説明

水熱安定性の多孔性分子ふるい触媒及びその製造方法

水熱安定性の多孔性分子ふるい触媒及びその製造方法を開示する。前記触媒は、−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるい、水−不溶性金属塩及びリン酸化合物を含む原料混合物の水分蒸発で得られる生成物からなる。前記触媒は、高温多湿な雰囲気でも、物理的及び化学的安定性が維持される。従って、前記触媒は、接触分解反応、異性化反応、アルキル化反応及びエステル化反応を含む各種の酸化/還元反応などの不均一触媒反応において高温多湿な過酷な工程環境で使用されても、優れた触媒活性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水熱安定性の多孔性分子ふるい触媒及びその製造方法に係り、さらに具体的には、高温多湿な雰囲気の下でも比較的安定した構造を有し、触媒活性を保持することが可能な、水熱安定性の多孔性分子ふるい触媒、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
−Si−OH−Al−骨格を持つ多孔性無機質物質は、豊富な気孔、大きい比表面積、並びに多くの活性部位及び酸性部位を有するため、多孔性分子ふるい触媒分野に広く適用されてきた。
このような多孔性分子ふるい触媒は、接触分解反応、異性化反応、エステル化反応を含む各種の酸化/還元反応などの不均一触媒反応、特に高温多湿な過酷な雰囲気の下で熱安定性が要求される不均一触媒反応に使用される。しかし、このような場合において、この触媒には、500℃以上の蒸気雰囲気に置かれると、四面体骨格のアルミニウムが離脱して構造が壊れると同時に、触媒の酸性部位が減少して触媒の活性が急激に減少するという問題点があった。
【0003】
そのため、高温多湿な過酷な工程雰囲気に置かれることにより発生する多孔性分子ふるい触媒の失活を減らすために、先行技術においては多孔性固体酸をリン酸化合物及び/又は特定の金属で修飾する方法が試みられてきた。
【0004】
これらの方法に関し、米国特許第4,977,122号には、水熱安定性触媒であって、(a)結晶性ゼオライト;(b)無機酸化物マトリックス(例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、マグネシア、ジルコニア、チタニア、ボリア、クロミア、粘土など);及び(c)アルミナをリン酸塩或いは亜リン酸塩のアルカリ土類金属(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)塩と接触させて調製されたリン含有アルミナを含み、アルミナの量に対し、前記ゼオライトは1〜70質量%で存在する結晶性ゼオライトUSYであって、リン含有アルミナは5〜50質量%存在し、前記リンは0.5〜5.0質量%の量で存在する触媒が開示されている。
【0005】
米国特許第6,867,341号には、ゼオライトに存在するアルミニウム原子の分布及びゼオライトの結晶サイズを調節して得られるナフサ分解触媒、及びこの触媒を用いたナフサ分解方法が開示されている。この触媒は、気孔の外側に存在するアルミニウムを化学的に中和することによって気孔表面の芳香族化合物の生成を最小化する一方、気孔の内側のアルミニウムイオン濃度を増加させて酸性部位を増大させることにより、大きさの小さいエチレンとプロピレンとがより選択的に製造されるように設計して調製される。前記特許によれば、この技術により得られたフェリエライト(Ferrierite)ゼオライトが、50%蒸気雰囲気中、690℃で2時間置かれていても、四面体Al骨格をそのまま維持するというAl−NMRスペクトルが示されている。しかし、100%蒸気雰囲気中、750℃で24時間処理された場合は、この触媒の水熱安定性と構造的安定性は保証することができないものと予想される。
【0006】
米国特許第6,835,863号には、ZSM−5及び/又はZSM−11を5〜75質量%、シリカ又はカオリンを25〜95質量%、リンを0.5〜10質量%含有するペレット化触媒を用いてナフサ(沸点:27〜221℃)を接触分解して、軽質オレフィンを製造する方法が開示されている。しかし、具体的なリン出発物質と成形触媒の水熱安定性については何の言及もない。
【0007】
一方、米国特許第6,211,104号には、10〜70質量%の粘土、5〜85質量%の無機酸化物、及び1〜50質量%のゼオライトを含む接触分解用触媒が開示されている。前記触媒で使用されているゼオライトは、0〜25質量%のY−ゼオライト又はREY−ゼオライト、75〜100質量%のペンタシル(pentasil)ゼオライト(SiO2/Al23=15〜60;2〜8質量%のP25、及び0.3〜3質量%のAl23又はMgO又はCaOを含むZSM−5、ZSM−8、及びZSM−11ゼオライトから選択される)からなり、前記のアルミニウム又はマグネシウム又はカリウム化合物の出発物質は、それらの硝酸塩、塩酸塩、又は硫酸塩の水溶液から選択される。特に、前記触媒は800℃、100%蒸気雰囲気中で4〜27時間の前処理を行っても優れたオレフィン生成を示すと記載されている。しかし、前記特許にはPの具体的化学種を調節/選別して担持する技術が開示されておらず、添加される金属の種類もAl、Mg、Caに限定されており、また慣用の水溶性金属塩を使用しているので触媒製造過程中に生じたAl、Mg或いはCaの陽イオンがゼオライトのプロトンと容易にイオン交換されて酸性部位を失うことになる。この理由から、与えられた合成条件の下では特許で提案された触媒を製造することが容易ではないと考えられる。
【0008】
上述の多孔性固体酸をリン酸化合物及び/又は特定の金属で修飾する従来方法において、特に、リン酸イオンを用いて多孔性担体を修飾する場合、下記式に示すように、ゼオライト内のブレンステッド(Bronsted)酸性部位として作用する−Si−OH−Al−部分がリン酸イオン([PO43-)によって修飾されることにより、≡P=O基が不安定なAlを安定化させて脱アルミニウム化を最小化させる。しかし、リン酸イオンは、相対的に酸性度が強いため、リン酸を用いた修飾反応において、ゼオライト内の酸性度が相異する様々な種類の酸性部位を非選択的に修飾する性質がある。従って、この場合、酸性部位の調節が容易ではない。
【0009】
【化1】

【0010】
別の方法としては、Laなどの希土類金属とリン酸イオンなどを用いてゼオライトを修飾する方法が挙げられる。この場合、酸化数の高いLa3+イオン又はリン酸イオンの大きさがゼオライト気孔に比べて大きいため、合成の間の一般な修飾手段でゼオライト気孔表面がこれらのイオンによって修飾される。
【0011】
一方、高温で存在する蒸気は、ゼオライト気孔の内部より表面に存在する−Si−OH−Al−部分を攻撃し、これにより−Si−OH−Al−部分の脱アルミニウム化がなされて徐々に構造が壊れるものと予想される。この問題の解決のため、ゼオライトに希土類金属を担持させる場合、主に金属は気孔の表面に置かれるため、高温の蒸気から−Si−OH−Al−部分保護することができ、水熱安定性が改善される。
【0012】
しかし、金属の塩として慣用の水溶性塩を使用する場合、触媒製造の間に生じた多量の金属陽イオンがゼオライトのプロトンと容易にイオン交換して酸性部位を失うことになる。従って、このような場合、溶解された金属イオンが分子ふるいのプロトンとイオン交換されて酸性部位が減少して触媒性能が低下するという問題点がある。
【0013】
従って、(1)高温多湿な雰囲気中でも安定な構造を有し、(2)多孔性分子ふるい固体酸の基本骨格構造を維持しながら気孔表面のみが選択的に修飾され、(3)高温多湿な雰囲気中でも活性を長時間維持することができる触媒の開発が求め続けられている。
【発明の開示】
【0014】
技術的課題
そこで、本発明者らは、公知の多孔性分子ふるい触媒に比べて優れた水熱安定性を有し、容易な方法で製造され、過酷な工程環境においても活性を長時間維持することができる触媒について広範に研究した結果、リン酸化合物及び不溶性金属塩を用いて、多孔性分子ふるい触媒の気孔の外部に露出した酸性部位のみを水熱的に安定なリン酸イオン種で修飾し、これを金属イオンで安定化させると、高温多湿な雰囲気の下でも優れた水熱安定性を示す多孔性分子ふるい触媒を得ることができることを見出した。この事実に基づいて本発明が完成された。
【0015】
従って、本発明の目的は、接触分解反応、異性化反応、アルキル化反応及びエステル化反応を含む各種の酸化/還元反応などの不均一な触媒反応で使用される間に高温多湿な雰囲気に置かれていても物理・化学的安定性が維持される多孔性分子ふるい触媒及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、分子ふるい触媒の基本骨格構造を維持しながら気孔の表面のみが選択的に修飾されるため、高温多湿な雰囲気中でも長時間安定な構造を保つ多孔性分子ふるい触媒、及びその製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、容易な工程で製造され、量産が容易であり、経済性を向上させる多孔性分子ふるい触媒及びその製造方法を提供することにある。
【0016】
技術的解決方法
上記目的を達成するために、本発明は、−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるい100質量部、水−不溶性金属塩0.01〜5.0質量部、及びリン酸化合物0.05〜17.0質量部を含む原料混合物の水分蒸発により得られる生成物からなり、分子ふるいの表面気孔が下記化学式1〜化学式3で表される化合物のいずれか一つで修飾された、水熱安定性の多孔性分子ふるい触媒を提供するものである:
[化学式1]
x(H2PO4y
(式中、Mは金属であり、xは1であり、yは2〜6の整数である。)
[化学式2]
x(HPO4y
(式中、Mは金属であり、xは2であり、yは2〜6の整数である。)
[化学式3]
x(PO4y
(式中、Mは金属であり、xは3であり、yは2〜6の整数である。)
【0017】
本発明において、前記水−不溶性金属塩とリン酸化合物のモル比は1.0:0.3〜10.0であることが好ましい。
一方、前記分子ふるいは、Si/Alモル比が1〜300であり、かつ気孔サイズが4〜10Åであるゼオライト、又は気孔サイズが10〜100Åであるメソ細孔型分子ふるいであることが好ましい。さらに好ましくは、前記分子ふるいは、ZSM−5、フェリエライト(Ferrierite)、ZSM−11、モルデナイト(Mordenite)、β−ゼオライト、MCM−22、L−ゼオライト、MCM−41、SBA−15及びY−ゼオライトよりなる群から選択される。
【0018】
前記水−不溶性金属塩は、アルカリ土類金属、遷移金属、及び+3〜+5の酸化数を持つ重金属よりなる群から選択される少なくとも一つの金属の、酸化物、水酸化物、炭酸化物又はシュウ酸塩であることが好ましい。
前記リン酸化合物は、リン酸(H3PO4)、リン酸アンモニウム、又はアルキルリン酸塩であることが好ましい。
【0019】
本発明の好ましい1態様によれば、本発明は、水熱安定性の多孔性分子ふるい触媒の製造方法を提供し、該製造方法は(a)リン酸化合物と水−不溶性金属塩を含む水性スラリーに、−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるいを、水性スラリーが分子ふるい100質量部、水−不溶性金属塩0.01〜5.0質量部、及びリン酸化合物0.05〜17.0質量部の原料組成を持つように添加する工程;及び(b)前記水性スラリー内の水分を蒸発過程によって除去した後、濾過して固体生成物を回収する工程を含む。
【0020】
本発明方法において、工程(a)は、(i)リン酸化合物、水−不溶性金属塩及び水を混合して水性スラリーを調製する副工程;(ii)前記スラリー内で前記リン酸化合物がリン酸水素イオン([HPO42-)、リン酸二水素イオン([H2PO4-)及びリン酸イオン([PO43-)から選択される1種のイオンの形態で存在するようにスラリーのpHを調節し、スラリーを攪拌する副工程;及び(iii)工程(ii)のスラリーに、−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるいを添加する副工程を含んでもよい。
工程(ii)の攪拌は20〜60℃の温度で30分〜3時間行えばよい。
また、工程(b)の蒸発過程は10〜90℃の温度で行えばよい。
【0021】
他の好ましい態様において、本発明は、水熱安定性の多孔性分子ふるい触媒の製造方法を提供し、該方法は(a)リン酸化合物と水−不溶性金属塩を含む水性スラリーを製造する工程;(b)前記水性スラリー内の水分を第1蒸発過程によって除去した後、濾過して第1固体生成物を回収する工程;(c)−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるいを含む水溶液を製造する工程;及び(d)前記分子ふるい水溶液に前記第1固体生成物を添加して、第2蒸発過程によって混合溶液から水分を除去した後、濾過して第2固体生成物を分離する工程を含み、前記リン酸化合物と水−不溶性金属塩は分子ふるい100質量部に対してそれぞれ0.05〜17.0質量部及び0.01〜5.0質量部の量で使用される。
【0022】
この態様において、工程(a)は、(i)リン酸化合物、水−不溶性金属塩及び水を混合する副工程と、(ii)前記混合物内で前記リン酸化合物がリン酸水素イオン、リン酸二水素イオン及びリン酸イオンから選択される1種のイオンの形態で存在するように混合物のpHを調節し、混合物を攪拌する副工程とを含んでもよい。
【0023】
前記第1固体生成物は前記分子ふるい100質量部に対して0.01〜20.0質量部の量で添加すればよい。
この際、工程(ii)の混合は20〜60℃の温度で30分〜3時間行えばよい。
また、前記第1蒸発過程は10〜90℃の温度で行われることが好ましく、前記第2蒸発過程は20〜60℃の温度で行われることが好ましい。
【0024】
有利な効果
本発明に係る多孔性分子ふるい触媒は、公知慣用の固体酸触媒を代替することが可能な経済的な組成物である。特に高温多湿な雰囲気中で処理しても比較的安定な構造を有し、触媒活性を長時間維持することができる。
【0025】
上記のように本発明の触媒は、高温多湿な雰囲気においても、物理的及び化学的に安定であるため、接触分解反応、異性化反応、アルキル化反応、エステル化反応を含む各種の酸化/還元反応などの不均一触媒反応に使用すると、優れた触媒活性を示すものと期待される。
また、触媒の製造に伴う反応が比較的簡単であり、触媒製造原料への所要費用を減らすことができるという点で、本発明の触媒は非常に有用であると期待される。
【0026】
最善の形態
以下、本発明をより具体的に説明する。
上述のように、本発明の多孔性分子ふるい触媒は、−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるい100質量部、水−不溶性金属塩0.01〜5.0質量部、及びリン酸化合物0.05〜17.0質量部を含む原料混合物の水分蒸発により得られる生成物からなる。前記触媒を接触分解反応、異性化反応、エステル化反応を含む各種の酸化/還元反応などの不均一触媒反応で高温多湿な過酷な環境の下で使用すると、前記触媒は経済性を向上させつつ、優れた水熱安定性、反応活性及び反応選択度を示すことができる。本発明の触媒は、修飾物の出発物質の種類、各構成成分の組成比、担持量、担持時の溶液のpH及び温度などを適切に選択し調節することにより望まれる物理的及び化学的性質を有するように製造することができる。触媒の製造過程で下記の技術的事項が考慮される:
【0027】
(1)リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン及びリン酸イオンから選択される1種のイオンの形態で存在するリン酸化合物によって分子ふるいの表面気孔のみを選択的に修飾する技術;
(2)水−不溶性金属塩を用いて、分子ふるい中のプロトンと多量の溶解した金属イオンとのイオン交換を防止すると同時に、分子ふるいを修飾しているリン酸化合物を安定化させる技術;及び
(3)リン酸化合物及び金属で修飾された分子ふるいを水分蒸発によって安定化する技術。
【0028】
このような技術的背景の下で、−Si−OH−Al−基骨格を有する分子ふるいであれば、どのような触媒担体を使用してもよい。
4〜10Åの気孔サイズを持つゼオライトを含み、10〜100Åの気孔サイズであり、かつ1〜300好ましくは約25〜80のSi/Alモル比を有するメソ細孔型分子ふるいから選択されるいずれか一つを使用することが好ましい。
【0029】
この中でも、特にZSM−5、フェリエライト、ZSM−11、モルデナイト、β−ゼオライト、MCM−22、L−ゼオライト、MCM−41、SBA−15及び/又はY−ゼオライトがより好ましく、これらの一般な特性は既に当業界において広く知られている。
本明細書において使用される用語として「水−不溶性金属塩」とは、溶解度積(solubility product、Ksp)が10-4より小さい、すなわちpKSPが4より大きい金属塩を意味する。このような金属塩の一例としては、+2より大きい酸化状態である金属の酸化物、水酸化物、炭酸化物又はシュウ酸塩などを挙げることができる。好ましくは、アルカリ土類金属、遷移金属、及び+3〜+5の酸化数を持つ重金属よりなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の、酸化物、水酸化物、炭酸化物又はシュウ酸塩などである。
【0030】
前記アルカリ土類金属としては好ましくはMg、Ca、Sr及びBaなどが挙げられ、前記遷移金属としてはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuなどが挙げられ、前記重金属としてはB、Al、Ga、In、Ti、Sn、Pb、Sb及びBiなどが挙げられる。
一方、本発明で使用されるリン酸化合物は、当業界に知られているものであれば特に限定されるのではない。しかし、リン酸化合物としてリン酸を使用すると、多孔性物質の結晶性が減少するという欠点があるため、リン酸の代わりにアルキルホスフィン(alkyl phosphine)誘導体を使用することもできるが、非経済的で取り扱いが容易でなく量産に適しないという問題点がある。この理由から、リン酸化合物として、リン酸、リン酸アンモニウム塩[(NH43PO4、(NH42HPO4、(NH4)H2PO4]、又はアルキルリン酸塩(alkyl phosphate)を使用することが好ましい。
【0031】
通常、リン酸(H3PO4)の酸解離定数pKa(1)、pKa(2)、及びpKa(3)は、それぞれ2.2、7.2、及び12.3であって、pH2.2、7.2、及び12.3領域で、リン酸はそれぞれリン酸水素イオン([HPO42-)、リン酸二水素イオン([H2PO4-)及びリン酸イオン([PO43-)の形態で存在することが知られている。従って、リン酸化合物を含む水溶液のpHを適切に調節して目的のリン酸イオン化学種を選択的に形成させることができることは、自明である。
【0032】
上述した組成から形成される多孔性分子ふるい触媒は、下記化学式1〜3で表わされる化合物から選択される1つの化合物で修飾される:
[化学式1]
x(H2PO4y
(式中、Mは金属であり、xは1であり、yは2〜6の整数である。)
[化学式2]
x(HPO4y
(式中、Mは金属であり、xは2であり、yは2〜6の整数である。)
[化学式3]
x(PO4y
(式中、Mは金属であり、xは3であり、yは2〜6の整数である。)
【0033】
このように、多孔性分子ふるい触媒の気孔の外部に露出した酸性部位が、高温多湿な雰囲気中で物理的及び化学的な安定性を有する修飾物で選択的に修飾されることにより、ゼオライトの表面を脱アルミニウム化から保護することができる。
【0034】
本発明の分子ふるい触媒の製造に関する説明が特定の理論に拘束されるものではないが、分子ふるいを形成している−Si−OH−Al−基が、リン酸化合物と金属の複合構造体によって、下記反応式1及び2に示すように修飾されることにより、ゼオライトのプロトンと縮合し、≡P=O基が不安定なAlを安定化させると同時に、2つの−OH基を金属で安定化させることにより、高温多湿な雰囲気中でもその骨格構造が比較的安定に維持されるものと考えられる。
【0035】
【化2】

【0036】
本発明に係る触媒の製造方法は、2つの方法に大別され、上述の原料混合物内に含まれる水分を選別的な蒸発過程によって除去して固体生成物を回収する工程を含む。
次に、本発明の好適な一態様に係る触媒製造方法を説明する。
【0037】
(1)水−不溶性金属塩を含む水性スラリーにリン酸化合物を添加して混合する。NaOH、KOH、NH4OH、HCl又はHNO3などの慣用のアルカリ或いは酸水溶液を用いて適切なpHに調節し、約20〜60℃、好ましくは約40〜50℃の温度で約30分〜3時間、好ましくは約1〜3時間攪拌することにより、リン酸化合物を水溶液中でリン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、及びリン酸イオンから選択される1種のイオンの形態で存在させる。
【0038】
特に、混合物を所望のpH範囲に調節することにより、このようなpHで存在する1つのリン酸イオン化学種のみを水溶液中に形成させることが好ましい。すなわち、特定のpH範囲を満足しなければ、1種以上のリン酸イオンが水溶液中に共存することにより、分子ふるいの気孔の表面を修飾する化学種が均一ではなくなって、修飾された触媒の耐久性を保証することが困難となる。
【0039】
(2)前記(1)の混合物に、−Si−OH−Al−基骨格を持つ分子ふるいを加える。得られた混合物を、好ましくは約10〜90℃、さらに好ましくは約50〜70℃の温度、及び目的に対応する特定のpH領域で攪拌して水性スラリー内の水分を全て蒸発させる。このようにして、分子ふるいを修飾しているリン酸イオン種を金属イオンで安定化させると同時に、スラリー内に存在する水分を除去する。そして減圧濾過して固体生成物を回収する。このような方法で、リン酸−金属塩で修飾された−Si−OH−Al−骨格を有する分子ふるい触媒を製造する。
【0040】
一方、前記触媒の製造に使用される原料混合物の組成は次のようである:−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるい100質量部;水−不溶性金属塩0.01〜5.0質量部;及びリン酸化合物0.05〜17.0質量部。
次に、本発明の別の態様による触媒製造方法について説明する。
【0041】
(1)水−不溶性金属塩を含む水性スラリーにリン酸化合物を添加して混合する。NaOH、KOH、NH4OH、HCl又はHNO3などの慣用のアルカリ或いは酸水溶液を用いて適切なpHに調節し、約20〜60℃、好ましくは約40〜50℃の温度で約30分〜3時間、好ましくは約1〜3時間攪拌することにより、リン酸化合物を水溶液中でリン酸水素イオン、リン酸二水素イオン及びリン酸イオンから選択される1種のイオンの形態で存在させる。その後、好ましくは10〜90℃で、さらに好ましくは50〜70℃の温度、及び目的に対応する特定のpH領域で、水性スラリー内の水分を全て蒸発するまで水分を蒸発させる。その後、残った固体生成物を減圧濾過し、洗浄して第1固体生成物を分離する。このような方法で水不溶性リン酸−金属塩を製造する。
【0042】
(2)−Si−OH−Al−基骨格を持つ分子ふるいを含む水溶液に前記(1)の第1固体生成物を添加して混合する。得られた混合物を好ましくは約20〜60℃で、さらに好ましくは約40〜50℃の温度で約30分〜約7時間、好ましくは約1時間〜5時間攪拌して水分を全て蒸発させる。その後固体生成物を減圧濾過し第2固体生成物を分離する。このような方法で、リン酸−金属塩で修飾された−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるい触媒を製造する。
【0043】
一方、前記触媒の製造に使用される原料混合物は、原料混合物の組成が以下のようであるように調節して使用される:−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるい100質量部;水−不溶性金属塩0.01〜5.0質量部;及びリン酸化合物0.05〜17.0質量部。特に、前記分子ふるい100質量部に対して前記第1固体生成物を0.01〜20.0質量部の量で使用することが所望の効果の観点から好ましい。
【0044】
上述の触媒製造方法において、前記金属塩中の一部が水溶液内で溶解して形成した金属イオンが分子ふるいのプロトンとイオン交換することなく、前記修飾されたリン酸イオン種のみを安定化させることが可能な条件を見出す必要がある。そうでなければ、溶解した金属イオンが分子ふるいのプロトンとイオン交換されて酸性部位が減少し、修飾触媒の反応性が低くなる。
【0045】
このため、前述したように、本発明では、水溶液における溶解度積が10-4より小さい水不溶性金属塩、好ましくはアルカリ土類金属、遷移金属、及び+3〜+5の酸化状態の重金属よりなる群から選ばれる少なくとも一つの金属の、酸化物、水酸化物、炭酸化物、又はシュウ酸塩などを使用している。このような水不溶性金属塩を使用することにより、水溶性金属塩を使用する場合の問題点である、多量の金属イオンの存在により分子ふるいのプロトンとイオン交換するという現象を実質的に防止することが可能となるとともに、所望の金属イオンによって修飾されたリン酸イオンを安定化させるという効果を大きくすることができる。
【0046】
この際、前記触媒製造用水性スラリー内の原料混合物は下記組成に保たれていなければならない:分子ふるい100質量部;水不溶性金属塩0.01〜5.0質量部;及びリン酸化合物0.05〜17.0質量部。原料混合物の組成が特定された組成の範囲外となると、分子ふるいの表面気孔が、本発明で与える修飾物で選択的に修飾されず、酸性部位の数がいくらか減少して触媒活性が低下する。特に、前記水−不溶性金属塩とリン酸化合物のモル比は、1.0:0.3〜10.0、好ましくは1.0:0.7〜5.0である。前記水−不溶性金属塩とリン酸化合物のモル比が1.0:0.3より小さい場合には、不必要な金属イオンが過剰に存在して、分子ふるいの酸性部位の数が減少し、修飾された触媒の反応性が低下するという問題がある。これに対し、前記水−不溶性金属塩とリン酸化合物のモル比が1.0:10.0より大きい場合には、分子ふるい骨格を十分修飾することができず、修飾された分子ふるいの水熱安定性が不良になるという問題がある。
【0047】
上述のように、米国特許第6,211,104号には、10〜70質量%の粘土、5〜85質量%の無機酸化物、及び1〜50質量%のゼオライトを含む接触分解用触媒が開示されている。この特許の触媒で用いられている前記ゼオライトは、0〜25質量%のY−ゼオライト又はREY−ゼオライト、及び75〜100質量%のペタシルゼオライト(SiO2/Al23=15〜60;2〜8質量%のP25及び0.3〜3質量%のAl23又はMgO又はCaOを含むZSM−5、ZSM−8、及びZSM−11ゼオライトから選択される)からなり、この際、アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムの出発物質としてはそれらの硝酸塩、塩酸塩、又は硫酸塩の水溶液から選択される。しかし、前記特許では添加される金属の種類がAl、Mg、Caに限定されており、前記特許は本発明で示すようなリンの役割を十分に解明できていない。また、これらの金属の出発物質として慣用の水溶性塩を使用することによって、触媒製造過程中に生じるAl、Mg、又はCaの陽イオンがゼオライトのプロトンと容易にイオン交換して酸性部位を失うことになる。この理由により、前記特許で開示された触媒は本発明の触媒のように分子ふるいの表面気孔を選択的に修飾、安定化させたものであることを示すことができていない。
【0048】
一方、上述した本発明の多孔性触媒は、高温多湿な過酷な環境における触媒の水熱安定性が求められる、接触分解反応、異性化反応、アルキル化反応、エステル化反応を含む各種の酸化/還元反応などの不均一触媒反応用触媒として有用である。特に、本発明の触媒は高温多湿な過酷な環境における触媒の水熱安定性が要求される接触分解反応用触媒として有用である。
【0049】
本発明に係る多孔性分子ふるい触媒の水熱安定性特性評価と関連し、例えば本発明の触媒を750℃、100%蒸気雰囲気中で24時間以上、好ましくは24〜30時間蒸気処理する場合にも、本発明の触媒は構造的又は性能の面で安定しており優れた触媒活性を示す。特に、上述の雰囲気中で蒸気処理した本発明に係る分子ふるい触媒を、例えば接触分解反応工程に使用する場合、接触分解反応領域の流出物中の軽質オレフィン(エチレン+プロピレン)含量は好ましくは約30質量%より多く、より好ましくは約35質量%より多く、最も好ましくは約37質量%より多く、優れた軽質オレフィン選択性を示す。この場合、エチレン/プロピレンの質量比は約0.7〜1.2の範囲であって、プロピレンを比較的多量生成していることを示す。
【0050】
前述したように、本発明によれば、水が伴われる反応で非常に要求される水熱安定性多孔性分子ふるい触媒をこの固有の方法によって提供することができる。また、多孔性分子ふるい触媒の気孔の外部に露出された酸性部位のみを水熱的に安定なリン酸イオン種で修飾することによって、このリン酸イオン種もまた水−不溶性金属塩の添加によって金属イオンで安定化され、高温多湿な雰囲気の下でも水熱安定性が維持される多孔性分子ふるい触媒を提供することができる。
【0051】
発明の形態
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。しかし、下記実施例は本発明の範疇を限定するものと解されるものではない。
【0052】
実施例1
(1)200mLの蒸留水に9.58gの濃リン酸(85%H3PO4)を溶解した。この溶液に3.35gのMgOを約20分間攪拌しながら徐々に添加した。次に、この溶液を約40℃で約1時間攪拌し、約60℃で水分が全て蒸発するまでさらに攪拌した。生成した固体生成物を洗浄し、濾過分離した。
【0053】
(2)200mLの蒸留水に、Si/Alのモル比が25のHZSM−5(Zeolyst社)1.94gと工程(1)で製造した固体生成物0.06gとを加えた。混合溶液を50〜60℃で約5時間攪拌し、攪拌した溶液を減圧濾過して洗浄、分離することにより、Mg−HPO−HZSM−5触媒を製造した。
【0054】
実施例2
(1)100mLの蒸留水に19.68gの濃リン酸(85%H3PO4)を溶解した。この溶液に、4.78gのMg(OH)2を約20分間攪拌しながら徐々に添加した。次にこの溶液を約40℃で1時間攪拌し、さらに約60℃で水分が全て蒸発するまで攪拌した。得られた固体生成物を洗浄し、濾過分離した。
【0055】
(2)100mLの蒸留水に、Si/Alのモル比が25のHZSM−5(Zeolyst社)1.94gと工程(1)で製造した固体生成物0.06gとを加えた。混合溶液を約50〜60℃で約5時間攪拌し、攪拌した溶液を減圧濾過して洗浄、分離することにより、Mg−H2PO4−HZSM−5触媒を製造した。
【0056】
実施例3
(1)100mLの蒸留水に17.5gの濃リン酸(85%H3PO4)を溶解した。この溶液に、13.31gのMg(OH)2を約20分間攪拌しながら徐々に添加した。次にこの溶液を約40℃で1時間攪拌し、約60℃で水分が全て蒸発するまで攪拌した。生成した固体生成物を洗浄し、濾過分離した。
【0057】
(2)100mLの蒸留水に、Si/Alのモル比が25のHZSM−5(Zeolyst社)1.94gと工程(1)で製造した固体生成物0.06gとを加えた。混合溶液を、約50〜60℃で約5時間攪拌し、攪拌した溶液を減圧濾過して洗浄、分離することにより、Mg−PO4−HZSM−5触媒を製造した。
【0058】
実施例4
100mLの蒸留水に、0.30gの濃リン酸(85%H3PO4)を加え、20分間攪拌した。この溶液に、0.15gのMg(OH)2を添加し、この混合溶液をアンモニア水を用いてpH7.2に調節した後、約45℃で約1時間攪拌した。その後Si/Alのモル比が10のフェリエライト(Zeolyst社)10gを混合物に添加して1時間さらに攪拌した。混合溶液を、約70℃で水分が全て蒸発するまで攪拌した。その後、減圧濾過して固体生成物を分離することにより、Mg−HPO4−HFER−5触媒を製造した。
【0059】
実施例5〜6
原料混合物の組成を下記表1に示すように変化させた以外は実施例4と同様にして、触媒を製造した。
【0060】
実施例7
100mLの蒸留水に、0.18gの濃リン酸(85%H3PO4)を加えて約20分間攪拌した。この溶液に、0.15gのBaCO3を添加し、硝酸水溶液を用いてこの混合物をpH2〜3に調節し、約50℃の温度で約1時間攪拌した。攪拌した溶液に、Si/Alのモル比が25のHZSM−5(Zeolyst社)10gを加えて1時間さらに攪拌した。そして、得られた材料を約60℃で水分が全て蒸発するまで攪拌して、Ba−H2PO4−HZSM−5触媒を製造した。
【0061】
実施例8〜9
原料混合物の組成を下記表1に示すように変化させた以外は実施例4と同様にして、触媒を製造した。
比較例1
HZSM−5(Si/Al=25、Zeolyst社)10gを空気中で約500℃の温度で5時間焼成することにより、HZSM−5触媒を製造した。
【0062】
比較例2
100mLの蒸留水に、10gのHZSM−5(Si/Al=25、Zeolyst社)と0.74gの濃リン酸(85%H3PO4)とを加えて、約20分間攪拌した。攪拌した溶液に、1.40gのLa(NO33・xH2Oを添加し、この混合物をpH7〜8に調節し、その後約45℃で約20分間攪拌した。約50℃で水分が全て蒸発するまで攪拌した後、減圧濾過して固体生成物を分離し、La−H3PO4−HZSM−5触媒を製造した。
【0063】
比較例3
米国特許第6,211,104号に開示された方法によって触媒を製造した。この触媒は次のように製造された。85%リン酸とMgCl2・6H2Oとの蒸留水の溶液40gに、20gのNH4−ZSM−5を加え、その後、攪拌して分子ふるいに、りん酸と金属塩とを担持した。担持の後、得られた材料を120℃のオーブンで乾燥させた。
【0064】
【表1】

【0065】
<水熱安定性の評価>
実施例3と比較例1及び3で製造された触媒の水熱安定性を評価するために、触媒を蒸気処理する前及び後の該触媒の27Al NMRスペクトルをそれぞれ測定し、その結果を図1〜図3(図1:実施例3;図2:比較例1;図3:比較例3)にそれぞれ示した。ここで、前記蒸気処理は、750℃、100%蒸気雰囲気中で24時間行われた。
【0066】
図1〜図3に示すように、実施例及び比較例で製造された触媒間で、蒸気処理前後の安定性が相異していた。すなわち、本発明の実施例3で製造された触媒は、高温多湿な雰囲気(750℃、100%蒸気雰囲気中で24時間維持)で蒸気処理しても約55ppm位置の四面体Alピークの位置と大きさが殆ど変化せず、蒸気処理の後四面体構造がそのまま維持されていることを示した。これは、本発明で提示した修飾方法により、Alの構造が過酷な雰囲気中でも安定に維持されることを示唆する。
【0067】
一方、比較例1の触媒は、蒸気処理前には約55ppm位置の四面体Alピークを示したが、約55ppm位置のAlピークの強さが約82%の水準に減少しただけでなく、それぞれ五面体及び八面体構造を持つものと予想される、約30ppm及び0ppm位置のAlピークが生成することを観測することができた。このことより、四面体構造を持つAl化学種の一部が他の構造に変形して安定性が著しく低下することが示唆された。
【0068】
また、米国特許第6,211,104号に記載された方法によって製造された比較例3の触媒の水熱安定性特性を検討した結果、蒸気処理の前には55ppm位置の四面体Alピークを示すが、蒸気処理の後にはピークの強さが約50%の水準に減少し、不安定な四面体構造を持つAl化学種の一部がなくなり水熱安定性が減少したことを示唆した。
【0069】
実施例3で製造された触媒の水熱安定性を評価するために、蒸気処理の前後の触媒のX線回折パターンを測定し、その結果を図4に示した。ここで、前記蒸気処理は750℃、100%蒸気雰囲気の下で24時間行った。
【0070】
図4からわかるように、実施例3に従って製造された触媒は、蒸気処理前後でほぼ同じX線回折パターンを示した。すなわち、本発明に係る実施例3の触媒は高温多湿な雰囲気中(750℃、100%蒸気雰囲気中で24時間維持)で蒸気処理しても分子ふるいの骨格構造をそのまま維持した。これは、本発明で開示した修飾方法によって、−Si−OH−Al−基骨格を持つ分子ふるいの構造が過酷な雰囲気中でも安定に維持されることを示唆する。
【0071】
<触媒活性度の評価>
図5に示すように、触媒の活性度を測定するためのシステムは、それぞれ一体的に連結されているナフサ供給装置4、水供給装置3、固定層反応器5、5’、及び活性度評価装置から構成される。この際、供給原料としては下記表2で特定されたナフサを使用した。液体注射ポンプにより供給されたナフサ及び水は、300℃の予熱器(図示せず)で互いに混合され、ヘリウム供給装置2、2’及び窒素供給装置1、1’によりそれぞれ供給された6mL/minのHe及び3mL/minのN2と混合され、この混合物は固定層反応器5、5’に流入された。この際、それぞれの気体量及び速度は流量調節器(図示せず)で調節した。前記固定層反応器は内部反応記及び外部反応器に区分されている。前記外部反応器はインコネル(Inconel)反応器であって、長さ38cm、外径4.6cmの大きさに製作し、ステンレススチール製の内部反応器は、長さ20cm、外径0.5インチの大きさに製作した。反応器内の温度は温度出力装置7、7’を介して表示され、反応条件はPID制御器(8、8’、韓国、ハンヨン電子社のNP200)を介して調節された。
【0072】
前記反応器に流入した気体は、内部反応器を通過した後、Heが40mL/minで流れる外部反応器を通過した。前記内部反応器の下端部に触媒を充填した。混合気体は触媒層6、6’で接触分解され、反応後、気相生成物12はオンラインでガスクロマトグラフィー11(モデル:HP6890N)により定量された。凝縮器9、9’を通過した残りの液相生成物13は貯蔵タンク10、10’に回収された後、ガスクロマトグラフィー(モデル:DS6200、図示せず)で定量された。前記接触分解反応に使用した触媒の量は0.5gであり、ナフサ及び水の供給量はそれぞれ0.5g/hであって、かつ反応は675℃で行われた。
得られた転換率、反応生成物内の軽質オレフィン(エチレン+プロピレン)選択度、及びエチレン/プロピレンの質量比の結果を下記表3に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
表3からわかるように、実施例及び比較例によって製造された触媒の間で触媒の反応性が相異していた。すなわち、本発明に係る実施例1〜9の触媒は、高温多湿な雰囲気(750℃、100%蒸気雰囲気中で24時間維持)で蒸気処理しても、約76〜80質量%の高い転換率を示すと同時に、エチレン+プロピレンの和が約33〜37質量%に相当する高い選択度(エチレン/プロピレンの質量比は約0.8〜1.0)を示した。
【0076】
一方、比較例1の触媒は、転換率が67.7質量%、エチレン+プロピレンの和が24.5質量%であって、触媒活性が不良であることを示した。比較例2の触媒は。約75.4質量%の転換率及び30.5質量%のエチレン+プロピレンの和を示した。これらの結果は実施例1〜9に比べて劣った結果であることが分かるが、これは水不溶性塩ではなく水溶性金属塩である硝酸塩を使用したためであると考えられる。また、米国特許第6,211,104号B1に記載された方法によって触媒を製造された触媒(比較例3)の反応活性も評価され、評価結果は、本発明の触媒に比べて劣っていた。
【0077】
上述のように、本発明に係る触媒は、750℃、100%蒸気雰囲気中で24時間水熱処理してもC2=+C3==33〜37%を示す反面、HZSM−5、P−HZSM−5、La−HZSM−5触媒はC2=+C3==23〜24%を示し、La−P−HZSM−5は、C2=+C3==約30%を示した。また、本発明の触媒は、触媒の修飾に用いられる化学種の成分及び組成比を調節することにより、触媒の水熱安定性、転換率及びC2=/C3=比を調節することができるという特徴を示す。また、C212の炭化水素を含有するナフサから軽質オレフィンを製造するのに要求される反応活性が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0078】
上述のように、本発明に係る多孔性分子ふるい触媒は、公知慣用の多孔性固体酸触媒を代替することが可能である経済的な組成物である。特に、高温多湿な雰囲気で水熱処理しても比較的安定な構造を有し、触媒活性を長時間維持する。
【0079】
このように高温多湿な雰囲気でも物理学的及び化学的に安定であるため、本発明の触媒は接触分解反応、異性化反応、アルキル化反応、エステル化反応を含む各種の酸化/還元反応などの不均一触媒反応に用いると、優れた触媒活性を示すものと期待される。
しかも、触媒の製造に伴う反応が比較的簡単であり、触媒製造原料の所要費用を節減することができるという点で、本発明の触媒は非常に有用であると期待される。
【0080】
本発明の好適な実施形態は説明の目的で記載されたが、当業者であれば、特許請求の範囲に開示された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、簡単な変更、追加及び置換が可能であることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1〜図3は本発明の実施例及び比較例によって製造された触媒の27Al−NMRスペクトルの結果を示すグラフである。
【図2】図1〜図3は本発明の実施例及び比較例によって製造された触媒の27Al−NMRスペクトルの結果を示すグラフである。
【図3】図1〜図3は本発明の実施例及び比較例によって製造された触媒の27Al−NMRスペクトルの結果を示すグラフである。
【図4】図4は本発明の実施例3のX線回折パターン特性の結果を示すグラフである。
【図5】図5は本発明の実施例及び比較例によって製造された触媒の性能を測定するためのシステムを示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−Si−OH−Al−骨格を有する分子ふるい100質量部、水−不溶性金属塩0.01〜5.0質量部、及びリン酸化合物0.05〜17.0質量部を含む原料混合物の水分蒸発により得られる生成物からなり、該分子ふるいの表面気孔が下記化学式1〜化学式3で表される化合物の一つで修飾されている、水熱安定性の多孔性分子ふるい触媒。
[化学式1]
x(H2PO4y
(式中、Mは金属であり、xは1であり、yは2〜6の整数である。);
[化学式2]
x(HPO4y
(式中、Mは金属であり、xは2であり、yは2〜6の整数である。);及び
[化学式3]
x(PO4y
(式中、Mは金属であり、xは3であり、yは2〜6の整数である。)
【請求項2】
前記水−不溶性金属塩と前記リン酸化合物のモル比が1.0:0.3〜10.0である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記分子ふるいが、Si/Alモル比が1〜300であり、かつ気孔サイズが4〜10Åであるゼオライト、又は気孔サイズが10〜100Åであるメソ細孔型分子ふるいである、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記分子ふるいが、ZSM−5、フェリエライト、ZSM−11、モルデナイト、β−ゼオライト、MCM−22、L−ゼオライト、MCM−41、SBA−15、及びY−ゼオライトよりなる群から選択される、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
前記水−不溶性金属塩は、アルカリ土類金属、遷移金属、及び+3〜+5の酸化状態である重金属よりなる群から選択される少なくとも一つの金属の、酸化物、水酸化物、炭酸化物又はシュウ酸塩である、請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
前記リン酸化合物が、リン酸(H3PO4)、リン酸アンモニウム塩又はアルキルリン酸塩である、請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
水熱安定性の多孔性分子ふるい触媒の製造方法であって、
(a)リン酸化合物と水溶性金属塩を含む水性スラリーに、−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるいを、該水性スラリーが前記分子ふるい100質量部、前記水−不溶性金属塩0.01〜5.0質量部、及び前記リン酸化合物0.05〜17.0質量部の原料組成を持つように加える工程;及び
(b)前記水性スラリー内の水分を蒸発過程によって除去した後、濾過して固体生成物を回収する工程を含む製造方法。
【請求項8】
前記水−不溶性金属塩と前記リン酸化合物のモル比が1.0:0.3〜10.0である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の製造方法であって、
工程(a)が、
(i)前記リン酸化合物、前記水−不溶性金属塩及び水を互いに混合して水性スラリーを製造する副工程;
(ii)前記スラリー内で前記リン酸化合物がリン酸水素イオン([HPO42-)、リン酸二水素イオン([H2PO4-)及びリン酸イオン([PO43-)から選択される1種のイオンとして存在するようにスラリーのpHを調節し、スラリーを攪拌する副工程;及び、
(iii)工程(ii)のスラリーに、−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるいを添加する副工程を含む製造方法。
【請求項10】
工程(ii)の攪拌が20〜60℃の温度で30分〜3時間行われる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(b)の蒸発過程が10〜90℃の温度で行われる、請求項7に記載の製造方法。
【請求項12】
前記分子ふるいが、Si/Alモル比が1〜300であり、かつ気孔サイズが4〜10Åであるゼオライト、又は気孔サイズが10〜100Åであるメソ細孔型分子ふるいである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項13】
前記分子ふるいが、ZSM−5、フェリエライト、ZSM−11、モルデナイト、β−ゼオライト、MCM−22、L−ゼオライト、MCM−41、SBA−15、及びY−ゼオライトよりなる群から選択される、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記水−不溶性金属塩が、アルカリ土類金属、遷移金属、及び+3〜+5の酸化状態を有する重金属よりなる群から選択される少なくとも一つの金属の、酸化物、水酸化物又は炭酸化物である、請求項7に記載の触媒。
【請求項15】
前記リン酸化合物が、リン酸、リン酸アンモニウム塩又はアルキルリン酸塩である、請求項7に記載の触媒。
【請求項16】
水熱安定性の多孔性分子ふるい触媒の製造方法であって、
(a)リン酸化合物と水−不溶性金属塩とを含む水性スラリーを製造する工程;
(b)前記水性スラリーから水分を第1蒸発過程によって除去した後、濾過して第1固体生成物を回収する工程;
(c)−Si−OH−Al−骨格を持つ分子ふるいを含む水性スラリーを製造する工程;及び
(d)前記分子ふるいを含む水性スラリーに前記第1固体生成物を添加して、第2蒸発過程によって得られた混合物から水分を除去した後、濾過して第2固体生成物を分離する工程を含み、
前記リン酸化合物及び前記水−不溶性金属塩は、前記分子ふるい100質量部に対してそれぞれ0.05〜17.0質量部及び0.01〜5.0質量部の量で使用される製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の製造方法であって、工程(a)が、
(i)前記リン酸化合物、前記水−不溶性金属塩及び水を混合する副工程;及び
(ii)得られた混合物内で前記リン酸化合物がリン酸水素イオン、リン酸二水素イオン及びリン酸イオンから選択される1種のイオンとして存在するように混合物のpHを調節し、混合物を攪拌する副工程
を含む製造方法。
【請求項18】
前記水−不溶性金属塩と前記リン酸化合物とのモル比が1.0:0.3〜10.0である、請求項16に記載の製造方法。
【請求項19】
前記分子ふるい100質量部に対して前記第1固体生成物0.01〜20.0質量部が添加される、請求項16に記載の製造方法。
【請求項20】
工程(ii)の混合過程が、20〜60℃の温度で30分〜3時間の範囲の時間行われる、請求項17に記載の製造方法。
【請求項21】
前記第1蒸発過程が、10〜90℃の温度で行われる、請求項16に記載の製造方法。
【請求項22】
前記第2蒸発過程が、20〜60℃の温度で行われる、請求項16に記載の製造方法。
【請求項23】
前記分子ふるいが、Si/Alモル比が1〜300であり、かつ気孔サイズが4〜10Åであるゼオライト、又は気孔サイズが10〜100Åであるメソ細孔型分子ふるいである、請求項16に記載の製造方法。
【請求項24】
前記水−不溶性金属塩が、アルカリ土類金属、遷移金属、及び+3〜+5の酸化状態である重金属よりなる群から選択される少なくとも一つの金属の、酸化物、水酸化物又は炭酸化物である、請求項16に記載の製造方法。
【請求項25】
前記リン酸化合物が、リン酸、リン酸アンモニウム塩又はアルキルリン酸塩である、請求項16に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−511245(P2009−511245A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534434(P2008−534434)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国際出願番号】PCT/KR2006/002279
【国際公開番号】WO2007/043742
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(507354242)エスケー エナジー 株式会社 (19)
【出願人】(398043850)コリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー (21)
【Fターム(参考)】