説明

水性塗料組成物の粘度調整方法

【課題】迅速かつ簡易に、水性塗料組成物の粘度を調整する方法を提供すること。
【解決手段】水性塗料組成物の粘度調整方法は、中和率が100%未満のアニオン性基含有樹脂を含む水性塗料組成物に塩基性化合物を添加する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物の粘度調整方法に関する。より詳細には、迅速かつ簡易に、水性塗料組成物の粘度を回復させ得る粘度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貯蔵安定性に優れる水性塗料組成物として、アニオン性基を有する樹脂を含有する水性塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記水性塗料組成物は、作業性の改善や外観向上を目的として、少量の有機溶剤を含む場合が多い。この場合、時間の経過と共に有機溶剤はより安定な相へ移動し得る。例えば、有機溶剤が親水性の場合、有機溶剤は溶媒である水へ移動して樹脂粒子が収縮し、水性塗料組成物の粘度が経時的に低下するという問題がある。また、機械的に強制乳化した場合も、粘度が低下してしまう場合がある。一方、水性塗料組成物の粘度が上昇した場合は水で希釈することによって粘度を下げることができる。しかし、一旦、水性塗料組成物の粘度を低下させ過ぎてしまうと、粘度を上昇させる手段が存在しないため、適切な粘度に調整することができない。
【0004】
このように水性塗料組成物を適切な粘度に調整できないと、タレやワキが発生するなど塗装作業性に劣る、得られる塗膜の外観に劣るという問題がある。
【特許文献1】特開平11−124542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、迅速かつ簡易に水性塗料組成物の粘度を調整する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水性塗料組成物の粘度調整方法は、中和率が100%未満のアニオン性基含有樹脂を含む水性塗料組成物に塩基性化合物を添加する工程を有する。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記塩基性化合物添加工程後の水性塗料組成物の粘度が20℃におけるフォードカップNo.4による測定で20〜100秒である。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記塩基性化合物がアミン化合物である。
【0009】
本発明の別の局面においては、塗膜の形成方法が提供される。この塗膜の形成方法は、中和率が100%未満のアニオン性基含有樹脂を含む水性塗料組成物に塩基性化合物を添加して粘度を調整する工程と、該粘度調整工程後の水性塗料組成物を塗布する工程とを有する。
【0010】
本発明の別の局面においては、塗料セットが提供される。この塗料セットは、中和率が100%未満のアニオン性基含有樹脂を含む水性塗料組成物と、塩基性化合物とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、迅速かつ簡易に水性塗料組成物の粘度を調整し得る。その結果、何時でも塗装作業性に優れ、外観に優れた塗膜が得られ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水性塗料組成物の粘度調整方法は、中和率が100%未満のアニオン性基含有樹脂を含む水性塗料組成物に塩基性化合物を添加する工程を有する。以下、詳細に説明する。
【0013】
A.水性塗料組成物
上記水性塗料組成物は、中和率が100%未満のアニオン性基含有樹脂を含む。アニオン性基は、塩基と反応して塩を形成する官能基であり、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等を挙げることができる。上記アニオン性基は、カルボキシル基であることがより好ましい。
【0014】
上記アニオン性基含有樹脂としては、塗膜形成成分として機能し得る任意の適切な樹脂が採用され得る。代表例としては、カルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂、カルボキシル基含有水性(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。
【0015】
上記カルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂は、代表的には、多塩基酸成分とポリオール成分とを常法によって縮合樹脂を得た後、塩基性化合物で中和することにより得ることができる。
【0016】
上記多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸および酸無水物;ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、1,4−及び1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族多価カルボン酸および無水物;無水マレイン酸、フマル酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸等の脂肪族多価カルボン酸および無水物等の多塩基酸成分およびそれらの無水物等が挙げられる。
【0017】
上記ポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、2−ブチル−2−エチル-1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、1,4−及び1,3−シクロヘキシルジメタノール、水素化ビスフェノールA等のジオール類、およびトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の三価以上のポリオール成分、並びに、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、2,2−ジメチロールヘキサン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸成分を挙げることができる。
【0018】
上記塩基性化合物としては、任意の適切な化合物を採用し得る。例えば、アンモニア等の無機系化合物、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルアミノエタノール等のアミン化合物等の有機系化合物等が挙げられる。中でも、有機系化合物が好ましく用いられる。耐水性に優れ得るからである。
【0019】
上記カルボキシル基含有水性(メタ)アクリル樹脂は、代表的には、モノマー混合液を上記塩基性化合物で中和した後に重合を行う、または、モノマー混合液を重合した後に上記塩基性化合物で中和することにより得ることができる。当該モノマー混合液に含まれるモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーを必須成分とし、必要に応じてその他のモノマーを含む。その他のモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素原子数1〜18のアルキルエステル;シクロへキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル系モノマー;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアミル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、該ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート1モルに対してε−カプロラクトンを1〜5モル開環付加反応させてなる、水酸基を有するカプロラクトン変性アルキル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−sec−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、エチレン、ブタジエンを挙げることができる。これらは1種のみで用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0020】
なお、上記カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーとして、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルに酸無水物を付加したモノマーを用いてもよく、また、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルにポリカルボン酸化合物を付加したモノマーを用いてもよい。
【0021】
上記モノマー混合液の重合方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、水、アルコール等の有機溶媒を含む水性媒体中での溶液重合や、乳化剤、重合開始剤及び連鎖移動剤等を用いた乳化重合等が挙げられる。なお、有機溶媒中で溶液重合をした後、有機溶媒を留去して水置換する方法も好適に用いられる。
【0022】
上記アニオン性基含有樹脂の中和率は、100%未満である。ここで、「中和率」は、下記式によって算出される値をいう。
中和率(%)=((塩基性化合物の質量(g)×56×1000)/(樹脂酸価(固形分酸価)×塩基性化合物の当量×樹脂量(g)))×100
すなわち、中和率が100%未満とは、組成物中に未中和のアニオン性基が存在することを意味する。一方、中和率が100%以上とは、アニオン性基含有樹脂が有する酸価(アニオン性基)を中和する際に、理論上過剰な塩基性化合物が添加されたことを意味する。
【0023】
アニオン性基含有樹脂の中和率は、好ましくは30%以上、さらに好ましくは50〜90%である。30%未満の場合、アニオン性基含有樹脂の水分散性が低下し得、貯蔵安定性が低下するおそれがある。
【0024】
上記アニオン性基含有樹脂の固形分酸価は、好ましくは15〜100であり、さらに好ましくは20〜80である。15未満である場合、貯蔵安定性が低下するおそれがある。100を超える場合、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。また、上記アニオン性基含有樹脂の水酸基価は、好ましくは20〜200である、さらに好ましくは40〜150である。水酸基価が20未満である場合、硬化性が低下するおそれがある。200を超える場合、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0025】
上記アニオン性基含有樹脂の重量平均分子量は、用途等に応じて任意の適切な値であり得る。代表的には2000以上、好ましくは3000以上である。重量平均分子量が2000未満である場合、貯蔵安定性が低下するおそれがある。なお、重量平均分子量は、GPC等により測定することができる。
【0026】
上記アニオン性基含有樹脂のガラス転移温度は、好ましくは−40〜100℃、さらに好ましくは−30〜80℃である。ガラス転移温度が−40℃未満である場合、硬度が低下するおそれがある。100℃を超える場合、塗膜性能(例えば、屈曲性)が低下するおそれがある。なお、ガラス転移温度は、後述の各成分からの計算によって設計値として求めることも、また、示差走査型熱量計(DSC)等によって実測することもできる。
【0027】
水性塗料組成物における上記アニオン性基含有樹脂の固形分は、用途等に応じて任意の適切な値であり得る。代表的には、水性塗料組成物の全樹脂固形分100質量部に対して20〜90質量部、好ましくは25〜80質量部である。アニオン性基含有樹脂の固形分が20質量部未満の場合、塩基性化合物を添加しても粘度の上昇が十分でなく、塗装作業性や塗膜性能(例えば、耐水性)が低下するおそれがある。90質量部を超える場合、塗膜の造膜性が不十分で、外観が低下するおそれがある。
【0028】
上記水性塗料組成物は、任意の適切なその他の成分を含み得る。例えば、ブロックイソシアネート、カルボジイミド等の硬化剤やアミノ樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂等の改質樹脂等が挙げられる。
【0029】
上記その他の成分の別の具体例としては、顔料が挙げられる。当該顔料としては、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタン、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等の着色顔料、および、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルク等の体質顔料、アルミニウム、マイカ等の光輝顔料等が挙げられる。
【0030】
上記水性塗料組成物は、必要に応じて、有機溶剤、界面活性剤、硬化触媒、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粘性剤等を含み得る。
【0031】
上記水性塗料組成物の調製方法は、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、上記アニオン性基含有樹脂および顔料等の配合物をニーダーやロール等を用いて混練、サンドグラインドミルやディスパー等を用いて分散する等の方法が挙げられる。調製後の粘度(初期調製時の粘度)は、組成や用途等に応じて、適宜設定し得る。代表的には、20℃におけるフォードカップNo.4による測定で20〜100秒である。
【0032】
B.粘度調整方法
本発明の水性塗料組成物の粘度調整方法は、上記水性塗料組成物に塩基性化合物を添加する工程を有する。当該塩基性化合物としては、上記A項で説明した塩基性化合物と同様である。塩基性化合物を添加することにより、アニオン性基含有樹脂が中和され、親水性が向上し得、水溶性が増して樹脂が水中で膨潤し得る。その結果、水性塗料組成物の粘度が上昇し得る。このように、本発明の粘度調整方法によれば、迅速かつ簡易に、水性塗料組成物の粘度を回復させ得る。
【0033】
塩基性化合物の添加量は、任意の適切な値であり得る。好ましくは、上記水性塗料組成物の初期調製時の粘度と実質的に同一の粘度に達する量である。上述のように、上記水性塗料組成物の初期調製時の粘度は、代表的には、20℃におけるフォードカップNo.4による測定で20〜100秒である。
【0034】
上記塩基性化合物の添加方法としては、任意の適切な方法が挙げられる。上記塩基性化合物を直接添加してもよいが、好ましくは、予め、塩基性化合物を水等の溶媒に溶解させた溶解液を上記水性塗料組成物に添加し、混合攪拌する方法が挙げられる。当該溶解液における塩基性化合物の濃度は、任意の適切な値であり得る。添加回数は、水性塗料組成物の使用状況等に応じて設定し得る。例えば、一回で初期調製時の粘度と実質的に同一の粘度となるように添加してもよいし、複数回で初期調製時の粘度と実質的に同一の粘度となるように添加してもよい。
【0035】
上記塩基性化合物の添加時期としては、代表的には、長期保存やサーキュレーション等により水性塗料組成物の粘度が低下したときである。なお、塩基性化合物を添加して水性塗料組成物の粘度を上昇させた後、さらに、水希釈によって所定の粘度に調整してもよい。
【0036】
C.塗膜の形成方法
本発明の塗膜の形成方法は、上記水性塗料組成物に塩基性化合物を添加して粘度を調整する工程と、粘度調整工程後の水性塗料組成物を塗布する工程とを有する。このように、適宜、塩基性化合物を添加して水性塗料組成物の粘度を調整し得る。したがって、本発明の塗膜の形成方法によれば、何時でも塗装作業性に優れ、外観に優れた塗膜が得られ得る。
【0037】
上記塗布方法は、任意の適切な方法を採用し得る。具体例として、エアスプレー、エアレススプレー、静電塗装等が挙げられる。得られる塗膜の膜厚は、用途等に応じて任意の適切な膜厚に設定し得る。一般的には乾燥膜厚で5〜50μmであることが好ましい。
【0038】
さらに、得られた塗膜を加熱硬化させてもよい。加熱硬化させることで、塗膜の物性および諸性能が向上し得る。加熱温度としては、上記水性塗料組成物の種類に応じて適宜設定し得る。一般的には80〜180℃に設定されていることが好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて任意に設定し得る。
【0039】
D.塗料セット
本発明の塗料セットは、上記水性塗料組成物と、上記塩基性化合物とを備える。上述のように、塩基性化合物は水等の溶媒に溶解させた溶解液とされていることが好ましい。塗料セットの使用方法は、上記B項および上記C項で説明したとおりである。
【0040】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0041】
(製造例1)アクリル樹脂水分散体の製造
反応容器に脱イオン水126.5部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、下記の第1段目のモノマー混合物と下記の開始剤溶液とを、2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
[第1段目のモノマー混合物]
メタクリル酸メチル45.21部、アクリル酸エチル27.37部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル7.42部、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル(アクアロンHS−10,第一工業製薬社製)0.5部、α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン(アデカリアソープNE−20、旭電化工業社製、80%水溶液)0.5部、及び脱イオン水80部からなる。
[開始剤溶液]
過硫酸アンモニウム0.24部、及び脱イオン水10部からなる。
【0042】
さらに、80℃で下記の第2段目のモノマー混合物と下記の開始剤溶液とを、0.5時間にわたり並行して上記反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
[第2段目のモノマー混合物]
アクリル酸エチル15.07部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.86部、メタクリル酸3.07部、アクアロンHS−10を0.2部、及び脱イオン水10部からなる。
[開始剤溶液]
過硫酸アンモニウム0.06部、及び脱イオン水10部からなる。
【0043】
次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、脱イオン水67.1部及びN,N−ジメチルアミノエタノール0.32部を加えpH6.5に調整し、平均粒子径150nm、不揮発分20%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/gのアクリル樹脂水分散体を得た。
【0044】
(製造例2)水溶性アクリル樹脂の製造
反応容器にジプロピレングリコールメチルエーテル23.9部及びプロピレングリコールメチルエーテル16.1部を加え、窒素気流中で混合攪拌しながら120℃に昇温した。次いで、下記の混合溶液と下記の開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。
[混合溶液]
アクリル酸エチル54.5部、メタクリル酸メチル12.5部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル14.7部、スチレン10.0部、メタクリル酸8.5部からなる。
[開始剤溶液]
ジプロピレングリコールメチルエーテル10.0部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2.0部からなる。
【0045】
更に、上記反応容器に開始剤溶液を0.5時間にわたり滴下した。当該開始剤溶液は、ジプロピレングリコールメチルエーテル5.0部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部からなる。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
【0046】
次いで、脱溶剤装置により、減圧下(70Torr)110℃で溶剤を16.1部留去した後、イオン交換水187.2部及びN,N−ジメチルアミノエタノール8.8部を加えて、不揮発分は31%、重量平均分子量が27,000、数平均分子量が9,000、固形分酸価56mgKOH/g、水酸基価70mgKOH/gの水溶性アクリル樹脂を得た。
【0047】
(製造例3)光輝材ペーストの製造
2−エチルヘキシルグリコール30部にアルミニウム顔料ペースト(アルペーストMH8801、旭化成社製)21部を溶解し、次に卓上ディスパーで攪拌しながら、2官能ポリエーテルポリオール(サンニックスPP−700、三洋化成社製)10部、オクチルアシッドフォスフェート0.3部を徐々に添加し、アルミニウムを含有した光輝材ペーストを得た。
【0048】
(製造例4)カルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂1の製造
反応器にイソフタル酸25.6部、無水フタル酸22.8部、アジピン酸5.6部、トリメチロールプロパン19.3部、ネオペンチルグリコール26.7部、ε−カプロラクトン17.5部、ジブチルスズオキサイド0.1部を加え、混合撹拌しながら170℃まで昇温した。その後3時間かけて220℃まで昇温しつつ、酸価8となるまで縮合反応により生成する水を除去した。
【0049】
次いで、無水トリメリット酸7.9部を加え、150℃で1時間反応させ、酸価が40のポリエステル樹脂を得た。さらに、100℃まで冷却後ブチルセロソルブ11.2部を加え均一になるまで撹拌し、60℃まで冷却後、イオン交換水98.8部、2−アミノ−2−メチルプロパノール5.9部を加え、不揮発分50%、固形分酸価40、水酸基価110、重量平均分子量8,000のカルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂1を得た。
【0050】
(製造例5)着色顔料ペースト1の製造
製造例4で得られたカルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂1 50部に対して、ルチル型酸化チタン34.5部、硫酸バリウム34.4部、タルク6部、カーボンブラック0.1部、イオン交換水17.9部を混合撹拌し、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で1時間混合分散し、粒度5μm以下、不揮発分70%の着色顔料ペースト1を得た。
【0051】
(実施例1)
製造例1で得られたアクリル樹脂水分散体280.0部、製造例2で得られた水溶性アクリル樹脂32.3部、製造例3で得られた光輝材ペースト61.3部、固形分80%のメラミン樹脂(サイメル204、三井サイテック社製)25.3部、10%N,N−ジメチルアミノエタノール水溶液5.6部およびウレタン系化合物(アデカノールUH−752、旭電化工業社製、有効成分28質量%)1.7部を混合撹拌し均一分散させて分散体を得た。得られた分散体を、フォードカップNo.4で20℃にて40秒となるようにイオン交換水で希釈し、不揮発分22%、アミン中和率60%の水性ベース塗料組成物を得た。
【0052】
(実施例2)
製造例4で得られたカルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂1を85部、製造例5で得られた着色顔料ペースト1を142.9部、固形分100%のメラミン樹脂(サイメル235、三井サイテック社製)45部、界面活性剤(サーフィノール104、エアープロダクツジャパン社製)3.8部および有機溶剤(ブチルセロソルブ)を15部混合撹拌して混合物を得た。得られた混合物を、フォードカップNo.4で20℃にて30秒となるようにイオン交換水で希釈し、不揮発分50%、アミン中和率80%の水性中塗り塗料組成物を得た。
【0053】
(比較例1)
製造例4で得られたカルボキシル基含有水性ポリエステル樹脂1を85部、製造例5で得られた着色顔料ペースト1を142.9部、固形分100%のメラミン樹脂(サイメル235、三井サイテック社製)45部、界面活性剤(サーフィノール104、エアープロダクツジャパン社製)3.8部、有機溶剤(ブチルセロソルブ)を15部および2−アミノ−2−メチルプロパノールを1.3部混合撹拌して混合物を得た。得られた混合物を、フォードカップNo.4で20℃にて30秒となるようにイオン交換水で希釈し、不揮発分48%、アミン中和率110%の水性中塗り塗料組成物を得た。
【0054】
(実施例1の水性ベース塗料組成物について)
上記のように水性ベース塗料組成物を調製した後、タレ膜厚を下記の方法により測定した。その結果、タレ膜厚は36μmであった。
次に、得られた水性ベース塗料組成物を、40℃で20日間貯蔵した後、下記の方法により粘度を測定したところ、30秒まで低下していた。また、タレ膜厚も測定したところ、23μmであった。
次に、前記水性ベース塗料組成物に50%N,N−ジメチルアミノエタノール水溶液を加えて、40秒(フォードカップNo.4を使用し、20℃で測定)となるように調製した。この水性ベース塗料組成物のタレ膜厚は36μmであった。
【0055】
実施例1の水性ベース塗料組成物についての粘度およびタレ膜厚の測定方法は以下のとおりである。
1.粘度の測定方法
フォードカップNo.4を使用し、水性塗料組成物の温度を20℃に調整して測定した。
2.タレ膜厚の測定方法
直径5mmの穴が複数個形成された下記の中塗り塗装板を水平の状態に設置し、当該板の表面に水性ベース塗料組成物を、膜厚を変えて(15μm〜50μm)勾配塗装した。
塗装後、直ぐに板を垂直に立て、その状態のまま5分間セッティングし、80℃で3分間プレヒートした後、140℃で30分間加熱硬化した。加熱硬化後、穴の下端から垂れた塗膜の長さが5mmとなるときの、タレ膜厚を測定した。具体的には、当該穴の下端から5mmの地点の垂れた塗膜の膜厚(タレ膜厚)を測定した。
[電着塗装板および中塗り塗装板]
リン酸亜鉛処理した300×400×0.8mmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(商品名:パワートップU−50、日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間加熱硬化させ、電着塗装板を得た。
前記電着塗装板に予め25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に希釈されたメラミン硬化型ポリエステル樹脂系グレー中塗り塗料(商品名:オルガP−30、日本ペイント社製)を、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレーで2ステージ塗装し、140℃で30分間加熱硬化させた後冷却して、中塗り塗装板を得た。
【0056】
(実施例2の水性中塗り塗料組成物について)
上記のように水性中塗り塗料組成物を調製した後、タレ膜厚を測定した。その結果、タレ膜厚は45μmであった。
次に、得られた水性中塗り塗料組成物を、40℃で20日間貯蔵した後、粘度を測定したところ、23秒まで低下していた。また、タレ膜厚も測定したところ、33μmであった。
次に、前記水性中塗り塗料組成物に50%2−アミノ−2−メチルプロパノール水溶液を加えて、30秒(フォードカップNo.4を使用し、20℃で測定)となるように調製した。この水性中塗り塗料組成物のタレ膜厚は43μmであった。
【0057】
なお、実施例2の水性中塗り塗料組成物についての測定は、上記中塗り塗装板のかわりに上記電着塗装板を用いてタレ膜厚を測定したこと以外は実施例1と同様である。
【0058】
(比較例1の水性中塗り塗料組成物について)
上記のように水性中塗り塗料組成物を調製した後、タレ膜厚を測定した。その結果、タレ膜厚は42μmであった。
次に、得られた水性中塗り塗料組成物を、40℃で20日間貯蔵した後、粘度を測定したところ、22秒まで低下していた。また、タレ膜厚も測定したところ、26μmであった。
次に、前記水性中塗り塗料組成物に50%2−アミノ−2−メチルプロパノール水溶液を加えて粘度の調整を試みた。しかし、粘度は22秒(フォードカップNo.4を使用し、20℃で測定)のままであった。この水性中塗り塗料組成物のタレ膜厚は24μmであった。
【0059】
なお、比較例1の水性中塗り塗料組成物についての測定は、上記中塗り塗装板のかわりに上記電着塗装板を用いてタレ膜厚を測定したこと以外は実施例1と同様である。
【0060】
実施例1、実施例2および比較例1の評価結果を表1にまとめる。
【0061】
【表1】

【0062】
表1から明らかなように、実施例1および実施例2では、塩基性化合物を添加することで、一旦低下した粘度が上昇した。一方、比較例1では、塩基性化合物を添加しても粘度は上昇しなかった。このように、中和率が100%未満のアニオン性基含有樹脂を含む水性塗料組成物を用いることで、粘度の調整が可能となる。その結果、何時でも塗装作業性に優れた塗料、及び外観に優れた塗膜を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の水性塗料組成物の粘度調整方法は、長期保存やサーキュレーション等により水性塗料組成物の粘度が低下した際に、好適に用いられる。本発明の塗膜形成方法および塗料セットは、自動車車体、自動車補修、鋼製家具等の塗装に好適に利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中和率が100%未満のアニオン性基含有樹脂を含む水性塗料組成物に塩基性化合物を添加する工程を有する、水性塗料組成物の粘度調整方法。
【請求項2】
前記塩基性化合物添加工程後の水性塗料組成物の粘度が20℃におけるフォードカップNo.4による測定で20〜100秒である、請求項1に記載の水性塗料組成物の粘度調整方法。
【請求項3】
前記塩基性化合物がアミン化合物である、請求項1または2に記載の水性塗料組成物の粘度調整方法。
【請求項4】
中和率が100%未満のアニオン性基含有樹脂を含む水性塗料組成物に塩基性化合物を添加して粘度を調整する工程と、
該粘度調整工程後の水性塗料組成物を塗布する工程とを有する、塗膜の形成方法。
【請求項5】
中和率が100%未満のアニオン性基含有樹脂を含む水性塗料組成物と、
塩基性化合物とを備える、塗料セット。

【公開番号】特開2008−143985(P2008−143985A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331062(P2006−331062)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】