説明

水素バリヤー性被覆物、成形体及び水素バリヤー性被覆物の製造方法

【課題】本発明の目的は、水素による金属脆化を阻止するために、貯蔵用タンク、金属容器、燃料電池や金属パイプに使用できる対水素バリヤー性膜を提供することである。
【解決手段】基材金属の少なくとも水素と接する面に、無機薄膜層及び複合ポリマー層を有する水素バリヤー性被覆物において、前記複合ポリマー層が金属アルコキシド又はその加水分解物、及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを含有する塗工液を塗布・乾燥してなることを特徴とする水素バリヤー性被覆物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスに対するバリヤー性能を有する水素バリヤー性被覆物、成形体及び水素バリヤー性被覆物の製造方法に関し、特に金属の水素脆化に対して優れた保護性能を有する水素バリヤー性被覆物、成形体及び水素バリヤー性被覆物の製造方法に関にする。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの大部分は産業用及び輸送用に消費され、その使用量は全世界的にみて年々増加している。現在、世界で使われているエネルギーの4分の3以上が化石燃料によるものと言われており、地球温暖化や酸性雨等の地球環境問題、資源の枯渇の問題がクローズアップされてきている。化石燃料に代わるエネルギーとして、原子力に加えて太陽エネルギーの利用が脚光を浴びてきている。太陽エネルギーは無尽蔵・無公害でかつ発電にかかるコストも軽微であるため、環境に優しいエネルギー源である。しかし太陽エネルギーに限らず、エネルギーを電力の形態で利用すると、消費地への輸送経路間でのエネルギー損失や電線・変電所の設置費用等、全体の50%程度のコストが輸送にかかるといわれている。エネルギーの有効利用の観点からも、その輸送コストをいかに抑えるかが課題となっている。
【0003】
一方、近年の燃料電池等の進歩により、水素をエネルギーの形態として利用する技術が開発されてきている。燃料電池の使用により、エネルギーを電力の形ではなく水素ガスの形で輸送することが可能になる。その低粘度性により抵抗損や消耗損が少ない水素ガスは、電力エネルギーの電線輸送に対して1/1000位のコストでパイプ輸送することができる。例えば、太陽光発電により水を電気分解し、作った水素をパイプ輸送し、燃料電池により発電することで、エネルギーの効率的な利用が期待できる。
【0004】
さらに、今後のエネルギーを考える上で、輸送と共にエネルギー貯蔵が必須の課題である。太陽エネルギーの貯蔵方法として、熱エネルギーとして貯蔵、発電し蓄電池・キャパシタ等により貯蔵、さらに水素ガスに変換して水素として貯蔵する等がある。水素ガスは例えばタンクによる貯蔵が可能であり最も簡単であり貯蔵コストがかからない。地下に貯蔵タンクを設け空気(酸素)と完全に遮断することにより、石油やLPGの貯蔵と同様、ほとんど危険性がない貯蔵が可能である。
【0005】
水素をエネルギー源として利用するメリットとして、自然のバランスを崩さない点が挙げられる。太陽を無公害エネルギー源として製造した水素により、(1)火力発電所で電気を作る、又は(2)燃料電池で酸素と電気化学的に反応させ電気を作ることができる。双方とも“太陽エネルギーにより水を電気分解し水素と酸素を獲得し、水素を燃料として電気エネルギーを発生させ、水に戻る”という無公害のエネルギーサイクルであり、CO2やその他の汚染物質を発生させないクリーンなシステムである。特に燃料電池は家庭での利用が可能な画期的なクリーンエネルギーとなる。
【0006】
しかしながら、水素は金属の中に潜り込み材質をもろくさせる性質がある(水素脆化)。水素を運搬・貯蔵する場合には、パイプや容器を形成する金属の水素脆化による劣化が大問題となってくる。これに対して比較的ガスバリヤー効果の高いナイロン樹脂を分厚く金属面にコートし、金属面の脆性を防御する対策が行われている。しかし、ナイロン樹脂の水素バリヤー性能は不完全であり、十分な効果を得ようとすると機材の重量を増大させてしまう。このため、例えば車載用の燃料電池に使用するには不適当であった。
【0007】
特開2001-15696号(特許文献1)は、プラズマCVD法で成膜したSiON膜を用いた水素バリヤー層を開示している。特許文献1が開示している技術は、水素ガスの還元反応により起こる半導体装置の性能低下を防止するための特殊な成膜技術に関するものであり、ステンレス容器やパイプに応用するには汎用性が低かった。
【0008】
特開2005-226107号(特許文献2)は、物理蒸着法によりステンレス表面にアルミニウム等を被覆した水素バリヤー被覆物品及びその製造方法を開示している。物理蒸着法によってバリヤ膜を形成する方法は、バリヤー性をより高めるために膜を厚くするとコストがかかり、またピンホールや微細な割れ又は剥がれ等を完全になくすことが困難であった。
【0009】
金属容器やパイプを水素脆化からどの程度守れるかという点に対し、各種有機ポリマーや無機・有機ハイブリッド膜を作製し、それらの膜の水素透過性を測定し評価した。特許第556940号(特許文献3)、特許第2880654号(特許文献4)、特開2001-219506号(特許文献5)、特開2000-71396号(特許文献6)に記載の食品包装用及び電子部品用バリヤー性膜、並びにその積層フィルムは、文献に記載のO2及びH2Oに対するバリヤー性能のみではなく、対水素バリヤー性に関しても優れた性能を示すことを確認した。しかし特許文献3〜6に記載のバリヤー性膜及びその積層フィルムを水素貯蔵用の金属容器や、水素輸送用の金属パイプに応用しようとすると、金属表面とバリヤー性膜との接着性が不十分なため耐久性にかけることが解った。
【0010】
水素燃料を実用化に供するためには、貯蔵用タンク、金属容器、燃料電池や金属パイプ等を対水素バリヤー性膜により完全に被覆し、水素による金属脆化を阻止する必要がある。また、500km以上の遠距離のエネルギー輸送を考えた場合、電力による輸送ではロスが大きすぎ水素ガスによる輸送に期待がかかることから、金属パイプに対する水素バリヤー性膜が必要不可欠であり、対水素バリヤー性膜に対する重大な依存と絶大な期待がある。
【0011】
【特許文献1】特開2001-15696号
【特許文献2】特開2005-226107号
【特許文献3】特許第556940号
【特許文献4】特許第2880654号
【特許文献5】特開2001-219506号
【特許文献6】特開2000-71396号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、水素による金属脆化を阻止するために、貯蔵用タンク、金属容器、燃料電池や金属パイプ等に使用できる対水素バリヤー性被覆物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的に艦み鋭意研究の結果、本発明者らは、基材金属の少なくとも片面に無機薄膜層を形成し、アルコキシラン又はその加水分解物、及び/又はシランカップリング剤又はその加水分解物、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを適宜選択し、ゾル−ゲル法により重縮合して得られる混合液を塗布・乾燥して得られる複合ポリマー層を形成させることにより、対水素バリヤー性に優れ基材金属との接着性にも優れた被覆物が得られることを見いだし本発明に想到した。すなわち本発明は以下の、基材金属の少なくとも片面に形成されてなる水素バリヤー性被覆物及び成形体、並びに水素バリヤー性被覆物の製造方法により達成される。
【0014】
(1) 基材金属の少なくとも水素と接する面に、無機薄膜層及び複合ポリマー層を有する水素バリヤー性被覆物において、前記複合ポリマー層が金属アルコキシド又はその加水分解物、及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを含有する塗工液を塗布・乾燥してなることを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【0015】
(2) 前記(1)に記載の水素バリヤー性被覆物において、前記基材金属と前記無機薄膜層との間にさらに熱可塑性樹脂層を有することを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【0016】
(3) 前記(1)又は(2)に記載の水素バリヤー性被覆物において、前記金属アルコキシド又はその加水分解物がアルコキシシラン又はその加水分解物であることを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【0017】
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物において、前記塗工液にさらにシランカップリング剤又はその加水分解物を含有することを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【0018】
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物において、前記無機薄膜層が無機蒸着膜、ゾル−ゲル法による緻密な無機コーティング膜、及びLPD法(液相析出法;Liquid-Phase-Deposition)による緻密な無機コーティング膜から選ばれた少なくとも1つの膜からなることを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【0019】
(6) 前記(3)〜(5)のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物において、前記複合ポリマー層が前記アルコキシシラン及び/又は前記シランカップリング剤の加水分解物が重縮合してなるポリシロキサンに前記ポリビニルアルコール及び/又は前記エチレン−ビニルアルコールコポリマーが脱水結合した構造を有することを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【0020】
(7) 前記(1)〜(6)のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物を、水素貯蔵用の金属容器又は水素輸送用の金属パイプの、少なくとも水素と接する面に被覆したことを特徴とする水素バリヤー性成形体。
【0021】
(8) 複合ポリマー層を有する水素バリヤー性被覆物の製造方法であって、(a)金属容器及び/又は金属パイプの少なくとも水素と接する面に無機薄膜層を形成し、(b)金属アルコキシド又はその加水分解物、及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを含有し、ゾル−ゲル法により少なくとも部分的に重縮合した複合ポリマーを含有する塗工液を調整し、(c)前記無機薄膜層上に前記塗工液を塗布・乾燥し、(d)50〜150℃で熱処理することにより前記無機薄膜層の表面に結合した複合ポリマー層を形成することを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【0022】
(9) 複合ポリマー層を有する水素バリヤー性被覆物の製造方法であって、(a)金属容器及び/又は金属パイプの少なくとも水素と接する面に熱可塑性樹脂を形成し、(b)前記熱可塑性樹脂層上に無機薄膜層を形成し、(c)金属アルコキシド又はその加水分解物及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを含有し、ゾル−ゲル法により少なくとも部分的に重縮合した複合ポリマーを含有する塗工液を調整し、(d)前記無機薄膜層上に前記塗工液を塗布・乾燥し、(e)50〜150℃で熱処理することにより前記無機薄膜層の表面に結合した複合ポリマー層を形成することを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【0023】
(10) 複合ポリマー層を有する水素バリヤー性被覆物の製造方法であって、(a)熱可塑性樹脂の少なくとも片面に無機薄膜層を形成し、(b)金属アルコキシド又はその加水分解物及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを含有し、ゾル−ゲル法により少なくとも部分的に重縮合した複合ポリマーを含有する塗工液を調整し、(c)前記無機薄膜層上に前記塗工液を塗布・乾燥し、(d)50〜150℃で熱処理することにより前記無機薄膜層の表面に結合した複合ポリマー層を形成してなる水素バリヤー性積層膜を、金属容器及び/又は金属パイプの少なくとも水素と接する面に貼り合わせることにより得られることを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【0024】
(11) 前記(8)〜(10)のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物の製造方法において、前記金属アルコキシド又はその加水分解物がアルコキシシラン又はその加水分解物であることを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【0025】
(12) 前記(8)〜(11)のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物の製造方法において、前記複合ポリマーを含有する塗工液にシランカップリング剤又はその加水分解物を含有することを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【0026】
(13) 前記(8)〜(12)のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物の製造方法において、前記無機薄膜層が無機蒸着法、ゾル−ゲル法、及びLPD法(液相析出法;Liquid-Phase-Deposition)から選ばれた少なくとも1つの方法により形成されたことを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の水素バリヤー性被覆物は、金属容器や金属パイプ等の基材金属に水素バリヤー性を付与し、水素ガスの保存タンクや輸送パイプ等の水素脆化を防止することができる。その結果、諸般の要望に応え得る対水素バリヤー性を確立し、水素燃料の実用化に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[1]水素バリヤー性被覆物
本発明の水素バリヤー性被覆物は、金属容器・金属パイプ等の基材金属の少なくとも水素と接する面に無機薄膜層及び複合ポリマー層を形成してなる。基材金属と無機薄膜層との間には熱可塑性フィルムを有してもよい。
【0029】
本発明の第一の水素バリヤー性被覆物[図1(a)]は、基材金属の少なくとも水素と接する片面に無機薄膜層を形成し、さらに少なくとも1層の複合ポリマー層を形成した後、得られた積層フィルムを必要に応じて加熱することにより得られる。
本発明の第二の水素バリヤー性被覆物[図1(b)]は、あらかじめ熱可塑性樹脂フィルムでラミネートした基材金属上に、無機薄膜層及び複合ポリマー層を形成するか、又は熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層及び複合ポリマー層を形成した水素バリヤー性複合膜を基材金属上にラミネートして得られる。
【0030】
(1)基材金属・基材熱可塑性樹脂
基材となる金属は、鉄・ステンレス・アルミ・銅・スズ・鉛等特に限定されない。その形態は板状・管・燃料電池のセパレータ・成形体等どのような形態をとってもよいが、水素ガスを貯蔵するための容器又は水素ガスを輸送するためのパイプであることが好ましい。基材金属上にはあらかじめ熱可塑性樹脂フィルムをラミネートしてもよく、熱可塑性樹脂フィルムとしてはポリエステル・ポリオレフィン・ポリアミド等、又はこれらの2種以上を溶融混合したものが好ましい。また熱可塑性樹脂フィルムを基材とした無機薄膜層及び複合ポリマー層を有する水素バリヤー性複合膜をあらかじめに形成した後に、基材金属に貼り付ける場合も前述と同様の熱可塑性樹脂が使用できる。ここで使用する熱可塑性樹脂は基材金属との接着性に優れたものが好ましく、必ずしも水素ガスバリヤー性に優れている必要はない。熱可塑性樹脂を基材金属にラミネートするには、公知の方法を用いることができる。
【0031】
(2)無機薄膜層
水素ガスバリヤー性を高め、かつ複合ポリマー層の接着性を高めるため、基材金属上又は熱可塑性樹脂フィルム上に、シリカ・アルミナ等からなる無機薄膜層を形成する。無機薄膜層の厚さは8〜800nmであるのが好ましく、80〜100nmであるのが特に好ましい。また複数の無機薄膜層を積層することにより、さらなるガスバリヤー性の向上が可能である。
【0032】
(3)複合ポリマー層
本発明の水素バリヤー性被覆物は、水素バリヤー性に優れ、無機薄膜層との接着性に優れた複合ポリマー層を有する。
【0033】
(i)塗工組成物
複合ポリマー層の形成に用いる塗工組成物は、金属アルコキシド又はその加水分解物、及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを必須成分とし、シランカップリング剤又はその加水分解物を必要に応じて含有する。金属アルコキシド又はその加水分解物は、アルコキシシラン又はその加水分解物であることが好ましい。
【0034】
(a)金属アルコキシド
金属アルコキシドとしては、ゾル−ゲル法により金属酸化物の固体膜を形成できる化合物ならどのようなものでもよい。好ましい化合物としては、アルコキシシラン、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド等の化合物が挙げられる。中でもアルコキシシラン、ジルコニウムアルコキシド及びチタンアルコキシドが好ましく、アルコキシシランが最も好ましい。金属アルコキシドは、2種以上を併用して用いてもよい。2種以上を併用する場合は、少なくとも1種がアルコキシシランであることが好ましい。複合ポリマー層の塗工液中の金属アルコキシドの含有量は、0.001〜0.5質量%であることが好ましく、0.01〜0.3質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
アルコキシシランは、Si(OR1)4(ただしR1は炭素数1〜6の低級アルキル基である。)で表されるものが好ましい。具体的には、Si(OCH3)4、Si(OC2H5)4等が挙げられるが、Si(OC2H5)4を用いるのが好ましい。必要に応じて、アルコキシシランと共に、珪素以外の金属アルコキシド(ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド等)のアルコキシドを添加してもよい。
【0036】
ジルコニウムアルコキシドは、Zr(OR2)4(ただしR2は炭素数1〜6の低級アルキル基である。)で表されるものが好ましい。具体的には、Zr(OCH3)4、Zr(OC2H5)4、Zr(O-iso-C3H7)4、Zr(O-tert-C4H9)4、Zr(O-n-C4H9)4等が挙げられる。これらのジルコニウムアルコキシドを2種以上混合して用いてもよい。ジルコニウムアルコキシドはアルコキシシランと併用して用いるのが好ましい。ジルコニウムアルコキシドを塗工組成物に添加することにより、得られる複合ポリマー層の緻密度、靭性、耐熱性等が向上する。
【0037】
ジルコニウムアルコキシドをアルコキシシランと併用して使用する場合の含有量は、アルコキシシラン100重量部に対して10重量部以下の範囲が好ましく、1〜7重量部がより好ましく、4〜6重量部が特に好ましい。10重量部超とすると、複合ポリマーがゲル化しやすくなり、脆性が大きくなるため、複合ポリマー層が無機薄膜層から剥離しやすくなる。
【0038】
チタンアルコキシドは、Ti(OR3)4(ただしR3は炭素数1〜6の低級アルキル基である。)で表されるものが好ましい。具体的には、Ti(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(O-iso-C3H7)4、Ti(OC4H9)4等が挙げられる。これらのチタンアルコキシドを2種以上混合して用いてもよい。チタンアルコキシドはアルコキシシランと併用して用いるのが好ましい。チタンアルコキシドを塗工組成物に添加することにより、得られる複合ポリマー層の熱伝導率が低くなり、被覆物の耐熱性が著しく向上する。
【0039】
チタンアルコキシドをアルコキシシランと併用して用いる場合の含有量は、アルコキシシラン100重量部に対して5重量部以下の範囲が好ましく、0.1〜4.0重量部がより好ましく、2.0〜4.0重量部が特に好ましい。チタンアルコキシドが5重量部超とすると、形成される複合ポリマー層の脆性が大きくなり、複合ポリマー層が無機薄膜層から剥離しやすくなる。
【0040】
アルミニウムアルコキシドは、Al(OR4)3(ただしR4は炭素数1〜6の低級アルキル基である。)で表されるものが好ましい。具体的には、Al(OCH3)3、Al(OC2H5)3、Al(O-iso-C3H7)3、Al(OC4H9)3等が挙げられる。これらのアルミニウムアルコキシドを2種以上混合して用いてもよい。アルミニウムアルコキシドはアルコキシシランと併用して用いるのが好ましい。
【0041】
(b)ポリビニルアルコール
ポリビニルアルコールは高結晶性を持つポリマーであり、分子間の隙間が小さく、ガスとの親和性が小さいためガスバリヤー性が良い。ガスに対する吸着性、拡散性及び脱着性の作用の大きい極性基を有しており、その分子構造は対称性を有しているため、良好なガスバリヤー性を有する。ポリビニルアルコールの重合度は1000〜3500の範囲が好ましい。また鹸化率は、性能上は完全鹸化が好ましいが、溶解度等の製造適性を考慮して、90〜99%の範囲が好ましく、98〜98.5%の範囲がさらに好ましい。
【0042】
ポリビニルアルコールの含有量は金属アルコキシドの固形分100重量部に対して10〜200重量部であるのが好ましく、20〜50重量部であるのが特に好ましい。ポリビニルアルコールが200重量部超とすると、形成される複合ポリマー層の脆性が大きくなってしまい、また耐水性が低下する。10重量部未満であると十分なガスバリヤー性能が得られない。
【0043】
(c)エチレン-ビニルアルコールコポリマー
エチレン-ビニルアルコールコポリマーはエチレンとビニルアルコールとのランダムコポリマーであり、エチレン/ビニルアルコールのモル比率は20/80〜50/50であるのが好ましい。エチレン-ビニルアルコールコポリマーの添加により、複合ポリマー層のガスバリヤー性、耐水素性、耐侯性が向上する。エチレン-ビニルアルコールコポリマーの重合度は1000〜1700の範囲が好ましく、鹸化率は90〜99%の範囲が好ましく、98〜98.5%の範囲がさらに好ましい。
【0044】
複合ポリマー中におけるエチレン-ビニルアルコールコポリマーの含有量は、金属アルコキシドの固形分100重量部に対して、1〜100重量部であるのが好ましく、5〜25重量部であるのがより好ましい。エチレン-ビニルアルコールコポリマーが100重量部超とすると、形成される複合ポリマーの脆性が大きくなり、積層フィルムは十分なガスバリヤー性が得られない。
【0045】
(d)シランカップリング剤
シランカップリング剤は、一分子中に有機官能基と加水分解基を有し、無機物と有機樹脂との接着性を向上させ、それにより複合ポリマー層のガスバリヤー性、耐熱水性を高めることができる。シランカップリング剤は組成式:(Y)nSiX4-n(式中、Xは加水分解性基を表し、Yは有機官能基を表す。nは1〜3の整数である。)で表される。Yの有機官能基としては、エポキシ基、ビニル基、アミノ基等の官能基が挙げられ、特にエポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好ましい。Xの加水分解性基としてはアルコキシ基、アセトキシ基、塩素原子等が挙げられ、特にアルコキシ基が好ましい。シランカップリング剤としては、例えばγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が好ましい。このようなシランカップリング剤は2種以上を混合して用いてもよい。シランカップリング剤の使用量は、金属アルコキシド100重量部に対して1〜20重量部であるのが好ましい。20重量部超のシランカップリング剤を使用すると、形成される複合ポリマーの剛性と脆性が大きくなり、複合ポリマー層の加工性が低下する。
【0046】
(ii)厚さ及び特性
複合ポリマー層の中の、例えば珪素原子は無機薄膜層中の金属原子と酸素を介して結合しているため、接着強度は十分に大きい。このような複合ポリマー層の厚さは0.01〜10 μmで、特に0.05〜2 μm程度であるのが好ましい。複合ポリマー層は単層でも良いが、複合ポリマー層の厚さが大きすぎると乾燥時又は加熱時に無機薄膜層から剥離するおそれがあるため、膜厚を大きくしたい場合には、同一又は異なる組成の複数の複合ポリマー層を積層するのが好ましい。
【0047】
[2]水素バリヤー性被覆物の製造方法
(1)無機薄膜層の形成
基材金属又は基材熱可塑性樹脂フィルム上に蒸着法(真空蒸着法、スパッタリング法等)、ゾル-ゲル法又はLPD法(液相析出法;Liquid Phase Deposition)等により無機薄膜層を形成するのが好ましい。ゾル-ゲル法は、アルコキシシラン等の金属アルコキシドを加水分解・重縮合し、得られた塗工液を基材金属又は基材熱可塑性樹脂フィルム上に塗布する方法である。LPD法は、例えば水溶液中で金属フルオロ錯体の加水分解平衡反応系(配位子置換反応)に、フッ化物イオンと容易に反応してより安定な化合物を生成するホウ酸(フッ化物イオン捕捉剤)を添加することにより、系中の遊離のフッ化物イオンとより安定な錯イオンを形成させ、上記平衡反応系を酸化物析出側ヘシフトさせて、反応水溶液に浸漬した基板上に酸化物薄膜を析出させる方法である。本発明の水素バリヤー性被覆物においては、生産性の観点から蒸着法によって無機薄膜層を形成するのが最も好ましい。
【0048】
(2)複合ポリマー層の形成
アルコキシシラン等の金属アルコキシド又はその加水分解物、及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを必須成分とし、必要に応じてシランカップリング剤又はその加水分解物を含有する塗工組成物、及び触媒を、水及び有機溶媒に溶解することにより塗工液とする。
【0049】
(a)ゾル-ゲル触媒
ゾル-ゲル法触媒は酸触媒又はアルカリ触媒のいずれでも良い。酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸、及び酢酸、酒石酸等の有機酸が好ましい。酸の使用量は、金属アルコキシド1モル当たり、0.001〜0.05モルであるのが好ましく、0.005〜0.02モルであるのがより好ましい。
【0050】
アルカリ触媒としては、水に実質的に不溶で有機溶媒に可溶な第三アミンが好ましい。N,N-ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等が挙げられ、特にN,N-ジメチルベンジルアミンが好適である。第三アミンの使用量は、金属アルコキシド100重量部当たり、0.001〜1重量部であるのが好ましく、0.001〜0.2重量部であるのがより好ましく、0.002〜0.01重量部であるのが特に好ましい。
【0051】
(b)溶媒
溶媒としては、水と金属アルコキシドが可溶な有機溶媒との混合溶媒が好ましい。水の添加量は、金属アルコキシド1モルに対して0.8〜2モルが好ましく、1.2〜1.8モルがより好ましい。この範囲内の水の添加量では、金属アルコキシドは実質的に直鎖状で非晶質のポリマーになる。さらに、得られるポリマー分子内に極性基(OH基)が部分的に存在し、分子の凝集エネルギーが高い。水の添加量が2モルを超すと、金属アルコキシドから得られるポリマーが球状粒子となり、さらに球状粒子同士が三次元的に架橋して低密度の多孔性ポリマーとなってしまう。その結果、形成された複合ポリマー層は水素ガスバリヤー性を有さなくなる。水の添加量が0.8モル未満であると、加水分解反応が進行しにくい。
【0052】
金属アルコキシドが可溶な有機溶媒としては、水と混合する溶媒であればどのようなものでも使用できるが、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等のアルコール類が好ましい。エチレン-ビニルアルコールコポリマーとの相溶性の観点から、n-プロピルアルコール及びイソプロピルアルコールが特に好ましい。有機溶媒の添加量は、金属アルコキシド、ポリビニルアルコール及びエチレン-ビニルアルコールコポリマーの合計100重量部当たり、30〜100重量部であるのが好ましい。
【0053】
(c) 塗布
前述のようにして得られた塗工液は無機薄膜層の表面に塗布する。アルコキシシラン等の金属アルコキシド又はシランカップリング剤は、触媒の作用により水酸基を有する加水分解物を生成する。これらの加水分解生成物は、水酸基からプロトンが奪取され、加水分解生成物同士が脱水重縮合したSi-O-Si、Si-O-Zr、Si-O-Ti等の結合からなる無機質部分と、ポリビニルアルコール及びエチレン-ビニルアルコールコポリマーの水酸基と脱水縮合した三次元網目構造の重縮合物(例えば式(1)〜(3) に示す直鎖状複合ポリマー)を生成する。これらの反応は常温で進行し、それにより塗工液の粘度は増大する。調整時の塗工液の温度は23〜25℃であるのが好ましく、粘度は20〜50 mPa・sの範囲が好ましい。また、塗布時の塗工液の温度は23〜25℃であるのが好ましく、粘度は20〜50 mPa・sの範囲が好ましい。塗工液は調整後30〜60分の間に塗布することが好ましい。
【0054】
式(1)は、アルコキシシランの重縮合ポリマーとポリビニルアルコールとが重縮合する反応式を示す。式(2)は、アルコキシシランの重縮合ポリマーとエチレン-ビニルアルコールコポリマーとが重縮合する反応式を示す。式(3)は、アルコキシシランの重縮合ポリマーとポリビニルアルコール及びエチレン-ビニルアルコールコポリマーとが重縮合して生成する直鎖状複合ポリマーを示す。式(1)〜(3)において、R及びR'は水素原子又はアルキル基を表し、m1、m2及びm3はそれぞれ1以上の整数を表す。
【0055】
【化1】

【0056】
【化2】

【0057】
【化3】

【0058】
(d)加熱処理
金属・熱可塑性フィルム及び被覆物表面に形成した対水素バリヤー性膜を50〜150℃で30秒〜10分間加熱すると重縮合反応が完結し、透明な複合ポリマー層が無機薄膜層上に形成される。なお乾燥工程と加熱工程を分けて行っても良いが、通常は上記温度に保持することにより、乾燥と同時に重縮合反応を行う。無機薄膜層及び複合ポリマー層をさらに積層させる場合、各層ごとに加熱処理を施すのが好ましい。
【0059】
本発明の水素バリヤー性被覆物は、図2に示すように、基材金属に形成された無機薄膜層(シリカ薄膜層を例示)の表面の水酸基と、複合ポリマー層中の加水分解生成物の水酸基とが脱水縮合しSi-O-Siの結合を形成するため、基材金属に形成されたシリカ蒸着層と複合ポリマー層とは強固な接着性を有する。またシリカ蒸着フィルムの欠点であるピンホールや微細な割れ又は剥がれ等があっても、それらに複合ポリマーが充填されるため、得られた水素バリヤー性被覆物は非常に高いガスバリヤー性能を有する。さらに複合ポリマーは柔軟性を有するため、得られた水素バリヤー性被覆物は屈曲等によるクラック等は生じない。
【実施例】
【0060】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
表1に示す組成に従って、エチレン-ビニルアルコールコポリマー(EVOH、エチレン共重合比率29モル%)をn-プロピルアルコール及びイオン交換水の混合溶媒に溶解した組成aのEVOH溶液1に、エチルシリケート40(コルコート社製、下記式(4)で示されるテトラエトキシシランの加水分解生成物)、エタノール、アセチルアセトンアルミニウム、イオン交換水、及びN,N-ジメチルベンジルアミンからなる組成bの加水分解液1を加えて攪拌した。さらにポリビニルアルコール水溶液(濃度10質量%)、シランカップリング剤(エポキシシリカSH6040)、エタノール及びイオン交換水からなる組成cのPVA混合液1を加えて攪拌し、淡黄色透明の複合ポリマー層塗工液1を得た。塗工液の調整はすべて23〜25℃で行った。塗布時の塗工液の粘度は20〜50 mPa・sであった。
【0062】
シリカを0.02 μm蒸着した厚さ12 μmのPETフィルムに、複合ポリマー層塗工液1をメイヤーバーにて塗工し、送風乾燥炉にて100℃で30秒間熱処理を行い、塗膜厚0.5 μmの無色透明かつ光沢のあるバリヤーフィルムを得た。
【0063】
このバリヤーフィルムの水素ガス透過速度は、水素ガス透過率測定装置(GPM-250、ジーエルサイエンス社製)を用いて23℃の条件下で測定したところ、0.01 ml/m2/dayであった。
【0064】
【化4】

【0065】
【表1】

【0066】
(実施例2)
表2に示す組成に従って、エチレン-ビニルアルコールコポリマー(EVOH、エチレン共重合比率32モル%)をn-プロピルアルコール及びイオン交換水の混合溶媒に溶解した組成aのEVOH溶液2に、エチルシリケート40(コルコート社製)、n-プロピルアルコール、HCl、イオン交換水、及びN,N-ジメチルベンジルアミンからなる組成bの加水分解液2を加えて攪拌・混合し、無色透明の複合ポリマー層塗工液2を得た。塗工液の調整はすべて23〜25℃で行った。塗布時の塗工液の粘度は20〜50 mPa・sであった。
【0067】
アルミナを0.02 μm蒸着した厚さ12 μmのPETフィルムに、複合ポリマー層塗工液2をメイヤーバーにて塗工し、送風乾燥炉にて120℃で30秒間熱処理を行い、塗膜厚0.5 μmの無色透明かつ光沢のあるバリヤーフィルムを得た。
【0068】
このバリヤーフィルムの水素ガス透過速度は、水素ガス透過率測定装置(GPM-250、ジーエルサイエンス社製)を用いて23℃の条件下で測定したところ、0.05 ml/m2/dayであった。
【0069】
【表2】

【0070】
(実施例3)
表3に示す組成に従って、ポリビニルアルコール水溶液(10質量%)とシランカップリング剤(エポキシシリカSH6040)をエタノール及びイオン交換水の混合溶媒に溶解した組成aのPVA混合液3に、エチルシリケート40(コルコート社製)、イソプロピルアルコール、HCl、イオン交換水、及びN,N-ジメチルベンジルアミンからなる組成bの加水分解液3を加えて攪拌・混合し、無色透明の複合ポリマー層塗工液3を得た。塗工液の調整はすべて23〜25℃で行った。塗布時の塗工液の粘度は20〜50 mPa・sであった。
【0071】
アルミナを0.02 μm蒸着した厚さ12 μmのPETフィルムに、複合ポリマー層塗工液3をメイヤーバーにて塗工し、送風乾燥炉にて120℃で30秒間熱処理を行い、塗膜厚0.5 μmの無色透明かつ光沢のあるバリヤーフィルムを得た。
【0072】
このバリヤーフィルムの水素ガス透過速度は、水素ガス透過率測定装置(GPM-250、ジーエルサイエンス社製)を用いて23℃の条件下で測定したところ、0.01 ml/m2/dayであった。
【0073】
【表3】

【0074】
(比較例1)
アルミナを0.02 μm蒸着しただけの、厚さ12 μmのPETフィルムの水素ガス透過速度は、水素ガス透過率測定装置(GPM-250、ジーエルサイエンス社製)を用いて23℃の条件下で測定したところ、5.3 ml/m2/dayであった。
【0075】
以上の結果から、実施例1〜3の複合ポリマー層を有するバリヤーフィルムは、複合ポリマー層を有さない比較例1に比べて水素ガスの透過速度が著しく低いことが解る。従って本発明の水素バリヤー性被覆物は、水素ガスの遮断効果に優れ、金属の水素脆化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1(a)】本発明の請求項1に記載の水素バリヤー性被覆物の層構成を表す概念図である。
【図1(b)】本発明の請求項2に記載の水素バリヤー性被覆物の層構成を表す概念図である。
【図2】複合ポリマーとシリカ薄膜層との結合モデルを示す概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材金属の少なくとも水素と接する面に、無機薄膜層及び複合ポリマー層を有する水素バリヤー性被覆物において、前記複合ポリマー層が金属アルコキシド又はその加水分解物、及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを含有する塗工液を塗布・乾燥してなることを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【請求項2】
請求項1に記載の水素バリヤー性被覆物において、前記基材金属と前記無機薄膜層との間にさらに熱可塑性樹脂層を有することを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水素バリヤー性被覆物において、前記金属アルコキシド又はその加水分解物がアルコキシシラン又はその加水分解物であることを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物において、前記塗工液にさらにシランカップリング剤又はその加水分解物を含有することを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物において、前記無機薄膜層が無機蒸着膜、ゾル−ゲル法による緻密な無機コーティング膜、及びLPD法(液相析出法;Liquid-Phase-Deposition)による緻密な無機コーティング膜から選ばれた少なくとも1つの膜からなることを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物において、前記複合ポリマー層が前記アルコキシシラン及び/又は前記シランカップリング剤の加水分解物が重縮合してなるポリシロキサンに前記ポリビニルアルコール及び/又は前記エチレン−ビニルアルコールコポリマーが脱水結合した構造を有することを特徴とする水素バリヤー性被覆物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物を、水素貯蔵用の金属容器又は水素輸送用の金属パイプの、少なくとも水素と接する面に被覆したことを特徴とする水素バリヤー性成形体。
【請求項8】
複合ポリマー層を有する水素バリヤー性被覆物の製造方法であって、(a)金属容器及び/又は金属パイプの少なくとも水素と接する面に無機薄膜層を形成し、(b)金属アルコキシド又はその加水分解物、及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを含有し、ゾル−ゲル法により少なくとも部分的に重縮合した複合ポリマーを含有する塗工液を調整し、(c)前記無機薄膜層上に前記塗工液を塗布・乾燥し、(d)50〜150℃で熱処理することにより前記無機薄膜層の表面に結合した複合ポリマー層を形成することを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【請求項9】
複合ポリマー層を有する水素バリヤー性被覆物の製造方法であって、(a)金属容器及び/又は金属パイプの少なくとも水素と接する面に熱可塑性樹脂を形成し、(b)前記熱可塑性樹脂層上に無機薄膜層を形成し、(c)金属アルコキシド又はその加水分解物及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを含有し、ゾル−ゲル法により少なくとも部分的に重縮合した複合ポリマーを含有する塗工液を調整し、(d)前記無機薄膜層上に前記塗工液を塗布・乾燥し、(e)50〜150℃で熱処理することにより前記無機薄膜層の表面に結合した複合ポリマー層を形成することを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【請求項10】
複合ポリマー層を有する水素バリヤー性被覆物の製造方法であって、(a)熱可塑性樹脂の少なくとも片面に無機薄膜層を形成し、(b)金属アルコキシド又はその加水分解物及びポリビニルアルコール及び/又はエチレン-ビニルアルコールコポリマーを含有し、ゾル−ゲル法により少なくとも部分的に重縮合した複合ポリマーを含有する塗工液を調整し、(c)前記無機薄膜層上に前記塗工液を塗布・乾燥し、(d)50〜150℃で熱処理することにより前記無機薄膜層の表面に結合した複合ポリマー層を形成してなる水素バリヤー性積層膜を、金属容器及び/又は金属パイプの少なくとも水素と接する面に貼り合わせることにより得られることを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物の製造方法において、前記金属アルコキシド又はその加水分解物がアルコキシシラン又はその加水分解物であることを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物の製造方法において、前記複合ポリマーを含有する塗工液にシランカップリング剤又はその加水分解物を含有することを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の水素バリヤー性被覆物の製造方法において、前記無機薄膜層が無機蒸着法、ゾル−ゲル法、及びLPD法(液相析出法;Liquid-Phase-Deposition)から選ばれた少なくとも1つの方法により形成されたことを特徴とする水素バリヤー性被覆物の製造方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−144783(P2007−144783A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342206(P2005−342206)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000150246)株式会社中戸研究所 (9)
【Fターム(参考)】