説明

水素分離用混合プロトン/電子伝導性セラミック膜

プロトン伝導性セラミック相および電子伝導性セラミック相を備えた多相混合プロトン/電子伝導性材料。膜を越えた水素の分圧傾斜の存在下で、上記材料を用いて製造した膜はプロトン伝導性のセラミック相を通して水素イオンを、電子伝導性のセラミック相を通して電子を選択的に輸送し、膜による極めて高い純度の水素透過浸透を生じる。該材料は高い電子伝導性を有し、水素ガスの輸送は材料のプロトン伝導性によって律速される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にプロトン伝導性相としてのペロブスカイト型酸化物材料と著しい電子伝導性を示すセラミック酸化物相とを組み合わせて圧力駆動水素精製/分離方法に使用できる混合プロトン/電子伝導体である複合セラミック材料とすることにより構成した2相の水素透過膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の金属、セラミックおよび重合体膜が、ガス流からH2を分離するために使用されてきた。最も一般的な金属膜材料はパラジウム(Pd)およびパラジウム合金である(特許文献1および2参照)。しかしながら、これらの材料は0.5の百万分の一(0.5ppm)のような低い濃度の炭化水素によって被毒されるため、原料合成ガスからHを分離するのに不適であった。さらに、50ppmより高い酸素濃度は、Pdの存在下で水素の水への触媒酸化を引き起こして上記膜の局部的なホットスポット及び初期故障になる。また、多くの有機膜(例えばナフィオン(登録商標))がプロトン伝導体として認められているが、これらは低温(150℃未満)での用途のためのもので、かかる温度においてさえCOガスによって大幅に劣化される。
【0003】
近年、セラミック膜が合成ガス等のガス流から水素ガスを精製するのに用いるために研究されてきた。例えば、タニグチらによる特許文献3にはBaCe1−x、ここでMは金属ドーパンとであるところのペロブスカイト型酸化物が高温で高いプロトン伝導性を有することを示している。これら化合物は混合イオン/電子伝導体であるけれども、それらの電子伝導性はイオン伝導性に較べて非常に低いので、圧力駆動型膜装置には有用でなかった。
【0004】
さらに最近、ワクスマン等の特許文献4,5は、ペロブスカイトBaCe1-xx3の”M”サイトを適当に置換することによって、電子伝導性をかなり増加させることができることを示している。適当な多価遷移金属およびランタニドカチオンの置換により、電子伝導性は、混合伝導性膜による水素の流量がLa1-ySryCo1-xx3に基づく類似の混合伝導性酸素イオン膜によるO2の流量に匹敵した点まで向上した。しかしながら、ワクスマン等は、ガス流から水素を精製するための経済的に採算性のある方法に至らなかった。依然として市販化を妨げる他の問題が残っており、それはすなわち水素の流速が商業的に実行可能な装置を提供するにまだ十分でなく、また膜が合成ガス環境下で十分な熱化学的安定性を持っていることを示さなかったということである。
【0005】
別のドーパントは電子伝導性を上昇させる結果となったけれども、電子伝導性の上昇は、圧力駆動水素分離膜として効果的に機能するための膜としては不十分である。或いはまた、電子伝導性相とプロトン伝導性相が緻密なセラミック中に浸透性のネットワークを形成する二相複合材料を製造することができれば、プロトンおよび電子の流量を独立して制御することが可能になる。アルゴンヌ国立研究所(ANL)は水素分離用混合伝導性膜を製造するための緻密なセラミック/金属複合材料を開発している(非特許文献1および非特許文献2)。ANLグループは、金属相が水素伝導体、すなわちパラジウムである場合に、15cc/cm/分の高い水素流量を報告している。しかしながら、Pdが高温で炭化水素によって著しく被毒されるため、Pd系サーメットは合成ガスからHを分離するためのよい選択肢でない。非水素伝導性のプロトン相を用いた場合、ANLのグループによって発表された最もよい流量は1cc/cm/分以下である。さらに、熱化学的および熱機械的な安定性を有する適切な金属第2相を選択することも関連がある。多くの金属は高温でHによって脆化するか、もしくは合成ガス中の微量成分によって腐食する。白金および金等の比較的不活性な金属は、熱膨張の不均一性によるプロトン伝導性相との熱的相溶性に問題を有している。さらに、金属は一般的に高温で柔らかく、そのため20μmオーダーの極めて薄い膜では破裂を生ずる。従って、圧力駆動H分離用サーメットの使用には興味ある可能性が残っているが、これを実現可能な技術にするためには更なる技術的進歩を必要としている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,066,592号
【特許文献2】米国特許第5,652,020号
【特許文献3】米国特許第5,387,330号
【特許文献4】米国特許第6、235,417号
【特許文献5】米国特許第6,296,687号
【非特許文献1】J.グアンら(J. Guan et al)、“水素分離用混合伝導性膜の開発”、セラミックトランザクション、92巻、1998年、p.1−12
【非特許文献2】R.V.シルワーダインら(R. V. Siriwardane et al)、“ニッケル濃度を変えることによるセラミック水素分離膜の特徴付け”、アプライド サーフィス サイエンス、167巻、2000年、p.34−50
【発明の開示】
【0007】
本発明は、合成ガスもしくは別の水素および2次的ガスの混合物からの圧力駆動水素分離用の2相純セラミック複合膜である。該相の一つはプロトン伝導性セラミック相であり、第二相は電子伝導性セラミック相である。純セラミック膜は、セラミック/金属複合体のような競合する膜技術に対して、熱機械的および熱化学的安定性において著しい利点を提供する。
【0008】
本発明の特定の態様によれば、1000℃のような高温において動作可能な混合プロトン/電子伝導性セラミック膜を提供する。さらに、混合伝導性特性は、採算の合うシステムが構築可能である圧力駆動装置内で十分な水素の流量を得ることができるように適切に平衡が保たれる。
【0009】
別の態様によれば、高純度の水素ガスを分離し得る合成ガスもしくは類似の化石燃料から発生するガス流に特徴的な高温で還元的な環境下で化学的および機械的に安定な混合プロトン/電子伝導性セラミック膜を提供する。
【0010】
また別の態様によれば、存在している化学成分の平衡反応を該平衡反応の反応体サイトに移動させてペロブスカイト組成を維持するように機能するセラミック複合材において酸化セリウムに基づく化合物の添加により、ペロブスカイト型化合物をCOおよびHOを含む高温環境下で安定化する。
【0011】
また別の態様によれば、バリウム(もしくはストロンチウム)をいくらか取り除いて非化学量論的なペロブスカイト相とすることによりなりペロブスカイト相の化学組成を変性し、これにより合成ガス型の環境下におけるバリウムセラートおよびストロンチウムセラートで観察される共通した問題であるバリウム(もしくはストロンチウム)とCO2の間の化学反応を最小化する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は多くの異なった形態により実施することができるけれども、図面で示し、ここではいくつかの特定の実施態様について詳細に説明するが、本開示は本発明の原理を例証するものと見なすべきであり、例証した実施態様によって発明を限定することを意図していないことを理解するべきである。
【0013】
混合伝導性膜材料を実現するために必要な基本的特徴は、プロトン伝導性セラミック相および電子伝導性セラミック相である。プロトン伝導性、電子伝導性もしくは化学的安定性を改善するために、必要に応じてその他のセラミック相を加えてもよい。
【0014】
プロトン伝導性セラミック相は、一般的組成A1-x-αX1-yy3-δのドープしたペロブスカイトとすることができる。Aはバリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)もしくはマグネシウム(Mg)のような2価の陽イオンおよびこれらの組み合わせであり、PはAサイトドーパントで、Pr、Sm、Erのような陽イオンもしくはランタニド系列に属する他の陽イオンとすることができる。Bは4価の陽イオンであり、周期律表の第4族の元素(例えばTi, Zr)もしくは周期律表のランタニド系列の元素(例えばCe, La)のいずれかでよい。QはBサイトドーパントで、周期律表の第3族の元素(例えばSc,Y)もしくは周期律表のランタニド系列中(例えばEu, Nd, Gd, Yb)の別の元素(B以外)のいずれかでよい。αはAサイトの非化学量論性(欠陥)を示す。本発明の好ましい実施態様は、化学式Ba1-x-εxCe1-yy3-δ、Sr1-x-εxCe1-yy3-δ、およびCa1-x-εxTi1-yy3-δによって表されるAおよびBサイトに対する特定元素の組み合わせを有する化合物を含む。他の好ましい実施態様は、0≦α≦0.1であるAサイト欠陥εを含む。ここで、PおよびQが前記で特定した種類の一つ以上の元素を示してもよく、かつ1つ以上のドーパントをAおよびBサイトに加えることも本発明の範囲内であることに特に注目すべきである。
【0015】
本発明の別の実施態様においては、多相セラミック中のプロトン伝導性セラミック相を複合ペロブスカイトとしてもよい。複合ペロブスカイトは、A2(B’1+βB’’1-β)O6-λもしくはA3(B‘1+φB’’2-φ)O9-λとすることができ、ここでAイオンは常に2価(例えばBa, Sr, Ca, La)、B’イオンは3価(Eg, Y, Ga, Sc, In, Tb, Nd)もしくは4価(例えばZr, Ti, Ce)、B’’イオンは5価(例えばBi, Nd)である。通常0≦β≦0.2および0≦φ≦0.2である。
【0016】
本発明のさらにもう一つの実施態様では、多相セラミック中のプロトン伝導性セラミック相は、パイロクロア構造(A’2-γA’’γ)2(B2-ηη)O7-λとすることができ、ここでA’は2価の陽イオン(例えばLa)、A’’は別の2価の陽イオン、Bは4価の陽イオン(例えばZr,Ce)、Rは2価の陽イオン(例えばCa)である。好ましい実施態様において、A’’およびRは同じカチオンである。
【0017】
本発明の好ましい実施態様において、電子伝導性のセラミック相は、腐食性ガス種およびプロトン性伝導相間の反応生成物でもある。例えば、COもしくはHOがBaもしくはSrを含むペロブスカイトと反応する場合、副生成物の一つは酸化セリウム(CeO)である。また、ドープしたCeOは還元環境下で良好な電子伝導体であることが知られている。ドープしたCeOをパーコレーション限界を超えて混和すると、材料及び優れた混合伝導体を形成する十分な電子伝導性を生じるだけでなく、ドープしたCeOを加えないペロブスカイト材料に比べてCOもしくはHOの存在下での複合材料の熱力学的安定性を改善する。ペロブスカイト相中のドーパントと同じセリア中のドーパントを有することも有益である。
【0018】
本発明の別の実施態様において、セリアのような第2のセラミック相を熱力学的安定性を改善するだけのためにパーコレーション限界以下で加えてもよいし、また電子伝導体を供給するために一つもしくはそれ以上の他の電子伝導性セラミック相を加えてもよい。かかる相は、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)もしくは炭化ケイ素(SiC)のような半導体材料を含んでもよい。
【0019】
本発明の原理は、下記の混合伝導性セラミック複合材料を製造する実施例によって実証されている。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
原材料の酸化物および炭酸塩の粉末(BaCO,CeO,Eu)を化学量論的な量を加えてペロブスカイトBaCe0.8Eu0.22.9を形成することにより、化学量論的なペロブスカイト材料を調製した。これら粉末を24時間ボールミル粉砕したのに続き、1リットルのナルゲンボトルの中でジルコニウムミル粉砕媒体とともにペイントシェーカーの上で30分間混合した。次いで、十分に混合した粉末を1400℃で焼成して炭酸塩を分解し、粉を一緒に反応させて単相のペロブスカイト材料を形成した。次に、焼成した粉末をアセトン中で72時間ボールミルして、1−2ミクロンの粒径で表面積が1.5−3m/gの微粉末を得た。
【0021】
該粉末を80メッシュの篩に通して選別し、BaCe0.8Eu0.22.9と同様の方法で製造したセリアをドープしたユーロピウムと混合して50/50体積%の混合物を形成した。これら2つの粉末をミル媒体およびアセトンと一緒にナルゲン容器内に入れ、ペイントシェーカーの上で30分間激しく混合した。次いで、この混合物を12時間乾燥し、80メッシュの篩に通して選別して個々の粉末を十分に混合し、ミルおよび乾燥工程から大きな凝集物がないことを確実にする。次いで、篩にかけた粉末の混合物を乾燥オーブンに移し、粉末を確実に乾燥させるため80−90℃で24時間乾燥させた。
【0022】
乾燥粉末は、テープ成形、乾式プレスもしくはスリップ成形のような種々のセラミック加工技術を用いてセラミック膜を製造するための準備をした。この実施例において、粉末を2質量%PVB結合材溶液およびアセトンと混合し、再びペイントシェーカーの上でミル媒体と混合した。混合後、生成したスラリーを乾燥し、この結合材/粉末を1インチのペレットダイに充填し、10,000psiで乾式プレスし、最後にこのペレットを25,000psiで静水圧プレスした。次いで、プレスしたペレットを1550℃で2時間焼結した。その後、焼結ペレットをXRDで分析して所望の2つの相を形成していることを確認した。バリウムセラートおよびドープされたセリアが実際に2相存在しているのが見出された。最終的に、サンプルをSEM分析のために調製した。図1は焼結した2相複合材料の微構造を示す。さらに具体的に言うと、図1はペロブスカイト(グレー相)およびドープしたセリア(明相)の2相複合体の後方散乱SEM写真である。構造中の気孔、すなわち非常に暗い領域が完全に閉じており、膜を通してガスを流さない。
【0023】
(実施例2)
2相混合伝導性セラミック材料の2つの異なった組成物を、実施例1に記載の通り製造した。処方した2つの組成物は、(1)50質量%BaCe0.7Eu0.32.85+50質量%Ce0.8Eu0.22.9および(2)50質量%BaCe0.8Eu0.22.9+50質量%Ce0.80.22.9である。2相複合材料の安定性を実証するために、HOおよびCOを含む還元的環境における熱重量分析(TGA)を行い、時間の関数として重量の変化を観測した。図2に示すように、TGA試験の間に重量変化は測定されず、このことは材料がこれらの温度およびガス組成の環境において安定であることを示す。図2は合成ガス中における熱重量分析のデータを描画しており、これはCO,COおよびHOを含む還元的環境におけるペロブスカイト/酸化物複合体の極めて良好な安定性を示している。
【0024】
(実施例3)
原材料酸化物および炭酸塩の粉末(BaCO,CeO,EuO)を非化学量論的量(バリウム欠陥)で添加してペロブスカイトBa0.92Ce0.8Eu0.22.82を形成することにより、非化学量論的ペロブスカイト材料を調製した。これら粉末を24時間ボールミル粉砕したのに引き続き、1リットルのナルゲンボトルでジルコニアミル媒体とともにペイントシェーカーの上で30分間混合した。その後、よく混合した粉末を1400℃で焼成して炭酸塩を分解し、粉末を一緒に反応させ単一相のペロブスカイト材料を形成した。次いで、焼成した粉末をアセトン中で72時間ボールミルして1−2ミクロンの粒径で表面積が1.5−3m/gの微粉末を得た。
【0025】
従来のドープしたバリウムセラート組成物が、COおよびHOの存在下の酸化性条件でそれぞれ水酸化物および炭酸塩の形成により不安定であることは周知である。本発明の材料が混合伝導性膜として普通に用いるペロブスカイト材料単独よりも一層安定であることを証明するために実験を行った。本実験において、高温で模造合成ガスに曝した粉末に対するX線回折による検討を行った。模造合成ガス中での高温露曝試験は、図3に示すように、同様に非化学量論的であるベースラインのペロブスカイトサンプルは完全に反応している一方で、非化学量論的な複合サンプル中には目立った炭酸塩の形成が生じていないことを示していた。図3は、900℃の合成ガスに露曝した粉末のX線回折分析のデータを描画し、これは非化学量論的なペロブスカイト/酸化物複合体が、同一条件で露曝した非化学量論的であるベースラインのペロブスカイトと比較してほとんど炭酸塩を形成していないことを示す。図3中の矢印は主要な炭酸バリウムピークの位置を示す。
【0026】
(実施例4)
化学量論量のペロブスカイト/ドープしたセリアの複合体を実施例1に記載のとおり製造し、非化学量論量のペロブスカイト/ドープしたセリアの複合材料を実施例3に記載のとおり調製した。これら2つのサンプル材料を用いて、かかるつの材料の安定性を900℃の合成ガス環境において比較した。図4は、化学量論および非化学量論のペロブスカイト相を有する複合体粉末のX線回折パターンの比較を示す。さらに具体的にいうと、図4は900℃で合成ガスに露曝した粉末のX線回折分析のデータを描画し、これは非化学量論のペロブスカイト/酸化物複合体粉末が、同一条件で露曝した化学量論的ペロブスカイト/酸化物複合体粉末と比較してほとんど炭酸塩を形成していないことを示している。図4中の矢印は主要な炭酸バリウムピークの位置を示す。非化学量論的なAサイト欠陥のペロブスカイトを有する複合体は、50容積%のBa0.92Ce0.8Eu0.22.82および50容積%のCe0.8Eu0.22.9を有し、化学量論的ペロブスカイト組成の複合体は50容積%のBaCe0.8Eu0.22.9および50容積%のCe0.8Eu0.22.9を有する。バリウム欠損組成の複合体は、著しく低い炭酸塩の形成により、また非化学量論的な組成物におけるAサイトの陽イオン(すなわち、本実施例におけるBa2+イオン)の一層低い活性により合成ガス中で優れた化学的安定性を示す。
【0027】
(実施例5)
二相複合セラミック粉末を実施例1に記載の通り調製した。次いで、多孔質基板によって支持された薄膜混合伝導体を製造するために、これら粉末を用いてテープ成型用スリップを調製した。緻密な構成部品用スリップを二つの厚さ、8ミルと1ミルに成形する一方、多孔質のスリップを8ミルのみに成形した。テープ成形品を、標準のセラミック加工処理を用いて乾燥し、膜パッケージ中の膜の薄層の露出表面積を最大化するように決めた形状および大きさに個々のテープを打ち抜く。膜の初期寸法を打ち抜くと、生成した断片をレーザーカッターを用いて切断し、膜の表面積を最大化しかつ膜支持体に付与するに必要な形体を得た。レーザー切断を完了すると、標準セラミック加工処理を用いてこれら断片を一緒に積層して基材及び膜支持体とともに膜パッケージを形成する。
【0028】
膜パッケージを積層した後、1550℃に焼成して膜パッケージの多孔質層から細孔形成を焼き尽くし、積層した層をペロブスカイトおよびユーロピウムをドープしたセリアの両方からなる連続した単一構造体に焼結した。
【0029】
次いで、焼結した膜パッケージをステンレス鋼のカップ中に、ペロブスカイトとステンレス鋼の複合物と同様の熱膨張率を有するガラスもしくはセメントを用いて封じ込めた。膜のパッケージを支持い、スイープガスを膜の浸透側に通るのを可能にするようにステンレス鋼カップを設計および加工した。
【0030】
試験装置をリフォーミング触媒反応器中に配置し、水素、メタン、水、二酸化炭素および一酸化炭素の容量供給を変えることにより合成ガス中の様々なモル分率を調整した。ステンレス鋼カップに封じ込めた膜を、反応器中の触媒の下流に設置し、900℃の温度に加熱した。ヘリウムを膜の浸透側でのスイープガスとして使用して水素をジルコニア酸素センサーに運び去り、得られた水素流量を求めた。水素およびヘリウムの濃度を変え、流れ中の異なった水素濃度によるセル間の電圧を測定することによってジルコニア酸素センサーを校正した。合成ガスを用いて試験している間に、ジルコニア酸素センサーの電圧を記録し、次いでこれを用いてキャリアガス中の水素濃度を決定した。その後、この情報を用いて膜を通過する流量を計算した。
【0031】
図5は複合膜間の開路電圧を示す。さらに具体的には、図5は、混合イオン性−電子性伝導挙動を示すペロブスカイト/ドープしたセリアの複合材における開路電圧(OCV)の低下を示している。新しい複合材料を用いて合成ガスから圧力駆動水素分離の実行可能性を実証するために、水素/窒素混合物を用いて分圧/濃度で駆動するHの分離実験を行った。実験は厚い膜(厚さ500μm)を使用して行った。図6は、この系に漏れがないことを実証するために2つの供給ガス流量で試験した厚さ500μmの緻密なペロブスカイト/酸化物複合膜により得た水素の流量を示す。得られた流量(図6に示す)が非常に厚い(500μm)膜を使用したために比較的低い(<1.4cc/cm/分)けれども、実験は濃度/圧力によって駆動する水素分離がこれら緻密なペロブスカイト/酸化物複合膜により実行可能であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、プロトン伝導性ペロブスカイト相の2相複合体を示すSEM顕微鏡写真である。
【図2】図2は、合成ガスにおける2相複合材料の重量増加がないことを示す合成ガス環境下での熱重量分析のグラフである。
【図3】図3は、新しい複合材料における顕著な炭酸塩の形成がないことを示すX線分析のグラフである。
【図4】図4は、900℃の合成ガスにおける非化学量論的複合材料対非化学量論的1相ペロブスカイトの安定性を示すX線分析のグラフである。
【図5】図5は、複合膜の混合伝導性挙動を示す開路電圧測定のグラフである。
【図6】図6は、複合膜を通して水素分圧傾度によって駆動される水素分離を実証するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相セラミック複合材料であって:
−運転温度で1.0×10−3S/cm以上のプロトン伝導性を有するプロトン伝導性セラミック相;および
−酸素分圧が0.05気圧未満の還元的条件で測定した場合に1.0×10−2S/cm以上の電子伝導性を有する電子伝導性セラミック相を備えた多相セラミック複合材料。
【請求項2】
電子伝導性のセラミック相が、材料を用いて製造した膜の運転条件下でプロトン伝導相と少なくとも一つの所望のガスとの間の反応の少なくとも一つの生成物とほぼ構造的および化学的に同一である請求項1記載の材料。
【請求項3】
電子伝導性のセラミック相が、材料を用いて製造した膜の運転条件下でプロトン伝導相と少なくとも一つの所望のガスとの間の反応の少なくとも一つの生成物と構造的および化学的に同一である請求項1記載の材料。
【請求項4】
電子伝導性セラミック相はCe1−x2−εの式を有し、Bはイットリウムの一つおよび周期律表中のランタニド系列に属する元素を表し、εは酸素欠陥の数である請求項1記載の材料。
【請求項5】
電子伝導性セラミック相がCe1−x2−εの式を有し、Bはイットリウム及び周期律表中のランタニド系列に属する元素の一つで、εは酸素欠陥の数である請求項2記載の材料。
【請求項6】
0≦x≦0.75である請求項4記載の材料。
【請求項7】
0≦x≦0.75である請求項4記載の材料。
【請求項8】
プロトン伝導性セラミック相がペルブスカイト構造を有する請求項1記載の材料。
【請求項9】
電子伝導性相がセリアである請求項8記載の材料。
【請求項10】
電子伝導性相がドープしたセリアである請求項8記載の材料。
【請求項11】
ペロブスカイトがA1−x−α1−y3−δの式を有し、ここでAは原則としてバリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)およびマグネシウム(Mg)およびそれらの組み合わせからなる群より選択した二価の陽イオンであり、Pは陽イオンであるA−サイトドーパントであり、Bは周期律表の第4族の元素および周期律表のランタニド系列の元素からなる群より選択した4価の陽イオンであり、Qは周期律表の第3族の元素および周期律表のランタニド系列の元素からなる群より選択したB―サイトドーパントであり、αは非化学量論的なA−サイト欠陥の数であり、δは酸素欠陥の数である請求項8記載の材料。
【請求項12】
A−サイトドーパントがPr、Sm、Erおよび周期律表のランタニド系列の元素からなる群より選択した陽イオンである請求項11記載の材料。
【請求項13】
0≦α≦0.1である請求項11記載の材料。
【請求項14】
0≦x≦0.5である請求項11記載の材料。
【請求項15】
0≦y≦0.3である請求項11記載の材料。
【請求項16】
プロトン伝導性セラミック相が(A’2-γA’’γ)(B2-ηη)O7-λのパイロクロア構造を有し、ここでAは3価の陽イオン、A’’は2価の陽イオン、Bは4価の陽イオンおよびRは2価の陽イオンである請求項1記載の材料。
【請求項17】
A’’およびRが同じ陽イオンである請求項16記載の材料。
【請求項18】
0≦γ≦0.3である請求項16記載の材料。
【請求項19】
0≦η≦0.3である請求項16記載の材料。
【請求項20】
プロトン伝導性セラミック相が複合ペルブスカイトである請求項1記載の材料。
【請求項21】
複合ペルブスカイトがA2(B’1+βB’’1−β)O6−λの構造を有し、ここでAは2価のイオン、B’は3価のイオンおよび4価のイオンのうちの一つ、及びB’’は5価のイオンである請求項20記載の材料。
【請求項22】
0≦β≦0.3である請求項21記載の材料。
【請求項23】
0≦ψ≦0.2である請求項21記載の材料。
【請求項24】
複合ペルブスカイトがA3(B’1+ψB’’2−ψ)O9-λの構造を有し、ここでAは2価のイオン、B’は3価のイオンおよび4価のイオンのうちの一つ、並びにB’’は5価のイオンである請求項20記載の材料。
【請求項25】
0≦β≦0.3である請求項24記載の材料。
【請求項26】
0≦ψ≦0.2である請求項24記載の材料。
【請求項27】
セラミック相が低プロトン伝導性および低電子伝導性のうちの一つを有する請求項1記載の材料。
【請求項28】
熱力学的安定性を改善するためにパーコレーション限界以下に加えた第二のセラミック相をさらに備える請求項1記載の材料。
【請求項29】
酸化スズ(SnO2)、ドープしたSnO2、酸化タングステン(WO3)、ドープしたWO3、酸化コバルト(CoO3)、ドープしたCoO3および炭化ケイ素(SiC)からなる群より選択した第二の電子伝導性相をさらに備える請求項1記載の材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−527356(P2007−527356A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502022(P2007−502022)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/007124
【国際公開番号】WO2005/086704
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(500318449)セラマテック インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】