説明

水溶液からアルコールを抽出するための溶媒としてのテトラシアノボレートアニオンを含むイオン液体の使用

本発明は、テトラシアノボレートアニオンを含む少なくとも1種のイオン液体を溶媒として使用して、水溶液からアルコールを液液抽出するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体を溶媒として使用して、水溶液からアルコールを液液抽出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液からのアルコールの抽出は、「ホワイトバイオテクノロジー」または従来の燃料への添加剤としてのアルコールの使用についての激しい論争により、ますます重要性を増している。バイオ燃料、特にバイオエタノールについての激しい論争の一環として、バイオブタノール、すなわち、バイオマスから調製されたブタノールが、潜在的なバイオ燃料として同様に興味深いことが明らかになった。
【0003】
バイオブタノールは、他のバイオ燃料に対して多くの利点、特に
−低い蒸気圧(エタノールの場合の58.5hPaと比べ5.6hPa)および比較的低い引火点のため、従来の燃料と容易に混合することができる、
−顕著により小さい吸湿挙動を示す、
−エネルギー含量が、従来の燃料のそれと同程度である、
−例えば、腐食性がより低い、
−エンジンの改良を要することなく、化石燃料を100%置き換えることができる、
−バイオディーゼル/ディーゼルと混合することができ、ディーゼルエンジンで使用できる、
という利点を有する。
【0004】
バイオマスからのアルコールの調製は、以前から知られていた。20世紀前半において既に工業的に用いられていた発酵は、ABE発酵(アセトン−ブタノール−エタノール発酵)である。当時は、微生物Clostridium acetobutyricumが用いられた。近年では、Clostridium属からのさらなる細菌、例えば、C. beijerinckii、C. saccharoperbutylacetonicumおよびC. tetanomorphumなどが、バイオマスからブタノールを調製するために用いられている。さらに、より高い比率のブタノールを生産し、そのうえ発酵溶液中で、ブタノールに対してより耐性である新規の微生物、特に細菌および酵母が開発されている。しかしながら、耐性限界は、水溶液を基準として、ブタノール2重量パーセントという低さである。
【0005】
したがって、アルコール、特にブタノールの水溶液からの抽出、および特定の態様においては発酵ブロスの精製が、引き続き課題となっている。蒸留による水溶液からのアルコールの除去は、高価である。ブタノールの、水と比較して高い沸点により、ブタノールの分離方法として精留を経済的に行うことができない。これまで使用されていた抽出方法は、一般的に可燃性の、環境面で有害な、または有毒な抽出媒体を必要とする。
【0006】
発酵ブロスからのアルコールの抽出のため、脂肪アルコールであるオレイルアルコールが、現在最も頻繁に研究されている。しかしながら、これは、乳化剤であるという不利点を有し、液液抽出における使用において発泡し得る。泡相(foam phase)の形成は、抽出カラムにおける圧力のより大きな損失をもたらし、さらに、2つの液相の相分離をより困難にする。さらに、オレイルアルコールは、「呼吸器系を刺激するもの」として分類される。
【発明の概要】
【0007】
したがって、従来の化合物の代替物として用いることができ、抽出されるアルコールに対して高い分配係数および高い選択性を有する、水溶液からアルコールを抽出するための新規な抽出媒体への需要が存在する。したがって、新規な抽出媒体の要件は:
【0008】
−抽出されるアルコールの取込み(uptake)に関する良好な選択性、理想的には、選択係数>100であり、
−良好な分配係数、例えば、分配係数Dalcohol>2を有し、
−水と混合せず、
−水溶液による水の取込みが低く、
−水溶液が発酵ブロスである場合、微生物に対して無毒である、
ことである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、水溶液からアルコールを液液抽出するための新規な抽出媒体を提供することである。
この目的は、本発明に従い、主請求項および従属項の構成により達成される。
【0010】
驚くべきことに、テトラシアノボレートアニオンを含有するイオン液体が、水溶液からこのタイプのアルコールを液液抽出するための溶媒として特に好適であることが見出された。
したがって、本発明は、テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体を溶媒として使用して、水溶液からアルコールを液液抽出するための方法に関する。
【0011】
テトラシアノボレートアニオンを含有するイオン液体は、理想的には、少なくとも1種のアルコールを含む水溶液と二相混合物を形成する特性を有する。
【0012】
図の索引:
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、液液抽出の変法を示した図である。
【図2】図2は、抽出カラムを利用した発酵を示した図である。
【図3】図3は、水に対するn−ブタノールの選択性Sを、n−ブタノールの分配係数Dに対してプロットした図である。
【図4】図4は、DMIM TCB/水系におけるブタノールの分配係数Dにおける温度および初期濃度の影響を示した図である。
【0014】
【図5】図5は、DMIM TCB/水系における水に対するブタノールの選択性に対する温度および初期濃度の影響を示した図である。
【図6】図6は、初期濃度1重量%のブタノールでの、DMIM TCB/水系におけるブタノールの分配係数Dに対してプロットされた、水に対するブタノールの選択性における温度の影響を示した図である。
【図7】図7は、25℃での、ブタノール/水(1)、アセトン/ブタノール/水(2)およびアセトン/ブタノール/エタノール(1重量%、2重量%、0.3重量%、3)に対するオレイルアルコールと比べた、DMIM TCBのブタノールに対する分配係数の比較を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
したがって、本発明はさらに、テトラシアノボレートアニオンを含有するイオン液体が、少なくとも1種のアルコールを含む水溶液との、少なくとも1種の二相混合物を形成することを特徴とする、テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体を溶媒として使用して、水溶液からアルコールを液液抽出する方法に関する。
【0016】
テトラシアノボレートアニオンを含有するイオン液体およびその調製、ならびに多くの合成または触媒反応、例えば、フリーデル・クラフツアシル化およびアルキル化、ディールス・アルダー環化付加、水素化および酸化反応、ヘック反応などのための溶媒としての、液晶化合物および活性化合物、とりわけ医薬および作物保護組成物の調製のための前駆体としての、任意に他の既知の電解質と組み合わせた、非水溶性電解質としての、あるいは相間移動触媒としての、あるいは均一触媒の不均一化(heterogenisation)のための媒体としてのその使用は、例えば、WO 2004/072089などに開示されている。
【0017】
液体混合物の精製のための工業的膜法(industrial membrane method)、いわゆるパーベーパレーションにおける使用のための多相膜の成分としての、テトラプロピルアンモニウム テトラシアノボレートの使用は、DE 10 2006 024 397に開示されている。記載された液体混合物は、水溶液中の炭水化物またはアルコールである。
【0018】
膜材料中で生じる物理的プロセスは、溶液拡散モデルにより説明することができる。モデルの概念によれば、分離される混合物の1成分は、好ましくは膜に進入し、その内部表面上に吸着されるか、または膜材料全体に溶解される。容易に溶解し得る成分の濃度は、同成分が膜表面において蒸発し、したがって連続的に除去されるため、膜の外側に向かって低下する。このようにして、濃度勾配が膜の横断面にわたって形成され、膜を通じた浸透物の拡散のための推進力として作用する。
【0019】
記載したパーベーパレーション法とは対照的に、本発明の方法は液液抽出である。2種の液相が関係する液液抽出において、有用な生成物、この場合においてアルコールは、支持相から抽出相へ移送される。有用な生成物の濃度に関する相平衡はネルンストの分配律に従って二相間で確立される:
【0020】
【数1】

【0021】
選択性Sは、水に対するアルコールのネルンストの分配係数の商として定義される:
【数2】

液液抽出は、2液相間で物質移動が起こる分離方法であり、ネルンストの分配係数に従って確立される熱力学的平衡により制限される。
【0022】
これに対しパーベーパレーションは、分離メカニズムが成分の膜における異なる移動特性であるため、熱力学的平衡により制限されない。さらに、パーベーパレーションにおいては、物質移動が液相、固相および蒸気相間で起こるのに対し、液液抽出における物質移動は二液相間で起こる。したがって、液液抽出とは対照的に、パーベーパレーションは、浸透側にかかる圧力に依存する。
【0023】
本発明の、テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体を使用した、水溶液からのアルコールの液液抽出は、好ましくは、
a)少なくとも1種のアルコールを含む水溶液を提供し、
b)a)からの水溶液と、テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体とを、イオン液体が、水溶液から少なくとも一部のアルコールを抽出でき、このアルコールと少なくとも1種の単相混合物を形成できるように、激しく混合し、
【0024】
c)少なくとも1種のb)からの単相混合物を、水溶液から分離し、
d)b)からの単相混合物を、成分アルコールおよびイオン液体に分離し、および任意に
e)d)からのイオン液体を、段階b)にフィードバックする、
方法により行う。
【0025】
上述の本発明の液液抽出は、バッチ法により行うことができる。しかしながら、これを連続的にまたは半連続的に行うこともできる。液液抽出は、ここで、向流、並流または横流法のいずれかによって、および、1または2以上の工程で行うことができる。液液抽出は、単段もしくは多段ミキサーセトラーバッテリーで、または代替的に抽出カラム中で行うことができる。
【0026】
本発明の方法は、あらゆる抽出装置において、当業者に既知のあらゆる手順、例えば、J. Rydberg, M. Cox, C. Muskas, G.R. Chopppin, 2004, Solvent Extraction Principles and PracticeまたはR.H. Perry, 1984, Perry's chemical engineer's handbookの専門文献などにより報告された手順により行うことができる。
【0027】
液液抽出の変法が、図1に記載されている。
図1における参照番号は以下のとおりである:
[1]少なくとも1種のアルコールおよび本発明のイオン液体を含む水溶液を入れた反応容器、特にインサイチュ発酵槽
[2]回収ユニット
[3]少なくとも1種のアルコールを含む水溶液、特に微生物およびイオン液体を含む発酵培地の添加
【0028】
[4]少なくとも1種のアルコール、特に発酵の場合には、微生物も含む水溶液の水相
[5]イオン液体の相、任意に、少なくとも1種の単相混合物を形成する、抽出されたアルコール部分を含む
[6]抽出されたアルコールの一部を含むイオン液体相を含有する回収ユニットへの流れ
[7]抽出され、分離されたアルコール
[8]任意に、水相、特に発酵ブロスの排出流
[9]精製されたイオン液体の再利用
【0029】
[1]において、少なくとも1種のアルコールを含む水相、特に発酵培地および微生物を含む発酵ブロスと、イオン液体とを接触させて混合する。発酵の好ましい態様において、発酵、すなわち、微生物によるアルコールの産生と、イオン液体を用いた抽出による発酵ブロスからのアルコールの分離とは、[1]において同時に起こる。[4]および[5]における相の分離後、イオン液体は、流れ[6]により回収ユニット[2]へ送られ、ブタノールが分離され、流れ[7]中に排出される。再生したイオン液体は、流れ[9]で[1]へ送られる。
【0030】
抽出カラムを用いた本発明による発酵の変法は、図2に記載されている。
図2における参照番号は以下のとおりである:
[1]発酵槽
[2]回収ユニット
[3]微生物を含む発酵培地の添加
【0031】
[4]発酵ブロス
[5]イオン液体相、任意に、少なくとも1種の単相混合物を形成する、抽出されたアルコールの部分を含む
[6]少なくとも1種のアルコールを含む水溶液の水相
[7]排出された水相、これは[1]へフィードバックされてもよい
[8]任意に、水相の排出流、発酵ブロス
[9]抽出カラム
【0032】
[10]抽出されたアルコールの一部を含むイオン液体相を含有する回収ユニットへの流れ
[11]抽出され、分離されたアルコール
[12]微生物および場合によっては発酵培地を含む、細胞再利用
[13]細胞分離ユニット
[14]少なくとも1種のアルコールを含む水溶液の水相
[15]イオン液体の添加
【0033】
発酵培地および微生物を含む発酵ブロスを、[1]において撹拌し、通気する。一部の発酵ブロスを、流れ[4]により細胞分離ユニットへ送る。細胞または微生物を、細胞分離ユニット[13]中で分離する。細胞または微生物を、流れ[12]により発酵槽[1]中へフィードバックする。少なくとも1種のアルコールを含む分離された水相を、流れ[14]により抽出カラム[9]中へ送る。2つの相、少なくとも1種のアルコールを含む水相と、抽出されたアルコールの一部を任意に含むイオン液体とを、抽出カラム[9]中で接触させる。
【0034】
抽出カラム中で、アルコールを抽出する。すなわち、その一部を水相からイオン液体相へ移動させる。水相を、流れ[7]で半連続的に除去し、その一部または全てを[1]へフィードバックする。抽出されたアルコールの一部を含むイオン液体相を、流れ[10]により回収ユニットへ送る。アルコールを、回収ユニット[2]中でイオン液体から分離し、流れ[11]に排出する。再生した流れ[8]、アルコールを含まない再生したイオン液体を、抽出カラム[9]へフィードバックする。
【0035】
一般的に、本発明の意味における用語アルコールは、モノヒドロキシアルコール、好ましくは、2、3または4個のC原子を有するもの、および2個以上のヒドロキシ基を含むアルコール、例えば、ジオール(好ましくは、3、4または5個のC原子を含む)など、の両方を包含する。
選択されたジオールは、例えば、2,3−ブタンジオールおよび1,3−プロパンジオールなどである。
【0036】
本発明の好ましい態様において、少なくとも1種のアルコールは、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、n−ブタノールまたはn−ブタノールの異性体あるいはそれらの混合物の群から選択される。本発明の方法は、n−ブタノール、n−ブタノールの異性体またはそれらの混合物の抽出に特に好ましく用いられる。本発明の方法は、n−ブタノールの抽出に極めて特に好ましく用いられる。
発酵により調製される、いわゆるバイオブタノールは、n−ブタノールを主要成分として、および異性体ブタノールを二次成分として含む。用語n−ブタノールは、1−ブタノールと同等である。用語ブタノールの使用は、以下でn−ブタノールと同一であると見なされなければならない。
【0037】
本発明の方法における水溶液は、水溶液を基準にして、0.01〜50重量パーセントの濃度、好ましくは、0.1〜30重量パーセントの濃度、特に好ましくは、0.5〜10重量パーセントの濃度のアルコールを含む。バイオマスからの水溶液、すなわち、発酵ブロスに関して、アルコールは、発酵ブロスを基準にして、0.1〜3重量パーセントの濃度、好ましくは、0.5〜2重量パーセントの濃度で存在する。天然の限界は、微生物の生産限界である。しかしながら、前もって発酵ブロスを濃縮し、次いで本発明の方法を行うことも可能である。
本発明の好ましい態様において、少なくとも1種のアルコールを含む水溶液は、発酵ブロス、特にアセトン−ブタノール−エタノール発酵(ABE発酵)由来の発酵ブロスである。
【0038】
ABE発酵のために、初期に用いられた微生物Clostridium beijerinckiiは、Clostridium beijerinckii BA101へとさらに開発され、これは、17.8g/lまでのブタノール濃度を産生することまたはこれに耐えることができ、これは定義された(defined)培養液、例えば、グルコースコーンスチープリカー培地などと比較すると、より好ましい。グルコースコーンスチープリカー培地の濃度は、60g/lである。この発酵における重要な副生成物は、アセトンおよびエタノールであり、それぞれの濃度は5.5g/lおよび1g/lである。極めて低い濃度を有するさらなる副生成物は、酢酸および酪酸である。
【0039】
一般的な専門知識は、本発明の液液抽出が行われる温度を含む。以下に定義するインサイチュ発酵からのアルコールの抽出の特定の態様の場合には、アルコールの産生が好ましく起こり得る微生物の理想的な温度に、例えば注目すべきである。
【0040】
本発明の好ましい態様において、テトラシアノボレートアニオンを含有するイオン液体のカチオンは、疎水性である。
カチオンは、好ましくは有機カチオンであり、特に好ましくは、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ウロニウム、チオウロニウム、グアニジニウムカチオンまたは複素環カチオンを含む群から選択される有機カチオンである。
【0041】
アンモニウム、ホスホニウムまたはスルホニウム テトラシアノボレートの群から、好ましいのは、式(1)、(2)および(3):
[NR [B(CN) (1)、
[PR [B(CN) (2)、
[SR [B(CN) (3)、
【0042】
式中、
Rは、各場合において、互いに独立して、
−1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状のアルケニル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状のアルキニル、
−5〜7個のC原子を有する、飽和の、部分的に不飽和の、または完全に不飽和のシクロアルキルであって、1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよいもの、
を示し、
ただし、少なくとも2個の置換基Rは、少なくとも5個のC原子を有する、
で表される化合物である。
【0043】
ウロニウムまたはチオウロニウム テトラシアノボレートの群から、好ましいのは、式(4)および(5):
[C(RN)(OR)(NR)] [B(CN) (4)、
[C(RN)(SR)(NR)] [B(CN) (5)、
【0044】
式中、
〜Rは、各々、互いに独立して、
−H(ここで、Hは、Rについては除外される)、
−1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状のアルケニル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状のアルキニル、
−3〜7個のC原子を有する、飽和の、部分的に不飽和の、または完全に不飽和のシクロアルキルであって、1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよいもの、
を示す、
で表される化合物である。
【0045】
グアニジニウム テトラシアノボレートの群から、好ましいのは、式(6):
[C(NR)(NR1011)(NR1213)] [B(CN) (6)、
式中、
〜R13は、各々、互いに独立して、
−H、
【0046】
−1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状のアルケニル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状のアルキニル、
−3〜7個のC原子を有する、飽和の、部分的に不飽和の、または完全に不飽和のシクロアルキルであって、1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよいもの、
を示す、
で表される化合物である。
【0047】
複素環カチオンを有するテトラシアノボレートの群から、好ましいのは、式(7):
[HetN]z+ [B(CN) (7)、
式中、
[HetN]z+は、
【0048】
【化1】

【0049】
【化2】

の群から選択される複素環カチオンを示し、
【0050】
ここで、置換基
1’〜R4’は、各々、互いに独立して、
−1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状のアルケニル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状のアルキニル、
−5〜7個のC原子を有する、飽和の、部分的に不飽和の、または完全に不飽和のシクロアルキルであって、1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよいもの、
を示し、
ここで、R1’、R2’、R3’および/またはR4’はまた、一緒になって、環系を形成してもよい、
で表される化合物である。
【0051】
本発明の目的のため、完全に不飽和の置換基はまた、芳香族置換基をも意味すると解釈される。
本発明によれば、式(1)〜(6)の化合物の好適な置換基RおよびR〜R13は、各場合において、互いに独立して、好ましくは、C〜C18アルキル基、特に好ましくは、C〜C14アルキル基である。
【0052】
式(1)、(2)および(3)の化合物における置換基Rは、同一でも異なっていてもよい。式(1)または(2)の、アンモニウムまたはホスホニウム テトラシアノボレートに関して、3個の置換基Rが好ましくは同一であり、1個の置換基Rが異なる。式(3)のスルホニウム テトラシアノボレートに関して、2個の置換基Rが好ましくは同一であり、1個の置換基Rが異なる。
【0053】
置換基Rは、特に好ましくは、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルまたはテトラデシルである。
グアジニウムカチオン[C(NR)(NR1011)(NR1213)]の4個までの置換基はまた、単環式、二環式または多環式カチオンが形成されるように、対になって結合してもよい。
【0054】
一般性を制限することなく、かかるグアジニウムカチオンの例は:
【化3】

【0055】
であり、ここで、置換基R〜R10およびR13は、上述した意味または特に好ましい意味を有し得る。
所望により、上述したグアジニウムカチオンの炭素環または複素環はまた、C〜Cアルキルで置換されていてもよい。
【0056】
ウロニウムカチオン[C(RN)(OR)(NR)]またはチオウロニウムカチオン[C(RN)(SR)(NR)]の4個までの置換基はまた、単環式、二環式または多環式カチオンが形成されるように、対になって結合してもよい。
【0057】
一般性を制限することなく、かかるカチオンの例は以下に示され、式中Y=OまたはSであり:
【化4】

【0058】
ここで、置換基R、RおよびRは、上述した意味または特に好ましい意味を有し得る。
所望により、上述したカチオンの炭素環または複素環はまた、C〜Cアルキルで置換されていてもよい。
【0059】
置換基R〜R13は、各々、互いに独立して、好ましくは、1〜16個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル基である。式(4)〜(6)の化合物における、置換基RおよびR、RおよびR、RおよびR、R10およびR11ならびにR12およびR13は、同一でも異なっていてもよい。R〜R13は、特に好ましくは、各々、互いに独立して、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、フェニル、ヘキシルまたはシクロヘキシルであり、極めて特に好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルまたはヘキシルである。
【0060】
本発明によれば、式(7)の化合物の好適な置換基R1’〜R4’は、Hに加え、好ましくは:C〜C20アルキル基、特に、C〜C12アルキル基である。
【0061】
置換基R1’〜R4’は、各々、互いに独立して、特に好ましくは、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、シクロヘキシル、フェニルまたはベンジルである。それらは、極めて特に好ましくは、メチル、オクチル、デシルまたはドデシルである。ピロリジニウム、ピペリジニウムまたはモルホリニウム化合物においては、2個の置換基R1’およびR4’は、好ましくは異なっている。
【0062】
置換基R2’またはR3’は、各場合において、互いに独立して、特に、H、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、シクロヘキシル、フェニルまたはベンジルである。R2’は、特に好ましくは、H、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチルまたはsec−ブチルである。R2’およびR3’は、極めて特に好ましくはHである。
【0063】
〜C12アルキル基は、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチルまたはtert−ブチルであり、さらにまた、ペンチル、1−、2−または3−メチルブチル、1,1−、1,2−または2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルあるいはドデシルなどである。
【0064】
2〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルケニルは、これにおいて、複数の二重結合がまた存在していてもよく、例えば、アリル、2−または3−ブテニル、イソブテニル、sec−ブテニル、さらに、4−ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、−C17、−C1019〜−C2039であり、好ましくは、アリル、2−または3−ブテニル、イソブテニル、sec−ブテニル、さらに好ましくは、4−ペンテニル、イソペンテニルまたはヘキセニルなどである。
【0065】
2〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキニルは、これにおいて、複数の三重結合がまた存在していてもよく、例えば、エチニル、1−または2−プロピニル、2−または3−ブチニル、さらに、4−ペンチニル、3−ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、−C15、−C1017〜−C2037であり、好ましくは、エチニル、1−または2−プロピニル、2−または3−ブチニル、4−ペンチニル、3−ペンチニルあるいはヘキシニルなどである。
【0066】
したがって、5〜7個のC原子を有する、非置換で、飽和の、部分的に不飽和の、または完全に不飽和のシクロアルキル基は、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロペンタ−1,3−ジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサ−1,3−ジエニル、シクロヘキサ−1,4−ジエニル、フェニル、シクロヘプテニル、シクロヘプタ−1,3−ジエニル、シクロヘプタ−1,4−ジエニルまたはシクロヘプタ−1,5−ジエニルであり、その各々は、C〜Cアルキル基により置換されていてもよい。
【0067】
HetNz+は、好ましくは、
【化5】

であり、
ここで、置換基R1’〜R4’は、各々、互いに独立して、上述した意味を有する。
【0068】
HetNz+は、特に好ましくは、
【化6】

であり、
ここで、置換基R1’〜R4’は、各々、互いに独立して、上述した意味を有する。
【0069】
HetNz+は、極めて特に好ましくは、イミダゾリウムであり、ここで、置換基R1’〜R4’は、各々、互いに独立して、上述した意味を有する。
【0070】
本方法の好ましい態様において、テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体は、式(1)、(2)および(7)の化合物の群から選択され、上記で定義した、または上記で好ましく定義した置換基を有する。極めて特に好ましいのは、上述した式(7)の化合物およびその好ましい化合物の使用である。
【0071】
本発明の方法における使用のためのテトラシアノボレートアニオンを含有するイオン液体は、特に好ましくは、
1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート、
1−デシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート
1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート、
トリヘキシルテトラデシルアンモニウム テトラシアノボレート、
トリヘキシルテトラデシルホスホニウム テトラシアノボレート、
N−オクチルピリジニウム テトラシアノボレート、
1−オクチル−1−メチルピロリジニウム テトラシアノボレート、
N−オクチル−N−メチルモルホリニウム テトラシアノボレート、
1−オクチル−1−メチルピペリジニウム テトラシアノボレート
の群から選択される。
【0072】
極めて特に好ましいのは、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレートの使用である。極めて特に好ましいのは、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレートの使用である。
【0073】
テトラシアノボレートアニオン、例えば、DMIM TCBなどを含有するイオン液体(IL)のオレイルアルコール(OA)に対する利点は、イオン液体が、ブタノールに対する分配係数を制限することなく、並行してブタノールおよびアセトンを抽出できることである。これは、例2および3において確認されている。オレイルアルコールは、アセトンを顕著な程度に抽出することができない。OAで抽出が行われ、同時にアセトンが水相に存在する場合、抽出されるブタノールの割合は減少する。すなわち、ブタノールに対する分配係数が、アセトンの存在により減少する。
【0074】
アセトンおよびブタノールは、2種の成分を含む得られたIL相から蒸留により互いから分離することができ、2種の有用な生成物であるアセトンおよびブタノールを回収することができる。オレイルアルコールを使用した場合、アセトンは再利用できない。図7は、25℃における、ブタノール/水(1)、アセトン/ブタノール/水(2)およびアセトン/ブタノール/エタノール(1重量%、2重量%、0.3重量%、3)についてのオレイルアルコールと比べたDMIM TCBのブタノールに対する分配係数の比較を表す(例6参照)。各場合における左側のバーはDMIM TCBに対応し、右側のバーはオレイルアルコールに対応する。1、2および3の数字は、成分の数を示す。
【0075】
当業者には言うまでもないことだが、本発明の化合物における置換基、例えば、C、H、N、O、Cl、Fなどは、対応する同位体により置き換えることができる。
【0076】
本発明の方法において、少なくとも1種のアルコールを含む水溶液の提供は、一般的な専門知識の一部である。水溶液を具体的に調製することも可能であるし、または生産プロセスからの水溶液を用いることも可能である。発酵ブロスの特定の場合においては、生産プロセスは発酵である。
【0077】
激しい混合は、好ましくは、撹拌により行うことができる。しかしながら、他の全てのタイプの混合、例えば、振とうまたは超音波などの物理的プロセスなどもまた可能である。
【0078】
本発明の方法の工程b)からの少なくとも1種の単相混合物の水溶液からの分離は、当業者に既知の方法により行われる。本発明の方法がバッチ操作において使用される場合、上述した抽出されるアルコールの少なくとも一部を含む、少なくとも1種の単相混合物からの水溶液の分離は撹拌の完了後に生じ、少なくとも1種のイオン液体および下側の相を、例えば、反応容器の底での除去などにより分離することができる。
【0079】
本方法の連続的な使用の場合において、下側の相の一部は、同様に、反応容器の底で連続的に取り除かれる。例えば、J. Rydberg, M. Cox, C. Muskas, G.R. Chopppin, 2004, Solvent Extraction Principles and PracticeまたはR.H. Perry, 1984, Perry's chemical engineer's handbookなどによる専門文献により報告された専門知識が、特に参照される。
【0080】
この分離プロセスにおける下側の相は、一般的に、上述したアルコールの抽出された部分を含む、少なくとも1種のイオン液体の少なくとも多相の混合物である。
【0081】
アルコール成分は、当業者に既知の方法、例えば、アルコールの蒸留、ストリッピング、フラッシュ、蒸発、吸着またはクロマトグラフィー法などの方法によりイオン液体から分離される。
上記のとおり処理されたイオン液体を、任意に本発明の方法にフィードバックすることができ、溶媒として再び利用可能である。
【0082】
液液抽出のための本発明の方法は、連続的に行うことができるが、上述のとおり、半連続的操作でも行うことができる。液液抽出の精製は、インサイチュでも分離されていても(decoupled)行うことができる。インサイチュ抽出は、同時的な、発酵、および発酵ブロスとイオン液体とを直接接触させることによる、有用な生成物、ここでは本発明に従い、上述した少なくとも1種のアルコールの分離を伴う。
【0083】
有用な生成物は、このようにして水相から除去され、有用な生成物の濃度が低く保たれることにより、微生物を阻害しない。阻害とは、微生物の成長を遅らせるかまたは停止すらさせてしまうことを意味し、それによりまた、有用な生成物の生成を遅らせるかまたは停止すらさせてしまう。
【0084】
上述の本発明の方法は、当業者に既知のいかなる好適な装置においても行うことができる。
本発明は、同様に、水溶液からアルコールを液液抽出するための溶媒としての、テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体の使用に関する。
【0085】
液液抽出の方法、水溶液、アルコールおよび少なくとも1種のイオン液体の好ましい態様についての全ての解説は、本発明のこの対象に同様に適用される。
本発明の好ましい構成の組み合わせは、特許請求の範囲に開示されている。
【0086】
これ以上の解説がなくても、当業者は上記の記載を最も広い範囲で利用することが可能であると考えられる。したがって、好ましい態様および例は、単に説明的な開示であると考えられるべきであって、如何なる意味においても決して限定するものではない。
【0087】
例:
テトラシアノボレートアニオンを含有するイオン液体は、例えば、WO 2004/072089("Salts containing cyanoborate anions”, Merck Patent GmbH)の開示に従って合成でき、または商業的に入手可能である。
【0088】
選択された化合物の合成例は以下のとおりである:
例A:トリヘキシルテトラデシルアンモニウム テトラシアノボレートの合成
【化7】

【0089】
100gの臭化トリヘキシルテトラデシルアンモニウムを、400lの脱塩水に溶解させ、31gのカリウム テトラシアノボレートを、続いてゆっくりと加える。2種の相がゆっくりと形成する。この二相混合物を室温でさらに2時間(h)撹拌し、一晩放置する。
【0090】
ワークアップをジクロロメタンでの抽出により行う。有機相を、次いで、脱塩水を使用して、臭化物を含まなくなるまで(free of bromide)洗浄する。8gのALOXおよび5gの活性炭を有機溶液に加え、それを次いでろ過し、続いてウォーターバス付のロータリーエバポレーター中、80℃で蒸発させ、透明で帯黄色の粘性液体を得る。
【0091】
例B:トリヘキシルテトラデシルホスホニウム テトラシアノボレートの合成
【化8】

【0092】
例Aと同様にして、33gのカリウム テトラシアノボレートを、100gの塩化トリヘキシルテトラデシルホスホニウムに加え、対応するワークアップを混合物に行い、透明で帯黄色の粘性液体を得る。
【0093】
例C:1−メチル−1−オクチルピロリジニウム テトラシアノボレートの合成
【化9】

【0094】
例Aと同様にして、61gのカリウム テトラシアノボレートを、100gの臭化1−メチル−1−オクチルピロリジニウムに加え、対応するワークアップを混合物に行い、透明で帯黄色の粘性液体を得る。
【化10】

【0095】
例D:N−メチル−N−オクチルモルホリニウム テトラシアノボレートの合成
【化11】

【0096】
例Aと同様にして、58gのカリウム テトラシアノボレートを、100gの臭化4−メチル−4−オクチルモルホリニウムに加え、対応するワークアップを混合物に行い、透明で帯黄色の粘性液体を得る。
【化12】

【0097】
例E:1−メチル−1−オクチルピペリジニウム テトラシアノボレートの合成
【化13】

【0098】
例Aと同様にして、58gのカリウム テトラシアノボレートを、100gの臭化1−メチル−1−オクチルピペリジニウムに加え、対応するワークアップを混合物に行い、透明で帯黄色の粘性液体を得る。
【化14】

【0099】
例F:1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレートの合成
【化15】

【0100】
例Aと同様にして、183gのカリウム テトラシアノボレートを、250gの塩化3−メチル−1−オクチルイミダゾリウムに加え、対応するワークアップを混合物に行い、透明でわずかに帯黄色の液体を得る。
【化16】

【0101】
例G:N−オクチルピリジニウム テトラシアノボレートの合成
【化17】

【0102】
例Aと同様にして、83gのカリウム テトラシアノボレートを、134gの臭化1−オクチルピリジニウムに加え、対応するワークアップを混合物に行い、透明で帯黄色の粘性液体を得る。
【化18】

【0103】
例1
手順:
分配係数を、最大容量10mlの二重壁ガラス容器中で測定する。水相中のブタノールの初期濃度は、1重量%である。各相の等重量(3g)を接触させ、マグネチックスターラー(Variomag telesystem 06.07)により、一定温度(25℃)にて24時間激しく混合する。長時間の実験の持続は、平衡の達成が確保されていることを意味する。
【0104】
温度制御は、クライオスタット(Julabo F25 ME)により行う。10分間の相分離後、各相のサンプルを採取し、分析する。
以下に列挙するイオン液体[1]〜[7]の結果は、図3に図示する。
【0105】
n−ブタノールの水に対する選択性Sは、n−ブタノールの分配係数Dに対してプロットされる。調査した全てのイオン液体は、2以上の分配係数を有し、選択性は、全て73より大きい。したがって、結果は、水溶液からのn−ブタノールの溶媒として、特に好適であることを裏付ける。
【0106】
イオン液体[1]および[2]は、より長いアルキル鎖によってより疎水性の挙動を示し、したがって、調査した他のイオン液体と比較して、はるかに高い選択性を有する。イオン液体[3]および[7]は、実質的に同一の分配係数3を示し、選択性においてわずかな差を示す。イオン液体[6]が、最も高く、したがって最良の分配係数3.7および選択性97を有する。
【0107】
現在最も調査されている物質であるオレイルアルコールは、本調査において、分配係数3.4および選択性208を達成した。
[1]トリヘキシルテトラデシルアンモニウム テトラシアノボレート
[2]トリヘキシルテトラデシルホスホニウム テトラシアノボレート
[3]1−メチル−1−オクチルピロリジニウム テトラシアノボレート
[4]N−オクチル−N−メチルモルホリニウム テトラシアノボレート
[5]1−メチル−1−オクチルピペリジニウム テトラシアノボレート
[6]1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート
[7]1−オクチルピリジニウム テトラシアノボレート
【0108】
例2:
分配係数を、最大容量10mlの二重壁ガラス容器中で測定する。2種の異なる水相を用いる。水のほかに、水相Aは、2重量%の濃度の成分ブタノールのみを含む。水相Bは、さらにまた、成分アセトンを含む。この相Bの初期濃度は、2重量%のブタノールおよび1重量%のアセトンである。IL 1−デシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレートを調査する。
【0109】
各相の等重量(3g)を接触させ、マグネチックスターラー(Variomag telesystem 06.07)により、一定温度(25℃)にて24時間激しく混合する。温度制御は、クライオスタット(Julabo F25 ME)により行う。10分間の相分離後、各相のサンプルを採取し、分析する。
【0110】
水に対する選択性Sは、追加成分アセトンの存在による影響を受けない。水に対するn−ブタノールの選択性Sは、水相Aに対しては104であり、水相Bに対しては100である。
水相Aからの抽出におけるn−ブタノールの分配係数Dは、3.27である。水相Bからの抽出におけるn−ブタノールの分配係数Dは、3.23であり、アセトンのそれは2.36である。
【0111】
これらの結果は、n−ブタノールの分配係数Dが、追加成分、例えば、アセトンなどの存在により影響されないことを示す。ブタノールの存在下でのアセトンの分配係数Dは、アセトンもまた、イオン液体 1−デシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート(DMIM TCB)により抽出されるが、ブタノールより顕著に少ないことを示す。したがって、イオン液体 1−デシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレートは、より選択的にn−ブタノールを分離することができる。
【0112】
例3:
例2と同様にして、2重量%のn−ブタノール、1重量%のアセトンおよび0.3重量%のエタノールを含む水相を、20℃の温度において調査した。1−デシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレートに対する、20℃での水相からのn−ブタノールの分配係数Dは、3.04である。アセトンおよびエタノールの存在下でのn−ブタノールの抽出は妨げられず、したがって、選択的な様式で可能である。
【0113】
例2および3は、2または3成分系、すなわち、ABE発酵の合成発酵ブロスの単純な系について、本発明の方法をサポートする。
【0114】
例4:ブタノールの初期濃度および温度の調査
温度およびブタノールの初期濃度の影響を、イオン液体1−デシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレートを使用して調査する。分配係数を、最大容量10mlの二重壁ガラス容器中で測定し、各相の等重量(3g)を調査する。水相におけるブタノールの初期濃度は、0.2〜2重量%の間で変化する。
【0115】
温度を、5℃間隔で、20℃〜40℃の間で変化させる。これらは、発酵の標準条件である。各相の等重量(3g)を接触させ、マグネチックスターラー(Variomag telesystem 06.07)により激しく混合する。各場合において調査される温度は、恒温循環水槽(Julabo F25 ME)により一定に保たれる。10分間の相分離後、各相のサンプルを採取し、分析する。
【0116】
評価:
分配係数は、一定温度である25℃において、水相中の初期ブタノール濃度の増加に伴い、2.6から3.3へ増加する。測定した温度(20℃、25℃、30℃、35℃、40℃)において、分配係数は、ブタノールの初期濃度の増加に伴い、0.6〜1増加する。抽出温度が高くなるほど、分配係数の増加は小さくなる。
【0117】
分配係数は、温度の上昇および水相におけるブタノールの1重量%の一定の初期濃度により、2.7から4.3へ増加する。分配係数における1.4〜3.0の増加が、各々の測定したブタノールの初期濃度に対して得られる。
【0118】
図4は、この結果をまとめたものであり、DMIM TCB/水系におけるブタノールの分配係数に対する温度および初期濃度の影響を表す。
【0119】
初期濃度の増加に伴い、一定温度25℃での水に対するブタノールへの選択性における87から107への増加が、同様に観測される。選択性は、温度の上昇および水相におけるブタノールの1重量%の一定の初期濃度により、100から133に増加する。選択性における28〜50の増加が、各々の測定したブタノールの初期濃度に対して得られる。
【0120】
図5は、この結果をまとめたものであり、DMIM TCB/水系における水に対するブタノールの選択性への温度および初期濃度の影響を表す。
【0121】
図6は、25℃でのオレイルアルコールと比較した、水溶液中の1重量%のブタノールについての、DMIM TCB/水系におけるブタノールの分配係数に対してプロットした、n−ブタノールの水に対する選択性における温度の影響を示す。
【0122】
例5:
沈降時間および相分離
同体積(3ml)の水およびイオン液体1−デシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート、または同体積(3ml)の水およびオレイルアルコールを接触させ、激しく混合する。混合の完了後、相分離の時間を測定する。15分後、イオン液体(IL)/水系における明確な相分離が得られ、IL相が、90%まで形成された。
【0123】
オレイルアルコール相は、15分後に35%まで、20分後に45%まで、25分後に90%まで形成されたにすぎなかった。
したがって、IL/水系の沈降時間(settling time)は、オレイルアルコール/水系と比較して、半分の時間を要するにすぎない。
【0124】
例6:オレイルアルコールとの比較
上述のように、少量の極性副生成物、例えば、エタノールまたはアセトンなどが、発酵ブロス中に見られる。したがって、これらの副生成物の存在下における抽出剤の働きをチェックすることも関連がある(例2および3も参照)。
【0125】
DMIM TCBとオレイルアルコールとの比較
分配係数を、最大容量10mlの二重壁ガラス容器中で測定し、等重量(3g)のDMIM TCBまたはオレイルアルコールを調査する。
3種の溶液を調査する:
【0126】
2重量パーセントのブタノールを含む溶液A(1成分)、
2重量パーセントのブタノールおよび1重量パーセントのアセトンを含む溶液B(2成分)、
2重量パーセントのブタノール、1重量パーセントのアセトンおよび0.3重量パーセントのエタノールを含む溶液C。
【0127】
等重量(3g)を各溶液と接触させ、マグネチックスターラー(Variomag telesystem 06.07)により激しく混合する。温度を、恒温循環水槽(Julabo F25 ME)により、24時間25℃に一定に保つ。10分間の相分離後、各相のサンプルを採取し、分析する。
【0128】
溶液Aについて、ブタノールの分配係数は、DMIM TCBに対して3.2であり、オレイルアルコール(OA)に対して4.0である。
溶液Bについて、ブタノールの分配係数は、DMIM TCBに対して3.5に上昇し、一方、ブタノールの分配係数はOAに対して4.0に低下する。
溶液Cについて、DMIM TCBに対するブタノールの分配係数は、統計学的には(in statistical terms)、OAに対する値と同程度である。図7は、この結果を説明する。
【0129】
極性化合物、例えば、アセトンまたはエタノールなどの存在は、DMIM TCBの働きを高める。同じ極性化合物は、オレイルアルコールの働きの低下をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体を溶媒として使用して、水溶液からアルコールを液液抽出するための方法。
【請求項2】
テトラシアノボレートアニオンを含有するイオン液体と、少なくとも1種のアルコールを含む水溶液とが、少なくとも1種の2相混合物を形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)少なくとも1種のアルコールを含む水溶液を提供し、
b)a)からの水溶液と、テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体とを、イオン液体が、水溶液から少なくとも一部のアルコールを抽出でき、このアルコールと少なくとも1種の単相混合物を形成できるように、激しく混合し、
c)少なくとも1種のb)からの単相混合物を水溶液から分離し、
d)b)からの単相混合物を、成分アルコールおよびイオン液体に分離し、および任意に
e)d)からのイオン液体を、段階b)にフィードバックする、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
方法が、連続的または半連続的に行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1種のアルコールが、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、n−ブタノールまたはn−ブタノールの異性体あるいはそれらの混合物の群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種のアルコールが、n−ブタノールであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種のアルコールを含む水溶液が、発酵ブロスであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
発酵ブロスが、アセトン−ブタノール−エタノール発酵に由来することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体が、式(1)、(2)および(3):
[NR [B(CN) (1)、
[PR [B(CN) (2)、
[SR [B(CN) (3)、
式中、
Rは、各場合において、互いに独立して、
−1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状のアルケニル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状のアルキニル、
−5〜7個のC原子を有する、飽和の、部分的に不飽和の、または完全に不飽和のシクロアルキルであって、1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよいもの、
を示し、
ただし、少なくとも2個の置換基Rは、少なくとも5個のC原子を有する、
で表される化合物の群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体が、式(4)および(5):
[C(RN)(OR)(NR)] [B(CN) (4)、
[C(RN)(SR)(NR)] [B(CN) (5)、
式中、
〜Rは、各々、互いに独立して、
−H、ここで、Hは、Rについては除外され、
−1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状のアルケニル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状のアルキニル、
−3〜7個のC原子を有する、飽和の、部分的に不飽和の、または完全に不飽和のシクロアルキルであって、1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよいもの、
を示す、
で表される化合物の群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体が、式(6):
[C(NR)(NR1011)(NR1213)] [B(CN) (6)、
式中、
〜R13は、各々、互いに独立して、
−H、
−1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状のアルケニル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状のアルキニル、
−3〜7個のC原子を有する、飽和の、部分的に不飽和の、または完全に不飽和のシクロアルキルであって、1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよいもの、
を示す、
で表される化合物の群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体が、式(7):
[HetN]z+ [B(CN) (7)、
式中、
[HetN]z+は、
【化1】


の群から選択される複素環カチオンを示し、
ここで、置換基
1’〜R4’は、各々、互いに独立して、
−1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状のアルキル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状のアルケニル、
−2〜20個のC原子および1個または2個以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状のアルキニル、
−5〜7個のC原子を有する、飽和の、部分的に不飽和の、または完全に不飽和のシクロアルキルであって、1〜6個のC原子を有するアルキル基により置換されていてもよいもの、
を示し、
ここで、置換基R1’、R2’、R3’および/またはR4’はまた、一緒になって、環系を形成してもよい、
で表される化合物の群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体が、請求項9に記載の式(1)および(2)の化合物または請求項12に記載の式(7)の化合物の群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体が、
1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート、
1−デシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート
1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウム テトラシアノボレート、
トリヘキシルテトラデシルアンモニウム テトラシアノボレート、
トリヘキシルテトラデシルホスホニウム テトラシアノボレート、
N−オクチルピリジニウム テトラシアノボレート、
1−オクチル−1−メチルピロリジニウム テトラシアノボレート、
N−オクチル−N−メチルモルホリニウム テトラシアノボレート、
1−オクチル−1−メチルピペリジニウム テトラシアノボレート
の群から選択されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
テトラシアノボレートアニオンを含有する少なくとも1種のイオン液体の、水溶液からアルコールを液液抽出するための溶媒としての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−524342(P2011−524342A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510866(P2011−510866)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003485
【国際公開番号】WO2009/152906
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】