説明

水系ブチルゴム粘着性組成物、粘着前処理剤、及びブチルゴム粘着剤

【課題】含浸性及び粘着性に優れる水系ブチルゴム粘着性組成物を提供する。
【解決手段】(A)水系ブチルゴム乳化分散液と、前記(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部の(B)粘着付与剤と、前記(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部の(C)軟化剤とを主成分として含み、前記(B)粘着付与剤の固形分と前記(C)軟化剤の固形分との質量比((B):(C))が、1:1〜1:6である水系ブチルゴム粘着性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系ブチルゴム粘着性組成物、粘着前処理剤、及びブチルゴム粘着剤に関する。更に詳しくは、含浸性及び粘着性に優れる水系ブチルゴム粘着性組成物、この水系ブチルゴム粘着性組成物からなり、例えば、被着体または基材と、これらの被着体または基材に貼り付けられる粘着剤の粘着層との密着性を高めることができる粘着前処理剤、及び、基材と粘着層とを備え、これらの密着性が優れ、剥離強度が良好である(即ち、基材から粘着層が剥離され難い)ブチルゴム粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着層を備えたシート、テープ、及び板材など(以下、これらを総称して「粘着剤」と記す)は古くから広く使用され、その製造方法は公知である。例えば、自動車などのタイヤをリサイクルして得られる再生ブチルゴムに、粘着付与剤、オイルなどの軟化剤、炭酸カルシウム微粉末等の充填剤、及び老化防止剤などを適当な割合で加え、加熱しながらニーダー、バンバリーミキサー等で混練して熱溶融物を得、得られた熱溶融物を基材(シート、テープ、及び板材など)の片面または両面に加熱塗工(加熱塗工工程)し、粘着層を形成することによって製造する方法が知られている。
【0003】
粘着剤に用いる基材は、一般に不織布や紙などが用いられている。このような基材を用いることによって粘着剤の強度を高め、貼り付け作業性を付与している。即ち、基材を用いない場合は、粘着剤の製造時の加工性を高めるため多量に添加されるオイル等の軟化剤に起因して、粘着剤の強度維持が困難になり、貼り付け作業が困難になる場合が多い。また、添加する軟化剤の量は、粘着性能のバランスを得るために適切な範囲があるため、減量することは困難であるという事情もある。
【0004】
基材と基材上に形成する粘着層の密着性は、上記加熱塗工工程において、高粘度溶融固体状態、即ち、高温下で機械的な圧着力を受ける状態とすることによって、粘着層の一部が基材に食い込ませることにより得られていた。
【0005】
しかし、粘着層の一部を基材に食い込ませることによって得られる密着性は、十分ではなく、例えば、0.7mm厚のポリエステル製の不織布(基材)に熱溶融物を塗工した場合、熱溶融物は基材の表面から浅く浸透しているだけであることが報告(特許文献1)されている。そこで、基材に、ブチルゴム及びポリエチレンを含有し、ポリエチレンによって溶融粘度を下げている含浸剤(粘着前処理剤)を含浸させて粘着剤を製造することが開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−86982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、また、特許文献1に開示されている粘着剤は、含浸剤に非粘着性のポリエチレンを含有するため、基材と粘着層との密着性が未だ十分に得られていない。基材と粘着層との密着性が十分ではないと、これらの間に空隙が生じて、基材と粘着層との剥離強度の低下を招くだけでなく、粘着剤を防水用途に用いた場合に、その空隙が水分の通路となって、防水性能の低下を招く等の問題があった。
【0008】
また、特許文献1に開示された粘着剤は、特に、パーティクルボード等のようにその表面が粗面である被着体に貼り付けられた場合、この粗面への順応性が不足するという問題、即ち、粘着剤の粘着層と被着体との間に空隙が残る(生じる)という問題があった。
【0009】
特許文献1に開示されている含浸剤(粘着前処理剤)は、非粘着性のポリエチレンを含有するものであるため、基材と粘着層との密着性を十分に向上させることは困難であった。
【0010】
また、基材への浸透性を改良した含浸剤としては、ブチルゴムを溶剤に溶解した溶液が知られているが、密着性を高めるという目的に必要な濃度のブチルゴム溶液は粘度が高く、極一部しか浸透しないという問題があった。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、含浸性及び粘着性に優れる水系ブチルゴム粘着性組成物、この水系ブチルゴム粘着性組成物からなり、例えば、被着体または基材と、これらの被着体または基材に貼り付けられる粘着剤の粘着層との密着性を高めることができる粘着前処理剤、及び、基材と粘着層とを備え、これらの密着性が優れ、剥離強度が良好である(即ち、基材から粘着層が剥離され難い)ブチルゴム粘着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下に示す水系ブチルゴム粘着性組成物、粘着前処理剤、及びブチルゴム粘着剤が提供される。
【0013】
[1] (A)水系ブチルゴム乳化分散液と、前記(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部の(B)粘着付与剤と、前記(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部の(C)軟化剤とを主成分として含み、前記(B)粘着付与剤の固形分と前記(C)軟化剤の固形分との質量比((B):(C))が、1:1〜1:6である水系ブチルゴム粘着性組成物。
【0014】
[2] 前記[1]に記載の水系ブチルゴム粘着性組成物からなる粘着前処理剤。
【0015】
[3] 前記[1]に記載の水系ブチルゴム粘着性組成物を含浸した基材と、前記基材の片面または両面に、前記[1]に記載の水系ブチルゴム粘着性組成物によって形成された粘着層と、を有するブチルゴム粘着剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物は、(A)水系ブチルゴム乳化分散液と、前記(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部の(B)粘着付与剤と、前記(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部の(C)軟化剤とを主成分として含み、前記(B)粘着付与剤の固形分と前記(C)軟化剤の固形分との質量比((B):(C))が、1:1〜1:6であるため、実用上十分な粘着力を発揮するとともに、例えば、被着体や基材などに十分に含浸されるという効果を奏するものである。
【0017】
本発明の粘着前処理剤は、本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物からなるものであるため、例えば、被着体とこの被着体に貼り付けられる粘着剤の粘着層との密着性を高めることができるという効果を奏するものである。
【0018】
本発明のブチルゴム粘着剤は、本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物を含浸した基材と、この基材の片面または両面に、本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物によって形成された粘着層と、を有するものであるため、基材表面と粘着層との親和性が得られるとともに、基材とこの基材上に形成した粘着層との密着性が優れ、剥離強度が良好、即ち、基材から粘着層が剥離され難いという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良などが加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0020】
[1]水系ブチルゴム粘着性組成物:
本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物の一実施形態は、(A)水系ブチルゴム乳化分散液と、(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部の(B)粘着付与剤と、(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部の(C)軟化剤とを主成分として含み、(B)粘着付与剤の固形分と(C)軟化剤の固形分との質量比((B):(C))が、1:1〜1:6であるものである。
【0021】
このように、本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物は、(A)水系ブチルゴム乳化分散液以外に、特定量の(B)粘着付与剤と(C)軟化剤とを特定の割合で含むことよって、粘着強度とタックとが向上するため、実用上十分な粘着力が発揮される。また、本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物は、低粘度の水系ブチルゴム粘着性組成物であるため、被着体や基材に対する含浸性に優れる。
【0022】
このような利点を有するため、本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物は、例えば、表面が粗く、凹凸が形成されているようなもの(例えば、パーティクルボードなどの被着体、不織布や紙などの基材)の表面を処理することによって接着性を向上させることが可能な粘着前処理剤として好適に用いることができる。ここで、本明細書において「表面を処理する」とは、表面の凹凸を埋めて、表面をほぼ平らにすることをいう。また、粘着剤の粘着層を形成するための材料として好適に用いることができる。
【0023】
[1−1](A)水系ブチルゴム乳化分散液:
本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物に用いられる(A)水系ブチルゴム乳化分散液は、本発明者等が開示した方法(即ち、特開2006−219609号公報に開示した方法)によって得られるものである。即ち、(A)水系ブチルゴム乳化分散液は、ブチルゴムを、ロジン石鹸と、炭素数6〜30のアルキル基を有するアニオン系乳化剤とによって乳化して得られるものである。詳しくは、ブチルゴムを有機溶剤に溶解してゴム溶液を調製し、調製したこのゴム溶液にアニオン系乳化剤を混合し、攪拌して乳化し、水で希釈した後、有機溶剤を留去することによって得ることができるものである。このような(A)水系ブチルゴム乳化分散液は、本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物によって粘着層を形成した場合、粘着層のグリーン強度を向上させるとともに、粘着層の凝集力を向上させるという効果がある。
【0024】
有機溶剤としては、例えば、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサンなどを挙げることができる。
【0025】
アニオン系乳化剤は、アルコール、フェノール類化合物、アミン化合物または脂肪酸の塩またはエステルであり、アルキル基を含有するものである。アルキル基の炭素数は、6〜30であることが好ましく、8〜22であることが更に好ましく、8〜18であることが特に好ましい。アニオン系乳化剤の市販品としては、例えば、第一工業製薬社製の「ネオゲンS」シリーズ、「モノゲンY」シリーズなどを挙げることができる。
【0026】
[1−2](B)粘着付与剤:
本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物に含まれる(B)粘着付与剤の量は、(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部である。この(B)粘着付与剤は、本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物によって粘着層を形成した場合、粘着層の粘着強度を向上させるという効果がある。
【0027】
(B)粘着付与剤としては、例えば、ブチルゴムとの相溶性に優れる、芳香族変性テルペン樹脂、芳香族変性水添テルペン樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂、水添石油樹脂などを好適に用いることができる。芳香族変性テルペン樹脂の市販品としては、例えば、YSレジンTR105(ヤスハラケミカル社製)などを挙げることができる。芳香族変性水添テルペン樹脂の市販品としては、例えば、クリアロンM105(ヤスハラケミカル社製)などを挙げることができる。脂環族飽和炭化水素樹脂の市販品としては、例えば、アルコンP−100(荒川化学工業社製)などを挙げることができる。水添石油樹脂の市販品としては、例えば、アイマーブP−100(出光興産社製)などを挙げることができる。
【0028】
(B)粘着付与剤は、そのままでも、または水系乳化分散液として用いてもよい。芳香族変性テルペン樹脂の水系乳化分散液の市販品としては、例えば、ナノレットR1050(ヤスハラケミカル社製)などを挙げることができる。脂環族飽和炭化水素樹脂の水系乳化分散液の市販品としては、例えば、エマルジョンAM−1002(荒川化学工業社製)などを挙げることができる。
【0029】
(B)粘着付与剤の含有量(固形分)は、(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、25〜150質量部であり、粘着強度とタックとのバランスがとり易いという観点から、30〜100質量部であることが好ましく、40〜70質量部であることが更に好ましい。上記含有量が25質量部未満であると、粘着強度が得られ難くなる。一方、150質量部超であると、得られる水系ブチルゴム粘着性組成物が硬くなって粘着力を失う。
【0030】
[1−3](C)軟化剤:
本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物に含まれる(C)軟化剤は、粘着剤及び粘着前処理剤のタックを向上させるという効果がある。
【0031】
(C)軟化剤としては、ブチルゴムとの相溶性に優れるため、ポリブテンが好ましい。ポリブテンの市販品としては、例えば、日石ポリブテンLV−50、HV−15(いずれも、新日本石油社製)、ニッサンポリブテン(ポリビス)5N、10N(いずれも、日本油脂社製)等を挙げることができる。(C)軟化剤は、そのままでも、または水系乳化分散液として用いてもよい。ポリブテンの水系乳化分散液の市販品としては、例えば、エマウエット10E(日本油脂社製)等を挙げることができる。
【0032】
(C)軟化剤の含有量(固形分)は、(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、25〜150質量部であり、粘着強度とタックとのバランスがとり易くなるという観点から、50〜130質量部であることが好ましく、70〜120質量部であることが更に好ましい。上記含有量が25質量部未満であると、タックが得られ難くなる。一方、150質量部超であると、凝集力が小さくなるため、粘着層を形成した場合に、その粘着強度が小さくなる。
【0033】
(B)粘着付与剤の固形分と前記(C)軟化剤の固形分との質量比((B):(C))は、1:1〜1:6であり、粘着強度とタックとのバランスをとり易くなるという観点から、1:1〜1:4であることが好ましく、1:1.5〜1:2であることが更に好ましい。(B)粘着付与剤が(C)軟化剤の同量を超える場合、即ち、(C)軟化剤の含有量が、(B)粘着付与剤1質量部に対して、1質量部未満である場合は、タックが得られ難くなる。一方、(B)粘着付与剤が(C)軟化剤の6分の1未満の場合、即ち、(C)軟化剤の含有量が、(B)粘着付与剤1質量部に対して、6質量部超である場合は、凝集力が得られ難くなるため、粘着層を形成した場合に、その粘着強度が小さくなる。
【0034】
[1−4]その他の添加剤:
本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物には、性能を損なわない範囲で、老化防止剤、粘度調整剤、無機フィラー、顔料、その他のポリマーエマルジョン、アクリルエマルジョン、ゴムラテックス等のその他の添加剤を添加してもよい。粘度調整剤としては、例えば、微粉末シリカを好適に用いることができる。微粉末シリカの市販品としては、例えば、アエロジル200(日本アエロジル社製)などを挙げることができる。
【0035】
本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物は、(A)水系ブチルゴム乳化分散液、(B)粘着付与剤、及び(C)軟化剤を主成分として含むものであり、具体的には、(A)水系ブチルゴム乳化分散液、(B)粘着付与剤、及び(C)軟化剤の総量(固形分)が、水系ブチルゴム粘着性組成物中の25〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることが更に好ましい。上記総量が25質量%未満であると、粘着前処理剤として離型紙等の基材に塗工した時にハジキを生じるおそれがある。一方、70質量%超であると、粘着前処理剤として使用した場合に、パーティクルボードなどの被着体、不織布や紙のなど基材に対して十分な含浸性を発揮できないおそれがある。
【0036】
本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物は、粘着前処理剤として使用する場合、被着体や基材への含浸性を確保するため、室温(23℃)における粘度が低いものであることが好ましい。具体的には、室温(23℃)における粘度が100〜20,000mPa・sであることが好ましく、200〜10,000mPa・sであることが更に好ましく、300〜5,000mPa・sであることが特に好ましい。上記粘度が100〜20,000mPa・sの範囲内であると、被着体や基材への含浸性が確保できるという利点がある。上記粘度が100mPa・s未満であると、離型紙等の基材に塗工した時にハジキを生じるおそれがある。一方、20,000mPa・s超であると、被着体や基材に対する含浸性が十分に得られないおそれがある。粘度を測定するための装置としては、例えば、東京計器社製の「B型粘度計」を挙げることができる。
【0037】
本実施形態の水系ブチルゴム粘着性組成物は、(A)水系ブチルゴム乳化分散液、(B)粘着付与剤、(C)軟化剤、及び、必要に応じてその他の添加剤を混合することによって得ることができる。なお、(B)粘着付与剤及び(C)軟化剤のいずれもが、水系エマルジョンである場合には、通常用いられるエマルジョン混合機によって混合することができる。一方、(B)粘着付与剤、(C)軟化剤、または、これらの両方が固体である場合には、予め、(A)水系ブチルゴム乳化分散液の製造工程において、有機溶剤を留去する前のゴム溶液に添加して、(A)水系ブチルゴム乳化分散液のブチルゴムと同時に乳化分散させてもよい。
【0038】
[2]粘着前処理剤:
本発明の粘着前処理剤の一実施形態は、本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物からなるものである。そして、本実施形態の粘着前処理剤は、本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物からなるものであるため、例えば、被着体または基材と、これらの被着体または基材に貼り付けられる粘着剤の粘着層との密着性を高めることができるものである。即ち、本実施形態の粘着前処理剤は、その表面に凹凸が形成されているもの(例えば、パーティクルボードなどの被着体、不織布や紙などの基材)の表面を処理するためのものである。本実施形態の粘着前処理剤によって被着体や基材の表面を処理すると、被着体や基材を粘着層に貼り付けた場合に、これらの高い密着性が得られるという利点がある。
【0039】
ここで、本明細書において「基材」とは、粘着剤の強度を高め、貼り付け作業性を付与するものであり、例えば、テープ状やシート状の不織布や紙などを挙げることができる。また、「被着体」とは、粘着剤が貼り付けられるものであり、例えば、粗面を有するパーティクルボード、ケイ酸カルシウムボード、シージングボードなどを挙げることができる。
【0040】
本実施形態の粘着前処理剤によって表面を処理する方法は、特に制限はなく、例えば、パーティクルボードなどのように表面が粗く、凹凸の程度が大きいものの表面を処理する場合には、凹凸を埋めるための前処理剤として使用して、パーティクルボードなどの表面をほぼ平らにすることができる。また、不織布や紙などのように、表面の凹凸の程度が、被着体に比べて小さいものの表面を処理する方法は、特に制限はなく、一般的に採用されている塗布法やディピング法などを挙げることができる。
【0041】
本実施形態の粘着前処理剤の塗布量は、被着体や基材の表面粗さや吸水性によって適宜調整することができ、被着体または基材に粘着層を貼り合わせた際に、被着体または基材と粘着層との間に空隙が生じない程度の量とすることが好ましい。例えば、塗布面がほぼ滑らかとなる量とすることができる。
【0042】
また、本実施形態の粘着前処理剤は、(A)水系ブチルゴム乳化分散液以外に、特定量の(B)粘着付与剤と(C)軟化剤とを特定の割合で含むものである。ここで、仮に、(A)水系ブチルゴム乳化分散液のみを粘着前処理として用いた場合、即ち、(A)水系ブチルゴム乳化分散液を単独で不織布や紙などの基材に塗布、またはディッピングし、乾燥後、基材上に粘着層を形成してブチルゴム粘着剤を得た場合には、得られたブチルゴム粘着剤の基材と粘着層との粘着強度は、不織布や紙などの基材の組成や形状によって大きく影響を受け、十分な粘着強度が得られないという問題がある。
【0043】
なお、パーティクルボード等の粗面を有する被着体に、(A)水系ブチルゴム乳化分散液を単独で塗布、またはディッピングし、乾燥後、被着体上に粘着層を形成して粘着剤を得た場合には、粘着剤の粘着層を、ブチルゴムによって形成すると、良好な密着性が得られる。しかし、アクリル粘着剤や他のゴム系粘着剤によって粘着層を形成すると、この粘着層は、(A)水系ブチルゴム乳化分散液中のブチルゴムとの相溶性が乏しく、十分な粘着強度(即ち、剥離強度)が得られないという問題があり、汎用性に欠けることが分かった。本実施形態の粘着前処理剤によれば、これらの問題を解決することができる。
【0044】
[3]ブチルゴム粘着剤:
本発明のブチルゴム粘着剤の一実施形態は、本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物を含浸した基材と、この基材の片面または両面に、本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物によって形成された粘着層と、を有するものである。
【0045】
このように本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物を含浸した基材を用い、粘着層を、本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物によって形成することによって、基材と粘着層との親和性が向上するため、基材と基材上に形成した粘着層との密着性が優れる。そのため、基材と粘着層との間の空隙を少なくすることができ、粘着強度、防水性、及び気密性に優れるという利点がある。このようなブチルゴム粘着剤は、例えば、住宅設備などに広く使用することができる。
【0046】
基材は、ブチルゴム粘着剤の使用目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、不織布や紙などを挙げることができる。不織布や紙は、粘着前処理剤を浸透させ易く、貼り付け作業性に優れるため好ましい。基材は、シート状、テープ状などの形状のものを用いることができる。
【0047】
本実施形態のブチルゴム粘着剤は、例えば、以下のように製造することができる。まず、本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物を基材に含浸させる。含浸させる面は基材の片面であっても両面であってもよい。ここで、「水系ブチルゴム粘着性組成物を基材に含浸させる」とは、水系ブチルゴム粘着性組成物によって基材の表面を処理することを意味する。含浸させる方法は、特に制限はなく、例えば、塗布法、ディッピング法などを採用することができる。次に、本実施形態のブチルゴム粘着剤の製造方法は、基材とは別に用意した離型紙の片面に、本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物を塗工し、乾燥させて離型紙上に粘着層を形成する。その後、上記基材の、水系ブチルゴム粘着性組成物を含浸させた面(片面または両面)に、上記粘着層を貼り合わせる。このようにして製造したブチルゴム粘着剤は、粘着層から離型紙を剥離して使用することができる。
【0048】
なお、本実施形態のブチルゴム粘着剤は、水系ブチルゴム粘着性組成物を基材の片面または両面に含浸させた後、この水系ブチルゴム粘着性組成物を含浸させた面(片面または両面)上に水系ブチルゴム粘着性組成物を塗工し、乾燥させて粘着層を形成して製造することもできる。
【0049】
ブチルゴム粘着剤の使用方法としては、上述したように、粘着層から離型紙を剥離した後、所望の対象に粘着層を貼り付けて使用することができ、特に、ブチルゴム粘着剤を貼り付ける対象が、例えば、パーティクルボードなどのように粗面を有するもの(被着体)である場合には、予め、本発明の粘着前処理剤によって被着体の表面を処理した後、この表面にブチルゴム粘着剤を貼り付けることが好ましい。このように、予め本発明の粘着前処理剤によって被着体の表面を処理することによって、ブチルゴム粘着剤と被着体との密着性が高くなるという利点がある。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、実施例及び比較例中の各種の評価は、下記の方法により行った。
【0051】
[基材への含浸性]
ポリエステル製の不織布(厚さ0.07mm)を、調製した水系ブチルゴム粘着性組成物(粘着前処理剤)にディッピングする。その後、吊るして風乾させたものを離型紙上に乗せて、80℃で30分間乾燥する。乾燥後、不織布表面を目視にて観察し、基材に対する含浸性の評価を行う。基材に対する含浸性の評価は、目視観察で、乾燥後の含浸面に気泡を認めない場合を「良好」とし、気泡が残っている(認める)場合を「不良」とする。
【0052】
[粗面への含浸性]
厚さ2.5mmのパーティクルボード(被着体)の表面(粗面)に、厚さが0.2mmとなるように上記粘着前処理剤を塗布、含浸し、室温で乾燥した後、このパーティクルボードの表面(粗面)を目視にて観察し、評価を行う。評価基準は、目視観察で、乾燥後の含浸面に気泡を認めない場合を「良好」とし、気泡が残っている(認める)場合を「不良」とする。なお、本評価は、表2中、「被着体への含浸性」と示す。
【0053】
[粗面粘着力]
厚さ0.1mmのアルミ箔に、厚さが0.2mmとなるように水系ブチルゴム粘着性組成物を塗布し、80℃で30分間乾燥してブチルゴム粘着層(表2中、「ブチルゴム粘着シートの粘着層」と記す)を形成し、ブチルゴム粘着層を備えるブチルゴム粘着シート(粘着剤)を作製する。作製したブチルゴム粘着シートから2.5mm×300mmの切片を切り出す。その後、切り出したブチルゴム粘着シートのブチルゴム粘着層と、上記[粗面への含浸性]と同様にして得られた粘着前処理剤を含浸したパーティクルボードの表面とをローラーで貼り付け、貼り付け部分の長さが100mmとなる試験シート(i)を得る。その後、この試験シート(i)について、JIS Z 0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°剥離強度(N/10mm)を測定する。本評価結果は、表2中の「ブチルゴム粘着シート」に示す。
【0054】
また、市販の粘着剤としてアクリル系両面粘着テープ(SS両面テープWF102(「PE発泡体基材アクリル両面粘着テープ」、コニシ社製))を用い、このテープの片面と、上記[粗面への含浸性]と同様にして得られた粘着前処理剤を含浸したパーティクルボードの表面とをローラーで貼り付け、貼り付け部分の長さが100mmとなる試験シート(ii)を得る。その後、この試験シート(ii)について、JIS Z 0237に準じて、剥離速度300mm/分で180°剥離強度(N/10mm)を測定する。本評価結果は、表2中の「アクリル系両面粘着テープ」に示す。
【0055】
[剥離強度]
まず、離型紙に、厚さが0.2mmとなるように水系ブチルゴム粘着性組成物を塗布した後、80℃で30分間乾燥させて、ブチルゴム粘着層(表3中、「ブチルゴム粘着剤の粘着層」と記す)を備えるブチルゴム粘着シート(粘着剤)を作製する。このブチルゴム粘着シートのブチルゴム粘着層を、予め水系ブチルゴム粘着性組成物(表3中、「含浸剤」と記す)を含浸させた厚さ0.07mmのポリエステル製の不織布(基材)の両面に、ローラーで貼り合わせて、シート状の両面粘着剤(ブチルゴム粘着剤)を作製する。次に、作製したシート状の両面粘着剤から、2.5mm×100mmの切片を切り出し、離型紙を剥離した後、一方の面には1mm×2.5mm×150mmの亜鉛鋼板を貼り合わせ、他方の面には0.1mm×2.5mm×300mmのアルミ箔を貼り合わせて試験シート(iii)を得る。その後、この試験シート(iii)について、JIS Z 0237に準じて、剥離速度300mm/分における180°剥離強度(N/10mm)を測定する。本評価結果は、表3中の「ブチルゴム粘着剤」に示す。
【0056】
(実施例1)
(A)水系ブチルゴム乳化分散液の作製:
乳化機(「TKコンビミックス型」、特殊機化工業社製)中に、ブチルゴム(「JSR Butyl268」、JSR社製)600gとトルエン2400gを投入し、90℃に昇温してブチルゴムを溶解させてゴム溶液を得た。得られたゴム溶液を50℃に保ち、このゴム溶液に、予め、ロジン石鹸(「ロンジスK−80」、荒川化学工業社製)45g(有効成分36g)とアニオン性乳化剤(「ネオゲンS−20F」、第一工業製薬社製)30g(有効成分6g)とを50℃の温水45gに溶解したものを投入し、乳化した。その後、この乳化物に、希釈水1500gを60分かけて均一に滴下した。これに増粘剤としてキサンタンガム(商品名「KELDENT」、大日本製薬社製)の1%水溶液120gを投入し、10分間混合した後、ロータリーエバポレーター(「N−11型」、東京理化器機社製)にて50℃、720〜640mmHg(96.0〜85.3kPa)で、トルエン残存量が0.05%となるようにトルエンを留去して、50%ブチルゴム水系乳化分散液((A)水系ブチルゴム乳化分散液)を得た。
【0057】
水系ブチルゴム粘着性組成物の調製:
得られた50%ブチルゴム水系乳化分散液100部、(B)粘着付与剤としてエマルジョンAM−1002(荒川化学工業社製)50部、(C)硬化剤としてエマウエット10E(日本油脂社製)100部、及びアエロジル200(日本アエロジル社製)2.5部を、攪拌機によって、室温にて混合し、水系ブチルゴム粘着性組成物(X−1)を調製した。配合量を表1に示した。なお、配合量は固形分量である。
【0058】
【表1】

【0059】
(実施例2〜4、比較例1〜4)
表1に示した配合量としたこと以外は、実施例1と同様にして水系ブチルゴム粘着性組成物(X−2)〜(X−4)、(R−1)〜(R−4)を調製した。
【0060】
(実施例5)
実施例1で得られた50%ブチルゴム水系乳化分散液100部、(B)粘着付与剤としてエマルジョンAM−1002(荒川化学工業社製)50部、及び(C)硬化剤としてエマウエット10E(日本油脂社製)100部を攪拌機によって、室温で混合し、水系ブチルゴム粘着性組成物(X−5)を調製した。
【0061】
(実施例6〜8、比較例5〜7)
表1に示す配合量としたこと以外は、実施例5と同様にして水系ブチルゴム粘着性組成物(X−6)〜(X−8)、(R−5)〜(R−7)を調製した。
【0062】
(実施例9)
試験シートの作製:
まず、厚さ2.5mmのパーティクルボード(被着体)の表面(粗面)に、厚さが0.2mmとなるように、粘着前処理剤として実施例5で得られた水系ブチルゴム粘着性組成物(X−5)を塗布し、含浸させ、室温で乾燥させて、粘着前処理剤を含浸させた被着体を得た。次に、厚さ0.1mmのアルミ箔に、厚さが0.2mmとなるように、実施例1で得られた水系ブチルゴム粘着性組成物(X−1)を塗布した後、80℃で30分間乾燥して、ブチルゴム粘着層を備えるブチルゴム粘着シート(ブチルゴム粘着剤)を作製した。
【0063】
作製したブチルゴム粘着シートのブチルゴム粘着層と、上記粘着前処理剤を含浸させた被着体の粘着前処理剤を含浸させた面と、を貼り合わせて、試験シートを得た。得られた試験シートについて、上記[粗面への含浸性]及び[粗面粘着力]の評価を行った。その評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
(実施例10〜12、比較例8〜12)
粘着前処理剤として表2に示す水系ブチルゴム粘着性組成物(X−6)〜(X−8)、(R−1)、(R−5)〜(R−7)を用い、ブチルゴム粘着層を表2に示す水系ブチルゴム粘着性組成物(X−2)〜(X−4)、(R−1)〜(R−4)、(X−1)をそれぞれ用いた以外は、実施例9と同様にしてブチルゴム粘着剤を作製し、試験シートを得た。得られた試験シートについて、上記[粗面への含浸性]及び[粗面粘着力]の評価を行った。その評価結果を表2に示す。なお、比較例12は、粘着前処理剤を使用しない例である。
【0066】
(実施例13)
ブチルゴム粘着剤の作製:
実施例1で得られた水系ブチルゴム粘着性組成物(X−1)を離型紙の片面に、厚さが0.2mmとなるように塗布し、80℃で30分間乾燥して、上記粘着層を備える粘着シートを作製した。一方、粘着前処理剤として実施例5で得られた水系ブチルゴム粘着性組成物(X−5)を用い、この水系ブチルゴム粘着性組成物(X−5)にポリエステル製の不織布をディッピングし、不織布に水系ブチルゴム粘着性組成物(X−5)を含浸させた。その後、この不織布を吊るして風乾させた後に、更に80℃で30分乾燥した。このようにして得られた不織布の両面に、それぞれ上記粘着シートの粘着層をローラーで貼り合わせ、シート状の両面粘着剤(ブチルゴム粘着剤)を作製した。この両面粘着剤について、上記[剥離強度]に従って評価した。その評価結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
水系ブチルゴム粘着性組成物(X−5)の基材に対する含浸性は、上記[基材への含浸性]に従って評価した。本実施例の水系ブチルゴム粘着性組成物は、水系ブチルゴム粘着性組成物が約100g/mの割合で隙間なく含浸した基材を得ることができたことが観察でき、評価は「良好」であった。
【0069】
(実施例14〜16、比較例13〜17)
ポリエステル製の不織布の両面に塗布する水系ブチルゴム粘着性組成物(表3中、「含浸剤」と示す)、及び、離型紙の片面に塗布する水系ブチルゴム粘着性組成物(表3中、「粘着層」と示す)として、それぞれ、表3に示す実施例1〜4及び比較例1〜4で得られたものを使用した以外は、実施例13と同様にしてブチルゴム粘着剤を作製した。その評価結果を表3に示す。なお、比較例17は、粘着前処理剤(含浸剤)を使用しない例である。
【0070】
表2、3から明らからなように、実施例1〜4の水系ブチルゴム粘着性組成物は、比較例1〜4の水系ブチルゴム粘着性組成物に比べて、粘着性に優れることが確認された。また、実施例5〜8の水系ブチルゴム粘着性組成物を粘着前処理剤として用いた実施例9〜12の試験シートは、比較例8〜12の試験シートに比べて、被着体とこの被着体に貼り付けられる粘着剤の粘着層との密着性が高いことが確認できた。また、実施例13〜16のブチルゴム粘着剤は、比較例13〜17のブチルゴム粘着剤に比べて、基材とこの基材上に形成した粘着層との密着性が優れ、剥離強度が良好、即ち、基材から粘着層が剥離され難いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の水系ブチルゴム粘着性組成物は、例えば、パーティクルボード等の粗面を有する被着体と、この被着体に貼り付けられる粘着剤の粘着層との密着性を高めるための材料(粘着前処理剤)として好適に用いることができる。
【0072】
本発明の粘着前処理剤は、例えば、パーティクルボード等の粗面を有する被着体と、この被着体に貼り付けられる粘着剤の粘着層との密着性を高めるものとして好適に用いることができる。
【0073】
本発明のブチルゴム粘着剤は、住宅設備などに広く使用可能な粘着シートや粘着テープとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水系ブチルゴム乳化分散液と、
前記(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部の(B)粘着付与剤と、
前記(A)水系ブチルゴム乳化分散液の固形分100質量部に対して、固形分として25〜150質量部の(C)軟化剤とを主成分として含み、
前記(B)粘着付与剤の固形分と前記(C)軟化剤の固形分との質量比((B):(C))が、1:1〜1:6である水系ブチルゴム粘着性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水系ブチルゴム粘着性組成物からなる粘着前処理剤。
【請求項3】
請求項1に記載の水系ブチルゴム粘着性組成物を含浸した基材と、
前記基材の片面または両面に、請求項1に記載の水系ブチルゴム粘着性組成物によって形成された粘着層と、を有するブチルゴム粘着剤。

【公開番号】特開2009−62509(P2009−62509A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69213(P2008−69213)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】