説明

水溶液からのモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の回収用の吸着法

本発明は、水溶液からのモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の回収法に関するが、その際、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を(2)〜(6)の範囲のpH値で水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料に結合させ、負荷された担体材料を分離し、結合したモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を(6)〜(14)の範囲のpH値で再び水溶液中に遊離させる。陽イオン化された無機担体材料は例えば陽イオン化された層状珪酸塩、有利には四級アンモニウム塩でイオン交換されたベントナイト又は類似の粘土鉱物である。この方法は、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩の触媒作用によるパルプの過酸化水素を用いる脱リグニン化でモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を回収するために好適である。回収したモリブデン酸塩又はタングステン酸塩は脱リグニン化に戻すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液からモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を回収するための方法に関するが、これは特にモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の触媒作用によるパルプの過酸化水素を用いる脱リグニン化でモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を回収するために好適である。
【0002】
過酸化水素を用いるパルプ漂白は通常アルカリ媒体中で行われる。それは、酸中では高めた温度でラジカルが生成され、これが望ましくない副反応、例えばセルロースの分解を起こすからである。しかし好適な触媒の使用下では、過酸化水素を用いる脱リグニン化及び漂白は酸性条件下でも可能である。
【0003】
US4427490には、タングステン酸ナトリウム又はモリブデン酸ナトリウムによる触媒作用を及ぼした酸中で過酸化水素を用いるクラフトパルプの脱リグニン化及び漂白が記載されている。
【0004】
V.Kubelkaは、Journal of Pulp and Paper Science第18巻、J108−J114頁(1992)で、酸素を用いる脱リグニン化用の工程及びその間に行われる過酸化水素を用いる脱リグニン化(pH値5及び触媒としてモリブデン酸ナトリウムを用いて行われる)の工程を有するパルプの脱リグニン化法を記載している。この論文では、モリブデン酸塩を公知方法で陰イオン交換体を用いて回収する。
【0005】
JP11130762には、タングステン酸塩触媒作用による無水マレイン酸の過酸化水素水溶液との反応混合物からのタングステン酸塩の回収が記載されている。このために反応混合物を、グルカミン置換基を有するキレート化樹脂上に導き、次いで樹脂を硫酸水溶液で洗浄する。その後タングステン酸塩を水酸化ナトリウム水溶液でキレート樹脂から洗浄除去する。FR2320946には、同じ反応混合物用に強塩基性陰イオン交換樹脂を用いるタングステン酸塩の回収が記載されている。
【0006】
JP2003048716には、キレート化作用を有するイオン交換樹脂を使用するモリブデン酸塩の回収が記載されている。
【0007】
CZ279703には、モリブデン酸塩の多段工程の回収法が記載されているが、その際先ずモリブデン酸塩を弱塩基性のスチレン−ジビニルベンゼン−イオン交換体に吸着させ、次の工程でモリブデン酸塩をアンモニア水溶液を用いて遊離させる。
【0008】
JP06010089Bには、モリブデン酸塩を回収するためにジチオカルボキシル基を含有するキレート樹脂が提案されている。
【0009】
しかしイオン交換体カラムを用いるモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の回収は、パルプ漂白で使用するためにはイオン交換体の洗浄用に必要な工程のために費用がかかり、不経済である。更に、パルプの脱リグニン化で生じるリグニンの分解生成物が公知技術で使用されるイオン交換樹脂に吸着され、これはイオン交換樹脂のイオン交換作用特性に不利な影響を及ぼす。
【0010】
R.C.Francisその他は、PATPTAC2007の第93年次総会の議事録A261−A268頁で、パルプの触媒作用による脱リグニン化で、陽イオン界面活性剤セチルトリメチルアンモニウムブロミドの添加によってモリブデン酸塩触媒を沈澱させ、生成した錯体を濾過することを提案している。モリブデン酸塩は、濾過した錯体から水酸化ナトリウム溶液に溶解させ、陽イオン界面活性剤を溶剤、例えばイソブタノールで抽出することによって回収する。しかし提案された方法は、モリブデン酸塩からセチルトリメチルアンモニウムブロミドを用いて生成された錯体が濾過することが難しく、モリブデン酸塩を回収するためには付加的な有機溶剤の使用が必要であるという欠点を有する。
【0011】
従って、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を水溶液から高度に回収することができ、実施が簡単である方法が求められているが、その際、この方法はモリブデン酸塩又はタングステン酸塩をパルプの脱リグニン化で生じる水溶液から回収するために好適である。
【0012】
さて、意外にもこの課題を水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料によって解決することができることを見出した。本発明による担体材料は、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を水溶液から2〜6の範囲のpH値で結合し、結合したモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を6〜14の範囲のpH値で再び水溶液中に遊離させる。本発明による担体材料は、更に両方のpH範囲で簡単に沈降、濾過又は遠心分離によって水溶液から分離することができる。
【0013】
従って、本発明の目的は、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を水溶液から回収する方法であり、これには下記工程が含まれる:(a)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液を水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料と2〜6の範囲のpH値で接触させて、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料及びモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した水溶液を得る工程、(b)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料をモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した水溶液から分離する工程、(c)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料を水溶液と6〜14の範囲のpH値で接触させて、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した担体材料及びモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液を得る工程、及び(d)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した担体材料をモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液から分離する工程。
【0014】
本発明によれば用語モリブデン酸塩又はタングステン酸塩には、単核モリブデン酸塩又はタングステン酸塩、例えばMoO2−又はWO2−及び多核モリブデン酸塩又はタングステン酸塩、例えばMo246−、Mo264−、HW215−、W124110−又はW12396−及びヘテロ原子含有多核モリブデン酸塩又はタングステン酸塩、例えばPMo12403−、SiMo12403−、PW12403−又はSiW12403−が含まれる。
【0015】
本発明による方法では、工程(a)でモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液を水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料と2〜6の範囲、有利には3〜5の範囲、特に有利には3.5〜4の範囲のpH値で接触させる。これらの範囲にpH値を調節することによって、僅かな消費のpH調節剤で水溶液からのモリブデン酸塩又はタングステン酸塩のほぼ完全な回収が可能となる。接触に際して水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料を有利には攪拌機又は分散機を用いてモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液に分散させる。接触は任意の温度で行うことができるが、0〜100℃の範囲の温度が好適である。
【0016】
陽イオン化された無機担体材料は、工程(a)でモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液との接触で、有利にはモリブデン1質量部当たり担体材料10〜1000質量部の量又はタングステン1質量部当たり担体材料200〜10000質量部の量で使用する。モリブデン酸塩を回収するために、特に有利にはモリブデン1質量部当たり担体材料50〜500質量部、特には100〜300質量部を使用する。タングステン酸塩を回収するために、特に有利にはモリブデン1質量部当たり担体材料1000〜5000質量部、特には2000〜3000質量部を使用する。
【0017】
本発明による方法の工程(b)で、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料をモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した水溶液から分離する。分離は当業者に公知の全ての固体−液体−分離法を用いて、例えば沈降、濾過又は遠心分離によって行うことができる。分離した、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料を、これに付着した有機不純物の割合を減らすために、付加的にpH値2〜6を有する水で洗浄することができる。
【0018】
本発明による方法の工程(c)で、工程(b)で分離した、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料を水溶液と6〜14の範囲のpH値で接触させる。このpH値でモリブデン酸塩又はタングステン酸塩は担体から再び分離され、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した担体材料及びモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液が得られる。その際、pH値は8〜12の範囲、特に有利には9〜11の範囲に選択する。これらの範囲にpH値を調節することによって、僅かな消費のpH調節剤で支持体からモリブデン酸塩又はタングステン酸塩をほぼ完全に分離することが可能となる。接触に際してモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料を有利には攪拌機又は分散機を用いて水溶液に分散させる。接触は任意の温度で行うことができるが、0〜100℃の範囲の温度が好適である。
【0019】
本発明による方法の工程(d)で、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した担体材料をモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液から分離する。分離は当業者に公知の全ての固体−液体−分離法を用いて、例えば沈降、濾過又は遠心分離によって行うことができる。分離した、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した担体材料は、担体材料からのモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の分離を完全にするために、付加的にpH値6〜14を有する水で洗浄することができる。洗浄で生じた洗浄液体を有利にはモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液と合わせる。
【0020】
工程(d)で分離した、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した担体材料は、方法の工程(a)でモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を回収するために再び使用することができる。
【0021】
本発明による方法では、分離用に水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料を使用する。陽イオン化された無機担体材料としては、表面が正に帯電した官能基で変性された無機担体材料が好適である。変性は、例えば表面を正に荷電した官能基が表面で共有結合する試薬と反応させることによって行うことができる。共有結合した正に帯電した官能基を有する水に不溶性の陽イオン化された好適な無機担体材料は、例えばアミノシランで変性した沈降又は高熱分解法珪酸であり、これは有利には付加的にアミノ基で四級化されている。代わりに、変性を表面で負に帯電した無機担体材料の四級アンモニウム塩を用いるイオン交換によって行うこともできる。このために使用される四級アンモニウム塩は有利には、酸中で支持体からの四級アンモニウムイオンの分離を阻止するために、炭素原子6〜24個、特に有利には12〜22個を有する非極性アルキル基少なくとも1個を有する。
【0022】
本発明による方法では水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料として、有利には陽イオン化された層状珪酸塩、特に有利には四級アンモニウム塩でイオン交換された層状珪酸塩を使用する。その際層状珪酸塩としては、カオリン、スメクタイト、イライト、ベントナイト(モルモリロナイト)、ヘクトライト、パイロフィライト、アタプルガイト、セピオライト及びラポナイト、有利には四級アンモニウム塩でイオン交換されたベントナイト、ヘクトライト及びアタプルガイト、特に有利には四級アンモニウム塩でイオン交換されたベントナイトが好適である。
【0023】
四級アンモニウム塩でイオン交換されたベントナイト、ヘクトライト及びアタプルガイトは市販されている:クオタニウム−18ベントナイトはRheox Corp.からBentone 34として及びSouthern ClayからClaytone 34、Claytone 40及びClaytone XLとして;ステアラルコニウム ベントナイトはUnited CatalystsからTixogel LGとして、Elementis SpecialtiesからBentone SD−2として及びSouthern ClayからClaytone AF及びClaytone APAとして;クオタニウム−18/ベンザルコニウムベントナイトはSouthern ClayからClaytone GR、Claytone HT及びClaytone PSとして;クオタニウム−18ヘクトライトはRheox Corp.からBentone 38として;ジ水素添加牛脂ベンジルモニウムヘクトライトはRheox Corp.からBentone SD−3として;ステアラルコニウムヘクトライトはRheox Corp.からBentone 27として;並びに陽イオン化されたアタプルガイトはCimbarからVisrol 1265として。これらのイオン交換された層状珪酸塩は本発明による方法では粉末として使用してもよいし、市販の油又は有機溶剤中の分散液として使用してもよい。
【0024】
市販のテトラアルキルアンモニウムイオンでイオン交換されたベントナイト、ヘクトライト及びアタプルガイトの他に、相応する四級化されたアルカノールアミン脂肪酸エステルでイオン交換された材料、特にジメチルジエタノールアンモニウム−モノ−及び−ジ脂肪酸エステル並びにメチルトリエタノールアンモニウム−モノ−、−ジ−及び−トリ脂肪酸エステルでイオン交換されたベントナイトを使用してもよい。その際有利には飽和脂肪酸、特に炭素原子12〜18個を有する飽和脂肪酸との相応するエステルを使用する。
【0025】
本発明による方法の有利な態様では、水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料を固定床中に配置する。その場合に方法の工程(a)及び(b)は、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液を水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料を含有する固定床中を通過させることによって行う。モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液を固定床中を通過させる際に既に、溶液中に含有されたモリブデン酸塩又はタングステン酸塩は水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料に結合し、固定床を離れた水溶液はモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少している。固定床中に配置された水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料の負荷後に、6〜14の範囲のpH値を有する水溶液を工程(a)及び(b)でモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された固定床中に導くことによって、方法の工程(c)及び(d)を実施する。その際、固定床を離れる水溶液は、工程(a)で水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料に結合したモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の大部分を含有し、固定床はこの工程の実施後にモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を回収するために工程(a)及び(b)で再び使用することができる。
【0026】
モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液の固定床中への通過は、有利には固定床を離れる水溶液中のモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の含量が所望の残留量より上に上昇する前に終了させる。
【0027】
有利には固定床は水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料の他に、固定床の多孔率を高めるために、水に不溶性の充填剤を含有する。水に不溶性の充填剤としては公知技術から公知の濾過助剤が好適であるが、これは合成又は天然の、有機又は無機のものであってよい。好適な無機濾過助剤は、例えばMerck社から市販名Celite503として市販されているシリカゲルである。好適な天然の有機濾過助剤は、例えばJelu社から市販名Jelucel HM 200として市販されているセルロースである。パルプ−及び抄紙機の洗浄プレス中の脱水篩マットを構成する合成ポリマーを水に不溶性の充填剤として使用することもできる。水に不溶性の充填剤としてセルロースを使用するのが特に有利である。固定床は水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料及び水に不溶性の充填剤を有利には10:1〜1:100の質量比で含有する。特に有利には固定床は、水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料及びセルロースを質量比10:1〜1:100、特には10:1〜1:10で含有する配合物を含有する。付加的な充填剤を使用することによって、水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料のモリブデン酸塩又はタングステン酸塩での負荷度を改善することができる。更に水溶液を固定床中を通過させる際の圧力損失を減らすことができ、方法をより迅速に実施することができ、不純物による固定床の詰まりによる故障を回避することができる。
【0028】
有利には少なくとも2個の並列に接続した固定床を使用し、そこで工程(a)及び(b)と工程(c)及び(d)とを交互に行う、即ち第1固定床中で工程(a)及び(b)で水溶液からのモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の回収を行い、他方並行に接続した第2の既にモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された固定床中で工程(c)及び(d)でモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を担体から再び分離する。従って特に有利な態様では、並行に配置した固定床の間で切り替えて、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液が固定床中を連続的に通過するようにする。
【0029】
本発明の目的は更に、パルプの脱リグニン化におけるモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の回収法であるが、その際パルプを、各々乾燥パルプの質量に対して過酸化水素0.1〜5質量%及びモリブデン酸塩の形でモリブデン10〜1000ppm又はタングステン酸塩の形でタングステン200〜10000ppmを含有する水性混合物中で温度30〜100℃及びpH範囲1〜7で反応させ、パルプを水溶液から分離し、生成した水溶液から前記した工程を用いてモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を回収し、最後の工程で生じたモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液を過酸化水素を用いるパルプの脱リグニン化に戻す。
【0030】
触媒としてモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の添加下におけるパルプの脱リグニン化では、乾燥パルプの質量に対して0.1〜5質量%、有利には0.5〜4質量%及び特に有利には1〜3質量%の過酸化酸素を使用する。触媒としてモリブデン酸塩を使用する場合には、乾燥パルプの質量に対して10〜1000ppm、有利には100〜700ppm及び特に有利には200〜600ppmの量のモリブデンを使用する。触媒としてタングステン酸塩を使用する場合には、乾燥パルプの質量に対して200〜10000ppm、有利には500〜5000ppm及び特に有利には1500〜3000ppmの量のタングステンを使用する。過酸化水素及びモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の量をこれらの範囲に選択することによって、パルプの有効な脱リグニン化及び漂白を行うことができ、黄変傾向が減少したパルプが得られる。
【0031】
触媒としてモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の添加下におけるパルプの脱リグニン化は、温度30〜100℃、有利には60〜95℃、特に有利には75〜95℃で行うが、その際pH値は1〜7、有利には2〜6、特に有利には2.5〜5.5の範囲に選択する。反応条件の選択によりパルプの迅速かつ有効な脱リグニン化が可能になる。更にモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の添加下における脱リグニン化は、これらの反応条件で温度及び/又はpH値を調節するためのごく僅かな付加的なエネルギー及び/又は化学薬品を用いて、脱リグニン化及び/又は漂白用のその他の方法工程と組み合わせることができる。
【0032】
次に実施例につき本発明による方法を詳説するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0033】
実施例:
例1(比較例)
モリブデン酸塩添加なしの過酸化水素を用いるパルプの脱リグニン化
カッパー価10.3、ISO白色度57.0%及び黄色度22.1を有するユーカリパルプ761g(絶対乾燥パルプ200gに相応する)を水及び過酸化水素1.0質量%(絶対乾燥パルプに対する)を用いて固形分濃度10質量%にし、pH値を硫酸でpH2.7に調節した。混合物をプラスチック袋中で水浴中で90℃に120分間加熱した。その後水を添加して、固形分濃度2質量%を有する懸濁液が得られるようにし、パルプを濾紙を有する吸引濾過器で濾過した。処理したパルプは、カッパー価5.4、ISO白色度60.2%及び黄色度22.6を有した。得られた濾液はpH値3.0を有した。濾液の過酸化物残含量から過酸化水素の変換率は59%と判明した。
【0034】
例2
過酸化水素を用いるパルプの脱リグニン化及び陽イオン化された層状珪酸塩を用いるモリブデン酸塩の回収
例1を繰り返したが、しかしパルプ、水及び過酸化水素から成る混合物に加熱前に付加的に絶対乾燥パルプに対してモリブデン500ppmの量でモリブデン酸ナトリウムを添加した。処理したパルプは、カッパー価3.5、ISO白色度61.5%及び黄色度19.8を有した。得られた濾液はpH値3.0を有した。濾液の過酸化物残含量から過酸化水素の変換率は79%と判明した。濾液はモリブデン9.8ppmを含有し、これは使用した量の98%に相応した。
【0035】
濾液のpH値を10質量%の水酸化ナトリウム溶液でpH3.7に調節した。その後、陽イオンにより変性したベントナイトBENTONE(R)SD−2(Elementis Specialties)0.2質量%(濾液の質量に対する)を添加し、多孔盤を有する分散攪拌機(Pendraulik Modell LD50)を用いて回転数約1000分−1で15分間分散させた。pH値をもう一度10質量%の水酸化ナトリウム溶液で3.7に調節し、分散液を濾紙を有する吸引濾過器を用いて濾過した。濾液中のモリブデン含量は0.46ppmであり、これはベントナイトによるモリブデンの分離の95%に相応する。
【0036】
ベントナイトフィルターケーキを吸引乾燥させ、pH値を10質量%の水酸化ナトリウム溶液でpH10に調節した水中で、固体濃度5%で磁気攪拌機を用いて50℃で30分間攪拌した。pH値をもう一度10質量%の水酸化ナトリウム溶液でpH10に調節し、混合物を濾紙を有する吸引濾過器を用いて濾過し、フィルターケーキを濾液容量の各々20%の、水酸化ナトリウムを用いてpH10に調節し、50℃の温水で2回洗浄した。その際得た濾液はパルプを処理するために使用した量の91%のモリブデン酸塩を含有した。
【0037】
例3
回収したモリブデン酸塩を使用するパルプの脱リグニン化
例2を絶対乾燥物質60gに相応するユーカリパルプ228gを用いて繰り返した。しかしパルプ、水、過酸化水素及びモリブデン酸塩から成る混合物を製造するために、モリブデン酸ナトリウムの代わりに例2の終わりに得た濾液を使用した。新鮮なベントナイトBENTONE(R)SD−2の代わりに、相応する量の例2の終わりに得たベントナイトフィルターケーキを使用した。
【0038】
処理したパルプは、カッパー価2.9、ISO白色度62.2%及び黄色度19.1を有した。パルプの処理後に得られた濾液はpH値3.0を有した。濾液の過酸化物残含量から過酸化水素の変換率は81%と判明した。濾液はモリブデン9.8ppmを含有し、これは使用した量の98%に相応した。濾液をベントナイトを用いてpH3.7で処理した後、濾液中のモリブデン含量は0.54ppmであったが、これはベントナイトによるモリブデンの分離の94%に相応する。pH10の水を用いるベントナイトの引き続いての処理で得た濾液は、パルプの処理用に使用した量の90%のモリブデンを含有した。
【0039】
例4(比較例)
過酸化水素を用いるパルプのリグニン化及びイオン交換樹脂を用いるモリブデン酸塩回収
例2をカッパー価12.0、ISO白色度52.3%及び黄色度29.9を有するユーカリパルプを用いて繰り返した。パルプの脱リグニン化で得た濾液は、モリブデン8.2ppmを含有した。モリブデン酸塩を回収するために、陽イオン層状珪酸塩の代わりに同じ量の陰イオン交換樹脂DOWEX M−43を添加し、分散攪拌機の代わりに磁気攪拌機で60分間攪拌した。モリブデン酸塩回収の濾液中のモリブデン含量は2.0ppmであったが、これは陰イオン交換樹脂によるモリブデンの分離の76%に相応する。
【0040】
例4から、例2と比較して、陽イオン化された層状珪酸塩を用いるパルプ脱リグニン化の濾液からのモリブデン酸塩の分離が陰イオン交換樹脂を用いる場合より完全であることが示される。
【0041】
例5
種々の層状珪酸塩を用いるモリブデン酸塩の回収
硫酸でpH3.7に調節したモリブデン30ppmの含量を有するモリブデン酸ナトリウムの水溶液に、各々0.2質量%(溶液の質量に対する)の層状珪酸塩を加え、多孔盤を有する分散攪拌機(Pendraulik Modell LD50)を用いて回転数約1000分−1で15分間分散させた。pH値をもう一度10質量%の水酸化ナトリウム溶液でpH3.7に調節し、分散液を濾紙を有する吸引濾過器を用いて濾過した。層状珪酸塩Syntal(R)696の場合には、pH値を硫酸の添加によって調節する必要があった。第1表は、試験した層状珪酸塩、濾液中のモリブデンの含量及びモリブデン酸塩を負荷された層状珪酸塩の濾過性を表す。
【0042】
第1表の結果から、陽イオン化された層状珪酸塩を用いて陽イオン化されてない層状珪酸塩を用いるよりモリブデン酸塩をより完全にかつ改善された濾過性によってより簡単に回収することができることが示される。
【0043】
例6(比較例)
種々のイオン交換樹脂を用いるモリブデン酸塩の回収
例5を繰り返したが、層状珪酸塩の代わりにイオン交換樹脂を使用し、分散攪拌機の代わりに磁気攪拌機を使用した。第2表は、試験したイオン交換樹脂、濾液中のモリブデン含量及びモリブデン酸塩が負荷されたイオン交換樹脂の濾過性を表す。
【0044】
第2表の結果から、第1表の結果と比較して、陽イオン化された層状珪酸塩を用いてイオン交換樹脂を用いるよりモリブデン酸塩をより完全に回収することができることが示される。
【0045】
第1表
種々の層状珪酸塩を用いるモリブデン酸塩の回収
【表1】

【0046】
第2表
種々のイオン交換樹脂を用いるモリブデン酸塩の回収
【表2】

【0047】
例7
陽イオン化されたベントナイトから成る固定床を用いるモリブデン酸塩の回収
陽イオンにより変性したベントナイトBENTONE(R)SD−2(Elementis Specialties)2gを水40mlに懸濁させ、直径4.5cmを有し、孔の大きさ12−25μmを有する濾紙を有する吸引濾過器を用いて吸引濾過した。得られた高さ約5mmを有するフィルターケーキを固定床としてモリブデン酸塩の回収用に使用した。このために、Mo12.9ppmの量でシリコモリブデン塩を含有するパルプの脱リグニン化で得た溶液500mlを室温で各々100mlの少量分に分けてフィルターケーキを通して吸引し、次いでMoの濃度を試験スティックMerckoquant(R)Molybdaen−Testを用いて得られた少量分で測定した。最初の2回分はモリブデン酸塩をMo1ppmより少ない量で含有し、次の2回分はMo5ppmより少ない量で含有し、最後の回数分はモリブデン酸塩をMo5ppmより多い量で含有した。次いでフィルターケーキを通して0.5質量%の水酸化ナトリウム溶液各々20mlを3回吸引し、その際得た濾液を合わせた。合わせた濾液はモリブデン酸塩をMo50ppmより多い量で、即ちパルプの脱リグニン化で得た溶液中に含有されていたモリブデンの65%より多い量を含有した。
【0048】
例8
陽イオン化されたベントナイト及び充填剤から成る固定床を用いるモリブデン酸塩の回収
例7を、固定床を製造するために先ず水10ml中のCelite(R)503(Merck)1.27gの懸濁液を、次いで水40ml中のCelite(R)503 2g及びBENTONE(R)SD−2 2gの懸濁液を同じ吸引濾過器を用いて吸引濾過した点は変えて、繰り返した。モリブデン酸塩の同じ回収が達成された。
【0049】
例9
陽イオン化されたベントナイト及び充填剤から成る固定床を用いるモリブデン酸塩の回収
例7を、固定床を製造するために水80ml中のぶな亜硫酸パルプ1g、Celite(R)503 1g及びBENTONE(R)SD−2 2gの懸濁液を吸引濾過器を用いて吸引濾過し、0.5質量%の水酸化ナトリウム溶液各20mlを3回使用する代わりに0.5質量%の水酸化ナトリウム溶液各50mlを3回使用した点は変えて、繰り返した。モリブデン酸塩の同じ回収が達成された。
【0050】
例10
陽イオン化されたベントナイト及びパルプから成る固定床を用いるモリブデン酸塩の回収
ぶな亜硫酸パルプ10g及び陽イオンにより変性されたベントナイトBENTONE(R)SD−2(Elementis Specialties)5gを水500mlに懸濁させ、多孔盤を有する分散攪拌機(Pendraulik Modell LD50)を用いて回転数約1500分−1で1分間分散させ、得られた分散液を直径7cmを有し、孔の大きさ12−25μmを有する濾紙を有する吸引濾過器を用いて吸引濾過した。得られたフィルターケーキを固定床としてモリブデン酸塩の回収用に使用した。このために、Mo12.9ppmの量のシリコモリブデン塩を含有するパルプの脱リグニン化で得た溶液1200mlを室温で各々100mlの少量分に分けてフィルターケーキを通して吸引し、次いでMoの濃度を試験スティックMerckoquant(R)Molybdaen−Testを用いて得られた少量分で測定した。最初の7回分はモリブデン酸塩をMo1ppmより少ない量で含有し、次の4回分はMo5ppmより少ない量で、最後の回数分だけはモリブデン酸塩をMo5ppmより多い量で含有した。次いでフィルターケーキを通して0.5質量%の水酸化ナトリウム溶液各50mlを3回、次いで水50mlを吸引し、その際得た濾液を合わせた。合わせた濾液は、モリブデ酸塩をMo50ppmより多い量で、即ちパルプの脱リグニン化で得た溶液中に含有されていたモリブデンの75%より多い量を含有した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液からのモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の回収法において、
(a)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液を水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料と2〜6の範囲のpH値で接触させて、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料及びモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した水溶液を得る工程、
(b)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料をモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した水溶液から分離する工程、
(c)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された担体材料を水溶液と6〜14の範囲のpH値で接触させて、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した担体材料及びモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液を得る工程、及び
(d)モリブデン酸塩又はタングステン酸塩が減少した担体材料をモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液から分離する工程を含む、水溶液からのモリブデン酸塩又はタングステン酸塩の回収法。
【請求項2】
工程(a)でpH値が3〜5の範囲、有利には3.5〜4の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)でpH値が8〜12の範囲、有利には9〜11の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
陽イオン化された無機担体材料が陽イオン化された層状珪酸塩であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
陽イオン化された層状珪酸塩が四級アンモニウム塩でイオン交換されたベントナイトであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
陽イオン化された無機担体材料を、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液との接触に際してモリブデン1質量部当たり担体材料10〜1000質量部の量又はタングステン1質量部当たり担体材料200〜10000質量部の量で使用することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
陽イオン化された無機担体材料を、モリブデン1質量部当たり担体材料50〜500質量部、有利には100〜300質量部の量で使用することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
陽イオン化された無機担体材料を、タングステン1質量部当たり担体材料1000〜5000質量部、有利には2000〜3000質量部の量で使用することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)及び(b)を、モリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液を水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料を含有する固定床中を通過させることによって行い、工程(c)及び(d)を、6〜14の範囲のpH値を有する水溶液を工程(a)及び(b)でモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された固定床中を通過させることによって行うことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
固定床が水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料に加えて水に不溶性の充填剤を含有することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
セルロースを水に不溶性の充填剤として使用することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料及び水に不溶性の充填剤を質量比10:1〜1:100で使用することを特徴とする、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも2個の並列に接続した固定床を使用し、そこで工程(a)及び(b)と工程(c)及び(d)とを交互に行うことを特徴とする、請求項9から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
固定床を通るモリブデン酸塩又はタングステン酸塩を含有する水溶液の通過を、並行に接続した固定床の間で切り替えることによって連続的に行うことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
付加的な工程でパルプを、各々乾燥パルプの質量に対して、過酸化水素0.1〜5質量%及びモリブデン酸塩の形でモリブデン10〜1000ppm又はタングステン酸塩の形でタングステン200〜10000ppmを含有する水性混合物中で温度30〜100℃及び1〜7の範囲のpH値で反応させ、パルプを水性混合物から分離し、その際生じた水溶液を工程(a)で水に不溶性の陽イオン化された無機担体材料と接触させ、工程(d)で分離したモリブデン酸塩又はタングステン酸塩が負荷された水溶液をパルプと過酸化水素との反応の工程に戻すことを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
パルプの反応で水性混合物が、乾燥パルプの質量に対して0.5〜4質量%、有利には1〜3質量%の過酸化酸素を含有することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
パルプの反応で水性混合物が、乾燥パルプの質量に対して100〜700ppm、有利には200〜600ppmのモリブデンをモリブデン酸塩の形で含有することを特徴とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
パルプの反応で水性混合物が、乾燥パルプの質量に対して500〜5000ppm、有利には1500〜3000ppmのタングステンをタングステン酸塩の形で含有することを特徴とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項19】
パルプの反応を温度60〜95℃、有利には75〜95℃で行うことを特徴とする、請求項15から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
パルプの反応をpH値2〜6、有利には2.5〜5.5で行うことを特徴とする、請求項15から19までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−523396(P2011−523396A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506668(P2011−506668)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055035
【国際公開番号】WO2009/133053
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】