説明

水溶性エステル化ヒドロコロイド

【課題】水中油型エマルジョンの調製に有用である乳化剤を提供する。
【解決手段】10%水溶液としたときに20℃で約2〜500cPの粘度を有する少なくとも一種のヒドロコロイドと、このヒドロコロイドに対し約2〜15重量%の、アルカン置換ジカルボン酸無水物及びアルケン置換ジカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種のジカルボン酸無水物との反応生成物を含む乳化剤であって、該ヒドロコロイドがガムアカシア及びグアーガムをそれぞれヒドロコロイドに対して約10重量%含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
【背景技術】
【0002】
コールドウェルらは米国特許第2661349号に、デンプンやセルロースの水分散性反応物、とりわけ、アルキル置換やアルケニル置換ジカルボン酸無水物との水分散性反応物を開示している。具体的には、オクテニルコハク酸無水物(OSAn)と反応したデンプンは現在商業製品として確立しており、これを以下「OSAn−デンプン」と称する。デンプンそれ自身は乳化性を有さないが、オクテニルコハク化デンプンは親水基と疎水基の両方を有するという特徴を有するため、乳化性を示す。コールドウェルらの方法の様々な改善が、例えば、米国特許第4035235号においてリチャード、米国特許第5672699号においてビルマン、米国特許第6037466号においてマリチシェン(Maliczyszyn)ら等により記載されている。米国特許第5977348号において、ハリスらは超臨界二酸化炭素等の高密度液体中における各種多糖類のエステル化を開示している。ハリスらは、処理可能な「基材」として、デンプン、ガム、セルロース、デキストリン、グリコーゲン、ヘミセルロース、デキストラン、イヌリンやガム(寒天、アラビックガム、カラヤガム、トラガカントガム、ペクチン、カラギーナン、アルギネート、タマリンドシードガム、キサンタンガム、こんにゃくガム、グアーガム、ガムアカシア(アラビアゴムとしても知られる)及びローカストビーン(即ちキャロブシード)ガムを挙げている。ハリスは、グアーガム等の「基材」を水や有機溶媒中に可溶化した場合、過度に粘稠となり、固形分が約1重量%を超える溶液中では処理できないため、効率良く修飾できないと述べている。ナカジマは米国特許第5580553号において、糖類(単糖類、二糖類及びオリゴ糖類)100部に対しアルケニルコハク酸無水物を少なくとも30重量部(但し、150部まで)用いる反応によって、化粧品への応用において所望の起泡性を与える界面活性剤を作成することを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
OSAnデンプンはパン、飲料製品、サラダドレッシング等の中に水中油型エマルジョンを生成するための乳化剤として使用されている。通常その使用は、「比重調整エマルジョン(weighted emulsion)」に限定される。「比重調整エマルジョン」とは、その油相にアビエチン酸グリセリル、臭素化植物性油又はイソブチレートアセテートスクロース(SAIB)等の比重調整剤(weighting agent)を添加したエマルジョンである。比重調整剤は、油相(低密度)と水相(より高密度)との密度差を減少させることにより、沈降速度を減少させる。多くの飲料製品においては、濃縮フレーバーオイルエマルジョンを、水、甘味料、更にはクエン酸等の可溶性添加剤で希釈し、炭酸ガスと共に透明飲料製品を製造する。比重調整剤は、不透明な最終飲料製品が要求されたり所望される場合に用いられる。これはオレンジジュース等の自然な不透明飲料製品で受け入れられるが、一方、透明性が意図される飲料製品では受け入れられない。このような透明な飲料製品には、OSAnは安定した非比重調整フレーバーエマルジョン(unweighted flavor emulsion)を供給できない可能性があり、その結果、許容できないオイルリングが液体表面に形成される等、ある種の相分離が起こる。通常、このような場合は乳化剤グレードのアラビアゴム(アカシアセネガルとその関連種から得られる)が乳化剤として用いられる。乳化剤グレードのアラビアゴムは高価であり、その供給も季節が限られ、米国の貿易認可、禁止、通商停止の規定による制限を受ける。また、コーンスターチ製造会社数社は、自社の製造品が遺伝子組み替え有機物(GMO)由来ではないということを保証できなかったことにより、消費者の「GMOフリー」製品の要求により、市場問題を起こしている。
【0004】
従って、コーンスターチやその誘導体を基材とせず、比重調整剤の存在・非存在を問わず効果的であり、且つ、乳化剤グレードのアラビアゴムの供給やコストの問題もない、多糖類、即ちヒドロコロイド乳化剤を得ることが望まれている。本発明は、これらの各種製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記の要求を満たす乳化剤を提供する。
【0006】
具体的には、本発明は、10%水溶液としたときに20℃で約2〜500cPの粘度を有する少なくとも一種のヒドロコロイドと、このヒドロコロイドに対し約2〜15重量%の、アルカン置換ジカルボン酸無水物及びアルケン置換ジカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種のジカルボン酸無水物との反応生成物を含む乳化剤を提供する。好ましくは乳化剤は、更に少なくとも一種の炭水化物増量剤を全固形分重量の約95%まで含む。本発明は、これらの乳化剤に基づいた水中油型エマルジョンをも提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、アルカン基置換、アルケン基置換ジカルボン酸無水物と少なくとも1種の低粘度ヒドロコロイドとの反応生成物を含む新規な組成物に関する(以下クラスAと称する)。このヒドロコロイドは更に少なくとも1種の炭水化物増量剤を、全固形分重量の約95%まで含むことができる(以下クラスBと称する)。更に本発明は、約1〜60重量%の少なくとも一種の油と、約0.5〜30重量%の少なくとも一種の前記乳化剤と、水とを含む水中油型エマルジョンに関する。
【0008】
本発明に用いることができる好ましいアルカン基置換、アルケン基置換ジカルボン酸無水物としては、次の式1に示す種が挙げられる。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、R1は、炭素数3〜18(好ましくは炭素数6〜10)の、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は分岐鎖若しくは直鎖のエチレン性不飽和アルキル基であり、R2は炭素数2〜3(好ましくは2)の二価の飽和又は二価の不飽和基である。R1は、1より多いエチレン性不飽和基を含むことができる。オクテニルコハク酸無水物は、その入手容易性のために最も好ましい。単純にするために、上式1で示される無水物の典型例としてオクテニルコハク酸無水物(以下OSAnと略記する)を用いる。OSAnは、ヒドロコロイドやヒドロコロイドと増量剤との溶液の固形分に対して約2〜15%、好ましくは約10%用いる。
【0011】
このクラスA及びBのヒドロコロイドは、一般に水溶性ガムとしても知られ、天然ヒドロコロイド又は加水分解ヒドロコロイドであり、水中に分散させて10%水溶液としたときに20℃で約2〜500cP(0.002〜0.5Pa・s)、好ましくは10%濃度で約2〜250cP(0.002〜0.25Pa・s)、最も好ましくは10%濃度で約2〜100cP(0.002〜0.1Pa・s)の溶液粘度を呈する。乳化していないアラビアゴム(アカシアセヤルやその関連種から得られる)やイヌリン等のある種の天然のヒドロコロイドがこのように低い粘性を呈するのに対し、グアーガム等の他のヒドロコロイドは溶液粘性をこのような低い値に下げるのに部分的な加水分解を必要とする。ヒドロコロイドの粘度の低減は当業者によく知られている方法によって行われる。例えば、酵素や酸、塩基による加水分解やガンマ線照射等が挙げられる。更にこのような前段階の加水分解の程度は、水に添加した場合に特定の粘度範囲を有する加水分解ヒドロコロイドを提供するのに十分な程度である。
【0012】
炭水化物増量剤は、ヒドロコロイド水溶液の粘度ではなく固形分の量を増大させるために添加するが、これにより最終的なエマルジョンの取扱い性及びブレンド性が維持される。増量剤は、例えば加水分解多糖類、オリゴ糖、単糖類等の材料から幅広く選択することができる。デキストリン(加水分解デンプンと定義される)とデキストロース(グルコース)がその入手簡便性、無色性、微味又は無味のため好ましい。デキストリンは、トウモロコシ、ジャガイモ及びタピオカに限定されず、いずれのデンプン源からも調製可能である。仮にGMOによるトウモロコシ汚染が懸念されるのであれば、トウモロコシ以外からのデンプン原料が望ましいであろう。種々のオリゴ糖長を有するデキストリンは、デキストロース価(DE)の値で表され、DE値はグルコースと比較したデキストリンが示す減少率の測定から決定される。従って、デキストロースのDE値は100となり、デンプン自身のDE値は0となる。約10を超えるのDE値を有するデキストリンが好ましい。約5未満の低いDE値を有するデキストリンは水に対する溶解度が限定されがちで、製品にとって望ましくない濁りを生じる可能性がある。増量剤は、OSAnとの反応に先立ちヒドロコロイドの水溶液の固形分量を上げるのに十分な量を添加する。その量は、約5〜70重量%、好ましくは約10〜40重量%、最も好ましくは約15〜25重量%である。OSAnで処理する前の基質の固形分と粘性の組み合わせは、通常ヒドロコロイド:増量剤が約1:0〜5:95の比で達成される。粉末製品が望まれる場合は、固形分を高くすると製品の乾燥を効果的に行える。フレーバーエマルジョンの場合、OSAnの最小濃度を約5%とすることがエマルジョンの安定化のために好ましい。これらの濃度において、乳化剤は油滴の周囲に膜を形成し、油滴同士の合着を防ぐ。サラダドレッシング等他の用途においては、より低い乳化剤濃度が効果的である。しかしながら、より高濃度のヒドロコロイド溶液又はヒドロコロイドと増量剤との溶液(以下「炭水化物基質」と称する)をOSAnで処理することがより効果的である。OSAn反応は、炭水化物基質のヒドロコロイドと増量剤成分の両方を含む。反応生成物は、後工程における処方物調製において希釈される。本発明に用いることができるヒドロコロイドの代表例を表1に挙げるが、他の天然及び合成ヒドロコロイドもまた本発明の実施に使用することができる。
【0013】
【表1】

【0014】
このOSAnの反応は約0〜100℃の温度範囲で行うことができるが、通常は常温において行う。約10〜80℃の温度が好ましく、最も好ましくは約20〜30℃である。高温にするとガムアカシア、グアーガム、ローカストビーンガム等のタンパク成分が損傷することが知られており、これは通常避けるべき損傷である。OSAnは約10℃で凍結するので、撹拌しつつ水溶液に添加し、水相に分散又は溶解している炭水化物基質と反応するエマルジョンを形成する。従って、約0℃から少なくとも10℃までという温度で処理する場合、10℃を超える温度でのOSAnの予備乳化が必要である。この炭水化物基質は水に分散又は溶解することができ、所望の固形分量を有する水相を提供する。強く撹拌しながら、OSAnを加え、OSAnが実質的に完全に反応するまで撹拌し続ける。これは20℃で通常約4〜10時間行う。OSAnの反応が完了すると反応物は均一となり、撹拌を停止しても相分離は生じない。反応時間は反応温度に依存する。生成物は、アルコールによる析出や、蒸発、スプレー乾燥、ドラム乾燥等のいずれの脱水方法に限定されず、簡便な手続きのいずれかによって単離することができる。水性の反応生成物は最終的な用途の要求に応じて、濃縮するか、そのままか、希釈することができる。
【0015】
本発明のOSAn処理ヒドロコロイド、特にOSAn処理されたヒドロコロイドと増量剤との混合物(いずれも以下「OSAnヒドロコロイド」と称する)は、価値ある利点を提供する。OSAnヒドロコロイドの食品への適用は、現行及び将来の食物規制に従う。OSAnヒドロコロイドは有用な乳化剤で、比重調整エマルジョンと同様に透明性を要求される非比重調整エマルジョンに使用できる。
【0016】
哺乳類の消化酵素はヒドロコロイドの骨格を分解しない。従って、OSAnヒドロコロイドは溶解性食物繊維の望ましい原料となる。OSAnヒドロコロイドは、未処理ヒドロコロイドと同様、高脂肪配合物と同様の食感を付与する能力を有し、低減脂肪配合物を生成するための部分的脂肪代替物として機能する。未処理コロイドは主に親水性であるが、OSAn処理をすることにより、この分子には疎水性又は親油性が付与され、且つ親水性−親油性バランスが改善される。OSAn処理は、いわゆる「非乳化性アカシアゴム」を「乳化性アカシアゴム」の代替物として使用可能にする。上述のように、非乳化性種は、より安価であり、広く、季節の限定の少ない原料から得られ、広範囲の原料から入手可能であり、米国の貿易認可、禁止、通商停止に関連した問題を回避することができる。非乳化性ガムアカシアから調製されたOSAnガムアカシアは、乳化性ガムアカシア自身よりも乳化剤として顕著に優れた効果を示す。例えば、OSAn処理非乳化性アカシア5%、油10%、水85%を用いて安定なエマルジョンを形成できる。乳化性ガムアカシアを用いた安定エマルジョンには、通常、ガムアカシアを少なくとも15%、油10%及び水を要する(参考:実施例1及び比較例B1及びB2)。
【0017】
ガムアカシアやグアーガム等のある種のヒドロコロイドは、多糖主鎖中に高い分岐度を有することが知られている。即ち、フレーバーエマルジョンをスプレードライした場合に起こり得る、エマルジョン中のフレーバー類を酸化から保護する性質を有する。一例として、スプレー乾燥中にリモネンからのリモネンエポキシドの生成を抑制することが挙げられる(Reineccius、Ward、Whorton、& Andon、「フレーバーカプセル化用のガムアカシアの開発」 (Developments in Gum Acacia for Encapsulation of Flavors)、Am. Chem. Soc. Symp. Ser. 590: 161-168 (1995)参照)。
【0018】
ガムアカシア、キサンチン、アルギネート、カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム等のある種のヒドロコロイドは、多糖類主鎖に陰イオン基を含んでいる。陰イオン基は互いに反発し合い、油滴の合着を防ぎ、且つOSAn処理中に導入された陰イオン基から補足的効果を得ることにより、本発明のOSAn処理ヒドロコロイドの乳化性能を更に高めることができる。
【0019】
本発明のOSAnヒドロコロイドは、当業者によく知られている方法により乳化剤として用いることができる。一例を挙げると、OSAnヒドロコロイドは、所望の濃度(例えば5%)で水中に分散させることができ、油を激しい攪拌(例えばロスミキサー(Ross mixer)等による、実施例参照)下において添加して、水中油型の粗エマルジョンを生成する。次いで、この混合物をホモジナイザーやコロイドミルに通過させる従来の手法を用いて、粗エマルジョン粒子径を減少させる。サラダドレッシングのエマルジョンのように、更なる粒子成分を従来手法を用いてホモジナイズ化後に加えることができる。
【0020】
希釈エマルジョンを従来のクールターカウンター(Coulter counter)分析に付すと、微分カウントと粒度分布とのプロットが得られる。この分析は、例えばWard著、Nothangelら編の「細胞及びアラビノガラクタン・タンパク質の開発生物学」(Cell and Developmental Biology of Arabinogalactan-Proteins)(2000、Kluwer Academic/Plenum Publishers)に記載の手順に従って実行することができる。この分析からはエマルジョン安定性の客観的指標として用いられる二つの基準を選択できる。即ち、(i)直径が2μm未満のエマルジョン粒子の割合(パーセンテージ)及び(ii)エマルジョンの粒子メジアンサイズである。2μm未満の粒子の割合がより高いこととメジアンサイズがより小さいこととは、ともにエマルジョンの安定性と高い相関を有する。本発明のOSAn処理ヒドロコロイド乳化剤としては、粒度2μm未満の粒子の割合が少なくとも60%であり、メジアンの粒度が2μm以下であることが好ましい。飲料製品産業の“リングテスト”や40℃におけるオーブン加速棚持ち期間研究等の他のエマルジョン安定性試験の結果は、クールターカウンターによる分析結果と一致する。
【0021】
本発明のOSAnヒドロコロイド組成物を用いて調製した水中油型エマルジョンは、好ましくは約1〜60重量%の油、約0.5〜30%のOSAnヒドロコロイド及び水を含む。通常、エマルジョンの工業用途の多くにおいては、その後の使用時に希釈する。
【0022】
OSAnは、炭化水素基質混合物中の全ヒドロキシル基を完全にエステル化するのに必要な量より少ない量を用いる。従って、非エステル化ヒドロコロイドの性質の多くはほとんど変化しないが、乳化性の増大には関連する。それゆえに、OSAn処理ヒドロコロイドは、懸濁化剤、水結合剤、水溶性脂肪代替物としても用いることができる。
【0023】
本発明のOSAnヒドロコロイドは有用な性質を提供する。次に示す実施例を用いて、本発明の実施について更に説明するが、これは例示としての説明を意図するものであって、本発明を限定するものではない。商標は上付き文字で示す。
【実施例】
【0024】
実施例1 非乳化性ガムアカシアのOSAn処理と乳化剤としての評価
(a)OSAn処理
水(300mL)と無水炭酸ナトリウム(2g、溶液pH約8)とを含む500mLビーカー(強力攪拌用磁気手段付き)に、40gのARABIC FT(非乳化性ガムアカシア、ティーアイシーガムズ(Tic Gums, Inc.)、(メリーランド州ベルキャンプ所在)より入手可能)を添加した。このビーカーを覆い、この混合液を強く撹拌した。水を添加し、溶液重量を400gとした。常温(20〜25℃)において、溶解ヒドロコロイドに対して10重量%相当のOSAn(ミリケン&カンパニー(Milliken & Company)、ノースカロライナ州スパータンスバーグ所在)(4mL)をピペットで攪拌渦に添加した。OSAnの比重は1.00であった。室温で一夜(12〜16時間)撹拌を続けた。少量の6規定塩酸を加えpHを7.0に調節した。所望により、この段階で生成物を単離することもできる。
【0025】
(b)乳化剤としての評価
以上のように調製したオクテニルスクシニル化ガム溶液(20g)をビーカーに入れ、340mLの水で希釈し、30分間混合した。ブラジリアンオレンジ油(ヘイジェリン(Hagelin & Co.)、ニュージャージー州ブランチバーグ所在)(40g)を徐々にガム溶液の攪拌渦に添加し、ロスミキサー(Ross mixer、チャールズロス&サン(Charles Ross & Son Co.)、ニューヨーク州ホーパージュ(Hauppauge)所在)中で10分間混合し、粗エマルジョンを生成した。粗エマルジョンをホモジナイザー(アルムフィールド(Armfield, Ltd.)、英国ハンプシアリングウッド所在)で2回ホモジナイズし、最終濃縮フレーバーエマルジョンを得た。このエマルジョンは5%の乳化剤と10%の油を含むものであった。1日及び7日間の保存後、エマルジョンの一部(1mL)をメスフラスコで約1L(1:1,000)に希釈した。希釈エマルジョンの試料の粒度分布をコールターカウンター(エルゾーン・モデル、パーティクル・データ(Particle Data Inc.)、イリノイ州エルムハースト所在)を用いて分析した。コールターカウンターによる分析から得られた、直径2μm未満のエマルジョン粒子のパーセンテージとメジアン粒子サイズという二つの特徴を表2に示す。室温での7日後の結果を表2Aに示す。
【0026】
実施例2 加水分解グアーガムと非乳化性ガムアカシアとの混合物のオクテニルスクシニル化
(a)加水分解グアーガムの調製
グアーガム(Cyamopsis tetragonolobusの種子から得られるガラクトマンナン、分子量350,000超に相当し、1%水溶液で3,000cP(3Pa・s)の粘度を有するGUAR8/22(ティーアイシーガムズ(Tic Gums, Inc.)、(メリーランド州ベルキャンプ所在)より入手可能)(1、500g)を、水3,920gに徐々に加えた。pHを5.5に、温度を60℃に調節した。GAMANASE溶液(約15,750,000の粘度のヘミセルラーゼ単位(VHCU)に相当)(15mL)を撹拌しながら加え、粘度が約85cP(0.085Pa・s、10%水溶液、分子量約30,000未満に相当)に減少するまで60℃で加水分解した。GAMANASEは、ノースカロライナ州フランクリントン所在のノボノルディスク・バイオケム・ノースアメリカより入手し得るガラクトマンナーゼである。溶液を80℃で1〜3時間加熱し酵素を不活化させ、溶液をブリックススケール36°になるまで蒸発させた。加水分解生成物を対流オーブンにて105℃で乾燥させた。酸やアルカリ等の加水分解の他の手段やガンマ線照射によって加水分解することもできる。加水分解生成物は乾燥せずに溶液のまま用いることができる。
【0027】
(b)加水分解グアーガムと非乳化性ガムアカシアとの混合物のオクテニルスクシニル化
実施例1の手順に従い、水300gと無水炭酸ナトリウム2gとの溶液に、乾燥加水分解グアーガム(前記のように調製)(40g)とARABIC FT(40g)を添加した。反応溶液を400gまで希釈し30分間混合した。オクテニルコハク酸無水物8mLを室温(20〜25℃)で加えた。室温にて一夜(12〜16時間)撹拌した後、少量の6規定塩酸を加えpHを7.0に調節した。この段階での生成物の単離は任意である。乳化特性を実施例1(b)と同様に測定した。結果を表2Aに示す。
【0028】
実施例3〜10 他の炭水化物基質混合物のオクテニルスクシニル化
更なる組成物を、実施例1(単成分ヒドロコロイド炭化水素基質)又は実施例2(1を越える炭化水素基質成分)に記載の方法により調製した。乳化性を実施例1(b)と同様に測定した。その結果を表2Aに示す。
【0029】
【表2】

【0030】
比較例A〜G オクテニルスクシニル化していないヒドロコロイドを用いた対照乳化試験
乳化試験を実施例1(b)の方法で行った。結果を表2Bに示す。
【0031】
比較例H〜N 低エステル化度ヒドロコロイド及び高粘度のヒドロコロイドのオクテニルスクシニル化
各種ヒドロコロイドのオクテニルスクシニル化と乳化試験を、実施例1の基本手順に従って行った。結果を表2Bに示す。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
(a)実施例番号に続くアルファベットはヒドロコロイドのクラスを表す(本文参照)。
(b)ARABIC FT(実施例1、2a、4、A及びH)は、10%における粘度が8cP(0.008Pa・s)の非乳化性ガムアカシアである。
GUAR HLV(実施例2a、5、6、D及びI)は、実施例2において加水分解され、10%における粘度が80cP(0.08Pa・s)であるグアーガムである。
GUAR IR(実施例4、7、E及びJ)は、60Coγ放射により部分的に加水分解され、1%における粘度が80〜90cP(0.08〜0.09Pa・s)であるグアーガムである。
GUAR Bland(実施例M)は、1%における粘度が3000〜3800cP(3〜3.8Pa・s)である、非加水分解、脱臭、高粘度グアーガムである。
CMC15(実施例10及びF)は、2%における粘度が80〜100cP(0.08〜0.1Pa・s)である低粘度ナトリウムカルボキシセルロースガムである。
GUAR8/22(実施例K)は、グアー種子から抽出(加水分解せず)され、1%における粘度が4400〜5000cP(4.4〜5Pa・s)であるグアーガムである。
アラビノガラクタン(実施例3)は、Larix sp.から得られ、25%における粘度が6〜10cP(0.006〜0.01Pa・s)であるヒドロコロイドである。
イヌリン(実施例8及びC)は、チコリ根から得られ、10%における粘度が4.0cP(0.004Pa・s)であるフラクトオリゴ糖である。
キサンタン(実施例L及びM)は、1%における粘度が1000〜2000cP(1〜2Pa・s)であるXanthomonas campestrisの生合成生成物である。
ポリデキストロース(実施例9)は、ソルビトールと結合したデキストロースとクエン酸とのランダム縮重合体(カルター・フードサイエンス(Cultor Food Science)、(イリノイ州ショームバーグ所在)にて入手可能)であり、5%における粘度が35cP(0.035Pa・s)である。
ポリデキストロースを除く脚注(a)に記載の全てのガムは、メリーランド州ベルキャンプ所在のティーアイシーガムズ(Tic Gums)より得られた。
(c)OSAnの添加前の水中の増量剤とヒドロコロイドの合算量に基づいている。OSAnの添加に先立ち、炭酸ナトリウムを全溶液又は懸濁液の0.5%の割合(400g溶液中又はヒドロコロイドと増量剤の懸濁液中2gと等価)で添加した。
(d)コールターカウンター測定はエマルジョンが「破壊」されていた場合には適宜省略した。
(e)「破壊」とは、エマルジョン中に視認可能な相分離が起こったことを示している。粒度測定を省略することもできる。
(f)エマルジョン型。Uは非比重調整(unweighted)、Wは比重調整(weighted)を表す。(本文参照)
(g)ARABIC SPRAY DRY(実施例B1及びB2)は、乳化剤グレードのガムアカシア (Acacia senegal、本文参照)であり、10%における粘度が13cP(0.013Pa・s)である。実施例1(b)に記載のように5%濃度で用いた。
(h)ARABIC SPRAY DRYは、15%濃度、すなわち実施例1(b)において20gに対し60gで用いた以外は(g)に記載と同様である。
(i)CMC/デキストリン(実施例10及びF)は、10%における粘度が90cP(0.09Pa・s)である。
(j)キサンタン/デキストロース(実施例L)は、10%における粘度が 320cP(0.32Pa・s)である。
(k)キサンタン/グアー/デキストロース(実施例M)は、10%における粘度が516cP(0.516Pa・s)である。
(l)デキストリン(実施例G及びN)は、10%における粘度が5cP(0.005Pa・s)である。
【0035】
表2は、OSAn処理をしていない比較例A及びC〜Gが試験条件下で乳化剤として機能しない一方、本発明の実施例1〜10が乳化剤として機能することを示している。低度のOSAn処理されている比較例H及びIにおいては、大きな粒子が多く分布し且つ相分離によって示されるように、安定したエマルジョンを生成しない。比較例J〜Nにおいては、増量剤の有無に関わらず高粘度のヒドロコロイドを示し、OSAnを処理した場合に飲料エマルジョンに望ましい乳化性が得られない。実施例1のOSAn処理した、非乳化性ガムアカシアは、5%のガムレベルにおいて効果的な乳化剤である。これに対し、比較例Bの乳化性ガムアカシアは5%濃度において乳化能力が顕著に低い(本文参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10%水溶液としたときに20℃で約2〜500cPの粘度を有する少なくとも一種のヒドロコロイドと、このヒドロコロイドに対し約2〜15重量%の、アルカン置換ジカルボン酸無水物及びアルケン置換ジカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種のジカルボン酸無水物との反応生成物を含む乳化剤。
【請求項2】
前記酸無水物が次式
【化1】

(式中、R1は、炭素数3〜18の、アルキル基又はエチレン性不飽和アルキル基であり、R2は炭素数2〜3の二価基である)で表される少なくとも一種の化合物である、請求項1に記載の乳化剤。
【請求項3】
1が6〜10個の炭素原子を含む、請求項2に記載の乳化剤。
【請求項4】
2が2個の炭素原子を含む、請求項2に記載の乳化剤。
【請求項5】
前記酸無水物が実質的にオクテニルコハク酸無水物からなるものである、請求項2に記載の乳化剤。
【請求項6】
前記少なくとも一種のヒドロコロイドが、ガムアカシア及びグアーガムをそれぞれヒドロコロイドに対して約10重量%含む、請求項1に記載の乳化剤。
【請求項7】
前記少なくとも一種のヒドロコロイドが、10%水溶液中としたときに20℃で約2〜250cPの粘度を有する、請求項1に記載の乳化剤。
【請求項8】
前記少なくとも一種のヒドロコロイドが、10%水溶液としたときに20℃で約2〜100cPの粘度を有する、請求項1に記載の乳化剤。
【請求項9】
前記ヒドロコロイドが、更に少なくとも一種の炭水化物増量剤を全固形分の約95重量%まで含む、請求項1に記載の乳化剤。
【請求項10】
前記増量剤が、加水分解多糖類、オリゴ糖、単糖類からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項9に記載の乳化剤。
【請求項11】
前記増量剤が実質的に少なくとも一種のデキストリンからなる、請求項10に記載の乳化剤。
【請求項12】
前記増量剤が実質的にデキストロースからなる、請求項10に記載の乳化剤。
【請求項13】
前記増量剤が乳化剤固形分に対し約95重量%まで存在する、請求項10に記載の乳化剤。
【請求項14】
(a)10%水溶液としたときに20℃で約2〜500cPの粘度を有する少なくとも一種のヒドロコロイドと、(b)このヒドロコロイドに対し約2〜15重量%の、アルカン置換ジカルボン酸無水物及びアルケン置換ジカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種のジカルボン酸無水物とを、反応条件下において、接触させるステップを含む乳化剤の調製方法。
【請求項15】
請求項1の乳化剤を少なくとも一種と、水とを混和するステップと、その後油と混和するステップとを含む水中油型エマルジョンの調製方法。
【請求項16】
約1〜60重量%の少なくとも一種の油と、約0.5〜30重量%の請求項1に記載の乳化剤の少なくとも一種と、水とを含む水中油型エマルジョン。
【請求項17】
エマルジョン中の油滴の少なくとも約60%が粒径約2μm未満である、請求項16に記載の水中油型エマルジョン。

【公開番号】特開2010−42412(P2010−42412A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223514(P2009−223514)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【分割の表示】特願2002−569156(P2002−569156)の分割
【原出願日】平成14年3月5日(2002.3.5)
【出願人】(503322261)ティーアイシー ガムズ インコーポレーテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】TIC GUMS,INC.
【住所又は居所原語表記】4609 Richlynn Drive,Belcamp,Maryland 21017,USA
【Fターム(参考)】