説明

水性懸濁液からの乳酸の抽出方法

本発明は、固体含有水性懸濁液から乳酸を連続的に抽出する方法に関する。この方法によれば、固体含有水性懸濁液は、表面が疎水性物質を含む充填要素を備えたカラムにおいて、水と部分的に混和して水相及び有機相を形成する有機溶剤と、充填要素を備えたカラムの少なくとも一つの区域内で分散相として導かれるように向流で接触させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体含有水性懸濁液から該懸濁液を有機溶剤と接触させることにより乳酸を連続的に抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
公知のように、L(+)−乳酸はグルコース含有原料の発酵的分解により工業的に製造される (Ind. Eng. Chem. 44, 1958 (1952))。
【0003】
同様の方法により好適な細菌を用いてD(-)−乳酸を製造することも知られている (Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th edition, vol. A 15, 97−105, Weinheim, VCH)。この場合、発酵は炭酸カルシウムの存在下に行われ、従って発酵は、通常は6〜20重量%の乳酸カルシウムを含む水溶液又は水性懸濁液を最初に与える。この溶液又は懸濁液は続いて硫酸で酸性化され、結果として乳酸カルシウムが遊離乳酸に変換され、そして水和硫酸カルシウムが沈殿する。生成した懸濁液の固形分(主に水和硫酸カルシウム及び細菌からなる)は、懸濁液の総重量に基づいて10重量%までになり得る。この高い固形分、そして特にバイオマス(これは主として微粉化形態で存在し、かつ機械的手段での分離が困難である)は、酸性発酵混合物からの純乳酸の回収において大きな困難を提示する。
【0004】
著しく複雑かつ費用のかかる濾過による固体の除去は、濾過していない固体含有酸性発酵ブロスの抽出方法により回避することができ、この方法は EP-A-0 159 585 に記載されている。この場合、乳酸は、有機溶剤を用いた連続的抽出により、疎水性内容物を備えたカラムにおいて、発酵及び酸性化の後に得られた固体含有水性懸濁液と有機溶剤との向流接触によって分離される。EP-A-0 159 585 によれば、パルス篩板型カラム及び規則正しい充填物を有する充填カラムにおいて特に有利に行われる。この場合、水性懸濁液(すなわち酸性化発酵ブロス)はカラムの上部に供給され、そして分散相として搬送される。有機溶剤は生成した溶剤相から回収される。
【0005】
しかしながら、EP-A-0 159 585 の抽出方法は、存在する固体のために操作の2〜3時間後に篩板型カラムが目詰まりする傾向があるので、工業的規模で実施することができない。この方法は充填カラムにおいて首尾よく行い得るが、本出願人が行った実験は、この場合は供給された乳酸のほぼ72〜75%だけの程度の抽出収率が達成されることを示した。これは、かなりの収率損失及び大量の有機結合炭素(TOC=総有機炭素)で汚染された廃水流に導く。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それ故に、本発明の目的は、固体含有水性懸濁液から該懸濁液を有機溶剤と接触させることにより乳酸を連続的に抽出する方法であって、この方法は抽出収率の著しい上昇を可能にし、従って得られる廃水流のTOC含有量の著しい低下に導く、上記方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
さて、驚くべきことに、有機相が分散相として実質的に搬送されるように充填カラムを操作することによって、この目的が達成されることを見出した。
【0008】
従って、本発明は、固体含有水性懸濁液を、表面が疎水性物質を含む充填要素を備えたカラムにおいて、水と完全に混和せずに水相及び有機相を形成する有機溶剤と、有機相が充填要素を備えたカラムの少なくとも一つの区域内で分散相として搬送されるように向流で接触させる、固体含有水性懸濁液から乳酸を抽出する方法を提供する。
【0009】
本発明の方法は、固体含有混合物、例えば水性懸濁液からD(-)−乳酸及びL(+)−乳酸の両者を抽出するために基本的に適している。本発明によれば、自体公知の方法で、発酵により製造された乳酸カルシウムの水溶液の硫酸を用いた酸性化によって得られる工業的な水性乳酸懸濁液が特に使用される (Ullmanns Enzyklopadie der technischen Chemie, 3rd edition, vol. 12, 525-537, Weinheim, Verlag Chemie)。これらの懸濁液は特に、発酵からのバイオマス及び水和硫酸カルシウム(CaSO・2HO)を固体として含む。ここで及び以下で、バイオマスは、使用した栄養培地の残留物と一緒になった細菌、例えば酵母を指す。この種の懸濁液は典型的に5〜15重量%の範囲の乳酸含有量を有する。水和硫酸カルシウムの含有量は典型的に5〜10重量%の範囲である。硫酸含有量は通常0.1〜2重量%の範囲である。バイオマス含有量は通常0.01〜5重量%の範囲である。上記の成分に加えて、水性懸濁液は本質的に水からなる。ここで、「本質的に」は、上記の成分以外の更なる成分の割合が懸濁液の総重量に基づいて一般的に1重量%未満であることを意味する。
【0010】
本発明によれば、抽出条件下で、特に使用する温度で水と完全に混合しない有機溶剤が用いられる。水と完全に混和しない有機溶剤は、一般的に、少なくとも4個、例えば4〜10個、多くの場合4〜8個、そして特に4〜6個の炭素原子を有する脂肪族又は脂環族の酸素含有化合物である。溶剤は酸素を除いてヘテロ原子を有しない。例えば、溶剤は分子当たり1、2、3又は4個の酸素原子を有することができる。
【0011】
本発明により使用できる溶剤は、特に、少なくとも4個、例えば4〜10個、多くの場合4〜8個、そして特に4〜6個の炭素原子を有するアルカノール、例えばブタノール、例えば 1−ブタノール、2−ブタノール及びイソブタノール、ペンタノール、例えば 1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、1,1−ジメチルプロパノール、1,2−ジメチルプロパノール、1−エチルプロパノール、ヘキサノール、例えば 1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、1,1−ジメチルブタノール、1,2−ジメチルブタノール、1,3−ジメチルブタノール、2,2−ジメチルブタノール、2,3−ジメチルブタノール、2,4−ジメチルブタノール、3,3−ジメチルブタノール、2−エチルブタノール、3−エチルブタノール、1,1,2−トリメチルプロパノール、ヘプタノール、例えば 1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール、オクタノール、例えば 1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−オクタノール、2−エチルヘキサノール、環状アルカノール、例えばシクロペンタノール及びシクロヘキサノール(それらの各々は場合により、それぞれ1〜3個、そして特に1個の炭素原子を有する1、2又は3個のアルキル側鎖を有しうる)、例えば 2−及び 3−メチルシクロペンタノール、2−、3−及び 4−メチルシクロヘキサノール並びに 3,3,5−トリメチルシクロヘキサノールのシス及びトランス異性体、少なくとも4個、例えば4〜10個、多くの場合4〜8個、そして特に4〜6個の炭素原子を有するケトン、例えば 2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノン、少なくとも4個、例えば4〜10個、多くの場合4〜8個、そして特に4〜6個の炭素原子を有するエーテル、例えばジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジイソブチルエーテル及びメチルtert−ブチルエーテル、少なくとも4個、例えば4〜10個、多くの場合4〜8個、そして特に4〜6個の炭素原子を有するエステル、例えば酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル及び酢酸ペンチルである。純粋な溶剤のほかに、溶剤混合物を使用することもできる。4〜8個、そして特に4〜6個の炭素原子を有するアルカノールの使用が好ましく、ブタノール及び/又はペンタノールの使用が特に好ましく、そしてイソブタノールの使用が実に特に好ましい。溶剤は水が飽和した形態で有利に使用される。
【0012】
溶剤の使用量は、使用する水性懸濁液の重量の0.1〜10倍、特に0.2〜5倍、そしてとりわけ0.5〜3倍であってよい。溶剤の最適量は、当業者により日常的な実験によって容易に決定することができる。
【0013】
本発明の方法において、水性懸濁液は、充填要素を備えたカラムにおいて有機溶剤と向流で接触させられる。充填カラムはそれ自体が原則として適しており、そして当業者に公知である。使用されるカラムは、一般的に、丸い、多くの場合に対称的な、そして通常は円形又は楕円形の直径又は断面を有する。工業的プラントにおいて、使用されるカラムの直径は、例えば、0.3〜2mの範囲、特に0.3〜1.2mの範囲、そしてとりわけ0.4〜0.8mの範囲であってよい。このような工業的に使用されるカラムは、例えば、3〜25mの範囲、そして特に5〜20mの範囲の長さを有してよい。当然ながらカラムは直立位置に配置される。
【0014】
充填要素は疎水性物質を含むか、又は充填要素は疎水性物質のコーティングが施されている。好適な疎水性物質は、特に、使用される抽出温度で実質的に安定な疎水性重合体である。これらは、例えば、ポリオレフィン及びハロゲン化、特に部分フッ素化若しくはパーフッ素化有機重合体、そしてとりわけ塩素化及び/又はフッ素化若しくはパーフッ素化ポリアルケンを包含する。好適なポリオレフィンは、例えば、ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)である。好適なクロロ有機重合体は、例えば、ポリ塩化ビニル(PV)及びポリ塩化ビニリデン(PVDC)である。フルオロ有機重合体の例は、モノエチレン性不飽和フッ素化モノマー、例えばクロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロビニルメチルエーテル、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニル及びフッ化ビニリデンのホモポリマーまたはコポリマーであり、とりわけフッ素化熱可塑性プラスチック、例えばポリ(フッ化ビニル)(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリ(クロロテトラフルオロエチレン)(PCTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(E/TFE)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ヘキサフルオロプロピレン)(FEP)、アルキル基が例えば1〜4個の炭素原子を有するポリ(テトラフルオロエチレン−コ−パーフルオロアルキルビニルエーテル)(PFA/TFA、パーフルオロアルコキシ共重合体とも呼ばれる)、そしてフルオロエラストマー、例えばヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデンエラストマー(CFM)、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体(TFE/P)、ポリフルオロシリコーン、ポリフルオロアルコキシホスファゼン及びフルオロゴムの加硫生成物である。
【0015】
フッ素化有機重合体に基づく疎水性物質は、それらが発酵からの有機固体、例えばバイオマスの粘着を他の疎水性物質よりも更にいっそう強力に抑制するという利点を有する。この理由のために、その表面がフルオロ有機重合体で形成された充填要素が好ましい実施形態において使用される。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はポリ(テトラフルオロエチレン−コ−パーフルオロメチルビニルエーテル)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−パーフルオロエチルビニルエーテル)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−パーフルオロプロピルビニルエーテル)、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−パーフルオロブチルビニルエーテル)(PFA/TFA)、又はその混合物を含むか、又はそれで被覆された充填要素の使用が特に好ましい。特に、上記の疎水性物質で被覆されたスチール、ガラス又はセラミックを使用することが可能である。充填要素は全体として疎水性物質からなっていてもよい。表面がフルオロ有機コーティングを有するプラスチック、例えばポリエチレン、ポリスチレン又はポリプロピレンから構成された充填要素も好適である。
【0016】
充填要素は、有利には、低いデッドボリューム及び多孔表面を有する充填要素である。低いデッドボリューム及び多孔表面を有する充填要素の例は、特に、円筒型のもの、例えば Pall ring(Rauschert からの Raflux 型のような改変 Pall ringを包含する)、Hiflow ring、Raschig からの Ralu ring、同様に Super ring (Raschig から)、そしてまた, 多孔球状表面を有する球体、例えば Hackettes(登録商標)、Envi-Pac(登録商標)体等である。充填要素の寸法、例えば平均直径又は平均厚さ若しくは長さは、一般的に1〜90mmの範囲、そして特に5〜40mmの範囲にある。本発明の方法を実施するために、例えば、20〜40mmの範囲の直径を有する Hiflow、Pall 又は Super ringの使用が特に好ましい。一般的に、充填要素はランダムベッドの形態で存在する。充填要素で構成される規則正しいベッド及び/又は充填物も、原則として適している。
【0017】
本発明の方法を実施するために、固体含有水性懸濁液は、一般的に、カラムの上部に、特にカラムの頭部から連続的に供給される。この場合に設定される流速は、特に、使用するカラムの直径及び抽出条件、特に温度に依存する。一般的に、水性懸濁液は5t/(h・m)〜40t/(h・m)の範囲の速度で供給される。水と完全に混和しない有機溶剤は、カラムの下部に、特にカラムの底部から供給される。溶剤は供給する前に好ましくは水で飽和される。この場合にも設定される流速は、使用するカラムの直径及び抽出条件に依存する。一般的に、有機溶剤は5t/(h・m)〜40t/(h・m)の範囲の速度で供給される。この手順を用いる場合には、連続有機相を有する第一の上方領域が抽出カラムの頭部に形成され、そして水が連続相を形成するもう一つの下方領域が抽出条件下で形成される。有機溶剤はカラムの下方領域に導入されるので、これはそこに存在する連続水相中に分散され、カラムを上方に移行し、そしてカラムの上方領域内で合流して連続有機相を形成する。分散有機相が合流して連続有機相を形成するカラムの区域は、相境界とも呼ばれる。下方の水相と上方の有機相とのこの相境界は、本発明によれば、有機相が、カラムの全長の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、そして特に好ましくは少なくとも75%を占めるカラムの区域内で分散相として搬送されるように設定される。本発明の目的のために、分散相は、別の相、例えば連続分散媒質中の微細分散液として存在する相である。
【0018】
連続水相と連続有機相との境界(相境界)は、何れの場合にも充填要素の全充填高さに基づいて、充填要素の充填高さと同じ高さに、この高さの上に又はその僅かに下に形成される。工業的プラントにおいて、相境界は、例えば、充填高さより0〜2m上の領域に、充填高さそれ自体の領域に、又は充填高さより0〜1m下の領域に形成され得る。充填高さそれ自体は、好ましくは、充填要素の少なくとも75%、特に好ましくは少なくとも85%、そして実に特に好ましくは少なくとも95%を占めるカラムの領域内で有機相が分散相として搬送されるように選択される。有機相は、最も好ましくは、相境界が充填高さの上にあるように、充填要素の充填高さの全領域内で分散相として搬送される。一般的に、充填要素の充填高さは、カラムの全容量の少なくとも50容量%、特に少なくとも65容量%、そしてとりわけ少なくとも75容量%が充填要素で充填されるように選択される。ここで及び以下で、充填高さという用語は、ランダムな又は規則正しいベッド又は充填物に存在する充填要素のベッド高さ及び充填物高さの両方を含む。従って、ベッド高さという用語は、本発明の文脈において充填高さと同義語として使用される。
【0019】
このようにして、本発明によれば、カラムの上部に導入された水相は、最初は分散相として、すなわち有機相中の微細分散液として搬送される。次いで連続相及び分散相の反転が相境界で生じる。カラムは相境界まで水相で満たされ、従って、溶剤を導入した結果としてカラムの下部に形成された有機相は、カラムのこの領域内で分散相として搬送される。相境界を充填要素のベッド高さ付近に設定し、そして水相がその導入後に最初は充填要素のベッド高さより上の領域内で分散相として搬送されるようにベッド高さを選択することが有利であることを見出した。この領域は通常ほぼ数メートルより大きい程度ではなく、例えば約0.5〜5mの範囲、そして特に1〜3mの範囲であり、何れの場合にもベッド高さ又は相境界の上にある。
【0020】
抽出された乳酸を含む固体不含の有機相はカラムの頭部から、有利には固体含有水相が供給された点の上で引き取られる。引き取られた固体不含の有機相は、一般的に、引き取られた有機相の総重量に基づいて少なくとも5重量%、そして特に少なくとも10重量%の乳酸を含む。
【0021】
固体含有水相はカラムの底部から引き取ることができる。これは固体として、特に、乳酸の製造のために使用した発酵からのバイオマス及び発酵ブロスの酸性化において沈殿した水和硫酸カルシウムを含む。引き取られた固体含有水相は、得られた固体含有水相の総重量に基づいて、好ましくは2.5重量%未満、特に1.5重量%未満、そしてとりわけ1重量%未満の乳酸を含む。ここで、乳酸含有量は、酵素的に、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th edition, CD-ROM, Enzymes - Enzymes in Analysis and Medicine, 5.3.2 Organic Acids, Lactic Acid, VCH に記載されたようにして決定される。本発明の抽出方法によって、導入した乳酸の90%超の、そして特に少なくとも92%の抽出収率を達成することができる。
【0022】
抽出は回分式に操作することができ、そして好ましくは連続的に操作される。抽出は一般的に10〜90℃の範囲、特に25〜80℃の範囲の温度で行われる。抽出方法を高められた温度で行うことは、特に上記のようにアルカノールを用いる場合に有利である。
【0023】
この理由のために、好ましい実施形態において、アルカノール、特に好ましくはブタノール及び/又はペンタノール、そして実に特に好ましくはイソブタノールが溶剤として用いられる。これは多数の観点から有利である。第一に、アルコールの水中溶解度が部分的なので疎水性充填要素の湿潤が減少することになり、従って充填要素表面上での分散相の凝固が減少することになる。第二に、乳酸は抽出カラムにおいて高められた温度で相当するエステルに部分的に変換される。これは特に、抽出された乳酸を完全に又は実質的にエステル化しようとする場合に望ましい効果である。これらの利点により、全体として蒸留費用の著しい節約を達成することができる。
【0024】
乳酸のエステル化を、適切ならば抽出の後に、特にアルカノールを溶剤として用いて行う場合には、用いられる水性懸濁液中に過剰の硫酸を含むことは、これが乳酸と一緒に部分的に抽出され、そしてエステル化において触媒として役立つので有利である。抽出段階でまだエステル化されなかった乳酸の完全な反応は、公知の方法により後続の回分式の又は連続的なエステル化段階で達成することができる。この目的のために、抽出により得られ、乳酸及び乳酸エステルを含む有機相を、例えば60〜140℃の範囲の温度に加熱して乳酸を乳酸エステルに変換することができ、反応中に生成した水は適切ならば減圧下に蒸留除去される。蒸留により純粋な形態で得られた乳酸エステルは、価値の高い工業的中間体である。それらを公知の方法により切断して乳酸及びアルコールを再び与えることもでき、従ってこのようにして高度に純粋な乳酸が得られる。
【実施例】
【0025】
実施例1(本発明による)
発酵により製造された乳酸カルシウムの水溶液を、硫酸により1.0〜1.5の範囲のpHにした。11重量%の乳酸含有量及び8重量%の固体含有量を有するこの懸濁液を70℃の温度に加熱した。2.5t/hのこの懸濁液を充填カラム(長さ:18m、直径:0.6m、30mmの直径を有するポリプロピレン Pall ringのランダムベッド、ベッド高さ:15m)の頭部に連続的に供給した。同時に、水で飽和した3.1t/hのイソブタノールをカラムの底部に向流で導入した。イソブタノール/水の相境界を、充填要素のベッド高さに設定した。連続相及び分散相の反転をこのようにして行った。水相を最初は分散相(約1〜2m)として搬送した。カラムを相境界まで水性相で満たし、カラムの底部に導入されたイソブタノールをこの下方領域内で分散相として搬送した。水和硫酸カルシウム及びバイオマスの固形分を含む水相を、カラムの底部から引き取った。イソブタノールで飽和した乳酸を含む固体不含の抽出物をカラムの頭部から流出させた。これを蒸留による仕上げ処理に利用することができた。
【0026】
カラムの底部から得られた水相は、酵素的定量法で決定して、カラムの底部から得られた水相の総重量に基づいて0.5〜1.0重量%の乳酸を含んでいた。これは、供給した乳酸に基づいて92〜96%の抽出収率に相当する。ポリフッ化ビニリデンから構成される充填要素を用いた場合に、同様の結果が得られた。
【0027】
実施例2(EP-A-0 159 585 による)
上記の実施例1に記載したカラムを同じ負荷で、イソブタノール/水の相境界がカラムの底部領域内に位置するように操作した。
【0028】
このようにして、抽出すべき水相を本質的に分散相として搬送した。実施例1のように、水和硫酸カルシウムを含む水相をカラムの底部から引き取り、そしてイソブタノール相をカラムの頭部から引き取った。
【0029】
カラムの底部から得られた水相は、酵素的定量法で決定して、カラムの底部から得られた水相の総重量に基づいて3.1〜3.5重量%の乳酸を含んでいた。これは、供給した乳酸に基づいて72〜75%の抽出収率に相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体含有水性懸濁液を、表面が疎水性物質を含む充填要素を備えたカラムにおいて、水と完全に混和せずに水相及び有機相を形成する有機溶剤と、充填要素を備えたカラムの少なくとも一つの区域内で有機相が分散相として搬送されるように向流で接触させる、固体含有水性懸濁液から乳酸を抽出する方法。
【請求項2】
カラムの全容量の少なくとも50容量%が充填要素で充填されるように充填要素の充填高さを選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
充填要素の充填高さの少なくとも50%を占めるカラムの区域内で有機相を分散相として搬送する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
固体含有水性懸濁液をカラムの頭部から連続的に供給し、そして水と完全に混和しない有機溶剤をカラムの底部から導入する、請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
固体不含の有機相を、カラムの頭部から固体含有水相が供給された点の上で引き取り、そして固体含有水相をカラムの底部から引き取る、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
連続有機相をカラムの上方領域内で形成させ、そして連続水相をカラムの下方領域内で形成させ、そして連続有機相と連続水相との境界を充填要素の充填高さと同じ高さに、この高さの上に又はその僅かに下に形成させる、請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
固体含有水性懸濁液が、発酵により製造された乳酸カルシウムの水溶液の硫酸を用いた酸性化によって得られたものである、請求項1〜6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
水と完全に混和しない有機溶剤が、アルカノール、ケトン及びエーテル又はその混合物から選択される少なくとも4個の炭素原子を有する脂肪族又は脂環族の酸素含有化合物である、請求項1〜7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
少なくとも4個の炭素原子を有するアルカノールを水と完全に混和しない有機溶剤として使用する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
イソブタノールをアルカノールとして使用する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
乳酸及び乳酸エステルを含む抽出により得られた有機相を60〜140℃の範囲の温度に加熱して乳酸を乳酸エステルに変換させ、反応中に生成した水を蒸留除去する、請求項9又は10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
抽出を10〜90℃の範囲の温度で行う、請求項1〜11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
得られた固体含有水相の総重量に基づいて、2.5重量%未満の乳酸を含む固体含有水相を抽出の後に得る、請求項1〜12の何れかに記載の方法。

【公表番号】特表2009−501762(P2009−501762A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521956(P2008−521956)
【出願日】平成18年7月17日(2006.7.17)
【国際出願番号】PCT/EP2006/064324
【国際公開番号】WO2007/009970
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】