説明

水晶発振器

【課題】 従来の、位相雑音を抑えるためにトランスを使用した水晶発振器では、形状が大きくなってコストが増大し、数百MHz以上の高い周波数で特性が不安定になるという問題点があり、本発明は、位相雑音が低く、小型且つ安価で、数百MHz以上でも特性が安定している水晶発振器を提供することを目的とする。
【解決手段】 トランスの代わりに、発振閉ループに、λ/4変成器と抵抗を直列に接続した回路を挿入し、抵抗の両端から発振出力を得る構成の水晶発振器であり、また、λ/4変成器を電気長がλ/4より長いマイクロストリップラインで形成してスリットを設け、当該スリット間をコンデンサで接続した構成として、λ/4変成器のインピーダンス及び出力周波数の調整を容易にした水晶発振器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶発振器に係り、特に位相雑音が低く、小型で安価であり、移動体通信装置に適した水晶発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明:図6]
一般的な水晶発振器の回路構成について図6を用いて説明する。図6は、一般的な水晶発振器の回路構成を示す回路図である。
図6に示すように、一般的な水晶発振器は、水晶振動子Xと、発振用増幅器Aとを含む発振閉ループを備えた発振回路と、発振回路の出力である発振用増幅器Aの出力端に接続されたバッファアンプとから構成されている。
バッファアンプは、エミッタフォロア回路で構成されている。
【0003】
しかし、上記構成の水晶発振器では、バッファアンプで発生する雑音により、バッファアンプがない場合に比べて位相雑音特性が著しく劣化するという問題点があった。
【0004】
[別の先行技術の説明:図7]
また、上記問題点を解決する別の先行技術として、特開2006−140749(特許文献1)がある。
特許文献1について図7を用いて説明する。図7は、特許文献1に記載された水晶発振器の構成を示す回路図である。
図7に示すように、特許文献1では、上記一般例と同様の水晶振動子Xと、発振用増幅器Aとを含む発振閉ループに、トランス(T)の1次コイルとコンデンサを直列接続した回路を挿入接続すると共に、当該トランスの2次コイルから発振出力を得る構成としており、位相雑音特性の改善を図っている。
【0005】
[先行技術文献]
尚、発振器に関する先行技術としては、特開平11−154824号公報(特許文献2)、特開2001−144537号公報(特許文献3)、特開2001−326532号公報(特許文献4)がある。
【0006】
特許文献2には、発振器において、水晶振動子を含む発振用増幅器の発振閉ループに、インピーダンスをもつストリップラインを直列に接続する構造とし、温度変動を補償し、周波数安定度を向上させることが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、発振器において、発振用増幅器の閉ループに、インピーダンスをもつストリップラインと並列コイル・コンデンサを直列に接続する構造とし、基本発振周波数より高い周波数の安定した出力が得られることが記載されている。
【0008】
また、特許文献4には、発振器において、発振用増幅器にコンデンサとインピーダンスをもつストリップラインを直列に接続する構造として、位相雑音を少なくすることが記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2006−140749号公報
【特許文献2】特開平11−154824号公報
【特許文献3】特開2001−144537号公報
【特許文献4】特開2001−326532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に示した従来の水晶発振器では、トランスを使用しているため、形状が大きくなりコストも増大するという問題点があり、特に、数百MHz以上の高い周波数ではトランスの特性が不安定になるという問題点があった。
【0011】
また、特許文献2〜4の従来の発振器では、インピーダンスの微調整が困難であるという問題点があった。
【0012】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、位相雑音が低く、小型且つ安価で、数百MHz以上であっても安定した特性が得られる水晶発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、発振閉ループに水晶振動子を備えた水晶発振器であって、発振閉ループに、λ/4変成器と抵抗を直列に接続した回路を挿入し、抵抗の両端から発振出力を得る構成としたことを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、上記水晶発振器において、λ/4変成器にマイクロストリップラインを用いたことを特徴としている。
【0015】
また、本発明は、上記水晶発振器において、電気長がλ/4より長く形成されたマイクロストリップラインにスリットを形成し、当該スリット間をインピーダンス調整用のコンデンサで接続したことを特徴としている。
【0016】
また、本発明は、上記水晶発振器において、電気長がλ/4より長く形成されたマイクロストリップラインにスリットを形成し、当該スリット間をジャンパで接続したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、発振閉ループに、λ/4変成器と抵抗を直列に接続した回路を挿入し、抵抗の両端から発振出力を得る構成とした水晶発振器としているので、バッファやトランスを用いずに、位相雑音が低く、小型且つ低コストで、高い周波数においても特性が安定している水晶発振器を実現することができる効果がある。
【0018】
また、本発明によれば、電気長がλ/4より長く形成されたマイクロストリップラインにスリットを形成し、当該スリット間をインピーダンス調整用のコンデンサで接続した水晶発振器としているので、コンデンサの容量に応じてマイクロストリップラインの見かけの長さを短くすることができ、λ/4変成器11のインピーダンスの微調整を容易に行うことができる効果がある。
【0019】
また、本発明によれば、電気長がλ/4より長く形成されたマイクロストリップラインにスリットを形成し、当該スリット間をジャンパで接続した水晶発振器としているので、λ/4変成器11のインピーダンスの微調整が不要な場合に容易に対応できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[発明の概要]
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態に係る水晶発振器は、トランスの代わりに、発振閉ループに、λ/4変成器と抵抗を直列に接続した回路を挿入し、抵抗の両端から発振出力を得るものであり、位相雑音が低く、トランスを用いるのに比べて小型且つ安価で、数百MHz以上の高い周波数においても特性が安定している水晶発振器を実現するものである。
【0021】
また、本実施の形態に水晶発振器は、λ/4変成器をマイクロストリップラインで形成し、マイクロストリップラインの途中にスリットを設け、コンデンサやジャンパを用いて接続することにより、インピーダンスの微調整を容易に行うことができるものである。
【0022】
[実施の形態の構成:図1]
図1は、本発明の実施の形態に係る水晶発振器(本発振器)の回路構成図である。
図1に示すように、本発振器は、水晶振動子10と、増幅器とを備えた発振閉ループに、λ/4変成器11と抵抗RLとが直列に接続された回路を設けた構成となっている。そして、抵抗RLの両端から発振器出力を得るよう構成したものである。
【0023】
本発振器の特徴部分であるλ/4変成器11は、マイクロストリップライン伝送路であり、電気長がλ/4、特性インピーダンスがZ0である。
ここで、出力側に設けられた抵抗をRL、λ/4変成器11の特性インピーダンスをZ0とすると、
Z0=√(Zl・RL) で表され、
振動子から出力側を見たインピーダンスZlは、 Zl=Z02/RL となる。
つまり、λ/4変成器11の特性インピーダンスZ0の値を適宜選択することにより、負荷側のインピーダンスZlを任意に設定することができるものである。
【0024】
このように、トランスの代わりにλ/4変成器11と抵抗RLを設けたことにより、回路規模を大幅に縮小することができ、位相雑音の低い水晶発振器を低コストで構成することができるものである。
【0025】
特に、周波数が高くなるほどλ/4変成器11の長さが短くなるので、発振器を小型化する上で一層有利となる。また、トランスのように数百MHz以上の高周波で特性が不安定になることもない。従って、本発振器による小型化、低コスト化、高安定性といった効果は、数百MHz以上の発振周波数の場合に、より顕著に現れるものである。
【0026】
[λ/4変成器:図2、図3]
λ/4変成器11について図2を用いて説明する。図2は、λ/4変成器11の構成例を示す模式説明図である。
図2に示すように、λ/4変成器11は、マイクロストリップラインで構成され、この例では、インピーダンスZ1の伝送路と、インピーダンスZ2の伝送路とを接続している。λ/4変成器11の特性インピーダンスをZ0とすると、Z0=√(Z1・Z2) で表される。
【0027】
このように特定のインピーダンスを備えたλ/4変成器11とするには、伝送路の長さを適切な長さとなるよう形成すればよい。しかし、パターン形成状態や実装状態により誤差が生じ、インピーダンスがずれてしまうことがある。
【0028】
そこで、図3に示すように、本発振器のλ/4変成器11の特徴として、伝送路の途中にスリット12を設けている。図3は、スリット12を設けたλ/4変成器11の模式説明図である。
本発振器では、λ/4変成器11の電気長を所望の長さ(λ/4)よりもやや長めに形成した上でスリット12を形成している。スリット12は、λ/4変成器11のインピーダンスを微調整するために設けられている。
【0029】
[インピーダンスの調整:図4]
本発振器におけるλ/4変成器11のインピーダンスの調整方法について図4を用いて説明する。図4は、本発振器におけるλ/4変成器11のインピーダンスの調整方法を示す説明図である。
図4に示すように、スリット入りのλ/4変成器11を用い、スリット12上にコンデンサ13を搭載して伝送路を接続した場合には、λ/4変成器11のインピーダンスが変化し出力周波数が高くなる。
そのため、スリット12上に搭載するコンデンサ13の容量を変えることにより、λ/4変成器11の伝送路の長さそのものを変えなくても所望の特性インピーダンスに合わせることができ、所望の出力周波数が得られるものである。
【0030】
尚、伝送路長を変える必要がない場合には、コンデンサ13の代わりに単に接続するだけのジャンパを搭載して短絡させればよい。
これにより、λ/4変成器11の伝送路長を調整することなく容易にインピーダンス及び出力周波数の微調整を行うことができるものである。
【0031】
[位相雑音特性:図5]
本発振器の位相雑音特性について図5を用いて説明する。図5は、水晶発振器の位相雑音特性を示す特性図である。
図5では、図6に示したバッファを用いた一般的な水晶発振器と、図7に示したトランスを用いた水晶発振器と、本発振器の位相雑音特性を比較している。本発振器では、トランスのように高周波において動作が不安定になることもないため、本発振器の位相雑音は最も低く、良好な特性を示すことがわかる。
【0032】
[実施の形態の効果]
本発明の実施の形態に係る水晶発振器によれば、水晶振動子10と、増幅器とを備えた発振閉ループに直列に、抵抗RLと、特性インピーダンスZ0のλ/4変成器11とを設けた水晶発振器としており、トランスを用いた発振器に比べて、位相雑音が低く、小型且つ低コストの水晶発振器を実現することができる効果がある。
【0033】
特に、発振周波数が高くなるほどλ/4変成器11を短く形成できるので、小型化の効果が顕著になるものである。
【0034】
また、本発振器によれば、λ/4変成器11を、途中にスリット12を設けたマイクロストリップラインで形成しており、スリット12上に搭載するコンデンサ13の容量を調整することによりλ/4変成器11のインピーダンス及び出力周波数の微調整を容易に行うことができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、特に位相雑音が低く、小型で安価であり、移動体通信装置に適用可能な水晶発振器に適している。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態に係る水晶発振器(本発振器)の回路構成図である。
【図2】λ/4変成器11の構成例を示す模式説明図である。
【図3】スリット12を設けたλ/4変成器11の模式説明図である。
【図4】本発振器におけるλ/4変成器11のインピーダンスの調整方法を示す説明図である。
【図5】水晶発振器の位相雑音特性を示す特性図である。
【図6】一般的な水晶発振器の回路構成を示す回路図である。
【図7】特許文献1に記載された水晶発振器の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0037】
10…水晶振動子、 11…λ/4変成器、 12…スリット、 13…コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振閉ループに水晶振動子を備えた水晶発振器であって、
前記発振閉ループに、λ/4変成器と抵抗を直列に接続した回路を挿入し、
前記抵抗の両端から発振出力を得る構成としたことを特徴とする水晶発振器。
【請求項2】
λ/4変成器にマイクロストリップラインを用いたことを特徴とする請求項1記載の水晶発振器。
【請求項3】
電気長がλ/4より長く形成されたマイクロストリップラインにスリットを形成し、当該スリット間をインピーダンス調整用のコンデンサで接続したことを特徴とする請求項2記載の水晶発振器。
【請求項4】
電気長がλ/4より長く形成されたマイクロストリップラインにスリットを形成し、当該スリット間をジャンパで接続したことを特徴とする請求項2記載の水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−160662(P2008−160662A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349358(P2006−349358)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】