説明

水素濃度監視方法及び水素濃度監視装置

【課題】水漏洩の検出精度を向上できる水素濃度監視方法を提供する。
【解決手段】高速増殖炉プラントのメンテナンス時に二次冷却系配管に入り込んだ湿分とこの配管に戻されたNaにより生成したNaOHが、プラント起動後の温度上昇で分解されNaの水素濃度が上昇する。クリンナップによりNaの水素濃度が低下し、水素濃度ピークPを形成する。ピークP以降の、蒸気発生器の正常状態における各時間での水素濃度C(特性25)を、ピークPの水素濃度C、クリンナップの効率η、クリンナップへのNaの供給流量F、二次系NaのインベントリーV、ピークP以降のプラント運転時間tを用いてC=C×exp(−η(F/V)t)により予め求める。Cの減少率が小さい時間tnでのCを設定水素濃度CSETとする。蒸気発生器から排出されたNaの水素濃度がCSET以下にならないとき(特性26A等)、蒸気発生器で水漏洩が生じている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素濃度監視方法及び水素濃度監視装置に係り、特に、冷却材として金属ナトリウムを用いる高速増殖炉に適用するのに好適な水素濃度監視方法及び水素濃度監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却材として液体金属(例えば、液体ナトリウム)を用いる高速増殖炉は、ウラン及びプルトニウムの混合酸化物燃料(核燃料物質)を含む複数の燃料集合体を原子炉容器内の炉心に装荷している。原子炉容器と中間熱交換器が一次冷却系配管によって接続され、原子炉容器、一次冷却系配管、中間熱交換器、一次冷却系配管及び原子炉容器をこの順に接続する一次冷却系の閉ループが形成される。中間熱交換器と蒸気発生器が二次冷却系配管によって接続され、中間熱交換器、二次冷却系配管、蒸気発生器、二次冷却系配管及び中間熱交換器をこの順に接続する二次冷却系の循環閉ループが形成される。
【0003】
一次系液体ナトリウムが、原子炉容器内の炉心において、核燃料物質の核分裂で発生する熱で加熱される。高温になった液体ナトリウムが、一次冷却系配管に設けられた一次系ナトリウムポンプにより昇圧されて原子炉容器から一次冷却系配管を通って中間熱交換器に供給される。中間熱交換器では、一次系液体ナトリウムが二次系液体ナトリウムを加熱する。二次系液体ナトリウムの加熱によって温度が低下した一次系液体ナトリウムが、中間熱交換器から一次冷却系配管を通って原子炉容器に戻される。
【0004】
中間熱交換器で温度が上昇した二次系液体ナトリウムが、二次冷却系配管に設けられた二次系ナトリウムポンプにより昇圧され、二次冷却系配管により蒸気発生器に供給される。蒸気発生器では、高温の二次系液体ナトリウムが、給水配管で供給された給水を加熱する。蒸気発生器は、胴体の内部に複数の伝熱管を配置している。高温の二次系液体ナトリウムが、胴体内で伝熱管の外側の領域に供給される。給水は各伝熱管内に供給される。二次系液体ナトリウムの熱は、伝熱管を通して伝熱管内の給水に伝えられる。伝熱管内の給水は、二次系液体ナトリウムによって加熱されて蒸気になる。給水の加熱によって温度が低下した二次系液体ナトリウムが、蒸気発生器から二次冷却系配管を通って中間熱交換器に戻される。
【0005】
蒸気発生器で発生した蒸気は、主蒸気配管を通ってタービンに供給され、このタービンを回転させる。タービンの回転によって発電機が回転され、電力が発生する。タービンから排気された蒸気は復水器で凝縮されて凝縮水になる。この凝縮水は、給水として給水配管を通って蒸気発生器に供給される。
【0006】
何らかの原因で、蒸気発生器内の伝熱管に、破損、破孔またはき裂が発生した場合には、伝熱管内の水が胴体側の二次系液体ナトリウム中に漏洩する。このような水の漏洩を検出するために、水漏洩検出器である固体電解質の水素計を蒸気発生器に設置することが、特開2001−51089号公報に記載されている。
【0007】
特開昭59−27235号公報は、経時的に変化のある水素濃度のデータを前処理した後、そのデータを使って水素濃度の変化率を一定時間間隔で計算し、その変化率が予め定めた変化率設定値を越えたか否かの判定を行い、ある規定時間内に存在する上記判定結果の総和が、規定した割合以上であるか否かで水漏洩の有無を判定する水漏洩検出装置を記載している。
【0008】
特開昭58−215522号公報に記載された水漏洩検出装置は、複数の時点間での水素濃度の変化を算出し、この変化率の各々が対応して設定された設定値を超えたか否かを判定し、上記各変化率毎の判定結果の組み合わせにより水漏洩の有無を判定している。
【0009】
「高速増殖炉もんじゅ発電所 計測制御設備」、日立評論Vol.71、No.10、pp.1041−1048(1989.10)では、水素濃度の測定値のみを取り込み、時間積分により平準化した後、水素濃度の変化率が一定の値以上となったときに警報を発するようにしている。
【0010】
一方で、大量の水がナトリウム中に漏洩した場合の安全性を評価するため、大規模な熱交換器を用いた実験が行われており、各種の安全装置が、正常に機能することが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−51089号公報
【特許文献2】特開昭59−27235号公報
【特許文献3】特開昭58−215522号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「高速増殖炉もんじゅ発電所 計測制御設備」、日立評論Vol.71、No.10、pp.1041−1048(1989.10)
【非特許文献2】「高速炉トリチウム挙動解析コードの解析」、サイクル機構技報、No.10、pp.15−31(2001.3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
液体ナトリウムへの水の漏洩を検出する一つの方法は、(1)式及び(2)式に示すナトリウムと水による水素発生反応を利用することである。
【0014】
2Na+HO → H+NaO ……(1)
2Na+2HO → H+2NaOH ……(2)
NaO及びNaOHは固体となるが、発生した水素はナトリウムに溶解するため、伝熱管からの水漏洩が生じ、水とナトリウムが反応するとナトリウム中の水素濃度が増加する。この水素濃度を計測すれば水漏洩を検出することができる。特開昭59−27235号公報、特開昭58−215522号公報及び「高速増殖炉もんじゅ発電所 計測制御設備」、日立評論Vol.71、No.10、pp.1041−1048(1989.10)では、水素濃度を計測し、水素濃度の変化率に基づいて、水漏洩の有無を判定している。
【0015】
しかし、発明者らの検討によれば、高速増殖炉の二次冷却系で使用されている二次系液体ナトリウムには、蒸気発生器の伝熱管にき裂等が生じて二次系液体ナトリウムへの水漏洩が生じる以外にも水素が混入する機会があることが分かった。
【0016】
例えば、中間熱交換器と蒸気発生器を連絡する、二次系液体ナトリウムが流れる二次冷却系ループの点検及びメンテナンスを行う際、二次系液体ナトリウムは二次冷却系配管からダンプタンクに排出され、二次冷却系配管内には二次系液体ナトリウムが存在しない。二次冷却系配管の内面に付着した二次系液体ナトリウムも、メンテナンスを開始する前に、蒸気洗浄により完全に除去される。このような状態で、二次冷却系配管のメンテナンスが行われるが、メンテナンスを行っている間に、湿分を含む空気が二次冷却系配管内に入り込む。そして、空気に含まれている湿分が二次冷却系配管の内面に付着する。メンテナンス終了後に、ダンプタンク内の二次系液体ナトリウムを二次冷却系配管に戻したとき、二次冷却系配管の内面に付着した湿分が二次系液体ナトリウムと反応することにより、NaO及びNaOHが生成される。NaO及びNaOHが二次冷却系配管の内面に付着する。「高速炉トリチウム挙動解析コードの解析」、サイクル機構技報、No.10、pp.15−31(2001.3)には、NaOHが二次系液体ナトリウムの温度上昇によって分解され、410℃までに分解が終了することが記載されている。高速増殖炉の運転が開始されると、二次冷却系ループの温度が上昇し、メンテナンスが行われた二次冷却系配管の内面に付着したNaOHが、「高速炉トリチウム挙動解析コードの解析」、サイクル機構技報、No.10、pp.15−31(2001.3)に記載されるように、分解される。このため、二次冷却系配管内の二次系液体ナトリウムが、NaOHが分解して生じた水素を含むことになる。
【0017】
さらには、蒸気発生器内での給水の還元によって生成された水素が、蒸気発生器の伝熱管の管壁を拡散して二次系液体ナトリウムに移動する。二次冷却系配管の内面に沈着したNaOHの分解によって生じた水素、及び伝熱管を拡散した水素は、水漏洩検出装置に対してバックグラウンド水素となる。このため、蒸気発生器で水漏洩が生じた場合に、水漏洩検出装置で計測した、二次系液体ナトリウムの水素濃度に基づいて水漏洩を検出することに支障が生じる恐れがある。
【0018】
本発明の目的は、水漏洩の検出精度を向上することができる水素濃度監視方法及び水素濃度監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成する本発明の特徴は、中間熱交換器、液体金属により給水を加熱して蒸気を発生する蒸気発生装置、中間熱交換器及び蒸気発生器を接続して液体金属が流れる二次冷却系循環ループを形成する二次冷却系配管、二次冷却系循環ループ内の液体金属を冷却して浄化し、浄化された液体金属を二次冷却系循環ループに戻す浄化装置を備えた高速増殖炉プラントの二次循環ループの水素濃度を監視する水素濃度監視方法において、
中間熱交換器より蒸気発生装置に供給される液体金属の温度に基づいて液体金属の水素濃度のピーク時におけるピーク水素濃度を求め、液体金属の水素濃度がピークに到達した時点以降において低下する液体金属の水素濃度を、二次冷却系循環ループ内の液体金属のインベントリー、ピーク水素濃度、及び浄化装置に供給する液体金属の流量に基づいて算出し、算出された液体金属の水素濃度に基づいて設定水素濃度を設定し、液体金属の水素濃度がピークに到達した時点以降において蒸気発生装置から排出された液体金属の水素濃度を測定し、測定された水素濃度及び設定水素濃度に基づいて蒸気発生装置における水漏洩を判定する水素濃度監視方法にある。
【0020】
高速増殖炉プラントの定期検査終了後で、且つ高速増殖炉プラントが起動された後の運転中で、中間熱交換器より蒸気発生装置に供給される液体金属の温度に基づいて液体金属の水素濃度のピーク時におけるピーク水素濃度を求め、液体金属の水素濃度がピークに到達した時点以降において低下する液体金属の水素濃度を、二次冷却系循環ループ内の液体金属のインベントリー、ピーク水素濃度、及び浄化装置に供給する液体金属の流量に基づいて算出し、算出された液体金属の水素濃度に基づいて設定水素濃度を設定し、その水素濃度がピークに到達した時点以降で測定された水素濃度、及び設定水素濃度に基づいて蒸気発生装置の水漏洩を判定しているので、メンテナンス時に二次冷却系循環ループ(例えば、二次冷却系配管)内に入り込んだ空気に含まれた湿分と液体金属の反応により生成されたNaOHが二次冷却系循環ループ内の液体金属の温度上昇により分解されて水素が発生した場合でも、この水素の影響を受けずに、蒸気発生装置での水漏洩を精度良く検出することができる。このため、蒸気発生装置での水漏洩の検出精度が向上する。
【0021】
好ましくは、蒸気発生装置に設けられた伝熱管内に供給する給水及び伝熱管内で発生した蒸気のいずれかの温度を測定し、測定されたこの温度に基づいて伝熱管の管壁を拡散して、蒸気発生装置内に形成された、伝熱管の外側の領域に存在する液体金属に入り込む水素の量を求め、この水素量に基づいて設定水素濃度を補正し、水漏洩を、測定された水素濃度及び補正された設定水素濃度に基づいて判定することが望ましい。
【0022】
伝熱管の管壁を拡散して二次冷却系循環ループ内の液体金属に入り込む水素の量を求め、この水素量に基づいて設定水素濃度を補正しているので、伝熱管の管壁を拡散して二次冷却系循環ループ内の液体金属に入り込む水素を考慮して蒸気発生装置での水漏洩を検出するので、この水漏洩の検出精度がさらに向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ナトリウム中の水素のバックグランドを補正することができ、水の浸入を、精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の水素濃度監視方法が実施される高速増殖炉プラント及び実施例1の水素濃度監視方法に用いられる水素濃度監視装置の構成図である。
【図2】高速増殖炉のプラントの運転時間の経過に伴う二次系液体ナトリウムの水素濃度の変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明者らは、メンテナンス終了後、高速増殖炉を起動したときにおける二次冷却系ループを流れる二次系液体ナトリウムに含まれる水素の濃度について検討した。この検討結果を、図2を用いて説明する。
【0026】
二次冷却系ループのメンテナンス時に生成されて二次冷却系配管の内面に付着したNaOHが、高速増殖炉の起動における二次系液体ナトリウムの温度上昇と共に分解される。このため、二次系液体ナトリウム中の水素濃度が、図2に示されるように、増加する。NaOHの分解は、二次冷却系配管内を流れる二次系液体ナトリウムの温度が410℃になるまでに終了する。410℃を超えると、NaOHの分解が生じない。高速増殖炉の起動に伴い、二次冷却系配管内の二次系液体ナトリウムの一部がクリンナップであるコールドトラップに供給される。二次系液体ナトリウムに含まれているNaO及びNaOHがコールドトラップで除去される。この関係上、二次系液体ナトリウムの水素濃度は、特性25のように、時間経過と共に低下する。
【0027】
図2に示された特性25及び26A〜26Cは、発明者らの解析によって得られた結果を示している。特性25は、二次系液体ナトリウムへの水漏洩がない正常状態における、高速増殖炉起動後での二次系液体ナトリウムの水素濃度の変化を示している。二次冷却系配管の内面に付着したNaOHの分解と共に増大した二次系液体ナトリウムの水素濃度は、コールドトラップによる二次系液体ナトリウムに含まれた不純物(NaH等)をコールドトラップによって除去するに伴って減少する。二次系液体ナトリウムの水素濃度は、クリンナップであるコールドトラップで除去できる限界の濃度(クリンナップによる濃度限界)まで低下する。
【0028】
発明者らは、二次系液体ナトリウムへの水漏洩が生じた場合についても、水の漏洩量が異なる3つのケースについて解析を行った。特性26A,26B,26Cが、水漏洩が生じた場合における二次系液体ナトリウムの水素濃度の変化を示している。特性26Aは、高速増殖炉プラントの起動と実質的に同時に蒸気発生器で水漏洩が生じた場合における二次系液体ナトリウムの水素濃度の変化を示している。特性26Bは、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPになったときに蒸気発生器で水漏洩が生じた場合における二次系液体ナトリウムの水素濃度の変化を示している。特性26Cは、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降において蒸気発生器で水漏洩が生じた場合における二次系液体ナトリウムの水素濃度の変化を示している。これらの3つのケースでも、高速増殖炉起動後において、前述したNaOHの溶解に伴って二次系液体ナトリウムの水素濃度が増加し、やがて、二次系液体ナトリウムに含まれた不純物(NaH等)のコールドトラップによる除去に伴ってその水素濃度が低下する。
【0029】
発明者らは、特性25及び26A〜26Cに基づいて、二次系液体ナトリウムの水素濃度が、増加してピークPに到達し、その後、減少に転じることを発見した。二次系液体ナトリウムの水素濃度が水素濃度設定値を超えたときに二次系液体ナトリウムへの水漏洩が生じたと判定する場合には、高速増殖炉の起動後の運転中において、水漏洩が生じていなくても二次冷却系配管の内面に付着したNaOHの溶解により二次系液体ナトリウムの水素濃度が上昇してこの水素濃度が水素濃度設定値を超えたときに、水漏洩が生じたと判定してしまう。
【0030】
発明者らは、図2に示す特性に基づいて、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降の水素濃度に着目することによって、二次系液体ナトリウムの水素濃度が水素濃度設定値を超えたか否かで水漏洩の有無を判定した場合における水漏洩の上記した誤判定を避けることができることに気が付いた。二次系液体ナトリウムの水素濃度がそのピークPの値に到達した以降ではNaOHの溶解が生じないので、発明者らは、二次系液体ナトリウムの水素濃度がそのピークPの値に到達した時点以降において、二次系液体ナトリウムの水素濃度に基づいて水漏洩の有無を判定すればよいとの新たな知見を得た。
【0031】
図2に示す特性25をさらに検討した結果、発明者らは、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降において、そのピークPから減少する水素濃度Cを求める式を導き出した。(3)式がその式である。この(3)式を用いることによって、水漏洩が生じていない正常状態での、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降において各時点での二次系液体ナトリウムの水素濃度を求めることができる。
【0032】
C=C×exp(−η(F/V)t) ……(3)
ここで、CはピークPでの水素濃度、ηはクリンナップであるコールドトラップの効率(−)、Fはクリンナップ(例えば、コールドトラップ)に供給する二次系液体ナトリウムの流量(t/h)、Vは二次系液体ナトリウムのインベントリー、tは水素濃度がピークPに到達した時点以降の高速増殖炉の運転時間(h)である。
【0033】
なお、高速増殖炉の起動後の運転中において正常な状態(水漏洩が生じていない状態)における二次系液体ナトリウムの水素濃度の変化(図2の実線で示された特性26による水素濃度の変化)のピークPの二次系液体ナトリウムの水素濃度は、蒸気発生器の胴体側での二次系液体ナトリウムの入口部でのナトリウム温度(図1に示す温度計19で計測されたナトリウム温度)TN1が410℃になった時点での、蒸気発生器から排出された二次系液体ナトリウムの水素濃度である。蒸気発生器から排出された二次系液体ナトリウムの水素濃度は、水素濃度計によって測定される。
【0034】
また、図2に示す特性25及び26A〜26Cによれば、二次系液体ナトリウムの水素濃度がそのピークPに到達した以降では、水漏洩が生じた場合における二次系液体ナトリウムの水素濃度(特性26A〜26C)は、水漏洩に起因した水素の流入による、二次系液体ナトリウムの水素濃度の増加分だけ、正常状態における二次系液体ナトリウムの水素濃度(特性25)よりも高くなる。このように、二次系液体ナトリウムの水素濃度がそのピークPに到達した時点以降における二次系液体ナトリウムの水素濃度に着目すれば、水漏洩を検出できることが分かる。
【0035】
したがって、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降の各時点でにおける、正常状態での二次系液体ナトリウムの水素濃度Cを、好ましくは、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点の直後に(3)式によりそれぞれ予め求め、(3)式で得られた水素濃度Cのうち、この水素濃度の減少率が小さくなった時点の水素濃度Cを、水漏洩が生じたかの判定を行う設定水素濃度CSETに設定する。ピークPの水素濃度は二次冷却系のメンテナンス時で二次冷却系配管の内面に付着する湿分の量によって変わり、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降における水素濃度の低減割合がクリンナップに供給する二次系液体ナトリウムの流量Fによって変わるので、高速増殖炉プラントを起動するたびに(3)式の演算を行って設定水素濃度CSETに設定する。
【0036】
上記の検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0037】
本発明の好適な一実施例である実施例1の水素濃度監視方法を、図1を用いて説明する。まず、本実施例の水素濃度監視方法が適用される高速増殖炉プラントの概略の構成を、図1に基づいて説明する。高速増殖炉プラントは、原子炉容器(図示せず)、中間熱交換器1、蒸気発生器(蒸気発生装置)3及びタービン9を備える。原子炉容器内の炉心には、ウラン及びプルトニウムの混合酸化物燃料等の核燃料物質を含む複数の燃料集合体が装荷されている。図示されていないが、一次系ナトリウムポンプを設けた一次冷却系配管が、原子炉容器、及び中間熱交換器を接続し、原子炉容器、中間熱交換器及び原子炉容器を結ぶ一次冷却系循環ループを形成する。二次冷却系配管2が中間熱交換器1と蒸気発生器3を接続する。二次系ナトリウムポンプ6を設けた二次冷却系配管10が、蒸気発生器3と中間熱交換器1を接続する。二次冷却系配管2,10が二次冷却系循環ループを形成する。一次冷却系配管は中間熱交換器1の胴体内で伝熱管の外側の領域に連絡され、二次冷却系配管2,10は中間熱交換器1の複数の伝熱管に連絡される。蒸気発生器3においては、二次冷却系配管2,10が胴体内で伝熱管の外側に形成されたナトリウム領域4に連絡される。タービン9に接続された主蒸気配管12が、蒸気発生器3に接続され、蒸気発生器3内に設けられた複数の伝熱管5に連絡される。なお、図1において、伝熱管5は模式的に表されている。蒸気発生器3に接続されて各伝熱管5に連絡された給水配管13が、復水器23に接続される。
【0038】
浄化系が、分岐管7,11、及びクリンナップであるコールドトラップ(浄化装置)8を有する。分岐管7が、蒸気発生器3のナトリウム領域4に連絡されている。コールドトラップ(浄化装置)8が分岐管7に接続され、コールドトラップ8に接続された分岐管11が二次系ナトリウムポンプ6の上流で二次冷却系配管10に接続される。
【0039】
蒸気発生器3のナトリウム領域4のナトリウム入口部での二次系ナトリウムの温度TN1を測定する温度計19が、そのナトリウム入口部付近で蒸気発生器3の胴体に取り付けられる。蒸気発生器3のナトリウム領域4のナトリウム出口部での二次系ナトリウムの温度TN2を測定する温度計20が、そのナトリウム出口部付近で蒸気発生器3の胴体に取り付けられる。また、蒸気発生器3では、各伝熱管5に供給される給水の温度Tを測定する温度計18が胴体に取り付けられる。各伝熱管5から主蒸気配管12に排気される蒸気の温度Tを測定する温度計17が、蒸気発生器3の胴体に取り付けられる。流量計21が分岐管7に取り付けられ、水素濃度計22が二次冷却系配管10と分岐管11の接続点よりの上流で二次冷却系配管10に取り付けられる。温度計17,18,19,20、流量計21及び水素濃度計22が、演算装置14に接続される。
【0040】
本実施例の水素濃度監視方法に用いられる水素濃度監視装置は、温度計19、流量計21、水素濃度計22及び演算装置14を有する。
【0041】
高速増殖炉プラントでは、運転が停止された後、定期検査が実施される。この定期検査の期間中において、二次冷却系配管に対してメンテナンス(例えば、二次冷却系配管の改造)が実行されたことを想定する。
【0042】
前述したように、二次系液体ナトリウムの二次冷却系配管からダンプタンクへの排出、及び二次冷却系配管の内面の蒸気洗浄を行った後に、二次冷却系配管の改造が行われる。改造中には、二次冷却系配管の改造箇所が開放されるので、周囲の空気が二次冷却系配管内に流入する。この流入する空気に含まれた湿分が、二次冷却系配管の内面に付着する。二次冷却系配管の改造が終了し、高速増殖炉プラントの定期検査が終了した後、ダンプタンクから二次冷却系配管2,10内に二次系液体ナトリウムを戻す。このとき、二次冷却系配管の内面に付着した湿分が二次系液体ナトリウム(温度120〜200℃)と接触し、NaOH等が生成される。
【0043】
一次冷却系及び二次冷却系に液体ナトリウムが充填された後、高速増殖炉プラントが起動される。一次系ナトリウムポンプの駆動によって原子炉容器内の炉心に一次系ナトリウムが供給される。炉心において核燃料物質の核分裂で発生する熱で加熱されて高温になった液体ナトリウムが、原子炉容器から一次冷却系配管を通って中間熱交換器1に供給される。中間熱交換器1では、中間熱交換器1の胴体内で伝熱管の外側の領域を流れる一次系液体ナトリウムがこの伝熱管内を流れる二次系液体ナトリウムを加熱する。二次系液体ナトリウムの加熱によって温度が低下した一次系液体ナトリウムが、中間熱交換器1から一次冷却系配管を通って原子炉容器に戻される。
【0044】
中間熱交換器1の伝熱管内への二次系ナトリウムの供給は、二次系ナトリウムポンプ6の駆動によって行われる。中間熱交換器1で温度が上昇した二次系液体ナトリウム(約500℃)が、二次冷却系配管2を通って蒸気発生器3のナトリウム領域4に導かれる。蒸気発生器3では、ナトリウム領域4に供給された高温の二次系液体ナトリウムが、給水配管13によって蒸気発生器3の各伝熱管5に供給された給水を加熱する。給水の加熱によって温度が低下した二次系ナトリウムは、二次系ナトリウムポンプ6の駆動により、二次冷却系配管10を通って中間熱交換器1の伝熱管内に供給される。
【0045】
蒸気発生器3の各伝熱管5内で加熱された給水は蒸気になる。この蒸気は、主蒸気配管12に排気され、主蒸気配管9を通ってタービン9に供給され、このタービン9を回転させる。タービン9の回転によって発電機が回転され、電力が発生する。タービン9から排気された蒸気は復水器23で凝縮されて凝縮水になる。この凝縮水は、給水配管13にも受けられた給水ポンプ(図示せず)を駆動することにより、給水として、給水配管13を通って蒸気発生器3の各伝熱管5内に供給される。
【0046】
中間熱交換器1の伝熱管、二次冷却系配管2、蒸気発生器3のナトリウム領域4、二次冷却系配管10及び中間熱交換器1の伝熱管により形成された二次冷却系循環ループ内を循環している二次系液体ナトリウムの一部が、分岐管7によってコールドトラップ8に導かれ、二次系液体ナトリウムに含まれた不純物(例えば、NaH等)が除去される。コールドトラップ8で浄化された二次系液体ナトリウムが、分岐管11により二次冷却系配管10に導かれて、二次冷却系配管10内を流れる二次系液体ナトリウムと共に二次系ナトリウムポンプ6で昇圧され、中間熱交換器1の伝熱管内に供給される。二次系液体ナトリウムがコールドトラップ8に継続して導かれることにより、二次冷却系閉ループ内を流れる二次系液体ナトリウムに含まれた不純物(NaH等)が低減される。この結果、二次系液体ナトリウムの水素濃度が、図2に示すクリンナップによる濃度限界内の値まで低減される。
【0047】
高速増殖炉プラントの起動後の運転中において、原子炉出力の上昇に伴って二次系液体ナトリウムの温度が上昇し、生成された上記のNaOHが分解される。このため、二次系液体ナトリウムの水素濃度が、図2に示すように上昇する。二次系液体ナトリウムの温度が410℃に到達するまでNaOHの分解が終了し、さらに、にコールドトラップ8による、二次系液体ナトリウムに含まれた不純物(NaH等)の除去により、二次系液体ナトリウムの水素濃度が低下するので、二次系液体ナトリウムの水素濃度が、図2に示すように低下する。
【0048】
温度計17で測定された、蒸気発生器3の伝熱管5から主蒸気配管12に排気される蒸気の温度T、温度計18で測定された、蒸気発生器3の伝熱管5に供給された給水の温度T、温度計19で測定された、蒸気発生器3のナトリウム領域4のナトリウム入口部での二次系ナトリウムの温度TN1、温度計20で測定された、蒸気発生器3のナトリウム領域4のナトリウム出口部での二次系ナトリウムの温度TN2、流量計21で測定された、コールドトラップ8に供給される二次系液体ナトリウムの流量F、及び水素濃度計22で測定された、蒸気発生器3から排出された二次系ナトリウムの水素濃度が、それぞれ、演算装置14に入力される。
【0049】
温度計19で測定された蒸気発生器3のナトリウム領域4のナトリウム入口部での二次系ナトリウムの温度TN1、及び水素濃度計22で測定された二次系ナトリウムの水素濃度に基づけば、二次系ナトリウムの水素濃度が増加してこの増加が停止する時点(その水素濃度が減少し始める時点)での水素濃度を知ることができる。水素濃度計22で測定された二次系ナトリウムの水素濃度は、演算装置14から表示装置15に出力されて表示される。
【0050】
演算装置14は、温度計19で測定された蒸気発生器3のナトリウム領域4のナトリウム入口部での二次系ナトリウムの温度TN1、及び水素濃度計22が測定した二次系ナトリウムの水素濃度に基づいて、二次系ナトリウムの温度TN1が410℃になった時点での水素濃度計22が測定した二次系ナトリウムの水素濃度をピークPにおける水素濃度Cとし、(3)式を用いて、時間tを変え、二次系ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降の複数の時点での水素濃度Cを算出する。(3)式で用いられるコールドトラップの効率η、及び二次系液体ナトリウムのインベントリーVは、高速増殖炉プラントによって定まった定数である。演算装置14は、定数であるコールドトラップの効率η及びインベントリーVを(3)式に代入し、さらに、上記のようにして得られた水素濃度C、及び時間tで流量計21で測定した、コールドトラップ8に供給する二次系液体ナトリウムの流量Fを(3)式に代入して、時間tにおける水素濃度Cを予め算出する。多数の時間tに対する、それぞれの水素濃度Cを予め算出する。算出された各水素濃度Cが各時間tとの関係で表示装置15に表示される。オペレータは、表示された水素濃度Cの時間変化の情報を見ることによって、水素濃度Cの変化が小さくなった時点、例えば、時間tnでの水素濃度Cを設定水素濃度CSETに決定し、入力装置(図示せず)から演算装置14に入力する。
【0051】
演算装置14は、二次系ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降において水素濃度計21で測定した、二次系液体ナトリウムの水素濃度を入力する。少なくとも時間tn以降において測定された水素濃度が設定水素濃度CSET以下にならないとき、演算装置14は蒸気発生器3で伝熱管5にき裂が生じて水漏洩が発生していると判定する。この判定が成されたとき、演算装置14から警報器16に水漏洩発生信号が出力され、警報器16から警報が発せられる。この水漏洩発生信号は、表示装置15にも表示される。
【0052】
演算装置14は、二次系ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降において水素濃度計21で測定した水素濃度が設定水素濃度CSET以下になったとき、蒸気発生器3において水漏洩が発生していないと判定する。この判定結果も表示装置15に表示される。
【0053】
水素濃度計21で測定した、二次系液体ナトリウムの水素濃度が、設定水素濃度CSET以下になったかを判定する演算装置14は、実質的に、水素濃度判定装置である。本実施例では、演算装置14が、水素濃度がピークPに到達した時点以降における水素濃度Cを算出する演算装置、及び上記した水素濃度判定装置の両者の機能を有しているが、水素濃度判定装置を、水素濃度がピークPに到達した時点以降における水素濃度Cを予め算出する演算装置とは別に設けてもよい。
【0054】
本実施例は、高速増殖炉プラントの定期検査終了後で、且つこのプラントが起動された後の運転中で、二次系ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降における各時間tでの水素濃度を予め求め、この水素濃度の減少率(微分値)が減少率(微分値)の設定値に到達した時点での水素濃度Cを設定水素濃度CSETに設定し、その水素濃度がピークPに到達した時点以降で測定された水素濃度、及び設定水素濃度CSETに基づいて水漏洩の発生を判定しているので、メンテナンス時に二次冷却系ループ(例えば、二次冷却系配管2)内に入り込んだ空気に含まれた湿分の影響により二次液体ナトリウム中で水素が発生した場合でも、この水素の影響を受けずに、二次液体ナトリウムへの水漏洩を精度良く判定することができる。
【0055】
本実施例では、オペレータが、表示装置15に表示された、二次系ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降における各時間tでの各水素濃度を見ることによって、設定水素濃度CSETを設定し、演算装置14に入力しているが、演算装置14が、二次系ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降における各時間tでの水素濃度の減少率(微分値)が減少率(微分値)の設定値に到達した時点(例えば、時間tn)での水素濃度Cを設定水素濃度CSETに設定しても良い。演算装置14で設定された設定水素濃度CSETは表示装置15に表示される。
【実施例2】
【0056】
本発明の他の実施例である実施例2の水素濃度監視方法を、図1を用いて説明する。本実施例で用いる水素濃度監視装置は、図1に示された演算装置14、温度計18(または温度計17)、流量計21及び水素濃度計22を有する。
【0057】
本実施例は、実施例1で用いた設定水素濃度CSET(第1設定水素濃度CSETという)の替りに第2設定水素濃度CSETを用いる点で、実施例2と異なっている。第2設定水素濃度CSETは、蒸気発生器3の伝熱管5の管壁を拡散して給水から二次系液体ナトリウムに入り込む水素の量に基づいて、第1設定水素濃度CSETを補正することによって得られる。
【0058】
伝熱管5の管壁を拡散して給水から二次系液体ナトリウムに入り込む水素は、伝熱管5の内面が給水に接触して腐食することによって発生する。演算装置14は、この腐食により発生する水素の量を、温度計18、温度計17で測定した、蒸気発生器3の各伝熱管5に供給される給水の温度Tと蒸気の温度Tの平均値TWS(℃)に基づいて求める。
【0059】
すなわち、腐食による水素の発生は、下記の反応式によって表される。
【0060】
3Fe+4HO→Fe+4H
また、腐食による水素発生の温度依存を含め、伝熱管5の管壁を拡散して給水から二次系液体ナトリウムに入り込む水素量W(g/h)は、(4)式よって求められる。
【0061】
W=K×exp(−G/(273.1+TWS)) ……(4)
ここで、Kは比例定数(g/h)、Gは温度依存性に関わる定数(1/℃)である。なお、Web及びchangは、それぞれ、ステンレス鋼の定数Gである8189、炭素鋼の定数Gである5140を経験的に求めている。比例定数Kは、伝熱管5の表面状態等によって変化するため、測定する必要がある。本実施例では、起動前に約200℃で維持する時間があることに着目し、この時間における二次系液体ナトリウムの水素濃度の上昇に基づいて比例定数Kを決定することにした。二次系液体ナトリウムの水素濃度は、(5)式で表される濃度で平衡となる。
【0062】
C=W/ηF ……(5)
腐食により発生する水素量の算出に用いるTWSは、例えば、定期検査終了後に起動された高速増殖炉プラントの運転中で、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点で測定される。演算装置14は、(4)式に基づき、各伝熱管5の管壁を拡散して伝熱管5の外側を流れる二次系液体ナトリウムに入り込む水素量を求める。
【0063】
第1設定水素濃度CSETは実施例1と同様に設定される。演算装置14は、第1設定水素濃度CSETを設定した直後に、この第1設定水素濃度CSETに、伝熱管5の管壁を拡散して二次系液体ナトリウムに入り込む水素量による二次系液体ナトリウムの水素濃度の増加分を加えて第2設定水素濃度CSETを求める。第2設定水素濃度CSETは以下のように設定される。
【0064】
二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降の各時点でにおける、正常状態での二次系液体ナトリウムの水素濃度Cを、好ましくは、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点の直後に(6)式によりそれぞれ予め求め、(6)式で得られた水素濃度Cのうち、この水素濃度の減少率が小さくなった時点の水素濃度Cを、水漏洩が生じたかの判定を行う設定水素濃度CSETに設定する。
【0065】
C=C×exp(−η(F/V)t+W/ηF ……(6)
発明者らは、伝熱管5の管壁を拡散して二次系液体ナトリウムに入り込む水素を考慮し、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降において、そのピークPから減少する水素濃度Cを求める新たな(6)式を導き出した。この(6)式を用いることによって、水漏洩が生じていない正常状態での、二次系液体ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降において各時点での、伝熱管5の管壁を拡散して入り込む水素を考慮した二次系液体ナトリウムの水素濃度を求めることができる。
【0066】
演算装置14は、二次系ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降において水素濃度計21で測定した、二次系液体ナトリウムの水素濃度、少なくとも時間tn以降において測定された水素濃度が第2設定水素濃度CSET以下にならないとき、蒸気発生器3で水漏洩が発生していると判定する。この判定が成されたとき、演算装置14から警報器16に水漏洩発生信号が出力され、警報器16から警報が発せられる。この水漏洩発生信号は、表示装置15にも表示される。
【0067】
演算装置14は、二次系ナトリウムの水素濃度がピークPに到達した時点以降において水素濃度計21で測定した水素濃度が第2設定水素濃度CSET以下になったとき、蒸気発生器3において水漏洩が発生していないと判定する。この判定結果も表示装置15に表示される。
【0068】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例は、蒸気発生器3の伝熱管5の管壁を拡散して二次系液体ナトリウムに入り込む水素を考慮した第2設定水素濃度CSETに基づいて蒸気発生器3での水漏洩を判定しているので、伝熱管5の管壁を拡散して入り込む水素の影響を排除することができ、その水漏洩の検出を更に精度良く行うことができる。
【0069】
本実施例では、伝熱管5の管壁を拡散して二次系液体ナトリウムに入り込む水素を考慮した第2設定水素濃度CSETに基づいて蒸気発生器3での水漏洩を判定したが、水素濃度計22で測定した、二次系液体ナトリウムの水素濃度から、伝熱管5の管壁を拡散して二次系液体ナトリウムに入り込む水素の量を二次系液体ナトリウムの水素濃度の増加分に換算した値を差し引いて補正し、補正された水素濃度が、第2設定水素濃度CSET以下か、第2設定水素濃度CSETを超えるかによって蒸気発生器3での水漏洩を判定してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…中間熱交換器、2,10…二次冷却系配管、3…蒸気発生器、4…ナトリウム領域、5…伝熱管、6…二次系ナトリウムポンプ、7,11…分岐管、8…コールドトラップ、14…演算装置、17〜20…温度計、21…流量計、22…水素濃度計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間熱交換器、液体金属により給水を加熱して蒸気を発生する蒸気発生装置、前記中間熱交換器及び前記蒸気発生装置を接続して前記液体金属が流れる二次冷却系循環ループを形成する二次冷却系配管、前記二次冷却系循環ループ内の前記液体金属を冷却して浄化し、浄化された前記液体金属を前記二次冷却系循環ループに戻す浄化装置を備えた高速増殖炉プラントの前記二次冷却系循環ループの水素濃度を監視する水素濃度監視方法において、
前記中間熱交換器より前記蒸気発生装置に供給される前記液体金属の温度に基づいて前記液体金属の水素濃度のピーク時におけるピーク水素濃度を求め、前記液体金属の水素濃度がピークに到達した時点以降において低下する前記液体金属の水素濃度を、前記二次冷却系循環ループ内の前記液体金属のインベントリー、前記ピーク水素濃度、及び前記浄化装置に供給する前記液体金属の流量に基づいて算出し、算出された前記液体金属の前記水素濃度に基づいて設定水素濃度を設定し、前記液体金属の水素濃度が前記ピークに到達した時点以降において前記蒸気発生装置から排出された前記液体金属の前記水素濃度を測定し、前記測定された水素濃度及び前記設定水素濃度に基づいて前記蒸気発生装置における水漏洩を判定することを特徴とする水素濃度監視方法。
【請求項2】
前記蒸気発生装置に設けられた伝熱管内に供給する前記給水及び前記伝熱管内で発生した前記蒸気のいずれかの温度を測定し、測定されたこの温度に基づいて前記伝熱管の管壁を拡散して、前記蒸気発生装置内に形成された、前記伝熱管の外側の領域に存在する前記液体金属に入り込む水素の量を求め、この水素量に基づいて前記設定水素濃度を補正し、前記水漏洩を、前記測定された水素濃度及び補正された前記設定水素濃度に基づいて判定する請求項1に記載の水素濃度監視方法。
【請求項3】
中間熱交換器、液体金属により給水を加熱して蒸気を発生する蒸気発生装置、前記中間熱交換器及び前記蒸気発生装置を接続して前記液体金属が流れる二次冷却系循環ループを形成する二次冷却系配管、前記二次冷却系循環ループ内の前記液体金属を冷却して浄化し、浄化された前記液体金属を前記循環ループに戻す浄化装置を備えた高速増殖炉プラントの前記二次冷却系循環ループの水素濃度を監視する水素濃度監視装置において、
前記中間熱交換器より前記蒸気発生装置に供給される前記液体金属の温度を測定する温度測定装置と、前記蒸気発生装置から排出される前記液体金属の前記水素濃度を測定する水素濃度測定装置と、前記温度測定装置で測定される前記液体金属の温度に基づいて前記液体金属の水素濃度のピーク時におけるピーク水素濃度を求め、前記液体金属の水素濃度がピークに到達した時点以降において低下する前記液体金属の水素濃度を、前記二次冷却系循環ループ内の前記液体金属のインベントリー、前記ピーク水素濃度、及び前記浄化装置に供給する前記液体金属の流量に基づいて算出し、算出された前記液体金属の前記水素濃度に基づいて設定水素濃度を設定する演算装置と、前記蒸気発生装置から排出された前記液体金属の前記水素濃度を測定し、前記水素濃度測定装置で測定される水素濃度及び前記設定水素濃度に基づいて前記蒸気発生装置における水漏洩を判定する判定装置とを備えたことを特徴とする水素濃度監視装置。
【請求項4】
前記蒸気発生装置に設けられた伝熱管内に供給する前記給水及び前記伝熱管内で発生した前記蒸気のいずれかの温度を測定する他の温度測定装置と、前記他の温度測定装置で測定される前記温度に基づいて前記伝熱管の管壁を拡散して、前記蒸気発生装置内に形成された、前記伝熱管の外側の領域に存在する前記液体金属に入り込む水素の量を求め、この水素量に基づいて前記設定水素濃度を補正する前記演算装置と、前記水漏洩を、前記水素濃度測定装置で測定される水素濃度及び補正された前記設定水素濃度に基づいて判定する請求項3に記載の水素濃度監視装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−196962(P2011−196962A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67162(P2010−67162)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】