説明

水性黒色顔料分散体の製造方法、該方法で得られる水性黒色顔料分散体、および該分散体を含有する水性黒色顔料インキ組成物

【課題】顔料を含有する処理物の流動性を良好にした上で、生産性を向上させ、さらに、顔料分散体のより均一な分散状態を作り出し、印刷品質などを高めることができる水性黒色顔料分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一組のロータとステータ、または少なくとも一組のロータとロータの間隙を通過させることにより、混合物に剪断応力が付加できる分散機を用いて、平均一次粒子径が15〜40nmで、かつ嵩密度が0.3〜0.8g/mlのカーボンブラックを、アルカリ存在下でアルカリ可溶型樹脂を溶解させた水性媒体中に、分散させることを特徴とする水性黒色顔料分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性黒色顔料分散体の製造方法、該方法で得られる水性黒色顔料分散体、および該分散体を含有する水性黒色顔料インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性顔料分散体は、古くから、水性印刷インキなどの着色材料のベース組成物として利用されており、鮮明な発色性と高い着色力を有すること、さらに流動性が良好であることが基本性能とされてきた。そして、この様な水性顔料分散体は、通常、水性媒体中へ顔料と樹脂、必要に応じて分散剤を添加し、練肉工程前に顔料と樹脂などをある程度湿潤させておくための混合攪拌処理であるプレミックス工程と、顔料を本来の着色力が得られる状態まで分散する練肉工程を経て製造されている。
【0003】
通常、プレミックス工程では、プロペラタイプ、パドルタイプ、タービンタイプなどの攪拌翼を有する装置やノンメディア型の装置などを用いて、プレミックス混合物を得ており、練肉工程では、ビーズミル、ボールミル、アトライターなどのメディア型分散装置を主に用いている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特にカーボンブラックを用いた黒色顔料分散体では、カーボンブラックが本来疎水性であることから、油性の樹脂、溶剤の存在下では高濃度・高粘度でもプレミックス混合時、および練肉工程時も良好な流動性を保ち、練肉・分散が可能である。しかし、水性系では、疎水性であることから、高濃度、高粘度で良好な流動性をもつことが困難であり、樹脂や分散剤の選択など配合面で流動性を確保するとともに、製造面では、一般的に、ディスパーで混合攪拌後、プレミックス混合物を、ギアポンプなどを用いて強制的にビーズミルに送り、練肉を行っているのが現状である。
【0005】
しかしビーズミルを使用した場合には、ビーズと顔料の接触・粉砕により練肉することから、練肉品の顔料の粒子径分布が、過分散物、未分散物を含んだブロードな形になり、印刷品質が劣る場合がある。
【0006】
この問題を解消するため、高圧分散装置やロータ/ステータ型のハイシアーミキサーを用いる試みもある。
【0007】
高圧分散装置を使用する分散技術としては、分散媒と、顔料と、水不溶性ポリマーを混合した後、1.0×105Pa以上のせん断応力で分散する技術がある(特許文献2)が、この場合も高圧ポンプを用いて組成物を送ることになり、さらに組成物を低粘度にすることが必要であり、通常水性印刷インキなどのベース組成物で用いる濃度では十分に練肉できない。
【0008】
またロータ/ステータ型のハイシアーミキサーでは、水性系のカーボンブラック分散体を高濃度、高粘度のインキ組成物とする場合、特に構造粘性などが生じ、せん断応力がかかる部分は流動しても、構造上、ワークヘッド内部に引き込む力がかからない部分、せん断応力がかからない部分などでインキ組成物の滞留が起こり、製造上の不具合を生じる問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開平11−246813号公報
【特許文献2】特開2002−249690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術の問題点に鑑み、顔料を含有する処理物の流動性を良好にした上で、生産性を向上させ、さらに、顔料分散体のより均一な分散状態を作り出し、印刷品質などを高めることができる水性黒色顔料分散体の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、つぎの水性黒色顔料分散体の製造方法、該方法により得られる水性顔料分散体、および該分散体を含有する水性黒色顔料インキ組成物を提供する。
(1)少なくとも一組のロータとステータ、または少なくとも一組のロータとロータの間隙を通過させることにより、混合物にせん断応力が付加できる分散機を用いて、平均一次粒子径が15〜40nmで、かつ嵩密度が0.3〜0.8g/mlのカーボンブラックを、アルカリ存在下でアルカリ可溶型樹脂を溶解させた水性媒体中に、分散させることを特徴とする水性黒色顔料分散体の製造方法。
(2)前記アルカリ可溶型樹脂がスチレン−アクリル系樹脂、スチレン−マレイン酸系樹脂、およびアクリル系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種である前記(1)項に記載の水性黒色顔料分散体の製造方法。
(3)前記水性黒色顔料分散体の着色力の95%以上となるまで、前記混合物を前記分散機で分散する前記(1)または(2)項に記載の水性黒色顔料分散体の製造方法。
(4)前記分散機が、少なくとも一組のロータとステータとからなる分散機であり、ロータの周速が15〜25m/sec、ロータの外径/容器内径の比が0.1以上である前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の水性黒色顔料分散体の製造方法。
(5)前記(1)〜(4)項のいずれかに記載の水性黒色顔料分散体の製造方法によって得られることを特徴とする水性黒色顔料分散体。
(6)前記(5)項記載の水性黒色顔料分散体を含有することを特徴とする水性黒色顔料インキ組成物。
【0012】
つぎに、本発明により前記課題がどのように解決されるかを説明する。
【0013】
本発明は、カーボンブラック、アルカリ可溶型樹脂および水を含む混合物を、少なくとも一組のロータとステータ、または少なくとも一組のロータとロータとの間隙を通過させることにより、混合物にせん断応力が付加できる分散機を用いて分散処理することにより、水性媒体中にカーボンブラックを分散させることを特徴とするものである。
【0014】
本発明では、顔料を含有する処理物の流動性と分散機の機構の面から、生産性を向上し、さらに、均一な顔料分散状態を作り出し、印刷品質などを高めることができる。
【0015】
まず、顔料を含有する処理物の流動性の観点から考察する。黒色顔料としては、印刷インキ用の各種カーボンブラックが用いられるが、本来カーボンブラックは疎水性顔料の代表的なものであり、水性系組成物では、樹脂との濡れ、分散性などが油性で用いる場合に比べ、大きく劣る。また、特に微粒子状のカーボンブラックの分散時には、カーボンブラックが不定形で多孔質であることから起こる急激な表面積の増大により、流動性の変化、特に構造粘性が顕著に現れる場合がある。さらに、カーボンブラックの選定にあわせて、高分子分散剤としての樹脂の種類の選定も重要であり、構造粘性などを起こさず、流動性を確保するためには、水分散性樹脂では難しく、アルカリ可溶型樹脂を用いることが必要である。このようにカーボンブラックを水性媒体に分散する際には、カーボンブラックの種類および樹脂の種類の選択などが重要となっている。
【0016】
つぎに、分散機の機構の面から考察する。カーボンブラックを水性媒体に分散する際には、プレミックスと呼ばれる練肉前の前処理にあたる攪拌混合処理である程度カーボンブラックと樹脂などとの湿潤状態を作ってから、顔料をより微細に分散させる練肉処理を行う方法が利用されている。
【0017】
練肉工程で一般に使用されていたメディア型分散装置は、顔料に高い応力を付加することが可能で、短時間のうちに微細に分散できるという特徴があるが、応力のかかり方が不均一であるため、得られる顔料分散物では粒度分布が広く、分散の進んでいない粗大粒子と、過剰に分散した状態の粒子の両方が多く存在し、それが最終組成物における性能の低下につながっていた。
一方、他の顔料分散装置として、細いオリフィスやノズルを高圧・高速で通過させ、衝突やせん断応力を利用する高圧分散処理装置、ロータの回転により処理物を移送するタイプであって、ロータとステータなどとの間隙を通過させて、処理物に高いせん断応力を付加する高速せん断攪拌装置などが知られている。そして、これらの分散装置では、メディア型分散装置と比較して、顔料に付加できる応力が均一である反面、一般的に高い応力を付加するのが困難である。また、高圧分散処理装置では、低粘度の処理物でなければ利用できず、一方、高速せん断攪拌装置では、ロータの回転によって処理物を吸引し、狭い間隙に導くという装置の構造から、処理物の流動性がより一層良好である必要がある。
【0018】
そこで、印刷インキなどに用いる水性黒色顔料分散体として、高濃度、高粘度でも流動性を確保でき、分散効率がよく、さらに分散後の顔料の分子量分布がブロードにならない製造方法が求められており、それらを満足する分散機としてロータ/ステータ型の高速せん断攪拌装置に注目した。
【0019】
本発明者らは、上記の目的にかなう顔料分散方法について鋭意検討を重ねた結果、水性黒色顔料分散体を調製するための顔料であるカーボンブラックおよび樹脂を特定のものから選択し、通常、プレミックス後にメディア型分散機を使用する練肉工程をとるところを、従来技術でそのプレミックスに使われていたロータ/ステータ型分散機を用いて、通常と変わらない時間で練肉まで仕上げることができることを見出した。このように優れた作用効果が実現できたのは、カーボンブラックの粒径と嵩密度による処理物の性状の特定と分散機の特定、さらに好ましくは分散機の周速とロータの外径/容器内径の比の特定によるものである。
【発明の効果】
【0020】
生産性よく均一な分散状態の顔料分散体を作り出し、印刷品質などを高めることができる水性黒色顔料分散体が製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の水性顔料分散体の製造方法を詳細に説明する。
【0022】
本発明において使用するカーボンブラックは、平均一次粒子径が15〜40nm、好ましくは18〜35nm、さらに好ましくは20〜30nmであり、かつ嵩密度が0.3〜0.8g/ml、好ましくは0.3〜0.6g/mlのものである。平均一次粒子径が前記範囲より小さい場合、分散が進むと表面積の増大が大きく、分散が困難になる傾向にある。平均一次粒子径が前記範囲を超える場合、得られる分散体の着色力が劣り、使用が困難になる傾向がある。また、嵩密度が前記範囲を下回る場合、分散が進むと急激に表面積が増加するため分散不良が起こる傾向がある。一方嵩密度が前記範囲を超える場合は、長いストラクチャーが相互に絡まりながら造粒されていることから、分散性が劣る傾向にある。
【0023】
本発明において使用するアルカリ可溶型樹脂としては、カルボキシル基などのアニオン性基を含有するビニル系樹脂が挙げられるが、その中でもスチレン−アクリル系樹脂、スチレン−マレイン酸系樹脂、およびアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種が好ましい。ここで、スチレン−アクリル系樹脂とは少なくとも1種のスチレン系単量体と少なくとも1種のアクリル系単量体を、スチレン−マレイン酸系樹脂とは少なくとも1種のスチレン系単量体と少なくとも1種のマレイン酸系単量体を、アクリル系樹脂とは少なくとも2種のアクリル系単量体を共重合成分とする共重合体樹脂である。
【0024】
例えば、この様なアニオン性基を含有するビニル系樹脂で使用できるアクリル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、および、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレートなどの芳香族環を含む(メタ)アクリル酸エステル化合物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル化合物、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系化合物が利用できる。またスチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンとそれらの誘導体が利用できる。またマレイン酸系単量体としては、(無水)マレイン酸、および、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノヘキシル、マレイン酸モノオクチル、マレイン酸モノ2−エチルヘキシル、マレイン酸モノラウリル、マレイン酸モノステアリルなどのマレイン酸モノアルキルエステルが利用でき、さらに、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸ジアルキルエステル化合物も利用できる。また、これらの共重合体樹脂は、必要に応じて、(メタ)アクリルアミド、クロトン酸とそのエステル化合物、イタコン酸とそのエステル化合物、シトラコン酸とそのエステル化合物、アクリロニトリル、オレフィン化合物などの他の共重合可能な単量体を共重合成分として含有していてもよい。
【0025】
そして、アニオン性基含有樹脂を水性媒体に溶解させるアルカリ(塩基性化合物)としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような無機塩基性化合物や、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、モノエタノールアミン、N、N−ジメチルエタノールアミン、N、N−ジエチルエタノールアミン、N、N−ジブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンのような有機塩基性化合物などが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
本発明で使用される水性媒体としては、水、または水と水混和性有機溶剤との混合物が使用できる。
【0027】
水混和性有機溶剤としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコールなどの低級アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、エチレングリコーモノメチルエーテル、エチレングリコーモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコールのものアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテートなどの(ポリ)アルキレングリコ−ルのモノ脂肪酸エステル類などが挙げられる。これら水混和性有機溶剤は単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0028】
以上の材料を混合して得られる混合物(本発明において分散処理に付す混合物をいう)における各材料の使用量としては、カーボンブラックは概ね混合物100質量部中に5〜40質量部程度であるのが好ましく、より好ましくは10〜30質量部程度である。また、樹脂の使用量は、顔料100質量部に対して20〜120質量部程度であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量部程度である。
【0029】
本発明においては、上記のような組成で水性媒体中に各材料を添加混合して得られる混合物にプレミックス処理を施すのが好ましい。プレミックス処理は、プロペラタイプ、パドルタイプ、タービンタイプなどの攪拌翼を有する装置を利用して、良好な流動性が得られるまで攪拌・混合して行うことが好ましい。
【0030】
本発明においては、前記プレミックス処理を経た混合物を高速せん断攪拌装置を使用する分散処理(練肉処理)に付す。ここで、高速せん断攪拌装置とは、ロータの回転により流体を移送する方式であって、ロータと外壁または内壁との間の狭い間隙(ギャップ、通常は0.1〜1mm程度)、および/または、網状、格子状に設けられた孔などを高速で通過させることによって、流体に高いせん断応力を付加する装置である。
【0031】
本発明で使用される高速せん断攪拌装置としては、少なくとも一組の高速回転するロータと静止状態のステータとの間隙、または、少なくとも一組の高速回転するロータと通常反対方向に回転するロータとの間隙を通過させ、混合物に高いせん断応力を付加できる装置が好ましい。中でも、少なくとも一組のロータとステータを有するタイプの高速せん断攪拌装置が好ましい。
【0032】
この様な装置の代表的なものとしては、例えば、ハイシアーミキサーBX、CX、DX、EX、FX,GX10、GX20、700X、HX10、HX30、JX、KX(以上シルバーソン社製)、ハイシアーミキサーIKA2000シリーズ(IKA社製)、T.K.ホモミキサー(特殊機化工業(株)製)、ウルトラホモミキサー(みずほ工業(株)製)、クレアミックス(エム・テクニック社製)、キャビトロン(太平洋機工(株)製)などが挙げられる。なかでも、特にロータとステータを有するハイシアーミキサーやそれに類似する構造のものが好ましい。
【0033】
図面に基づいて本発明で使用する高速せん断攪拌装置を説明する。図1は高速せん断攪拌装置の一実施例を示す概略説明図であり、図2はその要部を示す斜視図である。図1〜2に示される高速せん断攪拌装置はロータとステータを有するハイシアーミキサーの一例である。このハイシアーミキサーでは、ロータとステータとから構成される分散部1が容器10に収容された分散処理に付される混合物11中に浸漬されるように構成されている。ロータ2は原動機3の回転軸4に取り付けられ、高速回転するように構成されている。5は固定されたステータであり、ステータ5には多数の孔6が設けられている。12は分散部1を支持するための支持具である。ステータ5内におけるロータ2の高速回転により、容器10の底部の混合物11は分散部1内に引き込まれる。分散部1に引き込まれた混合物11はロータの生み出す遠心力によって、ステータ5の方向に振り出され、そのときロータ2のブレード部とステータの内壁との間隙で高いせん断応力を受ける。高速で高いせん断応力を加えられた混合物はステータ5に設けられた孔6から外側に押し出される。分散部1の外側に押し出された混合物は、容器10の内壁に沿って循環し、同時に新しい材料が分散部1の下側から連続的に供給されてこの作業が繰り返される。
【0034】
そして、ロータの回転速度は、動力装置やロータとステータとの間隙、ロータ径などの機械的条件の他、分散させる材料の粘度、投入電力量などに依存するが、本発明においては、ロータの周速を15m/sec以上で回転させることが可能なタイプのものから選択することが好ましく、さらにロータの周速が速くなればなるほど高いせん断応力を付加できるという点から有利である。なお、顔料の分散処理の効率の面から、概ね、周速としては15〜25m/sec程度で処理を行うことが好ましい。さらに、容器内の混合物が全体として均一に分散処理を受けやすくするため、ロータと混合物を収納する容器との関係において、ロータの外径/容器内径の比が0.1以上であるのが好ましい。ロータの外径/容器内径の比が前記範囲より小さいと、混合物の循環が悪くなる場所が発生し、顔料分散が低下する傾向がある。ロータの外径/容器内径の比の上限値は特に限定されないが、大きな径のロータを製造することが困難であることから、ロータの外径/容器内径の比の上限値は0.4程度である。
【0035】
本発明の高速せん断攪拌装置を用いて行う分散処理(練肉処理)は、ほぼ終点(それ以上分散処理を行っても分散がほとんど進行しないところまで達した状態)まで行うことが好ましい(高速せん断攪拌装置の処理能力、分散処理量などにより終点までの時間は異なる)。通常、得られる水性黒色顔料分散体が本来の着色力の95%以上となるまで分散処理(練肉処理)するのが好ましい。
【0036】
本発明の方法で得られる水性黒色顔料分散体は、用途に応じて、さらに各種樹脂、水性媒体や、ブロッキング防止剤、湿潤剤、粘度調整剤、pH調整剤、消泡剤、一般の界面活性剤などの種々の添加剤を適宜加えて、例えば、フレキソ印刷インキ、水性グラビアインキ、水性塗料、水性インクッジェト用インクなどに使用できるものである。
【実施例】
【0037】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、表1における各材料の使用比率は、「質量%」を表す。
【0038】
<水性樹脂ワニスの調製>
分散剤としてジョンクリル67(ジョンソンポリマー社製スチレン−アクリル酸共重合体樹脂、酸価213mgKOH/g、質量平均分子量12,500)25質量部を、当該共重合体全量を中和するのに必要な量の塩基性化合物(モノエタノールアミン)を含む水75質量部中に加熱溶解させて、水性樹脂ワニス1(ジョンクリル67固形分濃度:25質量%)を得た。
【0039】
実施例1〜4および比較例2〜4
水性樹脂ワニス1の25質量部、イソプロピルアルコール2質量部、水15質量部、および表1記載のカーボンブラック15質量部を混合して、ディスパーで5分攪拌してプレミックス処理を行った後、下記の高速せん断攪拌装置を用いて、表1記載の時間分散処理(練肉処理)を行ない水性黒色顔料分散体を得た。ついで、この水性黒色顔料分散体に前記水性樹脂ワニス1の35質量部と水8質量部を加えて100質量部の水性黒色顔料インキ組成物を得た。
【0040】
前記プレミックス処理後の混合物の粘度、および得られた水性黒色顔料分散体の粘度を(株)トキメック製B型粘度計(25℃、60rpm)を使用して測定した。
【0041】
使用したカーボンブラックはいずれも三菱化学(株)製のものであり、それらの嵩密度は下記の方法で測定した。
【0042】
<高速せん断攪拌装置>
機種 : ハイシアーミキサーEXタイプ(シルバーソン社製)
モーター容量 : 4kw
回転数 : 3600rpm
ロータ周速 : 19.14m/sec
タンク内径 : 600mm
ロータ外径 : 101.16mm
評価スケール : 200kg
【0043】
<カーボンブラックの嵩密度の測定>
あらかじめ漏斗に入れてある試料を径28±2mm、高さ180±5mmの100ml容量の注ぎ口なしシリンダーに3〜5cmの高さより注ぎ入れ、充填されたカーボンブラックの重量を秤量し、1mlあたりのg重量に換算表示する。
【0044】
比較例1
水性樹脂ワニス1の25質量部、イソプロピルアルコール2質量部、水15質量部、および表1記載のカーボンブラック15質量部を混合して、ディスパーで5分攪拌してプレミックス処理を行った後、下記の練肉用メディア型分散装置を用いて、表1記載の時間分散処理(練肉処理)を行い水性黒色顔料分散体を得た。ついで、この水性黒色顔料分散体に前記水性樹脂ワニス1の35質量部と水8質量部を加えて100質量部の水性黒色顔料インキ組成物を得た。
【0045】
<練肉用メディア分散装置>
機種 : ビーズミル
メディア径 : 1.0mm
ベッセル容量 : 15リットル
吐出量 : 100kg/hr
前記実施例1〜3および比較例1〜3で得られた水性黒色顔料インキ組成物について、下記の項目を評価した。なお、比較例4においては、ディスパーでプレミックスを行なったが、60分を過ぎても流動性が全く得られない状態であったことから、その後の分散処理およびインキ評価を行わなかった。結果を表1に示す。
【0046】
<粒径分布>
実施例1および比較例1で得られた水性黒色顔料インキ組成物について、光散乱による粒度分布計(MICROTRAC UPA:MODEL9340、UPA日機装(株)製)を用いて、粒径分布を測定した。結果を図3(実施例1)および図4(比較例1)に示す。
【0047】
図3と図4の対比から明らかなように、ノンメディア型分散機であるハイシアーミキサーを用いて分散を行なった実施例1では、粒子径が揃っているが、メディア型分散機であるビーズミルを用いて分散した比較例1では、粗大粒子が認められ、粒子径の分布の広がりも大きい結果となった。
【0048】
<着色力>
着色力評価用白色水性顔料インキ組成物として、酸化チタンの30質量部と水性樹脂ワニス1の6質量部とを攪拌混合してビーズミル分散装置で練肉した後、さらに水性樹脂ワニス1および水の合計64質量部で、系の粘度が0.5Pa・sとなるように希釈して白色水性顔料インキ組成物を得た。
【0049】
比較例1の水性黒色顔料インキ組成物10質量部を前記着色力評価用白色水性顔料インキ組成物100質量部で希釈したときの色濃度となるまで、実施例1〜3、比較例2〜4の各水性黒色顔料インキ組成物10部を希釈するのに要した白色水性顔料インキ組成物の量(質量部)により、着色力を評価した。
【0050】
なお、同一の色濃度となるまでに、より多くの白色水性顔料インキ組成物での希釈を必要とするものを、着色力が高いと判定する。
【0051】
<光沢>
光沢Kライナーに前記実施例1〜3および比較例1〜3で得られた水性黒色顔料インキ組成物を塗工し、目視にて評価し、光沢の高いものをA、光沢の普通のものをB、光沢の低いものをCとして評価した。なお、評価のうちA〜Bが実用上の許容範囲である。
【0052】
<耐摩擦性>
Kライナーに前記実施例1〜3および比較例1〜3で得られた水性黒色顔料インキ組成物分散体を塗工し、学振型耐摩擦試験機((株)大栄化学精器製作所製)で500g荷重、500回の条件で摩擦試験を行い、あて紙が全く汚れなく印刷物に傷がつかないものをA、あて紙は汚れるが印刷物に傷がつかないものをB、あて紙が汚れ印刷物に傷がつくものをCとして評価した。なお、評価のうちA〜Bが実用上の許容範囲である。
【0053】
<流動性>
前記実施例1〜3および比較例1〜3で得られた水性黒色顔料インキ組成物について、初期粘度と、40℃で7日間保存後の粘度の比率から粘度安定性を評価した。
A:粘度比が2.0以下のもの
B:粘度比が2.0を超えるもの
【0054】
<沈降>
前記実施例1〜3および比較例1〜3で得られた水性黒色顔料インキ組成物について、40℃で7日間保存後の状態変化から沈降性を目視評価した。なお、沈降がないものを○、沈降があるものを×として2段階評価した。
【0055】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の水性黒色顔料分散体の製造方法で使用する高速せん断攪拌装置の一実施例を示す概略説明図である。
【図2】図1に示す高速せん断攪拌装置の要部拡大図である。
【図3】本明細書の実施例1で得られた水性黒色顔料インキ組成物の粒径分布を示すグラフである。
【図4】本明細書の比較例1で得られた水性黒色顔料インキ組成物の粒径分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 分散部
2 ロータ
3 原動機
4 回転軸
5 ステータ
6 孔
10 容器
11 混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一組のロータとステータ、または少なくとも一組のロータとロータの間隙を通過させることにより、混合物に剪断応力が付加できる分散機を用いて、平均一次粒子径が15〜40nmで、かつ嵩密度が0.3〜0.8g/mlのカーボンブラックを、アルカリ存在下でアルカリ可溶型樹脂を溶解させた水性媒体中に、分散させることを特徴とする水性黒色顔料分散体の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ可溶型樹脂がスチレン−アクリル系樹脂、スチレン−マレイン酸系樹脂、およびアクリル系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の水性黒色顔料分散体の製造方法。
【請求項3】
前記水性黒色顔料分散体の着色力の95%以上となるまで、前記混合物を前記分散機で分散する請求項1または2に記載の水性黒色顔料分散体の製造方法。
【請求項4】
前記分散機が、少なくとも一組のロータとステータとからなる分散機であり、ロータの周速が15〜25m/sec、ロータの外径/容器内径の比が0.1以上である請求項1〜3のいずれかに記載の水性黒色顔料分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水性黒色顔料分散体の製造方法によって得られることを特徴とする水性黒色顔料分散体。
【請求項6】
請求項5記載の水性黒色顔料分散体を含有することを特徴とする水性黒色顔料インキ組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−45285(P2006−45285A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225635(P2004−225635)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】