説明

水性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】有機溶剤を使用することなく簡便な方法で高固形分化を実現した、水性樹脂分散体及び粘着付与樹脂を含有する水性樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】乳化剤の存在下において、加熱して液状化した粘着付与樹脂及び可塑剤をクロロプレンゴムラテックス、アクリル系樹脂エマルジョン、スチレン−ブタジエン共重合系樹脂ラテックスのいずれかに添加し、分散させることにより、固形分60%以上の水性樹脂組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤を使用することなく簡便な方法で高固形分化を実現した、水性樹脂分散体及び粘着付与樹脂を含有する水性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性樹脂分散体は、乳化剤を添加したり樹脂中に存在する親水基の作用等により、樹脂を水に分散したものである。水性樹脂分散体は樹脂の分散溶媒として水を使用しているため、溶媒として有機溶剤を用いた場合と比較して、人体や環境への悪影響がなく、爆発や火災の危険性がない等の利点がある。そこで、接着剤、塗料、コーティング剤等の広範な分野で盛んに用いられている。
【0003】
一方、水性樹脂分散体の欠点の一つとして乾燥が遅いことが挙げられる。例えば、クロロプレンゴムラテックス接着剤は、クロロプレン溶剤型接着剤と比較して乾燥が遅いことが指摘されており、この問題に対する解決方法の一つとして、クロロプレンゴムラテックス接着剤の高固形分化が挙げられる。また、添加剤として粘着付与樹脂を用いる場合、溶剤型であれば粘着付与樹脂をそのまま溶解できるが、水系では粘着付与樹脂が溶解しないため、粘着付与樹脂を予め水に乳化分散した粘着付与樹脂エマルジョンを添加する必要がある。しかしながら、粘着付与樹脂エマルジョンを添加した場合、粘着付与樹脂とともに水を添加していることになるため、乾燥性を改良するために不可欠な高固形分化が難しくなる。
【0004】
なお、粘着付与樹脂をトルエン等の有機溶剤に溶解させてから水性樹脂分散体に添加する方法もあるが、有機溶剤を使用することよって水性樹脂分散体を用いる利点が失われてしまうため、有効な方法とはいえない。また、粘着付与樹脂エマルジョンを添加した上で、固形分を上げるために充填材を添加することも考えられるが、過剰な添加はコンタクト性を低下させるため好ましい方法ではない。
【0005】
特許文献1には、アルカリ性物質の存在下で、クロロプレンゴムラテックスに特定の酸価を有する粘着付与樹脂を直接添加して溶解させる水性コンタクト接着剤が開示されている。しかしながら、この手法は特定のpH領域で安定なクロロプレンゴムラテックスに対して用いることはできるが、それ以外の水性樹脂分散体に対して用いることはできない。また、使用できる粘着付与樹脂は一定の酸価を有するものに限られ、酸化が低い粘着付与樹脂を用いることはできなかった。さらに、溶解の際には高温で長時間攪拌する必要があるため、工業的に不利な方法であった。
【特許文献1】特開平8−337765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、クロロプレンゴムラテックス等の水性樹脂分散体に粘着付与樹脂を配合した組成物に関して、従来知られた方法では60%以上の高固形分化は困難であり、溶剤型樹脂よりも乾燥性が劣る等の問題を解決できなかった。本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、有機溶剤を使用することなく簡便な方法で高固形分化を実現した、水性樹脂分散体及び粘着付与樹脂を含有する水性樹脂組成物及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、乳化剤の存在下において、水性樹脂分散体に対して粘着付与樹脂を添加し、分散させることを特徴とする水性樹脂組成物の製造方法である。水性樹脂分散体はクロロプレンゴムラテックス、アクリル系樹脂エマルジョン、スチレン−ブタジエン共重合系樹脂ラテックスのいずれかであることが好ましく、粘着付与樹脂として常温で液状の粘着付与樹脂を含有することが好ましい。また、前記いずれかの水性組成物の製造方法を用いて製造された、好ましくは不揮発分が60%以上である水性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明からなる水性樹脂組成物及びその製造方法は、水性樹脂分散体及び粘着付与樹脂を含有しているため接着力に優れ、かつ60%以上の高固形分が可能なため乾燥が速く、有機溶剤を含有しないため安全であり、水系接着剤として有用である。また、使用できるクロロプレンゴムラテックスや粘着付与樹脂が制限されないため、幅広い設計が可能である。さらに、粘着付与樹脂を分散させる際に高温で長時間攪拌する必要がないため、工業化にも適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に用いる水性樹脂分散体は各種樹脂を水中に分散したものであり、クロロプレンゴムラテックス、アクリル系樹脂エマルジョン、スチレン−ブタジエン共重合系樹脂ラテックスのいずれかであることが好ましい。クロロプレンゴムラテックスはクロロプレンを単独で重合またはクロロプレンと他のモノマーを共重合させたもので、斯かるモノマーとしてはイソプレン、ブタジエン、ジクロロブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられる。クロロプレンゴムラテックスの合成には乳化剤が使用され、アニオン型、ノニオン型、カチオン型などが使用できるが、ノニオン型、アニオン型が好ましく、ノニオン型の中でも特にポリビニルアルコールの使用が適している。
【0010】
アクリル系樹脂エマルジョンは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル類や、これらと共重合可能な不飽和単量体を界面活性剤等の乳化剤剤の存在下で重合することにより得られる樹脂エマルジョンである。
【0011】
スチレン−ブタジエン共重合系樹脂ラテックスは、スチレン及びブタジエンの他、必要に応じてアクリル酸エステル等のモノマーを界面活性剤等の乳化剤の存在下で重合したものである。
【0012】
粘着付与樹脂は特に限定されず、ロジン酸エステル樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロン−インデン樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、芳香族石油樹脂等を用いることができ、2種類以上のものを併用しても良い。粘着付与樹脂の酸価については特に限定されず、酸価が100未満のものでも用いることができる。また、粘着付与樹脂の中でも常温で液状の粘着付与樹脂を用いることにより、粘着付与樹脂の流動性が高くなり、より低温で水性樹脂分散体に添加することができるため好ましい。高不揮発分化の点から、クロロプレンゴムラテックスの固形分100重量部に対して、粘着付与樹脂を20〜400重量部用いることが好ましく、20〜200重量部がより好ましい。なお、詳しくは後述するが、粘着付与樹脂は加熱する等により予め液状化した上でクロロプレンゴムラテックスへ添加、分散する。
【0013】
本発明において、乳化剤は粘着付与樹脂をクロロプレンゴムラテックスへ分散させるための重要な成分である。粘着付与樹脂100重量部に対して、乳化剤を0.1〜20重量部用いることが好ましい。乳化剤の添加方法として、予めクロロプレンゴムラテックス中に分散させておくか、予め粘着付与樹脂と混合する。
【0014】
粘着付与樹脂をクロロプレンゴムラテックスへ添加、分散する際、前記乳化剤に加えて可塑剤が存在すると粘着付与樹脂粘度が低下し分散しやすくなる。
【0015】
粘着付与樹脂をクロロプレンゴムラテックスへ添加する際には、加熱する等により粘着付与樹脂を予め液状化する必要がある。液状化した粘着付与樹脂を攪拌下においてクロロプレンゴムラテックスに添加し、そのまま分散させる。
【0016】
本発明の水性樹脂組成物は、前記操作において60%以上の高固形分化が可能であるが、炭酸カルシウム等の無機充填剤を添加する等の方法によって、さらに不揮発分を高くすることも可能である。また、使用目的に応じて、硬化剤、レベリング剤、タック防止剤、離型剤、消泡剤、発泡剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、香料等を適宜添加できる。
【0017】
以下、実施例において本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
実施例1
粘着付与樹脂であるKE364(荒川化学工業株式会社製、液状ロジン酸エステル、商品名)35重量部、固形ロジン酸エステルであるA−100(荒川化学工業株式会社製、液状ロジン酸エステル、商品名)55重量部、乳化剤であるEmulphor FAS30(BASF社製、アニオン系界面活性剤、商品名)1重量部、Emulan HE50(BASF社製、ノニオン系界面活性剤、商品名)1重量部を混合して120℃に加熱し、液状化樹脂を得た。液状化樹脂を攪拌下においてクロロプレンゴムラテックスであるLC501(電気化学工業株式会社製、不揮発分47%、商品名)200重量部に添加し、乳化させることによって実施例1の水性樹脂組成物を得た。水性樹脂組成物について、以下の方法で試験評価を行った。
【0019】
乾燥性
水性樹脂組成物を塩ビシートに150g/m2塗布後、一定時間毎に塗布面を指触し、樹脂組成物が指に付着しなくなるまでの時間を測定した。○:30分以内、×:30分を超える
【0020】
コンタクト性
水性樹脂組成物を塩ビシート、フレキシブルボードにそれぞれ150g/m2塗布後、80℃雰囲気下で5分間乾燥し、完全に樹脂組成物を乾燥させた。塩ビシートとフレキシブルボードを貼り合わせ、線圧20N/cmにて圧締した。その後、塩ビシートを剥離し、コンタクト率を目視にて確認した。○:80%以上 △:30以上〜80%未満 ×:30%未満
【0021】
実施例2〜8
実施例1で用いた配合材料の他、アクリル系樹脂エマルジョンであるA378(BASF社製、不揮発分60%、商品名)、スチレン−ブタジエン共重合系樹脂ラテックスであるL7430(旭化成ケミカルズ株式会社製、不揮発分53%、商品名)、可塑剤であるDINP(フタル酸ジイソノニル)、DINCH(BASF社製、非フタル酸系可塑剤、商品名)、PPG−1000(株式会社ADEKA製、ポリプロピレングリコール、商品名)、炭酸カルシウムであるホワイトンSB(白石カルシウム株式会社製、商品名)を用い、表1に示した配合にて実施例1と同様に水性樹脂組成物を調製し、試験評価を行った。
【0022】
比較例1、2
粘着付与樹脂としてロジン酸エステルエマルジョンであるE100(荒川化学工業株式会社製、不揮発分53%、商品名)100重量部、LC501 200重量部を混合することにより比較例1の水性樹脂組成物を調製した。さらに、ホワイトンSB 150重量部を混合することにより比較例2の水性樹脂組成物を調製した。各水性樹脂組成物の試験評価を行った。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例の各水系樹脂組成物は乾燥性、コンタクト性ともに良好であった。比較例1は粘着付与樹脂エマルジョンを用いたものであるが、不揮発分が低いため乾燥性が悪かった。また、比較例2は炭酸カルシウムを多量に用いることにより不揮発分を高くしたものであるが、コンタクト性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤の存在下において、水性樹脂分散体に対して粘着付与樹脂を添加し、分散させることを特徴とする水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記水性樹脂分散体が、クロロプレンゴムラテックス、アクリル系樹脂エマルジョン、スチレン−ブタジエン共重合系樹脂ラテックスのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂が、常温で液状の粘着付与樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2記載の水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の製造方法を用いて製造された水性樹脂組成物。
【請求項5】
不揮発分が60%以上であることを特徴とする請求項4記載の水性樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−84462(P2009−84462A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257155(P2007−257155)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】