説明

水溶性陰イオン性バクテリオクロロフィル誘導体及びそれらの使用

【課題】本発明は、光力学療法及び診断用のバクテリオクロロフィル誘導体(Bchl)を提供する。
【解決手段】本発明は、光力学療法及び診断用に、少なくとも1つの、好ましくは2つ又は3つの負荷電基及び/又は生理的pHにおいて負荷電基に変換される酸性基を含有する、陰イオン性水溶性四環系及び五環系バクテリオクロロフィル誘導体(Bchl)を提供し、好ましくはBchlは、該四環系又は五環系Bchl分子の1つ又は複数の17、13、及び3位にエステル又はアミド結合を介して結合している基COO、COS、SO、又はPO2−、COOH、COSH、SOH、及び/又はPOを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリオクロロフィルの新規水溶性陰イオン性バクテリオクロロフィル誘導体、その製法、in−vivoでの光力学療法、腫瘍及び加齢黄斑変性症等の様々な血管障害診断法、及びウイルス及び微生物のin−vivo及びex−vivoでの殺作用方法におけるそれらの使用に関するものである。
【0002】
定義及び略語
AMD:加齢黄斑変性症;
Bchl:第5同素環、中心のMg原子、17位にフィチル又はゲラニルゲラニル基、13位にCOOCH基、13位にH原子、2,7,12,18位にメチル基、3位にアセチル基、8位にエチル基を有するバクテリオクロロフィルa−五環系7,8,17,18−テトラヒドロポルフィリン;
BPhe:バクテリオフェオフィチン(bacteriopheophytin)a(中心のMgが2個のH原子で置換されているBChl);
BPheid:バクテリオフェオフォルビド(bacteriopheophorbide)a(BPheから誘導されたC−17−遊離カルボン酸);
Pd−BPheid:Pd−バクテリオフェオフォルビドa;
PDT:光力学療法
Rhodobacteriochlorin:17位に−CHCHCOOH基、13位に−COOH、2、7、12、8位にメチル基、3及び8位にエチル基を有する7,8,17,18−テトラヒドロポルフィリン。
【0003】
バクテリオクロロフィル誘導体のIUPAC番号が、この明細書を通して使用されている。この番号を使用すると、天然のバクテリオクロロフィルはC−13位及びC−17位に2個のカルボン酸エステル基を有しているがそれらは、C−13位及びC−17位においてエステル化されている。
【背景技術】
【0004】
光力学療法(PDT)は、毒性のない薬剤と無害の光感作性照射を組み合わせてin situで細胞傷害性の反応性酸素種を発生させる非外科的な腫瘍の治療法である。この技術は、通常使用される腫瘍の化学療法及び放射線療法より選択的である。今日まで、ポルフィリンが、主要な光増感剤として病院で採用されてきた。しかしながら、現行の増感剤は、主として、(1)可視スペクトル域の吸収が相対的に弱いことにより、処理が浅い腫瘍に限定されること、(2)患者の皮膚に増感剤が蓄積及び長期間保持されて、長期(数日乃至数カ月)皮膚毒性をもたらすこと、並びに(3)照射した腫瘍と非腫瘍組織に対するPDT効果の間の差別化が小さいか又はないことさえあることを含む、それらの適用を限定するいくつかの欠陥がある。現行薬剤の欠点は、それらの腫瘍細胞と皮膚又はその他の正常組織内における保持率のより良い差別化を示す長波長を吸収する第2世代の増感剤に対する広範囲に及ぶ探求を鼓舞した。
【0005】
治療及び診断におけるポルフィリン薬の性能を最適化するために、いくつかのポルフィリン誘導体が提案されており、例えば、4個のピロール環に対して錯化している中心金属(Mg以外)、及び/又はピロール環の末端置換基が修飾されている、且つ/又は大きな環が二水素化されたクロロフィル誘導体(クロリン)或いは四水素化されたバクテリオクロロフィル誘導体(バクテリオクロリン)などがある。
【0006】
有利なスペクトル域(650〜850nm)におけるそれらの強い吸収及び処理後のそれらの素早い分解により、クロロフィル及びバクテリオクロロフィル誘導体は、腫瘍のPDTのための卓越した増感剤であり、ポルフィリンと比較してより優れた性質を有することが確認されたが、それらは入手し難くまた取り扱いにくい。
【0007】
バクテリオクロロフィルは、それらがクロロフィル誘導体より強い近赤外すなわちかなり長波長のところの帯域を示すために、クロロフィルと比較して有利である可能性がある。
【0008】
天然バクテリオクロロフィル(Bchl)のスペクトル、光物理及び光化学は、それらを、PDTで現在使用されている他の増感剤を超える明白な利点を有する最適な光吸収分子にしている。特に、これらの分子は、光が組織に深く侵入する長波長(λmax=760〜780nm、ε=(4〜10)×10−1cm−1)のところに非常に高い減衰係数を有している。それらは、また、高い量子収量(中心金属による)で反応性酸素種(ROS)を生成する。
【0009】
通常の送達条件、つまり室温における酸素存在下及び通常の照明条件下では、BChl分子は不安定であり、三重項状態に対する量子収量は、例えばヘマトポルフィリン誘導体(HPD)と比較すると、いくらか低い。しかし、生物学的酸化還元反応の開始、好ましい光学的性質及び生体内での分解性という点で、PDT療法及び診断及び検体中或いは生体組織中の細胞、ウイルス及び細菌を殺すためには、他の化合物、例えばポルフィリン及びクロロフィルよりもバクテリオクロロフィルの方が潜在的に優れている。バクテリオクロロフィルの化学的修飾はその性質を改善すると期待されるところであるが、そのような修飾バクテリオクロロフィルを調製する適当な方法がないために非常に限定されている。
【0010】
Bchlの金属を含まない誘導体の生物学的取り込み及びPDT効果については、腫瘍細胞区画に対する増感剤の親和性を操作する目的で検討されている。この取り組みに対する基本は、腫瘍細胞中の薬剤の蓄積を増すことができる高度に脂肪親和性の薬剤を使用することができるが、それはまたその送達を困難にもする。加えて、報告された体内分布によれば、その薬剤を投与した後、長期間(少なくとも数日)にわたって非腫瘍組織中に大きな光毒性薬剤濃度が示されている。
【0011】
出願人の前の特許文献1、及び対応する特許文献2−6には、異なる取り組みが発明者によって取られている。投与後循環から滲出することがなく、短い血液中の寿命を有する高度に有効な抗血管増感剤について検討された。正常な組織と腫瘍又は新脈管に依存するその他の組織等の病的組織の間の本来の差は、その病的組織の選択的な破壊を比較的可能にすることが期待された。それ故、より極性があり、従って、それらが最初の光力学的な効果を導く血管区画に留まる十分な可能性を有するBchl誘導体を合成することを狙いとした。このために、Bchl(本明細書のスキーム1に描かれている化合物1)のC−17位のゲラニルゲラニル残基を、増感剤の親水性を高める、アミノ酸、ペプチド、又はタンパク質等様々な残基によって置き換えた。1つの特定の誘導体、Bchl−Ser(スキーム1、Rがセリルである化合物1)が、水溶性で、細胞培養中で高度に光毒性であることが見出された。腹腔内投与の後に、Bchl−Serは、マウスの血液及び組織から二指数関数的に比較的短時間(t1/2がそれぞれ2時間と16時間)で消失した。静脈注射後の血液循環からのクリアランスは、さらに速かった。選択された処理プロトコール(薬剤注射後数分内に光の適用)のもとで、光毒性は主として腫瘍脈管構造に与えられた(非特許文献1−3)。しかしながら、残念なことに、天然のBchlと同様、Bchl−Ser誘導体は、急速な光酸化を受けて、対応する2−デスビニル−2−アセチルクロロフィリドエステル及び他の生成物を形成する。
【0012】
Bchl誘導体の安定性を増すために、その後の出願人の特許文献7及び8においては、中心のMg原子が、Pdによって置き換えられている。この重原子は、Bchlの大環の酸化電位を著しく増大し、同時に分子の項間交差(ISC)の比率を大いに高めてそれの三重項状態にすることが以前に示されている。その金属の置換は、特許文献7に記載されているように、Bpheid分子中にPd2+イオンを直接導入することにより行われた。色素の体内分布及び薬物動態学に基づいて、誘導体のPd−Bpheidが、循環中に留まるのは非常に短時間であって、他の組織への漏出は実質的になく、従って、皮膚の光毒性を避ける環脈を目標とするPDTの良好な候補であるとみなされた。血管への処理効果は、処理した血管の生体内顕微鏡検査及びエバンスブルーによる染色により明らかにされた。最小の薬剤と光の間隔による処理プロトコールを使用して、Pd−Bpheid(Tookadとも云う)が、マウス、ラット及びその他の動物モデルの様々な腫瘍の根絶に効果的であることが見出され、現在、放射線治療が失敗した前立腺癌患者で第I/II相臨床試験に入っているところである(非特許文献4−6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】イスラエル国特許第102645号
【特許文献2】欧州特許第0584552号
【特許文献3】米国特許第5,726,169号
【特許文献4】米国特許第5,726,169号
【特許文献5】米国特許第5,955,585号
【特許文献6】米国特許第6,147,195号
【特許文献7】国際公開00/33833号
【特許文献8】米国特許第6,569,846号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Rosenbach−Belkin,V.、Chen,L.、Fiedor,L.、Tregub,I.、Pavlotsky,F.、Brumfeld,V.、Salomon,Y.、Scherz,A.(1996年)クロロフィル及びバクテリオクロロフィルのセリン結合体:in vitroでの光細胞毒性及びメラノーマ腫瘍をもつマウスにおける組織分布(Serine conjugates of chlorophyll and bacteriochlorophyll:Photocytotoxicity in vitro and tissue distribution in mice bearing melanoma tumors.)Photochem.Photobiol.64:174〜181。
【非特許文献2】Zilberstein,J.、Schreiber,S.、Bloemers、MCWM、Bendel,P.、Neeman,M.,Schechtman,E.、Kohen,F.、Scherz,A.Salomon,Y.(2001年)バクテリオクロロフィル−セリンに基づく光力学療法による固形メラノーマ腫瘍の抗血管治療(Antivascular treatment of solid melanoma tumors with bacteriochlorophyll−serine−based photodynamic therapy.)Photochem.Photobiol.73:257〜266。
【非特許文献3】Zilberstein,J.、Bromberg,A.、Franz,A.、RosenbachBelkin,V.、Kritzmann,A.、Pfefermann,R.、Salomon,Y.、Scherz,A.(1997年)バクテリオクロロフィル−セリン−処理メラノーマ腫瘍における光依存酸素消費:組織挿入酸素マイクロセンサを用いるオンライン測定(Light−dependent oxygen consumption in bacteriochlorophyll−serine−treated melanoma tumors:On−line determination using a tissue−inserted oxygen microsensor.)Photochem.Photobiol.65:1012〜1019。
【非特許文献4】Chen Q、Huang Z、Luck D、Beckers J、Brun PH、Wilson BC、Scherz A、Salomon Y、Hetzel FW、(2002年)前立腺癌の光力学療法のための新規なパラジウムバクテリオフェオフォルビド(WST09)光増感剤の正常な犬の前立腺における前臨床試験(Preclinical studies in normal canine prostate of a novel palladiumbacteriopheophorbide(WST09)photosensitizer for photodynamic therapy of prostate cancers.)Photochem Photobiol、76(4):438〜45。
【非特許文献5】Schreiber S、Gross S、Brandis A、Harmelin A、Rosenbach−Belkin V、Scherz A、Salomon Y、(2002年)手術と比較して転移の減少及び動物治癒の増加をもたらすPd−バクテリオフェオフォルビドによるラットのC6神経膠腫異種移植片の局所光力学療法(PDT)(Local photodynamic therapy(PDT)of rat C6 glioma xenografts with Pd−bacteriopheophorbide leads to decreased metastases and increase of animal cure compared with surgery.)Int J Cancer.99 (2):279〜85。
【非特許文献6】Koudinova NV、Pinthus JH、Brandis A、BrennerO、Bendel P、Ramon J、Eshhar Z、Scherz A、Salomon Y、(2003年)Pdバクテリオフェオフォルビドによる光力学療法(TOOKAD):ヒト前立腺小細胞癌腫異種移植片の成功するin vivoでの治療(Photodynamic therapy with Pd−Bacteriopheophorbide(TOOKAD):successful in vivo treatment of human prostatic small cell carcinoma xenografts.)Int J Cancer 104(6):782〜9。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
Pd−Bpheidの臨床用途は、その水溶液中での低い溶解性のために、高い投与量では副作用を起こしかねないクレモフォール(Cremophor)のような可溶化剤の使用を必要とする。Pd−Bpheidを、その物理化学的性質を保持しながら水溶性にすることは、大いに望まれるところである。別法としては、細胞光毒性であり、同時にPd−Bpheidそれ自体より水溶性であるBchl誘導体を調製することが望ましい。そのような水溶性は、循環中の薬剤保持をさらに高め、それにより前述の選択性を高めることが期待される。加えて、洗浄剤又はリポソーム等の担体を使用する必要がないことにより副作用を防ぐことができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、バクテリオクロロフィル誘導体であって、17位に遊離のCHCHCOOH基又はCHCHCOO基を有する五環系バクテリオクロロフィル誘導体、並びに中心金属原子を有しておらず、17位に−CHCHCOOH基、15位に−CHCOOH基又は−COOH基、13位に−COOH基、2、7、12、18位にメチル基、3及び8位にエチル基を有している四環系バクテリオクロロフィル誘導体を除く、少なくとも1つ、好ましくは2つ又は3つの、負荷電基及び/又は生理的pHにおいて負荷電基に変換される酸性基を含有するバクテリオクロロフィル誘導体に関するものである。
【0017】
本発明による負荷電基としては、非限定的に、カルボキシラート(COO)、チオカルボキシラート(COS)、スルホナート(SO)、及びホスホナート(PO2−)が挙げられ、生理的pHにおいて前記帯電した基が生じる酸性基は、それぞれカルボン酸(COOH)基、チオカルボン酸基(COSH)、スルホン酸基(SOH)及びホスホン酸基(PO)である。
【0018】
一実施形態において、該バクテリオクロロフィル誘導体は、式I又はII、
【化1】


[式中、
Mは、2H又は二価のPd、Pt、Co、Sn、Ni、Cu、Zn及びMn、並びに三価のFe、Mn及びCrから選択される金属原子を表し;
、R、及びRは、それぞれ独立してY−Rであり;
Yは、O、S又はNRであり;
は、−CH=CH、−C(=O)−CH、−C(=O)−H、−CH=NR、−C(CH)=NR、−CH−OR、−CH−SR、−CH−NRR’、−CH(CH)−OR、−CH(CH)−SR、−CH(CH)−NRR’、−CH(CH)Hal、−CH−Hal、−CH−R、−CH=CRR’、−C(CH)=CRR’、−CH=CRHal、−C(CH)=CRHal、及び−C≡CRから選択され;
、R、R及びR’は、それぞれ独立してH又は、
(a)1つ若しくは複数のヘテロ原子、炭素環若しくは複素環部分を場合により含有しており、且つ/又は、ハロゲン、オキソ、OH、SH、CHO、NH、CONH、マイナスに帯電している基、及び生理的pHにおいて負荷電基に変換される酸性基からなる群から選択される1つ若しくは複数の官能基により場合により置換されているC〜C25ヒドロカルビル;
(b)アミノ酸、ペプチド又はタンパク質の残基;並びに
(c)Yが、O又はSである場合、さらにRであってもよいR
からなる群から選択され;
mは、0又は1であり;
は、H又は陽イオンであり、
但し、
(i)R、R、R及びR’の少なくとも1つ、好ましくは2つが、マイナスに帯電している基、又は生理的pHにおいて負荷電基に変換される酸性基により置換されている上の(a)で定義した炭化水素鎖であるか、又は
(ii)R、R、及びRの少なくとも1つ、好ましくは2つが、OH、SH、O若しくはSであるか、又は
(iii)R、R、及びRの少なくとも1つが、OH、SH、O若しくはSであり、R、R、R及びR’の少なくとも1つが、マイナスに帯電している基、又は生理的pHにおいて負荷電基に変換される酸性基により置換されているか、又は
(iv)R、R、及びRの少なくとも1つが、OH、SH、O若しくはSであり、R、R、R及びR’の少なくとも1つが、アミノ酸、ペプチド又はタンパク質の残基であるか、又は
(v)R、R、R及びR’の少なくとも1つが、マイナスに帯電している基、又は生理的pHにおいて負荷電基に変換される酸性基により置換されている炭化水素鎖であり、R、R、R及びR’の少なくとも1つが、アミノ酸、ペプチド又はタンパク質の残基である
という条件であり、
しかし、Mが定義通りであり、Rが−C(=O)CHであり、RがOH又はORであり、Rが−OCHである式Iの化合物と、Mが2Hであり、RがC(=O)CHであり、R、R、及びRがOHであり、mが0又は1である式IIの化合物とを除く]を有する。
【0019】
本発明は、さらに、上で定義したバクテリオクロロフィル誘導体を含む光力学療法(PDT)特に脈管標的PDT、例えば腫瘍若しくは加齢黄斑変性症(AMD)のPDT、又は細胞若しくは細菌及びウイルスを含む病原菌をin vivo若しくはin vitroで殺すため、並びに診断目的のための薬剤組成物に関する。
【0020】
本発明は、光増感剤を使用する光力学療法を提供し、その改善は、前記光増感剤が本発明のバクテリオクロロフィル誘導体であることに存する。この態様によれば、本発明は、有効量の本発明のバクテリオクロロフィル誘導体を必要としている個体に投与し、その後局所を照射することを含むPDTによる治療方法に関する。
【0021】
本発明は、さらに光増感剤を使用する腫瘍の診断方法を提供し、その改善は、前記光増感剤が、本発明のバクテリオクロロフィル誘導体であることに存する。この態様によれば、本発明は、腫瘍があることが疑われる個体に、本発明のバクテリオクロロフィル誘導体の有効量を投与し、続いて局所照射して被検部の蛍光発光を測定するステップを含む、より高い蛍光発光が腫瘍部位を示す腫瘍の診断方法に関する。
【0022】
本発明は、さらにまた、細胞又は細菌及びウイルスを含む病原菌を、光増感剤を使用して殺す方法を提供し、その改善は、前記光増感剤が本発明のバクテリオクロロフィル誘導体であることによる。この態様によれば、本発明は、生物学的製剤、例えば血液を殺菌する方法に関するものであり、それは前記生物学的製剤、例えば血液に有効量の本発明のバクテリオクロロフィル誘導体を加え、続いて照射するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明のさまざまな化合物を以下の図面の説明の中で太字で且つ下線を引いた数字で示している。それらの完全な識別は、下文の化学物質欄の初めの化合物の一覧表の中に見出すことができる。
【0024】
【図1A】スルホン化化合物のH5Vマウス内皮細胞(図1A)及びM2Rマウスメラノーマ細胞(図1B)に対する光毒性を示すグラフである。細胞は、の濃度を増しながら4時間培養し、洗浄して照射する(白グラフ)か、又は無照射に保った(無照射対照、黒グラフ)。得点は、3組の平均±標準である。
【図1B】スルホン化化合物のH5Vマウス内皮細胞(図1A)及びM2Rマウスメラノーマ細胞(図1B)に対する光毒性を示すグラフである。細胞は、の濃度を増しながら4時間培養し、洗浄して照射する(白グラフ)か、又は無照射に保った(無照射対照、黒グラフ)。得点は、3組の平均±標準である。
【図2A】スルホン化化合物のH5Vマウス内皮細胞(図2A)及びM2Rマウスメラノーマ細胞(図2B)に対する光毒性を示すグラフである。細胞は、の濃度を増しながら4時間培養し、洗浄して照射する(白グラフ)か又は無照射に保った(無照射対照、黒グラフ)。得点は、3組の平均±標準である。
【図2B】スルホン化化合物のH5Vマウス内皮細胞(図2A)及びM2Rマウスメラノーマ細胞(図2B)に対する光毒性を示すグラフである。細胞は、の濃度を増しながら4時間培養し、洗浄して照射する(白グラフ)か又は無照射に保った(無照射対照、黒グラフ)。得点は、3組の平均±標準である。
【図3】スルホン化化合物のM2Rマウスメラノーマ細胞に対する光毒性を示すグラフである。細胞は、の濃度を増しながら4時間培養し、洗浄して照射する(丸)か又は無照射に保った(無照射対照、菱形)。得点は、3組の平均である。
【図4】スルホン化化合物11のM2Rマウスメラノーマ細胞に対する光毒性を示すグラフである。細胞は、11の濃度を増しながら4時間培養し、洗浄して照射する(丸)か又は無照射に保った(無照射対照、菱形)。得点は、3組の平均である。
【図5】CD1ヌードマウス血液中の化合物の薬物動態を示すグラフである。化合物の注射(6mg/kg)後、同じマウスから指定時間ごとに血液サンプルを集め、Pdを測定した。各時間の得点は、3匹のマウスの平均±標準を表す。
【図6】CD1ヌードマウス中の化合物の体内分布を示すグラフである。化合物の注射(6mg/kg)後マウスを異なる時間毎に屠殺し、指定の臓器毎にPd含量を測定した。各時間の得点は、3匹のマウスの平均±標準を表す。
【図7】化合物によるメラノーマ異種移植片のPDTを示すグラフである。M2Rメラノーマ異種移植片を持つマウスに化合物を静脈注射し(6mg/kg−1)、光度30J/cm(n=14、黒4角)、39J/cm(n=8、黒菱形)又は45J/cm(n=10、黒三角)で5分間照射した。化合物を9mg/kg−1注射したマウスは、30J/cm(n=10、黒丸)で5分間照射した。対照群:未処理(n=4、白四角)、化合物を6mg/kg−1受けた無照射対照(n=4、白丸)又は9mg/kg−1受けた無照射対照(n=5、白三角)、照射対照(n=6、白菱形、45J/cm)。
【図8】ラットC6神経膠腫異種移植片を持ち、化合物で処置したマウスにおけるPDTの選択的効果を示す写真である。(a〜d)PDT処理した動物、(e〜h)未処理の動物。(a)処理前、(b)PDT及びエバンスブルー(EB)注射後3時間、(c)PDT後24時間の処理部位の皮弁、(d)PDT後24時間の処理した腫瘍の軸方向薄片、(e)EB注射前、(f)EB注射後3時間、(g)EB注射後24時間の皮弁、(h)EB注射後24時間の未処理腫瘍の軸方向薄片。T−腫瘍、S−皮膚、M−筋肉、E−水腫。
【図9A】ウサギの目のモデルにおける化合物による密封PDT(フルエンス50J/cm、投与量5mg/Kg、1分のDLI)後2時間の病巣中心の準薄片及びTEMを示す写真である。比較的よく温存されているRPE細胞を持つ脈絡膜血管及び網膜の鬱血及び拡張が観察される(9A及び9B)。TEMは、脈絡毛細管内腔(9Dの白矢)内の赤血球の溶血反応及びばらばらになった単球(白の矢印)を示している。ブルック膜(Bm)は、よく識別される網膜色素上皮細胞(RPE)を、原型を保ってかくまっている。脈絡毛細管内皮細胞のいくつかは、著しく改変されて、凝縮されたクロマチンを示している(9Cの白星)。略語:ONL:細胞核外層(outer nuclear layer)、ROS:桿体外節(rod outer segments)、CC:脈絡毛細管(Choriocappilaries)、e:脈絡毛細管内皮細胞(choriocapillary endothelial cells)。
【図9B】ウサギの目のモデルにおける化合物による密封PDT(フルエンス50J/cm、投与量5mg/Kg、1分のDLI)後2時間の病巣中心の準薄片及びTEMを示す写真である。比較的よく温存されているRPE細胞を持つ脈絡膜血管及び網膜の鬱血及び拡張が観察される(9A及び9B)。TEMは、脈絡毛細管内腔(9Dの白矢)内の赤血球の溶血反応及びばらばらになった単球(白の矢印)を示している。ブルック膜(Bm)は、よく識別される網膜色素上皮細胞(RPE)を、原型を保ってかくまっている。脈絡毛細管内皮細胞のいくつかは、著しく改変されて、凝縮されたクロマチンを示している(9Cの白星)。略語:ONL:細胞核外層(outer nuclear layer)、ROS:桿体外節(rod outer segments)、CC:脈絡毛細管(Choriocappilaries)、e:脈絡毛細管内皮細胞(choriocapillary endothelial cells)。
【図9C】ウサギの目のモデルにおける化合物による密封PDT(フルエンス50J/cm、投与量5mg/Kg、1分のDLI)後2時間の病巣中心の準薄片及びTEMを示す写真である。比較的よく温存されているRPE細胞を持つ脈絡膜血管及び網膜の鬱血及び拡張が観察される(9A及び9B)。TEMは、脈絡毛細管内腔(9Dの白矢)内の赤血球の溶血反応及びばらばらになった単球(白の矢印)を示している。ブルック膜(Bm)は、よく識別される網膜色素上皮細胞(RPE)を、原型を保ってかくまっている。脈絡毛細管内皮細胞のいくつかは、著しく改変されて、凝縮されたクロマチンを示している(9Cの白星)。略語:ONL:細胞核外層(outer nuclear layer)、ROS:桿体外節(rod outer segments)、CC:脈絡毛細管(Choriocappilaries)、e:脈絡毛細管内皮細胞(choriocapillary endothelial cells)。
【図9D】ウサギの目のモデルにおける化合物による密封PDT(フルエンス50J/cm、投与量5mg/Kg、1分のDLI)後2時間の病巣中心の準薄片及びTEMを示す写真である。比較的よく温存されているRPE細胞を持つ脈絡膜血管及び網膜の鬱血及び拡張が観察される(9A及び9B)。TEMは、脈絡毛細管内腔(9Dの白矢)内の赤血球の溶血反応及びばらばらになった単球(白の矢印)を示している。ブルック膜(Bm)は、よく識別される網膜色素上皮細胞(RPE)を、原型を保ってかくまっている。脈絡毛細管内皮細胞のいくつかは、著しく改変されて、凝縮されたクロマチンを示している(9Cの白星)。略語:ONL:細胞核外層(outer nuclear layer)、ROS:桿体外節(rod outer segments)、CC:脈絡毛細管(Choriocappilaries)、e:脈絡毛細管内皮細胞(choriocapillary endothelial cells)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、広範な態様において、バクテリオクロロフィル誘導体であって、17位に遊離のCHCHCOOH基又はCHCHCOO基を有する五環系バクテリオクロロフィル誘導体、並びに中心金属原子を有しておらず、17位に−CHCHCOOH基、15位に−CHCOOH基又は−COOH基、13位に−COOH基、2、7、12、18位にメチル基、3及び8位にエチル基を有している四環系バクテリオクロロフィル誘導体を除く、少なくとも1つ、好ましくは2つ又は3つの、負荷電基及び/又は生理的pHにおいて負荷電基に変換される酸性基を含有するバクテリオクロロフィル誘導体を提供する。
【0026】
そのバクテリオクロロフィル誘導体は、中心のMg原子が、削除又は二価のPd、Pt、Co、Sn、Ni、Cu、Zn及びMn、並びに三価のFe、Mn及びCr等の他の金属原子によって置き換わっている化合物を含んでいるバクテリオクロロフィルの天然若しくは合成誘導体から誘導することができる。好ましい実施形態において、その金属原子は、存在しないか又は、Pd、Cu、Zn若しくはMnである。最も好ましい実施形態においては、その中心の金属は、Pdである。
【0027】
1つの好ましい実施形態において、本発明は、上文で定義した式I又はIIのバクテリオクロロフィル誘導体を提供する。
【0028】
本発明によれば、R、R、R及びR’に対して定義されている「ヒドロカルビル」とは、1〜25の炭素原子、好ましくは1から20、より好ましくは1から6、最も好ましくは2〜3の炭素原子の、任意の、直鎖又は枝分かれ、飽和又は不飽和、非環式又は環式の、芳香族を含むヒドロカルビル基を意味する。そのヒドロカルビルは、好ましくは1〜4の炭素原子のアルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、フェニル等のアリール又はベンジル等のアラルキル基、或いは17位における、それは、天然のChl及びBchl化合物から誘導された基、例えばゲラニルゲラニル(2,6−ジメチル−2,6−オクタジエニル)又はフィチル(2,6,10,14−テトラメチル−ヘキサデセ−14−エン−16−イル)である。
【0029】
、R、R及び/又はR’の炭化水素鎖は、O、S及び/又はNH等の1つ又は複数のヘテロ原子、及び/又は1つ又は複数の炭素環(例えばフェニル)、又は複素環(例えばピリジル)部分を場合によって含有することができる。1つの実施形態において、そのヒドロカルビル鎖は、4から10の炭素原子のオリゴオキシエチレングリコール残基、好ましくはペンタオキシエチレングリコールにより代表される、1つ又は複数のO原子を含有し、OH末端基を有する。
【0030】
、R、R及び/又はR’は、また、Cl、CHO、OH、SH、NH、CONH、COOH、COSH、SOH、PO等の1つ又は複数の官能基或いはCOO、COS、SO、又はPO2−等の負荷電基によって置換されているヒドロカルビルであっても良い。1つの好ましい実施形態において、その官能基、COOH、COSH、SOH、PO、COO、COS、SO、又はPO2−は、末端官能基である。最も好ましい実施形態において、そのヒドロカルビルは、2又は3の炭素原子及びCOO、PO2−から選択され、或いは最も好ましくはSOである末端基を有する。
【0031】
なおさらなる実施形態において、R、R、R又はR’は、複数のOH及び場合によってはNHによって置換されていてもよく、monoaccharide、例えばグルコサミンの残基であり得る。
【0032】
他の実施形態において、R、R、R又はR’は、アミノ酸、ペプチド又はタンパク質の残基であり得る。1つの好ましい実施形態において、Rは、任意の位置の、しかし好ましくは17位の、アミノ酸、ペプチド又はタンパク質の残基である。そのアミノ酸、ペプチド又はタンパク質は、それらが遊離の末端カルボキシル基及び/又は非末端の遊離のカルボキシル基を含有するアミノ酸、例えばアスパラギン酸若しくはグルタミン酸の残基を含有している場合は、負荷電基の発生源であり得る。
【0033】
1つの実施形態において、R、R、R又はR’は、セリン、トレオニン及びチロシン等のヒドロキシ基を含有するアミノ酸又はペプチド(オリゴペプチド又はポリペプチド)、又はそれらを含有するペプチド、或いは、前記アミノ酸、又は、アルキルエステル、好ましくはメチルエステル等のエステル、及びN−保護基が、例えばt−ブチルオキシ、カルボベンゾキシ又はトリチルであるN−保護された誘導体から選択される前記アミノ酸又はペプチドの誘導体であり、前記ヒドロキシル化アミノ酸若しくはペプチド又はそれらの誘導体は、そのヒドロキシ基を介してBChl誘導体のCOO基に結合している。上記アミノ酸誘導体の例は、セリンメチルエステル、N−t−ブチルオキシカルボニルセリン、N−トリチル−セリンメチルエステル、チロシンメチルエステル、及びN−t−ブトキシ−チロシンメチルエステルであり、上記ペプチドの例は、N−カルボベンゾキシ−セリルセリンメチルエステルであって、それらはすべて、上記のEP 0584552に記載されているようにして調製される。
【0034】
他の実施形態において、R、R、R及び/又はR’は、アミド結合(YがNHである)を介して−CO基に連結しているアミノ酸又はペプチド(オリゴ又はポリペプチド)の残基である。
【0035】
さらなる実施形態において、R、R、R又はR’は、ペプチド又はタンパク質から選択される細胞特有又は組織特有の配位子の残基であり、それらを例示すれば、非限定的に、例えばメラニン細胞刺激ホルモン(例えば、α−MSH)等のホルモンペプチドと、抗体(例えば、免疫グロブリン及び腫瘍特有の抗体)が挙げられる。そのペプチド又はタンパク質は、エステル結合、チオエステル結合又はアミド結合により−CO基に直接連結しているか、又はOH、COOH及びNHから選択されるC〜C25ヒドロカルビル基の末端官能基に、エステル結合又はアミド結合を介して連結している。
【0036】
上記のEP 0584552に記載されているように、Bchlの種々のアミノ酸との結合、及びそのBchlアミノ酸結合体のホルモン、増殖因子若しくはそれらの誘導体、又は腫瘍特有の抗体、又は任意のその他の細胞特有の配位子とのさらなる結合により、適当な特定部位光増感剤が得られる。
【0037】
1つの実施形態において、本発明による負荷電基、COO、COS、SO、又はPO2−は、それぞれ、R、R、R及び/又はR’の置換されたヒドロカルビル鎖の官能基、COOH、COSH、SOH、POに由来する。他の実施形態においては、COOH、COSH、COO、及び/又はCOS基は、それぞれ、OH又はSH、O又はSである、R、R、及びRから、すなわち、カルボキシル基若しくはチオカルボキシル基又はカルボキシラート陰イオン若しくはチオカルボキシラート陰イオンが、13位、15位(m=0)、15位(m=1)、及び/又は17位に存在するときに、誘導される。
【0038】
陽イオンRは、K、Na、Li、NH、Ca等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属に由来する一価又は二価の陽イオン、より好ましくはKであり、或いはRは、アミンに由来する陽イオンである。
【0039】
1つの好ましい実施形態において、本発明のバクテリオクロロフィル誘導体は、式Iを有しており、式中:
Mは、二価のPdを表し、
は、−NH−(CH−SO、−NH−(CH−COO;−NH−(CH−PO2−(Rであり、
は、メトキシであり、
は、−C(=O)CHであり、
は、K、Na、Li、NH等の一価陽イオンであり、
nは、1から10までの整数、好ましくは2又は3である。
【0040】
この実施形態によれば、式Iの化合物中のRは、好ましくは、nが3であり、RがKである基−NH−(CH−SOである。
【0041】
他の好ましい実施形態において、本発明のバクテリオクロロフィル誘導体は、式IIを有しており、式中:
Mは、2H、二価Pd、Cu、若しくはZn又は三価Mnを表し、
は、−O、−NH−(CH−SO、−NH−(CH−COO;−NH−(CH−PO2−(R;又はY−R(Yは、O、S又はNHである)であり、Rは、アミノ酸、ペプチド若しくはタンパク質の残基である。
は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等のC〜Cアルコキシ、より好ましくはメトキシであり、
は、−C(=O)−CH、−CH=N−(CH−S0;−CH=N−(CH−COO;−CH=N−(CH−PO2−(R;−CH−NH−(CH−SO;−NH−(CH−COO;又は−NH−(CH−PO2−(Rであり、
は、−NH−(CH−SO;−NH−(CH−COO;−NH−(CH−P02−(Rであり、
は、K、Na、Li、NH等の一価陽イオン、より好ましくはKであり、
mは、1であり、nが、1から10までの整数であって、好ましくは2又は3である。
【0042】
本発明のより好ましい実施形態において、該バクテリオクロロフィル誘導体は、式IIを有しており、MがPdである。
【0043】
他のより好ましい実施形態において、本発明は、式IIであって、式中:
Mが、二価のPdであり、
が、−O、−NH−(CH−SO、又はY−R(Yは、O、S若しくはNHである)であり、Rは、タンパク質、より好ましくは免疫グロブリンの残基であるであり、
が、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等のC〜Cアルコキシであって、好ましくはメトキシであり、
が、−C(=O)−CH、−CH=N−(CH−S0;又は−CH−NH−(CH−SOであり、
が、−NH−(CH−SO;NH−(CH−COO;NH−(CH−P02−(Rであり、
が、K、Na、Li、NH等の一価陽イオンであって、好ましくはKであり、
、mが、1であり、nが、2又は3、より好ましくは2である
バクテリオクロロフィル誘導体に関する。
【0044】
17位にすべて負荷電基(SO)を有する本発明のバクテリオクロロフィル誘導体の1例は、下文の化合物の一覧表中で化合物として示されている式Iの化合物により表される。
【0045】
13位及び17位に2つの負荷電基を有する本発明のバクテリオクロロフィル誘導体の例としては、下文の化合物の一覧表中で化合物101112131415として示されている式IIの化合物が挙げられる。最も好ましい実施形態において、本発明の化合物は、化合物である。
【0046】
3位、13位及び17位に3つの負荷電基を有する本発明のバクテリオクロロフィル誘導体の例としては、下文の化合物の一覧表中で化合物及び16として示されている式IIの化合物が挙げられる。化合物13は、13位に1つの負荷電基と、17位にタンパク質分子の一部としての−COOH基とを有しており、化合物15は、13位に1つのマイナスに帯電した二価の基と、17位に−COO基とを有している。
【0047】
本発明の化合物は、例えば、本明細書のスキーム1に描かれている方法により調製することができる。Rが、アミノ酸、ペプチド又はタンパク質の残基である化合物の調製には、上記のEP 0584552に記載されている方法、特に触媒縮合法を、アミノスルホン酸であるタウリン及びホモタウリン(homotaurine)との反応に、スキーム1に示されているように使用することができる。
【0048】
例えば、Rが、−Oであり、Rが、−OCHであり、Rがアセチルであり、Rが、基−NH−(CH−SOであり、Rが、一価の陽イオンであり、mが1であり、nが1から10である式IIの化合物を調製する方法は、(i)RがOHである式Iの対応するM−バクテリオフェオフォルビドを、式HN−(CH−SOHのアミノスルホン酸とRバッファー中で反応させるステップ、及び(ii)式IIの所望の化合物を単離するステップを含む。
【0049】
化合物を調製するには、その方法は、Pd−バクテリオフェオフォルビドa()を、式HN−(CH−SOHのタウリンとKバッファー中で反応させるステップ、及び所望の化合物を単離するステップを含む。
【0050】
化合物を調製するには、その方法は、バクテリオフェオフォルビドa()を、式HN−(CH−SOHのタウリンとKバッファー中で反応させるステップ、及び所望の化合物を単離するステップを含む。
【0051】
Cu及びZnの化合物1011を調製するには、その方法は、化合物を、それぞれ、酢酸銅又は酢酸亜鉛と反応させることにより中心金属Cu又はZnを直接挿入することを含み、一方Mn化合物12の調製には、中心金属Mnの挿入は、最初に化合物を酢酸カドミウムと反応させ、次いで塩化マンガンと反応させることによる金属交換反応によって行う。
【0052】
が、−Oであり、Rが、−OCHであり、Rがアセチルであり、Rが、基−NH−(CH−COOであり、Rが、一価の陽イオンであり、mが1であり、nが1から10である式IIの化合物を調製する方法は、(i)RがOHである式Iの対応するM−バクテリオフェオフォルビドを、式HN−(CH−COOHのアミノカルボン酸とRバッファー中で反応させるステップ、及び(ii)式IIの所望の化合物を単離するステップを含む。
【0053】
例えば、化合物14を調製するには、その方法は、Pd−バクテリオフェオフォルビドa()を、式HN−(CH−COOHのβ−アラニンとKバッファー中で反応させるステップ、及び所望の化合物を単離するステップを含む。
【0054】
が、−Oであり、Rが、−OCHであり、Rがアセチルであり、Rが、基−NH−(CH−PO2−(Rであり、Rが、一価の陽イオンであり、mが1であり、nが1から10である式IIの化合物を調製する方法は、(i)RがOHである式Iの対応するM−バクテリオフェオフォルビドを、式HN−(CH−POのアミノホスホン酸とRバッファー中で反応させるステップ、及び(ii)式IIの所望の化合物を単離するステップを含む。
【0055】
例えば、化合物15を調製するには、その方法は、Pd−バクテリオフェオフォルビドa()を、式HN−(CH−POの3−アミノ−1−プロパンホスホン酸とKバッファー中で反応させるステップ、及び所望の化合物を単離するステップを含む。
【0056】
13位及び17位にマイナスに帯電した同じ基を有する化合物を調製するには、対応するM−バクテリオフェオフォルビドを、過剰の、アミノスルホン酸、アミノカルボン酸又はアミノホスホン酸等の試薬と上記のように反応させ、所望の式IIの13,17−二置換誘導体を単離することができ、或いは、本明細書のスキーム1に描かれており、以下に記載されている異なる手段に従うことができる。
【0057】
例えば、R及びRが、それぞれ基−NH−(CH−SOであり、Rが、−OCHであり、Rがアセチルであり、Rが、一価の陽イオンであり、mが1であり、nが1から10である式IIの化合物を調製する方法は、(i)RがOHである式Iの対応するM−バクテリオフェオフォルビドを、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)の存在下で、N−ヒドロキシ−スルホスクシンイミド(スルホNHS)とカップリングするステップ、(ii)得られたM−バクテリオフェオフォルビド−17−N−ヒドロキシスルホスクシンイミドを、Rバッファー中で、過剰の式HN−(CH−SOHのアミノスルホン酸と反応させ、かくして17位に唯一の負荷電基を有する式Iの化合物を得るステップ、(iii)この生成物を、Rバッファー中で、過剰の式HN−(CH−SOHと反応させるステップ、及び(iv)所望の式IIの化合物を単離するステップを含む。
【0058】
化合物の調製には、過剰の式HN−(CH−SOHのホモタウリンとの反応を行う。
【0059】
該アミノスルホン酸が、アミノカルボン酸又はアミノホスホン酸と置き換えた場合は、対応するカルボキシラート誘導体及びホスホナート誘導体が得られる。
【0060】
本明細書で時々「色素」の用語でも呼ばれる本発明の化合物は、水溶性であって、界面活性剤が添加されていない水溶液の注射をするのに十分な高い極性を提供する。1つの実施形態で、好ましいスルホン化−Pd−Bchl化合物は、そのうえ、体内分布及び薬物動態を示し、それによって、本発明のこの誘導体及びその他の誘導体は、循環中に、しかも非常に短時間留まるものとみなされる。それ故それらは、脈管を標的とするPDT用の優れた増感剤である。本明細書に示したマウスにおけるM2R黒色性メラノーマ及びHT−29ヒト結腸癌異種移植片の処理は、腫瘍脈管構造の色素の選択的効果を示している。スルホン化−Pd−Bchlによる推奨されるプロトコールとして、薬剤の短いクリアランス時間が考えられる。それらの腫瘍脈管構造の選択的効果に基づいて、これらの化合物は、腫瘍並びに加齢黄斑変性症及び新血管新生によるその他の組織の異常に使用することができる。
【0061】
他の態様において、本発明は、本発明のバクテリオクロロフィル誘導体及び薬剤として許容される担体を含む薬剤組成物を提供する。
【0062】
好ましい実施形態において、その薬剤組成物は、本明細書の式I又はIIのバクテリオクロロフィル誘導体、より好ましくは式IIのスルホン化誘導体、最も好ましくは化合物を含む。
【0063】
本発明の陰イオン性バクテリオクロロフィル誘導体は、患者に投与するための最終薬剤組成物に製剤化するか、又は、例えば「レミングトンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」(米国ペンシルベニア州イーストン所在のMack Publishing Co.)の最新版にまとめられている当技術分野で周知の技術を使用して、in vitroでの標的に適用する。その組成物は、全身的に、特に注射により投与することが可能であり、又は局所的に使用することもできる。
【0064】
本発明の陰イオン性Bchl化合物は、それぞれの非陰イオン性Bchlと同様の光吸収及び光物理的性質を有しており、そのため、処理組織中に一旦入り込むとそれらは効果的な光力学作用剤となることが期待される。それらは、したがって、PDT及びその他の光増感剤応用の技術でよく知られている、例えば、非限定的に、メラノーマ、前立腺癌、脳腫瘍、大腸癌、卵巣癌、乳癌、皮膚癌、肺癌、食道癌及び膀胱癌等のそれぞれの癌の種類並びにその他のホルモン感受性腫瘍治療並びに加齢黄斑変性症の治療のための治療薬及び診断用薬として、並びにサンプル及び生体組織中の、細胞、ウイルス、カビ及び細菌を殺すための光増感剤として有用であり得る。
【0065】
本発明の新規な水溶性Bchl誘導体は、例えば、適当な波長の光を用いて、in vivo又はex vivoのいずれかで照射することによって、腫瘍細胞又はその他の異常組織を感作して破壊するのに有用である。光活性化のエネルギーは、内在性酸素に転移し、それを一重項酸素に、且つ/又は細胞傷害効果に対して役割を果たすと考えられるスーパーオキシドラジカル及びヒドロキシルラジカル等のその他の反応性酸素種(ROS)に転化するものと考えられる。さらに、そのBchlの光活性化された形は、蛍光を発し、その蛍光発光は、Bchl誘導体を投与する腫瘍又はその他の部位の場所を特定するのに役立ち得る。
【0066】
本発明のバクテリオクロロフィル誘導体で治療することが可能な技術的に知られている適応の例としては、固形腫瘍内の腫瘍組織の破壊及び血管プラークの分解が挙げられる(例えば、米国特許第4512762号参照)。特に、これらの誘導体は、それらの循環中の滞留が最低限であるため、及びそれらは、皮膚及び筋肉等の非循環組織により吸収されるのが最小限であるため、脈管を標的としたPDTに適する。例えば、これらの化合物は、励起状態で内部血管に限定された反応性酸素種(ROS)の発生を可能とし、それにより、腫瘍及び加齢黄斑中に存在するもののような異常血管の選択的感応を引き起こす。さらに、該バクテリオクロロフィル誘導体は、座蒼、水虫、いぼ、乳頭腫、及び乾癬等の局所治療における選択的破壊のため、良性前立腺肥大症の治療のため、及び輸血用血液等の生物生成物の病原菌の破壊による殺菌のために有用である。
【0067】
本発明の薬剤組成物は、PDTで使用される標準的な方法によって患者に投与される。必要な固体に投与される本発明の陰イオン性Bchl誘導体の量及び投与の経路は、PDTで使用される他のポルフィリンで蓄積された経験によって確立され、活性成分として使用する誘導体の選択、治療する例えば腫瘍の種類等の条件、病気の段階、患者の年齢及び健康状態、並びに医者の判断によって異なるであろうが、フォトフリンIIの用量で従来使用される約20〜40mgHPD/kg体重よりはるかに少ない。投与の好ましい経路は、通常の薬剤として許容される担体及び添加剤を含んでいる活性化合物水溶液の静脈注射又は固形腫瘍への直接注射、並びに適当な局所用組成物による皮膚腫瘍の局所的治療である。
【0068】
照射光の波長は、バクテリオクロロフィル光増感剤の最大吸収に適合するように好ましくは選択する。任意の化合物に対する適当な波長は、その吸収スペクトルから容易に決定することができる。
【0069】
in vivoでの使用に加えて、本発明の陰イオン性Bchl誘導体は、有害なウイルス又は有害な細菌等の病原菌を殺すため、in vitroでの材料の処理に使用することができる。例えば、将来の輸血のために使用される血液及び血漿は、本発明のBchlで処理し、照射して殺菌を実施することができる。
【0070】
タンパク質(例えばホルモン)、増殖因子又はその誘導体、抗体、標的細胞受容体に特定的に結合するペプチド、及び細胞栄養素(例えば、チロシン)のBchl部分への結合は、それらの腫瘍及び処理部位中の保持を増大することを意味する。レッドシフトの増大は、自然分類系の偏在を保ちながら浸透の深さをより大きくする効果がある。Mgの他の金属による置換は、Bchlの固有の代謝安定性、及びその励起された三重項状態への項間交差を最適化することを意味し、且つまた新規な診断方法の可能性を開くものである。
【0071】
新内皮細胞に対する高い親和性を有する腫瘍特有の抗体及びペプチドは、Bchlを選択的に標的にして腫瘍又は治療部位に向かわせ、一方、ホルモン及び細胞栄養素は、変形されていない正常の対応物により同様に吸収される。しかしながら、ホルモン及び細胞栄養素に対する標的として選択された細胞(メラニン細胞及び新内皮細胞等)は、標準状態下で他の細胞間に散乱し、悪性細胞に変形した場合は密集して固形腫瘍となる。その結果、脈管及び/又は悪性組織の細胞区画内の光増感剤の濃度は、細胞がより分散している正常組織中の濃度と対比して劇的に増加し、腫瘍部位におけるPDT効果の増幅を確かなものにすることが期待される。これにより、例えば空間的に明確に限定する照射の必要性が減少して、正常細胞の損傷閾値より低い、光線量の効果的な使用が可能となる。加えて、非常に強い蛍光発光を有することにより、部位指向性のBchlを、腫瘍部位(1つ又は複数)又はその他の標的の蛍光発光標識用に使用することができる。
【0072】
本発明の1つの最も好ましい実施形態において、本発明の増感剤による治療の標的は、推奨される本明細書に記載されているPDTプロトコールに対する正常血管と異常血管の感度に本質的な差異があることから、異常血管、特に固形腫瘍及び加齢黄斑変性症の血管である。
【0073】
本発明は、さらに、本発明のBchl誘導体の有効量を必要としている個体に投与し、その後局所を照射することを含む光力学治療の方法に関する。
【0074】
一実施形態において、本発明のそのPDT法は癌の治療に使用され、固形腫瘍の癌で悩んでいる患者に治療的に有効な量の本発明によるBchl誘導体を投与し、続いて670〜780nmの強力な光源によりその腫瘍部位を照射することを含む。
【0075】
本発明のBchl誘導体は、また、あるタイプの培養液中の細胞又は感染性媒介物の選択的な光破壊を可能にする、正常又は悪性の動物細胞並びに培養液中の微生物の光破壊のため;ポルフィリン部分が、ホルモン又はその他の受容体配位子等の特定のポリペプチド、細胞若しくは組織に特有の抗体又はその他の配位子(例えばレクチン)に連結することにより、選択された細胞を標的にすることのため;実験室、診断及び産業上での利用における分析を目的とした分子の蛍光標識/タギングのため;並びに実験室、診断若しくは産業上で利用する動物細胞又は粒子の蛍光標識のためにも有用である。それらは、それらの優れた減衰係数及びより高い蛍光収率によって、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)又はフィコエリトリン等の従来使用されている蛍光タグのいくつかに置き換わることができる。
【0076】
診断目的のために、本発明のBchl誘導体は、単独で使用することが可能であり、或いは放射性同位元素又はその他の技術的に知られている検知手段と共に標識することができる。例えば、Bchl誘導体は、標準的なプロトコールにより放射活性物質で(例えば、67Ga、111In、201Tl、99mTc)標識することができ、その放射能を持った診断用薬は、患者に、好ましくは静脈注射により投与される。数時間後、癌の位置は、標準的な方法により画像化することができる。
【0077】
本発明は、生物生成物例えば血液中の、細胞又は細菌、ウイルス、寄生生物及びカビ等の病原菌をex−vivo又はin vivoでの殺作用のための本発明のBchl誘導体の使用をさらに提供し、それは、感染したサンプルを本発明の化合物で処理し、続いてそのサンプルに照射するステップを含む。
【0078】
本発明を、これより以下の非限定の実施例により説明する。
【0079】
(実施例)
便宜上及びより良い理解のために、実施例の項は、2つのサブの項:(I)水溶性誘導体及び中間体4〜16の合成を説明する化学品の項と、(II)新規なBchl誘導体の生物活性について説明する生物学の項とに分ける。
【0080】
I 化学品の項
本明細書の実施例では、本発明の誘導体(4〜5、7〜9、及び10〜16)と中間体(1〜3、及び6)は、以下の化合物の一覧表によるそれらそれぞれの太字及び下線を引いたアラビア数字によって示す。対応する式は、明細書の終わりのスキームの中に登場する。
【0081】
化合物一覧
1.バクテリオクロロフィルa(Bchl a)
2.バクテリオフェオフォルビドa(Bpheid a)
3.Pd−バクテリオフェオフォルビドa(Pd−Bpheid a)
4.パラジウム3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13−(2−スルホエチル)アミド二カリウム塩[実施例1]
5.−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13−(2−スルホエチル)アミド二カリウム塩[実施例2]
6.パラジウムバクテリオフェオフォルビドa 17−(3−スルホ−1−オキシスクシンイミド)エステルナトリウム塩[実施例6]
7.パラジウムバクテリオフェオフォルビドa 17−(3−スルホプロピル)アミドカリウム塩[実施例7]
8.パラジウム3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13,17−ジ(3−スルホプロピル)アミド二カリウム塩[実施例8]
9.パラジウム3−(3−スルホプロピルイミノ)−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13,17−ジ(3−スルホプロピル)アミド三カリウム塩[実施例9]
10.銅(II)3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13−(2−スルホエチル)アミド二カリウム塩[実施例3]
11.亜鉛3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13−(2−スルホエチル)アミド二カリウム塩[実施例4]
12.マンガン(III)3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13−(2−スルホエチル)アミド二カリウム塩[実施例5]
13.パラジウム3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13−(2−スルホエチル)アミド、17−(N−イムノグロブリンG)アミドカリウム塩][実施例10]
14.パラジウム3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13−(2−カルボキシエチル)アミド二カリウム塩[実施例11]
15.パラジウム3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13−(3−ホスホプロピル)アミド三カリウム塩[実施例12]
16.パラジウム3−(3−スルホプロピルアミノ)−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン 13,17−ジ(3−スルホプロピル)アミド三カリウム塩[実施例13]
【0082】
材料及び方法
(i)Bchl a()は、前述(WO 00/33833)のようにして、Rhodovolum Sulfidophilumの凍結乾燥した細胞から抽出して精製した。
(ii)パラジウムバクテリオフェオフォルビド(Pd−Bpheid、)は、前述(WO 00/33833)のようにして調製するか、又はNegma−Lerads社を介してSteba Biotech Ltd.社(フランス)から入手した。
(iii)3−アミノ−1−プロパンスルホン酸(ホモタウリン)及び3−アミノ−1−プロパンホスホン酸は、Aldrich社(米国)から購入し、2−アミノエタンスルホン酸(タウリン)及び3−アミノプロピオン酸(β−アラニン)は、Sigma社(米国)から購入し、N−ヒドロキシ−スルホスクシンイミド(スルホ−NHS)は、Pierce社(米国)から購入し、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド(EDC)は、Fluka社(スイス)から購入した。
(iv)HPLC用の溶媒を適用するHPLCを行う場合以外は、分析用の化学品及び溶媒を一般的に使用した。
(v)TLC:シリカプレート(キーゼルゲル60、ドイツのメルク社)、クロロホルム−メタノール(4:1、v/v)。
(vi)H核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、Avance DPX250の装置(フランスのBruker社)で記録し、内部標準としての残留溶媒ピークのテトラメチルシランからのppm(δ)で表したダウンフィールドシフトを報告した。
(vii)Pd−誘導体の減衰係数は、Pd濃度(PdClを標準とする炎光光度法を用いる)を試験溶液の特定の波長における光学密度と相関させることにより測定した。
(viii)電気スプレー電離マススペクトル(ESI−MS)は、プラットフォームLCZスペクトロメータ(Micromass社、英国)で記録した。
(ix)Pd濃度の測定には、ELAN−6000の装置(Perkin Elmer社、米国コネティカット州)を用いて、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)を行った。
(x)種々錯体の光吸収は、Genesis−2(Milton Roy社、英国)及びV−570(JASCO社、日本)分光光度計で記録した。
(xi)HPLCは、UV−915ダイオードアレー検知器を装着したLC−900の装置(JASCO社、日本)を用いて実施した。
(化学品実施例)
【実施例1】
【0083】
パラジウム3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13−(2−スルホエチル)アミド二カリウム塩(化合物
935mgのPb−Bpheid()を、1Lの丸底フラスコ中の120mlのDMSOにアルゴン下で(溶液中に吹き込む)攪拌して溶解した。タウリン(1288mg)を1MのKHPOバッファー40mlに溶解し、その溶液のpHをHClで8.2に合わせた。この水溶液をDMSO溶液に攪拌しながら加え、アルゴンをその溶液にさらに20分間吹き込んだ。続いてその反応混合物をほぼ2ミリバールの下、30℃で3.5時間と、その後さらに2時間、37℃で完全な乾燥状態まで乾燥させた。その乾燥固体を300mlのMeOHに溶解し、その着色した溶液を脱脂綿により濾過してバッファー塩及び過剰のタウリンを取り除いた。
【0084】
反応の進行は、TLC(未反応のPd−BpheidのRは、0.8〜0.85であり、反応(アミノリシス)生成物では、0.08〜0.1である)と、凍結乾燥をしてMeOHに再溶解した後の反応混合物の光吸収スペクトルを追うこととにより測定した。その吸収スペクトルは、756nm(Pd−Bpheidに対応)から747nm(生成物に対応)へのQ遷移シフトによるのと、Pd−Bpheidの534nmから519nm(生成物)へのQシフトとにより特性化した。MeOHを蒸発させ、生成物をODS−A250×20S10Pμmカラム(YMC社、日本)によるHPLCにより精製した。溶媒A:95%の0.005Mホスファートバッファ、pH8.0、及び5%のMeOH。溶媒B:100%MeOH。その乾燥固体を42mlの蒸留水に溶解して、各1.5mlの分量で注射した。
【0085】
溶出プロフィールを表1に記載する。生成物(下のスキーム1参照)を溶出し、約9〜11分のところで捕集した。4〜7分後に捕集した主な不純物(約5〜10%)は、提案された構造を有する副生成物(1つ又は複数)に対応した。22〜25分におけるピーク(約2〜5%)は、多分、主生成物のイソ型及び未処理のPd−Bpheid残留物に対応した。
【表1】

【0086】
溶媒(水性メタノール)を、減圧下で蒸発させた。次いで、精製した生成物を約150mlのMeOHに再溶解し、脱脂綿により濾過した。その溶媒を再度蒸発させ、固体色素のをAr下の暗所に−20℃で保存した。反応収率:約90%(重量で、に対して)。
【0087】
生成物の構造を、電気スプレー質量分析により確認した。
(ESI−MS、マイナスモード、図2)、(875(M−K−H)、859(M−2K−H+Na)、837(M−2K)、805(K2K−H−OMe)、719におけるピーク)及びH−NMRスペクトル(MeOH−dの図4)。
表4は、主なNMRピークのシフト(ppm単位)を提供する。
光吸収(UV−VIS)スペクトル(MeOH):λ、747(1.00)、516(0.13)、384(0.41)、330(0.50)、ε747(MeOH)は、1.2×10mol−1cm−1である。


オクタノール/水の分量比は、40:60である。
【実施例2】
【0088】
−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13−(2−スルホエチル)アミド二カリウム塩(化合物)の調製
160mgのタウリンを1MのKHPOバッファー5mlに溶解し、その溶液のpHを8.2に合わせた。この溶液を、15mlのDMSOに溶解した120mgの化合物に加え、反応とその後の精製は、前の実施例で記載したものと同様にした。
吸収スペクトル(MeOH):λ、750(1.00)、519(0.30)、354(1.18)nm。


オクタノール/水の分量比は、60:40である。
【実施例3】
【0089】
銅(II)3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13−(2−スルホエチル)アミド二カリウム塩(化合物10)の調製
50mgの実施例2の化合物及び35mgの酢酸銅(II)を、40mlのメタノールに溶解し、アルゴンをその溶液に10分間吹き込んだ。次いで500mgのアスコルビン酸パルミトイルを加え、その溶液を30分間攪拌した。その吸収スペクトルは、750nm(に対応)から768nm(生成物10に対応)へのQ遷移シフトによるのと、の519nmから537nm(生成物10)へのQシフトとにより特性化した。次に反応混合物を蒸発させ、アセトンに再溶解して脱脂綿により濾過し、過剰の酢酸塩を取り除いた。そのアセトンを蒸発させ、生成物を、表2に記載した溶出プロフィールを有する上記の条件におけるHPLCによりさらに精製した。
【0090】
溶媒(水性メタノール)を、減圧下で蒸発させた。次いで、精製した生成物10をメタノールに再溶解し、脱脂綿により濾過した。その溶媒を再度蒸発させ、固体色素の10をAr下の暗所に−20℃で保存した。反応収率:約90%。
【表2】


吸収スペクトル(MeOH):λ、768(1.00)、537(0.22)、387(0.71)及び342(0.79)nm。
ESI−MS(−):795(M−2K)。
オクタノール/水の分量比は、40:60である。
【実施例4】
【0091】
亜鉛3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13−(2−スルホエチル)アミド二カリウム塩(化合物11)の調製
化合物へのZnの挿入は、前述(米国特許第5726169号)のようにして酢酸中の酢酸Znにより行った。最後の精製は、上の実施例2の化合物に対するのと同じ条件のHPLCにより行った。
吸収スペクトル(MeOH):λ、762(1.00)、558(0.26)、390(0.62)及び355(0.84)nm。
オクタノール/水の分量比は、50:50である。
【実施例5】
【0092】
マンガン(III)3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13−(2−スルホエチル)アミド二カリウム塩(化合物12)の調製
化合物へのMnの挿入は、前述(WO 97/19081、US 6,333,319)のものをある程度修正して酢酸中の酢酸Znにより行った。そういうわけで、10mlのDMF中の50mgの化合物を、220mgの酢酸カドミウムと共に攪拌し、アルゴン雰囲気下、110℃で約15分間加熱した(Cd錯体の形成は、Q遷移吸収帯をアセトン中で519から585nmにシフトすることにより監視する)。続いてその反応混合物を冷却して蒸発させた。乾燥した残留物を15mlのアセトンに再溶解し、塩化マンガン(II)と共に攪拌してMn(III)−生成物12を形成した。その生成物の形成は、アセトン中でQ遷移吸収帯を585から600nmに、Q遷移吸収帯を768から828にシフトすることにより監視する。そのアセトンを蒸発させ、生成物12を、下の表3に記載した溶出プロフィールを有する上の実施例2で述べた条件のHPLCにより(ただし、溶媒系は、Aが5%のメタノール水溶液、Bがメタノールからなる)さらに精製した。
【表3】

【0093】
溶媒(水性メタノール)を、減圧下で蒸発させ、固体色素の12をAr下の暗所に−20℃で保存した。
吸収スペクトル(MeOH):λ、828(1.00)、588(0.32)、及び372(0.80)nm。
オクタノール/水の分量比は、5:95である。
【実施例6】
【0094】
パラジウムバクテリオフェオフォルビドa17−(3−スルホ−1−オキシスクシンイミド)エステルナトリウム塩(化合物)の調製
50mgのPd−Bpheid(化合物)、80mgのN−ヒドロキシ−スルホスクシンイミド(スルホNHS)及び65mgの1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド(EDC)を、7mlのドライのDMSO中で、一晩室温で混合した。続いて、その溶媒を減圧下で蒸発させた。その乾燥した残留物をクロロホルム(約50ml)に再溶解し、不溶性物質から濾別し、蒸発させた。転化率は、約95%(TLC)であった。その生成物は、その後、さらなるクロマトグラフィーによる精製はしないで使用した。ESI−MS(−):890(M−Na)。

【実施例7】
【0095】
パラジウムバクテリオフェオフォルビドa17−(3−スルホプロピル)アミドカリウム塩(化合物)の調製
1mlのDMSO中の10mgの化合物を、0.1MのK−ホスファートバッファ(pH8.0)1ml中の20mgのホモタウリン(3−アミノ−1−プロパン−スルホン酸)と、一晩混合した。続いてその反応混合物を、クロロホルム/水の中で分配した。その有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発させた。乾燥した残留物をクロロホルム−メタノール(19:1)に再溶解し、シリカによるクロマトグラフカラムにかけた。生成物7を、クロロホルム−メタノール(4:1)の溶出により得た。収率は、約80〜90%であった。

【実施例8】
【0096】
パラジウム3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13,−17ジ(3−スルホプロピル)アミド二カリウム塩(化合物
10mgの化合物又はを、3mlのDMSOに溶解し、0.5MのK−ホスファートバッファ(pH8.2)1ml中の100mgのホモタウリンと混合し、室温で一晩インキュベートした。溶媒を、続いて上記のようにして減圧下で抜き、生成物をHPLCにより精製した。収率:83%。
吸収スペクトル(MeOH):747(1.00)、516(0.13)、384(0.41)、330(0.50)、ε747=1.3×10mol−1cm−1

【実施例9】
【0097】
パラジウム3−(3−スルホプロピルイミノ)−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13,−17ジ(3−スルホプロピル)アミド三カリウム塩(化合物
化合物は、の合成の間に副次的生成物としてHPLCにより得られた。
吸収スペクトル(MeOH):729(1.00)、502(0.10)、380(0.69)、328(0.57)。

【実施例10】
【0098】
パラジウム3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13−(2−スルホエチル)アミド,17(N−免疫グロブリンG)アミドカリウム塩(化合物13
10mgの化合物を、20mgのスルホ−NHS及び15mgのEDCと1mlのドライのDMSO中で、1時間室温で反応させ、続いてPBS(2.5ml)中のウサギ免疫グロブリンG(IgG)(0.6mg)を加え、その混合物をさらに一晩室温で培養した。その混合物を蒸発させて乾燥状態とし、続いて1mlのPBSに再溶解し、PBSで釣り合いをとったSephadex G−25カラムに充填した。4〜5mlのPBSにより有色バンドが溶出した。得られた結合体13中の色素/タンパク質の比率は、それぞれ753及び280nmにおける光学密度により測定し、色素13/タンパク質の0.5/1から1/1の間で変化させた。
【実施例11】
【0099】
パラジウム3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13−(2−カルボキシエチル)アミド二カリウム塩(化合物14)の調製
表題化合物14の調製及び精製は、実施例2に記載したようにして、化合物をタウリンの代わりに3−アミノプロピオン酸(β−アラニン)(150mg)と反応させることにより行った。収率:85%。
【実施例12】
【0100】
パラジウム3−オキソ−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13−(3−ホスホプロピル)アミド三カリウム塩(化合物15)の調製
表題化合物15の調製及び精製は、実施例2に記載したようにして、化合物をタウリンの代わりに3−アミノ−1−プロパンホスホン酸(180mg)と反応させることにより行った。収率:68%。
【実施例13】
【0101】
パラジウム3−(3−スルホプロピルアミノ)−15−メトキシカルボニルメチル−ロドバクテリオクロリン13,−17ジ(3−スルホプロピル)アミド三カリウム塩(化合物16
−(3−スルホプロピルイミノ)のイミノ基を還元して対応する3−(3−スルホプロピルアミノ)基にするために、化合物(8mg)を、水素化シアノホウ素ナトリウム(15mg)と5mlのメタノール中で、一晩室温で攪拌して反応させた。続いてその反応混合物を、0.05MのHCl(5ml)で処理し、0.01MのKOHで中和して蒸発させた。表題の生成物16を実施例2に記載したHPLC条件を使用して精製した。収率:80〜90%。
【0102】
II 生物学の項
材料及び方法
in vitroでの検討
(i)細胞培養。M2Rマウスのメラノーマ細胞、H5Vマウスの内皮細胞及びC6ラットのグリオーマ細胞を、25mMのHEPES、pH7.4、10%ウシ胎仔血清(FBS)、グルタミン(2mM)、ペニシリン(0.06mg/ml)、及びストレプトマイシン(0.1mg/ml)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)/F12(以後「培地」と呼ぶ)中で単層として培養した。細胞は、8%COの湿った雰囲気中、37℃で増殖させた。
【0103】
(ii)光毒性アッセイ。光力学的有効性を測定するため、細胞を、個々の実験のために指示した時間及び条件で、暗所で漸増濃度の色素と共に予め培養した。結合しなかった増感剤は、細胞を培地で1回洗浄して除去し、そのプレートを室温で底部から照射した(λ>650nm、12J/cm)。光源は、4cmのウォーターフィルターを装着した100Wのハロゲンランプ(Osram社、ドイツ)を用いた。培養物を培養器に入れ、照射後24時間の細胞生存を、ニュートラルレッド生死判別アッセイにより測定した。3つの種類の対照、(i)光対照:色素なしで照射した細胞、(ii)暗対照:色素で処理はするが暗所に保った細胞、(iii)処理しないで暗所に保った細胞、の3つを使用した。
【0104】
in vivoでの検討
(iii)腫瘍の移植。M2R又はC6細胞(2×10)をマウスの背中の皮下に移植し、2〜3週間で腫瘍を処理サイズ(6〜8mm)まで成長させた。
【0105】
(iv)増感剤の調製。本発明の化合物の原液を、使用前に乾燥色素をPBSに直接溶解して注射用として望ましい濃度にすることにより調製した。
【0106】
(v)体内分布及び薬物動態。本発明の色素(6mg/kg体重)を、CD1ヌードマウスに尾の血管から注射した。マウスは、指定した時間に屠殺し、指定した臓器又は組織のサンプルを予め計量してあるガラス瓶に入れて計量し、直ちにドライアイスで凍結した。試験のため、各サンプルは、二回蒸留水中で解凍して均質化した(1:10w/v)。そのホモジェネートのアリコート(0.5ml)を、エッペンドルフ試験管中で凍結乾燥させた。続いて、0.2mlのHNO(70%、トレースセレクト、Fluka)を各乾燥サンプルに加え、90℃で1時間培養し、二回蒸留水で10mlまで希釈した。パラジウム濃度を、ICP−MSで測定した。未処理のマウスから採取した同じサンプルで各臓器/組織に対するバックグラウンドを測定し、その値を適宜差し引いた。
【0107】
(vi)PDTプロトコール。M2R腫瘍をもつマウスを、麻酔し、色素を尾の血管から静脈注射(i.v.)した。腫瘍を、755nmダイオードレーザー(CeramOptec社、ドイツ)により、30J/cm(100mW/cm)、39J/cm(130mW/cm)又は45J/cm(150mW/cm)のいずれかの光線量を、直ちに経皮的に5分間照射した。処理後マウスは、籠に返した。暗所対照の群では、マウスは増感剤を静脈注射し、暗所の籠に24時間おいた。光対照の群では、マウスは、45J/cmを照射した。
【0108】
(vii)脈管閉鎖及び透過性。C6神経膠腫異種移植片をもつマウスを、色素(9mg/kg)及び光(100mW/cmを5分間)で処理した。処理直後にエバンスブルー(EB、PBS中1%)を注射した(0.5ml、i.p.)。マウスは、処理後3時間及び24時間後写真を撮った。マウスは、処理の24時間後犠牲にして、各マウスに対して皮弁を作り、撮影した。続いて腫瘍をその上の皮膚と共に取り除き、−20℃で1時間凍結し、続いて軸方向薄片を作り、その薄片を撮影した。対照マウスに、処理マウスと同時にエバンスブルーを注射し、すべてのマウスに対して一緒に上記のプロトコールを続けた。
【実施例14】
【0109】
腫瘍細胞培養物に対するスルホン化バクテリオクロロフィル誘導体の細胞光毒性
化合物及びの光毒性を、M2Rマウスメラノーマ細胞及びH5Vマウス内皮細胞で、上の(ii)に記載したようにして測定した。化合物の濃度を増していった細胞を4時間にわたって予め培養し、洗浄して照射するか又は暗所に保った。
【0110】
その結果を、H5V細胞及びMR2細胞それぞれにおける二スルホン化化合物に対しては、図1A〜1Bに、H5V細胞及びMR2細胞それぞれにおけるモノスルホン化化合物(比較)に対しては、図2A〜2Bに示す。図から分かるように、色素及びの両方の光毒性は、濃度及び光に依存し、試験範囲において暗所での毒性はない。両色素のLD50は、同等(約2μM)であり、両細胞系で類似している。
【0111】
スルホン化色素及び11の光毒性を、M2Rマウスメラノーマ細胞で測定した。図3及び4から分かるように、色素及び11の光毒性は、濃度及び光依存性であり、両色素のLD50は、同等(約5μM)である。試験範囲において暗所毒性はない。
【実施例15】
【0112】
化合物の薬物動態及び体内分布
固形メラノーマ異種移植片のPDTに向けたの光毒性を試験する前の最初のステップは、上の項目(vi)で記載したin vivoでの色素の薬物動態及び体内分布を測定することであった。図5から分かるように、色素の約90%が、静脈注射後最初の10分以内に1.65分のt0.5を有する(表4)一相性動態パターンで消失した。の血液からの速い消失は、ごく少ない部分しか(仮にあったとしても)血漿成分に結合していないことを示すものであり、さもなければ、消失はもっと遅かった筈である。
【表4】

【0113】
化合物の体内分布は、マウスの試験した臓器の殆どで、色素濃度が注射直後は高く、血液からのそれらの消失速度と同様に、20〜30分以内に殆どバックグラウンド濃度まで低下することを示している(図6)。これらの結果は、脾臓、肺、及び心臓で見られる臓器の脈管構造に捕捉されている血液中の色素濃度を多分表している。さらにその結果は、また、色素の臓器への拡散が無視できることも示している。色素は、マウスの体から急速に消えてなくなり、注射後30分以内にそれはすべての組織においてバックグラウンド濃度である。のマウスの体からの消失速度は、注射後わずか48時間でバックグラウンド濃度に到達するPd−Bpheid()(図示はない)よりはるかに速い。
【実施例16】
【0114】
CD1ヌードマウスのM2Rメラノーマ異種移植片のスルホン化色素による光力学処理
上の実施例15の薬物動態の結果に基づいて、化合物のための処理プロトコールを、色素の注射直後に5分の照射と設定した。これらの実験(上の項目(vii)参照)では、のピークの吸収に合致した専用の医用レーザー(CeramOptec社、ドイツ、755nm)を使用した。最適の薬剤/光のプロトコールを決定するために、マウスを6mg/kgの薬剤投与量で光強度を増大しながら処理した(図7)。カプラーマイヤー生存曲線から分かるように、光強度を増すことによって、マウスの治癒率は、それぞれ、30J/cm及び45J/cmで、43%から60%に改善される。薬剤の投与量を光強度30J/cmで9mg/kgに上げた場合、マウスでの生存率の70%への有意な増加があった(図7)。6又は9mg/kgで処理して暗所に保った動物は、暗所毒性は認められなかった。
【実施例17】
【0115】
化合物による光力学処理の選択的効果
この実験は、上の項目(vii)に記載したようにして行った。図8は、マウスに移植したC6異種移植片における血液潅流に対する光力学処理の効果を示している(a、e)。PDTの直後にエバンスブルーを投与して処理した動物は、同じ動物の照射してない領域及び処理してない動物と比較したとき、照射した領域に、水腫及び青色(アルブミンエバンスブルーの漏洩による)によって示される間質へのEBの促進された脈管漏洩を示した(b、f)。24時間後、処理したマウスの中は、腫瘍の周囲がひどく着色した青(水腫、c)であり、一方その腫瘍は、PDTの直後に起こった脈管閉鎖のために白いまま(EB色でなない)残っていることを見ることができる。腫瘍の下、並びにその腫瘍の上及び周りの皮膚の下の筋肉組織(処理した領域内は除く)は、青であり、脈管閉鎖が起こらなかったことを示している(c、d)。未処理の動物においては、腫瘍は、他の組織のように着色した青である(g、h)。腫瘍中の新しい血管の選択的囲い込みは、本発明の化合物が、加齢黄斑変性症(AMD)におけるような異常脈管構造の選択的治療に使用することができることを示している。
【実施例18】
【0116】
化合物によるPDT処理−AMD動物モデル
光力学療法(PDT)は、脈絡膜から生ずる新たに形成された血管膜(脈絡膜新血管膜形成−CNV)の局部的な血管閉塞を引き起こすことを狙って開発された。加齢黄斑変性症(AMD)において、ベルテポルフィンを使用するPDTは、CNVに続発する視力喪失の危険を減少する。PDTの作用機構は、内皮細胞を損傷させ内皮下の凝固カスケードを活性化する反応性酸素種の放出を含むものと考えられる。これらの事象は、血管内腔内に血栓の形成をもたらす。
【0117】
脈絡膜新血管膜形成の治療のため、高度に選択的なパラメータ(レーザー出力密度又はフルエンス、光増感剤投与量、及び光照射の間隔(DLI))が開発され、病的血管の正確な焦点合わせ及び標的並びに健康な網膜及び脈絡膜組織に対する最小の二次的損傷効果を可能にした。しかしながら、臨床用途のために現在利用できる唯一の光増感剤(ベルテポルフィン)を使用することで、望ましいCNV閉塞効果を達成するためには、繰り返しの治療が一般に必要である。それ故、付随的な組織の損傷の危険が高められ、治療の著しい副作用となるかもしれない。
【0118】
この実験では、本明細書でWST11又は化合物と称する水溶性光増感剤の光力学処理(PDT)の可能性を評価し、その特徴をベルテポルフィンのそれと比較した。
【0119】
化合物は、黒紫色の結晶性粉末として単離される純粋で安定なバクテリオクロロフィル誘導体である。それは、916の分子量を持ち、水溶液に溶解する。それは、以下の性質:(a)4つの主な吸収ピーク(750、530、385、及び330nm)があり、最も強い光の吸収は組織の透過率が最も高い近赤外(750nm)であること、(b)暗所での細胞毒性が非常に低く、したがって、組織の損傷を光線量及び露光の長さにより制御できること、(c)それは、投与後体から速やかに除去され、それ故、周囲の光又は太陽光に晒された場合の皮膚の光増感損傷の可能性が最小であること、(d)反応性酸素種(ROS)の発生が、効果的な項間交差(ISC)のために高いこと、を特徴とする。
【0120】
WST11粉末を、エンドトキシンを含まない滅菌水に10mg/mlの濃度で希釈し、完全に溶解するまで振とうした。この調合物は、4℃で光から保護して24時間安定である。注射する容量を計算するには、ウサギの体重により調整した。適切な体積の溶液を末端の耳の血管からボーラスとして静脈注射した。
【0121】
加齢黄斑変性症(AMD)のPDTに対する化合物の可能性を、ウサギの目のモデルを用いてベルテポルフィン(Visudyne(登録商標)、Novartis社、スイス)と比較した。色素を投与したウサギ(136“Fauve de Bourgogne”ウサギ、生後10〜12週間、2.5〜3kg、Elevage des Pins、Epeigne−sur−Deme、フランス)を使用した。ウサギの目に対する急性及び長期のPDT効果を、以下のパラメータに対して調べた。1)753nmレーザーフルエンス(25及び50J/cm)、化合物(WST11とも称する)投与量(2.5及び5mg/kg)及び1、5、10及び15分の光照射間隔(DLI)。2)689nmレーザーフルエンス(10、50、100J/cm)、ベルテポルフィン投与量(3、6及び12mg/m)及び5分間の一定DLI。脈絡膜及び覆っている網膜に対する数々の効果を包含するこれらのPDTパラメータは、閉塞、閾値下閉塞、及び非閉塞血管事象を引き起こすために83秒間与えられた。処理したウサギの目を診察し、続いて間接的検眼鏡検査、蛍光眼底血管造影(FA)及び組織構造検査をPDTの後様々な間隔で行った。50J/cmのフルエンス、5mg/kgの薬剤投与量及び1分間のDLIを使用するWST11のPDTは、処理した目の100%で、覆っているRPE及び網膜の構造の損傷と関係する全体的な脈絡膜の閉塞を引き起こした(図9A〜9D)。もっと弱くて非閉塞性のPDTパラメータ(25J/cm、5mg/kgの薬剤投与量及び10分間のDLI)は、脈絡毛細管枝閉塞も網膜損傷も引き起こさなかった。100J/cmのフルエンスで12mg/mの薬剤投与量と、5分間のDLIを用いるベルテポルフィンのPDTは、89%の目の閉塞事象(FAにより観察)と、すべての目における覆っている網膜及びRPE層の組織学的損傷を引き起こした。3mg/mの薬剤投与量、10J/cmのフルエンス及び5分間のDLIを用いるもっと弱くて非閉塞性のベルテポルフィンのPDTパラメータは、FAに対して脈絡毛細管枝閉塞を引き起こさなかった。しかしながら、これらの目で網膜及び脈絡膜組織の明確な構造損傷が組織学的に観察された。ベルテポルフィンと同様に、WST11のPDTは、処理後最長1週間まで観察される脈絡毛細管枝の一時的な閉塞を引き起こす。ベルテポルフィンとは異なり、血管閉塞を引き起こさないWST11のPDTパラメータは、RPE又は網膜の構造損傷の原因とはならない。それ故、血管閉塞を引き起こすその能力にもかかわらず、WST11のPDTは、脈絡毛細管枝の閉塞を起こさないときはRPE及び覆っている網膜に対する損傷を引き起こすことはない。これら特徴の利点は、WST11が、加齢黄斑変性症のCNVのPDT処理に対する候補に適することを指し示している。
【0122】
組織学的検討のため、摘出した目を、単対物双眼顕微鏡のもとで解剖した。4mmの生検パンチを使用して、処理した範囲の全体の厚さを切り取った。これらの組織を、グルタルアルデヒド中で凝固させ、カコジル酸緩衝液中で処理し、プラスチックにはめ込んだ。やや薄い切片を、マイクロトームを用いてとり、ヘマトキシリンエオインで対比染色した。これらの切片を、位相差顕微鏡法を用いて分析した。重要な特定部位は、さらにTEM用に処理した。超ミクロトームを用いて超薄切片を得て酢酸ウラニルで対比染色した。
【0123】
参考文献
Chen Q、Huang Z、Luck D、Beckers J、Brun PH、Wilson BC、Scherz A、Salomon Y、Hetzel FW、(2002年)前立腺癌の光力学療法のための新規なパラジウムバクテリオフェオフォルビド(WST09)光増感剤の正常な犬の前立腺における前臨床試験(Preclinical studies in normal canine prostate of a novel palladiumbacteriopheophorbide(WST09)photosensitizer for photodynamic therapy of prostate cancers.)Photochem Photobiol、76(4):438〜45。
【0124】
Koudinova NV、Pinthus JH、Brandis A、BrennerO、Bendel P、Ramon J、Eshhar Z、Scherz A、Salomon Y、(2003年)Pdバクテリオフェオフォルビドによる光力学療法(TOOKAD):ヒト前立腺小細胞癌腫異種移植片の成功するin vivoでの治療(Photodynamic therapy with Pd−Bacteriopheophorbide(TOOKAD):successful in vivo treatment of human prostatic small cell carcinoma xenografts.)Int J Cancer 104(6):782〜9。
【0125】
Rosenbach−Belkin,V.、Chen,L.、Fiedor,L.、Tregub,I.、Pavlotsky,F.、Brumfeld,V.、Salomon,Y.、Scherz,A.(1996年)クロロフィル及びバクテリオクロロフィルのセリン結合体:in vitroでの光細胞毒性及びメラノーマ腫瘍をもつマウスにおける組織分布(Serine conjugates of chlorophyll and bacteriochlorophyll:Photocytotoxicity in vitro and tissue distribution in mice bearing melanoma tumors.)Photochem.Photobiol.64:174〜181。
【0126】
Schreiber S、Gross S、Brandis A、Harmelin A、Rosenbach−Belkin V、Scherz A、Salomon Y、(2002年)手術と比較して転移の減少及び動物治癒の増加をもたらすPd−バクテリオフェオフォルビドによるラットのC6神経膠腫異種移植片の局所光力学療法(PDT)(Local photodynamic therapy(PDT)of rat C6 glioma xenografts with Pd−bacteriopheophorbide leads to decreased metastases and increase of animal cure compared with surgery.)Int J Cancer.99 (2):279〜85。
【0127】
Zilberstein,J.、Schreiber,S.、Bloemers、MCWM、Bendel,P.、Neeman,M.,Schechtman,E.、Kohen,F.、Scherz,A.Salomon,Y.(2001年)バクテリオクロロフィル−セリンに基づく光力学療法による固形メラノーマ腫瘍の抗血管治療(Antivascular treatment of solid melanoma tumors with bacteriochlorophyll−serine−based photodynamic therapy.)Photochem.Photobiol.73:257〜266。
【0128】
Zilberstein,J.、Bromberg,A.、Franz,A.、RosenbachBelkin,V.、Kritzmann,A.、Pfefermann,R.、Salomon,Y.、Scherz,A.(1997年)バクテリオクロロフィル−セリン−処理メラノーマ腫瘍における光依存酸素消費:組織挿入酸素マイクロセンサを用いるオンライン測定(Light−dependent oxygen consumption in bacteriochlorophyll−serine−treated melanoma tumors:On−line determination using a tissue−inserted oxygen microsensor.)Photochem.Photobiol.65:1012〜1019。
【0129】
【化2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの負荷電基及び/又は生理的pHにおいて負荷電基に変換される酸性基を含有する式I
【化1】


[式中、
Mは、2H又は二価のPd、Pt、Co、Sn、Ni、Cu、Zn及びMn、並びに三価のFe、Mn及びCrから選択される金属原子を表し;
、及びRは、それぞれ独立してY−Rであり;
Yは、O、S又はNRであり;
は、−CH=CH、−C(=O)−CH、−C(=O)−H、−CH=NR、−C(CH)=NR、−CH−OR、−CH−SR、−CH−NRR’、−CH(CH)−OR、−CH(CH)−SR、−CH(CH)−NRR’、−CH(CH)Hal、−CH−Hal、−CH−R、−CH=CRR’、−C(CH)=CRR’、−CH=CRHal、−C(CH)=CRHal、及び−C≡CRから選択され;
、R、R及びR’は、それぞれ独立して
H又は、
(a)1つ若しくは複数のヘテロ原子、炭素環若しくは複素環部分を場合により含有しており、且つ/又は、ハロゲン、オキソ、OH、SH、CHO、NH、CONH負荷電基、及び生理的pHにおいて負荷電基に変換される酸性基からなる群から選択される1つ若しくは複数の官能基により場合により置換されているC〜C25ヒドロカルビル;
(b)アミノ酸、ペプチド又はタンパク質の残基;並びに
(c)Yが、O又はSである場合、さらにRであってもよいRであり;ここでRは、H又は陽イオンであり、
からなる群から選択され;
但し、R、R、R及びR’の少なくとも1つが、負荷電基、又は生理的pHにおいて負荷電基に変換される酸性基により置換されている上の(a)で定義した炭化水素鎖であるか;又はR、R、R及びR’の少なくとも1つが、アミノ酸、ペプチド又はタンパク質の残基であり、
及び/又はR、R及びRの少なくとも1つが、OH、SH、O、S又はアミノ酸、ペプチド又はタンパク質の残基であり;
ここで該負荷電基が、COO、COS、SO、及び/又はPO2−からなる群から選択され、生理的pHにおいて負荷電基に変換されている該酸性基が、COOH、COSH、SOH、及び/又はPOからなる群から選択され;
但し、Mが上記のように定義され、Rが−C(=O)−CH、RがOH又はOR及びRが−OCHである式Iの化合物を除いた]
のバクテリオクロロフィル誘導体。
【請求項2】
2つの負荷電基を含有する請求項1に記載のバクテリオクロロフィル誘導体。
【請求項3】
3つの負荷電基を含有する請求項1に記載のバクテリオクロロフィル誘導体。
【請求項4】
がY−Rであり、
YがO、S又はNHであり、
がOH、SH、SOH、NH、CONH、COOH、COSH、POから選択される官能基によって置換されている炭化水素鎖である、
請求項1に記載のバクテリオクロロフィル誘導体。
【請求項5】
が、アミノ酸、ペプチド又はタンパク質の残基である請求項1に記載のバクテリオクロロフィル誘導体。
【請求項6】
中心Pd金属原子を含有する請求項1に記載のバクテリオクロロフィル誘導体。
【請求項7】
Mが、Pdであり;
が、−NH−(CH−SO、−NH−(CH−COO、又は−NH−(CH−PO2−(Rであり;
が、メトキシであり;
が、−C(=O)−CHであり;
が、K、Na、Li又はNH等の一価陽イオンであり;及び
nが、1から10までの整数である;
請求項1に記載のバクテリオクロロフィル誘導体。
【請求項8】
パラジウムバクテリオフェオフォルビドa 17−(3−スルホプロピル)アミドカリウム塩である、請求項7に記載のバクテリオクロロフィル誘導体。
【請求項9】
パラジウムバクテリオフェオフォルビドa 17−(3−スルホ−1−オキシスクシンイミド)エステルナトリウム塩である化合物。
【請求項10】
請求項1から8までのいずれか一項に記載のバクテリオクロロフィル誘導体及び薬剤として許容される担体を含む薬剤組成物。
【請求項11】
光力学療法用の請求項10に記載の薬剤組成物。
【請求項12】
脈管標的光力学療法用の請求項11に記載の薬剤組成物。
【請求項13】
転移性腫瘍を含む腫瘍の光力学療法用の請求項11又は12に記載の薬剤組成物。
【請求項14】
メラノーマ、大腸癌、乳癌、肺癌又は前立腺癌の光力学療法用の請求項13に記載の薬剤組成物。
【請求項15】
加齢黄斑変性症の光力学療法用の請求項11又は12に記載の薬剤組成物。
【請求項16】
良性前立腺肥大症の光力学療法用の請求項11又は12に記載の薬剤組成物。
【請求項17】
腫瘍診断用の請求項10に記載の薬剤組成物。
【請求項18】
細胞、又は細菌及びウイルスを含む病原菌を殺すための請求項10に記載の薬剤組成物。
【請求項19】
生物学的製剤中の細胞又は細菌及びウイルスを含む病原菌を、前記製剤の照射でin vitroで殺すための請求項18に記載の薬剤組成物。
【請求項20】
前記生物学的製剤が、血液である請求項19に記載の薬剤組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【公開番号】特開2011−162551(P2011−162551A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96875(P2011−96875)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【分割の表示】特願2004−553058(P2004−553058)の分割
【原出願日】平成15年11月17日(2003.11.17)
【出願人】(500370311)イエダ リサーチ アンド デベロップメント カンパニー リミテッド (30)
【Fターム(参考)】