説明

水田作業機

【課題】 電動モータでマーカの姿勢変更を行うに、不適切な時点でのマーカの姿勢変更操作が行われることによるマーカ自体の損傷や操縦者側への泥土の飛散を回避できるようにする。
【解決手段】 植播系作業装置10の高さ位置を判別する高さ位置判別手段13を備え、植播系作業装置10が予め設定された所定高さ以上の高さ位置に存在する状態では、人為操作具61によるマーカ20の下降使用姿勢側への姿勢切り換え指令をマーカ操作機構40に伝えず、植播系作業装置10が所定高さよりも低位に存在する状態では、人為操作具61によるマーカ姿勢切り換え指令をマーカ操作機構40に対して出力するように構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、播種または苗植付けを行う植播系作業装置を、走行機体に対して昇降操作自在に装備し、その植播系作業装置に、下降使用姿勢と上昇格納姿勢とに姿勢切り換え自在なマーカを備え、このマーカを電動モータで姿勢変更するようにした水田作業機に関する。
水田作業機において、線引きマーカの使用を伴う作業としては、種籾を直接に水田に播く播種作業、または、水稲やイ草などの苗を水田に植え付ける苗植付作業があり、通常の水田作業機には、これらの作業を行うための装置、つまり、播種装置あるいは苗植付装置の何れかが備えられるものである。本明細書では、このような播種作業あるいは苗植付作業のように、線引きされた圃場での作業を行うための装置を総称して「植播系作業装置」と称する。
【背景技術】
【0002】
近年では電動モータの機能向上に伴い、その小型化、コストの低廉化が進んだため、従前のような苗植付装置の上昇作動力を利用してワイヤでマーカを吊り上げるようにした構造に代えて、電動モータの駆動力を用いてマーカの姿勢変更を行う構造を採用したものが提案されている。
このように、電動モータを用いてマーカの姿勢変更を行う構造を採用すると、従前のように苗植付装置の上昇作動力を利用してワイヤでマーカを引き上げるようにした構造のものに比べて、マーカの駆動系を含めての全体構造の小型軽量化及び簡素化を図り得るとともに、マーカやその駆動系の配置上の制約も少なく、全体として設計上の自由度を高め得る点での有利さがある。
この種の水田作業機としては、従来より、下記の特許文献1に示されるように、乗用型田植機に昇降自在に装備された苗植付装置にマーカを装備し、このマーカを、電動モータによってケーブル巻き取り体を回動操作して、マーカと連結されているマーカ操作用のケーブルを巻取り操作したり、繰り出し操作したりすることにより、マーカを格納状態と作用状態に切り換え操作するようにマーカ操作機構を構成したものが知られている。そして、このマーカ操作機構に対して、右左を選択してマーカを出し入れするように制御指令を出力する制御装置を備えてマーカ装置を構成したものがあった(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−174807号公報(段落「0032」〜「0042」、図2,9,10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように電動モータの駆動力を用いてマーカの姿勢変更操作を行うように構成されたマーカ装置では、上述の利点を備える反面、植播系作業装置の昇降動作や高さ位置とは関係なくマーカの出し入れ操作を行うように構成することが可能であるから、実際にはマーカを作用姿勢にする必要がない条件下で不用意にマーカの出し操作が行われて損傷したり、逆にマーカを格納し忘れたり、格納すべきタイミングを失してマーカを損傷してしまう虞がある。
このような不具合を避けるには、電動モータを用いながらも、マーカの姿勢変更動作はワイヤを用いた従前の装置のように、植播系作業装置の昇降動作と同期させて出し入れを行うように構成することが考えられる。しかしながら、このような構成を採用するにあたっては、次のような新たな問題が生じる。
つまり、マーカの格納姿勢への変更操作に関しては、圃場の一行程での作業が終了すると機体はただちに旋回を始めようとするものであるから、マーカはなるべく早く格納した方が小回り旋回を行う上では有利である。ところが、電動モータの動作速度を上げてマーカの格納姿勢への変更速度を速くすると、マーカの急速引き上げによる泥土の飛散方向が機体内方側に向けられ、操縦者に降りかかるなどの不具合がある。
従前のように植播系作業装置の上昇駆動力を利用してワイヤでマーカを引き上げる構造では、マーカの水平面に対する起伏角度とワイヤの引っ張り方向との関係で、植播系作業装置を一定速度で上昇させていても、その上昇初期では、比較的急速にワイヤが引き上げられ、その後、マーカ先端の移動軌跡が機体内方側へ向かうに連れて自然に引き寄せ速度が低減するように工夫されているが、このような形態にマーカの動作速度を制御しようとすると、植播系作業装置の上昇動作速度の検出手段や、マーカの角速度の変化を検出する手段など、電動モータの作動速度の制御するためのデータ検出手段や、その検出データに基づく制御手段など、検出構造や制御構造の複雑化を招く虞がある。
しかも、従前の植播系作業装置の上昇駆動力のように強大な油圧シリンダなどの駆動力を利用してワイヤでマーカを持ち上げるのではなく、マーカ駆動用の電動モータを用いる構造のものでは、先端部が泥中に深く埋没した状態のマーカを、その付け根側で引き上げ操作するに要する駆動力の全部が電動モータに負荷されることになるため、電動モータに作用する駆動負荷が相当大きくなり、電動モータの小型化の妨げになる傾向がある。
【0005】
また、マーカの作用姿勢への姿勢変更に際しては、植播系作業装置の下降作動に追随してマーカが徐々に作用姿勢に姿勢変化するように構成しようとすると、植播系作業装置の高さ位置のみならず、マーカの姿勢変化の度合いも逐一検出するための手段を要し、この点で検出構造や制御構造の複雑化を招き易くなる。このようなマーカの作用姿勢への動作を植播系作業装置の高さ位置との同期関係を、下降側すなわち作用姿勢への変更側では断って、マーカの作用姿勢への姿勢変更操作に伴って直ちにマーカを作用姿勢に姿勢変更できるようにすることも考えられるが、これでは、マーカの作用姿勢への姿勢変更が不要な、上方位置でのマーカ作用姿勢への姿勢変更が行われることを抑止できないという不具合がある。
【0006】
本発明の目的は、電動モータを用いてマーカの姿勢変更を行うにあたり、不適切な時点でのマーカの姿勢変更操作が行われることによるマーカ自体の損傷を回避し、また、マーカの姿勢変更に伴って操縦者側への泥土の飛散が生じることや、電動モータを含むマーカ駆動系の検出構造や制御構造の複雑化や大型化を回避した水田作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために講じた本発明による水田作業機では、下記の技術手段を講じたものである。
〔解決手段1〕
播種または苗植付けを行う植播系作業装置を、走行機体に対して昇降操作自在に装備し、その植播系作業装置に、下降使用姿勢と上昇格納姿勢とに姿勢切り換え自在なマーカを備えた水田作業機において、
前記植播系作業装置の高さ位置を判別する高さ位置判別手段を備えるとともに、
前記マーカの姿勢切り換えを電動モータの駆動で行うマーカ操作機構と、そのマーカ操作機構に対して前記電動モータの作動を制御する制御指令を出力する制御装置と、制御装置に対してマーカの姿勢切り換え指令を入力する人為操作具とを備え、
前記制御装置は、植播系作業装置が予め設定された所定高さ以上の高さ位置に存在する状態では、人為操作具によるマーカの下降使用姿勢側への姿勢切り換え指令をマーカ操作機構に伝えず、植播系作業装置が前記所定高さよりも低位に存在する状態では、人為操作具によるマーカ姿勢切り換え指令をマーカ操作機構に対して出力するように構成してある。
【0008】
〔解決手段1にかかる発明の作用及び効果〕
解決手段1にかかる発明では、植播系作業装置が予め設定された所定高さ以上の高さ位置に存在する状態では、人為操作具によるマーカの下降使用姿勢側への姿勢切り換え指令をマーカ操作機構に伝えず、植播系作業装置が前記所定高さよりも低位に存在する状態では、人為操作具によるマーカ姿勢切り換え指令をマーカ操作機構に対して出力するように構成したものであるから、電動モータを用いてマーカの姿勢変更を行うものでありながら、植播系作業装置が所定高さ以上の高さに存在する状態では、人為操作具の不用意な操作に拘わらず、確実にマーカの無用な作用姿勢への姿勢変更を抑止することができる。
したがって、電動モータを用いて装置全体の小型化や配置の自由度を高め得る利点を活かしながら、路上でのマーカの飛び出しなど、無用な姿勢変更によるマーカの損傷を確実に回避することができる。
【0009】
〔解決手段2〕
播種または苗植付けを行う植播系作業装置を、走行機体に対して昇降操作自在に装備し、その植播系作業装置に、下降使用姿勢と上昇格納姿勢とに姿勢切り換え自在なマーカを備えた水田作業機において、
前記植播系作業装置の高さ位置を判別する高さ位置判別手段を備えるとともに、
前記マーカの姿勢切り換えを電動モータの駆動で行うマーカ操作機構と、そのマーカ操作機構に対して前記電動モータの作動を制御する制御指令を出力する制御装置と、制御装置に対してマーカの姿勢切り換え指令を入力する人為操作具とを備え、
前記制御装置は、植播系作業装置が予め設定された所定高さよりも低い高さ位置に存在している状態では、植播系作業装置の上昇に拘わらず前記制御装置からマーカ操作機構へのマーカ格納指令が出力されることを牽制し、
前記所定高さよりも高い位置に前記植播系作業装置が存在している状態では、前記制御装置からマーカ操作機構へのマーカ格納指令が出力されることを許容するように構成してある。
【0010】
〔解決手段2にかかる発明の作用及び効果〕
解決手段2にかかる発明では、植播系作業装置が予め設定された所定高さよりも低い高さ位置に存在している状態では、植播系作業装置の上昇に拘わらず前記制御装置からマーカ操作機構へのマーカ格納指令が出力されることを牽制し、前記所定高さよりも高い位置に植播系作業装置が存在している状態では、制御装置からマーカ操作機構へのマーカ格納指令が出力されることを許容するように構成したものであるから、次の利点がある。
つまり、植播系作業装置が予め設定された所定高さに達するまではマーカ操作機構による格納操作を行わなず、植播系作業装置を昇降駆動する駆動系の動力を利用してマーカをも所定高さまで持ち上げることができる。
したがって、マーカの持ち上げに際してはマーカ操作機構での電動モータの駆動力を用いずにマーカを所定高さまで持ち上げて、この間にマーカに付着していた泥土をある程度滑落させることができる。また、マーカが泥面から抜け出す際に生じる大きな操作抵抗も、マーカ操作機構の電動モータには作用せず、大きな駆動力を備えた植播系作業装置の昇降装置に負担させるので、電動モータの大型化などの問題なく持ち上げることができる。
また、植播系作業装置が前記所定高さに達するまでの間で、ある程度泥土が滑落してからマーカ操作機構による格納姿勢への姿勢変更が行われることになるので、電動モータを用いての姿勢変更に際して、操縦者側への泥土の飛散を極力抑制することができる。
このとき、電動モータによるマーカの姿勢変更は、植播系作業装置の高さ位置の変化状況やマーカ自体の回動角度の変化などを特別に検出して制御するような煩雑な制御を必要とせず、単に泥土の飛散を押さえるに適当な程度の速度を考慮して設定された速度で駆動する程度の簡単な制御構造を採用するだけでよく、多くの検出情報を得るための検出手段を設ける構造の複雑化や、その検出情報に基づく制御などに関しても複雑化を回避できる利点がある。
【0011】
〔解決手段3〕
上記解決手段1または2に記載の水田作業機において、植播系作業装置の高さ位置を判別する高さ位置判別手段を、前記植播系作業装置の昇降作動に伴う泥面滑走用の接地フロートの姿勢変化を検出するフロートセンサによって構成するとよい。
【0012】
〔解決手段3にかかる発明の作用及び効果〕
解決手段3にかかる発明では、泥面滑走用の接地フロートを高さ検出手段として活用することができる。したがって、検出対象としては比較的精度良く計測し難いものである泥面からの高さ変化を、泥面と密接な関係を有した接地フロートの姿勢変化を検出対象とすることで、特別な泥面高さ専用の検出センサを用いずとも、比較的精度良く泥面からの高さ変化を検出することが可能となる。
これによって、植播系作業装置の高さ位置を判別する手段として好適な高さ検出手段を、接地フロートの兼用によって構造簡単に構成することができる。
【0013】
〔解決手段4〕
解決手段1、2、または3記載の水田作業機において、所定の非定常操作を行うことにより、定常操作時に牽制されていた制御装置からマーカ操作機構への制御指令を、牽制解除して伝達できるように構成してある。
【0014】
〔解決手段4にかかる発明の作用及び効果〕
解決手段4にかかる発明では、定常操作時に制御装置からマーカ操作機構への制御指令を牽制することによって得られた、前記解決手段1〜3に記載の作用及び効果に加えて、その牽制を非定常操作によって牽制解除できるものであるから、さらに多様な操作を行うことができる。
しかも、その操作は、操作者が明確に意識した非定常操作によって意図的に行われるので、定常操作時の操作との混同や誤操作を招く虞はきわめて少ない状態で操作の多様化を図ることができる利点がある。
【0015】
〔解決手段5〕
解決手段4に記載の水田作業機において、人為操作具の非定常操作は、定常操作に比べて、より操作時間を長くした定常操作時と同じ操作である。
【0016】
〔解決手段5にかかる発明の作用及び効果〕
解決手段5にかかる発明では、非定常操作を、定常操作に比べて、より操作時間を長くした定常操作時と同じ操作で行えるようにしている。
したがって、操作具の操作方向を変更したり、操作回数を変えるなどして非定常操作とする場合に比べて、構造の複雑化や誤操作を招く虞がさらに少なくて済む。つまり、定常操作を行うための構造と同じ構造を採用したものでよいから、構造の複雑化を招くことなく、また、操作回数のカウントや操作方向を注意した操作が必要なく、定常操作と同じ操作を、定常操作時とは明確に区別できる程度に充分長く設定して操作するという、より意図的な操作で誤操作の少ない操作を行い易いものである。
【0017】
〔解決手段6〕
解決手段5に記載の水田作業機において、人為操作具の操作によって、制御装置がマーカの姿勢変更指令と植播系作業装置における作業クラッチ操作指令とを出力可能に構成されているとともに、所定の選択条件に基づいて、マーカの姿勢変更指令と植播系作業装置の作業クラッチ操作指令とのうちの何れか一方の指令のみを選択して制御装置から出力するように構成してある。
【0018】
〔解決手段6にかかる発明の作用及び効果〕
解決手段6にかかる発明では、人為操作具の操作により、植播系作業装置の昇降とマーカの姿勢変更操作の他に、植付クラッチの入り切り操作をも行えるようにしたものであり、より一層操作の多様性を増すことができる。
すなわち、植付クラッチの入り切り操作を、植播系作業装置の昇降操作と連係させただけの構造であれば、マーカを出さずに植付を行うとか、植付をせずに線引きだけを行うなどの作業を行うことができない。このような作業を可能にするためには、一旦、植播系作業装置の昇降操作と連係を断って、手動操作状態に切り換えてからマーカや植付クラッチの個別操作を行う必要があった。
この解決手段6にかかる発明では、マーカの姿勢変更指令と植播系作業装置における作業クラッチ操作指令とを出力可能に構成されたものにおいて、所定の選択条件に基づいて、非定常操作を行うことにより、マーカの姿勢変更指令と植播系作業装置の作業クラッチ操作指令とのうちの何れか一方の指令のみを選択して制御装置から出力するように構成しているので、作業途中で一旦手動操作状態に切り換えるなどの手数を要さずにマーカや植付クラッチの個別操作を行うことができる利点がある。
【0019】
〔解決手段7〕
解決手段6に記載の水田作業機において、人為操作具の非定常操作においては、マーカのみが操作されるようにしている。
【0020】
〔解決手段7にかかる発明の作用及び効果〕
解決手段7にかかる発明では、マーカの姿勢変更指令と植播系作業装置における作業クラッチ操作指令とを出力可能に構成されたものにおいて、所定の選択条件に基づいて、非定常操作を行うことにより、マーカの姿勢変更指令を選択して制御装置から出力するように構成しているので、作業途中で一旦手動操作状態に切り換えるなどの手数を要さずにマーカの個別操作を行うことができる利点がある。
【0021】
〔解決手段8〕
請求項1〜7のいずれか一項記載の水田作業機において、マーカ操作機構中に過負荷緩衝部を設けてある。
【0022】
〔解決手段8にかかる発明の作用及び効果〕
解決手段8にかかる発明では、マーカ操作機構中に過負荷緩衝部を備えることにより、電動モータに過大な負荷が作用したり、マーカに過大な負荷が作用した場合に、これを感知して回避制御を行うようにすることにより、電動モータやマーカを破損するなどの自体が生じることを回避することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
〔水田作業機の全体構成〕
図1に示すように、左右一対の操向操作自在な前車輪1、及び、左右一対の後車輪2を原動部のエンジン6からの駆動力によって駆動して自走するように構成し、かつ、原動部の両横側に位置する予備苗載せ台装置80、原動部の後方に位置する運転座席3を有した搭乗型運転部を備えた自走車体の車体フレーム4の後部に、リフトシリンダ8を有したリンク機構5を介して植播系作業装置の一例である苗植付け装置10を連結するとともに、前記エンジン6からの駆動力を回転軸7を介して苗植付け装置10に伝達するように構成し、自走車体の運転座席3の後方側に肥料タンク31を有した施肥装置30を設けて、水田作業機の一例である乗用型田植機を構成している。
【0024】
この田植機は、稲苗の植付け、及び、植付け苗に対する施肥供給を行なうものであり、リフトシリンダ8を操作することにより、このリフトシリンダ8がリンク機構5を自走車体に対して上下に揺動操作して苗植付け装置10を整地フロート11が圃場面に接地した下降作業状態と、整地フロート11が圃場面から高く浮上した上昇非作業状態とに昇降操作する。苗植付け装置10を下降作業状態にして自走車体を走行させると、苗植付け装置10の植付け機体横方向に並ぶ複数の苗植付け機構12がこの苗植付け機構12の苗植え運動に連動して植付け機体横方向に往復移送される苗載せ台14に載置されたマット状苗から一株分のブロック苗を切断するとともに取り出し、整地フロート11が整地した圃場泥土に植え付けていく。これとともに、施肥装置30の肥料タンク31の下部に連結している繰り出し機構32が肥料タンク31から肥料を設定量ずつ繰り出し、繰り出し機構32からの肥料を電動ブロワ33からの搬送風によって施肥ホース34に供給し、整地フロート11に設けた作溝施肥器35が苗植付け機構12による植付け苗の横側近くで圃場泥土に施肥溝を形成し、この施肥溝に施肥ホース34からの肥料を供給していく。
【0025】
〔苗植付装置(植播系作業装置)〕
苗植付け装置10の植付機枠前端部の両横側にマーカ20を設けてある。左右のマーカ20も、左右のマーカ操作機構40も、左右で同様に構成してあるので、代表して左側のマーカ20、及び左側のマーカ操作機構40を図示して説明する。
図2に示すように、マーカ20は、植付機枠の機枠フレーム15から延出するマーカ支持アーム21に基端側の取り付け部23cが連結ピン22を介して回動自在に連結している基端側マーカアーム23a、この基端側マーカアーム23aの先端部から延出している先端側マーカアーム23b、この先端側マーカアーム23bの先端部に遊転自在に連結しているマーカ輪体25を備えて構成してある。
基端側マーカアーム23aが前記連結ピン22の機体前後向きの軸芯まわりで植付機枠に対して上下に揺動操作されることにより、図2に実線で示す如く基端側マーカアーム23aがマーカ支持アーム21から機体横外向きにほぼ水平に延出した取り付け姿勢になり、マーカ輪体25の下端側が圃場泥土に接地した下降使用姿勢と、図2に二点鎖線で示す如く基端側マーカアーム23aがマーカ支持アーム21から機体上方向きに延出した取り付け姿勢になり、マーカ輪体25が圃場面から高く浮上した上昇格納姿勢とに切り換わる。
下降使用姿勢に操作されたマーカ20は、マーカ輪体25が車体走行のために圃場の泥土部で転動してマーカ輪体25の輪体周方向に並んでいるマーカ爪26が泥土を持ち上げて圃場面上に盛り上げていき、進行方向に点在していく盛り上げ泥土によって走行目標線を圃場面上に形成する。
【0026】
図2に示すように、マーカ操作機構40は、後述する制御装置54によって制御される電動モータ42と、前記基端側マーカアーム23aの取り付け部23cに一端側を連結し、他端側を電動モータ42によって駆動されるクランク操作体48に連結した操作ロッド41と、一端側を前記基端側マーカアーム23aの取り付け部23cに連結し、他端側を機枠フレーム15に連結したスプリング49とによって構成されている。
前記電動モータ42は、機枠フレーム15に設けた操作ケース43に内装され、この電動モータ42の動力は、電動モータ42の出力を、ウォームギヤを内装する減速ギヤボックス42Aからの出力用ピニオンギヤ45を介して、前記クランク操作体48の駆動ギヤ46に伝達されるように構成してある。
図2に示すように、このマーカ操作機構40のスプリング49は、基端側マーカアーム23aの前記連結ピン22の位置と、スプリング49の機枠フレーム15側の係止孔15aによって構成される係止点とを結ぶ仮想線分xよりも上方側で、前記取り付け部23cにスプリング49の一端側が連結されているので、そのスプリング49の付勢力がマーカ20を上昇格納姿勢側に付勢する方向で作用するように構成されている。
【0027】
図3,4に示すように、電動モータ42の出力ギヤ45がクランク操作体48の軸部に一体的に設けた駆動ギヤ46に噛合っており、電動モータ42が上昇側に駆動操作されてクランク操作体48をマーカ上げ側に回動駆動すると、操作ロッド41がマーカ20をスプリング49に補助されながら引き上げ操作することにより、マーカ操作機構40は、電動モータ42の駆動力とスプリング49の弾性復元力とによってマーカ20を上昇格納姿勢に切り換え操作する。
電動モータ42が下降側に駆動操作されてクランク操作体48をマーカ下げ側に回動駆動すると、操作ロッド41がスプリング49の付勢力に抗してマーカ20を押し下げ操作することにより、マーカ操作機構40は、電動モータ42の駆動力とマーカ20の自重とによってマーカ20を下降使用姿勢に切り換え操作する。
前記操作ロッド41は、バネ鋼からなる棒状線材で構成され、その中間部にコイル状の過負荷緩衝部41Aを設けてある。この過負荷緩衝部41Aは、電動モータ42でマーカ20の昇降操作を行っている途中で、マーカ20が畦や何らかの障害物に接触して動き難くなるなどの、マーカ20自体や電動モータ42が損傷するほどの一時的な過負荷が生じた場合に、その過負荷緩衝部41Aのコイル状部分が伸縮することによって、ある程度の過負荷を緩和することに役立つ効果がある。
【0028】
〔運転部〕
図1,5に示すように、運転部のステアリングハンドルSHの付近に、人為操作具としての1本の操作レバー61を備えた作業指令手段60a及びマーカ下降指令手段60bを設け、図5に示すように、前記作業指令手段60aの一対の指令スイッチ62,63、前記マーカ下降指令手段60bの一対の指令スイッチ64,65、前記リンク機構5に設けた上限センサ69、運転部に設けたメインスイッチ70及び中立検出手段71を制御装置54に連係させてある。
さらにこの制御装置54は、前記リフトシリンダ8の制御弁51の電磁操作部、前記左右のマーカ操作機構40の電動モータ42、エンジン6から苗植付け装置10に対する伝動を入り切りするように自走車体のミッションケース72の内部に設けた作業クラッチ52を切り換え操作する作業クラッチ操作機構の一例としての電動クラッチモータ53、原動部に設けたエンジン始動牽制手段73、自走車体の前端部に位置するセンターマーカ9の内部に位置する報知手段としてのマーカランプ74に連係させてある。
図4に示すように前記クランク操作体48のスイッチ操作部57の回動位置を基に、前記左マーカ20が下降使用姿勢や上昇格納姿勢になったことを検出するように前記操作ケース43の内部に設けた検出スイッチで成る左マーカ上昇センサ67及び左マーカ下降センサ66も、この左マーカ上昇センサ67及び左マーカ下降センサ66と同様に構成した右マーカ上昇センサ67及び右マーカ下降センサ66も制御装置54に連係させてある。
【0029】
図5に示すように、前記作業指令手段60aは、前記操作レバー61及び前記一対の指令スイッチ62,63を備えて構成してあり、操作レバー61が中立位置Nから車体下方側Dに揺動操作されると、一方の指令スイッチ62が操作レバー61によって切り換え操作されて苗植付け装置10を下降作業状態に下降操作させるとともに作業クラッチ52を入り状態に切り換え操作させるべき作業指令を電気信号にして制御装置54に出力し、操作レバー61が中立位置Nから車体上方側Uに揺動操作されると、他方の指令スイッチ63が操作レバー61によって切り換え操作されて苗植付け装置10を上昇非作業状態に上昇操作させるとともに作業クラッチ52を切り状態に切り換え操作させるべき作業解除指令を電気信号にして制御装置54に出力する。
【0030】
図5に示すように、前記マーカ下降指令手段60bは、前記操作レバー61及び前記一対の指令スイッチ64,65を備えて構成してあり、操作レバー61が中立位置Nから車体前方側Fに揺動操作されると、一方の指令スイッチ64が操作レバー61によって切り換え操作されて左マーカ20を下降使用姿勢に下降操作させるべき左マーカ下降指令を電気信号にして制御装置54に出力し、操作レバー61が中立位置Nから車体後方側Rに揺動操作されると、他方の指令スイッチ65が操作レバー61によって切り換え操作されて右マーカ20を下降使用姿勢に下降操作させるべき右マーカ下降指令を電気信号にして制御装置54に出力する。
【0031】
図1及び図5に示すように、運転座席3の横側部には昇降操作レバー36が装備してあり、この昇降操作レバー36の操作位置の選択によって、前記操作レバー61による苗植付け装置10の昇降とは別に、苗植付け装置10の昇降操作を行えるとともに、その苗植付け装置10の作業クラッチ52(植付クラッチ)の駆動を断続操作することができる。
この昇降操作レバー36の操作位置は、レバー位置検出スイッチ37で自動操作領域と手動操作によるクラッチ操作域とを判別できるように構成され、その他の各領域(下降、中立、上昇)では作業クラッチ52が切り操作されるように構成してある。
昇降操作レバー36が自動操作領域に操作されている状態では、苗植付け装置10が泥面から離れた上方位置にあると、このことが垂れ下がり姿勢のフロートセンサ13で検出されるので、苗植付け装置10の昇降用のリフトシリンダ8に対して下降指令が出力され、苗植付け装置10が下降を始める。そして、垂れ下がり姿勢の整地フロート11の先端側が泥面に接して水平に変化すると、このことがフロートセンサ13で検出され、制御装置54に苗植付け装置10が下限に到達したことの信号を入力するので、苗植付け装置10の下降動作が停止し、同時的に作業クラッチ52が入り操作されて苗植付け作業が開始される。
前記昇降操作レバー36が手動操作領域の植付クラッチ入り位置に操作されている状態では、苗植付け装置10の高さ位置に関係なく、任意のタイミングで作業クラッチ52を入り操作することができる。したがって、苗植付け装置10が泥面に接地するとただちに作業クラッチ52が作動し始めるのではなく、整地フロート11が泥面に接してから、適当なタイミングを図って作業を開始することができる。
【0032】
上限センサ69は、前記リンク機構5の自走車体に対する昇降位置に基いて苗植付け装置10が上昇限界まで上昇されたことを検出するように構成した検出スイッチで成り、その検出結果を電気信号にして制御装置54に出力する。
メインスイッチ70は、脱着自在なキー(図示せず)によって切り換え操作されるキースイッチで成り、切り換え操作されることにより、電源をオンとオフに切り換え操作し、かつ、その切り換え結果を電気信号にして制御装置54に出力する。
【0033】
中立検出手段71は、エンジン6の駆動力を前進駆動力と後進駆動力に変換して、かつ、前進側においても後進側においても無段階に変速して前後輪1,2に伝達する静油圧式無段変速装置で成る走行用変速装置76を操作する主変速レバー77の操作位置に基いて走行用変速装置76が中立状態にあることを検出する検出スイッチで成り、検出結果を電気信号にして制御装置54に出力する。
【0034】
〔制御形態〕
制御装置54はマイクロコンピュータを利用して構成してあり、作業指令手段60aからの指令、上限センサ69、及びフロートセンサ13からの検出情報を基にリフトシリンダ8の昇降制御、及びクラッチモータ53を操作しての作業クラッチ52の入り切り制御を行う。
すなわち、作業指令手段60aから作業指令を入力すると、制御弁51に下降操作信号を出力してこの制御弁51を下降操作状態に切り換え操作することにより、苗植付け装置10が昇降制御によって下降するとともに、整地フロート11が泥面に接地して、フロートセンサ13が設定植付け深さを検出する下降作業状態になるようにリフトシリンダ8を苗植付け装置下降側に操作し、かつ、作業クラッチ52が入り状態になるようにクラッチモータ53を入り側に駆動操作する。
作業指令手段60aから作業解除指令を入力すると、制御弁51に上昇操作信号を出力してこの制御弁51を上昇操作状態に切り換え操作することにより、上限センサ69が作用状態になるまで苗植付け装置10が上昇するようにリフトシリンダ8を苗植付け装置上昇側に駆動操作し、かつ、作業クラッチ52が切り状態になるようにクラッチモータ53を切り側に駆動操作する。
【0035】
また、図6乃至図11に示すように、制御装置54は、上記リフトシリンダ8の昇降制御、および作業クラッチ52の制御に加えて、メインスイッチ70からの情報、マーカ下降指令手段60bによる下降指令、各センサ13,66,67,69による検出情報を基に左右のマーカ操作機構40及びマーカランプ74を操作する。
すなわち、図6のメインルーチンにおけるステップ#1〜#4に示すように、メインスイッチ70からの情報によってメインスイッチ70がオンであるか否かを判断し、メインスイッチ70がオンであると判断すると、ステップ#2に示すシリンダ制御ルーチンでリフトシリンダ8に対する昇降指令の有無を判断し、その昇降制御を行ってメインルーチンに戻る。引き続いてステップ#3に示す作業クラッチ制御ルーチンで作業クラッチ52の入り切り制御を行ってメインルーチンに戻る。
さらにステップ#4,#5では、メインスイッチ70からの情報によってメインスイッチ70がオンであるか否かを判断し、メインスイッチ70がオンであると判断すると、マイクロコンピュータの不揮発性メモリーで成るマーカ記憶手段78による記憶情報を入力してマーカ出し入れ制御を実行する。そしてメインスイッチ70からの情報によってメインスイッチ70がオフに切り換わった否かを判断し、メインスイッチ70がオフに切り換わったと判断すると、このときの制御装置54の左電動モータ操作状態をメインスイッチ70が切り状態に切り換わった時点の左側のマーカ操作機構40による左マーカ操作状態として、かつ、制御装置54の右電動モータ操作状態をメインスイッチ70が切り状態に切り換わった時点の右側のマーカ操作機構40による右マーカ操作状態としてそれぞれマーカ記憶手段78にそれまでの記憶情報を更新した状態で記憶させる。
【0036】
シリンダ制御ルーチンでのリフトシリンダ8の昇降制御は、図7に示す如く行なわれる。
すなわち、ステップ#10及び#11で、リフトシリンダ8に対する指令信号の有無、及び、指令が上昇指令であるか、下降指令であるかを判別する。
人為操作具としての操作レバー61で操作される作業指令手段60aでの操作に基づいて、ステップ#10で上昇指令がなされたと判断されると、ステップ#12でリフトシリンダ8の制御弁51に対する上昇指令が制御装置54から出力される。リフトシリンダ8が上昇作動(伸長)し、上限に達したことが上限センサ69で検出されると、リフトシリンダ8の作動が停止する。
ステップ#11で下降指令がなされたと判断されると、ステップ#13でリフトシリンダ8の制御弁51に対する下降指令が制御装置54から出力される。リフトシリンダ8が下降作動(収縮)し、下限に達したことがフロートセンサ13で検出されると、リフトシリンダ8の作動が停止する。
ステップ#10及びステップ#11で上昇指令、及び下降指令の何れもがないと判断されたときは、リフトシリンダ8は停止状態のままである。
【0037】
作業クラッチ制御ルーチンでの作業クラッチ52の入り切り制御は、図8に示す如く行なわれる。
すなわち、ステップ#20に示すように、昇降操作レバー36が「自動」の位置に操作されているか否かをレバー位置検出スイッチ37で判別し、自動の位置に操作されていれば、ステップ#22において、苗植付け装置10が下限に位置しているか否かをフロートセンサ13からの検出信号で判別する。苗植付け装置10が下限に位置していれば作業クラッチ52を「切り」操作する指令を制御装置54から出力し、下限に位置していなければ苗植付け装置10に対して下降作動を指令して、その後、ステップ#24で示すように、再び苗植付け装置10が下限に位置したか否かを検出する。フロートセンサ13が苗植え付け装置10の下限位置を検出するとステップ#25に示すように作業クラッチ52を入り操作して苗植え付け作業が開始される。
前記ステップ#20で「自動」が検出されなかった場合、ステップ#21で昇降操作レバー36の位置が手動による「植付」位置であるか否かを検出し、手動による植付位置が検出された場合には、苗植え付け装置10の高さ位置に関係なく強制的に作業クラッチ52を入りする。
前記ステップ#20及びステップ#21で、昇降操作レバー36の位置が「自動」の位置でも、手動による「植付」位置でもないことが判別されると、植付作業を行う状態ではないので、ステップ#27に示すように作業クラッチ52をクラッチ切り状態とするように制御装置54からの指令が出力される。
【0038】
マーカ出し入れ制御は、図9乃至図11に示す如く行なわれる。
すなわち、ステップ#30に示すように、メインスイッチ70がオンであることを検出すると、その時点でマイクロコンピュータの不揮発性メモリーで成るマーカ記憶手段78による記憶情報を読み出してマーカ出し入れ制御を実行する。次ぎに、ステップ#31に示すように、苗植付け装置10の高さ位置に関する情報を、上限センサ69及びフロートセンサ13から取得する。
ステップ#32、#33に示すように、上限センサ69の検出情報に基いて苗植付け装置10が上限になっているか否かを判断し、苗植付け装置10が上限になっていると判断すると、左マーカ操作機構40が左マーカ20を上昇格納姿勢に切り換え操作するように左マーカ上昇センサ67が検出状態になるまで左電動モータ42を上昇側に操作し、右マーカ操作機構40が右マーカ20を上昇格納姿勢に切り換え操作するように右マーカ上昇センサ67が検出状態になるまで右電動モータ20を上昇側に操作する。
【0039】
ステップ#32にて苗植付け装置10が上限にないと判断された場合、ステップ#34に示すようにフロートセンサ13からの取得情報に基づいて、苗植付け装置10が予め設定された所定高さ以上の高さに位置しているか否かを判断する。
ステップ#34にて苗植付け装置10が上限よりも下方で、予め設定された所定高さ以上の高さに位置していると判断した場合、次のステップ#35で、マーカ記憶手段78による記憶情報と、マーカ下降指令手段60bからの指令とを基に、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されているか否かを判別する。
マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令が、マーカ下降指令手段60bから出力されていると判断した場合には、苗植付け装置10が下降操作されたと判断し、かつ、マーカ下降指令手段60bからの指令が右マーカ下降指令であると、ステップ#36〜#39に示すように左右のマーカ20を昇降操作する。
【0040】
つまり、右マーカ20に対して右マーカ20を下降させる指令が出力されている状態では、左マーカ20は下降作用姿勢とする必要がないので上昇側の格納姿勢に姿勢変更しておく必要がある。
したがって、一般的には、右マーカ20を下降させる指令が出力されている状態では、右マーカ20に対する下降指令とともに左マーカ20に対する上昇姿勢も同時的に出力される傾向があるが、本発明では、ステップ#37に示すように、右マーカ20に対する下降指令を出力するとの判断後に、左右のマーカ20,20を昇降させるにあたり、人為操作具としてのマーカ下降指令手段60bの操作状態、すなわち、定常操作か、非定常操作かを判断している。
そして、このステップ#37での判断により、マーカ下降指令手段60bの操作が定常操作であると判断されれば、ステップ#38に示すように左側のマーカ操作機構40が左マーカ20を上昇操作し、この時点では右マーカ20に対する下降指令は出力されない。これは、マーカ20が前記所定高さ位置よりも高い位置で下降作用姿勢となることで、他物と接触して損傷する可能性を少なくするためである。
ただし、常に前記所定高さ位置よりも高い位置で下降作用姿勢となることを禁止したままでは、非作業状態で苗植付け装置10と畦との距離を見たい場合など、何らかの要望がある場合に対応できないので、本発明では、前記ステップ#37で非定常状態を判別できるようにしている。これは、マーカ下降指令手段60bの定常操作時と同じ操作を、定常操作で普通に操作した場合の時間よりもかなり長く(例えば3秒以上)操作することで、定常操作とは明らかに判別可能にして、その操作状態を非定常操作として判断するように構成したものである。
この非定常操作を判別したときに右側のマーカ操作機構40を介して右マーカ20の下降操作を行うものであるが、この操作は、操作者が明確に意図して、通常とは異なる操作を行おうとするものであるから、前述のような他物と接触して損傷する虞を回避しながらの操作が可能である。
【0041】
ステップ#40,#42,#43,#44に示すように、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されていると判断し、かつ、マーカ下降指令手段60bからの指令が左マーカ下降指令であると判断すると、ステップ#40,#42,#43,#44に示すように左右のマーカ20を昇降操作する。
つまり、ステップ#42での判断により、マーカ下降指令手段60bの操作が定常操作であると判断されれば、ステップ#43に示すように右マーカ20を上昇操作し、この時点では左マーカ20に対する下降指令は出力されない。
前記ステップ#42で非定常状態を判別すると、左側のマーカ操作機構40を介して左マーカ20の下降操作を行うものであるが、この操作は、操作者が明確に意図して、通常とは異なる操作を行おうとするものであるから、前述のような他物と接触して損傷する虞を回避しながらの操作が可能である。
ステップ#35,#36,#40,#41、及びステップ#56に示すように、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されていると判断し、かつ、マーカ下降指令手段60bから左マーカ下降指令も右マーカ下降指令も出力されていないと判断すると、左右のマーカ操作機構40がマーカ20を上昇格納姿勢に操作するように左右の電動モータ42を上昇側に操作するとともに、マーカランプ74が点滅してマーカ下降指令手段60bから左マーカ下降指令も右マーカ下降指令も出力されていないことを報知するように、マーカランプ74を点滅操作する。
【0042】
ステップ#34にて苗植付け装置10が上限よりも下方で、予め設定された所定高さ未満の高さに位置していると判断した場合、次のステップ#45で、マーカ記憶手段78による記憶情報と、マーカ下降指令手段60bからの指令とを基に、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されているか否かを判別する。
マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令が、マーカ下降指令手段60bから出力されていると判断した場合には、苗植付け装置10が下降操作されたと判断し、かつ、マーカ下降指令手段60bからの指令が右マーカ下降指令であると、ステップ#46〜#49に示すように左右のマーカ20を昇降操作する。
【0043】
つまり、右マーカ20に対して右マーカ20を下降させる指令が出力されている状態では、左マーカ20は下降作用姿勢とする必要がないので上昇側の格納姿勢に姿勢変更しておく必要がある。
したがって、一般的には、右マーカ20を下降させる指令が出力されている状態では、右マーカ20に対する下降指令とともに左マーカ20に対する上昇姿勢も同時的に出力される傾向があるが、本発明では、ステップ#47に示すように、右マーカ20に対する下降指令を出力するとの判断後に、左右のマーカ20,20を昇降させるにあたり、人為操作具としてのマーカ下降指令手段60bの操作状態、すなわち、定常操作か、非定常操作かを判断している。
そして、このステップ#47での判断により、マーカ下降指令手段60bの操作が定常操作であると判断されれば、ステップ#48に示すように右側のマーカ操作機構40が左マーカ20を上昇操作し、この時点では右マーカ20に対する下降指令は出力されない。これは、マーカ20が前記所定高さ位置よりも高い位置で下降作用姿勢となることで、他物と接触して損傷する可能性を少なくするためである。
ただし、常に前記所定高さ位置よりも高い位置で下降作用姿勢となることを禁止したままでは、非作業状態で苗植付け装置10と畦との距離を見たい場合など、何らかの要望がある場合に対応できないので、本発明では、前記ステップ#47で非定常状態を判別できるようにしている。これは、マーカ下降指令手段60bの定常操作時と同じ操作を、定常操作で普通に操作した場合の時間よりもかなり長く(例えば3秒以上)操作することで、定常操作とは明らかに判別可能にして、その操作状態を非定常操作として判断するように構成したものである。
この非定常操作を判別したときに右側のマーカ操作機構40を介して右マーカ20の下降操作を行うものであるが、この操作は、操作者が明確に意図して、通常とは異なる操作を行おうとするものであるから、前述のような他物と接触して損傷する虞を回避しながらの操作が可能である。
【0044】
ステップ#50,#51,#52,#53に示すように、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されていると判断し、かつ、マーカ下降指令手段60bからの指令が左マーカ下降指令であると判断すると、ステップ#50,#51,#52,#53に示すように左右のマーカ20を昇降操作する。
つまり、ステップ#51での判断により、マーカ下降指令手段60bの操作が定常操作であると判断されれば、ステップ#52に示すように左マーカ20を下降操作し、この時点では右マーカ20に対する上昇指令は出力されない。
前記ステップ#51で非定常状態を判別すると、ステップ#53で右側のマーカ操作機構40を介して右マーカ20の上昇操作を行うものであるが、この操作は、操作者が明確に意図して、通常とは異なる操作を行おうとするものであるから、前述のような他物と接触して損傷する虞を回避しながらの操作が可能である。
ステップ#45,#46,#50,#54、及びステップ#56に示すように、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されていると判断し、かつ、マーカ下降指令手段60bから左マーカ下降指令も右マーカ下降指令も出力されていないと判断すると、左右のマーカ操作機構40がマーカ20を上昇格納姿勢に操作するように左右の電動モータ42を上昇側に操作するとともに、マーカランプ74が点滅してマーカ下降指令手段60bから左マーカ下降指令も右マーカ下降指令も出力されていないことを報知するように、マーカランプ74を点滅操作する。
【0045】
ステップ#34において所定高さ以上であると判断され、かつ、ステップ#35において、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されていないと判断した場合、図11のステップ#58,#59に示すように、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態が右マーカ20を下降させる操作状態であると判断すると、右側のマーカ操作機構40は作動せず、左側のマーカ操作機構40が左マーカ20を上昇格納姿勢に操作するように左電動モータ42を上昇側に操作する。
同様にステップ#35において、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されていないと判断した場合、ステップ#60,#61に示すように、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態が左マーカ20を下降させる操作状態であると判断すると、左側のマーカ操作機構40は作動せず、右側のマーカ操作機構40が右マーカ20を上昇格納姿勢に操作するように右電動モータ42を上昇側に操作する。
また、ステップ#35において、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されていないと判断した場合、ステップ#58,#60,#62に示すように、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態が左マーカ20も右マーカ20も上昇させる操作状態であると判断すると、左右のマーカ操作機構40がマーカ20を上昇格納姿勢に切り換え操作するように左右の電動モータ42を上昇側に操作するとともに、マーカランプ74が点滅して制御装置54がマーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態に基いて左電動モータ42も右電動モータ42も下降側に駆動操作する状態にないことを報知するように、マーカランプ74を点滅操作する。
つまり、メインスイッチ70がオフからオンに切り換えられた場合、左右のマーカ20がメインスイッチ切り時点にあった下降使用姿勢又は上昇格納姿勢に操作されるように、マーカ記憶手段78による記憶情報に基いて左右の電動モータ42を操作する。
【0046】
ステップ#34において所定高さ未満であると判断され、かつ、ステップ#45において、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されていないと判断した場合、図10のステップ#63,#64に示すように、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態が右マーカ20を下降させる操作状態であると判断すると、右側のマーカ操作機構40が右マーカ20を下降使用姿勢に操作するように右電動モータ42を下降側に操作する。
同様にステップ#35において、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されていないと判断した場合、ステップ#65,#66に示すように、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態が左マーカ20を下降させる操作状態であると判断すると、左側のマーカ操作機構40が左マーカ20を下降使用姿勢に操作するように左電動モータ42を下降側に操作する。
また、ステップ#35において、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態とは異なるマーカ操作指令がマーカ下降指令手段60bから出力されていないと判断した場合、ステップ#63,#65,#67に示すように、マーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態が左マーカ20も右マーカ20も上昇させる操作状態であると判断すると、左右のマーカ操作機構40がマーカ20を上昇格納姿勢に切り換え操作するように左右の電動モータ42を上昇側に操作するとともに、マーカランプ74が点滅して制御装置54がマーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態に基いて左電動モータ42も右電動モータ42も下降側に駆動操作する状態にないことを報知するように、マーカランプ74を点滅操作する。
つまり、メインスイッチ70がオフからオンに切り換えられた場合、左右のマーカ20がメインスイッチ切り時点にあった下降使用姿勢又は上昇格納姿勢に操作されるように、マーカ記憶手段78による記憶情報に基いて左右の電動モータ42を操作する。
【0047】
前記各ステップ#38,#39,#43,#44,#48,#49,#52,#53,#59,#61,#64,#66、及びステップ#55に示すように、マーカ下降指令手段60bからの左マーカ下降指令や右マーカ下降指令に基いて左右の電動モータ42を下降側に駆動操作する場合、及び、マーカ記憶手段78による記憶操作状態に基いて左右の電動モータ42を下降側に駆動操作する場合、マーカランプ74が消灯してマーカ下降指令手段60bから左マーカ下降指令又は右マーカ下降指令が出力されていることを報知したり、制御装置54がマーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態に基いて左電動モータ42又は右電動モータ42を下降側に駆動操作する状態にあることを報知したりするように、マーカランプ74を消灯操作する。
【0048】
制御装置54は、メインスイッチ70からの情報によってメインスイッチ70がオフに切り換わった否かを判断し、メインスイッチ70がオフに切り換わったと判断すると、このときの制御装置54のクラッチモータ42の操作状態をメインスイッチ70が切り状態に切り換わった時点のクラッチモータ53による作業クラッチ52の入り切り状態として、マイクロコンピュータのメモリーで成るクラッチ記憶手段79にそれまでの記憶情報を更新した状態で記憶させ、この後、メインスイッチ70からの情報によってメインスイッチ70がオンに切り換わった否かを判断し、メインスイッチ70がオンに切り換わったと判断すると、作業クラッチ52の入り切り状態がメインスイッチ切り時点の状態に操作されるように、クラッチ記憶手段79による記憶操作状態に基いてクラッチモータ53を操作するように構成してある。
【0049】
制御装置54は、中立検出手段71からの検出情報によって中立検出手段71が検出状態と非検出状態のいずれにあるかを判断し、中立検出手段71が検出状態にあると判断した場合、エンジン6を始動させることができるようにエンジン始動牽制手段73を作用解除状態に切り換え操作し、中立検出手段71が非検出状態にあると判断した場合、エンジン6を始動させることができないようにエンジン始動牽制手段73を作用状態に切り換え操作する。
【0050】
従って、作業を行なうに当たり、操作レバー61を中立位置Nから車体下方側Dに揺動操作する。すると、指令スイッチ62が作業指令を出力し、この作業指令を基に制御装置54が制御弁51を切り換え操作してリフトシリンダ8を下降側に操作するとともにクラッチモータ53を駆動操作して作業クラッチ52を入り状態に切り換え操作し、苗植付け装置10が下降作業状態になるとともに駆動されて苗植付けを行なっていく。
【0051】
このとき、操作レバー61を中立位置Nから車体前方側Fに揺動操作して指令スイッチ64によって左マーカ下降指令を出力しておくと、苗植付け装置10が下降して上限センサ69が非検出状態に切り換わるに伴い、左マーカ下降指令と上限センサ69からの情報を基に制御装置54が左マーカ操作機構40と右マーカ操作機構40のうちの左マーカ操作機構40の方だけの電動モータ42を下降側に駆動操作して左マーカ20が下降使用姿勢になり、自走車体左側の次の作業箇所の圃場面上に泥土盛りによる走行目標線を形成していくことができ、操作レバー61を中立位置Nから車体後方側Rに揺動操作して指令スイッチ65によって右マーカ下降指令を出力しておくと、苗植付け装置10が下降して上限センサ69が非検出状態に切り換わるに伴い、右マーカ下降指令と上限センサ69からの情報を基に制御装置54が左マーカ操作機構40と右マーカ操作機構40のうちの右マーカ操作機構40の方だけの電動モータ42を下降側に駆動操作して右マーカ20が下降使用姿勢になり、自走車体右側の次の作業箇所の圃場面上に泥土盛りによる走行目標線を形成していくことができる。これにより、次の作業箇所を作業走行する際、センターマーカ9が圃場面上の走行目標線に合致するようにしながら走行すれば、このときの植付け苗列が先の植付け苗列に沿うようにして植付け作業することができる。
これに対し、操作レバー61を中立位置Nから車体前方側Fにも車体後方側Rにも操作しなくて左マーカ下降指令も右マーカ下降指令も出力していなければ、マーカ下降指令手段60bからの情報と上限センサ69からの情報を基に制御装置54がマーカランプ74を点滅作動させ、マーカ20を出すための操作が未だ行なわれていないことがマーカランプ74の点滅によって報知される。
【0052】
作業走行を終えると、操作レバー61を中立位置Nから車体上方側Uに揺動操作する。すると、指令スイッチ63が作業解除指令を出力し、この作業解除指令を基に制御装置54がクラッチモータ53を駆動操作して作業クラッチ52を切り状態に切り換え操作するとともに制御弁51を切り換え操作してリフトシリンダ8を上昇側に駆動操作し、苗植付け装置10が駆動停止されて苗植付けを停止するとともに上昇非作業状態に上昇する。このとき、上限センサ69、及び、各マーカ操作機構40のセンサ66,67からの情報を基に制御装置54がそれまでマーカ20を下降使用姿勢にしていた左又は右のマーカ操作機構40の電動モータ42を上昇側に駆動操作し、それまで下降使用姿勢になっていた左又は右のマーカ20が上昇格納姿勢に切り換わる。
【0053】
作業途中で苗や肥料を補給したり休憩したりするなど、インスイッチ70を切りに操作して作業を中断した場合、メインスイッチ70が切りになった時点での左右のマーカ操作機構42によるマーカ操作状態がマーカ記憶手段78によって記憶され、メインスイッチ70が切りになった時点でのクラッチモータ53による作業クラッチ52の入り切り状態がクラッチ記憶手段79によって記憶される。この後、メインスイッチ70を入りに操作して作業を再開するに当たり、走行用変速装置76を伝動状態に操作していると、エンジン始動操作を行なっても、エンジン始動牽制手段73が制御装置54によって作用状態に切り換え操作されていてエンジン6が始動せず、走行用変速装置76を中立状態に操作することにより、エンジン始動牽制手段73が制御装置54によって作用解除状態に切り換え操作されてエンジン6が始動する。さらにこのとき、制御装置54がマーカ記憶手段78による記憶マーカ操作状態に基づいて左右のマーカ操作機構40の電動モータ42を操作して左右のマーカ20がメインスイッチ70を切にした時点の上昇格納姿勢又は下降使用姿勢になり、かつ、制御装置54がクラッチ記憶手段79による記憶クラッチ操作状態に基いてクラッチモータ42を操作して作業クラッチ52がメインスイッチ70を切りにした時点の入り又は切り状態になり、操作レバー61を操作してマーカ下降指令手段60b及び作業指令手段60aを操作する手間を掛けなくとも、左右マーカ20を作業中断前の下降使用姿勢又は上昇格納姿勢にして、かつ、作業クラッチ52を作業中断前の入り状態にして作業を再開できる。
【0054】
〔別実施形態の1〕
上述の実施の形態では、苗植付け装置10が、上限位置ではない所定高さ位置を基準にして、その所定高さ位置以上の高さに位置している状態で、非定常操作が行われることより、定常操作で牽制していた操作を行えるようにしたものであるが、苗植付け装置10が上限位置に位置している場合をも含めて非定常操作を行うことで、定常操作で牽制していた操作を行えるようにしてもよい。
【0055】
〔別実施形態の2〕
実施の形態では、苗植付け装置10が、上限位置ではない所定高さ位置を基準にして、その所定高さ位置以上の高さに位置している状態で、非定常操作が行われることより、定常操作で牽制していた操作を行えるようにしたものであるが、これに代えて、苗植付け装置10の上限位置に位置を基準にして、その上限位置に苗植付け装置10が位置している場合に非定常操作を行うことで、定常操作で牽制していた操作を行えるようにしてもよい。
【0056】
〔別実施形態の3〕
実施の形態では、苗植付け装置10が、上限位置ではない所定高さ位置を基準にして、その所定高さ位置以上の高さに位置している状態で、非定常操作が行われることより、定常操作で牽制していた操作を行えるようにしたものであるが、これに代えて、苗植付け装置10が昇降動作中であるか否かを検出して、動作中であるときに非定常操作を行うと、定常操作で牽制していた操作を行えるようにしてもよい。
【0057】
〔別実施形態の4〕
図12に示すように、マーカ20としては、基端側マーカアーム23aの先端部に、先端側マーカアーム23bを前後向きの枢支軸芯P3周りで揺動自在に枢着し、この先端側マーカアーム23bにマーカ輪体25を転動自在に支持して構成するとともに、その先端側マーカアーム23bを、前記基端側マーカアーム23aの先端部に一体に設けた板状突片に摺接する状態で前記枢支軸芯P3周りで回動可能に装着した揺動板片24aと、その揺動板片24aに対して一体的に固定した棒状の輪体支持部材24bとからして、前記マーカ輪体25は前記棒状の輪体支持部材24bに支持させている。
そして、このマーカ20は、機枠フレーム15と前記先端側マーカアーム23bとにわたってリンク部材23dを架設し、機枠フレーム15に対する基端側マーカアーム23aの前後向きの揺動支点P1と、機枠フレーム15に対する前記リンク部材23dの前後向きの連結点P2と、基端側マーカアーム23aに対する先端側マーカアーム23bの前後向きの枢支軸芯P3と、前記リンク部材23dに対する揺動板片24aの前後向きの連結点P4とで、平行4連リンク機構を構成し、基端側マーカアーム23aが起伏揺動する範囲の全体で、先端側マーカアーム23b、及びマーカ輪体25が、常に鉛直下方に向く姿勢で移動できるように構成してある。
このように構成すれば、マーカ輪体25の回転面に沿う方向で泥の飛散が生じ易い傾向があっても、マーカ20の起伏動作中、マーカ輪体25の回転面に沿う泥の飛散方向が操縦者のいる機体内方側へ向く状態とはならないので、操縦者側への泥の飛散を避けやすいという利点がある。
尚、前記リンク部材23dを用いたリンク機構は、必ずしも平行四連リンク機構である必要はなく、前記マーカ輪体25の移動中の姿勢を大きく変化させない程度の不等辺四連リンク機構など、泥の飛散を避け得る機能を損なわない範囲での各種構造のものを採用してもよい。
その他の構造は、上述の各種実施形態と同様である。
【0058】
〔別実施形態の5〕
上記〔別実施形態の4〕で説明したように、マーカ20の起伏に伴ってマーカ輪体25の基端側マーカアーム23aに対する姿勢を変化させることは、例えば図13(イ),(ロ)に示すような構造を採用してもよい。
すなわち、基端側マーカアーム23aの先端部に、前後向き軸芯P5周りで回動自在なU字状の支持金具81を装着し、この支持金具81の下端部に前記前後向き軸芯P5とは直交する方向の左右向き横軸芯まわりで回動自在なマーカ輪体25を装着するとともに、前記基端側マーカアーム23aに対する支持金具81の相対姿勢を、マーカ20の格納姿勢と、マーカ20の下降使用姿勢との夫々で接当する当たり部81a,81bを備えて構成されたものである。
その他の構造は、上述の各種実施形態と同様である。
【0059】
〔別実施形態の6〕
さらにまた、マーカ20の起伏に伴ってマーカ輪体25の基端側マーカアーム23aに対する姿勢を変化させることは、例えば図14または図15に示すような構造を採用してもよい。
この構造のうち、図14に示す構造は、基端側マーカアーム23aの先端部に対して、先端側マーカアーム23bの基端部を前後向きの軸芯P6で揺動自在に枢支連結し、その先端側マーカアーム23bの一部に連結したマーカケーブル82を、専用の電動モータ83を用いて引き操作自在に構成し、引き操作によって先端側マーカアーム23bを基端側マーカアーム23aに対して屈折した姿勢とすることで、格納姿勢のマーカ輪体25が回転面を鉛直方向に向けた姿勢となるように操作し、電動モータ83でマーカケーブル82を緩めると復帰バネ84で元の直線状に復帰させて下降作用姿勢とする構造である。
また、図15に示す構造は、基端側マーカアーム23aの先端部に対して、先端側マーカアーム23bの基端部を前後向きの軸芯P6で揺動自在に枢支連結し、その先端側マーカアーム23bの一部に連結したマーカケーブル82を、機枠フレーム15の固定部P7に連結して、基端側マーカアーム23aが機枠フレーム15の揺動支点P1周りで上昇揺動すると、その揺動に伴ってマーカケーブル82を引き操作し、先端側マーカアーム23bを基端側マーカアーム23aに対して屈折した姿勢とすることで、格納姿勢のマーカ輪体25が回転面を鉛直方向に向けた姿勢となるように操作し、基端側マーカアーム23aが下降揺動するに伴って前記マーカケーブル82を緩めて復帰バネ84で元の直線状に復帰させることにより下降作用姿勢とする構造である。
【0060】
〔別実施形態の7〕
図16(イ)に示すように、マーカ20を下降揺動する際に、人や畦、立木などの障害物に接触してマーカ20に下降使用姿勢に達しないままで下降駆動が所定時間以上続くと、このことをマーカ20の一部に設けた歪みセンサなどを用いた過負荷センサ20eで検出して、駆動用の電動モータ42の駆動を一時停止、若しくは所定量逆転駆動させるように構成するとよい。
また、図16(ロ)に示すように、マーカ20を上昇揺動する際に、人や立木、あるいは多量の夾雑物に引っかかるなど、各種の障害物に接触してマーカ20に下降使用姿勢に達しないままで上昇駆動が所定時間以上続くと、このことをマーカ20の一部に設けた歪みセンサなどを用いた過負荷センサ20eで検出して、駆動用の電動モータ42の駆動を一時停止、若しくは所定量逆転駆動させるように構成するとよい。
【0061】
〔別実施形態の8〕
図17に示すように、ポンパレバーとは別に、主変速レバー77の一部に、主変速レバー77を握ったままで、苗植付け装置10の上昇のみを行うための操作ボタン77Aを配備してもよい。このように上昇ボタンを設けると、例えば、右手で操縦ハンドルを握り、左手で主変速レバー77を握りながら機体を移動させている途中で、急に障害物を避けるためなどに植付部を緊急上昇操作したい場合、ハンドルを握っていた右手を離してポンパレバーの位置を捜す必要なく、主変速レバー77を握ったままの左手で操作ボタン77Aによる上昇操作を行うことができるので、緊急操作を行い易い利点がある。
そして、そのための手段として用いられる操作ボタン77Aは、下降操作までをも行うものではないので、誤操作で苗植付け装置10を下降させて損傷するような虞もない。
【0062】
〔その他の別実施形態〕
[1] 本発明は田植機の他、水田直播機などにも適用できるのであり、これら田植機、直播機などを総称して水田作業機と呼称する。
[2] 植播系作業装置の高さ位置を検出する手段としては、実施形態で説明したフロートセンサによるものに限らず、例えば、植播系作業装置を走行機体に対して昇降操作するためのリンク機構5の姿勢変化を検出する手段を用いて植播系作業装置の高さを検出するようにしてもよく、その具体的構成としては、リンク機構5の揺動支点箇所に設けたポテンショメータや、リンク機構5が所定高さに達した状態で接触するように走行機体側に配置したスイッチや、リンク機構5を昇降操作するためのリフトシリンダ8の伸縮量を検出するポテンショメータやスイッチを用いて昇降量を検出できるようにしてもよい。
[3] その他、植播系作業装置の高さ位置を検出する手段としては、植播系作業装置と泥面や水面との離間距離を超音波センサや電磁波で測定したり、撮像手段を設けて画像から判断できるようにするなど、任意の高さ検出手段を採用することができる。
[4]また、植播系作業装置の所定の高さ位置としては、常に一定の高さ位置であるものに限らず、例えば、植播系作業装置が上昇する方向では、フロートセンサ13整地フロート11の最大の前下がり角度を検出した時点、もしくはそれから所定時間経過した時点の高さ位置を所定高さとし、下降方向では、整地フロート11がほぼ水平となった時点、あるいは整地フロート11の前端が接地して最大の前下がり角度が僅かに減少した時点の高さ位置を所定の高さ位置とする、というように、上昇行程と下降行程とで所定高さが異なる高さであるように設定してもよい。
[5] 人為操作具の非定常操作としては、実施形態で説明したように、定常操作と同じ操作を意識的に長く続ける、所謂「長押し」の操作に限らず、定常操作と同じ操作を所定時間内で2度、もしくは3度などの所定回数を繰り返し操作することで、非定常操作と認識できるようにしてもよい。
[6]マーカ20としては、マーカ輪体25を用いた回転式のものに限らず、棒状の線引きマーカでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】施肥装置付き乗用型田植機全体の側面図
【図2】マーカ及びマーカ操作機構の正面図
【図3】マーカ操作機構によるマーカの操作構造を示す正面図
【図4】マーカ操作機構部分の断面図
【図5】制御装置と関係する部位のブロック図
【図6】制御装置のメインルーチンを示すフロー図
【図7】リフトリンダ制御のフロー図
【図8】作業クラッチ制御のフロー図
【図9】マーカ制御のフロー図
【図10】マーカ制御のフロー図
【図11】マーカ制御のフロー図
【図12】別実施形態のマーカを示す正面図
【図13】別実施形態のマーカを示し、(イ)が正面図、(ロ)が側面図
【図14】別実施形態のマーカの正面視での姿勢変更動作を示す説明図
【図15】別実施形態のマーカの正面視での姿勢変更動作を示す説明図
【図16】別実施形態のマーカの正面視での姿勢変更動作を示す説明図
【図17】別実施形態の操縦部を示す斜視図
【符号の説明】
【0064】
5 リンク機構
8 リフトシリンダ
10 苗植付け装置(植播系作業装置)
11 整地フロート
13 フロートセンサ
20 マーカ
40 マーカ操作機構
42 電動モータ
52 作業クラッチ
53 作業クラッチ操作機構
54 制御装置
60a 作業指令手段
60b マーカ下降指令手段
61 操作レバー(人為操作具)
70 メインスイッチ
71 中立検出手段
76 走行用変速装置
78 マーカ記憶手段
79 クラッチ記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
播種または苗植付けを行う植播系作業装置を、走行機体に対して昇降操作自在に装備し、その植播系作業装置に、下降使用姿勢と上昇格納姿勢とに姿勢切り換え自在なマーカを備えた水田作業機であって、
前記植播系作業装置の高さ位置を判別する高さ位置判別手段を備えるとともに、
前記マーカの姿勢切り換えを電動モータの駆動で行うマーカ操作機構と、そのマーカ操作機構に対して前記電動モータの作動を制御する制御指令を出力する制御装置と、制御装置に対してマーカの姿勢切り換え指令を入力する人為操作具とを備え、
前記制御装置は、植播系作業装置が予め設定された所定高さ以上の高さ位置に存在する状態では、人為操作具によるマーカの下降使用姿勢側への姿勢切り換え指令をマーカ操作機構に伝えず、植播系作業装置が前記所定高さよりも低位に存在する状態では、人為操作具によるマーカ姿勢切り換え指令をマーカ操作機構に対して出力するように構成してある水田作業機。
【請求項2】
播種または苗植付けを行う植播系作業装置を、走行機体に対して昇降操作自在に装備し、その植播系作業装置に、下降使用姿勢と上昇格納姿勢とに姿勢切り換え自在なマーカを備えた水田作業機であって、
前記植播系作業装置の高さ位置を判別する高さ位置判別手段を備えるとともに、
前記マーカの姿勢切り換えを電動モータの駆動で行うマーカ操作機構と、そのマーカ操作機構に対して前記電動モータの作動を制御する制御指令を出力する制御装置と、制御装置に対してマーカの姿勢切り換え指令を入力する人為操作具とを備え、
前記制御装置は、植播系作業装置が予め設定された所定高さよりも低い高さ位置に存在している状態では、植播系作業装置の上昇に拘わらず前記制御装置からマーカ操作機構へのマーカ格納指令が出力されることを牽制し、
前記所定高さよりも高い位置に前記植播系作業装置が存在している状態では、前記制御装置からマーカ操作機構へのマーカ格納指令が出力されることを許容するように構成してある水田作業機。
【請求項3】
植播系作業装置の高さ位置を判別する高さ位置判別手段が、前記植播系作業装置の昇降作動に伴う泥面滑走用の接地フロートの姿勢変化を検出するフロートセンサによって構成されている請求項1または2記載の水田作業機。
【請求項4】
所定の非定常操作を行うことにより、定常操作時に牽制されていた制御装置からマーカ操作機構への制御指令を、牽制解除して伝達できるように構成してある請求項1、2、または3記載の水田作業機。
【請求項5】
人為操作具の非定常操作は、定常操作に比べて、より操作時間を長くした定常操作時と同じ操作である請求項4記載の水田作業機。
【請求項6】
人為操作具の操作によって、制御装置がマーカの姿勢変更指令と植播系作業装置における作業クラッチ操作指令とを出力可能に構成されているとともに、
所定の選択条件に基づいて、マーカの姿勢変更指令と植播系作業装置の作業クラッチ操作指令とのうちの何れか一方の指令のみを選択して制御装置から出力するように構成してある請求項5記載の水田作業機。
【請求項7】
人為操作具の非定常操作においては、マーカのみが操作される請求項6記載の水田作業機。
【請求項8】
マーカ操作機構中に過負荷緩衝部を設けた請求項1〜7のいずれか一項記載の水田作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−82447(P2007−82447A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273803(P2005−273803)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】