説明

水素化触媒とその製造方法、及びその用途

【課題】 従来の銅/クロム酸化物とは異なり、クロム酸化物を含まないことによって、環境汚染や健康被害を招く恐れがなく、その上、従来の銅/クロム酸化物触媒同等以上の活性、選択率及び耐久性を示す触媒を提供する。
【解決手段】 銅とケイ酸カルシウムを主成分とする水素化触媒であって、銅を20〜60重量%含有し、ケイ酸カルシウム中のケイ素酸化物(SiO)に対するカルシウム酸化物(CaO)のモル比が0.1〜0.7の範囲である水素化触媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物の水素化に用いる触媒に関する。具体的にはアルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類及び芳香族ニトロ化合物類等の水素化に用いられる有用な触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
上記水素化反応に用いられる有用な触媒としては、従来、銅クロマイト触媒として銅/クロム酸化物触媒が広く知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
その具体的な例として、反応温度180〜370℃、圧力0.1〜0.5MPa、ニトロベンゼン濃度2〜14容量%の条件下で、銅/クロム酸化物触媒を用いてガス状のニトロベンゼンを水素還元し、アニリンを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、このようなクロム酸化物を含む触媒は、クロムによる健康被害や環境汚染の恐れがあるため、その取り扱いに際しては細心の注意が求められるとともに、使用済み触媒の処理と回収にも多大な労力と費用が必要であった。
【0004】
さらに、銅、鉄及びアルミニウムを基本成分とする変性ラネー銅触媒を用いた、芳香族ニトロ化合物の水素化による芳香族アミンを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、一般的に、ラネー金属触媒は表面酸化による活性低下が起こりやすいため、水中や不活性ガス雰囲気中で保管しなければならず、その取り扱いには細心の注意が必要となる。また、活性は高いものの、反面、耐久性において十分でないという問題がある。
【0005】
最近では、銅、ケイ酸カルシウム、アタパルジャイト等の天然粘土鉱物からなる成型水素化触媒が提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、この成型触媒は、強度と耐久性に優れているものの、原料として天然素材を含むため、その組成や物性変動により、製造される触媒の組成や粒度などにおいて、再現性が乏しいという欠点を有する。
【0006】
また、銅、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイトからなる成型触媒が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、この成型触媒は、組成がコントロールされたハイドロタルサイトや花弁状のケイ酸カルシウムを使用するため、比較的高価にならざるを得ないという経済的問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭49−231号公報
【特許文献2】特開平9−124562号公報
【特許文献3】特表平11−507867号公報
【特許文献4】特開2007−289855公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】触媒工学講座10 触媒学会編集「元素別触媒便覧」(80頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の銅/クロム酸化物とは異なり、クロム酸化物を含まないことによって、環境汚染や健康被害を招く恐れがなく、その上、従来の銅/クロム酸化物触媒同等以上の活性、選択率及び耐久性を示す触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、銅とケイ酸カルシウムを主成分とする水素化触媒において、銅を20〜60重量%含有し、好適には銅を30〜60重量%含有し、ケイ酸カルシウム中のケイ素酸化物(SiO)に対するカルシウム酸化物(CaO)のモル比が0.1〜0.7の範囲である水素化触媒が、上記課題を解決することを見出した。
【0011】
また、本発明において、銅酸化物を30〜75重量%含有し、好適には40〜75重量%含有し、ケイ酸カルシウム中のケイ素酸化物(SiO)に対するカルシウム酸化物(CaO)のモル比が0.1〜0.7の範囲である水素化触媒前駆体を還元することにより、本発明の水素化触媒が製造できる。
【0012】
さらに、本発明によれば、上記水素化触媒を用いて、100〜350℃の温度範囲で、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類及び芳香族ニトロ化合物類から選ばれる化合物と水素を接触させて水素化化合物を製造することができる。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
すなわち本発明は、銅とケイ酸カルシウムからなる水素化触媒において、ケイ酸カルシウム中のケイ素酸化物(SiO)に対するカルシウム酸化物(CaO)のモル比が0.1〜0.7の範囲であることを特徴とする水素化触媒に関する。
【0015】
水素化触媒成分である銅は、銅酸化物、焼成によって銅酸化物形態に容易に変化しうる水酸化物、炭酸塩もしくは硝酸塩など、または2種類以上の混合物としての水素化触媒前躯体を還元することにより調製される。また、本発明の水素化触媒は、銅を20〜60重量%、好適には30〜60重量%、さらに好適には30〜55重量%含有する。銅の濃度が20重量%未満であると反応ロード(原料フィード量)に対し活性不足となり、コーキングが増加し、触媒ライフが短くなり、一方、銅の濃度が60重量%を超えると銅担持時の分散性が低下し、担持銅あたりの活性が低下する傾向にある。また、銅の濃度が30〜60重量%、さらに30〜55重量%の範囲であると触媒ライフの向上が見込めるため好ましい。
【0016】
銅の水素化触媒中の濃度は、銅イオンとしてJIS K0400−52−30に記載のICP分析方法により算出した値である。
【0017】
本発明で用いるケイ酸カルシウム中のケイ素酸化物(SiO)に対するカルシウム酸化物(CaO)のモル比は0.1〜0.7の範囲であり、好適には0.2〜0.4である。ケイ酸カルシウム中のケイ素酸化物(SiO)に対するカルシウム酸化物(CaO)のモル比が0.1〜0.7の範囲であると銅担持の際、銅の分散性が著しく高くなり、担持された銅の粒子径は微粒子となる。その結果、銅の表面積が大きくなり、触媒の活性が高くなる効果がみられる。また、触媒の酸塩基性を改質し、触媒表面への炭素の析出、所謂コーキングを抑える等の効果がみられる。よって、コーキングによる活性劣化が抑制され、触媒ライフが著しく長くなるものと思われる。また、ケイ素酸化物に対するカルシウム酸化物のモル比が0.2〜0.4の範囲であると触媒ライフの向上が見込めるため好ましい。
【0018】
本発明において、ケイ酸カルシウム中のケイ素酸化物(SiO)は、JIS K0101に記載の重量法による分析方法により算出し、カルシウム酸化物(CaO)は、カルシウムイオンとしてJIS K0400−52−30に記載のICP分析方法により算出し、カルシウム酸化物として換算した。
【0019】
本発明で用いるケイ酸カルシウムの表面積は100m/g以上が好ましく、さらに好適には150m/g以上である。ケイ酸カルシウムの表面積が100m/g以上であるとケイ酸カルシウム上に銅が高分散されて担持される。従って、銅の粒子径は微粒子となり、その結果、銅の表面積が大きくなり、触媒の活性が高くなる効果がみられる。よって、コーキングが抑制され、触媒ライフが著しく長くなるものと思われる。また、ケイ酸カルシウムの表面積が150m/g以上であると触媒ライフの向上がさらに見込めるため好ましい。
【0020】
ケイ酸カルシウムの表面積は、JIS Z8830に記載の気体吸着法により算出した。
【0021】
本発明で用いるケイ酸カルシウムは天然源または合成源のいずれのものでもよいが、好適にはケイ素酸化物に対するカルシウム酸化物を0.1〜0.7のモル比にコントロールして合成されたものを用いる。
【0022】
より詳細には、ケイ素酸化物と反応しうる生石灰(酸化カルシウム)、消石灰(水酸化カルシウム)、塩化カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム源とを大気圧下、常温あるいは加温下で混合し、ケイ酸カルシウムを得る。この際、反応を早めるために水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリを添加してもよい。ケイ素酸化物は非結晶性、結晶性またはその混合物を使用することができるが、非結晶性のものが好ましい。非結晶性のケイ素酸化物は乾式合成法または湿式合成法のどちらで製造されたものでもよいが、安価な湿式合成法で製造されたもの、例えば、東ソーシリカ(株)からNipsil「NS−K」(登録商標)として市販品を入手することができる。
【0023】
本発明の触媒を製造する際、水素化触媒成分である銅、あるいは銅酸化物、または焼成によって銅酸化物形態に容易に変化しうる水酸化物、炭酸塩もしくは硝酸塩などからなる少なくとも1種類以上の銅化合物とケイ酸カルシウムを混合させる手段は特に限定されないが、これらを均一に混合できる手段であれば、いずれの手段でも用いることができる。例えば、上記適正範囲の組成物を混合装置に仕込み、乾式混合、または湿式混合した場合には、得られた混合物を乾燥、焼成することにより、本発明の水素化触媒の前駆体粉末を得ることができる。
【0024】
また、上述のケイ素酸化物と酸化カルシウムから湿式合成されたケイ酸カルシウムのスラリー水溶液に、硝酸銅、塩化銅などの水溶液を連続的、または一括もしくは分割して加え、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などにより中和し、ケイ酸カルシウム上に銅を担持し、ろ過して触媒湿潤ケークを得る。得られた湿潤ケークを乾燥して本発明の水素化触媒の前駆体粉末を得ることができる。
【0025】
必要に応じて、流動調節剤、細孔付与剤、補強剤、粘土のようなバインダーを助剤として用い、粉末状の触媒を押出し成型または圧縮成型して、種々の構造や形態の成型体を得た後、焼成することにより水素化触媒前躯体の成型体を得ることができる。
【0026】
本発明において、水素化触媒前駆体は、好ましくは反応器内において、目的とする水素化反応を行う前に還元し、活性化して、水素化触媒とする。水素化触媒前駆体を還元する方法としては、例えば、還元剤として水素ガスを用い気相または液相で行う場合、100〜500℃、好ましくは150〜300℃の温度で気相還元することが望ましい。100℃未満では還元反応が進み難く、500℃を越えると銅のシンタリングによる活性の低下が起こるため好ましくない。また、150〜300℃の温度範囲では安定して反応が進むため好ましい。この場合、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで水素ガスを希釈したものを用いてもよい。
【0027】
このようにして得られる本発明の水素化触媒は、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類及び芳香族ニトロ化合物類を対象とした水素化反応に好適に用いられる。
【0028】
本発明の触媒を用いて、水素化してアルコールを製造することができるアルデヒド類の例としては、ホルムアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、2−メチルブチルアルデヒド、3−メチルブチルアルデヒド、2,2−ジメチルプロピオンアルデヒド、カプロンアルデヒド、2−メチルバレルアルデヒド、3−メチルバレルアルデヒド、4−メチルバレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、2,2−ジメチルブチルアルデヒド、3,3−ジメチルブチルアルデヒド、カプリルアルデヒド、カプリンアルデヒド、グルタルジアルデヒドなどが挙げられる。また、ケトン類としては、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどが挙げられる。
【0029】
本発明の触媒を用いて、水素化してアルコールを製造することができるカルボン酸類やカルボン酸エステル類としては、ギ酸、酢酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリル酸、オレイン酸、シュウ酸、マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、フタル酸などやそのエステルが挙げられる。
【0030】
本発明の触媒を用いて、水素化して芳香族アミン化合物を製造することができる芳香族ニトロ化合物類としては、ニトロベンゼン、アルキル置換ニトロベンゼン類、ニトロナフタレン類、4−ニトロジフェニル、ニトロアントラキノン類、ニトロフェナントロ類、2−ニトロフラン、2−ニトロチオフェン、3−ニトロピリジン、2−ニトロジフェニルエーテル、5−ニトロ−1H−ベンゾトリアゾール、異性体ジニトロベンゼン類、異性体ニトロアニリン類、p−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、o−ニトロ安息香酸、異性体ニトロフェノール類、o−ニトロクロロベンゼン、m−ニトロクロロベンゼン、p−ニトロクロロベンゼン、3,4−ジニトロクロロベンゼンなどが挙げられる。特に、ニトロベンゼンは本発明の水素化反応を適用するのに好適なニトロ化合物である。このニトロベンゼンの水素化は、通常、100〜350℃の範囲の温度、0.1〜0.5MPaの加圧下で行うことにより、副反応を抑え、触媒ライフを長くすることができるため効果的である。水素/ニトロベンゼンのモル比は10〜20倍が好適であり、また、反応熱の除去や触媒劣化の観点から窒素などの不活性ガスを混合して行うことも可能である。GHSV(単位容積あたりの原料ガス流入速度)は1000〜2000h−1の範囲が好適である。
【発明の効果】
【0031】
本発明による水素化触媒は、成分として有害なクロムを含有せず、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類及び芳香族ニトロ化合物類等の水素化反応に対して優れた活性、選択率及び長い触媒寿命を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ケイ酸カルシウムのCaO/SiOのモル比と触媒推定ライフの関係を示す。
【実施例】
【0033】
以下の実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1
(水素化触媒前躯体の調製)
2Lのガラス容器に、イオン交換水225mLを添加し、次に、シリカ(ケイ素酸化物)に対する酸化カルシウムのモル比(CaO/SiOモル比)が0.25になるように、シリカ粉末(東ソーシリカ製、Nipsil「NS−K」)30.0g及び生石灰粉末(関東化学製、試薬1級)7.0gを仕込み、25℃で24時間攪拌して、ケイ酸カルシウム担体を調製した。この調製したケイ酸カルシウムスラリー水溶液を攪拌下、25℃に保ちながら、39重量%硝酸銅水溶液(関西触媒化学製)382.7gを3時間かけて等速添加した。その時、該スラリー水溶液は、20重量%炭酸ナトリウム水溶液でpH6.5〜7.5にコントロールした。硝酸銅水溶液の添加終了後、25℃で2時間攪拌熟成した。次に、沈殿物をろ過し、湿潤ケークを3Lのイオン交換水で洗浄した。
【0035】
得られた湿潤ケークは110℃で一晩、空気中で乾燥し、この乾燥した固形物は粗粉砕し、450℃で3時間焼成した。得られた焼成粉末に滑剤としてグラファイト2.0gを添加し、混合した後、ロータリー打錠機で5mmΦ×5mmの円筒形に成型した。得られた成型物は450℃で3時間、再び焼成して水素化触媒前躯体とした。
【0036】
(ニトロベンゼンの水素化反応)
上記水素化触媒前躯体を乳鉢で破砕し、2.8mmと1.0mmの篩を用いて、触媒を2.8〜1.0mmの粒子に篩分けした。篩分けした触媒粒子30mLをSUS製の固定床反応器に充填し、水素流通下、215℃で24時間還元し、活性化した。触媒性能評価は、水素圧0.14MPa、反応温度175℃、GHSV1500h−1、LHSV(単位容積あたりの原料液体の供給速度)0.4h−1、及び水素/ニトロベンゼンモル比15の条件下にて、ニトロベンゼンの水素化反応を800時間連続して行った。得られた反応生成物をガスクロマトグラフィー(装置は島津製作所社製GC−14A、カラムはDB170)にて分析した。反応800時間後のアニリン選択率は99.8%であった。また、この反応800時間の触媒層内最高温度位置の移動速度から計算した触媒推定ライフは約17,000時間となった。
【0037】
表1に銅濃度(重量%)、CaO/SiOモル比、反応800時間後のアニリン選択率(%)及び触媒推定ライフ(時間)を示す。
【0038】
なお、銅の濃度は、パーキンエルマー社製ICP Optima5300DVにより定量した。また、担体表面積は島津製作所社製フローソープII2300により計測した。
【0039】
実施例2〜5
表1に示す所定の銅濃度(重量%)と所定のCaO/SiOモル比となるようにしたこと以外は、実施例1と同様に実施した。そして、反応800時間後のアニリン選択率と触媒推定ライフの結果を表1に示す。
【0040】
実施例6
(水素化触媒前躯体の調製)
2Lのガラス容器に、イオン交換水225mLを添加し、次に、シリカ(ケイ素酸化物)に対する酸化カルシウムのモル比(CaO/SiOモル比)が0.25になるように、シリカ粉末(東ソーシリカ製、Nipsil「NS−K」)36.0g及び消石灰粉末(関東化学製、試薬1級)11.1gを仕込み、40℃で6時間攪拌して、ケイ酸カルシウム担体を調製した。この調製したケイ酸カルシウムスラリー水溶液を攪拌下、40℃に保ちながら、39重量%硝酸銅水溶液(関西触媒化学製)305.5gを4時間かけて等速添加した。その時、該スラリー水溶液は、20重量%炭酸ナトリウム水溶液でpH6.5〜7.5にコントロールした。硝酸銅水溶液の添加終了後、40℃で2時間攪拌熟成した。次に、沈殿物をろ過し、湿潤ケークを3Lのイオン交換水で洗浄した。
【0041】
得られた湿潤ケークは110℃で一晩、空気中で乾燥した。得られた乾燥粉末に滑剤としてグラファイト2.0gを添加し、混合した後、ロータリー打錠機で5mmΦ×5mmの円筒形に成型した。得られた成型物は450℃で3時間、再び焼成して水素化触媒前躯体とした。
【0042】
(ニトロベンゼンの水素化反応)
得られた水素化触媒前躯体を用いること以外は、実施例1と同様に実施した。反応800時間後のアニリン選択率と触媒推定ライフの結果を表1に示す。
【0043】
実施例7〜8
表1に示す所定の銅濃度(重量%)と所定のCaO/SiOモル比となるようにしたこと以外は、実施例6と同様に実施した。そして、反応800時間後のアニリン選択率と触媒推定ライフの結果を表1に示す。
【0044】
実施例9
シリカ成分として、シリカ粉末(東ソーシリカ製、Nipgel「CX−200」)を使用して、表1に示す所定の銅濃度(重量%)と所定のCaO/SiOモル比となるようにしたこと以外は、実施例6と同様に実施した。そして、反応800時間後のアニリン選択率と触媒推定ライフの結果を表1に示す。
【0045】
実施例10
表面積130m/gのケイ酸カルシウム(トクヤマ製、フローライト)を使用して、表1に示す所定の銅濃度(重量%)となるようにしたこと以外は、実施例6と同様に実施した。そして、反応800時間後のアニリン選択率と触媒推定ライフの結果を表1に示す。
【0046】
比較例1〜3
表1に示す所定の銅濃度(重量%)と所定のCaO/SiOモル比となるようにしたこと以外は、実施例1と同様に実施した。そして、反応800時間後のアニリン選択率と触媒推定ライフの結果を表1に示す。
【0047】
比較例4
(水素化触媒前躯体の調製)
2Lのガラス容器に、イオン交換水400mLを仕込み、攪拌下、シリカ含有量が6.76mol/Lのケイ酸ソーダ3号液(キシダ化学製)286mLと、0.16mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液(関東化学製)302mLを、それぞれ定量ポンプを用いて1時間で等速投入した。該反応操作は25℃で実施し、反応終了後pHは4となった。
【0048】
続いて、得られた反応液を95℃で1時間加熱し熟成した。
【0049】
その後、ヌッチェを用いて吸引ろ過し、湿潤ケークを500mLのイオン交換水で洗浄した。得られた湿潤ケークを75℃で一晩、空気中で乾燥し、得られた固形物を粗粉砕して、ケイ酸アルミニウム担体を得た。
【0050】
2Lのガラス容器に、イオン交換水400mLを添加し、次に上記ケイ酸アルミニウム担体を32g添加して60℃に加熱した。調製した担体スラリー水溶液を攪拌下、60℃に保ちながら、39重量%硝酸銅水溶液(関東化学製)382.7gを3時間かけて等速添加した。その時、該スラリー水溶液は、20重量%炭酸ナトリウム水溶液でpH6.5〜7.5にコントロールした。硝酸銅水溶液の添加終了後、60℃で2時間熟成した。次に沈殿物をろ過し、湿潤ケークを3Lのイオン交換水で洗浄した。
【0051】
得られた湿潤ケークは110℃で一晩、空気中で乾燥し、この乾燥した固形物は粗粉砕し、450℃で3時間焼成した。得られた焼成粉末にバインダーとしてシリカゾル(日産化学製、スノーテックス40)を5g添加し、混合した後、ロータリー打錠機で5mmΦ×5mmの円筒形に成型した。得られた成型物は450℃で3時間、再び焼成して水素化触媒前躯体とした。
【0052】
(ニトロベンゼンの水素化反応)
得られた水素化触媒前躯体を用いること以外は、実施例1と同様に実施した。反応800時間後のアニリン選択率と触媒推定ライフの結果を表1に示す。
【0053】
比較例5
(水素化触媒前躯体の調製)
2Lのガラス容器に、イオン交換水1Lを添加し、次に硝酸銅三水和物(関東化学製、試薬特級)111.2gを加え、攪拌しながら80℃に昇温して、硝酸銅水溶液を調製した。別に、イオン交換水0.8Lに水酸化ナトリウム(関東化学製、試薬1級)45gを加え溶解して、水酸化ナトリウム水溶液を調製した。上記硝酸銅水溶液を80℃に保ち、攪拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液を添加した。添加終了後に80℃で30分間攪拌した後、スラリーを50℃まで冷却し、沈殿物をろ過し、湿潤ケークを366mLのイオン交換水で洗浄した。
【0054】
次に、2Lガラス容器に、イオン交換水1Lを加え、上記沈殿物を添加、リパルプし、さらにケイ酸カルシウム(トクヤマ製、フローライト)40.2g及びマグネシウムを含有するハイドロタルサイト(協和化学工業製、アルカマック)1.8gを添加し、1時間攪拌した。該スラリーをろ過し、湿潤ケークを得た。
【0055】
得られた湿潤ケークは110℃で一晩、空気中で乾燥し、この乾燥した固形物は粗粉砕した。得られた乾燥粉末に滑剤としてグラファイト1.5gを添加し、混合した後、プレス成型機にて成型した。この成型物は400℃で6時間焼成して水素化触媒前躯体とした。
【0056】
(ニトロベンゼンの水素化反応)
得られた水素化触媒前躯体を用いること以外は、実施例1と同様に実施した。反応800時間後のアニリン選択率と触媒推定ライフの結果を表1に示す。
【0057】
比較例6
(水素化触媒前躯体の調製)
2Lのガラス容器に、イオン交換水1Lを添加し、次に硝酸銅三水和物(関東化学製、試薬特級)111.2gを加え、攪拌しながら80℃に昇温して、硝酸銅水溶液を調製した。別に、イオン交換水0.8Lに水酸化ナトリウム(関東化学製、試薬1級)45gを加え溶解して、水酸化ナトリウム水溶液を調製した。上記硝酸銅水溶液を80℃に保ち、攪拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液を添加した。添加終了後に80℃で30分間攪拌した後、スラリーを50℃まで冷却し、沈殿物をろ過し、湿潤ケークを366mLのイオン交換水で洗浄した。得られた湿潤ケークを110℃で一晩乾燥し、酸化第二銅粉末を得た。
【0058】
乳鉢に、この酸化第二銅粉末25.7g、水酸化カルシウム(関東化学製、試薬1級)9.1g、アタパルジャイト粘土(BASF製、Attagel40)2.1gを添加し、5分間混練した。次に、40重量%コロイダルシリカ(日産化学製、スノーテックス40)28.9gを添加し、27分間混練した。さらにイオン交換水9.0mLを添加しながら、34分間混練を継続した。
【0059】
得られた混練物はプレス成型機にて成型し、125℃で一晩空気中で乾燥し、この乾燥した成型物は600℃で2時間焼成し、水素化触媒前躯体を得た。
【0060】
(ニトロベンゼンの水素化反応)
得られた水素化触媒前躯体を用いること以外は、実施例1と同様に実施した。反応800時間後のアニリン選択率と触媒推定ライフの結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

表1に示す結果から明らかなように、本発明の水素化触媒を用いれば、水素化によって得られた生成物を高選択率、且つ高収率で得ることができ、しかも、著しく長い期間に渡って反応を継続することができる。
【0062】
図1に、ケイ酸カルシウムのCaO/SiOのモル比と触媒推定ライフの関係を示すが、図1から明らかなように、本発明の水素化触媒を用いれば、水素化反応を著しく長い期間に渡って継続することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明による水素化触媒は、成分として有害なクロムを含有せず、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類及び芳香族ニトロ化合物類等の水素化反応に対して優れた活性、選択率及び長い触媒寿命を有するため、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類及び芳香族ニトロ化合物類等の広範な水素化反応に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅とケイ酸カルシウムからなる水素化触媒において、ケイ酸カルシウム中のケイ素酸化物(SiO)に対するカルシウム酸化物(CaO)のモル比が0.1〜0.7の範囲であることを特徴とする水素化触媒。
【請求項2】
銅の濃度が20〜60重量%であることを特徴とする請求項1に記載の水素化触媒。
【請求項3】
ケイ酸カルシウムの表面積が100m/g以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の水素化触媒。
【請求項4】
アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類及び芳香族ニトロ化合物類から選ばれる化合物の水素化に用いられる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水素化触媒。
【請求項5】
芳香族ニトロ化合物類がニトロベンゼンであることを特徴とする請求項4に記載の水素化触媒。
【請求項6】
銅酸化物を30〜75重量%含有し、ケイ酸カルシウム中のケイ素酸化物(SiO)に対するカルシウム酸化物(CaO)のモル比が0.1〜0.7の範囲である水素化触媒前駆体を還元することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の水素化触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水素化触媒を使用し、100〜350℃の温度範囲で、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、カルボン酸エステル類及び芳香族ニトロ化合物類から選ばれる化合物と水素を接触させることを特徴とする水素化化合物の製造方法。
【請求項8】
芳香族ニトロ化合物類がニトロベンゼンであり、水素化化合物がアニリンであることを特徴とする請求項7に記載の水素化化合物の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−147934(P2011−147934A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288883(P2010−288883)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】