説明

水晶振動子

【課題】水晶片の一主面または両主面にSiO2膜を蒸着またはスパッタリングにより成膜して安価かつ簡単にメサ形状、ベベル形状に類似した形状の厚肉部を形成した水晶振動子を得ることである。
【解決手段】水晶振動子において、水晶片10と、該水晶片10のいずれかの一主面または両主面に成膜形成されたSiO2層11からなる厚肉部Mと、前記厚肉部Mの何れかの一面または上下表面に形成された電極12と、から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子に係り、とくに、水晶振動子を構成する水晶片の主面に段階的にSiO2膜を蒸着またはスパッタリングにより順次形成して、メサ形状またはベベル形状に近似した形状を簡単に形成して、ベベル形状と同じ効果を奏するようにした水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は、小型かつ軽量であることから、携帯型の電子機器、例えば、携帯電話に、周波数及び時間の基準源として使用されている。
【0003】
そして、このような水晶振動子では、金属筒(バレル)に多数の水晶片を研磨剤とともに投入して回転させ、水晶片の両端部を曲面に沿った斜面に切除して水晶片の振動特性を良好にした、所謂ベベル加工を施した水晶振動子と、水晶片をその厚み方向に接合して一体化し、これらの水晶片の外周部をウエットエッチングして接合面の外周を斜めに切除した水晶振動子がある(特許文献1参照)。
【0004】
また、水晶片にコンベックス加工またはベベル加工をして水晶片の中央部に高い厚み滑り振動エネルギーの閉じ込め効果を発揮させるため、水晶片の両主面に電極膜を数層積層して形成した水晶振動子がある(特許文献2及び3参照)。
【0005】
さらに、AT水晶基板の主面に水晶薄膜の原料ガスを吐出させて水晶基板上でエピタキシャル成長させて水晶膜を形成して、厚み滑り振動の振動エネルギーを水晶基板の中央部に閉じ込めるようにした水晶振動子がある(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−285000号公報
【特許文献2】特開平10−308645号公報
【特許文献3】特開2005−318477号公報
【特許文献4】特開2007−189492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この種の従来の水晶振動子では、コンベックス加工またはベベル加工時間が永くかかり、また加工のバラツキが大きいため生産性が悪く、かつ、加工する水晶片を損傷する恐れがあった。また、水晶片の外周部をウエットエッチングして加工するものでは、人工水晶原石の品質や結晶溶解の方位依存性により、ウエットエッチングによるメサ部加工の際、エッチングチャンネルが発生し、水晶片の穴あき、欠け、特性不良等の問題を起こす恐れがあった。
【0008】
また、ドライエッチングによるメサ部加工では、高額なドライエッチング装置や設備投資が必要であった。さらに、水晶基板の主面に原料ガスを吐出させてエピタキシャル成長させて水晶膜を形成してメサ部を構成する方法では、テトラシランガス等の有毒ガスを用いるため、作業時の危険性があった。また、水晶振動片上に複数の電極膜を積層してコンベックス形状またはメサ部を形成する方法では、振動エネルギーの閉じ込め効果は期待できるものの、コンベックス形状全体に電極材料を使うため水晶振動子自体が高価になる恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記した課題を解決するため、本発明の水晶振動子では、水晶片(水晶ブランク)の何れかの一主面または両主面に単一層または多層をSiO2膜を蒸着またはスパッタリングにより積層して形成して、メサ形状またはベベル形状に近似した形状を簡単に形成した水晶振動子を得るようにする。
【0010】
本発明の水晶振動子は、水晶片と、該水晶片のいずれかの一主面または両主面に成膜形成されたSiO2層からなる厚肉部と、前記厚肉部の何れかの一面または上下表面に形成された電極と、からなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の水晶振動子は、前記SiO2層が蒸着またはスパッタリングにより形成されることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の水晶振動子は、水晶片と、該水晶片のいずれかの一主面または両主面に段階的に表面積を徐々に小さくして成膜・積層して形成されたSiO2層からなる厚肉部と、厚肉部の最上部に形成された前記SiO2層の何れかの一面または上下表面に形成された電極と、からなることを特徴とする。
【0013】
本発明の水晶振動子は、前記段階的に形成された厚肉部の外表面がなだらかな斜面から形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の水晶振動子は、水晶発振器に搭載されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
蒸着またはスパッタリングのような、簡単で、かつ高価でない成膜装置により水晶片の主面上にSiO2膜を単一または段階的に積層して形成するので、廉価かつ高い生産性をもって高品質な、振動エネルギーの閉じ込め効果が高い水晶振動子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】単一層のSiO2膜によりメサ部を形成した本発明の水晶振動子の平面図(a)及び(a)に示すI−I矢視断面図(b)を示す。
【図2】複数層のSiO2膜を段階的に積層してコンベックス状の厚肉部を形成した本発明の水晶振動子の平面図(a)及び(a)に示すII−II矢視断面図(b)を示す。
【図3】複数層のSiO2膜を段階的に滑らかに多層に積層してコンベックス状の厚肉部を形成した本発明の水晶振動子の平面図(a)、(a)に示すIII−III矢視断面図(b)及び(b)にA矢視で示す部分拡大図(c)を示す。
【図4】図1から図3に示した実施例1から3において、(a)は単一層のSiO2膜によりメサ部を水晶片の一主面に形成した実施例を、(b)はSiO2膜を段階的に多層に積層して形成したコンベックス状の厚肉部を水晶片の一主面に形成した実施例を、また、(c)は(b)に示した実施例においてコンベックス状の厚肉部の外表面を滑らかに形成した実施例をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の水晶振動子の実施例を添付した図面に基いて説明する。
【0018】
図1(a)は、本発明の水晶振動子の実施例1の水晶振動子の平面図、図1(b)は、図1(a)に示したI−I矢視断面図である。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施例1の水晶振動子1は、例えばATカットした平面視矩形状の平板の水晶片(水晶ブランク)10の両主面表面にSiO2膜11を蒸着またはスパッタリングにより成膜して厚肉部(メサ部)Mを形成し、厚肉部であるメサ部Mの両主面に導電性金属、例えば、金からなる電極12を蒸着またはメッキで形成する。そして、これにより、この厚肉部M(メサ部)の内部に振動エネルギーが閉じ込められて、ベベル部、コンベックス部を形成したのと同様のCI値、Q値等の周波数特性が良い、かつ、スプリアスの発生を抑制できる水晶振動子が得られる。
【0020】
また、図2に示すように、本発明の実施例2の水晶振動子1は、前述した実施例1と同様に、例えば、ATカットした平面視方形状の平板上の水晶片10の両主面の表面にSiO2膜11a,11b,11c,11dを蒸着またはスパッタリングにより順次段階的に多層(例えば、4層)に積層して厚肉部M(コンベックス部)を形成し、厚肉部Mの最上層のSiO2膜の上表面に導電性金属からなる電極12を形成する。
【0021】
とくに、実施例2の水晶振動子1では、図1(b)に示すように、水晶片10の両主面に直接形成される方形のSiO2層11aの表面積を最大とし、積層階数が上に進むにつれて順次それらの面積が狭くなるように構成されているので、これらSiO2層は全体として山型部Mとなっている。そして、この山型部Mは、水晶片10を挟んで表裏対称形状となっているので、水晶振動子1は、全体としてコンベックス状となり、振動エネルギーの質量の大きい中心部(コンベックス部)に閉じ込めることができるようになる。したがって、水晶片10の両主面にコンベックス部を形成したのと同様に、CI値、Q値等の周波数特性の良い水晶振動子1が得られる。
【0022】
さらに、図3に示すように、本発明の実施例3の水晶振動子1は、前述した実施例2と同様に、水晶片10の両主面にコンベックス部MをSiO2膜を蒸着またはスパッタリングにより複数層成膜して形成するが、コンベックス部Mの形成面Sを前記実施例2のように階段状に形成せずに、なだらかな斜面(カーブ部)Sに形成する。これによりコンベックス部Mの電気機械結合係数が向上する。
【0023】
この実施例3において、なだらかな斜面Sを形成するには、水晶片10の両主面へのSiO2膜の蒸着またはスパッタリング時に、図3(c)(図3(b)のA矢視部分拡大図)に示すように、内側先端部13a,13bを断面視曲面状に形成したマスク13を用いる。
【符号の説明】
【0024】
1 水晶振動子
10 水晶片(水晶ブランク)
11,11a〜11d SiO2
12 電極
13 マスク
M メサ(山型)部
S 斜面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶片と、該水晶片のいずれかの一主面または両主面に成膜形成されたSiO2層からなる厚肉部と、前記厚肉部の何れかの一面または上下表面に形成された電極と、からなることを特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
前記SiO2層が蒸着またはスパッタリングにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子。
【請求項3】
水晶片と、該水晶片のいずれかの一主面または両主面に段階的に表面積を徐々に小さくして順次成膜形成されたSiO2層からなる厚肉部と、前記厚肉部の最上部に形成された前記SiO2層の何れかの一面または上下表面に形成された電極と、からなることを特徴とする水晶振動子。
【請求項4】
前記段階的に形成された厚肉部の外表面が、なだらかな斜面から形成されていることを特徴とする請求項3に記載の水晶振動子。
【請求項5】
請求項1から4に記載の水晶振動子を搭載したことを特徴とする水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−70228(P2013−70228A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207236(P2011−207236)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】