説明

水硬性組成物

【課題】 本発明は、コンクリート構造物の断面修復において、鏝塗り又は吹付けによる施工が可能で、特に鏝塗り作業性に優れた特性を有し、さらに施工後の硬化体が優れた物性、特に温冷繰り返し性能に優れた性状を有する、コンクリート構造物の断面修復用モルタルに用いることができる水硬性組成物を提供すること。
【解決手段】 セメント、細骨材及び軽量骨材より選ばれる骨材、繊維状鉱物、増粘剤、膨張材及びガラス転移温度−20℃〜0℃のエマルションとを含むことを特徴とする水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野の各種工事、特に断面修復用で、鏝塗りモルタル用又は吹付けモルタル用として用いられ、厚付施工が可能なモルタルに使用できる水硬性組成物、及びこの水硬性組成物と水とを配合して硬化させて得られる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にコンクリート断面修復材は、補修される構造物の材質の力学的性質にできる限り類似していることが望ましいことから、セメント系材料が好適であると考えられている。また、十分な接着強度を得るため、及び有害物質の浸入を防止するために、ポリマーディスパージョンや再乳化形粉末樹脂などのいわゆるポリマー混和剤を添加したポリマーセメント系のコンクリート断面修復材が用いられることが多い。
【0003】
特許文献1には、水硬性セメントと、該水硬性セメント100重量部に対して細骨材100〜400重量部およびモンモリロナイト族鉱物0.01〜10重量部とを含有してなることを特徴とするモルタル組成物が開示されている。
特許文献2には、高性能減水剤と、ベントナイト、金雲母、黒鉛、滑石、窒化ホウ素、ゼオライト、活性炭、石炭殻、ケイソウ土、パーライト、及びアタパルジャイトからなる群から選ばれた一種又は二種以上の無機物質、有機酸類及び無機塩類とからなるセメント混和材が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平08−217514号公報
【特許文献2】特開昭64−3040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、土木建築分野において、建造後数十年を経過して老朽化したコンクリート構造物が増加し、その維持補修工事が増加している。
コンクリート補修のひとつであるコンクリート断面の修復工事では、ポリマーセメント系の断面修復モルタルが用いられることが多く、その施工方法としては、鏝塗り施工や吹付け施工が一般的である。
【0006】
本発明は、コンクリート構造物の断面修復において、鏝塗り又は吹付けによる施工が可能で、特に鏝塗り作業性に優れた特性を有し、さらに施工後の硬化体が優れた物性、特に温冷繰り返し性能に優れた性状を有する、コンクリート構造物の断面修復用モルタルに用いることができる水硬性組成物を提供することを目的とした。
特に5〜40mmの厚付けが可能で、優れた鏝塗り作業性の優れたコンクリート構造物の断面修復用モルタルに用いることができる水硬性組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、セメント及び骨材に特定の繊維状鉱物、増粘剤、膨張材及びガラス転移温度−20℃〜0℃のエマルションなどを組合わせて用いることによって、5〜40mmの厚付けが可能で、優れた鏝塗り作業性が得られ、硬化体の性状についても良好な物性を有し、特に温冷繰り返し性能を安定して得られることを見出して本発明を完成した。
【0008】
本発明の第一は、セメント、細骨材及び軽量骨材より選ばれる骨材、繊維状鉱物、増粘剤、膨張材及びガラス転移温度−20℃〜0℃のエマルションとを含むことを特徴とする水硬性組成物である。
本発明の第ニは、本発明の第一の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタルである。
【0009】
以下に、本発明の第一の水硬性組成物の好ましい様態を示し、これらは複数組合わせることができる。
1)エマルションは、スチレン及び(メタ)アクリル酸誘導体より選ばれるモノマー成分より合成されるエマルションであること。
2)繊維状鉱物は、繊維状粘土鉱物を含むこと、さらにアタパルジャイトを含むこと。
3)細骨材は、寒水石を含むこと。
4)水硬性組成物が、さらに有機繊維、好ましくはビニロン繊維を含む有機繊維を含むこと。
5)セメントは、ポルトランドセメントを含むセメントであること。
6)鏝塗りモルタル又は吹付けモルタル、好ましくは5mm〜40mmの厚付けの鏝塗りモルタル又は吹付けモルタルに用いられること。
7)コンクリート構造物の断面修復用、好ましくは5mm〜40mmの厚付けのコンクリート構造物の断面修復用に用いられること。
8)骨材は、細骨材及び軽量骨材を含むこと。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水硬性組成物は、セメント、細骨材及び軽量骨材より選ばれる骨材、繊維状鉱物、増粘剤、膨張材及びガラス転移温度−20℃〜0℃のエマルションを含むものであり、土木建築分野のコンクリート構造物の断面修復において、鏝塗り又は吹付けによる施工が可能で、5〜40mmの厚付けが可能で、特に鏝塗り作業性に優れた特性を有し、さらに施工後の硬化体が、優れた物性、特に安定した温冷繰り返し性能を有する、コンクリート構造物の断面修復用モルタルに用いることができる水硬性組成物を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
セメントとしては、硬化発現材としての必須成分であり、代表的な例を挙げれば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント(ジェットセメント、スーパーセメント、SQセメント)などのポルトランドセメント、シリカセメント、高炉セメント、フライアッシュセメントなどの各種混合セメント、或いはアルミナセメント、膨張セメントなどの特殊セメントなどが使用でき、これらを単独で又は二種以上の混合物として使用することができる。
特にセメントとしては、セメント100重量%中に、ポルトランドセメントを好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上含むセメントを用いることが好ましい。
セメントは、水硬性組成物100重量%中に、好ましくは35〜70重量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0012】
骨材は、細骨材及び軽量骨材などから選ばれる少なくとも1種を用いること、さらに好ましくは細骨材及び軽量骨材から選ばれる成分を用いることが、作業性、流動性や硬化体強度発現性などのために好ましく、本発明の特性を損なわない範囲で粗骨材を用いることができる。
骨材は、粗骨材を含まない骨材を用いることにより、こて塗り用や吹き付け用として好ましく用いることができる。
骨材として、細骨材は、セメント100質量部に対し、好ましくは200質量部以下、さらに好ましくは5〜200質量部、より好ましくは10〜180質量部、特に好ましくは15〜170質量部、さらに特に好ましくは20〜160質量部配合することが好ましく、軽量骨材は、セメント100質量部に対し、好ましくは0〜20質量部、さらに好ましくは0〜18質量部、より好ましくは0〜17質量部、特に好ましくは0〜15質量部配合することが好ましい。
さらに骨材として、細骨材及び軽量骨材を併用して配合することが好ましく、セメント100質量部に対して、好ましくは0質量部を超えて200質量部以下、さらに好ましくは10〜180質量部、より好ましくは20〜160質量部、特に好ましくは30〜150質量部が、流動性や硬化体強度発現性などのために好ましい。
【0013】
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂及び砕砂などの砂類、シリカ粉、寒水石、石灰類などが挙げられ、一種又は二種以上の混合物として使用でき、2mm以下の径の珪砂、川砂、海砂、シリカ粉、寒水石、石灰類などを用いることが好ましい。
さらに、細骨材としては、珪砂(4号、5号、6号)、川砂、海砂、砕砂、山砂などの砂類、寒水石、炭酸カルシウムなどの石灰類などの2mm以下の径を用いることにより、こて塗り作業性や吹き付け性が向上するために好ましく用いることが出来る。
特に骨材として寒水石を用いることにより、粒度調整や得られる硬化体の表面の白色度を高くすることができる。
【0014】
軽量骨材としては、嵩比重が、好ましくは0.01〜0.7のもので、例えば、ポリスチレン、ポリウレタン、EVAなどの発泡樹脂粒子及びこの発泡樹脂粒子の減容物(発泡樹脂粒子を加熱及び/又は圧縮などの方法で、一部溶融などにより体積を減らしたもの)、パーライト、バーミュキライト、シラスバルーン、発泡ガラスなどを用いることでき、一種又は二種以上の混合物として使用できる。軽量骨材の粒度は、好ましくは粒径7mm以下の粒状物、特に粒径7mm以下のパーライトを用いることが好ましい。
特に骨材として粒径7mm以下のパーライトは、こて塗り作業性や吹き付け性が向上するために配合することが好ましい。
【0015】
骨材として、寒水石及びパーライトとを併用して用いることにより、こて塗り用や吹付け用として好適に用いることができる。
骨材として、砂類を含まず寒水石及びパーライトとを併用して用いることにより、軽量で、こて塗り用や吹付け用として好適に用いることができる。
【0016】
繊維状鉱物は、各種材料のフィラーとして用いられるワラストナイトや、セピオライト、アタパルジャイト(パリゴルスカイト)などの繊維状粘土鉱物などが挙げられ、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
特に繊維状鉱物として、セピオライト、アタパルジャイト、パリゴルスカイトなどの粘土鉱物を好ましく用いることができる。
特に本発明の水硬性組成物は、アタパルジャイトなどのホルマイト系粘土鉱物を用いることにより、こて送り、こて伸び、こて切れ、こて離れなどのこて塗り作業性や、吹き付け作業性をさらに向上させることができる。
繊維状鉱物の配合量は、セメント100重量部に対し、好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜4重量部、より好ましくは0.5〜3重量部、特に好ましくは1〜2質量部を含むことにより、こて送り、こて伸び、こて離れなどのこて塗り作業性や、吹き付け作業性をさらに向上させることができる。
【0017】
本発明の水硬性組成物は無機混和材を、本発明の特性を損なわない範囲で含むことができる。
無機混和材としては、骨材及びホルマイト系粘土鉱物を除く成分であり、高炉スラグ、フライアッシュなどのポゾラン成分、珪藻土、ベントナイト、雲母、ゼオライト、タルク、活性炭などが挙げられ、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0018】
増粘剤は、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系など、公知のものを用いることが出来、特にセルロース系などを用いることが出来る。
増粘剤は、モルタルの保水性向上のために、本発明の水硬性組成物に必須成分として配合されている。
増粘剤の配合量は、使用する目的に応じて適宜選択して用いることができ、好ましくはセメント100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部を含むことが好ましい。増粘剤の添加量が上記範囲より多くなると、流動性の低下を招く恐れがあり好ましくない。
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、セメントや骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、水硬性組成物としての特性を向上させるために好ましい。
【0019】
本発明の水硬性組成物は減水剤を、本発明の特性を損なわない範囲で含むことができる。
減水剤は、ナフタレン系、メラミン系、ポリカルボン酸系などの公知の減水剤を用いることが出来る。
【0020】
本発明の水硬性組成物のモルタルをコンクリート構造物の壁面などに鏝塗り施工する、あるいは吹付け施工する場合、硬化過程の体積変化が極めて小さいことが必要であるが、本発明では、膨張材を配合することにより、モルタルの硬化時に起こる体積変化を抑制することができる。
膨張材としては、カルシウムサルフォアルミネート系、石灰−石膏系及び石灰系などの膨張材の使用が好ましく、一種又は二種以上の混合物として使用できる。特に石灰−石膏系の膨張材を用いることが好ましい。
膨張材の配合量は、使用する目的に応じて配合量は適宜選択すればよいが、好ましくはセメント100質量部に対して、石灰−石膏系膨張材では、好ましくは2〜20質量部、さらに好ましくは3〜15質量部、より好ましくは3〜14質量部、特に4〜10質量部を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の水硬性組成物では、ガラス転移温度−20℃〜0℃のエマルション、好ましくはガラス転移温度−19℃〜−5℃のエマルション、さらに好ましくはガラス転移温度−18℃〜−8℃のエマルション、特に好ましくはガラス転移温度−17℃〜−10℃のエマルションを含むことにより、温冷繰り返し性能向上のために配合する。
エマルションとしては、(メタ)クリル酸誘導体、スチレンなどのビニル化合物などのモノマーより合成されるものを用いることができ、特にスチレン及びn−ブチルアクリレートなどの(メタ)クリル酸誘導体から選ばれる少なくとも1種以上のモノマー成分を主成分とし、例えばスチレン及びn−ブチルアクリレートなどの(メタ)クリル酸誘導体から選ばれる少なくとも1種以上のモノマー成分がエマルション中70質量%以上、さらに80質量%以上、特に90質量%以上含む成分より得られるエマルションを用いることが、温冷繰り返し性能向上のために好ましい。
エマルションとしては、樹脂エマルション及び樹脂粉末から選ばれるエマルションを用いることができる。樹脂粉末は、樹脂エマルションから水や溶媒など除去して得られるものである。
【0022】
(メタ)クリル酸誘導体は、アクリル酸誘導体及びメタクリル酸誘導体を示し、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、などである。
【0023】
エマルションは、(メタ)クリル酸誘導体やスチレン以外に、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ブタジエン、ブテンー1、アクリロニトリルなどのモノマー成分を1種以上用いることができる。
【0024】
エマルションは、公知の製造方法により得られるものを用いることができ、例えば、乳化剤の存在下に、重合開始剤を用いて、水又は含水溶媒中で合成樹脂の原料となる重合性モノマーを乳化重合する方法などにより製造することができる。
【0025】
乳化剤としては、公知のものを用いることができ、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性の界面活性剤やポリビニルアルコール等の保護コロイドなどを挙げることができる。
重合開始剤としては、水又は含水溶媒中でラジカル重合できるものが好ましく、過酸化水素、過酢酸、過硫酸又はこれらのアンモニウム塩や硫酸塩等の水溶性の過酸化物やその塩などを挙げることができる。また、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチルニトリルなどの有機過酸化物、メタ亜硫酸ナトリウムやピロ亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を併用することができる。
重合開始剤の使用量は、エマルションが製造できる範囲であれば適宜選択できる。
【0026】
エマルションは、水又は含水溶媒を含まない粉末状の合成樹脂粒子を含み、粉末状の合成樹脂粒子を用いると、水又は含水溶媒を除いた全成分を一つのパッケージとすることができ、施工現場では水を添加するだけで使用できるので便利である。
【0027】
エマルションは、水又は含水溶媒を含むものを使用する場合には、水硬性組成物単独で、或いはさらに水を加えて混練してモルタルを得ることができる。
【0028】
樹脂エマルション及び樹脂エマルションより液体成分を除去した樹脂粉末は、固形分として、セメント100質量部に対し、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは1〜15質量部、好ましくは3〜14質量部、特に好ましくは4〜13質量部配合することができる。
【0029】
本発明では、モルタルの保水性が向上し、特に床面に厚塗り施工するような場合に、ブリーディング水の発生を大幅に抑制することができるため、増粘剤を用いることが好ましい。
本発明に使用する増粘剤は、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などを用いることが出来、本発明の特性を損なわない範囲で一種又は二種以上を添加することができる。
本発明では、特にメチルセルロース系増粘剤を好適に用いることができる。
増粘剤の配合量は、使用する目的に応じて、本発明の特性を損なわない範囲で適宜選択して添加することができ、好ましくはセメント100質量部に対して、好ましくは0.001〜1質量部、さらに好ましくは0.005〜0.5質量部、特に0.01〜0.3質量部を含むことが好ましい。増粘剤の添加量が上記範囲より多くなると、流動性の低下を招く恐れがあり好ましくない。
【0030】
有機繊維は、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルなどの樹脂成分からなる繊維などを用いることが出来、これらは一種又は二種以上の混合物として使用できる。
有機繊維は、建材用を用いることが好ましく、好ましくは直径が0.005〜1mm、好ましくは0.01〜0.8mm、繊維長が2〜20mm、好ましくは3〜15mmの物を用いることが好ましい。
本発明の水硬性組成物において、有機繊維は、クラック防止、こて塗り作業性向上のために配合することが好ましく、セメント100重量部に対し、好ましくは0.01〜2重量部、さらに好ましくは0.03〜1.5重量部、より好ましくは0.05〜1.0重量部、特に好ましくは0.08〜0.8質量部含むことが好ましい。
【0031】
本発明では、本発明の特性を損なわない範囲で消泡剤を含むことができる。
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質、鉱油系物質など、公知のものを用いることが出来る。
【0032】
本発明では、本発明の特性を損なわない範囲で発泡剤を含むことができる。
発泡剤としては、酸化膨張機構による膨張効果を利用する金属粉の使用が好ましく、例えば、アルミニウム粉、鉄粉等が使用できるが、比重の面から、アルミニウム粉の使用が特に好ましい。
発泡剤の添加量は、用いるセメント又は水硬性組成物により本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。
【0033】
本発明の水硬性組成物は、水の配合量を適宜調整することにより、流動性、保水量、鏝塗り作業性などを調整することができ、鏝塗り用や吹き付け用のモルタルの性状を好適に調整できる。
水の添加量は、水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは5〜80質量部、さらに好ましくは6〜70質量部、より好ましく7〜60質量部、特に好ましくは8〜50質量部を加えて用いることが好ましい。
【0034】
本発明の水硬性組成物は、水と混練して、モルタルフロー値が、好ましくは120〜200mm、さらに好ましくは140〜190mm以上、特に好ましくは150〜180mmのモルタルを得ることが出来る。
【0035】
本発明の水硬性組成物は、セメント、細骨材及び軽量骨材より選ばれる骨材、繊維状鉱物、増粘剤、膨張材及びガラス転移温度−20℃〜0℃のエマルションとを含むものであり、
さらに好ましくはセメント、細骨材及び軽量骨材より選ばれる骨材、繊維状鉱物、増粘剤、膨張材、有機繊維及びガラス転移温度−20℃〜0℃のエマルションとを含むものであり、
好ましくはセメント100質量部に対して、細骨材及び軽量骨材より選ばれる骨材0質量部を超えて200質量部以下、繊維状鉱物0.05〜5重量部、増粘剤0.001〜2質量部、膨張材2〜20質量部及びガラス転移温度−20℃〜0℃のエマルション0.1〜20質量部と、さらに必要に応じて有機繊維0.01〜2重量部とを含むものであり、
土木建築分野のコンクリート構造物の断面修復において、鏝塗り又は吹付けによる施工が可能で、5〜40mmの厚付けが可能で、特に鏝塗り作業性に優れた特性を有し、さらに施工後の硬化体が、寸法安定性及び圧縮強度に優れた性状を有する、コンクリート構造物の断面修復用モルタルに用いることができる水硬性組成物を提供するものである。
【0036】
本発明の水硬性組成物は、左官、屋根材、床材、壁材、防水材などのこて塗り用や吹き付け用のモルタル、土木構造物の補修や補強に用いる断面修復材やグラウト材などとして、土木、建築、建設分野に使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0038】
(こて塗り作業性の評価)
モルタルをステンレス鏝でラスカット面に約3〜20mmの厚みで塗り付け、こて塗り作業時のモルタルの送り、伸び、切れ、離れ及び塗着性の5項目について評価を行う。
1)送り(重さ)の評価:◎:大変良好、○:良好、△:やや不良、×:不良の4段階で行う。
2)伸び(塗り面積)の評価:◎:大変良好、○:良好、△:やや不良、×:不良の4段階で行う。
3)切れ(鏝残り)の評価:
(◎:大変良好、○:良好、△:やや不良、×:不良の4段階で行う。)
4)離れ(ベタツキ)の評価:◎:大変良好、○:良好、△:やや不良、×:不良の4段階で行う。
5)塗着性(壁面への付きやすさ、厚付け性能)の評価:◎:大変良好、○:良好、△:やや不良、×:不良の4段階で行う。
【0039】
(モルタルの評価)
・フロー値: JIS R・5201に準拠して測定する。練り混ぜたモルタルを、乾燥した布でよくぬぐったフローテーブル上の中央の位置に正しく置いたフローコーンに2層に詰める。各層は突き棒の先端がその層の約1/2の深さまで入るよう、全面にわたって各々15回突き、最後に不足分を補い表面をならす。直ちにフローコーンを正しく上の方に取り去り、15秒間に15回の落下運動を与え、モルタルが広がった後の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで測定し、その平均値をmmを単位とする無名数の整数で表す。試験は2回行い、その平均値をフローとする。
評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
【0040】
(モルタル硬化物の評価)
・混練したモルタルを硬化させ、硬化体物性を測定した。
・曲げ強度及び圧縮強度:JIS・R5201に基づき、成型、養生、強度試験を行なった。
・長さ変化試験:JIS・A6916に基づき、成型、養生、長さ変化試験を行なった。
・温冷繰返し後の評価: JIS・A6916に基づき、成型、養生、温冷繰返し後の評価を行なった。
評価は、下地基板破壊或いはモルタル材破:○、下地基板とモルタル界面の破断×、とした。
【0041】
原料は以下のものを使用した。
1)セメント : ポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、ブレーン比表面積3300cm/g、宇部興産社製)。
2)細骨材 :
・5号珪砂: SS5A珪砂(宇部サンド工業社製)。
・6号珪砂: S6珪砂(宇部サンド工業社製)。
・寒水石 : KG60(日本カルシウム社製)。
・軽量骨材:パーライトTM3(東邦パーライト社製)。
3)繊維状鉱物 : アタパルジャイト(ホルマイト系粘土鉱物)、APJ、粒径:74μm以下が95%(ユニオン化成社製)。
4)膨張材 : 石灰−石膏系膨張材、商品名;太平洋ジプカル(太平洋セメント社製)。
5)増粘剤 : メチルセルロース系増粘剤、ZT6000(松本油脂社製)。
6)有機繊維 : ビニロン短繊維、繊維長6mm(クラレ社製、商品名:FV6)。
8)ろう石 :葉ろう石(埼玉礦業社製)。
【0042】
(製造例1:エマルションEV1の製造:)
予め、容器にイオン交換水450部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(花王社製、ラテムルPD−430)50部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(花王社製、ラテムルPD−104)60部、スチレン360部、n−ブチルアクリレート840部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート35部、メタクリル酸50部を秤量し、単量体乳化混合液を調整した。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えた3Lの反応容器に、イオン交換水600部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(花王社製、ラテムルPD−430)10部を仕込み、窒素ガスで置換し、攪拌しながら内温が84℃になるまで加温した。先に調整した単量体乳化混合液を全体の2.0重量%を量り取り、反応容器に添加した。5分後、2.5%水溶性の過硫酸塩35部を添加して、初期重合を行った。同温で、残りの単量体乳化混合液と2.5%水溶性の過硫酸塩110部とを同時に滴下しながら、4時間重合反応を行った。滴下終了後、さらに1時間、84℃を保ったまま、攪拌を持続させた。その後、70℃まで温度を下げ、有機過酸化物と還元剤を用いて、未反応モノマーの重合を完結させた。その後、室温まで下げ、消泡剤、防腐剤を添加し、5%水酸化ナトリウム水溶液、イオン交換水でpH、不揮発分を調整し、アクリル系のエマルションEV1を得た。
エマルションEV1は、スチレン約27重量%、n−ブチルアクリレート約62重量%から得られる、ガラス転移温度が−21℃である。
【0043】
(製造例2:エマルションEV2の製造:)
予め、容器にイオン交換水450部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(花王社製、ラテムルPD−430)50部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(花王社製、ラテムルPD−104)60部、スチレン430部、n−ブチルアクリレート770部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート35部、メタクリル酸50部を秤量し、単量体乳化混合液を調整した。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えた3Lの反応容器に、イオン交換水600部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(花王社製、ラテムルPD−430)10部を仕込み、窒素ガスで置換し、攪拌しながら内温が84℃になるまで加温した。先に調整した単量体乳化混合液を全体の2.0重量%を量り取り、反応容器に添加した。5分後、2.5%水溶性の過硫酸塩35部を添加して、初期重合を行った。同温で、残りの単量体乳化混合液と2.5%水溶性の過硫酸塩110部とを同時に滴下しながら、4時間重合反応を行った。滴下終了後、さらに1時間、84℃を保ったまま、攪拌を持続させた。その後、70℃まで温度を下げ、有機過酸化物と還元剤を用いて、未反応モノマーの重合を完結させた。その後、室温まで下げ、消泡剤、防腐剤を添加し、5%水酸化ナトリウム水溶液でpHを調整した。その後、造膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3ペンタンジオールジイソブチレート(チッソ社製、CS−16)24部、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル(ダウ・ケミカル日本社製、TPnB)12部を添加し、イオン交換水で不揮発分を調整し、アクリル系のエマルションEV2を得た。
エマルションEV2は、スチレン約32重量%、n−ブチルアクリレート約57重量%から得られる、ガラス転移温度が−16℃である。
【0044】
(製造例3:エマルションEV3の製造:)
予め、容器にイオン交換水450部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(花王社製、ラテムルPD−430)50部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(花王社製、ラテムルPD−104)60部、スチレン505部、n−ブチルアクリレート695部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート35部、メタクリル酸50部を秤量し、単量体乳化混合液を調整した。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えた3Lの反応容器に、イオン交換水600部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(花王社製、ラテムルPD−430)10部を仕込み、窒素ガスで置換し、攪拌しながら内温が84℃になるまで加温した。先に調整した単量体乳化混合液を全体の2.0重量%を量り取り、反応容器に添加した。5分後、2.5%水溶性の過硫酸塩35部を添加して、初期重合を行った。同温で、残りの単量体乳化混合液と2.5%水溶性の過硫酸塩110部とを同時に滴下しながら、4時間重合反応を行った。滴下終了後、さらに1時間、84℃を保ったまま、攪拌を持続させた。その後、70℃まで温度を下げ、有機過酸化物と還元剤を用いて、未反応モノマーの重合を完結させた。その後、室温まで下げ、消泡剤、防腐剤を添加し、5%水酸化ナトリウム水溶液でpHを調整した。その後、造膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3ペンタンジオールジイソブチレート(チッソ社製、CS−16)50部、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル(ダウ・ケミカル日本社製、TPnB)25部を添加し、イオン交換水で不揮発分を調整し、アクリル系のエマルションEV3を得た。
エマルションEV3は、スチレン約37重量%、n−ブチルアクリレート約52重量%から得られる、ガラス転移温度が−14℃である。
【0045】
(製造例4:エマルションEV4の製造:)
予め、容器にイオン交換水450部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(花王社製、ラテムルPD−430)50部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(花王社製、ラテムルPD−104)60部、スチレン575部、n−ブチルアクリレート625部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート35部、メタクリル酸50部を秤量し、単量体乳化混合液を調整した。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えた3Lの反応容器に、イオン交換水600部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(花王社製、ラテムルPD−430)10部を仕込み、窒素ガスで置換し、攪拌しながら内温が84℃になるまで加温した。先に調整した単量体乳化混合液を全体の2.0重量%を量り取り、反応容器に添加した。5分後、2.5%水溶性の過硫酸塩35部を添加して、初期重合を行った。同温で、残りの単量体乳化混合液と2.5%水溶性の過硫酸塩110部とを同時に滴下しながら、4時間重合反応を行った。滴下終了後、さらに1時間、84℃を保ったまま、攪拌を持続させた。その後、70℃まで温度を下げ、有機過酸化物と還元剤を用いて、未反応モノマーの重合を完結させた。その後、室温まで下げ、消泡剤、防腐剤を添加し、5%水酸化ナトリウム水溶液でpHを調整した。その後、造膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3ペンタンジオールジイソブチレート(チッソ社製、CS−16)86部、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル(ダウ・ケミカル日本社製、TPnB)43部を添加し、イオン交換水で不揮発分を調整し、アクリル系のエマルションEV4を得た。
エマルションEV4は、スチレン約42重量%、n−ブチルアクリレート約47重量%から得られる、ガラス転移温度が−12℃である。
【0046】
エマルションのガラス転移温度の測定法: ガラス板上にアクリル系樹脂エマルションを適量滴下し、60℃で16時間乾燥し、得られた質量が9.5〜10.5mgの範囲に入った乾燥塗膜を、示差走査熱量計(島津製作所社製、DSC−50)を用い、ガラス転移温度を測定した。
DSCの測定条件は、室温から150℃に10℃/分で昇温し、150℃を10分間保持した後に計算で得られた試料のTgより50℃低い温度まで下げ、再度150℃まで10℃/分で昇温するさいに、1回目のTgの測定を行う。次に1回目で測定したTgより50℃低い温度まで下げるさいに、2回目のTgの測定を行い、2回目のTgの値をガラス転移温度とした。
【0047】
[実施例1〜5及び比較例1、2]
相対湿度65%の条件下、温度20℃で、表1に示す成分をホバートミキサーを用いて低速で3分間混練して調製したモルタルについて、鏝塗り作業性(コテ作業性、付着性、厚塗り性)、モリタルの硬化物の長さ変化、圧縮強度、温冷繰返し後の評価などを評価・測定した。結果を表1、表3及び表4に示す。
エマルションは、表2のものを使用した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、細骨材及び軽量骨材より選ばれる骨材、繊維状鉱物、増粘剤、膨張材及びガラス転移温度−20℃〜0℃のエマルションとを含むことを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
エマルションは、スチレン及び(メタ)アクリル酸誘導体より選ばれるモノマー成分より合成されるエマルションであることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
繊維状鉱物は、アタパルジャイトを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
細骨材は、寒水石を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
セメントは、ポルトランドセメントを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
水硬性組成物が、さらに有機繊維を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
有機繊維が、ビニロン繊維を含むことを特徴とする請求項6に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
鏝塗りモルタル又は吹付けモルタルに用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項9】
コンクリート構造物の断面修復用であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項10】
コンクリート構造物の断面修復において、5mm〜40mmの厚付けモルタルに用いられることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練して得られる水硬性モルタル。



【公開番号】特開2008−13384(P2008−13384A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184195(P2006−184195)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】