説明

水素ガスセンサ

【課題】金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属との接合を用いたガスセンサにおいて、周囲のガス雰囲気に影響されずに高感度で水素濃度を測定することができる水素ガスセンサを提供する。
【解決手段】金属酸化物半導体とPd系金属等の水素吸蔵性金属との接合により形成されるセンサ素子を有する水素ガスセンサにおいて、前記水素吸蔵性金属表面が、その少なくとも一部において、シリカ膜等の、水素ガスを透過し、かつ、酸素ガスの拡散を抑制する機能を有する膜でコートされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属との接合を利用した水素ガスセンサにおいて、水素吸蔵性金属表面が水素ガスを透過し、かつ、酸素ガスの拡散を抑制する機能を有する膜でコートされている水素ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の主たるエネルギー源である化石燃料に取って代わり、今後は水素ガスが最も重要なエネルギーになると予想されている。しかし、水素ガスは、漏洩すると爆発事故を起こす危険性があり、水素ガスの漏洩を高感度に検知する安定した水素ガスセンサが求められている。
【0003】
水素は無色、無味、無臭の気体で、比重が0.09g/cmと最軽量である。水素自体の有害性・毒性情報はないが、漏洩すると空気中の酸素濃度を減少させ酸欠を引き起こす。また、水素の空気中での拡散速度は、メタンの約3倍、燃焼速度は、メタンの約7倍と早く、空気中においては、4〜74.5wt%と広い濃度範囲にわたり火災や爆発の危険性を持つ。また、燃焼時の炎は、無色に近く、明るい場所では特に見えにくいと言われている。
【0004】
水素については、今後、急速な普及が予想される燃料電池用として、自動車用さらに家庭用発電機(コジェネレーション)用等として応用が広がるにつれ、万一のガス漏れのリスクに対応するため、高信頼性且つ高感度の水素ガスセンサが要望されている。
【0005】
従来から提案されている水素ガスセンサとしては、貴金属などの微量の金属元素を添加して増感したN型酸化物半導体、例えば酸化スズなどの焼結体を用いて、これらの酸化物半導体が可燃性ガスと接触した際に、前記酸化物半導体の電気伝導度が変化する特性を利用してガスを検知する方式(半導体式ガスセンサ)、20μm程度の白金の細線にアルミナを添着し、貴金属を担持したものと担持しないものとの一対の比較素子を用いて一定温度に加熱し、可燃性ガスがこの素子に接触して接触酸化反応を行った際の発熱差を検出する方式(接触燃焼式ガスセンサ)などが知られている。
【0006】
一方で、TiO等の金属酸化物半導体とPdやPt、Auあるいはこれらの合金等の水素吸蔵性金属との接合を利用したガスセンサが提案されている。たとえば、単結晶のTiO上にPd等の電極を形成し、TiOの他面にインジウム等のオーミック電極を形成したもののダイオード特性は水素濃度によって変化するため、水素センサとして使用できることが知られている(非特許文献1参照)。図1に非特許文献1により提案されたダイオードガスセンサの動作モデルを示す。図の上部のUVACは真空準位を示し、WおよびW’はPdの仕事関数を、ΦおよびΦ’はPdとTiO間の電位障壁を示し、EcはTiOの伝導体下端のエネルギー順位を示し、Evは価電子帯上端のエネルギー準位、Efはフェルミ準位を示している。空気中での電位障壁はPdとTiOとの仕事関数の差で形成され、ここに還元性の水素等が導入されると、PdやTiOに化学吸着していた酸素と水素とが反応して電位障壁が変化し、これ以外に解離した水素原子がPd中へ固溶することによっても電位障壁が変化する。そして電位障壁が変化すると、ガスセンサのダイオード特性が変化し、水素等の還元性ガスを検出できる。
【非特許文献1】日本化学会誌、1980、1585
【0007】
金属酸化物半導体とPd系金属との接合を利用したガスセンサにおいて、前記金属酸化物半導体を金属の陽極酸化膜で構成したガスセンサが知られている(特許文献1参照)。しかし、金属酸化物半導体を陽極酸化膜で構成したガスセンサは、不活性ガス雰囲気下では水素ガスに対して非常に高い感度を示す一方で、大気下では大幅な感度の低下が生じる問題があった(非特許文献2参照)。そのため、周囲のガス雰囲気条件により大きな影響を受けない水素ガスセンサが強く望まれる。
【特許文献1】特開2002−236106号公報
【非特許文献2】Sensors and Actuators B,93,519(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属との接合を用いたガスセンサにおいて、周囲のガス雰囲気に影響されずに高感度で水素濃度を測定することができる、水素ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属との接合により形成されるセンサ素子を有する水素ガスセンサの水素吸蔵性金属表面に、水素ガスを透過し、かつ、酸素ガスの拡散を抑制する機能を有する膜、たとえば、シリカ(酸化ケイ素:SiO)膜をコートすると、周囲のガス雰囲気に影響されずに高感度で水素濃度を測定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属との接合により形成されるセンサ素子を有する水素ガスセンサにおいて、前記水素吸蔵性金属表面が水素ガスを透過し、かつ、酸素ガスの拡散を抑制する機能を有する膜(シリカ膜等)でコートされていることを特徴とする水素ガスセンサに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水素ガスセンサは、周囲のガス雰囲気に影響されずに高感度で正確な水素濃度を測定できる。非常に低い印加電圧下においても高感度で作動するため、消費電力は低く、経済的に優れたガスセンサである。また、製造にあたっては、水素ガスを透過し、かつ、
酸素ガスの拡散を抑制する機能を有する膜素材としてシリカを使用し、シリカコーテング
を行う場合には、シリカコーテング自体は容易で、一般的な手法で行うことができるため、低コストで安定した品質のガスセンサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の水素ガスセンサについて詳述する。
本発明の水素ガスセンサは、金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属との接合により形成されるセンサ素子を有する。そして、前記センサ素子における水素吸蔵性金属表面はその少なくとも一部が水素ガスを透過し、酸素ガスの拡散を抑制する機能を有する膜のコート処理、好ましい例としてシリカコーテングが施されている。
【0013】
本発明において使用される金属酸化物半導体としては、半導体の性質を有する金属酸化物であれば特に制限はされないが、高融点で緻密な酸化物が得られ易いことからTiO2、ZrO、HfO、Nb、Ta、Cr、MoO、WO等の金属酸化物半導体が好ましい。これらの中でも、調製や入手が容易なことからTiOやNbがより好ましく、TiOがさらに好ましい。本発明において使用される金属酸化物半導体は、1種のみを単独で使用しても複数種を併用してもよい。
【0014】
本発明において使用される金属酸化物半導体は、金属の陽極酸化膜であるか、または、酸化性雰囲気下での金属の加熱により作製した酸化膜であることが好ましく、中でも金属の陽極酸化膜であることがより好ましい。通常、このような陽極酸化膜表面には金属板に垂直に配向した直径数10〜数100nm程度のナノホールが存在し、これに伴い水素吸蔵性金属との界面接触が増加するため、結果としてセンサ素子の感度及び応答速度が向上する。
【0015】
本発明の金属酸化物半導体として前記の金属の陽極酸化膜を使用する場合、前記陽極酸化物としては、対応する金属(Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、Wなど)を従来公知の方法に従って陽極酸化させ、前記金属の表面に形成された酸化膜を使用することができる。本発明の水素ガスセンサにおいては、前記金属の表面に形成された酸化膜を前記金属の存在下にそのまま使用することが可能である。陽極酸化を行う際の具体的な方法としては、例えば、硫酸、シュウ酸、リン酸、フッ化水素等を含有する希薄酸性溶液中、陽極に配置した前記金属を10〜200Vの電圧下に陽極酸化する方法等が挙げられる。
【0016】
また、本発明の金属酸化物半導体として、前記した酸化性雰囲気下での金属の加熱により作製した酸化膜を使用する場合、かかる酸化膜としては、例えば、対応する金属(Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、Wなど)を、酸素含有ガス、大気等の雰囲気下、前記金属を加熱することにより得られるものを使用することができる。前記加熱時の温度としては300〜800℃の範囲内であることが好ましく、400〜700℃の範囲内であることがより好ましい。
【0017】
本発明の金属酸化物半導体として、前記の金属の陽極酸化膜や酸化性雰囲気下での金属の加熱により作製した酸化膜を用いる場合、酸化膜の膜厚としては、100nm〜10μmの範囲内であることが好ましく、500nm〜5μmの範囲内であることがさらに好ましい。本センサ素子の抵抗値は酸化皮膜の膜厚に依存するため、膜厚が薄すぎると素子の抵抗値が小さくなり結果としてガス感度が低下する場合がある。また、逆に膜厚が厚すぎると素子の抵抗値が大きくなり、この場合も同様にガス感度の低下をまねく場合がある。
【0018】
本発明において使用される水素吸蔵性金属としては、水素吸蔵能力のあるPd、Au、またはPt等を使用することができ、またこれら金属の一つを主成分として、前記の他の成分やAg、Ni、Mo等との合金も同様に使用することができる。前記のPd、AuまたはPtの中でも水素吸蔵能力の最も高いPdが最も好ましく、Pd単独のほかに、Pdを主成分とするAu、Pt、Ag、Ni、Mo等との合金が用いられる。
【0019】
本発明の水素ガスセンサが有するセンサ素子は、上述の金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属が接合することにより形成されている。本センサ素子では、金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属が直接接合し、接合面に電位障壁が生じることで整流作用を持つ。この整流作用がガス吸着により変化することを利用してガス濃度の測定を行っている。
金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属を接合するための接着法としては、特に制限されないが、例えば、前記金属酸化物半導体上への、前記水素吸蔵性金属の真空蒸着やスパッタリング、もしくは金属ペーストのスクリーン印刷等の一般的な手法が例示できる。
【0020】
本発明において、水素ガスを透過し、かつ、酸素ガスの拡散を抑制する機能を有する膜を形成するためには、シリカコーテングが好ましく、シリカコーテングとは、含ケイ素化合物で処理することをいう。具体的には、前記のセンサ素子を含ケイ素有機物もしくは含ケイ素無機化合物を含む溶液・混合液に浸漬、噴霧、塗布などの手段により接触させる、あるいは含ケイ素化合物雰囲気に暴露することなどが例示できる。なお、水素吸蔵性金属表面をシリカコーテングする場合、水素吸蔵性金属を単独でシリカコーテングしてもよいし、前記センサ素子をシリカコーテングして結果として前記センサ素子が有する水素吸蔵性金属がシリカコーテングされてもよい。
【0021】
なお、前記シリカコーテングは、熱処理を伴ってもよく、含ケイ素有機物もしくは含ケイ素無機化合物を含む溶液・混合液に水素吸蔵性金属を浸漬、噴霧、塗布したり、また、含ケイ素化合物雰囲気に暴露することなどを、加熱下で行っても、あるいは、後処理として加熱処理を行ってもよい。
【0022】
センサ素子に浸漬、噴霧、塗布などの手段によりシリカコーテングを行う際の含ケイ素有機物あるいは含ケイ素無機化合物を含む溶液・混合液としては、シリコンアルコキシドまたはオルガノアルコキシシランに、水、アルコール、および、酸を加えることにより得られる加水分解溶液などが好ましく例示できる。
【0023】
シリコンアルコキシドとしては、アルコキシル基をORとするとき、一般式
Si(OR (1)
として表される各種のものを用いることができる。また、オルガノアルコキシシランとしては、アルコキシル基をOR、有機基をR、Xは0〜3の整数とするとき、一般式
Si(OR(4−x) (2)
として表される各種のものを用いることができる。前記式(1)または(2)において、複数存在するRや複数存在するRはそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。アルコキシル基ORを構成する有機基R及び有機基Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の炭素数1〜6の低級アルキル基であってよい。
【0024】
シリコンアルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられ、オルガノアルコキシシランの具体例としては、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリエトキシエチルシラン、
トリメトキシイソブチルシラン、トリエトキシイソブチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジエチルシラン等が挙げられるが、中でも前記一般式(2)において、Rがエチル基であり、かつ、Rがメチル基である、ジエトキシジメチルシランが好ましい。
【0025】
前記の加水分解溶液に使用するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールが好適な例として示される。中でも特に、n−ブタノールを用いることが好ましい。さらに、加水分解を促進する触媒として酸、例えば塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等を加えることが望ましい。加水分解溶液におけるアルコールの水に対する割合はモル比で0.5〜5倍程度、金属アルコキシドは水に対してモル比で0.1〜0.5倍、触媒としての酸は、加水分解溶液におけるpHが1〜5程度となる量が好ましい。より好ましくは、金属アルコキシド、アルコール、水、酸のモル比が1:5:5:0.05付近となるよう加水分解溶液を調製する。
【0026】
本発明において、加水分解溶液を水素吸蔵性金属上やセンサ素子上などに付着させる手段としては、いずれの手法によっても良いが、例えばスピンコート法、ディッピング法等を挙げることができる。水素吸蔵性金属上やセンサ素子上などに付着させた後は、公知の技術により乾燥、焼成させてシリカコーティング膜を得ることができる。加水分解溶液の熟成時間を調節して粘度を制御することにより、付着量を増減できて膜厚を制御できる。また、加水分解溶液の付着、乾燥、焼成の工程を複数回繰り返すことによっても、シリカコーティング膜の膜厚の調整が可能となる。前記の焼成条件としては、例えば、400〜700℃の温度範囲で行うことが好ましい。また、焼成時間としては、0.1〜6時間の範囲内で行うことが好ましい。加熱時における雰囲気としては、酸素含有ガスや大気等の酸化性雰囲気下が好ましい。
【0027】
本発明の水素ガスセンサとしては、金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属との接合により形成されるセンサ素子を有する水素ガスセンサにおいて、前記水素吸蔵性金属表面がシリカコーテングされている限り、どのような形態であっても特に制限されないが、例えば、図2〜図4に示したようなダイオード型やFET型などの水素ガスセンサを例示することができる。
【0028】
本発明の水素ガスセンサは、例えば次のようにして製造することが可能であるが、この例は、本発明を何ら限定するものではない。
使用する金属酸化物半導体に対応する金属(Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、Wなど)からなる金属板の半分を陽極酸化することで、前記金属表面に酸化皮膜を作製し、この酸化皮膜上に真空蒸着やスパッタリング等で水素吸蔵性金属からなる薄膜を積層する。水素吸蔵性金属からなる薄膜上及び陽極酸化していない金属上にはそれぞれリード線接続のためにパッドを備える。この際パッドの素材は任意で、例えばPdの厚膜の他にAuやPt等の厚膜を用いることができる。リード線接続後、含ケイ素化合物を含む溶液にセンサ素子を浸漬、もしくはシリコーン雰囲気にセンサ素子を暴露することで本発明の素子の製造を行うことが可能である。なお、電圧の加え方は、金属板が(−)で、水素吸蔵性金属からなる薄膜が(+)であり、この接続での特性を順方向特性と呼ぶ。
【0029】
本発明におけるセンサ素子は前記のように、解離した水素原子が水素吸蔵性金属中へ固溶することにより金属と金属酸化物半導体間の電位障壁が変化することで、ガスセンサのダイオード特性が変化し、水素ガスを検出すると考えられる。大気下においてシリカコーテング前のセンサ素子では、金属中への水素の固溶と金属表面に吸着した酸素分子と水素との触媒反応が競争するため、大幅な感度の低下が生じる。本発明の水素ガスセンサでは、水素吸蔵性金属表面にシリカコーテングを施すことで含ケイ素化合物が水素吸蔵性金属の表面を覆いコーティング層を形成する。本コーティング層が酸素ガスの拡散抑制層として働くために、水素吸蔵性金属中への水素ガスの固溶が促進され、結果として大気下でも非常に感度の高い水素ガスセンサが得られる。なお、前記に規定したような本発明の水素ガスセンサの構成を有している限り、このような原理以外で水素ガスを検出するものであってもよい。
【0030】
本発明の水素ガスセンサは、前記の規定を充足する限り、その使用形態は特に限定されない。本発明の水素ガスセンサは、水素ガス検出時にセンサ素子の温度が100〜400℃ の範囲内であることが好ましい。センサ素子をこのような温度範囲にする方法としては、例えば、センサ素子の近傍に加熱装置を別途取り付ける等の方法を採用することが可能である。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。図2、図3に本発明で用いたダイオード型のセンサ素子を示す。10は金属のTi板、図2において、12は金属Tiを陽極酸化した陽極酸化TiO膜、図3において、24は酸化性雰囲気下での金属Ti板の加熱により作製した酸化膜を示している。12及び24で示される酸化膜の膜厚は、例えば100nm〜10μm程度である。図2および図3において、14は真空蒸着やスパッタリング等で形成したPd薄膜、16はパッド、18はリードを示す。また、20はリード、22はパッドである。パッド16の材料は任意で、例えばPdの厚膜の他にAuやPt等の厚膜を用いることができる。同様にパッド22の材料も任意であるが、例えばAuやPtあるいはRh、Ag等のPdを含有しない材料が好ましい。素子にはシリカコーテングが施され、表面にはシリカ薄膜が形成される。
【0032】
図4は、FETガスセンサ素子6を示し、30はp型シリコン基板、32、33はそれぞれソース領域、ドレイン領域を示し、その上部にはソース電極34とドレイン電極36とがある。ソース-ドレイン間のゲート領域では、陽極酸化TiO膜12でシリコン基板を被覆し、その上部にPd薄膜14が形成され、センサ素子にはシリカコーテング
が施され、表面にはシリカ薄膜が形成される。
【0033】
図5に駆動回路の例を示す。本駆動回路ではダイオードガスセンサ2に電源42と電流計44とを接続し、ガスセンサ2を流れる電流を測定する。また、ガスセンサ2を例えば外付けヒータ46内に収容し、ヒータ電源48を用いて100〜400℃程度の作動温度に加熱する。図5で電源42を可変電源として示しているのは、電圧(V)−電流(I)特性の測定を行ったためで、実用回路では可変電源を用いる必要はない。
【0034】
<実施例1>
厚さ0.5mm、長さ10mm、幅5mmのTi板の半分を0.5Mの硫酸水溶液中(20℃)に浸漬し、175Vで30分間陽極酸化し、陽極酸化TiO膜12を形成した。陽極酸化膜12上にスパッタリングでPd薄膜14を形成し、パッド16(材質:Pd)およびパッド22(材質:Pt)を介してリード18、20を取り付け、空気中で600℃、1時間焼成し、図2のガスセンサ2とした。陽極酸化膜12はルチル相とアナターゼ相とが混在しており、結晶はTi板に垂直に配向した柱状で、柱状の結晶間には直径50〜130nm程度のナノホールが観察された。シリカコーテング用のゾル溶液はジエトキシジメチルシラン(DEMS)とn−ブタノールに水と塩酸を加えて50℃で3時間還流して調製した。この際、DEMS:n−ブタノール:水:塩酸のモル比は1:5:5:0.05とした。素子表面のシリカコーテングは、ディップコート法により行い、ディップコート→乾燥(80℃、10分)→焼成(600℃、空気中、10分)を1サイクルとして、
このサイクルを1、3、5回繰り返して、センサ素子Aをそれぞれ作製した。比較例として、シリカコーテングを施していないセンサ素子Bを作製し、水素ガスに対する応答波形を比較した。
【0035】
ガス応答性の測定は、センサ素子を空気中で600℃、1時間前処理を行った後、空気中または窒素中で、250℃に保持し、直流電圧0.1Vを印加した状態で、それぞれの雰囲気に水素ガスを0.8%、0.6%、0.4%、0.2%、0.1%の濃度で導入したときの電流値の変化を測定した。測定には、図5の回路を用い、ガスセンサ2は順方向特性を測定するように接続した。
【0036】
図6にセンサ素子Bの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む空気での応答波形を示す。一方で、図7にセンサ素子Bの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む窒素での応答波形を示す。図6と図7を比較すると、センサ素子を流れた電流値は、空気下では窒素下と比較して著しく低いことが解る。これは前記のように、大気下ではPd表面に吸着した酸素分子が水素ガスと触媒的に反応することで消費され、Pd金属中への水素原子の固溶が阻害されるためである。一方で窒素下での水素ガス注入により順方向電流は著しく増加し、しかもその応答が速い。
【0037】
図8にシリカコーテングを施したセンサ素子Aの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む空気での応答波形を示す。センサ素子を流れる電流値は、シリカコーテングの回数と共に上昇し、5回目のシリカコーテングでは未シリカコーテングセンサ素子Bと比較して数十倍程度の電流値の上昇が観測された。また、水素ガスを含まないガス雰囲気下において、シリカコーテング前後でのセンサ素子を流れる電流値には変化が見られなかった。
【0038】
<実施例2>
厚さ0.5mm、長さ10mm、幅5mmのTi板を空気下で、700℃、1時間焼成し、酸化膜を作製した。得られた酸化膜のうちの半分(Ti板の厚さ0.5mm、長さ5mm、幅5mmの部分の表面に形成されたもの)を研磨処理により除去した後、空気酸化膜24上にスパッタリングでPd薄膜14を形成し、パッド16(材質:Pd)および22(材質:Pt)を介してリード18、20を取り付け、空気中で600℃、1時間焼成し、図3のガスセンサ4とした。酸化膜24はルチル相のみで構成されていた。センサ素子のシリカコーテングは実施例1と同様の手法を用いて行い、センサ素子Cを得た。比較例として、シリカコーテングを施していないガスセンサ素子Dを作製し、実施例1と同様にして、水素ガスに対する応答波形を比較した。
【0039】
図9にセンサ素子Dの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む空気に対する応答波形を示す。一方で、図10にセンサ素子Dの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む窒素に対する応答波形を示す。使用したガス雰囲気以外の測定条件は図9と同じであるが、センサ素子を流れた電流値は、空気下では窒素下と比較して著しく低い。一方で窒素下での水素ガス注入により順方向電流は著しく増加する。
【0040】
図11にシリカコーテングを施したセンサ素子Cの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む空気に対する応答波形を示す。センサ素子を流れる電流値は、シリカコーテングの回数と共に上昇し、5回目のシリカコーテングでは未シリカコーテングセンサ素子Dと比較して十倍程度の電流値の上昇が観測された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、周囲のガス雰囲気に影響されずに高感度で正確な水素濃度を測定でき、非常に低い印加電圧下においても高感度で作動する。このため消費電力は低く、経済的に優れたガスセンサであり、今後、急速な普及が予想される燃料電池用として、また自動車用さらに家庭用発電機(コジェネレーション)用として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ダイオードガスセンサの動作モデルを示す図である。このモデルは非特許文献1により提案されたものであり、(a)は空気中での界面ポテンシャルを、(b)は水素中での界面ポテンシャルを示す。
【図2】陽極酸化膜を用いたダイオードガスセンサの要部断面図である。
【図3】空気酸化膜を用いたダイオードガスセンサの要部断面図である。
【図4】FETガスセンサの要部断面図である。
【図5】電流計を用いた水素ガスセンサの駆動回路を示す回路図である。
【図6】センサ素子Bの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む空気に対する応答波形を示す特性図である。
【図7】センサ素子Bの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む窒素に対する応答波形を示す特性図である。
【図8】センサ素子Aの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む空気に対する応答波形を示す特性図である。
【図9】センサ素子Dの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む空気に対する応答波形を示す特性図である。
【図10】センサ素子Dの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む窒素に対する応答波形を示す特性図である。
【図11】センサ素子Cの、250℃での様々な濃度の水素ガスを含む空気に対する応答波形を示す特性図である。
【符号の説明】
【0043】
2 ダイオードガスセンサ
4 ダイオードガスセンサ
6 FETガスセンサ
10 Ti板
12 陽極酸化TiO
14 Pd薄膜
16 パッド
18 リード
20 リード
22 パッド
24 酸化性雰囲気下酸化TiO
30 p型シリコン基板
32 ソース領域
33 ドレイン領域
34 ソース電極
36 ドレイン電極
40 駆動回路
42 電源
44 電流計
46 外付けヒータ
48 ヒータ電源




【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属との接合により形成されるセンサ素子を有する水素ガスセンサにおいて、前記水素吸蔵性金属の表面がその少なくとも一部において水素ガスを透過し、かつ、酸素ガスの拡散を抑制する機能を有する膜でコートされていることを特徴とする水素ガスセンサ。
【請求項2】
金属酸化物半導体と水素吸蔵性金属との接合により形成されるセンサ素子を有する水素ガスセンサにおいて、前記水素吸蔵性金属の表面が、その少なくとも一部においてシリカコーテングされていることを特徴とする水素ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または2において、前記水素吸蔵性金属が、Pd系金属、Au系金属または
Pt系金属である水素ガスセンサ。
【請求項4】
請求項3において、前記水素吸蔵性金属が、Pd系金属である水素ガスセンサ。
【請求項5】
請求項1において、前記水素ガスを透過し、かつ、酸素ガスの拡散を抑制する機能を有する膜が、シリカコーテングにより形成されている水素ガスセンサ。
【請求項6】
請求項2または5において、前記シリカコーテングが、含ケイ素化合物を含む溶液にセンサ素子を浸漬して行われる水素ガスセンサ。
【請求項7】
請求項2または5において、前記シリカコーテングが、含ケイ素化合物雰囲気にセンサ素子を暴露して行われる水素ガスセンサ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、前記金属酸化物半導体が、金属の陽極酸化膜であるか、又は酸化性雰囲気下で金属を加熱することにより作製された酸化膜である水素ガスセンサ。
【請求項9】
請求項8において、前記酸化膜がTiOである水素ガスセンサ。







【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−284327(P2006−284327A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103579(P2005−103579)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年2月21日 国立大学法人長崎大学発行の「大学院生産科学研究科(博士前期課程)物質工学専攻(材料開発工学講座)2年次平成16年度 特別研究最終試問会概要集」に発表
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】