反応器を更に加熱した。反応中に、35kWのモーターを用いて56rpmに減速して反応混合物を攪拌した。攪拌器を駆動するのに要した電力を、時間の関数として記録した。結果を表1にまとめた。反応混合物が約134℃の温度になるとすぐに、粘度が顕著に上がり、最初のゲルが形成するのが観察され、アミド化合物の形成によりイミド化反応が開始したことを示していた。反応を続けると、反応混合物は粘弾性状態になり、イミドの形成が起こっていることを示した。反応時間約210分後に、SMI粒子の形成が観察され、このとき、顕著な粘度低下が観察された。更に、反応混合物のpHが約7の値になるとすぐに、イミド化が完了したことが観察された。反応時間約4時間15分後に、加熱を停止し、反応混合物を室温まで冷却した。固形分含量40重量%、pH7、平均粒子直径86nmを有する、SMIの水中分散物を得た。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例5
実施例4の手順を繰り返し、今回は、パイロット反応器中、粉砕したSMA(Stapron 26080タイプ(DSM、オランダ))1400kgを水2352kgに、室温で溶解し、これに、Air ProductsのSurfinol 420 0.05kgを添加した。SMAはMA含量26モル%及び分子量80000g/モルを有していた。この溶液に、25%NH3水溶液249kgを添加し、その結果、MA:NH3比は1:1であった。NH3投入時、温度は約86℃まで上昇した。反応混合物が約150℃の温度になるまで、反応器を更に加熱した。反応混合物を攪拌する攪拌器を駆動するのに要する電力を、時間の関数として記録した。結果を表2にまとめた。反応混合物が約101℃の温度になるとすぐに、粘度が顕著に上がり、最初のゲルが形成するのが観察され、アミド化合物の形成によりイミド化反応が開始したことを示していた。反応を続けると、反応混合物は粘弾性状態になり、イミドの形成が起こっていることを示した。反応時間約5時間後に、SMI粒子の形成が観察され、このとき、粘度低下が観察された。更に、反応混合物のpHが約7の値になるとすぐに、イミド化が完了したことが観察された。反応時間約6時間45分後に、加熱を停止し、反応混合物を室温まで冷却した。固形分含量40重量%、pH7、平均粒子直径72nmを有する、SMIの水中分散物を得た。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例6
SMA(2000タイプ(Atofina(フランス)から))を用いて、実施例1の実験を繰り返した。得られた分散物は固形分含量約20重量%及びpH7.1を有していた。粒径は1500nmであった。
【0056】
実施例7
実施例5から得られた生成物約3kgを、カットオフ30000 ダルトンのValmet Flootek CR 200/1を用いて限外濾過した。最終的な安定分散物は、固形分含量58.6%を有していた。
【0057】
実施例8
乾燥重量67g/m2の非木材紙の両面に、乾燥物として計算して5g/m2のベースコーティングを、速度1300m/分でオンラインフィルムプレスを用いてコーティングした。塗布されたコーティングは、固形分含量60重量%を有しており、炭酸カルシウム100部、ラテックス8部及びデンプン8部を含有していた。紙の両面のベースコーティング表面に、乾燥重量として計算して13g/m2のミッドコーティング(ベースコーティングと同じ組成を有するが、固形分含量64重量%である)をオフラインで塗布した。
【0058】
このように前処理した紙の両面に、乾燥物として計算して6g/m2のトップコーティングをコーティングした。トップコーティングは以下の組成を有していた:CaCO3 75部、カオリン25部、ラテックス14部、通常の添加剤、及び本発明のポリマー分散物10部。これらの特性を以下の表3に示す。
【0059】
連続して9段のニップ部(nip passages)を有するカレンダーに、ニップ圧220N/mで紙を通した。
【0060】
このようにして得られた紙は、全乾燥重量115g/m2を有していた。
【0061】
比較例
実施例8の実験を繰り返したが、このとき、トップコートとして、CaCO3 75部、カオリン25部、ラテックス14部及び通常の添加剤を含有する対照コーティングを使用した。対照コーティングには、本発明のポリマー分散物は含有していなかった。その後、連続して11段のニップ部を有するカレンダーに、各ニップ圧280N/mで紙を通した。
【0062】
また、このようにして得られた紙は、ベース紙の乾燥重量として全乾燥重量115g/m2を有しており、コーティング量は実施例8と同じであった。
【0063】
【表3】

【0064】
実施例8の結果と比較例の結果との比較から、カレンダーニップの数及び使用するニップ圧の両方がより低いにもかかわらず、本発明のポリマー分散物を用いると、ほぼ同じ光沢を得ることができることが明らかとなった。
【0065】
更に、本発明により得られた紙は、比較例で得られた紙と比較すると、より厚く、より高いスコットボンド値(Scott Bond value)を有することが観察された。このことは、本発明を用いて、カレンダー仕上げ工程において必要とされるニップの数及びニップ圧を減らすことができ、その結果として、カレンダー仕上げの間の紙強度への影響がより小さく、そして高い初期光沢を得ることができるという事実に帰する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸無水物モノマー単位及びビニルモノマー単位のコポリマーであって、イミド化反応に付されたコポリマーを含み、
コポリマーの酸無水物モノマー単位の少なくとも90モル%がイミド化されていることを特徴とする、水性ポリマー分散物。
【請求項2】
コポリマーの酸無水物モノマー含量が、5〜50モル%、好ましくは5〜29モル%の範囲にあり、コポリマーのビニルモノマー含量が、95〜50モル%、好ましくは95〜81モル%の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の水性分散物。
【請求項3】
コポリマーが、1000〜500000g/モル、好ましくは10000〜300000g/モル、より好ましくは60000〜150000g/モルの範囲にある分子量を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の水性分散物。
【請求項4】
コポリマーが、異なる分子量を有する複数のコポリマーを含むコポリマー組成物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性分散物。
【請求項5】
分散物が、20重量%を超える、好ましくは30重量%を超える、より好ましくは40重量%を超える固形分含量を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性分散物。
【請求項6】
ポリマー分散物が、約30〜400nm、好ましくは30〜120nmの粒径を有する離散粒子を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性分散物。
【請求項7】
コポリマーが、無水マレイン酸モノマー単位とスチレンモノマー単位とを含有することを特徴とする、請求項1に記載の水性分散物。
【請求項8】
水性ポリマー分散物の製造方法であって、
1)酸無水物モノマー単位及びビニルモノマー単位の出発コポリマーをNH3水溶液又はアミンRNH2水溶液中で反応させる工程と、
2)得られた混合物をイミド化反応に付す工程と、を含み、
イミド化反応が、酸無水物モノマー単位の少なくとも90モル%がイミド化されるように選択される反応条件下で行われることを特徴とする方法。
【請求項9】
イミド化反応を、少なくとも95モル%のコポリマーのイミド化度が得られるまで、好ましくは事実上完全にイミド化されるまで続けることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
イミド化反応が、酸官能性モノマー単位とビニル芳香族モノマー単位とを含有する酸官能性ポリマーのアルカリ塩、好ましくはスチレン無水マレイン酸コポリマーのアルカリ塩の存在下で行われることを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
コポリマーが、1000〜500000g/モル、好ましくは10000〜300000g/モル、より好ましくは60000〜150000g/モルの範囲にある分子量を有することを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
NH3又はアミン:出発コポリマーにおける酸無水物モノマーの比が0.5〜10:1である量で、NH3又はRNH2が添加されることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
アミン又はNH3とコポリマー中の酸無水物モノマーとのモル比が、1.2〜0.8:1、好ましくは等モル比よりわずかに下にあることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
イミド化反応中に、反応器壁への反応混合物の付着を最小限にするように、反応混合物を攪拌することを特徴とする、請求項8〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
イミド化反応が、100℃を超える温度で、好ましくは120〜195℃で、より好ましくは150〜175℃の温度で行われることを特徴とする、請求項8〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
インプリントさせる製品をコーティングするための水性コーティング組成物であって、該コーティング組成物が、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマー分散物又は請求項8〜15のいずれか1項に記載の方法を用いて得られるポリマー分散物を含有することを特徴とする組成物。
【請求項17】
バインダー、通常の顔料、及び場合により添加剤を更に含有する、請求項16に記載の水性コーティング組成物。
【請求項18】
インプリントさせる表面をコーティングするための、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマー分散物又は請求項8〜15のいずれか1項に記載の方法を用いて得られたポリマー分散物の使用。
【請求項19】
表面が、紙、板紙、厚紙、有機フィルム(例えばポリエチレンフィルム)、金属又は布地であることを特徴とする、請求項18に記載の使用。

【公表番号】特表2006−502302(P2006−502302A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500036(P2005−500036)
【出願日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【国際出願番号】PCT/FI2003/000731
【国際公開番号】WO2004/031249
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(396023948)チバ スペシャルティ ケミカルズ ホールディング インコーポレーテッド (530)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Specialty Chemicals Holding Inc.
【Fターム(参考)】