説明

水系におけるマンガン析出を阻害するためのセリウム塩の使用

【課題】 水性系におけるマンガン析出をコントロールする方法であって、セリウム含有組成物、および場合により別のデポジットコントロール物質、を水性系に導入することを含む方法を記載する。また、水処理適用において一般に使用されるポリマー性分散剤およびホスホン酸のマンガン安定化能を促進するセリウム含有組成物を記載する。また、デポジットコントロール物質の酸化による分解を阻害することができるセリウム含有組成物を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年9月22日提出の先行米国仮特許出願第60/504,855号についての35U.S.C.§119(e)の下の権利を主張する。この先行文献は、参照によりその開示内容全体が本明細書中に包含される。
【0002】
本発明は、水性系におけるマンガン析出による汚染を最小にするのに有用な特定の組成物および方法に関する。さらに具体的には、本発明は、酸化されないようにマンガンを安定化するのに適したデポジットコントロール物質(剤)および化学的水処理に関する。
【背景技術】
【0003】
パイプラインおよび上水道でのマンガン析出による汚染はかねてからの懸念であり、今日も給水に影響を与え続けている。冷却水回路でのマンガン析出は、耐食性を低下させ、熱交換率を低下させ、殺生物能を減少させる。マンガン析出の有害な影響により、燃料消費が増加し、清浄化回数およびその程度が増加し、化学的処理のコストが高くなり、場合によっては部品交換のための多大な資本コストがかかり、電力産業に多大なコストが課される。冷却水回路に加えて、種々の他の水性系、例えば飲料水分配システム、汚水処理プラント、スイミングプール、ランドリー、ビン詰めプラント、空気洗浄装置、および洗車装置においてマンガン析出が生じる可能性がある。問題は、パイプおよびノズルの腐食および閉塞から、染色、変色、および風味の劣化におよぶ。マンガン析出から形成される付着性の、ザラザラしていることが多い沈着物は、熱伝達に悪影響を与え、磨損を引き起こし、ポンプ効率を減少させ得る。マンガン沈着物を除去するには、積極的な改善技術、例えば酸浸出および機械的クリーニングが必要であることが多い。
【0004】
水系において、マンガンは、マンガン沈着物とその下にある金属表面間の流電結合(galvanic coupling)に起因する電気化学的影響の組み合わせにより、孔食およびすき間腐食を促進する。ガルバニック作用の影響は、金属腐食電位を正すなわち貴方向へ移行させることであり、これは不動態皮膜破壊および局部腐食を助長する。この影響はステンレス鋼に関して最も深刻であるが、黄銅および他の銅合金でも生じる。ステンレス鋼または銅合金腐食がマンガン析出に関係付けられている米国の地域には、Northern Virginia、Ohio River Valley、central Maine、eastern Nebraska、South Carolina、およびGulf Coast地域が含まれる。
【0005】
マンガン汚染に対する懸念は、典型的に、カルシウム、シリカ、または鉄に関する懸念より少ない。その原因は、大多数の市販および住宅用供給水中のマンガンのレベルは低く、あるいは検出不可能であることが多いためである。しかしながら、多くの地表および地下水は重大な汚染脅威を引き起こすマンガンレベルを有する。このような水によって提供される系においては、マンガン析出の腐食および他の有害な影響により、設備修復および交換の費用を生じ得る。該費用は、もっと一般的な無機スケーラント(mineral scalants)に関連するコストを大きく超えるものである。
【0006】
有酸素(oxic)、中性〜アルカリ性水中のマンガンの析出は、可溶性2価マンガンが酸化されて水不溶性のマンガンの酸化物およびオキシ水酸化物になることに起因する。この不溶性の、多価マンガン化合物は、単純に二酸化マンガンまたはMnOとしておおまかに分類され、言及される。MnOは、マンガン含有水がハロゲン、オゾン、または水系において消毒目的で一般に使用される他の化学酸化剤に曝露された場合に生成し得る。あるいはMnOは、世界中の地表および地下水中で天然に生育する広範囲の微生物によって生産され得る。微生物の反応は非常に効率的な様式でマンガンを除去し、20ppbほどの少量の溶解マンガンを含有する水から、数日ほどの短期間うちに、観察可能なMnO沈着物を析出させることが可能である。
【0007】
マンガン析出をコントロールする方法は、1)マンガン除去または2)マンガン安定化のいずれかに分類することができる。典型的には、化学的酸化、次いでろ過によって供給水から溶解マンガンを除去する。酸化/ろ過アプローチでは、過マンガン酸塩、二酸化塩素、塩素、オゾンまたは他の酸化剤を使用して可溶性マンガンを不溶性MnOに変換し、次いで固形物質を沈殿させ、あるいはろ過する。化学的酸化は、水系において、鉄およびマンガンの両者を除去し、ならびに有機炭素レベルを低下させ、ハロゲン要求を減少させるのに非常に有効である。しかし、攻撃的酸化剤が残存する危険と併せて、高い資本コストおよび操業コストにより、これらのアプローチは多数の適用に関して実施不可能である。鉄の除去に一般に使用される噴水池および通気槽は、マンガンの除去には有効でない。その原因は、マンガン空気酸化の反応速度が鉄よりずっと低速であるからである。
【0008】
一方、マンガン安定化は、化学物質を使用してMnO粒子の形成および成長を妨害することによって達成される。飲料水システムにおいて、この目的でポリリン酸塩を使用することが十分に確立されている。マンガンポリリン酸塩複合体の形成により析出が阻害される。境界阻害剤(Threshold inhibitors)、例えばホスホン酸誘導体を使用して微粒子MnOをコロイド状の非常に容易に分散する状態で維持する。これは、該阻害剤が粒子表面の活性部位にカップリングし、該部位での成長を防止することに基づく。併せて、ポリマー性分散剤(例えばポリアクリラートおよび多官能性のコポリマー)を使用し、コロイド性のMnOを分散させ、その凝集および沈殿を防止する。
【0009】
ハロゲン化およびアルカリ性pHは、境界阻害剤/ポリマーによる安定化技術の有効性を低下させる。この低下は、マンガン酸化の割合を増加させ、またハロゲンの場合には、阻害剤および分散剤分子を直接分解することに基づく。また処理の有効性は、高レベルの硬度、沈泥、鉄、または、境界阻害剤および分散剤の両者に関して競合する他の懸濁固形物が存在すると減少する。さらに、ホスホナート/ポリマーによる処理のみによって提供されるマンガン析出コントロールのレベルには上限があり、この上限を超えて、ホスホナート/ポリマーの用量または濃度を増加させても、マンガンコントロールは増加しない。有効性の上限は、比較的総量が多いマンガンを含み、ならびに/あるいは高濃縮サイクルで操業する水系において特に問題である。
【0010】
Mn(II)と塩素の反応は、成長中のMnO表面にMn(II)を吸着させることによって促進可能である。該MnO表面は追加の酸化に関する触媒として作用する。この「自己触媒」作用により、マンガン除去システムの効率は向上する;しかし、ハロゲンによって酸化されないように溶解マンガンを安定化する試みには悪影響を与える。微量の溶解マンガンの微生物学的酸化によって表面で生成したMnOは、追加の化学的MnO析出の「シード(種)になる(seeds)」活性物質として働く。シーディングにより、さもなければ化学的マンガン酸化を支持しないであろう条件下で、MnO析出が生じ得る。したがって化学的水処理の目的は、ハロゲンによって酸化されないようにマンガンを安定化し、マンガンの化学的析出の危険を冒すことなく、酸化剤を使用して微生物の生育を阻害することができるようにすることである。
【0011】
マンガンの挙動とセリウムの挙動の間には相関が存在するかもしれない。例えば、海水中のマンガンの酸化はセリウムが存在することによって阻害されるかもしれない。この観察記録は天然の酸化プロセスによる二酸化マンガンの形成に関するものである。またセリウムは、有毒なクロム化合物に取って代わる好ましい腐食阻害剤候補として重要な腐食研究の焦点になっている。いずれも化学的酸化に起因するマンガン析出の阻害には関連しない。金属イオン、例えば第二セリウムイオン(ceric ions)(すなわち+4酸化状態のセリウム)を有するホスホン酸誘導体を水性系の腐食阻害およびスケールコントロールに使用することができるが、この場合、マンガンのコントロールを具体的に挙げておらず、さらに、酸化用化学物質によってマンガンが酸化されないように保護するためのセリウムの使用を教示していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、ハロゲン化合物によるマンガンの化学的酸化をコントロールする必要性が存在する。該ハロゲン化合物は水性系における微生物のコントロールおよび公衆衛生のために一般に適用されるものである。また、広く使用されるデポジットコントロール物質によって従来提供されているマンガン析出コントロールのレベルを向上させる必要性が存在する。さらに、塩素および他のハロゲン化合物への曝露から発生する、有機添加物、例えばポリマーおよびホスホナート添加物の分解をコントロールする必要性が存在する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の要旨
したがって本発明の特徴は、マンガンを化学的酸化に対して安定化するのに適したセリウム含有組成物を提供することである。
【0014】
本発明の別の特徴は、マンガン析出のコントロールにおいてデポジットコントロール物質の有効性を増加させるのに適したセリウム含有組成物を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の特徴は、塩素安定化を提供するのに適したセリウム含有組成物を提供することである。
【0016】
本発明の追加の特徴および利点は、以下の説明中に部分的に記載され、また部分的にはその説明から自明であり、あるいは本発明の実施によって習得されるであろう。本発明の目的および他の利点は、この説明および添付の特許請求の範囲において特に指摘される要素および組み合わせによって実現および達成される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの利点および他の利点を達成するために、そして本明細書中で具体化され、広く記載される本発明の目的にしたがって、本発明は、マンガンを含有する水性系においてマンガン析出をコントロールする方法であって、一般に、有効量の少なくとも1種のセリウム含有製剤を水性系に導入することを含む方法に関する。場合により本方法は、セリウム含有製剤に加えて、水性系において少なくとも1種のデポジットコントロール物質を使用することを含む。
【0018】
さらに本発明は、セリウム(III)を含むセリウム含有組成物に関する。
【0019】
前記一般的説明および以下の詳細な説明はともに、単に例示的かつ説明的であり、特許請求されている本発明の追加の説明を提供するためのものであることが理解されよう。
【0020】
本出願に包含され、本出願の部分を構成する添付の図面は、本発明のいくつかの実施態様を図解し、また本説明とともに、本発明の原理を説明するためのものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の詳細な説明
本発明にしたがって、マンガンを含有する水性系におけるマンガン析出をコントロールする方法には、有効量の少なくとも1種のセリウム含有組成物を水性系に導入することが含まれる。場合により本方法には、セリウム含有組成物に加えて、水性系において少なくとも1種のデポジットコントロール物質を使用することが含まれる。
【0022】
マンガン析出を「コントロールする」(すなわち、防止(preventing)または阻止(retarding)または最小化(minimizing)または低減(reducing)(減少させる)する)ことによって、不溶性マンガン粒子が成長しないようにマンガンが安定化されることが理解されよう。換言すれば、二酸化マンガン(MnO)粒子の形成および/または成長が阻害され、あるいはその速度が低下する。MnOの成長のコントロールには、可溶性2価マンガンが化学的および/または微生物学的に酸化されて水不溶性のマンガンの酸化物およびオキシ水酸化物になることを防止することが含まれ得る。化学的酸化は、マンガン含有水が化学物質、例えばハロゲン、オゾン、または水の消毒に一般に使用される他の酸化剤に曝露された場合に生じ得る;一方、微生物学的酸化は、広範囲の天然に存在する微生物が地表および地下水中に存在することに起因し得る。また、マンガン析出のコントロールには、既知のデポジッションコントロール物質、例えばポリマー性分散剤およびホスホン酸阻害剤のマンガン安定化作業能力の改善が含まれ得ることが理解されよう。さらにまた、マンガン析出のコントロールには、水処理適用において広く使用されるポリマー性分散剤およびホスホン酸化合物についての酸化による分解の阻害が含まれ得ることが理解されよう。ゆえに、本発明の組成物が使用される対象の水性系におけるマンガン析出のコントロールとは、概して、マンガン析出に起因する任意の望ましくない影響の緩和を意味し得る。
【0023】
セリウム含有組成物は、セリウム(III)または第一セリウム塩(cerous salts)として適用することができる。該塩は無機または有機のアニオンと形成されたものである。無機セリウム化合物の例には、非限定的に、硝酸第一セリウム(cerous nitrate)、塩化第一セリウム(cerous chloride)、臭化第一セリウム(cerous bromide)、ヨウ化第一セリウム(cerous iodide)、硫酸第一セリウム(cerous sulfate)、炭酸第一セリウム(cerous carbonate)、硝酸アンモニウム第一セリウム(cerous ammonium nitrate)、およびリン酸第一セリウム(cerous phosphate)が含まれる。有機セリウム化合物の例には、非限定的に、酢酸第一セリウム(cerous acetate)、クエン酸第一セリウム(cerous citrate)、シュウ酸第一セリウム(cerous oxalate)、安息香酸第一セリウム(cerous benzoate)、オクタン酸第一セリウム(cerous octoate)、ホスホン酸第一セリウム(cerous phosphonates)、およびセリウムのカルボン酸塩、例えばポリマー性カルボン酸、例えばポリアクリル酸第一セリウム(cerous polyacrylate)、ポリマレイン酸第一セリウム(cerous polymaleate)、ポリスルホン酸第一セリウム(cerous polysulfonates)、ホスフィノカルボン酸第一セリウム(cerous phosphinocarboxylates)および混合ポリマー、例えばカルボン酸、ホスホン酸、およびスルホン酸官能性のコポリマーおよびターポリマーが含まれる。上記コポリマーの例には、非限定的に、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびアクリル酸/ナトリウム−3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホナートコポリマーが含まれる。ターポリマーの例には、非限定的に、無水マレイン酸/エチルアクリラート/ビニルアクリラート、アクリル酸/スルホン酸/アクリルアミド、およびスルホン化ホスホノカルボン酸(sulfonated phospohonocarboxylic acids)が含まれる。
【0024】
マンガン析出を阻害、コントロール、または最小化するのに有効な任意の量を使用することができる。少なくとも1種のセリウム含有組成物の有効量の例は、処理対象の系において約0.01〜約100ppm、好ましくは約0.1〜約10ppm、最も好ましくは約0.1〜約2ppmである。
【0025】
本発明の一実施態様では、セリウム含有組成物は、インサイチュまたはエクストラサイチュでセリウム(IV)または第二セリウム化合物を化学的または電気化学的に還元することによって作成することができる;該化合物には、非限定的に、第一セリウム塩に関して上記に記載されるタイプの無機または有機のアニオンおよびポリマー化合物が含まれ得る。
【0026】
本発明のセリウム含有組成物は、単独で、あるいは分散性、解こう性、または金属イオン封鎖性ポリマー、および/または結晶修飾物質、境界阻害物質、またはキレート物質とともに使用することができる。該ポリマーおよび/または物質は、当技術分野において「デポジットコントロール物質(剤)」(DCA)として既知のクラスの化合物を包括的に含む。表1は、本発明の実施に使用することができる代表的なDCAのリストを提供する。種々のクラスのモノマーを組み合わせて、コポリマー、ターポリマー、および高次のポリマー化合物を形成させてよく、したがって、表1の例は例示的であり、本発明のセリウム含有組成物と組み合わせて使用することができるDCAの種類を限定することを意図しないことが認識される。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明のセリウム含有組成物を少なくとも1種のDCAとともに使用する場合、セリウム含有組成物およびDCAは、100:1〜0.01:1000、好ましくは約0.01:10〜、より好ましくは0.1:1の範囲の重量比で水性系に存在させることができる。1種以上のDCAをセリウム含有組成物とともに使用することができ、この場合、セリウム含有組成物、DCA、およびDCAは、100:1:1〜0.01:1000:1000、好ましくは約0.01:10:10〜、より好ましくは0.1:1:1の範囲の重量比で水性系に存在させることができる。一実施態様では、セリウム含有組成物およびポリマーベースのデポジットコントロール物質は100:1〜0.01:1000の範囲の重量比で水性系に存在する。別の実施態様では、セリウム含有組成物およびホスホナートベースのデポジットコントロール物質は100:01〜0.01:1000の範囲の重量比で水性系に存在する。好ましい実施態様では、セリウム含有組成物、ホスホナートベースのデポジットコントロール物質、およびポリマーベースのデポジットコントロール物質は約1:4:10の重量比で水性系に存在する。
【0029】
表2〜4では、少なくとも1種のDCAおよび本発明のセリウム含有組成物を含む典型的な製剤を記載する。他の量および他の組み合わせを使用することもできる。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
表2〜4の製剤は、好ましくは、約1〜約1000ppm、より好ましくは約10〜約1000ppm、最も好ましくは約10〜約100ppmの量で水性系に存在する。他の濃度を使用することもできる。
【0034】
セリウム含有組成物の使用により、マンガン汚染のせいで露出面が、腐食、流動の減少、流動の喪失、閉塞、塞栓、磨損、センサー劣化、または染色(汚染)を被るであろう任意の水性系においてマンガン析出をコントロールすることができる。水性系は任意の水含有系、例えば、非限定的に、冷却水システム、加湿装置、飲料水システム、汚水処理システム、製紙用水システム、水泳用設備、洗浄システム、家畜用灌水設備、噴水装置(fountain)、空気洗浄装置、池、洗車装置、ビン詰め設備、洗濯システム、娯楽用水システム、ろ過システム、逆浸透システム、または脱塩設備であり得る。また水性系は、水を微細なミストに分配するためのノズルを含む任意のシステム、例えば湿潤装置(dampeners)、例えば、エアロゾルミストを妨害し、空気洗浄システムにおける残存汚染を防止する排除装置の羽根(eliminator blades)であり得る。システムのノズル、スクリーン、フィルター、弁、および湿潤装置は、特に、無機沈着物による汚染の対象である。上記システムは、典型的に、水を排出し、あるいはろ過および再使用のために水を捕獲する。セリウム含有組成物を上記システムに適用すると、マンガン酸化の速度を低下させることができ、ノズルおよび/または、水流が減少し/制限される他の領域でのマンガン析出を減少させ、あるいは排除することができる。
【0035】
セリウム含有組成物は、任意の他の水処理用化学物質、例えば固体、液体、または気体として、供給装置、注入、注射、溶解、撹拌、吸引、排出、等を使用して水系に導入することができる。導入は、バッチ処理、連続処理、半連続処理、またはその組み合わせに基づく導入であり得る。本発明のセリウム含有組成物を少なくとも1種の他のDCAとともに使用する場合、セリウム含有組成物は、1種またはそれ以上のDCAと併せて、連続的に、混合物として、ならびに/あるいは1種またはそれ以上のDCAがすでに存在している水性系に加えて、水性系に導入することができる。さらにまた、水性系には、他の組成物または物質、例えば、非限定的に、着色剤、色素、充填剤、ビルダー(builders)、金属イオン封鎖剤、香料、バッファー、酸化防止剤、界面活性剤、およびキレート剤(chelants)、ならびに洗濯用洗浄剤および洗濯助剤の一般的な成分を存在させることができることが認識される。単に説明のために、冷却水システムへのセリウム含有組成物の導入を詳細に考察する。他の水性系へのセリウム含有組成物の適用は、当技術分野において既知の水処理を実施する同様の技術または異なる技術によって達成することができる。
【0036】
冷却水システムでは、マンガンを含有する補給水が循環システムに導入され得る。該循環システムでは、マンガンが沈殿し、システム表面を汚染する可能性があり、これにより、腐食、熱交換率の損失、流速の減少、閉塞、塞栓、染色、ポンプ損傷、センサー性能の低下、化学的処理能の減少、および他の有害な影響の危険性が増加する。循環冷却水システムは、管、パイプ、槽(basins)、ポンプ、熱交換装置、弁、マニフォールド、センサー、および、マンガン汚染の結果、損傷または性能低下を被る可能性がある他の水工学的(hydraulic)部品を含み得る。水工学的部品に加えて、開放再循環冷却水システムでは、冷却塔、噴水池、冷却池、または、水の蒸発によって熱を放出する他の開放貯水槽を利用し得る。開放再循環システムでは、ファン、スプレーノズル、分配路、ドリフト排除装置(drift eliminators)、ルーバー、充填材料、ワイヤー、メッシュ、堰、構造支持部および、マンガン析出による損傷または劣化の対象である他の部品を使用し得る。
【0037】
冷却システムにおけるマンガン汚染の有害な影響を減少させ、あるいは排除するために、セリウム含有組成物を、単独で、あるいは他のDCAと併せて、補給水ストリームおよび/または循環水システムに加えることができる。セリウム含有組成物を加える好ましいポイントは、水が循環システムに入る前に添加物および補給水が十分に混合されるように十分に離れた上流のポイントでの補給水ストリームである。例えば、井戸水は冷却システムにおけるマンガンの一般的な供給源である。井戸水中の低いpHおよび低レベルの溶存酸素は高レベルの溶解マンガンを維持する。上記水が開放冷却水システムに入ると、酸素レベルが増加する可能性があり、pHが上昇する可能性がある。その原因は、部分的に、溶存二酸化炭素の脱気であり、これにより溶解マンガンが酸化されて不溶性二酸化マンガンになるのに好都合な条件が生じる。さらに、循環冷却システム内の微生物学的コントロールのために使用される塩素はマンガン酸化を促進する。循環システムに入る前の補給水にセリウム含有組成物および場合により他のDCA(包括的に、「添加物」または「阻害剤」)を導入すると、添加物および補給水が十分に混合され、マンガン酸化およびその析出に対する添加物の阻害効果が最適化されるよう保証することができる。ただし、該組成物は任意のポイントまたは複数のポイントで導入することができ、なお依然として有効である。
【0038】
冷却水システムでは、典型的に、塩素または他の酸化性殺菌剤を非常に濃縮された適用量で断続的に使用し、微生物をコントロールするための酸化剤のしきい値レベルを達成する。「ショック」処理と称されるこの送達方法は、マンガンを、より攻撃的な酸化条件に周期的に曝露する。セリウム含有組成物またはセリウム含有組成物/DCAの組み合わせの阻害効果を最大にするために、セリウム含有組成物または添加物をショック処理のタイミングと同期させ、最も攻撃的なマンガン酸化の期間中に最大濃度の阻害剤を提供するのが好ましい。同期化は、ストリームが酸化剤に曝露される前に循環水が添加物と十分に混合されるのに十分な時間を許容するように、酸化剤を加える少し前に添加物を循環水システムに導入することによって達成することができる。好ましい添加ポイントは冷却塔戻り配管であり、これにより冷却塔内で生じる移流、拡散、および/または物理的撹拌の工程によって添加物および冷却水が十分に混合される。分解またはシステム排出による添加物の損失は、周期的に増量される阻害剤適用量を相殺し、したがって本発明の処理についての望ましい平均1日量を維持することができる。セリウム含有組成物または添加物の供給は、任意の同期化手段、例えば電子タイマー、自動工程コントロール、またはマニュアル添加によって酸化剤の添加と同期させることができる。
【0039】
本発明の前記バージョンは、水系におけるマンガン析出に関連する問題の改善を含む多数の利点を有する。本発明のセリウム含有組成物は、塩素によるマンガンの酸化を特に阻害する。さらに、セリウム含有組成物を、ポリマー処理、およびホスホナートおよびポリマー処理とともに使用すると、セリウム含有組成物を用いないDCA処理によって提供される阻害より優れたマンガン析出阻害が提供される。従来は、コントロールの上限のせいで、高レベルのマンガンを含有するか、あるいは高濃縮サイクルで操業する冷却水システムでのマンガン析出を防止することができなかった事実を考慮すれば、総マンガン析出阻害の増加は非常に重要である。
【0040】
塩素および他のハロゲンへの曝露による有機添加物の分解は、工業用水処理に多大なコストを導入する。セリウム含有組成物はポリマーおよびホスホナート添加物を塩素によって分解されないように保護する(「塩素安定化」)。処理はppm未満のセリウム適用量で有効であり、特定のハロゲン安定性添加物を使用して阻害を提供する必要がある代替のアプローチと競合する。さらに、塩素安定化によって、標準的な実証済みのホスホナートおよびポリマー添加物の使用が可能になり、十分に確立されていないハロゲン安定性代替物の限定された選択に依存する必要性が回避される。さらに、本発明の組成物および処理は、その有効量が水性系に導入された場合に、水性系における有機洗濯助剤、例えば色素、着色剤、ビルダー、金属イオン封鎖剤、香料、バッファー、酸化防止剤、または界面活性剤の塩素安定化を提供することができる。
【0041】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに明らかにしていく。該実施例は本発明の典型例であるものとする。
【実施例1】
【0042】
水性系でのマンガン析出をコントロールする本発明に基づく処理能は、MnO形成を生じさせる条件にMn(II)含有溶液を曝露し、次いでサブミクロンフィルターを通すろ過によって溶液から不溶性MnOを除去した後に残留する溶解マンガンの量を測定することによって評価することができる。ろ液中のマンガンは溶解しているか、あるいは細分された、容易に分散する状態である。該状態のマンガンは、より粗い物質ほど容易には沈殿しない。ろ液中に従来より高レベルのマンガンが認められれば、マンガン析出の阻害が向上したことになる。
【0043】
塩素によるマンガン酸化のセリウムによる阻害
セリウムが塩素によるマンガン酸化を阻害する能力を評価するために、可溶性2価マンガンおよび次亜塩素酸ナトリウムを含有する水溶液を24時間までの期間インキュベートしておいた。次いで、この水溶液を0.2ミクロンフィルターに通し、ろ液中のマンガンを測定した。セリウムを含有する溶液を同一条件下で実験した。この場合、次亜塩素酸塩を加える前に第一セリウム塩を加えた。処理済み溶液およびコントロール溶液中に残留するマンガンに基づいて阻害を算出した。この計算は次の式1にしたがって行った:
【0044】
【数1】

【0045】
式中、Mn初期=曝露開始時点で存在する溶解マンガン。初期および残留塩素濃度に基づく同様の様式で塩素阻害を算出する。
【0046】
実験条件
試験用の水は、6N HSO 3.3mlを含有する脱塩水(dimineralized water)4リットルにCaCl−2HO 1.76g、MgSO−7HO 0.74g、NaHCO 1.34g、およびNaSiO−5HO 0.71gを溶解し、次いで通気して雰囲気と平衡化し、300ppm Ca(CaCOとして)、75ppm Mg(CaCOとして)、および50ppm SiOを含有するpH7.5〜8の水溶液を作成することによって調製した。
【0047】
化学添加物の原液を以下のように調製した:
1) Mn(II)原液、1mg/ml:MnSO−HO 0.308gを脱塩水に加え、100mlにする。
2) 次亜塩素酸塩原液、1mg/ml:市販の5%漂白剤2.0mlを脱塩水に加え、100mlにする。
3) 次亜臭素酸塩原液:4.5mg/ml:市販の5%漂白剤2.0mlおよび40wt%NaBr溶液0.36gを脱塩水に加え、100mlにする。
4) セリウム(III)原液、1.0mg/ml:Ce(SO)3−8HO 0.25gを脱塩水に加え、溶解し、100mlにする。
5) 2000ポリマー原液、10mg/ml:市販の42%活性ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)2.5gを脱塩水約80mlに加え、水酸化ナトリウム溶液を使用してpHを8.0に調整し、100mlにする。
6) 3100ポリマー原液、10mg/ml:42%活性アクリル酸/スルホン酸/非イオン性ターポリマー2.5gを脱塩水約80mlに加え、水酸化ナトリウム溶液を使用してpHを8.0に調整し、100mlにする。
7) 400ポリマー原液、10mg/ml:42%活性ホスフィノ−スルホン化アクリラートポリマー2.5gを脱塩水約80mlに加え、水酸化ナトリウム溶液を使用してpHを8.0に調整し、100mlにする。
8) 1−ヒドロキシエチリデン−1,1ジホスホニック(HEDP)原液、10mg/ml:市販の60%活性HEDP 1.67gを脱塩水約80mlに加え、水酸化ナトリウム溶液を使用してpHを8.0に調整し、100mlにする。
9) 2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)原液、10mg/ml:市販の50%活性PBTC 2.00gを脱塩水約80mlに加え、水酸化ナトリウム溶液を使用してpHを8.0に調整し、100mlにする。
【0048】
セリウムによる阻害の時間依存性
1ppm Ce(III)によって提供されるマンガン安定化の程度および持続性を測定する初期試験を行った。この試験は、試験水500ml、1mg/mlセリウム原液0.5ml、1mg/ml Mn(II)原液2ml、および1mg/ml次亜塩素酸塩原液1mlをガラスビーカーに順に加えることによって行った。未処理コントロールを同一の様式で調製した。なお、セリウム阻害剤は加えなかった。両溶液を37℃で加熱し、制御撹拌装置−熱板を使用して300rpmで撹拌した。24時間の期間にわたる指定の時点で、溶液のサンプルを回収し、ろ過し、Mn(II)および遊離の有効塩素に関して分析した。この分析は市販の比色試験手順を使用して行った。セリウムによる時間依存的なマンガン酸化の阻害を図1に示す。以下の表にデータを列記する。
マンガンおよび塩素の時間依存的阻害試験の結果
1ppmセリウムでの処理
撹拌下の試験水500ml、37C、pH7.6。
初期条件:Mn=4.1ppm、Cl=1.8ppm
【0049】
【表5】

【0050】
1ppmのCe(III)を用いた処理の結果は、100%の初期マンガンが17時間後に可溶性のままであったことを示す。また同一期間中に遊離塩素の有意な安定化が達成された。比較して、未処理サンプル中の溶解マンガンは、それぞれ7および17時間後に初期量の85%および65%に減少した。これは図1に示される通りである。17時間後のコントロール溶液に関するマンガン喪失と塩素喪失のモル比は0.9〜1の範囲であり、次式2のMn(II)と塩素の反応に関して立証されている化学量論と一致した:
【0051】
【数2】

【0052】
17時間の時点で、コントロール溶液は濃褐色の懸濁および微粒子MnOを含有し、一方、1ppmセリウムで処理された溶液は無色透明であった。この結果は処理済み溶液中でMnOが形成されなかったことを示す。17時間後、処理済み溶液中のMn(II)および塩素は減少し始めたが、24時間まで阻害は50%を超えたままであった。
【0053】
セリウム適用の効果
塩素によるマンガン酸化に対する諸セリウム適用量の効果を測定するために、撹拌下のビーカー中で、0〜2ppmの範囲のセリウム濃度で試験を行った。この試験は上記時間依存試験に関して記載されるように行った。17時間後にろ過後のマンガンを測定した。図2および以下の表に示される用量反応試験に関するデータは、セリウムが0.2ppm程度の低い濃度で阻害を提供し、約1ppm付近で最大効果を提供することを示す。さらに高用量の範囲ではずっと実質的阻害が維持される。
マンガンおよび塩素の用量依存的阻害試験の結果
初期濃度:Mn(II)=4.07ppm;塩素=2.0ppm
【0054】
【表6】

【0055】
セリウムによるマンガン阻害の機構
二酸化マンガンは非常に界面活性な物質であり、広範囲の工業上の適用において使用される。上記工業上の適用には、金属カチオンを結合するスカベンジャーとしての使用、および環境改善に有用なAs(III)およびSe(IV)の酸化のような反応を媒介する表面触媒としての使用が含まれる。Ce(III)は表面への高親和性を示し、溶解Ce(III)は含水MnO上に容易に吸着することが予測できる。セリウムは、+3および+4酸化状態が関与する酸化還元化学を示し、これによりCe(III)が二酸化マンガンおよび塩素の両者との酸化還元反応に参加することが可能になる可能性がある。厳密な熱力学的分析は、Ce(III)が本試験で使用される濃度およびpH条件下でMnOおよび塩素による酸化に関して安定であることを示すが、新たに形成された含水酸化マンガン上に吸着されたCe(III)の表面エネルギー論は、理論から大きく逸脱する酸化還元挙動を生じさせるかもしれない。塩素によるCe(III)の酸化は、Mn(II)との反応に利用可能な塩素の量を減少させる競合反応を成す。あるいは、MnOによるCe(III)の酸化は、直接Mn(II)を再生することによって阻害を提供する可能性があると思われる。
【0056】
1.7ppm塩素を初期含有する密封ガラスビン中の塩素喪失を、0.5ppm Ce(III)の存在および不存在下で比較することによって、Ce(III)との反応による塩素の直接消費を調査した。18時間曝露した後、2溶液中の最終塩素濃度は1.2ppmで同一であった。この知見は、マンガン酸化の阻害が溶液中のセリウムによる塩素の直接消費に起因しないことを示す。未処理コントロールと比較した1ppm Ce処理に関して17時間後に残留したMn(II)に基づく化学量論分析では、Ce(III)によるMnOの還元に起因した可能性があるのは、2溶液間で15%未満のMn(II)の差でしかないことが示される。ゆえに、Ce(III)が反応物の直接消費または再生によってMn(II)酸化を阻害する可能性は低いと思われる。代わりに、吸着Ce(III)がMnO粒子の成長を妨害することによってMnO形成を遅延させる可能性がある。この効果は、核になるMnO粒子上の「自己触媒」酸化を妨害する部位に関するCe(III)とMn(II)の競合に起因するかもしれない。あるいは、またはおそらくは上記理由に加えて、Ce(III)が吸着するとMnO格子が歪むことによって、粒子成長が妨害される可能性がある。化学量論に満たない量(substoichiometric amounts)の吸着物質が粒子成長を遅延させる上記様式の阻害は、冷却水処理において、スレショルド効果と称される広く認識されている現象である。
【0057】
セリウムは塩素によるマンガン酸化の阻害に関する分散剤の性能を向上させる
水性系におけるバルク相の微粒子物質の析出は、高荷電ポリマーを使用して、細分された懸濁物質に静電気的にカップリングさせることによってコントロールされることが多い;これにより粒子電荷が増加し、凝集が防止される。ポリマー主鎖上にスルホン酸基を包含するポリマーは、鉄およびマンガン微粒子の形成の阻害に関して特に有効である。これらの分子中のカルボン酸およびスルホン酸基は溶解鉄およびマンガンを隔離し、ならびに分散を向上させる非常に分極した電荷を与える。境界阻害物質、例えばホスホン酸塩は、一般に、分散性ポリマーとともに適用され、いずれかの阻害剤が単独で使用された場合の能力を超える阻害を提供する。併用のホスホナート/ポリマー化学は水処理産業のマンガンコントロールに関する中核である。
【0058】
密封ビンでの試験手順
一連の試験を行って、1)ポリマー/ホスホナート化学によって生じるマンガン阻害に対するセリウムの効果を評価し、2)ハロゲン化合物によるポリマー/ホスホナート化学の低下に対するセリウムの効果を評価した。種々の組み合わせの試験溶液、ポリマー、ホスホナート、マンガン、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、およびセリウムを含有する密封ガラスビン中でこれらの試験を行った。密封ビンでの測定では、4オンスのガラスビンに試験水100mlを加え、次いでポリマー、ホスホナート、Ce(III)、Mn(II)、次亜塩素酸ナトリウム、および/または次亜臭素酸ナトリウムの適切な容量の原液を加えて目的の初期濃度を提供した。ビンにしっかりと蓋をし、温度53℃に加熱された乾燥器に入れた。17時間後、乾燥器から溶液を取り出し、0.2μmフィルターに通してろ過し、以下の試験において記載されるようにMn(II)および/または遊離の利用可能なハロゲンに関して分析した。
【0059】
セリウム/ポリマー試験
セリウムと分散性ポリマーの併用を調査して、2種の別の化学が該ポリマー単独より高いマンガン阻害を提供するかどうかを判定した。上記密封ビンでの方法を使用して試験を行った。3種の市販ポリマーを、単独で、ならびに0.5ppm Ce(III)と組み合わせて試験した。製品2000はアクリル酸/2−アクリルアミド−メチルプロパンスルホン酸コポリマーであり;製品3100はアクリル酸/スルホン酸/非イオン性ターポリマーであり;ならびに製品400はアクリル酸/アクリルアミドスルホン酸コポリマーであり、これはポリマー主鎖に沿ってホスフィノ基を含有する。Mnおよび次亜塩素酸ナトリウム原液を加えて、初期値4ppm Mn(II)および1.8ppm遊離塩素をpH7.8で提供した。各試験を2回実行し、2つの値の結果を平均した。以下の表は、0.5ppm Ce(III)を3タイプのスルホン官能性ポリマー阻害剤に加えた場合に生じる、向上したマンガン阻害を示す。
【0060】
【表7】

【0061】
実地試験の実行
マンガンの安定化に関するセリウムの性能を米国中西部の電力会社施設での実地試験でさらに評価した。上記プラントでは、冷却水システムにおける無機デポジットコントロール用のポリマー/ホスホナートプログラムを使用する。既存の化学的処理プログラムに付加物としてセリウムを加え、バルク水(bulkwater)マンガン濃度に対する効果を測定した。実地場所および試験プロトコルの詳細を以下に挙げる。
【0062】
この商用施設は、単一、235MW、石炭火力型、蒸気タービン発電機によって発電する。平均電力負荷条件で、冷却システムは135,000ガロン/分(gpm)の再循環;2,500gpmの蒸発;および1140gpmの排出(blowdown)で操業し、流速8ft/sおよび表面凝縮管を横切って20°Fの温度上昇が生じる。
【0063】
現地の井戸から供給される補給水を使用して、冷却水システムの多管(shell-and-tube)表面凝縮装置および他の熱交換装置を冷却する。井戸水は、典型的に、約1ppmマンガンおよび3ppm鉄ならびにカルシウム、マグネシウム、シリカおよび他の溶解固形物を含有する。商用冷却塔での蒸発により、溶解固形物濃度が3〜4倍増加し、深刻な無機物汚染条件が生じる。水処理産業において濃縮サイクル(cycles-of-concentration)(COC)として知られる上記蒸発の影響の程度は、温度、湿度、バルク水排出率(bulkwater discharge rates)、および他の要因の変動に応じて変動し得る。典型的に、総溶解固形物または伝導率を利用して、補給および排出の割合をコントロールし、システムの所望のCOCを維持する。
【0064】
冷却水システムでの無機物析出をコントロールするために、5ppm活性ポリマー3100、および4ppm活性HEDPからなる化学的処理プログラムを使用する。処理にもかかわらず、バルク水マンガン濃度が1.1ppmを超えることはめったになかった。この結果はマンガンが冷却システム内で析出することによって除去されていたことを示す。
【0065】
上記商用施設でのマンガン喪失を減少させるために、既存の冷却水プログラムに付加物としてセリウムを導入する試験を実行した。2.5百万−ガロンの冷却システム容量に基づいてセリウムを加え、システムを0.6ppmセリウムに初期設定した。その後セリウムを3日間連続的に供給し、目的の適用量である0.6ppmを維持した。3日後、追加のセリウムを導入して適用量を0.8ppmに増量し、1ppmの追加HEDPを加えた。補給水およびバルク水中のマンガンおよび伝導率を、1日2回、試験期間にわたって測定した。上記試験データを使用して、マンガンのCOCと伝導率のCOCを比較することによって、COCの変動に関して測定マンガンを補正した。次の式3は、上記補正を包含して、セリウム添加後の諸時点でのバルク水マンガンの増加%を算出する。
【0066】
【数3】

【0067】
未ろ過サンプルおよび0.22ミクロンフィルターに通されたサンプルの両者に関してマンガンを測定した。未ろ過Mn測定の結果は総バルク水Mn濃度を示し、これは溶解Mn(II)ならびに懸濁MnOを含む。ろ過後の測定の結果は、溶解Mn(II)およびフィルターを通過することができたコロイド性MnOを示す。
【0068】
図3はセリウム添加に応じて再循環冷却水中で発生したマンガンの増加を示す。総バルク水(未ろ過)マンガンは製品添加の18時間以内に10%をわずかに超えて増加し、その後2日にわたって約20%増加で安定化された。セリウム適用量を0.8ppmに増量し、追加のホスホナートと組み合わせると、マンガンは試験前の値を超えて約25%までさらに増加した。溶解(ろ過後の)マンガンの傾向も同様であった。概して、この試験結果はセリウムが工業用冷却水中のマンガン安定性を顕著に向上させることを示す。
【0069】
セリウムはポリマーおよびホスホナート化合物の塩素による分解を阻害する
水処理適用のためのポリマーおよびホスホナートの選択に関する決定的な要因は、ハロゲン化合物、特に塩素および臭素による分解に対する該化合物の安定性である。該ハロゲン化合物は、水系の消毒および微生物学的コントロールのために日常的に使用されるものである。ハロゲンと有機ポリマーおよびホスホナートの反応によってポリマーの性能は劣化し、またハロゲンの抗微生物処理の効力が低下する。セリウムはホスホナートおよびポリマー化合物のハロゲンによる分解を減少させることがわかっている。
【0070】
ハロゲンによる分解に対するセリウムによる安定化
セリウムの使用による、ポリマーおよびホスホナート化合物のハロゲンによる分解の阻害を調査した。この調査では、上記密封ガラスビンでの試験を使用した。試験溶液はマンガンを含有しなかった。この試験の最初には、セリウムの存在および不存在下で、3種類の濃度でホスホナート化合物HEDPおよびPBTCの「臭素要求(bromine demand)」を評価した。臭素は次亜臭素酸ナトリウムとして加えた。遊離Brとしての初期濃度は4.5ppmであった。また各溶液は5ppm活性ポリマー2000を含有した。曝露後にBrを測定し、各溶液中の残留臭素を測定した。残留臭素の%増加は次の式4にしたがって算出した:
【0071】
【数4】

【0072】
以下の表に報告される結果は2回の測定の平均であり、この結果は、同一に調製されたがホスホナートを含有しなかったコントロール溶液を含む。
【0073】
【表8】

【0074】
上記試験結果は、セリウムを含まない溶液と比較して、0.5ppm Ce(III)が最終臭素濃度を10%〜30%以上増加させ、また、HEDPを安定化するのに特に有効であることを示す。HEDPの臭素による分解は、水系におけるこのホスホナートの使用についての既知の欠点である。該欠点は、セリウムを併用することによって、少なくとも部分的に克服される。4および6ppmのHEDP濃度に関する臭素要求は非常に大きく、セリウムの存在下でさえ、わずかな残留臭素しか測定されないほどであった。同一の密封ガラスビンでの試験において、6ppm HEDP、5ppm活性ポリマー3100、および4.5ppm Brを初期添加したところ、曝露中にHEDP濃度が40〜50%減少し、臭素がゼロに減少することが示された。上記結果は、ホスホナートと臭素の反応が許容されればこれらの2化合物がともに分解することを支持する。
【0075】
また、同一の密封ガラスビン条件を使用して、ポリマー2000およびPBTCの混合溶液の塩素による分解に対するセリウムの効果を試験した。この試験では、0.5ppmセリウムの存在および不存在下で、2ppm活性PBTCおよび5ppm活性ポリマー2000を1.6ppm初期遊離塩素に曝露した。3回の実験を平均した結果もやはり、ホスホナート/ポリマー処理が及ぼすハロゲン要求の減少に関するセリウムの効果を示す:
【0076】
【表9】

【0077】
本発明の他の実施態様は、本明細書の考察および本明細書中で開示される本発明の実施から当業者に自明になる。本明細書および実施例は単に例示としてみなされるものとし、本発明の真の範囲および思想は特許請求の範囲およびその同等の範囲によって示されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】マンガン安定化試験を表すグラフである。このグラフは、水性系への初期セリウム添加後の時間に相関するマンガンおよび塩素濃度を示す。
【図2】マンガン安定化試験を表すグラフである。このグラフは、水性系におけるセリウムレベルに相関するマンガン阻害を示す。
【図3】実用冷却水試験におけるマンガン安定化試験を表すグラフである。このグラフは、時間に相関するマンガンの割合の増加を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンを含有する水性系におけるマンガン析出をコントロールする方法であって、有効量の少なくとも1種のセリウム含有組成物を該水性系に導入することを含む方法。
【請求項2】
セリウム含有組成物がセリウム塩である、請求項1の方法。
【請求項3】
セリウム含有組成物がセリウム(III)塩である、請求項1の方法。
【請求項4】
セリウム含有組成物がセリウム(III)を含む、請求項1の方法。
【請求項5】
マンガン析出が少なくとも化学的酸化の結果である、請求項1の方法。
【請求項6】
マンガン析出が少なくともハロゲン酸化の結果である、請求項1の方法。
【請求項7】
水性系が、冷却水システム、飲料水システム、汚水処理システム、製紙用水システム、水泳用設備、洗浄システム、家畜用灌水設備、加湿装置、噴水装置、空気洗浄装置、洗車装置、ビン詰め設備、洗濯システム、ろ過システム、逆浸透システム、または脱塩設備である、請求項1の方法。
【請求項8】
セリウム含有組成物が無機セリウム化合物である、請求項1の方法。
【請求項9】
セリウム含有組成物が有機セリウム化合物である、請求項1の方法。
【請求項10】
セリウム含有組成物の導入が、水性系において、インサイチュ、エクストラサイチュ、またはその両者で、セリウム(IV)化合物の化学的還元、電気化学的還元、またはその両者によって該セリウム含有組成物を作成することを含む、請求項1の方法。
【請求項11】
セリウム含有組成物の有効量が約0.01〜約100ppmである、請求項1の方法。
【請求項12】
少なくとも1種のデポジットコントロール物質を水性系に導入することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項13】
少なくとも1種のポリマーベースのデポジットコントロール物質を水性系に導入することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項14】
セリウム含有組成物およびポリマーベースのデポジットコントロール物質が100:1〜0.01:1000の範囲の重量比で水性系に存在する、請求項13の方法。
【請求項15】
少なくとも1種のホスホナートベースのデポジットコントロール物質を水性系に導入することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項16】
セリウム含有組成物およびホスホナートベースのデポジットコントロール物質が100:1〜0.01:1000の範囲の重量比で水性系に存在する、請求項15の方法。
【請求項17】
少なくとも1種のポリマーベースのデポジットコントロール物質、および少なくとも1種のホスホナートベースのデポジットコントロール物質を水性系に導入することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項18】
セリウム含有組成物、ホスホナートベースのデポジットコントロール物質、およびポリマーベースのデポジットコントロール物質が約1:4:10の比で水性系に存在する、請求項17の方法。
【請求項19】
セリウム含有組成物を含む、水性系におけるマンガン析出をコントロールするための組成物。
【請求項20】
セリウム含有組成物がセリウム塩である、請求項19の組成物。
【請求項21】
セリウム含有組成物がセリウム(III)塩である、請求項19の組成物。
【請求項22】
セリウム含有組成物がセリウム(III)を含む、請求項19の組成物。
【請求項23】
セリウム含有組成物が無機セリウム化合物である、請求項19の組成物。
【請求項24】
セリウム含有組成物が有機セリウム化合物である、請求項19の組成物。
【請求項25】
少なくとも1種のデポジットコントロール物質をさらに含む、請求項19の組成物。
【請求項26】
少なくとも1種のデポジットコントロール物質がポリマーベースのデポジットコントロール物質である、請求項25の組成物。
【請求項27】
少なくとも1種のデポジットコントロール物質がホスホナートベースのデポジットコントロール物質である、請求項25の組成物。
【請求項28】
セリウム含有組成物および少なくとも1種のデポジットコントロール物質が0.01:1の比で組成物中に存在する、請求項25の組成物。
【請求項29】
少なくとも1種のデポジットコントロール物質がポリマーベースのデポジットコントロール物質およびホスホナートベースのデポジットコントロール物質を含む、請求項25の組成物。
【請求項30】
セリウム含有組成物、ホスホナートベースのデポジットコントロール物質、およびポリマーベースのデポジットコントロール物質が約1:4:10の比で水性系に存在する、請求項29の組成物。
【請求項31】
水性系におけるデポジットコントロール物質の塩素安定化法であって、有効量の少なくとも1種のセリウム含有組成物を該水性系に導入することを含む方法。
【請求項32】
水性系における有機洗濯助剤の塩素安定化法であって、有効量の少なくとも1種のセリウム含有組成物を該水性系に導入することを含む方法。
【請求項33】
少なくとも1種のデポジットコントロール物質の分解を減少させる方法であって、有効量の少なくとも1種のセリウム含有組成物を該水性系に導入することを含む方法。
【請求項34】
少なくとも1種の有機洗濯助剤の分解を減少させる方法であって、有効量の少なくとも1種のセリウム含有組成物を該水性系に導入することを含む方法。
【請求項35】
有機洗濯助剤が、色素、着色剤、ビルダー、金属イオン封鎖剤、香料、バッファー、酸化防止剤または界面活性剤、またはその任意の組み合わせである、請求項34の方法。
【請求項36】
分解が少なくとも1種のハロゲンまたはハロゲン含有物質に起因する、請求項33の方法。
【請求項37】
分解が少なくとも1種のハロゲンまたはハロゲン含有物質に起因する、請求項34の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−505738(P2007−505738A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527090(P2006−527090)
【出願日】平成16年9月20日(2004.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/030661
【国際公開番号】WO2005/030655
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(590003238)バックマン・ラボラトリーズ・インターナショナル・インコーポレーテッド (18)
【氏名又は名称原語表記】BUCKMAN LABORATORIES INTERNATIONAL INCORPORATED
【Fターム(参考)】