説明

水性被覆材

【課題】耐久性、硬化性、耐摩耗性等において優れた性能を発揮することができる水性被覆材を提供する。
【解決手段】アルキル基の炭素数が1〜6である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び反応性官能基含有ビニル系モノマーを含むモノマー群の重合体を樹脂成分とし、該モノマー群に占める芳香族モノマーの比率が10重量%以下であり、ガラス転移温度が10〜60℃である合成樹脂エマルション(A)、前記合成樹脂エマルションと反応可能な架橋剤(B)、並びに、酢酸ブチルを100としたときの蒸発速度が2〜50、水への溶解度が2〜80g/100gである有機溶剤(C)を必須成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築・土木構造物に使用する被覆材においては、有機溶剤を媒体とする溶剤型から、水を溶媒とする水性への転換が図られつつある。これは、塗装作業者や居住者の健康被害を低減するためや、大気環境汚染を低減する目的等で行われているものであり、年々水性化が進んできている。
【0003】
これに伴い、水性被覆材に対する性能向上の要望も高まっている。このような要望に応えるため、水性被覆材の結合材に、架橋性を有する官能基を導入して、耐候性、耐水性、耐温水性、耐アルカリ性、耐酸性、耐溶剤性、耐薬品性等の耐久性を高める手法が採られている。例えば、特開平7−62188号公報(特許文献1)には、ケトン基またはアルデヒド基が導入されたアクリル系共重合体水性樹脂エマルションと、水溶性ポリヒドラジド化合物からなる架橋型水分散系樹脂組成物が記載されている。
【0004】
このような架橋型の水性被覆材では、非架橋型の合成樹脂エマルションを結合材として用いる場合に比べ、耐久性を高めることができ、被膜の乾燥性においても比較的有利な効果を得ることができる。しかしながら、上述のような架橋型の水性被覆材では、見掛け上被膜が乾燥していても、被膜硬化性の見地からすれば未だ不十分な場合がある。例えば、被膜形成後、被膜が最終的な硬化に到るまでに相当の時間を要し、被膜表面に長期にわたり粘着性が残存してしまう場合がある。あるいは、被膜の硬化自体が不十分であるため、耐摩耗性等において満足な性能が得られ難い場合がある。
【0005】
【特許文献1】特開平7−62188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたもので、その形成被膜において優れた耐久性を有するとともに、硬化性、耐摩耗性等においても優れた性能を発揮することができる水性被覆材を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討の結果、特定のモノマーを組み合わせてなる重合体を樹脂成分とする合成樹脂エマルション(A)と、その架橋剤(B)と、特定の有機溶剤(C)を必須成分とする水性被覆材に想到し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の水性被覆材に関するものである。
1.アルキル基の炭素数が1〜6である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び反応性官能基含有ビニル系モノマーを含むモノマー群の重合体を樹脂成分とし、該モノマー群に占める芳香族モノマーの比率が10重量%以下であり、ガラス転移温度が10〜60℃である合成樹脂エマルション(A)、
前記合成樹脂エマルションと反応可能な架橋剤(B)、
並びに、酢酸ブチルを100としたときの蒸発速度が2〜50、水への溶解度が2〜80g/100gである有機溶剤(C)を含み、
前記合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対し、前記有機溶剤(C)を0.5〜30重量部含むことを特徴とする水性被覆材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性被覆材では、優れた耐久性を有するとともに、硬化性、耐摩耗性等においても優れた性能を有する被膜が形成可能である。本発明の水性被覆材は、被膜の仕上り性等においても優れた効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0011】
本発明水性被覆材は、それぞれ特定の合成樹脂エマルション(A)、架橋剤(B)、有機溶剤(C)を必須成分とするものである。
このうち、合成樹脂エマルション(A)は、アルキル基の炭素数が1〜6である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び反応性官能基含有ビニル系モノマーを含むモノマー群の重合体を樹脂成分とし、該モノマー群に占める芳香族モノマーの比率が10重量%以下であり、ガラス転移温度が10〜60℃である合成樹脂エマルション(以下「(A)成分」という)である。本発明では、このような合成樹脂エマルションと、後述の架橋剤、有機溶剤を組み合わせて用いることにより、耐候性、耐水性、耐温水性、耐アルカリ性、耐酸性、耐溶剤性、耐薬品性等の耐久性を高めることができる。さらには、硬化性、耐摩耗性、仕上り性等においても優れた効果を発揮することができる。
【0012】
アルキル基の炭素数が1〜6である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下「(a−1)成分」という)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルブチル(メタ)アクリレート、n−へキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
本発明では、このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルを2種以上組合せて用いることが望ましい。さらには、アルキル基の炭素数が1〜2である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種以上と、アルキル基の炭素数が3〜6である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種以上を組合せて用いることが望ましい。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記する。
モノマー群全体に占める(a−1)成分の比率は、通常60〜99重量%、好ましくは70〜98重量%程度である。
【0013】
反応性官能基含有ビニル系モノマー(以下「(a−2)成分」という)は、反応性官能基とビニル基を併有する化合物であり、所望の架橋反応に応じて導入されるものである。(a−2)成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸またはそのモノアルキルエステル、イタコン酸またはそのモノアルキルエステル、フマル酸またはそのモノアルキルエステル等のカルボキシル基含有モノマー;
N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、N−(2−ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド等のアミノ基含有モノマー;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;
グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;
アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等のカルボニル基含有モノマー;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有モノマー等が挙げられる。この中でも、カルボキシル基含有モノマー、カルボニル基含有モノマー、及びアルコキシシリル基含有モノマーから選ばれる1種以上(さらには2種以上)を含むことが好適である。
モノマー群全体に占める(a−2)成分の比率は、通常1〜40重量%、好ましくは2〜30重量%程度である。
【0014】
(A)成分においては、上記以外のビニル系モノマーを使用することもできる。このようなビニル系モノマーとしては、例えば、芳香族モノマー、アルキル基の炭素数が7以上である(メタ)アクリル酸エステル、ハロゲン化ビニリデン系モノマー、その他エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド、クロロプレン等が挙げられる。
【0015】
(A)成分においては、モノマー群に占める芳香族モノマーの比率を10重量%以下(好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下)とする。(A)成分のモノマー群において芳香族モノマーを含まない態様も好適である。芳香族モノマーの比率が10重量%を超える場合は、耐久性、硬化性、耐摩耗性等において、十分な物性が得られ難くなる。
芳香族モノマーとしては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0016】
(A)成分においては、アルキル基の炭素数が7以上である(メタ)アクリル酸エステルのモノマー群に占める比率を20重量%以下(好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下)とすることが望ましい。(A)成分のモノマー群において、アルキル基の炭素数が7以上である(メタ)アクリル酸エステルを含まない態様も好適である。この比率が20重量%を超える場合は、硬化性、耐摩耗性等において、十分な物性が得られ難くなる。
【0017】
(A)成分のガラス転移温度(以下「Tg」という)は10〜60℃であり、好ましくは20〜55℃、より好ましくは25〜50℃である。Tgが10℃よりも低い場合は、被膜の硬度が不十分となり、耐摩耗性等においても満足な物性が得られ難くなる。Tgが60℃よりも高い場合は、造膜性、耐割れ性等において安定した性能を確保することが困難となる。(A)成分のTgをこのような範囲内にするには、上述の(a−1)成分、(a−2)成分等のモノマー成分の種類及び比率を適宜設定すればよい。なお、TgはFOXの計算式より求められる値である。
【0018】
(A)成分の製造方法は特に限定されないが、例えば、乳化重合、ソープフリー乳化重合、分散重合、フィード乳化重合、フィード分散重合、シード乳化重合、シード分散重合等を採用することができる。(A)成分の平均粒子径は、通常0.05〜0.3μm程度である。
【0019】
前記合成樹脂エマルションと反応可能な架橋剤(B)(以下「(B)成分」という)は、上記(A)成分との架橋反応により、耐久性、硬化性、耐摩耗性等の物性向上に寄与するものである。(A)成分と(B)成分における架橋反応の組合せとしては、例えば、カルボキシル基と金属化合物、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジド基、エポキシ基とアミノ基、エポキシ基とカルボキシル基、エポキシ基とヒドラジド基、カルボキシル基とアジリジン、カルボキシル基とカルボジイミド、カルボキシル基とオキサゾリン、アセトアセテートとケチミン、アルコキシシリル基同士等が挙げられる。このような架橋反応の1種または2種以上を採用することができる。
なお、本発明では、(A)成分と(B)成分の組合せにおいて、このような架橋反応を1種以上含むものであるが、さらに(A)成分自体((A)成分内部)にこのような架橋反応を含むこともできる。本発明では、(A)成分と(B)成分の組合せにおいて2種以上の架橋反応を含む場合、さらに(A)成分自体に1種以上の架橋反応を含む場合に、とりわけ有利な効果を奏することができる。
【0020】
具体的に、(A)成分中の(a−2)成分によってカルボキシル基が導入される場合、(B)成分としては、金属化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等が使用できる。(A)成分中の(a−2)成分によってカルボニル基が導入される場合、(B)成分としては、ヒドラジド化合物等が使用できる。
【0021】
このうち、金属化合物としては、2価以上の金属の塩、または錯体で、水溶性を有するものが使用できる。例えば、カルシウム、マグネシウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ジルコニウム、錫、アンチモン等の多価金属と、硫酸イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、アンモニウムイオン、シュウ酸イオン、リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、乳酸イオン、サリチル酸イオン、安息香酸イオン、エチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等との化合物が挙げられる。このうち、カルシウム化合物、亜鉛化合物、アルミニウム化合物が、好ましく用いられる。
【0022】
エポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。この他、エポキシ基含有モノマーの重合体(ホモポリマーまたはコポリマー)からなる水溶性樹脂やエマルションを挙げることもできる。
【0023】
カルボジイミド化合物としては、例えば、特開平10−60272号公報、特開平10−316930号公報、特開平11−60667号公報等に記載のもの等が挙げられる。
オキサゾリン化合物としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等の重合性オキサゾリン化合物を該化合物と共重合可能な単量体と共重合した樹脂等が挙げられる。
ヒドラジド化合物としては、例えば、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0024】
本発明では、上記成分に加え、酢酸ブチルを100としたときの蒸発速度(以下単に「蒸発速度」という)が2〜50、水への溶解度が2〜80g/100gである有機溶剤(C)(以下「(C)成分」という)を必須成分とする。本発明では、上記成分と、この(C)成分を併用することで、硬化性、耐摩耗性等において優れた性能を発揮する水性被覆材を得ることができる。さらに、(C)成分は、被膜の仕上り性等の向上にも寄与するものである。
【0025】
(C)成分の蒸発速度は通常2〜50、好ましくは3〜30、より好ましくは5〜20である。(C)成分の蒸発速度が小さすぎる場合は、硬化性、耐摩耗性、仕上り性等において十分な性能が得られにくくなる。(C)成分の蒸発速度が大きすぎる場合は、造膜性、耐摩耗性、耐割れ性、仕上り性等が不十分となりやすくなる。なお、本発明の蒸発速度は、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対値であり、測定温度は20℃である。
【0026】
(C)成分の水への溶解度(以下単に「溶解度」ともいう)は、通常2〜80g/100g、好ましくは3〜50g/100g、より好ましくは4〜30g/100gである。(C)成分の溶解度が小さすぎる場合は、硬化性、耐摩耗性、仕上り性等において十分な性能が得られにくくなる。(C)成分の溶解度が大きすぎる場合は、造膜性、耐摩耗性、仕上り性等が不十分となりやすくなる。なお、本発明の溶解度は、水100gに対し溶解可能な有機溶剤の質量であり、測定温度は20℃である。
【0027】
本発明における(C)成分としては、例えば、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(蒸発速度16、溶解度53)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(蒸発速度21、溶解度23)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(蒸発速度34、溶解度16)、メチル−1,3−ブチレングリコールアセテート(蒸発速度34、溶解度7)、3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート(蒸発速度10、溶解度7)、プロピレングリコールn−ブチルエーテル(蒸発速度9、溶解度6)等が挙げられる。
【0028】
(C)成分の混合比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、通常0.5〜30重量部、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは2〜10重量部である。(C)成分の混合比率がこのような範囲内であれば、硬化性、耐摩耗性、仕上り性等の効果発現の点で好適である。
【0029】
本発明では、上記成分に加え、水への溶解度が1g/100g未満である有機溶剤(D)(以下「(D)成分」という)を用いることができる。但し、その混合比率は、重量比率において、(D)成分/(C)成分が10以下(好ましくは0.1以上5以下、より好ましくは0.2以上2以下)となる範囲内にする。このような範囲内であれば、(C)成分による作用を活かしつつ、本発明の効果を高めることができる。
(D)成分としては、例えば、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート等が挙げられる。
【0030】
本発明の水性被覆材には、上記成分以外に、着色顔料、体質顔料、骨材、可塑剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、消泡剤、顔料分散剤、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、pH調整剤、繊維類、つや消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、吸着剤、触媒、架橋剤等を混合することができ、このような成分を適宜組み合わせて使用することにより、種々の形態の被覆材を設計することができる。本発明の被覆材は、前述の成分に加え、必要に応じこれら成分を常法により均一に混合することで製造できる。
【0031】
本発明の水性被覆材は、主に建築物、土木構築物等の仕上げ材として使用できるものであるが、硬化性、耐摩耗性、仕上り性等において優れた効果が得られることから、とりわけ床用の被覆材等として好適である。
塗装の対象となる基材としては、特に限定されず、例えばコンクリート、モルタル、アスファルト、金属、磁器タイル、サイディングボード、押出成形板、プラスチック等の各種基材が挙げられる。このような基材は、既存塗膜等を有するものであってもよい。具体的に既存塗膜としては、例えば、アクリル樹脂系塗膜、アクリルシリコン樹脂系塗膜、ウレタン樹脂系塗膜、エポキシ樹脂系塗膜等が挙げられる。
【0032】
本発明の水性被覆材の塗装においては、基材に直接塗装することもできるし、何らかの表面処理(プライマー、サーフェーサー、フィラー等の下塗材による下地処理等)を施した上に塗装することも可能である。塗装方法としては、ハケ塗り、スプレー塗装、ローラー塗装等種々の方法により塗装することができる。塗付け量は、通常0.1〜1kg/m、好ましくは0.2〜0.5kg/m程度である。このような塗付け量の範囲内で、複数回に分けて塗分けることも可能である。
塗装及びその後の乾燥は、通常、常温(0〜40℃)で行えばよい。本発明の水性被覆材は、比較的温度が低い状態(0〜20℃)においても有利な効果を発揮することができる。
【0033】
コンクリート、モルタル、アスファルト等の基材(既存塗膜を有さないもの)に塗装する場合は、プライマー等の下塗材を用いて下地処理を行うことが望ましい。この下地処理により、基材の表面状態を整える効果、基材表面を補強する効果等を得ることができ、最終的に得られる被膜の仕上り性、密着性、アルカリシール性等を高めることができる。
下塗材としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等の各種樹脂を結合材として含むものが使用できる。このうち、アクリル樹脂を含む下塗材においては、Tgが10℃以上(好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上80℃以下)のアクリル樹脂を用いることが望ましい。
【0034】
上記下塗材におけるアクリル樹脂としては、特にカチオン性アクリル樹脂エマルションが好適である。このようなカチオン性アクリル樹脂エマルションは、アミノ基、アンモニウム基、ホスホニウム基等のカチオン性官能基を有するアクリル樹脂が水性媒体に分散したものである。具体的には、例えば、
(1)アミノ基、アンモニウム基、ホスホニウム基等のカチオン性官能基を有するカチオン性モノマーを、その他の重合性モノマーと共に、乳化重合等の方法によって水性媒体中で重合したもの;
(2)アミノ基、アンモニウム基、ホスホニウム基等のカチオン性官能基を有するカチオン性水溶性樹脂の存在下で、重合性モノマーを乳化重合等の方法によって水性媒体中で重合したもの;
(3)アミノ基、アンモニウム基、ホスホニウム基等のカチオン性官能基を有するカチオン性界面活性剤の存在下で、重合性モノマーを乳化重合等の方法によって水性媒体中で重合したもの;
(4)アミノ基、アンモニウム基、ホスホニウム基等のカチオン性官能基を有するカチオン性有機溶剤系樹脂を、有機酸、無機酸等で中和し水を加えて水性媒体中に分散させたもの;
(5)アミノ基、アンモニウム基、ホスホニウム基等のカチオン性官能基を有するカチオン性界面活性剤を用いて、有機溶剤系樹脂を水性媒体中に分散させたもの;
等が挙げられる。
【0035】
下塗材の塗装においては、ハケ塗り、スプレー塗装、ローラー塗装等種々の方法を適宜採用することができる。塗付け量は、下塗材の形態にもよるが、通常0.05〜0.5kg/m、好ましくは0.1〜0.4kg/m程度である。このような塗付け量の範囲内で、複数回に分けて塗分けることも可能である。塗装及びその後の乾燥は、通常、常温で行えばよい。
【0036】
既存塗膜を有する基材に塗装する場合も、上述の如き下塗材によって下地処理を行うことができるが、本発明水性被覆材は各種既存塗膜への密着性に優れるため、既存塗膜に対して直接塗装することもできる。
本発明水性被覆材を既存塗膜に直接塗装する場合は、塗装前に研磨処理等による目荒しを行うことが望ましい。このような目荒しにより、既存塗膜に付着した汚染物質等を除去することができ、さらに、既存塗膜表面に微細な凹凸が形成されることで、密着性をいっそう高めることができる。目荒しは、公知の研磨具、研削具等を用いて行えばよい。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。なお、各被覆材における合成樹脂エマルションとしては、表1に示すモノマー組成により乳化重合して得られた固形分50重量%の合成樹脂エマルション(樹脂1〜8)を使用した。その他の原料については、以下に示すものを使用した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1におけるモノマーは以下の通りである。( )内はホモポリマーのTgである。
・MMA:メチルメタクリレート(Tg105℃)
・ST:スチレン(Tg100℃)
・n−BA:n−ブチルアクリレート(Tg−54℃)
・2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート(Tg−70℃)
・AA:アクリル酸(Tg106℃)
・DAAM:ダイアセトンアクリルアミド(Tg65℃)
・γ−MPTM:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Tg43℃)
【0040】
・架橋剤1:アジピン酸ジヒドラジド
・架橋剤2:炭酸亜鉛アンモニウム水溶液
・有機溶剤1:ジプロピレングリコールジメチルエーテル(蒸発速度16、溶解度53)
・有機溶剤2:3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート(蒸発速度10、溶解度7)
・有機溶剤3:プロピレングリコールn−ブチルエーテル(蒸発速度9、溶解度6)
・有機溶剤4:2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(蒸発速度0.2、溶解度<1)
・有機溶剤5:エチレングリコールモノブチルエーテル(蒸発速度8、溶解度∞)
・有機溶剤6:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(蒸発速度<1、溶解度∞)
・有機溶剤7:トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル(蒸発速度<1、溶解度3)
・着色顔料:酸化チタン分散液(固形分70重量%)
・増粘剤:ポリウレタン系増粘剤
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
【0041】
<水性被覆材の製造>
表2、3に示す配合に従い、常法により各原料を均一に混合して被覆材を製造した。表2、3の配合において、架橋剤1の混合比率は、架橋剤1中のヒドラジド基と、合成樹脂エマルション中のカルボニル基との当量比(ヒドラジド基/カルボニル基)で示した。また、架橋剤2の混合比率は、架橋剤2の亜鉛と、合成樹脂エマルション中のカルボキシル基との当量比(亜鉛/カルボキシル基)で示した。その他の原料の混合比率は、重量部にて示した。
【0042】
<下塗材の製造>
カチオン性アクリル樹脂エマルション1(固形分35重量%、Tg58℃、スチレン−メチルメタクリレート−2−エチルヘキシルアクリレート−ジメチルアミノエチルアクリレート共重合体)100重量部に対し、造膜助剤20重量部、水200重量部、増粘剤5重量部、消泡剤0.5重量部を常法により均一に混合して下塗材1を製造した。
また、カチオン性アクリル樹脂エマルション2(固形分35重量%、Tg−10℃、スチレン−メチルメタクリレート−2−エチルヘキシルアクリレート−ジメチルアミノエチルアクリレート共重合体)100重量部に対し、造膜助剤5重量部、水200重量部、増粘剤5重量部、消泡剤0.5重量部を常法により均一に混合して下塗材2を製造した。
【0043】
[1]試験例I
試験例Iでは、以下の硬化性、耐摩耗性、仕上り性、造膜性、及び耐久性について試験を行った。なお、試験例Iの各試験における下塗材としては下塗材1を使用した。
【0044】
<試験方法>
(1−1)硬化性
予め下塗材を塗付(塗付け量0.2kg/m)した繊維強化セメント板(100mm×100mm)を水平に置き、この板に対し被覆材を塗付け量0.3kg/mでローラー塗装し、気温23℃、相対湿度50%下(以下「標準状態」という)で6時間養生した。以上の方法で得られた試験片の上に円柱の金属体(質量150g)を載せ、10秒後、当該金属体を静かに持ち上げた。このとき、試験片から金属体が容易に離れたものを「◎」、金属体と共に試験片が持ち上がったものを「×」とし、4段階(優◎>○>△>×劣)にて評価を行った。
【0045】
(1−2)耐摩耗性
予め下塗材を塗付(塗付け量0.2kg/m)した繊維強化セメント板(100mm×100mm)を水平に置き、この板に対し被覆材を塗付け量0.3kg/mでローラー塗装し、標準状態で7日間養生した。以上の方法で得られた試験片につき、JIS K 5970 7.8に従い、耐摩耗性試験を行った。この試験において、摩耗輪はCS−17を使用し、回転数100回転、回転速度1.00S−1、荷重4.90N/輪に設定した。評価基準は、以下の通りである。
◎:摩耗減量10mg未満
○:摩耗減量10mg以上15mg未満
△:摩耗減量15mg以上20mg未満
×:摩耗減量20mg以上
【0046】
(1−3)仕上り性
予め下塗材を塗付(塗付け量0.2kg/m)した繊維強化セメント板(900mm×900mm)を水平に置き、この板に対し被覆材を塗付け量0.3kg/mでローラー塗装し、標準状態で7日間養生した。以上の方法で得られた試験片の仕上り外観を観察し、被膜表面の平滑性・光沢が高いものを「◎」、被膜表面の平滑性・光沢が低いものを「×」とする4段階(優◎>○>△>×劣)にて評価を行った。
【0047】
(1−4)造膜性
予め下塗材を塗付(塗付け量0.2kg/m)した繊維強化セメント板(300mm×150mm)に対し、被覆材を塗付け量0.3kg/mでローラー塗装し、0℃下で3日間養生した。以上の方法で得られた試験片の仕上り外観を観察し、被膜表面に割れ、しわ等の異常が認められなかったものを「○」、被膜表面に割れ、しわ等が認められたものを「×」として評価を行った。
【0048】
(1−5)耐久性
予め下塗材を塗付(塗付け量0.2kg/m)した繊維強化セメント板(150mm×70mm)に対し、被覆材を塗付け量0.3kg/mでローラー塗装し、水平に保持して標準状態で7日間養生した。以上の方法で得られた試験片につき、促進耐候性試験機(「メタルウェザーメーター」、ダイプラ・ウィンテス株式会社製)で200時間曝露を行い、曝露後の塗膜外観を目視にて確認した。評価基準は、塗膜に異常(変色、割れ、剥れ、膨れ等)が認められなかったものを「◎」、異常が認められたものを「×」とし、4段階(優◎>○>△>×劣)にて評価を行った。
【0049】
<試験結果>
試験結果を表2、3に示す。被覆材1〜8では、いずれの試験においても良好な結果を得ることができた。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
[2]試験例II
試験例IIでは、以下の方法により旧塗膜適性について試験を行った。
【0053】
旧塗膜を有する繊維強化セメント板(150mm×70mm)に対し、研磨紙を用いて目荒しを行った後、被覆材を塗付け量0.3kg/mでローラー塗装し、標準状態で7日間養生した。以上の方法で得られた試験片を、50℃温水に12時間浸漬後、JIS K 5600−5−6に準じた碁盤目テープ法にて密着性を評価した。このとき、欠損部面積が5%未満であったものを「◎」、欠損部面積が5%以上15%未満であったものを「○」、欠損部面積が15%以上35%未満であったものを「△」、欠損部面積が35%以上であったものを「×」として、4段階(優◎>○>△>×劣)にて評価を行った。試験結果を表4に示す。
【0054】
なお、旧塗膜としては以下に示すものを用いた。
旧塗膜1:アクリル樹脂系塗膜
旧塗膜2:アクリルシリコン樹脂系塗膜
旧塗膜3:ウレタン樹脂系塗膜
旧塗膜4:エポキシ樹脂系塗膜
【0055】
【表4】

【0056】
[3]試験例III
試験例IIIでは、以下の方法により密着性について試験を行った。
【0057】
繊維強化セメント板(150mm×70mm)に対し、下塗材を塗付け量0.2kg/mでローラー塗装し、5℃下で4時間養生した後、被覆材を塗付け量0.3kg/mでローラー塗装し、5℃下で7日間養生した。以上の方法で得られた試験片を、50℃温水に12時間浸漬後、その被膜端部を爪にて剥がすピーリングテストを行った。このとき全く剥がれなかったものを「◎」、全面的に剥がれたものを「×」として、4段階(優◎>○>△>×劣)にて評価を行った。この試験に供した下塗材と被覆材の組合せ、及びその試験結果を表5に示す。
【0058】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基の炭素数が1〜6である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び反応性官能基含有ビニル系モノマーを含むモノマー群の重合体を樹脂成分とし、該モノマー群に占める芳香族モノマーの比率が10重量%以下であり、ガラス転移温度が10〜60℃である合成樹脂エマルション(A)、
前記合成樹脂エマルションと反応可能な架橋剤(B)、
並びに、酢酸ブチルを100としたときの蒸発速度が2〜50、水への溶解度が2〜80g/100gである有機溶剤(C)を含み、
前記合成樹脂エマルション(A)の固形分100重量部に対し、前記有機溶剤(C)を0.5〜30重量部含むことを特徴とする水性被覆材。


【公開番号】特開2010−13615(P2010−13615A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201316(P2008−201316)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】