説明

水素化可能な基を含む有機化合物の水素化用触媒及び水素化方法

本発明は、活性金属として、ルテニウムを単独で、或いはルテニウムと、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の他の遷移金属(CAS型)と、を一緒に、担体成分として二酸化ケイ素を含む担体に施されて含む被覆触媒、かかる被覆触媒の製造方法、本発明の被覆触媒を使用して、水素化可能な基を含む有機化合物を水素化し、好ましくは炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化するか、又はアルデヒドを対応のアルコールに水素化する方法、そして更に、本発明の被覆触媒を、水素化可能な基を含む有機化合物を水素化し、好ましくは炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化又はアルデヒドを対応のアルコールに水素化する場合の使用法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性金属として、ルテニウムを単独で、或いはルテニウムと、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の他の遷移金属(CAS型)と、を一緒に、担体成分として二酸化ケイ素を含む担体に施されて含む被覆触媒、かかる被覆触媒の製造方法、本発明の被覆触媒を使用して、水素化可能な基を含む有機化合物を水素化し、好ましくは炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化するか、又はアルデヒドを対応のアルコールに水素化する方法、そして更に、本発明の被覆触媒を、水素化可能な基を含む有機化合物を水素化し、好ましくは炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化又はアルデヒドを対応のアルコールに水素化する場合の使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
文献では、種々の水素化方法を開示している。工業的な興味は、特に、置換及び無置換の芳香族化合物、更には、ベンゼンポリカルボン酸、フェノール誘導体及びアニリン誘導体の水素化である。しかしながら、化合物とC−C、C−O、N−O及びC−N多重結合との水素化生成物及びポリマーについても、工業的に興味がある。
【0003】
脂環式アルコール、特にアルキルシクロヘキサノールは、種々の芳香性化合物、薬剤及び他の有機ファインケミカルを調製する場合に重要な中間体である。ベンゼンポリカルボン酸又はその誘導体の、対応のシクロヘキサンポリカルボン酸又はその誘導体への水素化生成物は、例えば、ポリマーの可塑剤として使用される。ベンゼンのシクロヘキサンへの水素化についても同様に、工業的に興味がある。脂環式アミン、特に必要により置換されていても良いシクロヘキシルアミン及びジシクロヘキシルアミンについては、ゴム及びプラスチック用の老化防止組成物を製造する場合の、防食組成物としての、そして更に、栽培植物保護組成物及びテキスタイル助剤の前駆体としての使用法を見出されている。脂環式ジアミンは、更に、ポリアミド及びポリウレタン樹脂の調製において使用され、そしてエポキシ樹脂の硬化剤としての使用法を見出されている。
【0004】
芳香族化合物の環水素化は、知られている場合があり、多くの金属、例えば、ニッケル、コバルト又は貴金属を活性金属として有する担持触媒によって触媒作用を及ぼし得る。
【0005】
貴金属を活性金属として有する担持触媒の中で、例えば、酸化アルミニウム又は二酸化ケイ素を担体材料として含むルテニウム触媒が知られている。
【0006】
例えば、特許文献1及び特許文献2は、無定形の二酸化ケイ素を基礎とする担体材料を、低分子量のルテニウム化合物のハロゲン非含有水溶液で単一処理又は繰り返し処理し、次に、これにより処理された担体材料を200℃未満で乾燥し、次に、これにより得られた固体を、100〜350℃の範囲の温度条件下にて水素で還元することによって得られるルテニウム触媒に関し、且つ還元は、担体材料を、低分子量のルテニウム化合物の水溶液で処理した直後に行われる。特許文献2によると、かかる触媒は、芳香族化合物を対応の脂環式化合物に水素化する場合に使用され得る。特許文献1及び特許文献2に開示される触媒は、少なくとも0.1〜10質量%の範囲のルテニウム含有量を有する。これらの例示によると、ルテニウム触媒は、二酸化ケイ素を含む担体材料に、ルテニウム(III)ニトロシルニトレートを含浸させることによって調製され、そして5質量%及び1質量%のルテニウム含有量をそれぞれ有する。特許文献1及び特許文献2に開示される触媒の課題は、ベンゼンのシクロヘキサンへの水素化において、副反応が生じることである。このような副反応は、痕跡領域でのみ生じるものの、触媒の活性の低減に至り、そして多くの用途に対してコストがかかり且つ不便な方法で取り除かれる必要がある副生成物を増大させる。公知の副反応は、メチルシクロペンタン、シクロヘキシルベンゼン、そしてn−ヘキサンへの酸触媒転化である。更に、二量化又はオリゴマー化が生じ、これにより、触媒に炭素が析出するので、触媒の失活に至る場合がある。これに拘泥されることなく、ベンゼンのシクロヘキサンへの水素化において副生成物としてシクロヘキサンを形成するのは、二量化又はオリゴマー化において大きな役割を果たすと考えられている。第1に、ベンゼンの水素化における水素欠乏に起因して、シクロヘキサンが形成可能であるが、次に、活性金属のルテニウムによってシクロヘキセンに脱水素化されるシクロヘキサンによっても形成可能である。触媒のコアで僅かに消耗されるまで触媒に対して均一に分散されるルテニウムを有する触媒の場合、触媒のコアにおけるルテニウムの存在、そして触媒のコアにおける局所水素制限(local hydrogen limitation)に起因して、シクロヘキセンの形成が促進され、これにより、ベンゼンのシクロヘキサンへの水素化中に活性が低下する。かかる活性の低下は、担体材料の二酸化ケイに、ルテニウム(III)ニトロシルニトレートの溶液を含浸することによる特許文献1及び特許文献2で調製される触媒に対して観察される。
【0007】
従って、水素化可能な基を含む有機化合物の水素化、特に、芳香族基の対応の脂環式基への水素化において、特許文献1及び特許文献2に開示される触媒と比較して、高い活性を長期に亘って有する触媒を提供するのが望ましい。
【0008】
上記の目的を達成する場合に好適な触媒は、被覆触媒、すなわち、触媒のコアより触媒の表面において活性金属を著しく高い濃度で有する触媒である。
【0009】
被覆触媒は従来技術において知られており、種々の方法で得られる。例えば、無機担体材料に、触媒活性金属の金属塩溶液を含浸させることが可能であり、次に、乾燥及び還元工程とすることが可能である。しかしながら、特に、二酸化ケイ素に対してルテニウムを含む被覆触媒の場合、例えばDE−A10128205及びDE−A10128242による触媒で見出され得るような従来の含浸処理によって鋭いコーティング分布を得るのは困難である。更に、被覆触媒を、化学蒸着(CVD)法によって調製することが可能である。例えば、DE−A19827844は、セラミックの多孔性担体に所定の被膜厚さを有する被覆触媒の製造方法に関する。この場合、担体材料は、CVD法によって分解されることなく蒸発され、次に、熱又は化学還元と同時に或いはその後の熱又は化学還元によって金属を固定され得る前駆体を用いて調製される。使用される前駆体は、特にアリルシクロペンタジエニルパラジウム及びトリメチルホスフィンメチル金である。しかしながら、CVD法は、蒸発された金属前駆体をキャリアガスによって触媒担体に導く必要があるので、複雑である。更に、特定の金属前駆体が必要とされる。なぜなら、全ての金属前駆体が、好適な蒸発作用を示すとは限らないからである。
【0010】
被覆触媒を調製する好適な含浸法は、以下の文献に開示されている:
US2004/0192792A1は、60質量%を超える触媒活性金属が触媒の外側領域に存在する被覆触媒に関し、且つかかる外側領域は、200μm以下の厚さを有する。かかる触媒は、炭化水素から合成ガス(例、天然ガス)を調製するのに好適である。活性金属としてルテニウムを使用することは、US2004/0192792A1に記載されていない。更に、酸化アルミニウム担体だけが実施例により使用されている。芳香族化合物の水素化についても同様に、US2004/0192792A1に記載されていない。
【0011】
EP−A0094684は、白金又は他の貴金属を実質的に表面に含む被覆触媒に関する。かかる被服触媒は、担体にヘキサアンモニウムプラチナテトラスルフィドを含浸させることによって調製される。EP−A0094684によると、使用される担体は、SnO/ZnAl24担体であるのが好ましい。担体材料としての二酸化ケイ素は、記載されていない。かかる触媒を、EP−A0094684により多くの方法で使用することが可能であり、例えば、水素化法において使用可能である。かかる触媒をアルカンの脱水素化に使用するのが好ましい。
【0012】
EP−A1420012は、芳香族イソシアネートから脂肪族イソシアネートを製造する方法を開示している。使用される触媒は、活性金属としてルテニウムを有し、>30m2/g〜<70m2/gの範囲のBET表面積を有するメソ多孔性/マクロ多孔性担体材料を有する特定の触媒である。実施例によると、ルテニウム(III)ニトレート溶液が含浸され、酸化アルミニウム担体材料を基礎とする触媒が使用される。
【0013】
本願の優先日に公開されていなかった2004年12月18日の、参照番号がPCT/EP04/014454(WO2005/061105)及びPCT/EP04/014455(WO2005/061106)の特許出願では、担体材料として二酸化ケイ素を含むルテニウムの不均一系触媒及びその、水素化方法での使用法を開示している。
【0014】
【特許文献1】DE−A10128205
【特許文献2】DE−A10128242
【特許文献3】DE−A19827844
【特許文献4】US2004/0192792A1
【特許文献5】EP−A0094684
【特許文献6】EP−A1420012
【特許文献7】PCT/EP04/014454(WO2005/061105)
【特許文献8】PCT/EP04/014455(WO2005/061106)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、従来の含浸法によって鋭いコーティング分布を得るのは困難である。これは、被覆触媒を屡々得るものの、被覆触媒は、コアに十分な量の活性金属粒子が存在するという特徴を有することを意味する。しかしながら、コアにおける十分な量の活性金属粒子の存在により、水素化方法における触媒の活性、特に、長期使用での活性、そして更に水素化方法での副生成物の形成に対して不利な作用を及ぼす。コアにおける十分な量の活性金属粒子の存在は、特に、水素の補充が制限される特に高速反応の場合である、十分な水素がコアにおける活性金属粒子に利用可能ではない場合に不利である。
【0016】
従って、本発明の目的は、長期使用であっても水素化方法において極めて高い活性を有する触媒を提供することにあるが、使用される活性金属は、高価な貴金属であるため、活性金属の量は、最小限に抑制される。高活性で且つ少量の活性金属であるにも拘わらず、副生成物の形成は、低くする必要がある。
【0017】
かかる目的は、活性金属として、ルテニウムを単独で、或いはルテニウムと、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の他の遷移金属(CAS型)と、を一緒に、担体成分として二酸化ケイ素を含む担体に施されて含む被覆触媒から出発して達成される。
【0018】
本発明の被覆触媒において、活性金属の量は、触媒の全質量に対して、<1質量%であり、0.1〜0.5質量%であるのが好ましく、0.25〜0.35質量%であるのが更に好ましく、そして活性金属の全量に対して、少なくとも60質量%、更に好ましくは80質量%の活性金属は、200μm以下の侵入度で触媒の被膜に存在する。上述のデータは、SEM(走査電子顕微鏡)EPMA(電子プローブ・マイクロアナリシス)−EDXS(エネルギー分散X線分光分析)によって測定され、平均値を構成する。上述の分析法及び技術に関する他の情報は、例えば、J. W. Niemantsverdriet, VCH, 1995による"Spectroscopy in Catalysis"に開示されている。
【0019】
本発明の被覆触媒の特徴は、特有の量の活性金属が200μm以下の侵入度で被膜に存在する、すなわち、被覆触媒の表面近傍に存在することである。対照的に、極少量の活性金属が、触媒の内部(コア)に存在するだけである。驚くべきことに、本発明の触媒は、少量の活性金属であるにも拘わらず、水素化可能な基を含む有機化合物の水素化、特に炭素環式の芳香族基の水素化において、極めて良好な選択率にて極めて高い活性を有することが見出された。特に、本発明の触媒の活性は、長期の水素化に亘って低減しない。
【0020】
活性金属を触媒の内部で検出することが不可能である、すなわち、活性金属が、最も外側の被膜に、例えば100〜200μmの侵入度までの範囲で含まれる本発明の被覆触媒が極めて好ましい。
【0021】
特に好ましい他の実施の形態において、本発明の被覆触媒の特徴は、EDXSでの(FEG)−TEM(電界放射電子銃透過型電子顕微鏡)において、活性金属粒子を、最も外側の200μm、好ましくは100μm、最も好ましくは50μm(侵入度)でのみ検出可能であることである。1nmより小さな粒子を検出することは不可能である。
【0022】
使用される活性金属は、ルテニウムを単独であっても、或いはルテニウムと、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の他の遷移金属(CAS型)と、を一緒であっても良い。ルテニウムに加えて好適な他の活性金属は、例えば白金、ロジウム、パラジウム、イリジウム、コバルト又はニッケル、又はこれらの2種類以上の混合物である。同様に使用され得る元素周期表第IB及び/又はVIIB族の遷移金属の中で、好適な金属は、例えば銅及び/又はレニウムである。活性金属としてルテニウムを単独で、或いはルテニウムを白金又はイリジウムと一緒に本発明の被覆触媒において使用するのが好ましく;活性金属としてルテニウムを単独で使用するのが極めて好ましい。
【0023】
本発明の被覆触媒は、触媒の全質量に対して<1質量%の活性金属による低充填にて上述の極めて高い活性を示す。本発明の被覆触媒における活性金属の量は、0.1〜0.5質量%であるのが好ましく、0.25〜0.35質量%であるのが更に好ましい。担体材料への活性金属の侵入度は、活性金属での触媒の充填に応じて異なる。1質量%以上での触媒の充填の場合でさえ、例えば1.5質量%の充填の場合、実用量の活性金属が、触媒の内部に、すなわち、300〜1000μmの侵入度で存在するが、これは、水素化触媒の活性、特に長期の水素化での活性、特に、水素の不足が触媒の内部(コア)で生じる場合がある高速反応の場合に活性を損なう。
【0024】
本発明によると、本発明の被覆触媒において、活性金属の全量に対して、少なくとも60質量%の活性金属は、200μm以下の侵入度までで触媒の被膜に存在する。本発明の被覆触媒において、活性金属の全量に対して、好ましくは少なくとも80質量%の活性金属は、200μm以下の侵入度までで触媒の被膜に存在する。活性金属を触媒の内部で検出不可能である、すなわち、活性金属が最も外側の被膜に、例えば100〜200μmの侵入度までの範囲でのみ含まれる本発明の被覆触媒が極めて好ましい。別の好ましい実施の形態において、活性金属の全量に対して、60質量%、好ましくは少なくとも80質量%は、150μm以下の侵入度までで触媒の被膜に存在する。上述のデータは、SEM(走査電子顕微鏡)EPMA(電子プローブ・マイクロアナリシス)−EDXS(エネルギー分散X線分光分析)によって測定され、平均値を構成する。活性金属粒子の侵入度を測定するために、複数の触媒粒子(例、3、4又は5個)を、押出物の軸に対して横方向に摩耗させる(触媒が押出物の形で存在する場合)。その後、走査線のスキャンによって、活性金属/Siの濃度比の分布を記録する。各々の測定ラインにおいて、複数、例えば15〜20個の測定ポイントを等間隔にて測定する;測定スポットサイズは、約10μm*10μmである。深さに対する活性金属の量を統合した後、所定領域における活性金属の周波数を決定することが可能である。
【0025】
最も好ましくは、Siに対する活性金属の濃度割合に基づき、被覆触媒の表面における活性金属の量は、SEMEPMA−EDXSにより測定され、2〜25質量%であり、好ましくは4〜10質量%であり、更に好ましくは4〜6質量%である。表面は、800×2000μmの領域及び約2μmの立体情報の分析によって分析される。元素組成は、質量%にて測定される(100%に正規化される)。平均濃度比(活性金属/Si)は、10個の測定領域に対して平均化される。
【0026】
本願の場合、被覆触媒の表面は、触媒の外側被膜が約2μmの侵入度までであることを意味すると理解される。かかる侵入度は、上述の表面分析における立体情報に相当する。
【0027】
Siに対する活性金属の濃度割合(%単位のw/w)に基づき、被覆触媒の表面における活性金属の量は、SEM EPMA(EDXS)によって測定され、4〜6質量%であり、50μmの侵入度において1.5〜3質量%であり、50〜150μmの侵入度の範囲において0.5〜2質量%であるのが極めて好ましい。上記の数値は、平均値を構成する。
【0028】
更に、活性金属粒子の寸法は、(FEG)−TEM分析によって測定され、侵入度の増大と共に低減するのが好ましい。
【0029】
活性金属は、本発明の被覆触媒において、好ましくは部分的に又は完全に結晶の形で存在する。好ましい場合において、超微細な結晶性活性金属を、SAD(制限視野回折)又はXRD(X線回折)によって本発明の被覆触媒の被膜で検出することが可能である。
【0030】
本発明の被覆触媒は、更に、アルカリ土類金属イオン(M2+)、すなわち、M=Be、Mg、Ca、Sr及び/又はBa、特にMg及び/又はCa、最も好ましくはMgを含んでいても良い。触媒におけるアルカリ土類金属イオン(M2+)の含有量は、二酸化ケイ素の担体材料の質量に対して、0.01〜1質量%であるのが好ましく、特に0.05〜0.5質量%であり、極めて好ましくは0.1〜0.25質量%である。
【0031】
本発明の被覆触媒の必須成分は、二酸化ケイ素、一般的には無定形の二酸化ケイ素を基礎とする担体材料である。この場合、“無定形”なる用語は、結晶性の二酸化ケイ素層の断片が担体材料に対して10質量%未満で作製されることを意味すると理解される。しかしながら、触媒を調製するために使用される担体材料は、担体材料に対して規則的に配置される細孔によって形成される超格子構造を有していても良い。
【0032】
有用な担体材料は、原則として、少なくとも90質量%程度の二酸化ケイ素からなる無定形の二酸化ケイ素型であり、そして残りの10質量%、好ましくは5質量%以下の担体材料は、他の酸化物材料、例えばMgO、CaO、TiO2、ZrO2、Fe23及び/又はアルカリ金属の酸化物を含んでいても良い。
【0033】
本発明の好ましい実施の形態において、担体材料は、ハロゲン非含有であり、特に塩素非含有であり、すなわち、担体材料におけるハロゲンの含有量が500質量ppm未満であり、例えば0〜400質量ppmの範囲である。これにより、触媒の全質量に対して0.05質量%のハロゲン化物(イオンクロマトグラフィによって測定)を含む被覆触媒が好ましい。
【0034】
比表面積が30〜700m2/gの範囲であり、好ましくは30〜450m2/gの範囲である担体材料が好ましい(ドイツ工業規格66131によるBET表面積)。
【0035】
二酸化ケイ素を基礎とする好適な無定形の担体材料は、当業者に周知であり、市販されている(例えば、O. W. Floerke, "Silica" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry 第6版 on CD-ROMを参照されたい)。かかる担体材料は、天然由来であっても、又は合成により製造されたものであっても良い。二酸化ケイ素を基礎とする無定形の担体材料の適例は、シリカゲル、珪藻土、焼成シリカ及び沈降シリカである。本発明の好ましい実施の形態において、触媒は、担体材料としてシリカゲルを有する。
【0036】
本発明の実施の形態に応じて、担体材料は、種々の形状を有していても良い。本発明の被覆触媒を使用する方法が懸濁法として構成される場合、本発明の触媒は、担体材料を微粉末の形で使用することによって調製されるのが一般的であろう。粉末は、1〜200μmの範囲、特に1〜100μmの範囲の粒径を有するのが好ましい。本発明の被覆触媒を固定床触媒で使用する場合、例えば押出又はタブレット化によって得られ、そして例えば球形、タブレット、円柱、押出物、リング又は中空の円筒形、星形等の形状を有していても良い担体材料の成形品を使用するのが一般的である。かかる成形品の寸法は、0.5〜25mmの範囲内にて変更するのが一般的である。屡々、1.0〜5mmの押出直径及び2〜25mmの押出長さを有する触媒押出物が使用される。一般に、小さな押出物で高い活性を達成可能である;しかしながら、水素化方法において十分な機械的安定性を有していない場合がある。従って、1.5〜3mmの範囲の押出直径を有する押出物を使用するのが極めて好ましい。
【0037】
本発明の被覆触媒は、最初に、ルテニウム(III)アセテートの溶液を単独で、或いはルテニウム(III)アセテートの溶液と、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属(CAS型)の他の塩の溶液と、を一緒に、担体材料に1回以上含浸させ、これにより得られる固体を乾燥し、次に還元することによって調製されるのが好ましく、且つ少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属の他の塩の溶液は、1回以上の含浸工程において、ルテニウム(III)アセテートの溶液と一緒に、或いは1回以上の含浸工程において、ルテニウム(III)アセテートの溶液と別個に施され得る。個々の処理工程について、以下に詳細に説明する。
【0038】
従って、本願は、以下の工程:
a)ルテニウム(III)アセテートの溶液を単独で、或いはルテニウム(III)アセテートの溶液と、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属(CAS型)の他の塩の溶液と、を一緒に、二酸化ケイ素を含む担体材料に1回以上含浸する工程と、
b)次に、乾燥する工程と、
c)次に、還元する工程と、
を含み、且つ少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属の他の塩の溶液は、1回以上の含浸工程において、ルテニウム(III)アセテートの溶液と一緒に、或いは1回以上の含浸工程において、ルテニウム(III)アセテートの溶液と別個に施され得る本発明の被覆触媒の製造方法を提供する。
【0039】
工程a)
工程a)において、二酸化ケイ素を含む担体材料は、ルテニウム(III)アセテートの溶液を単独で、或いはルテニウム(III)アセテートの溶液と、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属(CAS型)の他の塩の溶液と、を一緒に、1回以上含浸される。本発明の被覆触媒における活性金属の量は、極めて少ないので、好ましい実施の形態において、簡単な含浸が行われる。ルテニウム(III)アセテート及び元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属の塩は、活性金属前駆体を構成する。驚くべきことに、前駆体としてルテニウム(III)アセテートを使用することにより、他の特徴の中で、活性金属の殆どの部分、好ましくはルテニウム単独で、200μm以下の侵入度で被覆触媒に存在するという点で注目に値する被覆触媒に影響を及ぼすことが可能であることが見出された。被覆触媒の内部は、僅かにだけ活性金属を有しているに過ぎない。対照的に、DE−A10128205及びDE−A10128242の実施例に開示されているように、ルテニウム(III)ニトロシルニトレートを前駆体として使用する場合、触媒の内部に僅かに検出されるまで触媒に対して均一に分散されるルテニウムを含むルテニウム触媒が得られる。
【0040】
ルテニウム(III)アセテートの溶液或いは少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属の他の塩の溶液を提供するのに好適な溶剤は、水又はその他に、水若しくは50容量%以下の1種以上の水若しくは溶剤相溶性有機溶剤を有する溶剤の混合物、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール又はイソプロパノール等のC1〜C4アルカノールとの混合物である。水性の酢酸又は氷酢酸についても同様に使用可能である。全ての混合物は、溶液又は層を含むように選択される必要がある。好ましい溶剤は、酢酸、水又はこれらの混合物である。水と酢酸の混合物を溶剤として使用するのが特に好ましい。なぜなら、ルテニウム(III)アセテートは、酢酸又は氷酢酸に溶解されて存在するのが一般的だからである。しかしながら、ルテニウム(III)アセテートは、溶解後に固体として使用されても良い。本発明の触媒は、水を使用することなく調製されても良い。
【0041】
少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属の他の塩の溶液は、1回以上の含浸工程において、ルテニウム(III)アセテートの溶液と一緒に、或いは1回以上の含浸工程において、ルテニウム(III)アセテートの溶液と別個に施され得る。これは、ルテニウム(III)アセテート及び更に、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属の他の塩を含む一方の溶液を用いて含浸が行われ得ることを意味する。かかる溶液による含浸は、1回以上行われても良い。しかしながら、含浸は、最初にルテニウム(III)アセテートの溶液により、その後の別個の含浸工程において、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属の他の塩を含む溶液により行われることも同様に可能である。含浸工程の順序は、反対であっても良い。同様に、2つの含浸工程の一方又は両方の含浸工程を任意の順番で1回以上繰り返すことも可能である。各々の含浸工程の後に、乾燥するのが一般的である。
【0042】
含浸工程で使用され得る元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の他の遷移金属の好適な塩は、例えば、ニトレート、アセトネート及びアセテートであり、アセテートが好ましい。
【0043】
1回の含浸工程でルテニウム(III)アセテートの溶液だけを用いて含浸を行うのが特に好ましい。
【0044】
担体材料の含浸は、種々の方法で行われても良く、公知の手法で担体材料の形態に基づいて異なる。例えば、担体材料は、前駆体溶液によって噴霧又はフラッシュされても良く、或いは担体材料は、前駆体溶液に懸濁されても良い。例えば、担体材料は、活性金属前駆体の水溶液に懸濁され、所定時間後、水溶液の上澄み液からろ過されても良い。そして、吸収される液体の量及び溶液の活性金属濃度を用いて、触媒における活性金属含有量を簡単な手法で制御することが可能である。また、担体材料は、例えば、担体材料を所定量の、活性金属前駆体の溶液(担体材料が吸収可能な液体の最大量に相当する。)で処理することによって含浸されても良い。この場合、担体材料は、例えば必要とされる量の液体で噴霧され得る。この場合に好適な装置は、液体と固体の混合に一般的に使用される装置であり(Vauck/Mueller, Grundoperationen chemischer Verfahrenstechnik [Basic operations in chemical process technology], 第10版, Deutscher Verlag fuer Grundstoffindustrie, 1994, 405頁以降を参照されたい)、例えば、回転式乾燥器、含浸ドラム、ドラム混合器、パドル混合器である。モノリシックな担体を、活性金属前駆体の水溶液でフラッシュするのが一般的である。
【0045】
含浸に使用される溶液は、好ましくは低ハロゲンであり、特に低塩素であり、すなわち、溶液は、溶液の全質量に対して、ハロゲンを含まないか、或いは500質量ppm未満、特に100質量ppm未満のハロゲン、例えば0〜<80質量ppmのハロゲンを含む。
【0046】
溶液中における活性金属前駆体の濃度は、その性質によって、施される活性金属前駆体の量及び溶液に用いられる担体材料の吸収能力に応じて異なり、使用される溶液の全質量に対して、<20質量%、好ましくは0.01〜6質量%、更に好ましくは0.1〜1.1質量%である。
【0047】
工程b)
乾燥は、固体を乾燥すると共に、以下に規定される上限の温度範囲を維持する場合に一般的な処理方法によって行われ得る。乾燥温度の上限を維持することは、触媒の品質、すなわち、触媒の活性に関して重要である。以下に規定される乾燥温度を超えると、活性が明らかに失われる。従来技術で提案しているように、より高温で、例えば300℃を超え又は400℃さえも超えて担体をか焼するのは、不必要であるだけでなく、触媒の活性に対して不利な作用を及ぼす。十分な乾燥速度を達成するために、乾燥は、高温、好ましくは180℃以下、特に160℃以下で、少なくとも40℃、特に少なくとも70℃、更には少なくとも100℃、極めて好ましくは110〜150℃の範囲で行われる。
【0048】
活性金属前駆体が含浸される固体は、標準圧力の条件下で乾燥されるのが一般的であり、また、乾燥は、減圧を利用することによって促進されても良い。屡々、乾燥は、気体流、例えば空気又は窒素を、乾燥されるべき材料上又は材料に通過させることによって促進されるであろう。
【0049】
乾燥時間は、その性質により、乾燥の所望の程度及び乾燥温度に応じて異なり、1〜30時間の範囲が好ましく、2〜10時間の範囲が更に好ましい。
【0050】
処理される担体材料の乾燥は、その後の還元前に、水又は揮発性の溶剤成分の含有量が固体の全質量に対して、5質量%未満、特に2質量%以下を形成するように行われるのが好ましい。規定される質量分率は、160℃の温度、1バールの圧力及び10分の時間にて測定され、固体の質量損失に関連する。このようにして、本発明で使用される触媒の活性を、更に高めることが可能である。
【0051】
工程c)
乾燥後に得られる固体を、一般的には150〜450℃の範囲、好ましくは250から350℃の範囲の温度でそれ自体公知の方法により固体を還元することによって、その触媒活性形態に転化させる。
【0052】
この場合、担体材料を、水素又は水素及び不活性ガスの混合物と、上述の温度条件下で接触させる。水素の絶対圧は、還元の結果に対してそれほど重要ではなく、例えば、0.2〜1.5バールの範囲内にて変更され得る。屡々、触媒材料を、水素流中において水素の標準圧にて水素化する。例えば、固体を回転管又は回転球形炉において還元することにより、固体を移動させつつ還元を行うのが好ましい。このようにして、本発明の触媒の活性を更に高めることが可能である。使用される水素は、触媒毒、例えば、CO及びSを含む化合物、例えばH2S、COS等を含まないのが好ましい。
【0053】
還元は、有機還元剤、例えばヒドラジン、ホルムアルデヒド、ホルメート又はアセテートを用いて行われても良い。
【0054】
還元後、触媒を公知の手法で不動態化して、取扱性を改良することが可能であるが、これは、触媒を酸素含有ガス、例えば空気で短時間処理するが、好ましくは、1〜10容量%の酸素を含む不活性ガス混合物で処理することによって行われる。本発明の場合、CO2又はCO2/O2混合物を使用することも可能である。
【0055】
活性触媒は、不活性有機溶剤、例えばエチレングリコール下に保存されても良い。
【0056】
他の実施の形態において、本発明の被覆触媒を製造するために、例えば、上記のように、又はWO−A2−02/100538(BASF社)に記載のように調製される活性金属触媒前駆体に、1種以上のアルカリ土類金属(II)塩の溶液を含浸させる。
【0057】
好ましいアルカリ土類金属(II)塩は、対応のニトレート、特に硝酸マグネシウム及び硝酸カルシウムである。
【0058】
かかる含浸工程においてアルカリ土類金属(II)塩に好ましい溶剤は、水である。アルカリ土類金属(II)塩の溶剤における濃度は、例えば、0.01〜1モル/Lの範囲である。
【0059】
例えば、管に設けられる活性金属/SiO2触媒は、アルカリ土類金属塩の水溶液の流れと接触される。含浸されるべき触媒を、アルカリ土類金属塩の上澄み溶液で処理しても良い。
【0060】
これにより、活性金属/SiO2触媒、特にその表面において、アルカリ土類金属イオンが生じつつ飽和となるのが好ましい。
【0061】
過剰のアルカリ土類金属塩及び非固定状態のアルカリ土類金属イオンを、触媒からフラッシュする(H2Oフラッシュ、触媒洗浄)。
【0062】
簡単にされた取扱いのため、例えば、反応器の管に設置する場合、本発明の触媒を、含浸後に乾燥することが可能である。この場合、乾燥は、<200℃、例えば50〜190℃の範囲、更に好ましくは<40℃、例えば60〜130℃の炉において行われても良い。
【0063】
含浸処理は、実験施設内で、又は現場で行われても良く;実験施設内は、触媒を反応器に設置する前を意味し;現場は、反応器においてを意味する(触媒の設置後)。
【0064】
一の処理変法において、触媒に、アルカリ土類金属イオンを、例えばアルカリ土類金属塩に溶解させた形で、水素化されるべき芳香族支持体の溶液(反応材料)に添加することによって、アルカリ土類金属イオンを現場で含浸することも可能である。このために、例えば、適量の塩を最初に水に溶解し、次に、有機溶剤に溶解させた支持体に添加する。
【0065】
一の変法において、本発明の触媒を本発明の水素化方法において、水素化すべき支持体のアルカリ土類金属イオン含有溶液と組み合わせて使用する場合、特に有利であることが見出された。水素化すべき支持体の溶液におけるアルカリ土類金属イオンの含有量は、1〜100質量ppmの範囲であるのが一般的であり、特に2〜10質量ppmの範囲である。
【0066】
調製の結果、活性金属は、本発明の触媒において、金属質の活性金属の形で存在する。
【0067】
本発明の被覆触媒の調製においてハロゲン非含有、特に塩素非含有の活性金属前駆体及び溶剤を使用した結果、本発明の被覆触媒におけるハロゲン化物含有量、特に塩化物含有量は、触媒の全質量に対して、更に0.05質量%未満(0〜<500質量ppm、例えば0〜400質量ppm)となる。塩化物含有量は、例えば以下に説明される方法によるイオンクロマトグラフィによって測定される。
【0068】
本願の明細書において、全てのppmデータは、特段述べない限り、質量換算による割合(質量ppm)として理解されるべきである。
【0069】
所定の変法において、29Si固体NMRによって測定されるQ2及びQ3構造の百分率割合、すなわちQ2/Q3は25未満であり、好ましくは20未満であり、更に好ましくは15未満であり、例えば0〜14の範囲又は0.1〜13の範囲であるのが好ましい。これは、使用される担体におけるシリカの凝縮度が特に高いことを意味する。
【0070】
n構造(n=2、3、4):
n=Si(OSi)n(OH)4-n(但し、n=1、2、3又は4)
が同定され、そして百分率割合が29Si固体NMRによって測定される。
【0071】
n=4である場合、Qnは、−110.8ppmにて見出され、n=3である場合、Qnは、−100.5ppmにて見出され、そしてn=2である場合、Qnは、−90.7ppmにて見出される(標準:テトラメチルシラン)(Q0及びQ1は、同定されなかった)。分析は、干渉偏波(CP5ms)を用いた室温条件での(20℃)(MAS5500MHz)マジック角回転の条件下、1Hの双極子減結合を用いて行われた。信号の部分重複に起因して、強度は、線形分析によって評価された。線形分析は、Galactic Industries社製の標準的なソフトウエアパッケージを用い、最小二乗適合を繰り返し計算することによって行われた。
【0072】
担体材料は、Al23として計算される酸化アルミニウムを、1質量%を超えて、特に0.5質量%以下で、特に<500質量ppmで含まないのが好ましい。
【0073】
シリカの濃度は、アルミニウム及び鉄によって影響を及ぼされ得るので、Al(III)及びFe(II及び/又はIII)の濃度の合計は、300ppm未満であるのが好ましく、更に好ましくは200ppm未満であり、例えば、0〜180ppmの範囲である。
【0074】
アルカリ金属の酸化物の断片は、担体材料の調製により得られるのが好ましく、そして、2質量%以下であっても良い。屡々、1質量%未満である。また、アルカリ金属の酸化物非含有担体であるのが適当である(0〜<0.1質量%)。MgO、CaO、TiO2又はZrO2の断片は、担体材料に対して10質量%以下を構成しても良く、5質量%以下であるのが好ましい。しかしながら、かかる金属酸化物を検出可能量で含まない担体材料についても好適である(0〜<0.1質量%)。
【0075】
Al(III)及びFe(II及び/又はIII)により、シリカに組み込まれる酸性部位を生じさせることが可能であるので、電荷補償がキャリア中に、好ましくはアルカリ土類金属カチオン(M2+、M=Be、Mg、Ca、Sr、Ba)と共に存在するのが好ましい。これは、(Al(III)+Fe(II及び/又はIII))に対するM(II)の質量比が0.5を超え、好ましくは>1であり、更に好ましくは3を超えることを意味する。
【0076】
元素記号の後のカッコにおけるローマ数字は、元素の酸化状態を意味する。
【0077】
更に本願は、本発明の方法によって調製される被覆触媒を提供する。驚くべきことに、活性金属として、ルテニウムを単独で、或いはルテニウムと、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の他の遷移金属(CAS型)と、を一緒に、担体成分として二酸化ケイ素を含む担体に施されて含む被覆触媒の調製において、活性金属の分散を達成可能であり、且つ活性金属の実質的な部分は、触媒において、200μm以下の侵入度にて存在し、そして含浸工程で使用される前駆体がルテニウム(III)アセテートである場合、触媒の内部に活性金属を殆ど有していないことが見出された。本発明の被覆触媒は、活性金属としてルテニウムのみを含むのが好ましい。本発明の方法により調製可能な触媒に関する好ましい実施の形態は、上述した通りである。
【0078】
本発明の被覆触媒は、水素化触媒として使用されるのが好ましい。水素化可能な基を含む有機化合物の水素化に用いるのが特に好適である。水素化可能な基は、以下の構造単位:すなわち、C−C二重結合、C−C三重結合、芳香族基、C−N二重結合、C−N三重結合、C−O二重結合、N−O二重結合、C−S二重結合、NO2基(但し、これらの基は、ポリマー又は環式構造、例えば不飽和ヘテロシクリルに含まれていても良い。)を有する基であっても良い。水素化可能な基は、有機化合物において1回以上生じても良い。また、有機化合物は、上述の水素化可能な基に関して2個以上の異なる基を有していることも可能である。水素化条件に応じて、後者の場合には、1個以上の水素化可能な基のみを水素化することも可能である。
【0079】
炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化するか、又はアルデヒドを対応のアルコールに水素化する場合、最も好ましくは、炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化に水素化する場合に本発明の被覆触媒を使用するのが好ましい。芳香族基を完全に水素化するのが特に好ましく、且つ、完全な水素化は、水素化すべき化合物の転化率が>98%であるのが一般的であり、好ましくは>99%であり、更に好ましくは>99.5%であり、>99.9%であっても好ましく、特に>99.99%であり、更には99.995%であることを意味すると理解すべきである。
【0080】
本発明の被覆触媒を、ベンゼンのシクロヘキサンへの水素化に使用する場合、<100ppmの残留ベンゼン含有量(これは、>99.99%のベンゼン転化率に相当する。)を必要とする代表的なシクロヘキサンの規定を充足する。本発明の被覆触媒を用いたベンゼンの水素化におけるベンゼンの転化率は、>99.995%であるのが好ましい。
【0081】
本発明の被覆触媒を、芳香族ジカルボン酸エステル、特にフタル酸エステルの対応のジアルキルシクロヘキサンジカルボキシレートへの水素化に使用する場合、<100ppmの残留芳香族ジカルボン酸エステル含有量、特に残留フタル酸エステル含有量(これは、>99.99%の転化率に相当する。)を必要とする代表的な規定についても、これにより同様に充足する。本発明の被覆触媒を用いた芳香族ジカルボン酸エステル、特にフタル酸エステルの水素化における転化率は、>99.995%であるのが好ましい。
【0082】
従って、本願は、水素化可能な基を含む有機化合物を水素化し、好ましくは、炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化するか、又はアルデヒドを対応のアルコールに水素化し、最も好ましくは、炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化に水素化する方法を提供するが、本発明の被覆触媒を使用する。
【0083】
炭素環式基は、以下の一般式:
【0084】
【化1】

【0085】
[但し、Aが、独立してアリール又はヘテロアリールを表し;フェニル、ジフェニル、ベンジル、ジベンジル、ナフチル、アントラセン、ピリジル及びキノリンから選択されるのが好ましく;更に好ましくはフェニルを表し、
nが、0〜5までであり、好ましくは0〜4までであり、更に好ましくは、特にAが6員のアリール又はヘテロアリール環である場合には0〜3までであり;Aが5員のアリール又はヘテロアリール環である場合には、0〜4までであるのが好ましく;環の寸法に関係なく、nが0〜3までであるのが更に好ましく、0〜2までであっても更に好ましく、特に0〜1までであり;置換基Bを有さないAにおける残りの炭素原子又はヘテロ原子は、水素原子を有するか、又は適宜、置換基を有さず、
Bが、独立してアルキル、アルケニル、アルキニル、置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、ヘテロアルキル、置換へテロアルキル、ヘテロアルケニル、置換ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、置換ヘテロアルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルキル、置換シクロアルケニル、COOR(但し、RはH、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アリール又は置換アリールを表す。)、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、カルボニル、アミノ、アミド、チオ及びホスフィノからなる群から選択され;C1〜C6アルキル、C1〜C6アルケニル、C1〜C6アルキニル、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C8シクロアルケニル、COOR(但し、RはH又はC1〜C12アルキルを表す。)、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ及びアミドから選択されるのが好ましく;独立して、C1〜C6アルキル、COOR(但し、RはH又はC1〜C12アルキルを表す。)、アミノ、ヒドロキシル又はアルコキシを表すのが更に好ましい。]
を有する芳香族炭化水素の一部であるのが好ましい。
【0086】
“独立して”なる用語は、nが2以上である場合、置換基Bが上述の基と同一であっても又は異なっていても良いことを意味する。
【0087】
本願によると、特段述べない限り、アルキルは、分岐又は直鎖の、非環式の飽和炭化水素基を意味すると理解すべきである。アルキル基の適例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、i−ブチルである。1〜50個の炭素原子、更に好ましくは1〜20個の炭素原子、最も好ましくは1〜6個の炭素原子、特に1〜3個の炭素原子を有するアルキル基が好ましい。
【0088】
上述のCOOR基において、Rは、H又は分岐若しくは直鎖のアルキルを表し、H又はC1〜C12アルキルを表すのが好ましい。好ましいアルキル基は、C4〜C10アルキル基であり、C8〜C10アルキル基であるのが更に好ましい。アルキル基は、分岐であっても又は非分岐であっても良く、分岐であるのが好ましい。3個を超える炭素原子を有するアルキル基は、同一の炭素原子数の相互に異なるアルキル基の異性体混合物であっても良い。一例としては、イソノニル基であっても良いC9アルキル基、すなわち、異なるC9アルキル基の異性体混合物である。同様のことは、例えば、C8アルキル基に対しても適用される。かかる異性体混合物は、かかるアルキルに対応し、当業者に知られている調製方法により異性体混合物として得られるアルコールから出発して得られる。
【0089】
本願によると、アルケニルは、分岐又は非分岐の、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有する非環式の炭化水素基を意味すると理解すべきである。アルケニル基の適例は、2−プロペニル、ビニル等である。アルケニル基は、2〜50個の炭素原子、更に好ましくは2〜20個の炭素原子、最も好ましくは2〜6個の炭素原子、特に2〜3個の炭素原子を有する。また、アルケニルなる用語は、シス配向又はトランス配向(或いはE又はZ配向)を有する基を意味する理解すべきである。
【0090】
本願によると、アルキニルは、分岐又は非分岐の、少なくとも1個の炭素−炭素三重結合を有する非環式の炭化水素基を意味すると理解すべきである。アルキニル基は、2〜50個の炭素原子、更に好ましくは2〜20個の炭素原子、最も好ましくは1〜6個の炭素原子、特に2〜3個の炭素原子を有する。
【0091】
置換アルキル、置換アルケニル及び置換アルキニルは、これらの基の炭素原子に結合される1個以上の水素原子を別の基に置き換えたアルキル、アルケニル及びアルキニルを意味すると理解すべきである。かかる別の基の例示は、ヘテロ原子、ハロゲン、アリール、置換アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルキル、置換シクロアルケニル及びこれらの組み合わせである。置換アルキル基の適例は、特に、ベンジル、トリフルオロメチルである。
【0092】
ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル及びヘテロアルキニルなる用語は、炭素鎖における1個以上の炭素原子を、N、O及びSから選択されるヘテロ原子で置き換えたアルキル、アルケニル及びアルキニル基を意味すると理解すべきである。ヘテロ原子と他の炭素原子との間の結合は、飽和又は必要により不飽和であっても良い。
【0093】
本願によると、シクロアルキルは、単一の環又は複数の縮合環からなる非芳香族の環式炭化水素基を意味すると理解すべきである。シクロアルキル基の適例は、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクタニル、ビシクロオクチルである。シクロアルキル基は、3〜50個の炭素原子、更に好ましくは3〜20個の炭素原子、なおいっそう好ましくは3〜8個の炭素原子、特に3〜6個の炭素原子を有する。
【0094】
本願によると、シクロアルケニルは、単一の環又は複数の縮合環を有する非芳香族の部分不飽和環式炭化水素基を意味すると理解すべきである。シクロアルケニル基の適例は、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロオクテニルである。シクロアルケニル基は、3〜50個の炭素原子、更に好ましくは3〜20個の炭素原子、なおいっそう好ましくは3〜8個の炭素原子、特に3〜6個の炭素原子を有する。
【0095】
置換シクロアルキル及び置換シクロアルケニル基は、炭素環の炭素原子における1個以上の水素原子を別の基に置き換えたシクロアルキル及びシクロアルケニル基である。かかる別の基は、例えば、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルキル、置換シクロアルケニル、脂肪族複素環式基、置換脂肪族複素環式基、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、ボリル、ホスフィノ、アミノ、シリル、チオ、セレノ及びこれらの組み合わせである。置換シクロアルキル及びシクロアルケニル基の例示は、特に4−ジメチルアミノシクロヘキシル、4,5−ジブロモシクロヘプタ−4−エニルである。
【0096】
本願の場合、アリールは、単一の芳香族環又は縮合され、共有結合を介して結合され、又は適当な単位、例えばメチレン若しくはエチレン単位によって結合される複数の芳香族環を有する芳香族基を意味すると理解すべきである。かかる好適な単位は、ベンゾフェノールにおけるようなカルボニル単位、又はジフェニルエーテルにおけるような酸素単位、又はジフェニルアミンにおけるような窒素単位であっても良い。芳香族環は、例えば、フェニル、ナフチル、ジフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミン及びベンゾフェノンである。アリール基は、6〜50個の炭素原子、更に好ましくは6〜20個の炭素原子、最も好ましくは6〜8個の炭素原子を有する。
【0097】
置換アリール基は、アリール基の炭素原子に結合される1個以上の水素原子を1個以上の別の基に置き換えたアリール基である。好適な別の基は、アルキル、アルケニル、アルキニル、置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルキル、置換シクロアルケニル、ヘテロシクロ、置換ヘテロシクロ、ハロゲン、ハロゲン置換アルキル(例、CF3)、ヒドロキシル、アミノ、ホスフィノ、アルコキシ、チオ、並びに芳香族環に縮合されるか、又は結合によって結合されるか、又は好適な基を介して相互に結合される飽和及び不飽和の環式炭化水素の両方である。好適な基は、上述した基である。
【0098】
ヘテロアリール基は、アリール基の芳香族環における1個以上の炭素原子を、N、O及びSから選択されるヘテロ原子で置き換えたアリール基を意味すると理解すべきである。
【0099】
置換ヘテロアリール基は、置換アリール基の芳香族環における1個以上の炭素原子を、N、O及びSから選択されるヘテロ原子で置き換えた置換アリール基を意味すると理解すべきである。
【0100】
本願によると、ヘテロシクロは、基の1個以上の炭素原子を、ヘテロ原子、例えばN、O又はSで置き換えた飽和、部分不飽和又は不飽和の環式基を意味すると理解すべきである(“ヘテロシクロ”なる用語は、上述のヘテロアリール基も含む。)。ヘテロシクロの適例は、ピペラジニル、モルホリニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、ピペリジニル、ピロリジニル、オキサゾリニル、ピリジル、ピラジル、ピリダジル、ピリミジルである。
【0101】
置換ヘテロシクロ基は、環原子のいずれかに結合される1個以上の水素原子を別の基に置き換えたヘテロシクロ基である。好適な別の基は、ハロゲン、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、ボリル、ホスフィノ、アミノ、シリル、チオ、セレノ及びこれらの組み合わせである。
【0102】
アルコキシ基は、一般式−OZ1(但し、Z1はアルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、シリル及びこれらの組み合わせから選択される。)で表される基を意味すると理解すべきである。アルコキシ基の適例は、メトキシ、エトキシ、ベンジルオキシ、t−ブトキシである。アリールオキシなる用語は、一般式−OZ1(但し、Z1はアリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール及びこれらの組み合わせから選択される。)で表される基を意味すると理解すべきである。好適なアリールオキシ基は、特にフェノキシ、置換フェノキシ、2−ピリジノキシ、8−キノリノキシである。
【0103】
好ましい実施の形態において、Aはフェニルを表し、nは0〜3までであり、BはC1〜C6アルキル、COOR(但し、RはH又はC1〜C12アルキルを表す。)、アミノ、ヒドロキシル又はアルコキシを表す。本発明の水素化方法は、フェニル基を対応のシクロヘキシル基に完全に水素化するように行われるのが好ましい。
【0104】
本発明に従って対応のシクロヘキシル誘導体に水素化される好ましい化合物を、以下に規定する。
【0105】
本発明の水素化方法に関する好ましい実施の形態において、芳香族炭化水素は、ベンゼン及びアルキル置換ベンゼン、例えばトルエン、エチルベンゼン、キシレン(o−、m−、p−又は異性体混合物)及びメシチレン(1,2,4若しくは1,3,5又は異性体混合物)からなる群から選択される。本発明の方法において、これにより、ベンゼンをシクロヘキサンへの水素化し、そしてアルキル置換ベンゼン、例えばトルエン、エチルベンゼン、キシレン及びメシチレンをアルキル置換シクロヘキサン、例えばメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン及びトリメチルシクロヘキサンに水素化するのが好ましい。上述の芳香族炭化水素の混合物を、対応のシクロヘキサンの混合物に水素化することも可能である。例えば、ベンゼン、トルエン及びキシレンから選択される2種以上の化合物を含む混合物を使用して、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン及びジメチルシクロヘキサンから選択される2種以上の化合物を含む混合物にすることが可能である。
【0106】
本発明の水素化方法における他の好ましい実施の形態において、芳香族炭化水素は、フェノール、アルキル置換フェノール、例えば4−tert−ブチルフェノール及び4−ノニルフェノール、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン及びビス(p−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタンからなる群から選択される。本発明の方法において、これにより、フェノールをシクロヘキサノールに水素化し、アルキル置換フェノール、例えば4−tert−ブチルフェノール及び4−ノニルフェノールをアルキル置換シクロヘキサノール、例えば4−tert−ブチルシクロヘキサノール及び4−ノニルシクロヘキサノールに水素化し、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタンをビス(p−ヒドロキシシクロヘキシル)メタンに水素化し、そしてビス(p−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタンをビス(p−ヒドロキシシクロヘキシル)ジメチルメタンに水素化するのが好ましい。
【0107】
本発明の水素化方法における他の好ましい実施の形態において、芳香族炭化水素は、アニリン、アルキル置換アニリン、N,N−ジアルキルアニリン、ジアミノベンゼン、ビス(p−アミノフェニル)メタン及びビス(p−アミノトリル)メタンからなる群から選択される。本発明の方法において、これにより、アニリンをシクロヘキシルアミンに水素化し、アルキル置換アニリンをアルキル置換シクロヘキシルアミンに水素化し、N,N−ジアルキルアニリンをN,N−ジアルキルシクロヘキシルアミンに水素化し、ジアミノベンゼンをジアミノシクロヘキサンに水素化し、ビス(p−アミノフェニル)メタンをビス(p−アミノシクロヘキシル)メタンに水素化し、そしてビス(p−アミノトリル)メタンをビス(p−アミノメチルシクロヘキシル)メタンに水素化するのが好ましい。
【0108】
本発明の水素化方法における他の好ましい実施の形態において、芳香族炭化水素は、芳香族カルボン酸、例えばフタル酸及び芳香族カルボン酸エステル、例えば、フタル酸のC1〜C12アルキルエステル(但し、C1〜C12アルキル基は直鎖又は分岐であっても良い。)、例えばジメチルフタレート、ジ−2−プロピルヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレートからなる群から選択される。本発明の方法において、これにより、芳香族カルボン酸、例えばフタル酸を脂環式カルボン酸、例えばテトラヒドロフタル酸に水素化し、芳香族カルボン酸エステル、例えば、フタル酸のC1〜C12アルキルエステルを脂肪族カルボン酸エステル、例えばテトラヒドロフタル酸のC1〜C12アルキルエステルに水素化し、例えば、ジメチルフタレートをジメチルシクロヘキサンジカルボキシレートに水素化し、ジ−2−プロピルヘプチルフタレートをジ−2−プロピルヘプチルシクロヘキサンジカルボキシレートに水素化し、ジ−2−エチルヘキシルフタレートをジ−2−エチルヘキシルシクロヘキサンジカルボキシレートに水素化し、ジオクチルフタレートをジオクチルシクロヘキサンジカルボキシレートに水素化し、そしてジイソノニルフタレートをジイソノニルシクロヘキサンジカルボキシレートに水素化するのが好ましい。
【0109】
他の実施の形態において、本願は、アルデヒドを対応のアルコールに水素化する方法に関する。好ましいアルデヒドは、単糖類及び二糖類、例えばグルコース、ラクトース及びキシロースである。単糖類及び二糖類を、対応の糖アルコールに水素化し、例えば、グルコースをソルビトールに、ラクトースをラクチトールに、そしてキシロースをキシリトールに水素化する。
【0110】
好適な単糖類及び二糖類並びに好適な水素化条件下は、例えばDE−A10128205に開示され、且つ本発明の被覆触媒を、DE−A10128205に開示される触媒の代わりに使用する。
【0111】
本発明の水素化方法は、水素化可能な基を含む有機化合物を水素化し、好ましくは、炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化する選択的方法であるが、かかる方法により、使用される触媒に対して、高い収率及び時空収率[生成物の量/(反応器の容量・時間)](kg/L反応器・時)を達成可能であり、そしてかかる方法において、使用される触媒は、後処理することなく水素化に繰り返し使用され得る。特に、触媒の長期の寿命が、本発明の水素化方法において達成される。
【0112】
本発明の水素化方法は、液相又は気相中で行われても良い。本発明の水素化方法を液相中で行うのが好ましい。
【0113】
本発明の水素化方法は、溶剤若しくは希釈剤の不存在下又は溶剤若しくは希釈剤の存在下で行われても良い、すなわち、水素化を溶液中で行うのは必須ではない。
【0114】
溶剤又は希釈剤として、好適な溶剤又は希釈剤を使用しても良い。有用な溶剤又は希釈剤は、原則として、水素化されるべき有機化合物を最大限に溶解可能であるか、又は有機化合物と完全に混合し、そして水素化条件下で不活性である、すなわち、水素化されない溶剤又は希釈剤である。
【0115】
溶剤の適例は、環式及び非環式エーテル、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルtert−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジメトキシプロパン、ジメチルジエチレングリコール、脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、n−若しくはイソプロパノール、n−、2−、イソ若しくはtert−ブタノール、カルボン酸エステル、例えばメチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート又はブチルアセテート、そして更に脂肪族エーテルアルコール、例えばメトキシプロパノール、並びに脂環式化合物、例えばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン及びジメチルシクロヘキサンである。
【0116】
使用される溶剤又は希釈剤の量は、特定の方法で限定されず、必要に応じて自由に選択可能であるが、水素化目的の有機化合物の3〜70質量%溶液を得る量であるのが好ましい。希釈剤を使用するのは、水素化方法における強力な発熱を抑制するために有利である。過剰の発熱により、触媒の失活に至る場合があるので、望ましくない。
【0117】
従って、注意して温度制御するのは、本発明の水素化方法において望ましい。好適な水素化温度は、以下に規定される。
【0118】
溶剤を本発明の方法で使用する場合、水素化で形成される生成物、すなわち、適宜、他の溶剤又は希釈剤に加えて、好ましくは特定の脂環式化合物を使用するのが特に好ましい。どんな場合でも、かかる方法で形成される生成物の一部を、未だ水素化されていない芳香族化合物に添加することが可能である。ベンゼンの水素化において、これにより、シクロヘキサンを特に好ましい実施の形態において溶剤として使用する。フタレートの水素化において、対応のシクロヘキサンジカルボン酸ジアルキルエステルを溶剤として使用するのが好ましい。
【0119】
水素化の目的で使用される有機化合物の質量に対して、1〜30倍、更に好ましくは5〜20倍、特に5〜10倍の量の生成物を溶剤又は希釈剤として使用するのが好ましい。特に、本発明は、当該明細書における種類の水素化であって、ベンゼンを本発明の触媒の存在下でシクロヘキサンに水素化する水素化に関する。
【0120】
実際の水素化は、冒頭に引用される従来技術に記載のように、水素化可能な基を有する有機化合物を水素化し、好ましくは炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化する公知の水素化方法に類似して行われるのが一般的である。このために、液相又は気相、好ましくは液相としての有機化合物を、水素の存在下で触媒と接触させる。液相は、流動触媒床(流動床型)又は固定触媒床(固定床型)に通過され得る。
【0121】
水素化は、連続的に又はバッチ式に構成されても良く、連続的な処理の実施が好ましい。本発明の方法を、トリクル反応器又は流動床型による浸水型で行うのが好ましい。水素は、水素化されるべき反応材料の溶液と並流で、又は向流にて、触媒に通過されても良い。
【0122】
流動触媒床及び固定触媒床での水素化により水素化を行うのに好適な装置は、従来技術から知られており、例えば、Ullmanns Enzyklopaedie der Technischen Chemie, 第4版, 第13巻, 135頁以降、そして更にP. N. Rylander, "Hydrogenation and Dehydrogenation" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 第5版. on CD-ROMから知られている。
【0123】
本発明の水素化は、標準水素圧の条件下又は高い水素圧、例えば少なくとも1.1バール、好ましくは少なくとも2バールの水素絶対圧の条件下で行われても良い。一般に、水素の絶対圧は、325バールの値、好ましくは300バールの値を超えないであろう。更に好ましくは、水素の絶対圧は、1.1〜300バールの範囲であり、最も好ましくは5〜40バールの範囲である。ベンゼンの水素化は、例えば、50バール以下の水素圧で行われるのが一般的であり、10〜45バールの範囲であるのが好ましく、15〜40バールの範囲であるのが更に好ましい。
【0124】
本発明の方法における反応温度は、一般に少なくとも30℃であり、250℃の値を超えないであろう。水素化方法を、50〜200℃の範囲、更に好ましくは70〜180℃の範囲、最も好ましくは80〜160℃の範囲の温度条件下で行うのが好ましい。ベンゼンの水素化は、例えば、一般的には75〜170℃の範囲、好ましくは80〜160℃の範囲の温度条件下で行われる。
【0125】
また、水素の他に有用な反応ガスは、触媒毒、例えば一酸化炭素又はイオウ含有ガス、例えばH2S又はCOS、例えば、水素と、不活性ガス、例えば窒素又は依然として揮発性の炭化水素を一般に含まない改質オフガス(reformer offgas)と、の混合物を含まない水素を含むガスである。純粋な水素(純度99.9容量%以上、特に99.95容量%以上、更には99.99容量%以上)を使用するのが好ましい。
【0126】
高い触媒活性に起因して、比較的少量の触媒が、使用される反応材料に基づき必要とされる。例えば、バッチ懸濁型の場合、1モルの反応材料に対して、好ましくは5モル%未満、例えば0.2〜2モル%の活性金属が使用されるであろう。水素化方法の連続形態において、水素化されるべき反応材料は、0.05〜3kg/(L(触媒)・時)、特に0.15〜2kg/(L(触媒)・時)の量で触媒に運ばれるのが一般的であろう。
【0127】
活性が減退した場合には、本発明の方法で使用される触媒を、貴金属触媒、例えばルテニウム触媒に一般的であり、当業者に知られている方法で再生可能であるのが適当であろう。本発明の場合、例えば、BE882279に記載のように触媒を酸素で処理し、US4072628に記載のように希釈剤、すなわちハロゲン非含有無機酸で処理し、又は過酸化水素、例えば0.1〜35質量%の含有量を有する水溶液の形の過酸化水素で処理し、又は他の酸化物質、好ましくはハロゲン非含有溶液の形の酸化物質で処理するのが特記に値する場合がある。一般に、復活された後で且つ再び使用される前に、触媒は、溶剤、例えば水で濯がれるであろう。
【0128】
水素化可能な基を含み、本発明の水素化方法で使用される有機化合物(好ましい化合物は、上述した通りである。)は、本発明の方法の好ましい実施の形態において、一般的には2mg/kg以下、好ましくは1mg/kg以下、更に好ましくは0.5mg/kg以下、なおいっそう好ましくは0.2mg/kg以下、特に0.1mg/kg以下の硫黄含有量を有する。硫黄含有量を測定する方法を、以下に説明する。0.1mg/kg以下の硫黄含有量は、以下に規定される方法によって、硫黄が、原料、例えばベンゼン中に検出されないことを意味する。
【0129】
炭素環式の芳香族基の対応の炭素環式の脂肪族基への好ましい水素化の場合、本発明の水素化方法は、炭素環式の芳香族基を持って使用される有機化合物における芳香族環を完全に水素化するという特徴を有するのが好ましく、且つ水素化の程度は、>98%が一般的であり、好ましくは>99%であり、更に好ましくは>99.5%であり、なおいっそう好ましくは>99.9%であり、特に>99.99%であり、更には>99.995%である。
【0130】
水素化の程度は、ガスクロマトグラフィによって測定される。ジカルボン酸及びジカルボン酸エステル、特にフタレートの水素化の場合、水素化の程度は、UV/VIS分光法によって測定される。本発明の水素化方法における特に好ましい実施の形態は、ベンゼンのシクロヘキサンへの水素化に関する。従って、本発明の水素化方法は、ベンゼンの水素化に関する例示を用いて以下に詳細に説明されるであろう。
【0131】
ベンゼンの水素化は、液相中で行われるのが一般的である。連続的に又はバッチ式で行われても良く、連続的に行われるのが好ましい。
【0132】
本発明のベンゼンの水素化は、一般的には75〜170℃、好ましくは80〜160℃の範囲の温度条件下で行われる。圧力は、50バール以下であるのが一般的であり、好ましくは10〜45バールの範囲であり、更に好ましくは15〜40バールの範囲であり、最も好ましくは18〜38バールの範囲である。
【0133】
本発明の水素化方法で使用されるベンゼンは、本発明の方法における好ましい実施の形態において、一般的には2mg/kg以下、好ましくは1mg/kg以下、更に好ましくは0.5mg/kg以下、なおいっそう好ましくは0.2mg/kg以下、特に0.1mg/kg以下の硫黄含有量を有する。硫黄含有量を測定する方法を、以下に説明する。0.1mg/kg以下の硫黄含有量は、以下に規定される方法によって、硫黄が、原料がベンゼン中に検出され得ないことを意味する。
【0134】
水素化は、一般的には流動床又は固定床型で行われても良く、固定床型で行われるのが好ましい。本発明の水素化方法を液体循環にて行うのが特に好ましく、その場合、水素化の熱を、熱交換機によって除去して、利用することが可能である。液体循環によって本発明の水素化方法を行う場合の供給/循環比は、1:5〜1:40であるのが一般的であり、好ましくは1:10〜1:30である。
【0135】
完全な転化を達成するために、水素化溶出物の後反応(postreaction)を行っても良い。このために、直線の通路での気相又は液相中で本発明の水素化方法の後、水素化溶出物を下流側の反応器に通過させても良い。液相の水素化の場合、反応器は、トリクル型で稼働されるか、又は浸水型で稼働されても良い。反応器には、本発明の触媒又は当業者に公知の他の触媒が充填される。
【0136】
従って、本発明の方法を用いて、水素化されるべき出発材料を極少量の含有量で含む水素化生成物を得ることが可能である。
【0137】
更に本願は、本発明の被覆触媒を、水素化可能な基を含む有機化合物を水素化し、好ましくは炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化するか、又はアルデヒドを対応のアルコールに水素化する方法、更に好ましくは、炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化する方法で使用する方法を提供する。好適な触媒、処理条件及び水素化されるべき化合物は、上述した通りである。
【0138】
以下の実施例により、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0139】
[触媒]
触媒A−Ru/Al23(比較)
Degussa社製の触媒H220H/D0.5%(製品名称);0.47質量%の、Al23担体材料におけるルテニウム(バッチ番号:20014273)。
【0140】
触媒B−Ru/SiO2(比較)
触媒Bを、DE−A10128242における一般的な製造実施例(実施例29)に従って調製した。
【0141】
SiO2に対するルテニウム(III)ニトロシルニトレートの含浸(ルテニウムの量は、1基の反応器の容量あたり、触媒Aに対して類似の量のルテニウムが存在するように選択された、すなわち0.7質量%のRu)。
【0142】
原料:
Umicore社製(以前は、OMG)の6825751620番のルテニウム(III)ニトロシルニトレート(10.85質量%のRu;No.2419/01−02);
SiO2:BASF社のD11−10(3mmの押出物、バッチ番号No.98/23431、吸水性8.76mL/10g、BET118m2/g)。
【0143】
触媒Bは、僅かなルテニウム勾配を有していた:内部では、ルテニウムの濃度は、被膜において約50%のルテニウム濃度であった(触媒押出物の断面に対して、SEM、EDXSで測定)。
【0144】
触媒C−Ru/Al23(比較)
75gのAl23(Norpro社製(02/R00690)、1085℃で6時間熱処理;BET55.5m2/g;吸水性0.66mL/g)を、49.5mLの脱塩水中における塩化ルテニウム溶液(0.88gの、Aldrich社製の塩化ルテニウム(III)水和物、No.22,622−9 Lot 10313A1−070)と一緒に溶解し、そして室温条件下に噴霧含浸した。含浸された担体を、移動状況下に120℃で乾燥した。水素雰囲気下、300℃で4時間還元した(50L(STP)/時のH2−10L(STP)/時のN2)。還元後、室温条件下で不動態化した(空気の出発量:N2において3容量%の空気、且つ空気の量は、不動態化の際に徐々に増大された)。触媒は、0.43質量%のルテニウムを含んでいた。
【0145】
触媒D−Ru/SiO2; 触媒E−Ru/SiO2(本願)
原料;
SiO2担体D11−10(BASF);3mmの押出物(No.98/23431、吸水性8.76mL/10g、BET118m2/g)、
Ru化合物:酢酸に溶解したルテニウム(III)アセテート(Umicore社製、5.22質量%のRu、製品番号6818752605、製造番号240299)。
【0146】
6.8gのルテニウム(III)アセテート溶液を、脱塩水で83mLに作製し、そして100gのD11−10担体に分散し、120〜130℃で乾燥し(移動状況下)、300℃で2時間還元し(50L(STP)/時のH2−10L(STP)/時のN2)、そして室温条件下で不動態化した(N2において6容量%の空気)。
【0147】
触媒Dは、0.35質量%のRuを含み、
触媒Eは、0.34質量%のRuを有していた。
【0148】
触媒F−Ru/SiO2(本願)
触媒Fは、触媒D及びEに類似のように調製されたが、1.5mmの押出物(担体番号84084、かかるバッチの吸水性9.5mL/10g、BET167m2/g)に対して調製された。含浸を、95〜98質量%の吸水率にて再び行った。最終の触媒Fは、0.36質量%のRuを含んでいた。
【0149】
触媒G−Ru/SiO2(本願)
50kgのSiO2担体(D11−10(BASF);3mmの押出物(No.04/19668、吸水性0.95mL/g、BET135m2/g)を含浸ドラムに最初に充填し、そして96〜98質量%の吸水率にて含浸した。含浸水溶液は、0.176kgのRuをRuアセテート(Umicore社製、4.34質量%のRu、バッチ0255)として含んでいた。含浸触媒を、移動させることなく145℃の炉温度で約1%の残留水分含有量まで低減するように乾燥した。300℃及び90分の滞留時間の条件下、移動床において移動させつつ水素中で還元した(N2において約75%のH2、N2は、パージ流として使用された;1.5m3(STP)/時のH2−0.5m3(STP)/時のN2)。希釈空気(N2中の空気)中において不動態化した。空気の添加は、触媒の温度が30〜35℃未満となるように制御された。
【0150】
最終の触媒Gは、0.31〜0.32質量%のRuを含んでいた。
【0151】
触媒H−Ru/SiO2(本願)
原料;
SiO2担体:50gのDavicat銘柄57(Davison-Grace, spall, lot2169、吸水性1.01mL/g、BET340m2/g):
Ru溶液:3.36gのルテニウム(III)アセテート(Umicore社製、5.22質量%のRu、製品番号6818752605、製造番号240299)。
【0152】
RU溶液を、脱塩水で50mLに作製した。かかる溶液を担体に分散し、乾燥キャビネット中において120℃で乾燥し、300℃で2時間還元し(50L(STP)/時のH2−10L(STP)/時のN2)、そして室温条件下で不動態化した(N2において6容量%の空気)。
【0153】
触媒は、0.33質量%のRuを含んでいた。
【0154】
本発明の触媒Gを、以下に詳細に説明する:
担体:
担体として、BASFのSiO2担体D11−10(3mmの押出物)を使用した:
D11−10は、BASF社製であり、これを購入することが可能であった。
【0155】
付形品の多孔性:0.95mL/g(吸水性の測定、BASF−CAK/Q法1021は、担体を水で飽和させ、すなわち上澄み溶液、そして水が1mLの水を滴り落とした後に吸収される水の量を測定した=1gの水)。
【0156】
付形品の嵩密度:467g/l(付形品に対して6mmの直径以下)(BASF−CAK/Q法1001)。
【0157】
触媒G:
調製方法は、上述した通りであった。
【0158】
ルテニウム含有量:0.31〜0.32質量%、
方法の説明:0.03〜0.05グラムのサンプルを、アルイシント坩堝において5gの過酸化ナトリウムと混合し、ホットプレート上にてゆっくり加熱した。次に、フラックス混合物を直火で最初に溶融し、その後、赤くなるまでブロートーチの炎で加熱した。透明な溶融物を得たら直ぐに融解を終えた。冷却された溶融物のケークを80mLの水に溶解し、そして溶液を沸騰まで加熱し(H22の破壊)、そして、冷却後、50mLの21質量%の塩酸と混合した。その後、溶液を、水にて250mLの容量にした。
【0159】
分析:かかるサンプル溶液を、同位体Ru99に関してICP−MSによって分析した。
【0160】
Ruの分散性:90〜95%(CO収着による、仮定される化学量論係数:1;サンプルの調製:サンプルを200℃で30分間に亘って水素で還元し、次に、200℃で30分間に亘ってヘリウムでフラッシュした、すなわち、35℃での化学吸着の飽和度まで不活性ガス流(CO)に吸収されるガスのパルスで金属表面を測定する。飽和度は、更にCOを吸着させない場合に達成された:すなわち、3〜4個の連続するピーク(検出器の信号)の面積が一定であり、そして未吸着パルスのピークに類似する。パルス容量は、正確に1%に測定され、ガスの圧力及び温度を確認する必要があった。)。(方法:ドイツ工業規格66136を参照されたい)。
【0161】
表面分析:細孔分布(ドイツ工業規格66131/ドイツ工業規格66134によるN2収着又はドイツ工業規格66133によるHg多孔性)
2収着:BET130〜131m2/g(ドイツ工業規格66131)、平均細孔直径26〜27nm(ドイツ工業規格66134)、細孔容積0.84〜0.89mL/g、
Hg多孔性(ドイツ工業規格66133):BET119〜122m2/g、平均細孔直径(4V/A)28〜29nm、細孔容積0.86〜0.87mL/g。
【0162】
[TEM]
還元された触媒Gは、少なくとも部分的に結晶のルテニウムを、最も外側の領域(押出物表面)に含んでいた。担体において、ルテニウムは、個々の粒子1〜10nm(同じ場所で>5nm):通常は、1〜5nmにて生じた。粒子の寸法は、外側から内向きに低減した。
【0163】
ルテニウム粒子は、押出物表面の下側で30〜50マイクロメートルの深さまで見出された。かかる被膜において、ルテニウムは、結晶の形で少なくとも部分的に存在していた(SAD(selected area diffraction):制限視野回折)。これにより、ルテニウムの主要部分は、被膜中に在る(最初の50μm内で>90%)。
【0164】
[水素化]
加圧容器中で実験する場合の一般的な実験的記述(GED)
4つのビーム散布撹拌器、バッフル並びにサンプリング又は加圧容器の充填及び排出に用いられる内部ライザーを有する1.2Lの加熱可能な加圧容器(内径90mm、容器の高さ200mm、材料1.4580又は2.4610)に、“触媒バスケット”(catalyst basket)(材料2.4610)で使用される特定量(容量又は質量)の触媒を充填した。
【0165】
加圧容器を圧力試験用にシールし、そして50バールの窒素を充填した。その後、加圧容器を減圧し、真空ポンプで排出し、そして真空ポンプから分離し、そして原料又は原料溶液を、ライザーを介して容器に押し込んだ。
【0166】
残留量の酸素を除去するために、容器に、室温条件下で、それぞれ10〜15バールの窒素を2回、そしてそれぞれ10〜15バールの水素を2回に亘って連続して充填し、そして減圧した。
【0167】
撹拌器を、1000rpmの撹拌速度で作動させ、反応溶液を反応温度まで加熱した。標的の温度を、遅くとも15分後に達成した。水素を、特定の標的圧力以下で5分内にて注入した。水素の消費は、Buechi設備によって測定され、そして圧力を特定の標的圧力にて一定に維持した。
【0168】
ライザーを規則的な間隔で使用して、予備サンプル(ライザーをフラッシュするため)と反応混合物のサンプルを取り出して、反応の進行をモニターした。
【0169】
適当な反応時間後、ヒーターを停止し、加圧容器を25℃に冷却し、高圧をゆっくり解放し、そして反応混合物を、僅かに高圧にてライザーによって排出した。
【0170】
使用される水素は、少なくとも99.9〜99.99容量%(乾燥ガスに対して)の純度を有していた。副成分は、一酸化炭素(最大10容量ppm)、窒素(最大100容量ppm)、アルゴン(最大100容量ppm)、及び水(最大400容量ppm)であった。
【0171】
加圧容器で連続実験する場合の一般的な実験的記述(GES)
かかる手順は、一般的な実験的記述(GED)に従うが、使用される触媒は、実験の終了後に触媒バスケットに残留する。真空ポンプで加圧容器を排出した後、容器を真空ポンプから分離し、新たな原料又は原料溶液を、ライザーによって容器に押し込んだ。
【0172】
ベンゼンのシクロヘキサンへの水素化
>99.90質量%の純度及び<0.2mg/kgの合計硫黄含有量のベンゼン(BASF)を使用した(硫黄の測定は、以下に規定される。)。使用されるシクロヘキサン(BASF)は、>99.95質量%の純度及び<0.2mg/kgの合計硫黄含有量を有していた(硫黄の測定は、以下に規定される。)。
【0173】
[触媒の比較のための水素化例]
実験は、同量のルテニウムを各々の場合で使用するように行われた。各々の場合で使用される原料は、ベンゼンをシクロヘキサンに溶解した750mLの5質量%溶液であった。
【0174】
手順:“GES”法に準拠
圧力:32バール
温度:100℃
使用される触媒:20.6gの触媒E(本願)(0.34%のRu/SiO2D11−10担体、3mm)、19.4gの触媒F(本願)(0.36%のRu/SiO2D11−10担体、1.5mm)、16.3gの触媒C(比較)(0.43%のRu/Al23Norpro担体)、21.2gの触媒H(本願)(Davicat G57、すなわちGrace担体における0.33%のRu)、14.9gの触媒A(比較)(0.5%)(0.47%のRu/Al23、Degussa触媒、バッチ番号20014273)
分析:GC面積%でのGC分析(手順は、以下に規定される)。
【0175】
特定の触媒を、4つの連続する実験において繰り返し使用した。サンプルを、20、40、60、90、120、180及び240分の反応時間後に取り出した。
【0176】
評価:
以下の表は、時間に対するベンゼン含有量の低減を列挙している。4つの実験のそれぞれで得られる結果の平均値、そして更に、特定のサンプルに関して、平均からの最大の正の偏差及び最大の負の偏差を評価した:
【0177】
【表1】

【0178】
【表2】

【0179】
【表3】

【0180】
【表4】

【0181】
【表5】

【0182】
[結果]
結果は、同量のルテニウムを使用する場合、触媒H(Davicat G57、すなわちGrace担体における0.33%のRu)、E(0.34%のRu/SiO2D11−10担体、3mmの押出物)及びF(0.36%のRu/SiO2D11−10担体、1.5mmの押出物)は、比較において最も高い活性を有していることを実証した。
【0183】
触媒E及びFの高い活性に起因して、比較実験が、少量の合計量のルテニウムを用いて行われた。使用される原料は、ベンゼンをシクロヘキサンに溶解した750mLの5質量%溶液であった。
【0184】
手順:“GES”法に準拠
圧力:32バール
温度:100℃
使用される触媒:6.9gの触媒E(0.34%のRu/SiO2D11−10担体、3mm)、6.5gの触媒F(0.36%のRu/SiO2D11−10担体、1.5mm)
分析:GC面積%でのGC分析(手順は、以下に規定される)。
【0185】
特定の触媒を、4つの連続する実験において繰り返し使用した。サンプルを、20、40、60、90及び120分の反応時間後に取り出した。
【0186】
評価:
以下の表は、時間に対するベンゼン含有量の低減を列挙している。4つの実験のそれぞれで得られる結果の平均値、そして更に、特定のサンプルに関して、平均からの最大の正の偏差及び最大の負の偏差を評価した:
【0187】
【表6】

【0188】
【表7】

【0189】
小さな粒径及びこれに関連する、触媒活性部位の高い接触性(より大きな外部表面積)に起因して、触媒Fは、ほぼ同等のルテニウム含有量の触媒Eとの直接比較において、2つの触媒において高い活性であった。
【0190】
更に、SiO2を基礎とし、被膜構造(触媒G、本願)を有し、そして被膜構造を有さない(触媒B、比較)種々のルテニウム触媒を、相対的に試験した(水素化例8〜11):
100℃での20及び32バールにおける触媒B(0.70%のRu/SiO2D11−10担体)
100℃での20及び32バールにおける触媒G(0.32%のRu/SiO2D11−10担体)。
【0191】
同じ容量の触媒を、各々の場合で使用した。使用される原料は、ベンゼンをシクロヘキサンに溶解した750mLの5質量%溶液であった。
【0192】
[水素化例8]
ベンゼンをシクロヘキサンに溶解した750mLの5%溶液の水素化
手順:“GES”法に準拠
圧力:20バール
温度:100℃
触媒:触媒G(本願)(D11−10担体における0.32%のRu/SiO2、3mm)
使用される触媒の量:9.0g(約22mL)
分析:GC面積%でのGC分析(手順は、以下に規定される)。
【0193】
触媒を、5つの連続する実験において繰り返し使用した。サンプルを、10、20、30、40、60、90、120及び180分の反応時間後に取り出した。
【0194】
評価:
以下の表は、時間に対するベンゼン含有量の低減を列挙している。5つの実験で得られる結果の平均値、そして更に、特定のサンプルに関して、平均からの最大の正の偏差及び最大の負の偏差を評価した:
【0195】
【表8】

【0196】
[水素化例9]
ベンゼンをシクロヘキサンに溶解した750mLの5%溶液の水素化
手順:“GES”法に準拠
圧力:32バール
温度:100℃
触媒:触媒G(本願)(D11−10担体における0.32%のRu/SiO2、3mm)
使用される触媒の量:9.0g(約22mL)
分析:GC面積%でのGC分析(手順は、以下に規定される)。
【0197】
触媒を、5つの連続する実験において繰り返し使用した。サンプルを、10、20、30、40、60、90、120及び180分の反応時間後に取り出した。
【0198】
評価:
以下の表は、時間に対するベンゼン含有量の低減を列挙している。5つの実験で得られる結果の平均値、そして更に、特定のサンプルに関して、平均からの最大の正の偏差及び最大の負の偏差を評価した:
【0199】
【表9】

【0200】
[水素化例10]
ベンゼンをシクロヘキサンに溶解した750mLの5%溶液の水素化
手順:“GES”法に準拠
圧力:20バール
温度:100℃
触媒:触媒B(比較)(0.70%のRu/SiO2 D11−10担体、3mm)
使用される触媒の量:10.0g(約22mL)
分析:GC面積%でのGC分析(手順は、以下に規定される)。
【0201】
触媒を、5つの連続する実験において繰り返し使用した。サンプルを、10、20、30、40、60、90、120及び180分の反応時間後に取り出した。
【0202】
評価:
以下の表は、時間に対するベンゼン含有量の低減を列挙している。5つの実験で得られる結果の平均値、そして更に、特定のサンプルに関して、平均からの最大の正の偏差及び最大の負の偏差を評価した:
【0203】
【表10】

【0204】
[水素化例11]
ベンゼンをシクロヘキサンに溶解した5%溶液の水素化
手順:“GES”法に準拠
圧力:32バール
温度:100℃
触媒:触媒B(比較)(0.70%のRu/SiO2 D11−10担体、3mm)
使用される触媒の量:10.0g(約22mL)
分析:GC面積%でのGC分析(手順は、以下に規定される)。
【0205】
触媒を、5つの連続する実験において繰り返し使用した。サンプルを、10、20、30、40、60、90、120及び180分の反応時間後に取り出した。
【0206】
評価:
以下の表は、時間に対するベンゼン含有量の低減を列挙している。5つの実験で得られる結果の平均値、そして更に、特定のサンプルに関して、平均からの最大の正の偏差及び最大の負の偏差を評価した:
【0207】
【表11】

【0208】
[結果]
4つの水素化例での結果は、同一の容量の触媒を使用する場合、被膜構造を有する触媒G(本願)(0.32%のRu/SiO2 D11−10、3mm)は、合計してルテニウムの少ない含有量であるにも拘わらず、触媒B(比較)(0.70%のRu/SiO2 D11−10、3mm)との比較において、高い活性触媒であることを実証した。これは、20バールの水素圧(水素化例8及び10の比較)及び32バールの水素圧(水素化例9及び11の比較)の両方において事実である。
【0209】
ほぼ同等のルテニウム含有量の実験比較についても行われた。
【0210】
水素化例8及び9の実験
100℃及び20バールにおける触媒G(本願)(0.32%のRu/SiO2 D11−10、3mm)(水素化例8、約29mgのルテニウム)
100℃及び32バールにおける触媒G(本願)(0.32%のRu/SiO2 D11−10、3mm)(水素化例9、約29mgのルテニウム)
を、触媒B(比較)(0.70%のRu D11−10、3mm)の2つの実験と比較した:
100℃及び32バールにおける触媒B(比較)(0.70%のRu D11−10、3mm)(水素化例12、約31mgのルテニウム)
100℃及び32バールにおける触媒B(比較)(0.70%のRu D11−10、3mm)(水素化例13、約31mgのルテニウム)。
【0211】
使用される原料は、ベンゼンをシクロヘキサンに溶解した750mLの5質量%溶液であった。
【0212】
[水素化例12]
ベンゼンをシクロヘキサンに溶解した750mLの5%溶液の水素化
手順:“GES”法に準拠
圧力:20バール
温度:100℃
触媒:触媒B(比較)(0.70%のRu/SiO2 D11−10担体、3mm)
使用される触媒の量:4.4g
分析:GC面積%でのGC分析(手順は、以下に規定される)。
【0213】
触媒を、5つの連続する実験において繰り返し使用した。サンプルを、10、20、30、40、60、90、120、180及び240分の反応時間後に取り出した。
【0214】
評価:
以下の表は、時間に対するベンゼン含有量の低減を列挙している。5つの実験で得られる結果の平均値、そして更に、特定のサンプルに関して、平均からの最大の正の偏差及び最大の負の偏差を評価した:
【0215】
【表12】

【0216】
[水素化例13]
ベンゼンをシクロヘキサンに溶解した5%溶液の水素化
手順:“GES”法に準拠
圧力:32バール
温度:100℃
触媒:触媒B(比較)(0.70%のRu/SiO2 D11−10担体、3mm)
使用される触媒の量:4.4g
分析:GC面積%でのGC分析(手順は、以下に規定される)。
【0217】
触媒を、5つの連続する実験において繰り返し使用した。サンプルを、10、20、30、40、60、90、120及び180分の反応時間後に取り出した。
【0218】
評価:
以下の表は、時間に対するベンゼン含有量の低減を列挙している。5つの実験で得られる結果の平均値、そして更に、特定のサンプルに関して、平均からの最大の正の偏差及び最大の負の偏差を評価した:
【0219】
【表13】

【0220】
[結果]
4つの水素化例(8、9、12及び13)での結果は、ほぼ同一のルテニウム含有量を使用する場合、被膜構造を有する触媒G(本願)(0.32%のRu D11−10、3mm)は、触媒B(比較)(0.70%のRu D11−10、3mm)との比較において、高い活性触媒であることを実証していた。これは、20バールの水素圧(水素化例8及び12の比較)及び32バールの水素圧(水素化例9及び13の比較)の両方において事実である。
【0221】
[ベンゼンのシクロヘキサンへの連続水素化]
実験は、反応器の長さに対して均一に分散された3つの油加熱回路を備えるジャケット付き連続反応器(φ12mm、長さ:1050mm)において行われたが、油加熱回路は、量的統制下の液体循環(HPLCポンプ)で、連続トリクル型にて作動された。実験プラントには、更に、気相と液相を分離し、レベルコントロール、オフガス調節器、外部熱交換機及びサンプラーを有する分離器が設けられていた。水素を、圧力制御下に計量導入し(バール単位);過剰に添加される水素を量的統制下で計測し(L(STP)/時単位);ベンゼンの原料を、HPLCポンプによって計量導入した。生成物を、バルブによってレベルコントロール下に排出した。温度は、反応器又は触媒床の開始(入口)及び終了(出口)において熱電素子で計測された。
【0222】
比較のため、2種類のルテニウム被覆触媒:
1)触媒A(比較)(0.5%のRu)(0.47%のRu/Al23、バッチ:20014273)、104mL、63.9g(水素化例14)
2)触媒G(0.32%のRu/SiO2 D11−10担体、3mm)、104mL、45.0g(水素化例15)
をルテニウム触媒:
3)触媒B(0.70%のRu/SiO2 D11−10担体、3mm)、104mL、49.9g(水素化例16)
と比較した。
【0223】
連続水素化のための実験は、32バールの水素圧、1〜3L(STP)/時の量のオフガス、88から90℃の反応器入口温度及び1:30の供給/循環比で行われた。
【0224】
【表14】

【0225】
【表15】

【0226】
【表16】

【0227】
[フェノールの水素化]
“GED”法に従って行ったものの、以下のパラメータを変更した:使用される原料は、37.6gのフェノール(Riedel de Haen, Article number 3350017)及び712.4gのシクロヘキサノール(Riedel de Haen, Article number 24217)の溶液であった。
【0228】
圧力:32バール
温度:160℃
使用される触媒:9.0gの触媒G(本願)(0.32%のRu/SiO2 D11−10担体、3mm)、9.9gの触媒B(比較)(0.70%のRu/SiO2 D11−10担体、3mm)、14.0gの触媒A(比較)(0.5%)(0.47%のRu/Al23、バッチ:20014273)
分析:
フェノールの残留含有量及びシクロヘキサナール含有量の増大を、ガスクロマトグラフィによって測定した(GC面積%単位でのデータ):
器械:サンプラーを具備するHP5890−2
カラム:30mのZB1(Zebron、Phenomenex社製)、膜厚:1μm、カラムの内径:0.25mm
サンプルの容量:1μL
キャリアガス:ヘリウム
流量:100mL/分
インジェクタ温度:200℃
検出器:FID
検出器温度:250℃
温度プログラム:50℃で5分間、10℃/分で300℃まで
サンプルを、20、40、60、90、120、150、180、240及び360分の反応時間後に取り出した。
【0229】
評価:
以下の表は、時間に対するフェノール含有量の低減及びシクロヘキサナール含有量の増大を列挙している。100GC面積%の差異により、評価で列挙されない副成分が得られた。
【0230】
【表17】

【0231】
[結果]
被覆触媒G(本願)は、所定の反応条件下、3種類の試験されたルテニウム触媒において最も活性であった。
【0232】
[被覆触媒G(本願)を用いたジイソノニルフタレートのジノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレートへの水素化]
>99.5GC面積%のエステル含有量を有するBASF社製のジイソノニルフタレート("Palatinol(登録商標) N", Cas No. 28553-12-0,ドイツ工業規格EN ISO1043−3に準拠する省略:DINP)を使用した。
【0233】
手順は、“GED”法(ベンゼンの水素化を参照されたい)に従って行ったものの、以下のパラメータを変更した:実験は、500rpmの回転速度で行われた。室温条件下(25℃)、50バールの水素をBuechi設備によって注入し、反応温度を130℃に調節し、その後、水素圧を、1時間あたり50バールずつ200バールまで増大させた。消費された水素を、Buechi設備によって戻し、そして200バールの標的圧力を維持した。
【0234】
原料は、750gのジイソノニルフタレートであった(BASF社製、"Palatinol(登録商標) N", lot No. 71245768E0)。
【0235】
使用される触媒の量:13.7gの触媒G(0.32%のRu/SiO2 D11−10担体、3mm)
分析:
DINPの残留含有量を、定量UV/VIS測定によって測定した(以下に方法の説明);副生成物の含有量は、ガスクロマトグラフィによって測定された(以下の方法の説明を参照されたい)。サンプルを、3、6、9、12、15、18及び24時間後に取り出した。
【0236】
評価:
以下の表は、時間に対するDINP含有量の低減を列挙する。
【0237】
【表18】

【0238】
反応時間18の後、DINPの残留含有量は、<100質量ppmであった。
【0239】
18時間の反応時間の後、サンプルにおける不純物の含有量を、ガスクロマトグラフィによって測定した(手順は、付録5を参照されたい)。サンプルは、合計して0.89質量%の不純物を含んでいた。
【0240】
方法の説明:有機液体(ベンゼン/シクロヘキサン)における微量の硫黄に関するイオンクロマトグラフィ測定
[サンプルの調製]
約4〜6gのサンプルを、アセトンと1:1の割合で混合し、その後、Wickbold燃焼装置において水素−酸素ガスの炎で燃焼させた。
【0241】
燃焼凝縮物を、アルカリ容器に集めた(40ミリモルのKOH)。
【0242】
[分析]
アルカリ容器において、硫黄を、イオンクロマトグラフィによってスルフェートとして測定した。
【0243】
分析条件:
イオンクロマトグラフィ系:例えば、Metrohm社製のモジュールシステム
プレカラム:DIONEX AG12、4mm
分離カラム:DIONEX AS12、4mm
溶出液:2.7mMのNa2CO3及び0.28mMのNaHCO3
流速:1mL/分
検出:化学抑制後の伝導性
抑制器:例えば、Metrohm社製のMSM。
【0244】
使用される薬剤:
KOH:Merck Suprapure, article number 1.050.020.500
NaHCO3:Riedel de Haen p.A., article number 31437
Na2CO3:Merck Suprapure, article number 1.063.950.500
アセトン:Merck Suprasolv, article number 1.0012.1000
サンプルに関して計算される硫黄の測定限界:0.1mg/kg。
【0245】
[GC法(ベンゼン/シクロヘキサン)]
ベンゼンの原料及びベンゼン含有シクロヘキサン溶液、そして更に反応溶出液を、ガスクロマトグラフィによって分析した(GC面積%)。
【0246】
器械:サンプラーを具備するHP5890−2
範囲:4
カラム:30mのZB1、膜厚:1μm、カラムの内径:0.25mm
サンプルの容量:5μL
キャリアガス:ヘリウム
流量:100mL/分
インジェクタ温度:200℃
検出器:FID
検出器温度:250℃
温度プログラム:40℃で6分間、10℃/分で8分間にて200℃まで、合計駆動時間30分。
【0247】
[ジノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(分岐又は直鎖)における芳香族化合物の残留含有量に関するUV/VIS分光測定]
UV/VIS分光によって、ジノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(分岐又は直鎖)(M=424.67g/モル、C26484)における芳香族化合物の残留含有量を測定した。方法は、分析物中におけるUV発色団(芳香族環)の存在に基づいていた。
【0248】
かかる方法は、ジノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(分岐又は直鎖)におけるジイソノニルフタレート(“DINP”、Palatiol N、M=418.62g/モル、C26424)の濃度を0〜約2065ppm(m/m)の濃度範囲で測定するために働いた。
【0249】
[サンプルの調製]
<2000ppmの濃度までのサンプルの場合、UV測定のための後処理に、更に薬剤を必要としなかった。サンプル溶液を、準備することなく直接分析することが可能であった。
【0250】
>2000ppmの濃度を有するサンプルを、275nmの評価波長での吸収が<1.2となるようにUV測定用にメタノールで希釈した。その後、DINPの含有量を、出発濃度に関して計算した。
【0251】
[特性(specificity)]
275nmの評価波長で吸収性を有する成分により、系統誤差を生じた。UV/VISスペクトルの定量分布は、かかる破壊的成分の存在かどうかの徴候であった。
【0252】
[器械及び作業材料]
・器械:Analytik Jene SPECORD 50実験室用分光計(更なる詳細は、http://www.analytik-jena.de/d/bu/as/molec/vis/specord50.htmlで利用可能)
・2mmの石英キュベット
・適当な評価プログラムWinAspect又はAspectPlusを有するコンピュータ
・分析用キュベットを充填するピペッタ又は他の一般的な実験室用装置
・希釈用のメタノール。>2000ppmのDINP濃度において、サンプルを、Merck KGaA社(Darmstadt, article number: 1.06002.0500)のメタノール(Uvasol(登録商標)、UV分光用のメタノール)と一緒に使用した。
【0253】
[較正用混合物の調製]
校正機能を測定するために、ジノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(分岐又は直鎖)の異なる含有量を有する8種類の較正用混合物を調製した。使用された原液は、ジノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(分岐又は直鎖)(GCによって99.7%のジノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(分岐又は直鎖)の含有量の測定、未水素化の0.21%のDINP(Palatinol N))であった。補充のため、DINP(BASF、B4219バッチ85A/02、GCにより99.91%のDINP含有量の測定)を使用した。これにより得られる溶液から、少量(約100〜300mg)を、UV分析に使用した:残りの溶液を、DINPで更に補充した。異なるDINP含有量の相互に異なるDINP較正用溶液に関して、較正機能を測定した。
【0254】
[分析パラメータ]
UV/VIS分光:
キュベット材料:石英
通路長さ:2mm
基準:空気
分析条件:RT
分析範囲:240〜330nm
光源:重水素及びハロゲンランプ
評価波長:275nm。
【0255】
[UV/VISスペクトル]
評価は、275nmの波長で行われた。
【0256】
スペクトルの予備処理のため、350nmの波長でのオフセット補正を行った。
【0257】
[分析結果の較正]
較正系から測定される較正機能に関して、計測されたUV/VISスペクトルにおいて275nmで測定される吸収性を、以下の等式(1):
c=1803.1*A275−50.5 (1)
[但し、cは、ppm単位のDINPの質量濃度を表し;
275は、275nmの波長条件下におけるサンプルのUV/VIS吸収性を表す。]
に従い、サンプルのPalatinol含有量に変換した。
【0258】
分析の再現性を、較正用溶液のトリプレット反復分析(triple repeat analysis)によって確認し;この場合、Palatinolの測定に関する最大絶対誤差は26ppm(波長に対して計算される)又は20ppm(平均に対して計算される)であり、それぞれ1.26%及び0.97%の相対誤差に相当していた。
【0259】
[モノマーの可塑剤における不純物を測定する試験方法]
利用分野:
かかるガスクロマトグラフィ法は、モノマーの可塑剤における不純物を約0.05〜5%の濃度範囲で測定する場合に好適である。
【0260】
器械:
ガスクロマトグラフ:Hewlett Packard HP5890 Series II
制御及び評価ソフトウエア:Chromeleon 6.4 SP2
カラム:DB1毛管カラム、長さ30m、ID=0.32mm、df=0.25μm
解析収支(analysis balance):ザルトリウス(精度:±0.1mg)
デュラン・アンプル:(20mL)
注射器:10μLのHamilton注射器
試薬:
ジメチルフタレート(BASF社製、Palatinol M)を内部標準として使用した。
【0261】
手順:
温度:
炉:90℃ 6℃/分→290℃
インジェクタ:300℃
検出器:300℃
キャリアガス:ヘリウム
圧力:150kPa
・測定される10g(±0.1mg)のサンプルを、0.005g(±0.1mg)の適当なPalatinolと共にデュラン・アンプルに秤量した。
【0262】
・これにより得られる0.4μLの溶液を、10μLのHamilton注射器での直接注入によって注入した。
【0263】
注意:注射器の清浄は、必須条件である。
【0264】
・クロマトグラフから得られるピーク面積並びにサンプルの質量及び標準質量によって、不純物の含有量を、g/100gの単位で報告した。
【0265】
主成分は、積分から除外された。
【0266】
不純物を、内部標準に対して1の補正率で計算した。
【0267】
計算:
下式:
【0268】
【数1】

【0269】
[但し、M(imp.)は、測定される不純物の質量を表し、
A(imp.)は、測定される不純物のピーク面積を表し、
A(IS)は、内部標準のピーク面積を表し、
m(IS)は、内部標準の質量を表し、
m(sample)は、サンプルの質量を表し、
Σc(imp.)は、不純物のg/100g(%)単位での合計を表す。]
を使用した。
【0270】
[結果の報告]
供給形態のサンプルに基づく0.01%の精度に対するパーセント単位の含有量の報告
モノマーの可塑剤のジイソノニルフタレート(“DINP”、Palatinol N)及びジノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(分岐又は直鎖)における不純物の測定に使用される内部標準は、ジメチルフタレート(Palatinol M)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属として、ルテニウムを単独で、或いはルテニウムと、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の他の遷移金属(CAS型)と、を一緒に、担体成分として二酸化ケイ素を含む担体に施されて含む被覆触媒であって、
活性金属の量は、触媒の全質量に対して、1質量%未満であり、そして少なくとも60質量%の活性金属は、触媒の被膜において、SEM−EPMA(EDXS)によって測定される200μm以下の侵入度で存在することを特徴とする被覆触媒。
【請求項2】
活性金属の量は、0.1〜0.5質量%であり、好ましくは0.25〜0.35質量%である請求項1に記載の被覆触媒。
【請求項3】
少なくとも80質量%の活性金属は、触媒の被膜において、200μm以下の侵入度で存在する請求項1又は2に記載の被覆触媒。
【請求項4】
被覆触媒の表面における活性金属の量は、SEM−EPMA(EDXS)によって測定され、Siに対する活性金属の質量割合に基づいて2〜25%であり、好ましくは4〜10%であり、更に好ましくは4〜6%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆触媒。
【請求項5】
ルテニウムは、結晶の形で部分的に又は完全に存在する請求項1〜4のいずれか1項に記載の被覆触媒。
【請求項6】
被覆触媒は、更にアルカリ土類金属イオン(M2+)を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の被覆触媒。
【請求項7】
担体材料は、30〜700m2/gの範囲のBET表面積(ドイツ工業規格66131)を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の被覆触媒。
【請求項8】
触媒の全質量に対して、0.05質量%未満(イオンクロマトグラフィによって測定される)のハロゲン化物を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の被覆触媒。
【請求項9】
ルテニウム(III)アセテートの溶液を単独で、或いはルテニウム(III)アセテートの溶液と、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属(CAS型)の他の塩の溶液と、を一緒に、担体材料に1回以上含浸させ、乾燥し、そして還元することによって調製され、且つ少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属の他の塩の溶液は、1回以上の含浸工程において、ルテニウム(III)アセテートの溶液と一緒に、或いは1回以上の含浸工程において、ルテニウム(III)アセテートの溶液と別個に施され得る請求項1〜8のいずれか1項に記載の被覆触媒。
【請求項10】
以下の工程:
a)ルテニウム(III)アセテートの溶液を単独で、或いはルテニウム(III)アセテートの溶液と、少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属(CAS型)の他の塩の溶液と、を一緒に、二酸化ケイ素を含む担体材料に1回以上含浸する工程と、
b)次に、乾燥する工程と、
c)次に、還元する工程と、
を含み、且つ少なくとも1種の、元素周期表第IB、VIIB又はVIII族の遷移金属の他の塩の溶液は、1回以上の含浸工程において、ルテニウム(III)アセテートの溶液と一緒に、或いは1回以上の含浸工程において、ルテニウム(III)アセテートの溶液と別個に施され得る請求項1〜9のいずれか1項に記載の被覆触媒の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法により製造される被覆触媒。
【請求項12】
水素化可能な基を含む有機化合物の水素化し、好ましくは炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化するか、又はアルデヒドを対応のアルコールに水素化するか、更に好ましくは炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化する方法であって、
請求項1〜9又は11のいずれか1項に記載の被覆触媒を使用することを特徴とする水素化方法。
【請求項13】
炭素環式の芳香族基は、以下の一般式:
【化1】

[但し、Aが、独立してアリール又はヘテロアリールを表し;フェニル、ジフェニル、ベンジル、ジベンジル、ナフチル、アントラセン、ピリジル及びキノリンから選択されるのが好ましく;更に好ましくはフェニルを表し、
nが、0〜5までであり、好ましくは、特にAが6員のアリール又はヘテロアリール環である場合には0〜4までであり;Aが5員のアリール又はヘテロアリール環である場合には、0〜4までであるのが好ましく;環の寸法に関係なく、nが0〜3までであるのが更に好ましく、0〜2までであっても更に好ましく、特に0〜1までであり;且つ置換基Bを有さないAにおける残りの炭素原子又はヘテロ原子は、水素原子を有するか、又は適宜、置換基を有さず、
Bが、独立してアルキル、アルケニル、アルキニル、置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、ヘテロアルキル、置換へテロアルキル、ヘテロアルケニル、置換ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、置換ヘテロアルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルキル、置換シクロアルケニル、COOR(但し、RはH、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アリール又は置換アリールを表す。)、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、カルボニル、アミノ、アミド、チオ及びホスフィノからなる群から選択され;C1〜C6アルキル、C1〜C6アルケニル、C1〜C6アルキニル、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C8シクロアルケニル、COOR(但し、RはH又はC1〜C12アルキルを表す。)、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ及びアミドから選択されるのが好ましい。]
を有する芳香族炭化水素の一部である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
Aはフェニルを表し、nは0〜3を表し、そしてBはC1〜C6アルキル、COOR(但し、RはH又は直鎖若しくは分岐のC1〜C12アルキルを表す。)、アミノ、ヒドロキシル又はアルコキシを表す請求項13に記載の方法。
【請求項15】
芳香族炭化水素は、ベンゼン及びアルキル置換ベンゼン、例えばトルエン、エチルベンゼン、キシレン(o−、m−、p−又は異性体混合物)及びメシチレン(1,2,4若しくは1,3,5又は異性体混合物)からなる群から選択されるか、又は上述の芳香族炭化水素の混合物である請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
芳香族炭化水素は、フェノール、アルキル置換フェノール、例えば4−tert−ブチルフェノール及び4−ノニルフェノール、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン及びビス(p−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタンからなる群から選択される請求項13又は14に記載の方法。
【請求項17】
芳香族炭化水素は、アニリン、アルキル置換アニリン、N,N−ジアルキルアニリン、ジアミノベンゼン、ビス(p−アミノフェニル)メタン及びビス(p−アミノトリル)メタンからなる群から選択される請求項13又は14に記載の方法。
【請求項18】
芳香族炭化水素は、芳香族カルボン酸、例えばフタル酸及び芳香族カルボン酸エステル、例えば、フタル酸のC1〜C12アルキルエステル(但し、C1〜C12アルキルラジカルは直鎖又は分岐であっても良い。)、例えばジメチルフタレート、ジ−2−プロピルヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレートからなる群から選択される請求項13又は14に記載の方法。
【請求項19】
アルデヒドは、対応の糖アルコールに水素化される単糖類又は二糖類である請求項12に記載の方法。
【請求項20】
水素化は、固定床反応器において行われる請求項12〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ベンゼンは、75〜170℃、好ましくは80〜160℃の温度、及び10〜45バール、好ましくは18〜38バールの圧力の条件下で水素化され、且つベンゼンにおけるイオウ含有量は、0.2質量ppm未満である請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜9又は11のいずれか1項に記載の被覆触媒を水素化可能な基を含む有機化合物の水素化方法で使用する方法。
【請求項23】
請求項1〜9又は11のいずれか1項に記載の被覆触媒を、炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化するか、又はアルデヒドを対応のアルコールに水素化するか、更に好ましくは炭素環式の芳香族基を対応の炭素環式の脂肪族基に水素化する方法で使用する方法。

【公表番号】特表2008−543550(P2008−543550A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517476(P2008−517476)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063323
【国際公開番号】WO2006/136541
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】