説明

水生動物からのコラーゲン抽出物

本発明は、新規な工業原料のコラーゲンとしての魚皮の使用に関する。前記皮膚は、新鮮な魚を切り身に、または切断した後に有利に得られ、切り身/切断直後に凍結されるので、細菌学の観点およびタンパク質の天然特性の観点の両方から、原料物質の非常に良い品質を保証する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚から得られるコラーゲンおよびかかる魚コラーゲンの製造方法に関する。本発明は特に、魚皮(skin of fishes)から入手可能なコラーゲンおよびその抽出方法および製造方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
魚の不要な部分は、役に立たない、または利用されないと一般的に考えられ、大量に処分されていた。これは、多くの利用可能な分野において、魚の一見無用な部分を使用する様々な方法を発見して、現代社会において取り組むべき一つの主要な問題であった。哺乳動物から得られ、食用可能な材料として広く利用可能なコラーゲンなる観点において、現在、魚コラーゲンに関し、特に、コラーゲンが組織の主原料であるサケおよびマスの皮に関し、研究されている。したがって、近年、問題となっているサケおよびマスの皮を含む、魚皮(fish skin)からコラーゲンを抽出および生産するいくつかの提案方法が見られる。それ故、近年、問題となっているサケおよびマスの皮を含む、魚の皮からのコラーゲンを抽出および製造するための方法が提唱されている。しかし、魚皮コラーゲンは、哺乳動物のコラーゲンとは特徴が異なり、皮のより繊細なマトリックスのために、相対的に粗雑さの少ない処置を必要とする。コラーゲン製品は、様々な産業において、多数の利用性を有する。かかる利用性の一つに、清澄化および沈殿プロセスにおいて、例えばビールやワインなどのアルコール飲料を清澄化するために、コラーゲンパウダーが使用される。アルコール飲料の発酵の間、酵母およびタンパク質などの様々な粒状物質は、アルコール飲料中に懸濁され、除去される必要がある。コラーゲン清澄剤がアルコール飲料に添加され、懸濁された物質の沈殿を補助することによりそれを清澄化する。コラーゲンおよびゼラチンはまた、ジュースの清澄化プロセスにおいて使用可能である。
【0003】
コラーゲンは一般的に魚のアイシングラスから製造され、魚の乾燥浮き袋から製造されたコラーゲンの非常に純粋なソースを構成する。動物の皮膚および冷水魚の皮を含む魚皮からのコラーゲン抽出物に、多くの研究がなされた(US 4,295,894、US 5,698,228、US 5,162,506、US 5,420,248、JP 4037679、JP 9-278639、JP 2-291814、PL 312122、RU 2139937)。公知のコラーゲン抽出方法は、広範な化学的および機械的な抽出、またはそれらの組合せを伴う。これらの方法によって得られたコラーゲン製品の特性は、広く変化する。魚皮に適用される抽出方法の多くは、哺乳動物のコラーゲン抽出技法の適合および修正である。本出願人は、哺乳動物のコラーゲン抽出に適用される加工ステップの多くが、かかる処置が非常に粗雑で、魚皮マトリックスには強力すぎる可能性があるため、魚皮コラーゲンの抽出について直接適用可能ではないことを確認した。かかるステップは、強酸または強アルカリでの化学的洗浄および抽出、とりわけ過度の濾過およびデカンテーションのステップを含む。かかるステップの多くを省略する単純化された抽出方法は、収率を増加させ、抽出したコラーゲンの変性を低減させるに望ましいだろう。
【0004】
ほとんどのコラーゲンの不溶性な性質のため、コラーゲンは定量化するには困難であり、高価なタンパク質であると認識されている。しかし、溶解性は、ヘルスケア製品などの様々な利用において、重要な鍵となる機能的特性である。本出願人は、未変性コラーゲン分子のコンフォメーションが、清澄能力の著しい喪失を生じる変性により、ゼラチンのランダムコイル状コンフォメーションへの移行とともに、分子の機能性を決定することを決定した。コラーゲンは、メルルーサ(Merluccius merluccius L.)、キダイ(Dentex tumiforms)、トラフグ(Takifugu rubripes)、コイ(Cyprimus carpio);イカ(Illex argentinus)(Kolodziejska, 1999);およびクラゲ(Rhopilema asamushi)(Takeshi Nagai et. al, 2000)などのいくつかの魚種から抽出されることも報告された。報告されたすべての手順は、非酵素的抽出が採用され、酵素反応が使用された場合、ペプシンが最も共通した酵素であったところにおいて、非常に類似していた。
【0005】
コラーゲンおよびゼラチン生産のための魚加工からの副産物の代替としての使用から、水生動物種の多様性、およびより安定で保存を容易にする哺乳動物のコラーゲンと比較した場合に、このコラーゲンの劣化に対するより高い感受性といういくつかの疑問が導かれる(Fernandez-Diaz et al., 2003)。さらに、魚の腸を取り除き(degutting)、切り身にした(filleting)後、皮は残りの廃棄物とともに保存され、迅速な酵素および微生物のダメージを被るのが通常であり、このため抽出したコラーゲンおよびゼラチンの品質の変化をもたらしうる。水生動物の酵素活性は、陸生動物より高いと知られる。
【0006】
コラーゲンは、いくつかの多形性の形態で存在し、一般的なものはI型、III型およびV型であり;II型およびIV型はまれであり、あるコラーゲンにおいて発見されることができるのみであり、報告もまた、なされている(Foegeding et al., 2001)。コラーゲンおよびそれら変性形態であるゼラチンは、長鎖アミノ酸で構成され、ペプチド結合によって結合される(Ockerman and Hansen, 1988; Ward and Courts, 1977)。鎖間の化学的共有結合の数および種類は、動物の年齢で変化し、若年の動物であるほど少数である。これは、生成ゼラチンおよび膠の分子特性に影響を及ぼす(Ockerman and Hansen, 1988)。一般的に、魚コラーゲンは哺乳動物のコラーゲンより低いアミノ酸含量を有し、このことが、より低い変性温度の理由となっているのかもしれない(Grossman and Bergman, 1992, Jamilah and Harvinder, 2002)。これは、回りまわって、その種の体温に関連するように思われる(Johns, 1977)。インプラント、移植、臓器移植、組織等価物、硝子体置換、美容形成外科、外科縫合、創傷用包帯、火傷などのための様々な医薬の利用のための魅力的な物質とする、コラーゲンの多くの特性が存在する(例えば、米国特許番号5,106,949、5,104,660、5,081,106、5,383,930、4,485,095、4,485,097、4,539,716、4,546,500、4,409,332、4,604,346、4,835,102、4,837,379、3,800,792、3,491,760、3,113,568、3,471,598、2,202,566および3,157,524を参照し、これらすべては、本明細書中に援用して組み込まれる。Prudden, Arch. Surg. 89:1046-1059 [1964];およびPeacock et al. Ann. Surg., 161:238-247 [1965])。例えば、コラーゲンは単独では、少なくとも部分的に、コラーゲン構造内の潜在的な抗原決定基をマスキングするため、比較的弱い免疫原である。また、そのらせん構造のため、タンパク質分解にも耐性である。加えて、細胞接着のための自然物質であり、骨格筋系の主要な引張荷重負荷の成分である。したがって、医学および獣医学の利用における使用に適したコラーゲン線維および膜の生産に、多大な努力が捧げられている。コラーゲンは、最近の飲料配合物(インスタント飲料および従来の飲料の両方)に積極的に組み込まれている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、コラーゲン(1型コラーゲン)を抽出する方法に関し、コラーゲンは、水生動物(好ましくは、Lates calcariferおよびOreochromis nilotica)の皮から得られる。コラーゲンは、酵素を用いて魚皮から抽出され、ここで、酵素はパパインである。さらに、かかる方法は、本質的に魚皮からなる開始物質、前記魚皮からコラーゲンを抽出すること、およびコラーゲンを回収することを含む。皮は、新鮮なまたは冷凍した魚から皮を除去することによって得られる。加えて、かかる方法はさらに以下を含む:Lates calcarifer(バラマンディ)の皮からコラーゲンを抽出することであって、これは皮をアルカリ溶液(ナトリウムなどの)と少なくとも6時間混合することを含む;皮を水で洗浄し、アルカリの残留物を除去すること;皮をアルコール(ブチルアルコールなど)溶液で少なくとも18時間浸すこと;皮を中性溶液で洗浄すること;皮を酸性溶液で処理すること;皮をパパインで加水分解すること;混合物を得て、混合物を作業温度4℃で少なくとも24時間攪拌すること;4℃で混合物を遠心分離すること;塩化ナトリウム溶液中にコラーゲンを入れ、コラーゲン線維を沈殿させることにより、コラーゲンの沈殿させること;コラーゲン線維を収集し、コラーゲンを少なくとも60分間遠心分離することにより、コラーゲンペレットを得ること:コラーゲンペレットを酢酸溶液に溶解すること、および/または透析した懸濁液を凍結乾燥すること。
【0008】
加えて、Oreochromis nilotica(レッドティラピア)の皮からのコラーゲンを抽出する方法は、さらに以下を含む;皮をアルカリ溶液、例えばナトリウムなど、とともにホモジナイズすること;懸濁液を得て、その懸濁液を少なくとも24時間攪拌すること;懸濁液を少なくとも20分間遠心分離すること;沈殿物を得ること;沈殿物をアルカリ溶液とともにホモジナイズすること;沈殿物を少なくとも24時間、3回の繰り返しで攪拌すること;沈殿物を水および酢酸溶液で洗浄すること;沈殿物を、4〜5℃の作業温度で少なくとも24時間、パパインとともに攪拌すること;混合物を得ること;混合物を少なくとも20分間遠心分離すること;コラーゲン線維を得ること;コラーゲンを塩化ナトリウム溶液中に入れること;コラーゲン線維を収集し、コラーゲンを少なくとも20分間遠心分離すること:結果としてコラーゲンペレットが得られ;および透析した懸濁液を凍結乾燥すること。Lates calcariferおよびOreochromis niloticaの皮から得られたコラーゲンは、湿重量で作業収率14〜40%の百分率を有する。抽出されたコラーゲンの特性の特徴付け)以下の分析:アミノ酸分析、コラーゲンにおけるペプチドおよびコラーゲンの型。得られたアミノ酸は、グリシン、プロリン、アラニンおよびアルギニンを含む。得られたペプチドは、37および205キロダルトン(kDa)の見かけの分子量分布を有していた。
【0009】
加えて、本発明はまた、医薬組成物、化粧品または局所用調製物、または食品の製造のためのコラーゲンの使用にも関する。化粧品は、クリーム、アイクリーム、ローション、軟膏またはジェル、日焼け止め、経口投与、フェイスマスククリーム、抗炎症薬、および/または抗刺激薬を含む。食品は、飲料、乳製品、菓子類、チョコレート、および食品配合物における任意の利用であって、材料としてまたは任意の機能的特性のためのものを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はレッドティラピアの皮からのコラーゲンのSDS-PAGEパターンを示した図である。
【図2】図2は異なる酵素抽出および保存調査によって影響を受ける、レッドティラピアの皮からのコラーゲンのSDS-PAGEパターンを示した図である。
【図3】図3はバラマンディの皮からのコラーゲン試料の電気泳動パターンを、仔ウシの皮膚からの1型コラーゲンとの比較して示した図である。
【図4】図4はレッドティラピアの皮からのコラーゲン試料のエネルギー分散X線(EDX)クロマトグラムを示した図である。
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、水生動物からのコラーゲンを製造する方法に関する。特に、本発明は、生物医学および医薬品への利用;および食品への利用のための原材料として適したコラーゲンを製造する方法を提供する。
【0012】
定義
医薬品および薬用化粧品の分野で周知であるように、クリームは、水中油または油中水のいずれかの、粘性の液体および半固体エマルジョンである。クリーム基剤は水洗可能であり、油相、および乳化剤、および水相を含む。水相は、容量において油相を上回り、一般的に物質を含む。乳化剤はクリーム組成物であり、一般的に非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性の界面活性剤である。
【0013】
クリーム、ローション、ジェル、エマルジョンおよびペーストまたは同等物が、患部表面に塗布されてもよく、および優しく塗り込まれてもよい。溶液は、測定装置、綿棒、または同等物で、および慎重に患部へ適用されてもよい。
他に述べない限り、量は各調製物の全重量に基づき、重量%で与えられる。
【0014】
本発明は、コラーゲンの新規な工業的なソースとしての魚皮の使用に関する。有利には、前記皮は、新鮮な魚を切り身にまたは切断した後に得られ、切り身/切断直後に冷凍され、それゆえ、細菌学の観点およびタンパク質の天然特性の観点の両方から、原料物質の非常に良い品質を保証する。
【0015】
実施例
材料
レッドティラピア(Oreochromis nilotica)は、セランゴール州Ulu Langatの地方養魚場から得られる養殖の淡水魚である。レッドティラピアは、500g〜600gの重量であった。研究室に到着すると、魚は殺され、切り身にされ、そして皮は手作業で取り除いた。皮は、使用まで−20℃で保存した。
【0016】
化学物質
3460ユニット/mgタンパク質の公表された活性を有するペプシン(結晶化および凍結乾燥化;EC 3.4.23.1、ブタの胃粘膜由来)は、Sigma Chemicalから入手した。40U/mgタンパク質の公表された活性を有するトリプシン(結晶化および凍結乾燥化;EC 3.4.21.4、ブタの脾臓由来)および30000USP−U/mgの公表された活性を有するパパイン(乾燥粉末、EC 3.4.22.2、Carica papaya由来)は、Merck(米国)から入手した。使用した他の全ての化学物質は、分析グレードであった。
【0017】
発明を実施するための最良の形態
抽出
レッドティラピア皮の保存調査もまた実施され、コラーゲンの特性に対する凍結保存の効果を決定した。皮は、最長8週間凍結保存し、2週間の間隔で処置を施した。魚の皮は、ハサミで小片に切断し、過剰な水で徹底的に洗浄し、余分な物質を取り除いた。次いで、10容量の0.1M NaOHでホモジナイズし、非コラーゲン性タンパク質を取り除き、コラーゲンに対する内在性プロテアーゼの影響を防止した(Sato and others, 1987)。懸濁液を一晩攪拌し、10000×gで20分間遠心分離した。得られた沈殿物は、20容量の0.1M NaOHで再度ホモジナイズし、一晩ゆっくりと攪拌した。この手順を、3回または4回繰り返した。アルカリ抽出後の残留物は、蒸留水で慎重に、かつ穏やかに洗浄し、その後0.5M酢酸中に懸濁した。
【0018】
その後懸濁液を、酵素とともに1/1000(w/w)の酵素/基質の割合で、24時間、5℃で攪拌した。使用された酵素は、ペプシン、トリプシンおよびパパインであった。その後懸濁液は、10000×gで20分間遠心分離した。遠心分離後に得られた上清中のコラーゲンは、NaClを終濃度2.0Mとなるまで添加することにより、塩析した。10000×gで20分間遠心分離後、得られた沈殿物を凍結乾燥した。
【0019】
分析
コラーゲンの収率(% w/w)
収率は、使用した皮の湿重量に応じて、抽出したコラーゲンの重量により決定される。収率は、以下のように計算される。
【数1】

【0020】
目視観察および計測による色
色調および質感についての目視観察も、書き留められた。色の測定は、Hunterlab Ultrascan Sphere Spectrocolorimeter(Minolta Cr-300 Seriesモデル)を用いて行った。試料は、透明なプラスチック中に充填され、その後読み取りを行った。測定値は、3組(triplicates)で実施された。
【0021】
レッドティラピアの皮(Oreochromis nilotica)から得られた乾燥コラーゲンの収率を、表1に示す。収率は、皮湿重量に対するコラーゲンの乾燥重量に基づいて計算する。これらの収率は、スズキ(55.4%)、マサバ(49.8%)およびネコザメ(50.1%)に関しTakeshiおよびNobutaka(2000年)によって報告されたものの範囲にある。Nagaiら(2000年)らは、クラゲ(rhizostomous jellyfish)から抽出したコラーゲンの乾燥重量ベースでの35.2%の収率を記録した。ペプシン消化抽出の0週保存コラーゲンは、74.77±11.36%の最高収率を記録し、続いて63.62±6.05%のペプシン消化抽出の4週保存および62.98±2.37%のペプシン消化抽出の8週保存であった。最低収率は、トリプシン消化抽出の0週保存、すなわち31.59±5.95%であった。
【0022】
保存調査において、0週保存が74.77%の最高収率を与え、続いて4週保存(63.62%)および8週保存62.98%であった。最低収率は、2週保存(37.66%)で記録される。この低い収率は、一連の洗浄工程の浸出を通じての、抽出コラーゲンの喪失が原因であり得る。したがって、低濃度のコラーゲンが抽出された。他の可能性のある低収率の理由は、コラーゲンの不完全な加水分解が原因であり得る。抽出時間および温度の組合せは、コラーゲンを完全に加水分解させるに十分でないかもしれない。ティラピアの皮のタンパク質組成もまた、得られたコラーゲンの収率に影響するかもしれない。
【0023】
【表1】

値は、3組の平均値±標準偏差である。各コラム中の同じ上付文字付の平均値は、有意差がない(p<0.05)。
【0024】
タンパク質含量
タンパク質含量は、ミクロケルダール法(micro-Kjedhal method)(AOAC、1995)によって測定され、5.3の窒素タンパク質換算係数が使用された。タンパク質消化は濃硫酸で行われ、コラーゲンの完全な加水分解を確実にした。分析は、3組で行われた。トリプシン消化コラーゲンのタンパク質含量は、ペプシン消化コラーゲンのタンパク質含量の2倍;それぞれ30.15%および14.24%、であった。パパイン消化コラーゲンは25.83%のタンパク質含量を有し、トリプシン消化コラーゲンより低い。保存調査において、0週保存および4週保存は最も低いタンパク質含量(<15%)を有するが、2週保存は26.29%の最も高いタンパク質含量有していた。
【0025】
目視観察および計測による色
目視観察は、表2に示されるとおりである。パパイン消化コラーゲンを除くすべての試料は、雪のように白く、軽い質感であった。しかしながら、パパイン消化コラーゲンは淡黄色であり、見かけ上は軽い質感であった。プレート1および2は、異なる酵素および保存調査によって抽出されたコラーゲン試料をそれぞれ示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表3は、異なる酵素および保存調査によって抽出されたコラーゲンのハンター値を示す。L、aおよびb値は、すべてのコラーゲン試料に対してかなり類似していた。明度を示すL値は、すべての試料に対して>93であった。これは、異なる酵素により抽出され、および保存調査を受けたすべての試料は白色であり、これは行われた目視観察と一致する。負のa値(−a)は、すべての試料においてほんのわずかな赤の色彩を示すが、より高いb値は、より黄色の色彩を示す。しかしながら、パパイン消化コラーゲンの試料は、最も高いb値を有し、したがって見かけ上はより黄色がかっている。さらに、表3は、>95のL値がより白色の試料を示していることを説明する。しかしながら、ペプシン6週コラーゲン試料のb値は、他の試料と比較して最も低かった。それにもかかわらず、保存調査におけるすべての試料についてのL、aおよびb値は、ほとんど同様であり、ひいては試料の外観と一致してほとんど違いは見られなかった。コラーゲンの色は、原材料に依存する。しかしながら、それは他の機能的特性に影響しない(Ockerman and Hansen, 1988)。
【0028】
【表3】

値は、3組の平均値±標準偏差である。
各コラム中の同じ上付文字付の平均値は、有意差がない(p<0.05)。
【0029】
【表4】

【0030】
アミノ酸組成
コラーゲン中のアミノ酸組成は、カラムサイズ3.9×150mmのWaters-Pico Tag Amino Acid Analyzer High Performance Liquid Chromatography、モデル:Waters 501 Millipore Corporation, USAを用いて決定した。各試料は、6N HClで110℃にて24時間加水分解した。加水分解は、Waters-501 Instruments Manual(1991)に推奨されるように、Waters自動分析器上で遊離アミノ酸含量に関して分析した。表5は、異なる酵素抽出および保存期間によるレッドティラピアの皮からのコラーゲンのアミノ酸組成を示す。得られたアミノ酸プロフィールは、酸加水分解物から得られた。トリプシンおよびパパイン消化コラーゲンのアミノ酸含量は、ペプシン消化コラーゲンより高かった。パパインおよびトリプシン消化コラーゲンのアミノ酸プロフィールは、有意差がなかった(p<0.05)。
【0031】
【表5】

ND − 検出せず
− トリプシン消化コラーゲンの結果
− Yata et al. (2001)から入手
【0032】
全アミノ酸含量は、4週〜8週保存で徐々に増加する。グリシンおよびプロリンは、主なアミノ酸であり、コラーゲン試料の全アミノ酸含量の4分の1および5分の1をそれぞれ構成する。この特徴は、コラーゲンを他のタンパク質から区別する。トリプシン消化(55.81)およびパパイン消化(51.54)コラーゲン中のプロリン含量は、両方ともペプシン消化0週保存(25.95)のものの2倍である。しかし、本発明において、ヒドロキシプロリン含量は決定できなかった。これら組成は、アジ、キダイおよびトラフグから報告されているものとは異なる。
【0033】
【表6】

【0034】
分子量決定
分子量は、SDS−PAGE(Laemmli, 1970)によって決定され、走行は0.1%SDSを含有する5%Tゲルで行った。分子量マーカーSDS−6H(Sigma)を、スタンダードとして使用した。試料(4〜50μg/ウェル)をゲルに適用し、ゲルはタンパク質に対しCoomassie Brilliant Bleu R-250で染色した。図1および2は、異なる酵素および保存期間でそれぞれ抽出された、レッドティラピアの皮からのコラーゲンのSDS−PAGEパターンを示す。トリプシン消化、パパイン消化およびペプシン消化抽出について、視覚的に16、15および7のバンドが、それぞれトリプシン、パパインおよびペプシン消化抽出物に対して観察された。検出されたペプチドの見かけの分子量は、パパイン消化抽出については、20,300Da〜221,900Daの範囲であったが、トリプシン消化抽出については、31,500Da〜200,000Daであった。ペプシン消化抽出(保存調査)において、144,200Daより上のペプチドのバンドは観察されなかった。保存調査試料についての分子量パターンもまた、ほとんど同様であった。コラーゲンの型と関連する分子バンドの同定は、SDS−PAGE電気泳動についての共通の結果報告である。
【0035】
図3は、仔ウシの皮膚からの1型コラーゲンと比較した、バラマンディの皮からのコラーゲン試料の電気泳動パターンを示す。検出されたペプチドの見かけの分子量は、〜30,000から250,000kDaの範囲であった。バラマンディの皮からのコラーゲンは、2つの異なるα鎖(αおよびα)およびβ−成分(β-component)を含んでいた。これら電気泳動のパターンは、仔ウシの皮膚コラーゲンと類似し、そのダイマー(dimmer)は、他の水生動物源にからのコラーゲン試料においても観察された。酸溶解性コラーゲンおよびペプシン溶解性コラーゲンは、仔ウシの皮膚からの1型コラーゲンと同様の電気泳動パターンを有していた。しかしながら、パパイン抽出コラーゲンは、わずかに異なるパターンを示し、βダイマーは観察されなかった。パパイン処理したコラーゲンもまた、100kDaより小さい酵素加水分解産物を含んでいた。この結果は、異なる型のプロテアーゼは、SDS−PAGEクロマトグラムに示されるように、コラーゲン試料の異なる切断特性を有することを示唆する。
【0036】
無機質含有量
無機質分析は、エネルギー分散X線(EDX)を用いて決定した。コラーゲン試料は、スタブに載せて、QBSDシグナルを用いてEDXによって見られた。表7は、異なる酵素抽出および異なる保存期間による、ティラピアの皮からのコラーゲンの無機質分析を示す。EDXによる無機質分析を、得られたコラーゲンの無機質元素を決定するために実行した。すべての試料における4つの元素、すなわち、炭素、酸素、ナトリウムおよび塩素が、EDXクロマトグラムによって示されるように、検出された(図4)。コラーゲンは、金属タンパク質ではなく、そのため重金属が存在しないことは、これらコラーゲンが安全であることを示す(GRAS)。すべてのコラーゲンにおいて、ナトリウムおよび塩素の存在は、おそらく抽出工程後にコラーゲンを沈殿させる加塩プロセス(NaCl)の影響による。トリプシン消化抽出は、それぞれ48.64%および7.69%の最も高い炭素および酸素含量を示した。塩素は、トリプシン消化抽出を除いて(33.61%)、すべての試料において主要な元素である。酸素は、1〜7%の範囲で、すべての試料において検出された少ない元素である。炭素含量は、コラーゲンは、有機物であることを示す。今日に至るまで、コラーゲンの無機質分析の報告された研究結果はない。
【0037】
【表7】

値は、3組の平均値±標準偏差
各列中の同じ上付文字付の平均値は、有意差がない(p<0.05)。
【0038】
保存調査
皮は、最長2ヶ月まで冷凍保存(−20℃)された。毎週、皮を解凍し、コラーゲンを抽出する処置が施された。その後、得られたコラーゲンは、コラーゲンの特徴に対する皮の凍結保存の影響を決定するために、以前のように分析された。
【0039】
統計分析
収集されたすべてのデータは、手技間の有意差を決定するため、分散解析(ANOVA)およびダンカンの多重範囲検定(Duncan's Multiple Range Test)を用いて分析された(SAS, 1987)。コラーゲンの抽出プロセスおよび続く処置は、得られたゼラチンの異なる品質を反映する。レッドティラピアの皮からのコラーゲンは、一連の0.1M NaOHでの洗浄により、続いて5℃で24時間の酵素補助抽出によって抽出した。コロイド性懸濁液は、NaClにより塩析し、凍結乾燥した。使用した酵素は、ペプシン、トリプシンおよびパパインであった。レッドティラピアの皮の保存調査もまた実行し、コラーゲンの特徴に対する凍結保存の影響を決定した。視覚的には、すべてのコラーゲン試料は同じように見え、相違は、タンパク質含量、アミノ酸組成、分子量プロファイルおよび無機質含量などの化学分析によってのみ検出可能であった。異なる酵素抽出および保存期間からのコラーゲンは、雪のように白く、見かけ上は軽い質感であった。
【0040】
コラーゲン収率は、32.54%〜74.77%の範囲であり、ペプシン消化コラーゲンが最も高い収率を示していた。しかしながら、ペプシン消化コラーゲンのタンパク質含量は、トリプシン消化およびパパイン消化コラーゲンと比較してかなり低かった。記録されたタンパク質含量は、15%〜30%の範囲であった。トリプシン消化およびパパイン消化コラーゲンのアミノ酸含量は、ペプシン消化コラーゲンより高い。検出されたペプチドの見かけの分子量は、20,000Da〜222,000Daの範囲であった。無機質分析において、4元素、すなわち炭素、酸素、ナトリウムおよび塩素はすべてのコラーゲン試料で検出された。すべてのコラーゲン試料のSEM観察は、同様のネットワーク構造を示す。
【0041】
コラーゲン線維は、タンパク質マトリックスの中に埋め込まれた長い円筒状のタンパク質である。結果に基づくと、トリプシン消化コラーゲンは、タンパク質含量およびアミノ酸プロフィールに関して最良の結果を示したが、低い収率を与えた。一方でペプシン消化コラーゲンは、高い収率を示したが、より低いタンパク質およびアミノ酸含量を示した。したがって、合理的に高い収率、タンパク質およびアミノ酸含量を示したパパインは、次の酵素のゼラチン抽出および特徴に与える影響の調査に選択される。植物ベースの酵素であるパパインは、イスラム教やユダヤ教などの特定の社会に関連する宗教上の問題も克服するであろう。保存調査において、ティラピアの皮の凍結保存は、コラーゲンの特徴に対する顕著な影響は有さない。したがって、抽出されるゼラチンの特性にほとんど影響を及ぼすことなく、皮膚は数週間冷凍保存されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水生動物から得られるコラーゲンの抽出方法であって、該水生動物がLates calcariferおよびOreochromis niloticaを含む、前記方法。
【請求項2】
コラーゲンが、酵素を用いて魚皮から抽出される、請求項1に記載のコラーゲンの抽出方法。
【請求項3】
酵素がパパインである、請求項1に記載のコラーゲンの抽出方法。
【請求項4】
本質的に魚皮からなる開始物質を含めること、前記魚皮からコラーゲンを抽出すること、およびコラーゲンを回収することを含む、請求項1に記載のコラーゲンの抽出方法。
【請求項5】
魚皮がカレイ目の魚(flat fish)の皮である、請求項2または4に記載のコラーゲンの抽出方法。
【請求項6】
皮が、新鮮なまたは冷凍した魚からの皮を切断することによって得られる、請求項2または4に記載のコラーゲンの抽出方法。
【請求項7】
以下の行程を含むLates calcarifer(バラマンディ)の皮からのコラーゲンの抽出方法である、請求項1に記載の方法:
a)皮をアルカリ溶液と少なくとも6時間混合すること;
b)皮を水で洗浄し、アルカリ溶液の残留物を除去すること;
c)皮をアルコール溶液で少なくとも18時間浸すこと;
d)皮を中性溶液で洗浄すること;
e)工程(d)からの皮を酸性溶液で処理すること;
f)工程(e)からの皮をパパインで加水分解すること;
g)工程(f)から混合物を得て、前記混合物を作業温度4℃で少なくとも24時間攪拌すること;
h)工程(g)からの混合物を4〜5℃で遠心分離すること;
i)コラーゲンを塩化ナトリウム溶液へと導入し、コラーゲン線維を沈殿させることによる、コラーゲンの沈殿化;
j)工程(i)からのコラーゲン線維を収集し、コラーゲンを少なくとも60分間遠心分離すること;
k)コラーゲンのペレットを得ること;
l)コラーゲンのペレットを、酢酸溶液に溶解すること;
m)透析した懸濁液を凍結乾燥すること。
【請求項8】
以下の工程を含むOreochromis nilotica(レッドティラピア)の皮からのコラーゲンの抽出方法である、請求項1に記載の方法:
a)皮をナトリウムとともにホモジナイズすること;
b)工程(a)から懸濁液を得ること
c)懸濁液を少なくとも24時間攪拌すること;
d)工程(c)からの懸濁液を少なくとも20分間遠心分離すること;
e)工程(d)から沈殿物を得ること;
f)工程(e)からの沈殿物をアルカリ溶液とともにホモジナイズすること;
g)工程(f)からの沈殿物を少なくとも24時間、少なくとも3回繰り返して攪拌すること;
h)沈殿物を水および酢酸溶液で洗浄すること;
i)工程(h)からの沈殿物を、5℃の作業温度で少なくとも24時間、パパインとともに攪拌すること;
j)工程(i)からの混合物を得ること
k)工程(j)からの混合物を少なくとも20分間遠心分離すること;
l)工程(k)からのコラーゲン線維を得ること;
m)コラーゲンを塩化ナトリウム溶液中に導入すること;
n)工程(m)からコラーゲン線維を収集し、前記コラーゲンを少なくとも20分間遠心分離すること;
o)コラーゲンペレットを得ること;
p)透析した懸濁液を凍結乾燥すること。
【請求項9】
皮から得られたコラーゲンが、14〜40%の作業収率の百分率を有する、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
アミノ酸の解析、コラーゲン中のペプチドおよびコラーゲンの型を含む、請求項7または8に記載のコラーゲンの分析方法。.
【請求項11】
アミノ酸が、グリシン、プロリン、アラニンおよびアルギニンを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
コラーゲン中のペプチドの見かけの分子量が、37〜205キロダルトン(KDa)である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
コラーゲンの型が1型コラーゲンである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
医薬組成物、化粧品または局所用調製物、または食品の製造のための、請求項1〜13のいずれか一項に記載のコラーゲンの使用。
【請求項15】
化粧品が、クリーム、ローション アイクリーム、軟膏またはジェル、日焼け止め、経口投与、フェイスマスククリーム、抗炎症薬、および/または抗刺激薬を含む、請求項14に記載のコラーゲン。
【請求項16】
食品が、飲料、乳製品、菓子類、チョコレート、および食品配合物における材料としてのまたは任意の機能特性のための任意の適用を含む、請求項14に記載のコラーゲン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−513461(P2012−513461A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543450(P2011−543450)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【国際出願番号】PCT/MY2009/000122
【国際公開番号】WO2010/074552
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(511152544)ユニバーシティー プトラ マレーシア(ユーピーエム) (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITI PUTRA MALAYSIA(UPM)
【住所又は居所原語表記】Serdang,Selangor Darul Ehsan,Malaysia
【Fターム(参考)】