説明

水素発生用触媒及び水素発生方法

【課題】ヒドラジンの分解反応を利用する水素発生方法において、水素を選択性よく高効率で発生させることができる方法を提供する。
【解決手段】イリジウムとニッケルの複合金属からなる、ヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の分解反応による水素発生用触媒、並びに該触媒を、ヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に接触させることを特徴とする水素発生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生用触媒及び水素発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池へ供給される水素ガスの発生方法としては、水を電気分解する方法;金属と酸を反応させる方法;水素化金属に水を反応させる方法;メチルアルコールまたは天然ガスを水蒸気で改質する方法;水素吸蔵合金、活性炭、カーボンナノチューブ、リチウム−窒素系材料等の水素貯蔵材料から水素を放出させる方法等、各種の方法が知られている。しかしながら、これらの方法は、水素を発生させるために大量のエネルギーを必要とすること、使用原料に対する水素発生量が少ないこと、大規模な設備を必要とすること等の欠点がある。このため、これらの方法は、工場規模での水素の生産や実験室で用いる程度の量の水素発生には利用可能であるが、所要量の水素燃料を継続的に供給でき、しかも小型化が要求される、自動車搭載用燃料電池;携帯電話用、パーソナルコンピュータ用等のポータブル燃料電池等の水素供給方法としては不適当である。
【0003】
一方、LiAlH4、NaBH4などの金属水素化合物は、水素化試薬として実験室等で用いられ
ているが、水と接触すると一時的に多量の水素を発生して爆発的現象をもたらすために、取り扱いを慎重にする必要があり、やはり上記した燃料電池の水素供給源としては不適当である。
【0004】
NaBH4等のテトラヒドロホウ酸塩(下記特許文献1、2、非特許文献1、2等参照)や
化学式:NH3BH3で表されるボラン・アンモニア(下記特許文献3、非特許文献3,4等参照)の加水分解反応を利用して水素を放出させる方法も報告されているが、これらの方法は、生成物であるホウ酸化合物の回収・再生の点で問題がある。
【0005】
ヒドラジン(H2NNH2)は、室温で液体であり、高い水素含有量(12.5 重量 %)を有す
るために水素源として有望と考えられており、触媒反応により窒素と水素に分解できることが報告されている。例えば、下記特許文献4には、ヒドラジンおよびその誘導体を、ニッケル、コバルト、鉄、銅、パラジウム、白金等の水素発生触媒能を有する金属と接触させて水素を発生させる方法が開示されている。しかしながら、これらの金属触媒について、ヒドラジンの分解反応における水素発生触媒能を検討したところ、必ずしも十分な水素生成量が得られていない(下記非特許文献5参照)。
【0006】
また、特許文献5には、アンモニアまたはヒドラジンを水素源として用い、これを窒素と水素に分解して燃料電池に供給する分解器を備える水素製造装置が開示されている。しかしながら、特許文献5には、ヒドラジンを分解して水素を発生させる方法については具体的な開示がない。
【0007】
特許文献6及び7には、ロジウムをアルミナまたはシリカを含む担体に担持させた触媒とヒドラジン水溶液とを接触させて水素を発生させる方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、ヒドラジンからの水素発生率が低く、十分な水素発生量が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−19401号公報
【特許文献2】特開2002−241102号公報
【特許文献3】特開2006−213563号公報
【特許文献4】特開2004−244251号公報
【特許文献5】特開2003−40602号公報
【特許文献6】特開2007−269514号公報
【特許文献7】特開2007−269529号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S. C. Amendola 他、International Journal of Hydrogen Energy, 25 (2000), 969-975.
【非特許文献2】; Z. P. Li他、Journal of Power Source, 126 (2004) 28-33.
【非特許文献3】M. Chandra, Q. Xu, Journal of Power Sources 156 (2006) 190-194.
【非特許文献4】Q. Xu, M. Chandra, Journal of Power Sources 163 (2006) 364-370.
【非特許文献5】Sanjay Kumar Singh, Xin-Bo Zhang, Qiang Xu, J. Am. Chem. Soc., 131 (2009) 9894-9895.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ヒドラジンの分解反応を利用する水素発生方法において、水素を選択性よく高効率・低コストで発生させることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、ヒドラジン又はその水和物を水素発生源とする場合に、イリジウムとニッケルの複合金属を触媒とすることによって、従来知られている金属触媒を用いる場合と比較して、非常に高い選択率で効率よく且つ低コストで水素を発生させることが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の水素発生用触媒及び水素発生方法を提供するものである。
1. イリジウムとニッケルの複合金属からなる、ヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の分解反応による水素発生用触媒。
2. イリジウムとニッケルの複合金属が、イリジウムとニッケルの合金、金属間化合物又は固溶体である上記項1に記載の水素発生用触媒。
3. イリジウムとニッケルの複合金属におけるイリジウムの含有率が0.1〜39モル%の範囲である上記項1又は2に記載の水素発生用触媒。
4. 上記項1〜3のいずれかに記載の水素発生用触媒を、ヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に接触させることを特徴とする水素発生方法。
5. 上記項4の方法によって発生させた水素を燃料電池の水素源として供給することを特徴とする、燃料電池への水素供給方法。
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0014】
本発明の水素発生方法では、水素発生源として、化学式:H2NNH2で表されるヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を用いる。ヒドラジン(無水物及び一水和物)は公知化合物であり、室温では液体である。
【0015】
ヒドラジンの触媒による分解反応としては、一般に、下記式( 1 )で示される水素及
び窒素が生成するヒドラジン完全分解反応、又は 式( 2 ) で示されるアンモニアと窒素が生成するヒドラジン部分分解反応が進行すると考えられている。
【0016】
24→ N2 + 2H2 ・・・ (1)
3N24→ N2 + 4NH3 ・・・(2)
【0017】
上述した非特許文献5には、ロジウム触媒の存在下におけるヒドラジンの分解反応について記載されており、ロジウム金属を触媒とする場合には、式( 1 )で示されるヒドラジン完全分解反応よりも、式( 2 )で示されるヒドラジン部分分解反応が優先的に進行して、多量のアンモニアが生成することが記載されている。また、その他の金属触媒については、白金、パラジウム、ニッケル、銅、鉄等の金属を触媒として用いる場合には、ヒドラジンの分解反応は進行せず、コバルト、ルテニウム、イリジウム等金属を触媒とする場合には、ヒドラジンの完全分解反応は僅かに進行するが、主に部分分解反応が進行して、多量のアンモニアが生成する。
【0018】
更に、本発明者の研究によれば、イリジウムと銅の複合金属、イリジウムと鉄の複合金属、イリジウムとコバルトの複合金属等を触媒とする場合には、完全分解による水素発生反応の選択率の向上は認められないことが明らかとなっている。
【0019】
これに対して、本発明で用いるイリジウムとニッケルの複合金属を触媒とする場合には、アンモニアが生成する部分分解反応が抑制され、水素が生成する完全分解反応が選択的に進行する。
【0020】
以下、本発明で用いるイリジウムとニッケルの複合金属触媒及び該触媒を用いる水素発生方法について、具体的に説明する。
【0021】
イリジウム・ニッケル複合金属触媒
本発明の水素発生方法で用いるイリジウムとニッケルの複合金属触媒は、イリジウムとニッケルの混合物ではなく、イリジウムとニッケルが、密接な相互関係にある複合金属であることが必要である。このような複合金属の具体例としては、合金、金属間化合物、固溶体などを例示できる。
【0022】
前述した通り、イリジウム単独で触媒して用いる場合には主に部分分解反応が進行して、多量のアンモニアが生成し、またニッケル金属を単独で触媒して用いる場合には、ヒドラジンの分解反応は進行しない。また、イリジウムとニッケル金属の単なる物理混合物については、イリジウム単独の場合と比べて、ヒドラジンの完全分解反応の選択性の向上が見られない。
【0023】
これに対して、イリジウムとニッケルを複合化した金属触媒を用いる場合には、驚くべきことに、上記式( 1 )で示されるヒドラジンの完全分解反応が選択性よく進行して、非常に効率良く水素を発生させることができる。
【0024】
イリジウムとニッケルの複合金属におけるイリジウムとニッケルの比率については、IrとNiの合計モル数を基準として、Irの比率が0.1〜39モル%程度の範囲内において、Ir単独の場合と比べてヒドラジンの完全分解反応による水素発生反応に対する選択性が高くなり、特に、Irの比率が1〜25モル%程度の範囲において、非常に高い選択率でヒドラジンの完全分解反応が進行して、効率よく水素を発生させることができる。
【0025】
イリジウムとニッケルの複合金属触媒の製造方法については、特に限定はないが、例えば、イリジウム化合物とニッケル化合物を含む水溶液に還元剤を加えて、イリジウムイオ
ン及びニッケルイオンを還元して金属化することによって、目的とするイリジウムとニッケルの複合金属を得ることができる。そのほか、イリジウム化合物を含む水溶液に還元剤を添加してイリジウムイオンを還元した後、さらにニッケル化合物を添加して還元する方法や、ニッケル化合物を含む水溶液に還元剤を添加して、ニッケルイオンを還元した後、さらにイリジウム化合物を加えて還元する方法等も採用できる。特に、イリジウム化合物とニッケル化合物を含む水溶液に還元剤を加えて、イリジウムイオン及びニッケルイオンを還元する方法によれば、均一性に優れた金属触媒を得ることができる。これらの方法で用いるイリジウム化合物及びニッケル化合物については特に限定はないが、溶媒中に可溶性の化合物でれば良く、例えば、イリジウム又はニッケルの塩化物、硝酸塩、硫酸塩などの金属塩や各種金属錯体を用いることができる。
【0026】
これらのイリジウム化合物及びニッケル化合物を還元するために用いる還元剤としては、特に限定はないが、例えば、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、ヒドラジン自身など、イリジウム化合物とニッケル化合物を還元できるものであれば特に限定なく利用できる。
【0027】
イリジウムとニッケルの複合金属の大きさについては特に限定はないが、例えば、粒径が1〜100nm程度の超微粒子状態の複合金属が活性が高い点で有利である。尚、この場合の複合金属の粒径は、電子顕微鏡によって測定した値である。
【0028】
イリジウムとニッケルの複合金属には、更に、触媒活性に悪影響のない範囲内において、他の金属が複合化してもよい。
【0029】
イリジウムとニッケルの複合金属は、シリカ、アルミナ、ジルコニア、活性炭などの担体に担持させた担持触媒として用いてもよい。このような担持触媒の製造方法については、特に限定的ではないが、例えば、イリジウム化合物とニッケル化合物を含む溶液中に担体を分散させた状態で、イリジウム化合物とニッケル化合物を還元することによって得ることができる。担持量については特に限定はないが、例えば、イリジウムとニッケルの複合金属と担体の合計量を基準として、該複合金属の量が0.1〜20重量%程度であることが好ましく、0.5〜10重量%程度であることがより好ましく、1〜5重量%程度であることが更に好ましい。
【0030】
水素発生方法
本発明の水素発生方法では、水素発生源としては、ヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を用いる。ヒドラジン及びその水和物の種類について特に限定はなく、一般に市販されているものをそのまま使用できる。また、水素発生に悪影響の無い限りその他の成分が同時に含まれていても良い。
【0031】
これらの化合物の内で、ヒドラジンの無水物(H2NNH2)を原料とする場合には、ヒドラジンに対して12.5重量%の水素が発生するので水素発生効率が高いが、発火性があるために安全性に問題がある。一方、ヒドラジン一水和物(H2NNH2・H2O)を水素発生源と
する場合には、ヒドラジン一水和物に対して8重量%の水素が発生するので、無水物を原料とする場合と比較すると水素発生効率は多少劣るが、なお高い水素発生効率を有するものであり、更に、安全性が良好となる。このため、安全性を考慮すると、ヒドラジン一水和物、又はこれを更に水に希釈した水溶液を用いればよい。本発明では、特に、安全性と水素の発生効率の両方を考慮すると、ヒドラジン濃度が40〜64重量%程度の水溶液を用いることが好ましい。
【0032】
本発明の水素発生方法では、ヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を水素発生源として用い、これを上記したイリジウムとニッケルの複合金属からなる触媒に接触させればよい。具体的な方法については特に限定はなく、例えば
、反応容器中にヒドラジンと触媒を加えて、混合する方法などを採用できる。また、触媒を充填した反応器にヒドラジン水溶液を導入し、触媒層を通過させる方法も採用できる。
【0033】
イリジウムとニッケルの複合金属からなる触媒の使用量については、特に限定的ではなく、ヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物1モルに対して、イリジウムとニッケルの複合金属の量を0.0001〜10モル程度という広い範囲から選択することが可能である。特に、反応速度、触媒コスト等のバランスを考慮すると、例えば、ヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物1モルに対して、上記複合金属量を0.01〜0.5モル程度とすることが好ましい。尚、触媒層を通過させる方法では、ヒドラジン又はその水和物溶液の流速と接触時間を考慮して触媒層の触媒量を決めればよい。
【0034】
水素発生反応の反応温度は、特に限定はないが、0℃〜80℃程度とすることが好ましく、10〜50℃程度とすることがより好ましい。
【0035】
反応時の反応系内の圧力や雰囲気については特に限定はなく、適宜選択できる。
【0036】
発生した水素の利用方法
本発明方法によれば、ヒドラジンの分解による水素発生反応が選択性よく進行して、効率よく水素を生成させることができる。
【0037】
発生した水素は、例えば、燃料電池用の燃料として燃料電池に直接供給することができる。特に、本発明の水素発生方法は、室温付近の温度で水素を発生させることができ、しかも水素発生速度、発生量等を制御可能であることから、自動車搭載用燃料電池;携帯電話用、パーソナルコンピュータ用等のポータブル燃料電池等の水素供給方法として有用性が高い方法である。
【0038】
発生した水素については、例えば、水素吸蔵合金を充填した容器内に捕集して貯蔵することが可能である。また、水素吸蔵合金を用い、温度を平衡圧力―温度関係に従って調整することによって、発生した水素の系内圧力を制御することも可能である。
【発明の効果】
【0039】
本発明の水素発生方法によれば、高温に加熱することなく、制御可能な条件下で効率よく水素ガスを発生させることができる。
【0040】
また、本発明の水素発生用触媒は、イリジウムの含有率が低い場合にも高い活性を示すことから、低コストの触媒とすることができる。
【0041】
本発明方法によって発生した水素ガスは、例えば、自動車搭載用燃料電池、ポータブル燃料電池等の燃料として有用性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1で得られた触媒粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像。
【図2】実施例1で得られた触媒粒子の高角度散乱暗視野(走査透過電子顕微鏡)(HAADF−STEM)像及びEDSスペクトル。
【図3】実施例1、比較例1、比較例2及び比較例3において測定したヒドラジン一水和物に対する放出ガスのモル比と反応時間との関係を示すグラフ。
【図4】実施例1〜3において測定したヒドラジン一水和物に対する放出ガスのモル比と反応時間との関係を示すグラフ。
【図5】ニッケル−イリジウムナノ粒子触媒におけるIr含有量(mol%)と、水素生成反応の選択率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0044】
実施例1
容量30 mlの二つ口フラスコに、NiCl2・6H2O (0.045 g)、H2IrCl6(0.004 g)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム (CTAB, 95%)(0.100 g)、及び水(2.5 mL)を入れ、5分間超音波攪拌したのち、50℃で5分間加熱してから室温に戻し、NaBH4(0.020 g) 水
溶液(1.5 mL)を入れて5分間激しく反応容器を振とうさせて、Ni0.95Ir0.05ナノ粒子触媒を形成した。
【0045】
得られたNi0.95Ir0.05ナノ粒子触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)像を図1に示す。図1
から明らかなように、該触媒は、粒径5 nm程度の超微粒子であった。
【0046】
また、図2に該Ni0.95Ir0.05ナノ粒子触媒の高角度散乱暗視野(走査透過電子顕微鏡)(HAADF−STEM)像を示し、図中の点において測定したIrとNiのEDSスペクトル強度を図中の右上部に示す。図2に示すEDSスペクトルから明らかなように、IrとNiは同一位置に存在しており、それぞれ個別の金属粒子として存在するのではなく、原子レベルで共存する合金化された状態であることが確認できる。
【0047】
次いで、この二つ口フラスコにシリンジでヒドラジン一水和物(H2NNH2・H2O, 99%)(0.1mL、1.97 mmol)を入れ、室温において攪拌を続けた。放出ガスは、1.0 M 塩酸の入ったトラップを通過させてアンモニアを吸収させた後、水素及び窒素のみガスビューレットに導入し、放出量を測定した。攪拌開始5分後に2ml、10分後に4.3ml、20分後に8.5ml、50分後に22ml、100分後に42ml、150分後に60ml、300分後に105ml、405分後に130ml、450分後に144ml、540分後に146mlのガス放出が観測された。
【0048】
図3は、原料として用いたヒドラジン一水和物に対する放出ガスのモル比と反応時間との関係を示すグラフである。また、図3には、後述する比較例1、比較例2及び比較例3の結果も示す。
【0049】
質量分析(MS)を行った結果、放出ガスは水素及び窒素であることが確認できた。ガス放出量は、原料として用いたヒドラジンに対して3倍モルであった。このガス放出量は、ヒドラジンの完全分解による水素発生反応の選択率が100%の場合に相当する。
【0050】
また、上記した方法で発生したガスをそのまま固体高分子型燃料電池に導入して、燃料電池が作動することを確認した。
【0051】
比較例1
容量30 mlの二つ口フラスコに、NiCl2・6H2O (0.047 g)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB, 95%)(0.105 g)、及び水(2.5 mL)を入れ、5分間超音波攪拌した後、NaBH4(0.020 g) 水溶液(1.5 mL)を入れ、2分間激しく反応容器を振とうさせて、Niナノ粒子触媒を形成させた。
【0052】
この二つ口フラスコにシリンジでヒドラジン一水和物 (H2NNH2・H2O, 99%)(0.1 mL, 1.97 mmol)を入れ、室温において120分間攪拌したが、ガス放出は観測されなかった。
【0053】
比較例2
容量30 mlの二つ口フラスコにIrCl3(0.058 g)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニ
ウム(CTAB, 95%)(0.105 g)、及び水(2.5 mL)を入れ、5分間超音波攪拌した後、NaBH4(0.020 g) 水溶液(1.5 mL)を入れ、2分間激しく反応容器を振とうさせ、Irナノ粒子
触媒を形成させた。
【0054】
この二つ口フラスコにシリンジでヒドラジン一水和物 (H2NNH2・H2O, 99%)(0.1 mL, 1.97 mmol)を入れ、室温において攪拌を続けた。放出ガスは、1.0 M 塩酸の入ったトラップを通過させてアンモニアを吸収させた後、水素及び窒素のみをガスビューレットに導入し、放出量を測定した。攪拌開始1分後に4ml、2分後に7ml、4分後に11ml、6分後に14ml、10分後に17.5ml、20分後に21.5ml、30分後に23ml、40分後に23.5ml、50分後に24ml、60分後に24mlのガス放出が観測された。
【0055】
質量分析(MS)を行った結果、放出ガスは水素及び窒素であることが確認できた。ガス放出量は、原料として用いたヒドラジンに対して0.5倍モルであった。このガス放出量は、ヒドラジンの完全分解による水素発生反応の選択率が7%の場合に相当する。
【0056】
比較例3
比較例1及び比較例2と同様の方法でNiナノ粒子とIrナノ粒子をそれぞれ形成し、乾燥させた。この方法で得られたNiナノ粒子11.2 mg及びIrナノ粒子 2 mgを容量30 mlの二つ
口フラスコに入れ、攪拌して水(4 mL)で分散させた。
【0057】
この二つ口フラスコにシリンジでヒドラジン一水和物 (H2NNH2・H2O, 99%)(0.1 mL, 1.97 mmol)を入れ、室温において攪拌を続けた。放出ガスは、1.0 M 塩酸の入ったトラップを通過させてアンモニアを吸収させた後、水素及び窒素のみをガスビューレットに導入し、放出量を測定した。攪拌開始10分後に2ml、30分後に4ml、60分後に6.5ml、120分後に10ml、180分後に13ml、240分後に16ml、330分後に20ml、360分後に22ml、390分後に23ml、480分後に23mlのガス放出が観測された。
【0058】
質量分析(MS)を行った結果、放出ガスは水素及び窒素であることが確認できた。ガス放出量は、原料として用いたヒドラジンに対して0.5倍モルであった。このガス放出量は、ヒドラジンの完全分解による水素発生反応の選択率が7%の場合に相当する。
【0059】
この結果から明らかなように、Niナノ粒子とIrナノ粒子の混合物を触媒とする場合には、比較例2におけるIrナノ粒子のみからなら触媒を用いた場合と同じ水素生成反応の選択率であり、ヒドラジンの完全分解・水素生成反応の選択性の向上は認められなかった。
【0060】
実施例2
容量30 mlの二つ口フラスコに、NiCl2・6H2O (0.043 g)、H2IrCl6 (0.008 g)、臭化ヘ
キサデシルトリメチルアンモニウム (CTAB, 95%)(0.100 g)、及び水(2.5 mL)を入れ、5分間超音波攪拌したのち、50℃で5分間加熱してから室温に戻し、NaBH4(0.020 g)
水溶液(1.5 mL)を入れて5分間激しく反応容器を振とうさせ、Ni0.90Ir0.10ナノ粒子触媒を形成した。
【0061】
次いで、この二つ口フラスコにシリンジでヒドラジン一水和物(H2NNH2・H2O, 99%)(0.1
mL, 1.97 mmol)を入れ、室温において攪拌を続けた。放出ガスは、1.0 M 塩酸の入った
トラップを通過させてアンモニアを吸収させた後、水素及び窒素のみガスビューレットに導入し、放出量を測定した。攪拌開始5分後に3ml、10分後に7ml、20分後に13ml、40分後に29.5ml、60分後に45ml、80分後に62ml、120分後に90ml、180分後に119ml、210分後に130ml、240分後に139ml、270分後に1
45ml、300分後に146mlのガス放出が観測された。
【0062】
図4は、原料として用いたヒドラジン一水和物に対する放出ガスのモル比と反応時間との関係を示すグラフである。図4には、実施例1の結果と、後述する実施例3の結果も合わせて示す。
【0063】
質量分析(MS)を行った結果、放出ガスは水素及び窒素であることが確認できた。ガス放出量は、原料として用いたヒドラジンに対して3.0倍モルであった。このガス放出量は、ヒドラジンの完全分解による水素発生反応の選択率が100%の場合に相当する。
【0064】
また、上記した方法で発生したガスをそのまま固体高分子型燃料電池に導入して、燃料電池が作動することを確認した。
【0065】
実施例3
容量30 mlの二つ口フラスコにNiCl2・6H2O (0.036 g)、H2IrCl6(0.020 g)、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム (CTAB, 95%)(0.100 g)、及び水(2.5 mL)を入れ、5分間超音波攪拌したのち、50℃で5分間加熱してから室温に戻し、NaBH4(0.020 g) 水溶
液(1.5 mL)を入れて5分間激しく反応容器を振とうさせ、Ni0.75Ir0.25ナノ粒子触媒を形成した。
【0066】
次いで、この二つ口フラスコにシリンジでヒドラジン一水和物(H2NNH2・H2O, 99%)(0.1
mL, 1.97 mmol)を入れ、室温において攪拌を続けた。放出ガスは、1.0 M 塩酸の入った
トラップを通過させてアンモニアを吸収させた後、水素及び窒素のみガスビューレットに導入し、放出量を測定した。攪拌開始5分後に6ml、10分後に12ml、20分後に25ml、40分後に47ml、60分後に66ml、80分後に81.5ml、100分後に94ml、120分後に105ml、150分後に116ml、180分後に123ml、210分後に126ml、270分後に126mlのガス放出が観測された。
【0067】
質量分析(MS)を行った結果、放出ガスは水素及び窒素であることが確認できた。ガス放出量は、原料として用いたヒドラジンに対して2.6倍モルであった。このガス放出量は、ヒドラジンの完全分解による水素発生反応の選択率が85%の場合に相当する。
【0068】
また、上記した方法で発生したガスをそのまま固体高分子型燃料電池に導入して、燃料電池が作動することを確認した。
【0069】
実施例4
実施例1のニッケル−イリジウムナノ粒子の製造方法において、NiCl2・6H2OとH2IrCl6の使用量を変更して、Ni0.99Ir0.01ナノ粒子触媒、Ni0.60Ir0.40ナノ粒子触媒、Ni0.50Ir0.50ナノ粒子触媒、及びNi0.25Ir0.75ナノ粒子触媒を作製した。それぞれの触媒を用いて、実施例1と同様の方法でヒドラジン一水和物を原料とする放出ガスの測定実験を行い、水素及び窒素の放出量から、ヒドラジンの完全分解反応による水素発生反応に対する選択率を求めた。
【0070】
図5は、実施例4の結果と実施例1〜3、比較例1及び比較例2の結果に基づいて求めたニッケル−イリジウムナノ粒子触媒におけるIr含有量(mol%)と、水素生成反応の選択率との関係を示すグラフである。
【0071】
図5から、IrとNiの合計モル数に対するIrの比率が0.1〜39モル%の範囲において、ヒドラジンの完全分解反応による水素発生反応に対する選択率が向上することが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウムとニッケルの複合金属からなる、ヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物の分解反応による水素発生用触媒。
【請求項2】
イリジウムとニッケルの複合金属が、イリジウムとニッケルの合金、金属間化合物又は固溶体である請求項1に記載の水素発生用触媒。
【請求項3】
イリジウムとニッケルの複合金属におけるイリジウムの含有率が0.1〜39モル%の範囲である請求項1又は2に記載の水素発生用触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水素発生用触媒を、ヒドラジン及びその水和物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に接触させることを特徴とする水素発生方法。
【請求項5】
請求項4の方法によって発生させた水素を燃料電池の水素源として供給することを特徴とする、燃料電池への水素供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−245428(P2011−245428A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121565(P2010−121565)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】