説明

水素製造および二酸化炭素回収方法

【課題】含炭素燃料を原料として水素製造と二酸化炭素の回収を同時に実施するに際し、システムコストの上昇を抑えることができ、より効率的な方法を提供する。
【解決手段】含炭素燃料から水素を製造するとともに二酸化炭素を回収する水素製造および二酸化炭素回収方法であって、含炭素燃料を改質して水素と二酸化炭素を含有する水素含有ガスを得る工程;吸着剤を収容する吸着塔を備える圧力スウィング吸着装置を用いて水素含有ガスに含まれる水素以外の成分を吸着剤に吸着させ水素が富化されたガスを得る工程;吸着剤に吸着した成分を相対的に高圧下で脱着させる高圧脱着工程;吸着剤に吸着した成分を相対的に低圧下で脱着させる低圧脱着工程;および、二酸化炭素分離膜を用いて低圧脱着工程から得られるガスを二酸化炭素が富化されたガスと二酸化炭素以外の成分が富化されたガスとに分離する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化石燃料類などの含炭素燃料から水素を製造するとともに二酸化炭素を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は将来のエネルギー媒体として期待され、製造、貯蔵・輸送、利用など広い技術分野において活発な研究開発が行われている。水素をエネルギー媒体として用いる利点としては、高いエネルギー利用効率の他、燃焼後の排出物が水だけであることが挙げられる。
【0003】
現状一次エネルギーの約80%は石油、石炭、天然ガスなど化石燃料で占められ、今後再生可能エネルギーの利用増などにより漸減するにしてもその割合は高いまま推移すると予想されている。従って水素の製造において、一次エネルギー源として化石燃料を原料とするルートの重要性は当面下がることはないと言える。
【0004】
しかし、化石燃料のように炭素を含有する燃料を用いて水素を製造する場合、CO2が排出される。
【0005】
地球温暖化を防止する上でCO2の排出削減は喫緊の課題と言われている。このような状況の中で、化石燃料から水素を製造する際に副生するCO2を分離・回収する技術はCO2排出削減と水素社会の早期実現を両立させるものとして重要である。
【0006】
化石燃料などの含炭素燃料を原料として水素を製造するに当たり、CO2を分離する方法は従来から知られている。
【0007】
このような方法のうちの第1の方法として、化石燃料を原料に水蒸気改質およびシフト反応を経て製造される水素、CO、CO2、メタンの混合物から圧力スウィング吸着(PSA)装置で高純度水素を得る一方、不純物を含むオフガスから化学吸収法によりCO2を高純度化し、分離・回収する方法を挙げることができる。しかし、有機アミン溶液を吸収液として用いる化学吸収法ではCO2の回収工程すなわち吸収液の再生工程において多大なエネルギーを要するなど、水素製造のエネルギー効率の点で優れているとは言えない。
【0008】
第2の方法として、特許文献1には、2段の精製装置でそれぞれのガスを精製分離するプロセスにおいて、第一段目にCO2濃縮装置を配置しCO2を主成分とするガス流を得、第二段目に配置したPSAにより前記CO2濃縮装置から排出されるCO2濃度を減じたガスを処理することで高純度水素を得ると共に、各段から得られるCO2を富化させたガス流からCO2を液化分離する方法が開示されている。しかし、水素を分離する前の水素を多量に含むガスからCO2を除去するため、CO2回収装置として極めて高い選択性を持ち、一般にエネルギー消費量の大きい方法を採用せざるを得なくなりエネルギー効率が悪化する傾向がある。
【0009】
第3の方法として、特許文献2および3には、PSAなどの水素精製装置で高純度水素を製造すると共に、CO2、水素などを含むオフガスを燃焼した上でCO2を回収するプロセスが開示されている。しかし、この方法は水素をまだ多く含む水素精製装置オフガスを燃焼してしまうため水素収率が低下する上に、燃焼に空気を用いた場合には窒素が混入するためCO2回収の負荷が増大する。一方、燃焼に純酸素を用いることもできるがこの場合には純酸素の製造に多大なエネルギーを消費しエネルギー効率が悪化する傾向がある。
【0010】
第4の方法として、特許文献4には吸着選択性が異なる複数の吸着塔を有したシリアル構成のPSAを用いた方法が開示されている。しかし、この方法は吸収−再生のサイクルが極めて煩雑であるためシステムコストの上昇を抑えることが難しい。
【0011】
第5の方法として、特許文献5および6にはPSAオフガスから膜を用いて水素を分離しこれをPSA入り口にリサイクルすることで再利用する方法が記載されている。しかし、これらの文献ではCO2は回収されることなく廃棄されるのみであり、濃縮方法などその処理方法についての記載はなされていない。
【特許文献1】特表2004−519538号公報
【特許文献2】特開2004−292240号公報
【特許文献3】特開2003−81605号公報
【特許文献4】米国特許第4、913、709号公報
【特許文献5】米国特許第4、229、188号公報
【特許文献6】米国特許第5、435、836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のように、高純度の水素と貯留に適した高濃度のCO2を併産する方法においては、さらなる改善の余地があった。
【0013】
本発明の目的は、含炭素燃料を原料として水素製造と二酸化炭素の回収を同時に実施するに際し、システムコストの上昇を抑えることができ、より効率的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明により、以下の方法が提供される。
【0015】
(1)含炭素燃料から水素を製造するとともに二酸化炭素を回収する水素製造および二酸化炭素回収方法であって、
含炭素燃料を改質して水素と二酸化炭素を含有する水素含有ガスを得る水素含有ガス製造工程;
吸着剤を収容する吸着塔を備える圧力スウィング吸着装置を用いて、該水素含有ガスに含まれる水素以外の成分を吸着剤に吸着させ、水素が富化された水素富化ガスを得る吸着工程;
前記吸着剤に吸着した成分を、相対的に高圧下で脱着させる、高圧脱着工程;
前記吸着剤に吸着した成分を、相対的に低圧下で脱着させる、低圧脱着工程;および、
二酸化炭素分離膜を用いて、前記低圧脱着工程から得られるガスを、二酸化炭素が富化されたガスである二酸化炭素富化ガスと、二酸化炭素以外の成分が富化されたガスである二酸化炭素分離膜オフガスとに分離する二酸化炭素膜分離工程
を有する水素製造および二酸化炭素回収方法。
【0016】
(2)前記吸着工程から得られた水素富化ガスを用いて前記低圧脱着工程を終えた吸着塔内部を洗浄する洗浄工程を有する(1)記載の方法。
【0017】
(3)前記高圧脱着工程から得られたガスと前記洗浄工程から得られたガスとを混合して混合ガスとする混合工程を有する(1)または(2)記載の方法。
【0018】
(4)前記高圧脱着工程から得られたガスを燃焼させて発生させた燃焼熱を、前記水素含有ガス製造工程において改質のために利用する(1)または(2)記載の方法。
【0019】
(5)前記洗浄工程から得られたガスを燃焼させて発生させた燃焼熱を、前記水素含有ガス製造工程において改質のために利用する(2)記載の方法。
【0020】
(6)前記混合ガスを燃焼させて発生させた燃焼熱を、前記水素含有ガス製造工程において改質のために利用する(3)記載の方法。
【0021】
(7)前記高圧脱着工程から得られたガスを、前記吸着工程にリサイクルするリサイクル工程を有する(1)または(2)記載の方法。
【0022】
(8)前記リサイクル工程において、前記高圧脱着工程から得られたガスを、水素分離膜を用いて水素濃度を高めたうえで、前記吸着工程にリサイクルする(7)記載の方法。
【0023】
(9)前記二酸化炭素分離膜の、水素透過係数に対する二酸化炭素透過係数の比αが、5以上である(1)から(8)の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、含炭素燃料を原料として水素製造と二酸化炭素の回収を同時に実施するに際し、システムコストの上昇を抑えることができ、より効率的な方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
特に断らない限り本明細書では圧力は絶対圧力を意味し、ガス組成に係る%は水蒸気を除外して計算したモル%を意味する。
【0026】
〔含炭素燃料〕
本発明において、水素製造の原料としては、炭素を含有する燃料である含炭素燃料を用いる。含炭素燃料としては、炭素を含有し、改質によって水素含有ガスを製造可能な物質から適宜選んで使用することができる。
【0027】
含炭素燃料の例として、化石燃料類を挙げることができる。化石燃料類とは石油、石炭、天然ガスなど化石資源を原料として製造され得る燃料を意味し、ガス状、液状、固体状のいずれの形態でもあり得る。具体的には、メタン、エタン、プロパン、天然ガス、液化石油ガス、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油などの炭化水素類を例とすることができるが、天然ガス、液化石油ガス、ナフサ、灯油が特に好ましく用いられる。さらに、含炭素燃料としてはメタノール、ジメチルエーテル、エタノールなど化石燃料類から製造可能で酸素原子を分子中に含む含酸素化合物類も好適に使用できる。また、炭化水素類、含酸素化合物類に関わらず生物資源から得られたエタノールなど、化石資源から必ずしも製造されたものではなくても使用することができる。
【0028】
〔水素含有ガス製造工程〕
水素含有ガス製造工程においては、上記含炭素燃料の改質反応を行い、水素と二酸化炭素を少なくとも含有する水素含有ガスを製造する。
【0029】
改質反応の方法としては水蒸気改質法、オートサーマル改質法、部分酸化法など公知の改質方法を採ることができるが、空気中の窒素が混入しない方法が後段の精製工程が容易となるため好ましい。従って、水蒸気改質法、または純酸素を酸化剤とするオートサーマル改質法もしくは部分酸化法が好ましく採用され、水蒸気改質法が特に好ましく採用できる。
【0030】
まず、含炭素燃料として天然ガス、液化石油ガス、ナフサ、灯油など炭化水素類を用いる場合について述べる。この時、水蒸気改質法においては、炭化水素類と水を好ましくは300℃〜1000℃、より好ましくは400℃〜900℃の温度、好ましくは大気圧〜10MPa、より好ましくは0.2MPa〜2MPaの圧力にて反応させ、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンを含む改質ガスに分解する。使用水蒸気量は、S/C(含炭素燃料中の炭素原子のモル数に対する水蒸気モル数の比)が好ましくは2〜10、より好ましくは2.5〜7の範囲で設定される。この時、後段のPSAの駆動に必要な圧力を超える圧力で改質反応を実施すると改質ガスを改めて昇圧する必要がなく好ましい。こうして得られる改質ガスの組成は温度、圧力などに依存し、通常、水素65〜75%、一酸化炭素5〜20%、二酸化炭素5〜20%、メタン0.5〜10%程度であるが、炭素−炭素結合を有する炭化水素はできる限り残存しないような条件を選択することが好ましい。
【0031】
上記水蒸気改質反応には通常、触媒が用いられる。その触媒としては公知の水蒸気改質触媒を用いることができる。この触媒の例として、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、白金など周期律表8族、9族および10族の金属を挙げることができるが、その選択に際しては原料、反応条件などを総合的に考慮して適宜決定できる。オートサーマル改質法、部分酸化法についても、これらの改質方法に使用可能な公知の触媒から適宜選んで採用することができる。
【0032】
水素製造工程で用いる水素製造装置は、改質反応を行う改質器を有する。また、さらに水素収率を向上させるために、改質器の後段にシフト反応器を配置した水素製造装置を用いることもできる。シフト反応器では、改質器で得られた改質ガス中のCOと水蒸気を反応させ、CO2と水素に転化する。必要であればシフト反応器の前段に水蒸気注入口を設け水蒸気を追加することができる。シフト反応器に用いる触媒としては、鉄・クロム系、銅・亜鉛系、白金などの貴金属系など、公知のシフト反応触媒を用いることができる。シフト反応器の反応温度は通常200℃〜500℃の範囲で適宜設定される。反応圧力には特に制限はないが、前記改質反応で用いた圧力付近で実施するのが簡便であり、有利である。
【0033】
一方、含炭素燃料としてメタノール、ジメチルエーテル、エタノールなど含酸素化合物類を用いる場合にも上記と同様の方法を適用できる。特に、メタノールやジメチルエーテルを用いる場合には、触媒として銅−亜鉛系触媒などを用いて一酸化炭素平衡濃度が低い400℃以下、好ましくは350℃以下で改質反応を行うことで、シフト反応器が無くても優れた水素収率を達成することも可能である。この場合において水蒸気改質法を適用する場合、好ましくはS/Cが1.5〜4、より好ましくは1.5〜2.5の範囲で水蒸気量は設定される。
【0034】
水素含有ガス製造工程からは、例えば、水素65〜80%、一酸化炭素0.2〜6%、二酸化炭素10〜35%、メタン0〜10%を含むガスを得ることができる。
【0035】
なお、含炭素燃料に硫黄分が含まれる場合、硫黄分による触媒被毒を防止するために、含炭素燃料を脱硫したうえで改質器に供給することができる。
【0036】
〔PSA装置による処理〕
吸着工程では、水素含有ガス製造工程で製造した水素含有ガスを、好ましくは脱水処理した上で、圧力スウィング吸着装置すなわちPSA(Pressure Swing Adsorption)装置に導入し、水素以外の成分をPSA装置に備わる吸着剤に吸着させ、水素が富化された水素富化ガスを得る。そしてこの吸着剤を再生する際に、吸着剤に吸着した吸着成分を相対的に高圧下で脱着させる高圧脱着工程と、吸着成分を相対的に低圧下で脱着させる低圧脱着工程とを行う(高圧脱着工程の圧力より、低圧脱着工程の圧力の方が低い)。高圧脱着工程から得られるガス(高圧脱着オフガス)と、低圧脱着工程から得られるガス(低圧脱着オフガス)とは、組成が異なる。
【0037】
このように脱着工程を圧力によって高圧脱着工程と低圧脱着工程の二つに分けて行う。ただし脱着工程を三つ以上に分けて行うこともでき、高圧脱着工程をさらに圧力によって二以上に分割して行うこともできるし、低圧脱着工程をさらに圧力によって二以上に分割して行うこともできる。
【0038】
PSA法とは混合ガスから特定ガスを選別分離する方法の一つであって、混合ガスを高い圧力で吸着剤を充填した吸着塔に導入し特定成分を吸着剤に吸着させることで、吸着ガス成分と非吸着ガス成分とに分離し、ついで、吸着系の圧力を下げ、必要であればパージガスを用いることによって吸着剤に吸着した吸着成分を脱離させる方法である。工業的には吸着剤を充填した塔を複数個設け、それぞれの吸着塔において、昇圧、吸着、脱圧、洗浄の一連の操作を繰り返すことにより装置全体としては連続的に分離回収を可能としたものが使用される。
【0039】
PSA塔内に充填する吸着剤には、活性炭、ゼオライトなど、吸着によって水素と水素以外の成分とを分離可能な公知の充填剤を適宜使用できる。
【0040】
PSAの運転圧力はサイクルの段階により変化するが、最も高い圧力で運転される吸着時は好ましくは0.5MPa〜10MPa、より好ましくは1MPa〜5MPaの範囲である。
【0041】
PSA法では、通常水素は上記非吸着ガス成分に相当し吸着剤には吸着されずにPSA塔を通過する。従って、PSA装置導入圧力に近い圧力の水素富化ガスを得ることができる。吸着工程で得られる水素富化ガスを製品水素とすることができる。
【0042】
この水素富化ガスの水素純度は好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。さらに、製品水素は燃料電池自動車に用いることができる水素であることが好ましく、この場合その水素純度は通常99.99%以上が好ましい他、露点や他の不純物に対する要請も満足することが求められることがある。従って、必要に応じて、水素富化ガスを、さらに水分除去などの処理に付すことができる。さらに、製品水素は、燃料電池自動車への充填、あるいは水素ステーションへの輸送・貯蔵に適した形態である高圧水素あるいは液体水素などに変換することもできる。
【0043】
一方、吸着塔の再生は、脱着工程(吸着塔を脱圧し、吸着剤から吸着成分を脱着させる。このとき吸着塔へのガス供給は行わない)、洗浄工程および昇圧工程の各工程からなる再生工程により行うことができ、これによって再び上記吸着工程が実施できる状態に回復される。再生工程で得られるPSAオフガスには、PSA吸着塔に吸着した成分である二酸化炭素、メタン、一酸化炭素などが含まれる。本発明では、PSAオフガスを複数の部分に分けて回収する。
【0044】
PSA運転におけるシーケンスの一例を示す。
1)再生された吸着剤に脱水後の水素含有ガスを通じ、水素以外の成分を吸着剤に吸着させることにより除去し、高純度水素(水素富化ガス)を通過させて得る(吸着工程)。
2)吸着塔内のガス圧を開放し、オフガスAを得る(高圧脱着工程)。
3)吸着塔内を減圧(大気圧未満の圧力)としオフガスBを得る(低圧脱着工程)。
4)吸着塔内を高純度水素で洗浄し、オフガスCを得る(洗浄工程)。吸着塔内が高純度水素で置換される。この際に、残存していた吸着成分が脱着しても構わない。
5)吸着塔に高純度水素を導入し昇圧する(昇圧工程)。
【0045】
なお、洗浄工程および昇圧工程に用いる高純度水素として、吸着工程から得られた水素富化ガスを用いることができる。
【0046】
上記シーケンスで得られるオフガスの二酸化炭素濃度は一般に、オフガスBが高く、オフガスAおよびCは低い。オフガスAとオフガスCのどちらの二酸化炭素濃度が高いかは運転条件により異なる。また、上記シーケンスに付加的な操作を挿入することもでき、それぞれの操作で別個のオフガスが生成しうる。本発明ではこれら複数のオフガスを合わせて一つのオフガスとして処理を行うことが可能である(下に示す例ではオフガスAとCを一つにまとめて水素リッチオフガスとしている)。これはシステムの簡素化の観点から好ましい。
【0047】
図1を用いてPSAシーケンスの例についてより詳しく説明する。図1はPSA装置の構成例を示す概念図である。ここでは、PSAオフガスを、相対的に水素濃度が高い水素リッチオフガス(前記オフガスAおよびCあるいはこれらの混合物が相当する)と、相対的に二酸化炭素濃度が高いCO2リッチオフガス(前記オフガスBが相当する)とに分けて採取しつつ吸着塔を再生する方法について説明する。図1においてv1〜v24は止め弁、v25は減圧弁を表す。
【0048】
まずv1およびv5を開放し、再生処理の済んだ吸着塔Aに対し原料である高圧の水素含有ガスを導入し高純度水素を得る吸着工程を行う。
【0049】
吸着塔Aが原料水素含有ガス中の不純物により飽和に近づいた段階でv1、v5を閉じる一方、v7およびv11を開放し、吸着塔Bを用いて高純度水素の製造は継続する。吸着塔Aは引き続き再生操作を行う。まず、v2を開け吸着塔A内を脱圧すると共に第1の水素リッチオフガスを得る脱圧操作iを行う(高圧脱着工程)。脱圧操作i終了時点の圧力は吸着工程での圧力より低く設定され、好ましくは大気圧〜0.5MPa、より好ましくは大気圧〜0.2MPaの範囲である。これが大気圧以上であれば第一の水素リッチオフガス中に水素以外の成分が入りやすくなることを抑制でき、一方0.5MPa以下であれば吸着塔中に多量の水素が残存することを抑制して次に得られるCO2リッチオフガス中に多量の水素が混入することを抑制することができる。
【0050】
脱圧操作i(高圧脱着工程)の後v2を閉じv3を開放し減圧にてさらに脱着を行い水素以外の成分をより多く含むCO2リッチオフガスを得る脱圧操作iiを行う(低圧脱着工程)。なお減圧にて脱着を行うことにより、ガスの脱着を促進することができる。このために真空ポンプPを用いることができる。脱着をより完全に行うためには本工程で吸着塔からのガス成分の脱着がなくなるまで実施するのが好ましいが、工程に要する時間なども勘案して終点は決定される。脱圧操作iiの終点における圧力は、真空ポンプを用いる場合において、好ましくは0.0001MPa〜0.05MPa、より好ましくは0.001MPa〜0.02MPaの範囲である。
【0051】
脱着操作ii(低圧脱着工程)の終了後v3を閉止する一方、v6を続いてv2を開放し減圧弁v25を通った高純度水素により塔内の洗浄を行うと共に第2の水素リッチオフガスを得る洗浄工程を行う。この時の圧力は好ましくは大気圧〜0.5MPa、より好ましくは大気圧〜0.3MPaである。第1と第2の水素リッチオフガスは区別されることなく一つのガス流として取り出し、水素分離膜あるいはバーナーなど適当な処理装置に供給されることができる。また例えば、第1の水素リッチオフガスの一部と第2の水素リッチオフガスを混合することで、この混合ガスと、第1の水素リッチオフガスの残りガスを作成することもできる。あるいは第1と第2の水素リッチオフガスを全量混合した後に、この混合ガスを2個に分割することもできる。このように、必要であれば適宜混合・分割を経て2個以上のガス流として処理することもできる。
【0052】
洗浄工程終了後、v6、v2を閉止しv4を開放して塔内を高圧の高純度水素で満たす昇圧工程を行う。
【0053】
これら、吸着工程、脱着工程(高圧脱着工程および低圧脱着工程)、洗浄工程、昇圧工程の4工程を吸着塔A〜Dにおいてそれぞれタイミングをずらしながら繰り返すことにより連続的な高純度水素、水素リッチオフガスおよびCO2リッチオフガスの製造が可能となる。これらのガス組成はPSAの運転条件や原料ガスの組成に依存するが、例えば、水素リッチオフガスの組成は水素50〜98%、一酸化炭素0〜10%、二酸化炭素2〜30%、メタン0〜10%である。CO2リッチオフガスの組成は、例えば、水素2〜15%、一酸化炭素1〜30%、二酸化炭素40〜95%、メタン1〜30%である。また、水素リッチオフガスとCO2リッチオフガスの流量比(モル基準)は好ましくは1:5〜5:1、より好ましくは1:3〜3:1の範囲である。
【0054】
〔二酸化炭素膜分離工程〕
本発明では、低圧脱着工程から得られる低圧脱着ガスを、二酸化炭素分離膜を用いて、二酸化炭素濃度をさらに高めた二酸化炭素富化ガスと、二酸化炭素以外の成分が富化された二酸化炭素分離膜オフガスに分離する。好ましくは、吸着塔を減圧して脱着操作を行う際に得られるオフガスを、二酸化炭素膜分離工程に導入する。上記シーケンス例で言えばオフガスBがこれに当たる。
【0055】
二酸化炭素膜分離工程では、二酸化炭素分離膜を用いて二酸化炭素を濃縮する。二酸化炭素分離膜としては、CO2を選択的に透過させることのできる公知の膜から適宜選んで採用することができる。その例としては、PowelらJounal of Membrane Science、276、1−49(2006)に記載されるような高分子素材膜、平成15年度 二酸化炭素固定化・有効利用技術等対策事業・地球環境国際研究推進事業・分子ゲート機能CO2分離膜の基盤技術研究開発成果報告書に記載されるようなデンドリマー膜、WO2006/050531号公報に記載されるようなアミン基含有膜、あるいはゼオライト膜を始めとする無機素材膜、などを挙げることができる。
【0056】
二酸化炭素の分離効率の観点から、二酸化炭素分離膜については、膜の水素透過係数に対する二酸化炭素透過係数の比(透過係数比)αは5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。αが5以上であると、二酸化炭素分離膜透過ガス中のCO2濃度が低くなることを抑制でき、後段に二酸化炭素液化工程を用いる場合に圧縮に必要なエネルギーが大きくなると共に液化収率が低くなることを抑制できる。
【0057】
ここで、前記透過係数比αは次式で定義されるものである。
【0058】
【数1】

【0059】
ただし、各成分の透過係数は、各成分のガスの透過速度をQ、供給側圧力(分圧)をp1、透過側圧力(分圧)をp2、膜面積をA、膜厚をLとした時、次式で定義されるものである。
【0060】
【数2】

【0061】
どのような素材を用いる場合にも分離膜の形状には特に制限はなく、板状、筒状、中空糸状など任意の形状を選択することができる。
【0062】
二酸化炭素膜分離工程の供給側圧力および透過側圧力はガス組成、流量、装置の形状などに応じて適宜決定されるが、供給側圧力は好ましくは0.2〜10MPa、より好ましくは0.3〜5MPa、さらに好ましくは0.5〜2MPaの範囲である。圧力が0.2MPa以上であれば、透過速度を良好にし膜面積の増大を抑えることが容易である。一方10MPa以下であれば、分離膜にかかる圧力に耐えるための分離膜強度の上昇を抑え、その結果良好な透過性能を容易に得ることができる。一方、透過側圧力はなるべく低いほうが膜の透過性能的には好ましいが、減圧(大気圧未満の圧力)を発生させるために必要な動力、膜の耐圧強度などを総合的に勘案して決定され、好ましくは0.0001〜0.5MPa、より好ましくは0.001〜大気圧の範囲である。
【0063】
膜分離の実施温度は使用する膜素材に適した温度に設定される。
【0064】
二酸化炭素富化ガスとして二酸化炭素を回収することができる。二酸化炭素富化ガスは、そのまま地中に圧入して貯留することもできるが、二酸化炭素富化ガスをCO2液化工程に導入し液化二酸化炭素を製造することもできる。液化を行う場合、二酸化炭素富化ガスのCO2濃度はCO2液化工程の順調な操業が容易になるように高めることが好ましく、その濃度は好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。CO2濃度が70%以上の場合、液化工程に際して必要なエネルギーを小さくすることができ、また、回収される液化CO2の割合を高くすることができる。
【0065】
CO2液化の方法としては、ジュールトムソン効果を利用する方法、圧縮しながら外部冷熱により冷却する方法など公知のCO2液化方法を適宜採用できる。二酸化炭素液化装置としても、これら公知のCO2液化方法によって二酸化炭素を液化することのできる公知の装置を適宜選んで用いることができる。こうして得られた液化CO2は陸上輸送、海上輸送あるいはパイプラインなど適当な方法で貯留場所に輸送した上で、地中あるいは海中に隔離することができるし、あるいは高いCO2濃度を持つので化学品合成など種々の原料として利用もできる。CO2液化工程で得られるオフガス(液化しなかったガス)にはまだ水素、メタンなど燃焼可能なガスが含まれるので、改質器バーナーに送付して燃料として用いることができる。
【0066】
一方、二酸化炭素分離膜オフガスは、改質器バーナーに送付して燃焼させ、その保有する熱量を有効利用することができるし、メタン、一酸化炭素などの含有量が多い場合には改質器入り口に導入し改質原料として再利用することもできる。
【0067】
〔二酸化炭素によるPSA塔洗浄〕
高圧脱着工程を終えて低圧脱着工程を始める前(上記シーケンス例では減圧操作に入る前)に、好ましくは二酸化炭素濃度70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の比較的高純度の二酸化炭素で塔内を洗浄することができる。ここで用いる二酸化炭素として、回収二酸化炭素を用いることができる。この操作に伴って新たなオフガス(オフガスD)が発生する。この二酸化炭素による洗浄操作は、低圧脱着ガス(上記シーケンス例ではオフガスB)中の二酸化炭素濃度を高める効果がある。
【0068】
オフガスDは比較的CO2濃度が高いので、CO2リッチオフガスの一部として用いることもできるし、燃焼ガスとしてバーナーの燃料に用いることもできる。
【0069】
〔二酸化炭素分離膜に導入しないガスの利用〕
PSAの再生過程で得られるPSAオフガスのうち、二酸化炭素分離膜に導入しないガスは、改質器に備わるバーナーの燃料などとして用いることができる。特には、高圧脱着工程から得られたガス(上記シーケンス例ではオフガスA)および洗浄工程から得られたガス(上記シーケンス例ではオフガスC)の少なくとも一方(これらのガスが混合されて混合ガスとされていてもよい)を改質器に備わるバーナーの燃料として用い、水素含有ガス製造工程において改質のために利用することができる。水蒸気改質反応は大きな吸熱を伴う反応であり、バーナーにおける燃焼熱を利用して水蒸気改質反応に必要な熱を供給することができる。
【0070】
あるいは、PSAの再生過程で得られるPSAオフガスのうち、二酸化炭素分離膜に導入しないガスから水素を回収するために、この二酸化炭素分離膜に導入しないガスの少なくとも一部をPSA装置にリサイクルし、吸着工程に供することができる。特には、高圧脱着工程から得られる高圧脱着ガス(上記シーケンス例ではオフガスA)および洗浄工程から得られたガス(上記シーケンス例ではオフガスC)の少なくとも一方(これらのガスが混合されて混合ガスとされていてもよい)を、吸着工程にリサイクルすることができる。リサイクルに際しては、ガスを適宜昇圧することができる。
【0071】
さらに、このリサイクルするガスを、水素分離膜を用いて水素濃度を高めたうえで、吸着工程にリサイクルすることができる。特には、高圧脱着ガス等の水素リッチガスを、水素分離膜を用い、水素が富化されたガス(第二の水素富化ガス)と、水素以外の成分が富化されたガス(水素分離膜オフガス)とに分離し、第二の水素富化ガスを吸着工程にリサイクルすることができる。
【0072】
上記シーケンス例で言えばオフガスA、オフガスC、またはオフガスAとCを合わせたものを、好ましくは下記に述べる水素分離膜などを用いて水素濃度を高めたうえで、吸着工程にリサイクルすることができる。
【0073】
吸着工程にリサイクルするガスの二酸化炭素濃度は好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下であり、一方水素濃度は好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0074】
本発明では上記のように必要であれば水素膜分離工程を設けることができる。この時用いることができる水素分離膜としては、水素を選択的に透過させることが可能な公知の膜を適宜選んで採用することができる。水素分離膜としては、パラジウムなどの金属膜、ポリイミドなどの高分子膜、多孔質シリカ、ゼオライト、多孔質炭素などの多孔質膜などを例とすることができる。操作のしやすさ、コストなどから高分子膜が好ましく使用される。
【0075】
どのような素材を用いる場合にも分離膜の形状には特に制限はなく、板状、筒状、中空糸状など任意の形状を選択することができる。
【0076】
水素膜分離工程における供給側圧力は0.2〜10MPa、好ましくは0.3〜5MPa、さらに好ましくは0.5〜2MPaの範囲である。圧力が0.2MPa以上であると、透過速度を良好にし膜面積の増大を抑えることが容易である。一方10MPa以下であると、分離膜にかかる圧力に耐えるための分離膜強度の上昇を抑え、良好な透過性能を容易に得ることができる。一方、透過側圧力はなるべく低いほうが膜の透過性能的には好ましいが、減圧(大気圧未満の圧力)を発生させるために必要な動力、膜の耐圧強度などを総合的に勘案して決定され、好ましくは0.0001〜0.5MPa、より好ましくは0.001〜大気圧の範囲である。
【0077】
膜分離の実施温度は使用する膜素材に適した温度に設定され、例えばパラジウム膜であれば250〜500℃、ポリイミド膜であれば室温〜150℃程度が好適である。
【0078】
水素膜分離工程で得られる水素が富化されたガス(第二の水素富化ガス)を上記PSA入り口にリサイクルすることで水素回収率を高めることが可能である。一方、水素膜分離工程で、水素以外の成分が富化されたガス(水素分離膜オフガス)は、改質器バーナーに送って燃焼させることにより保有熱量を有効利用することが可能である。
【0079】
〔プロセス〕
以下図面を用いて本発明を実施するに好適なプロセスについて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0080】
図2に示すように、水素製造装置は、改質器1−1と、改質器の下流に接続されたシフト反応器1−2を有する。改質器には改質反応管1−1aと、これを外側から加熱するためのバーナー1−1bが備わる。含炭素燃料がライン100から改質器、特には改質反応管に供給される。改質反応に必要な水蒸気や酸素なども適宜改質器に供給される(不図示)。含炭素燃料が液体や固体である場合には、含炭素燃料を適宜予め気化することができる。必要に応じて含炭素燃料を脱硫器(不図示)で脱硫した後に改質器に供給することもできる。
【0081】
含炭素燃料は改質反応管の内部で改質され、改質器から改質ガスが排出される(ライン101)。シフト反応器では、改質ガス中のCOと水蒸気がCO2と水素に転換される。
【0082】
水素製造装置から得られる水素含有ガス(ライン102)は、ライン103を経てPSA装置2に供給される。具体的には、水素含有ガスは吸着工程を行っているPSA塔に投入され、水素含有ガスに含まれる水素以外の成分が吸着剤に吸着され、水素富化ガス(第一の水素富化ガス)が製品水素として取り出される(ライン104)。一方、再生工程を行っているPSA塔からはPSAオフガスが水素リッチオフガス(ライン112)とCO2リッチオフガス(ライン106)とに分けられて排出される。
【0083】
CO2リッチガスはライン106、昇圧機7、ライン107を経てCO2分離膜5に導入される。二酸化炭素分離膜を透過したガスとして二酸化炭素富化ガス(ライン109)が得られ、これが昇圧機9で昇圧されて二酸化炭素液化装置6に供給される(ライン110)。二酸化炭素分離膜を透過せずに排出された二酸化炭素分離膜オフガス(ライン108)は、ライン118を経て改質器のバーナー1−1bに燃料として供給される。
【0084】
二酸化炭素液化装置から製品液化二酸化炭素が回収される(ライン111)。二酸化炭素液化装置から排出された、液化しなかったガス(ライン116)は、水素分離膜オフガス(ライン114)と合流し(ライン117)、さらに二酸化炭素分離膜オフガス(ライン108)と合流してライン118からバーナー1−1bに供給される。
【0085】
ライン118から供給されるガス中の可燃分がバーナー1−1bにて燃焼し、ライン124から燃焼ガスが排気される。この燃焼熱は改質反応管を加熱するために利用される。
【0086】
一方、PSA装置2の水素リッチオフガス(ライン112)は昇圧機8、ライン113を経て水素分離膜4に供給される。水素分離膜を透過したガスとして第二の水素富化ガスが得られ、これはライン115、昇圧機10、ライン119を経てPSA装置(特には吸着を行っている吸着塔)にリサイクルされる。水素分離膜を透過せずに排出された水素分離膜オフガス(ライン114)は、前述の通り改質器バーナーに送られる。
【0087】
含炭素燃料の改質反応で生成するガスは水素、二酸化炭素を含み、さらにはメタン、一酸化炭素などの成分を含む混合ガスである。この混合ガスから高純度の水素を得る方法としてPSA法は有効である。しかし、PSAを用いて水素に加えて二酸化炭素をも高濃度化することは容易ではなかった。本発明によれば、PSAに過度の負担をかけることなく、簡便な装置で高純度水素を製造すると共に二酸化炭素を濃縮できる。
【0088】
本発明によれば、化石燃料類等の含炭素燃料を原料として、高純度水素の製造と並行して貯留に適した形態の二酸化炭素を製造するに際し、消費エネルギーを抑えることができる。また水素収率を向上させることができる。しかも比較的簡易な装置で水素製造および二酸化炭素回収を行うことができ、システムコストの上昇を抑えることもできる。従って、水素社会の実現および地球温暖化の防止のために貢献するものである。
【0089】
本発明によって、例えば燃料電池自動車の燃料として供給可能な純度を持つ高純度水素を得ることができる。一方、二酸化炭素は地中貯留、海洋貯留に適した形態である液化二酸化炭素の形で回収するに好適な濃度にすることができる。
【実施例】
【0090】
〔実施例1〕
図2に示した構成のプロセスにつき、熱物質収支をとった。ナフサ215kg/h(ライン100)と水蒸気946kg/h(不図示)を、Ni系触媒を充填し出口温度830℃、圧力2MPaにて水蒸気改質反応を行う改質器1−1に供給し、引き続くFe−Cr系触媒を充填し入口温度360℃出口温度425℃にてシフト反応を行うシフト反応器1−2により、総流量54.2kmol/h、CO2濃度20.5%、水素濃度72.4%、圧力2MPaの混合ガス(ライン102)を得る。これを脱水器(不図示)により脱水した後、4塔式PSA装置2にて吸着工程を行い純度99.99%の高純度水素を35.9kmol/hの流量にて得る(ライン104)。この時の圧力は混合ガス(ライン102)と同じ2MPaである。
【0091】
高圧脱着工程では塔内が大気圧まで降圧されこの時第1の水素リッチオフガスが得られる。さらに低圧脱着工程にて塔内を減圧にすることによりCO2リッチオフガス(ライン106)を得る。続いて製品高純度水素の一部を0.2MPaに減圧したガスを用いて塔内を洗浄しこの時のオフガスとして第2の水素リッチオフガスを得る。第1と第2の水素リッチオフガスは混合され、CO2濃度19%、水素濃度80%、流量7.4kmol/hの水素リッチオフガス(ライン112)となる。このガスは圧縮機8で1MPaにまで昇圧され、CO2/水素の透過係数比αが0.11のポリイミド膜を備えた水素分離膜4に導入される。水素分離膜の透過側に水素濃度96%、0.1MPaのガス(ライン115)を3.5kmol/hにて得、これは圧縮機10を経てPSA装置2の上流にリサイクルする。水素分離膜の非透過側ガス(ライン114)は改質器バーナーへと送付される。
【0092】
PSAオフガスのうちのCO2濃度69%、水素濃度5%、流量14.3kmol/hの前記CO2リッチオフガス(ライン106)は昇圧機7で1MPaに昇圧されCO2/水素の透過係数比αが30の膜を備えるCO2分離膜5に導入される。
【0093】
CO2分離膜の透過側ガス(ライン109)はCO2濃度95%であり、これは圧縮機9でCO2が液化する圧力(本実施例の場合約8MPa)にまで加圧された後、CO2液化装置6に送入され、9.5kmol/hの液化CO2流(ライン111)を得る。一方、前記CO2分離膜のオフガス(非透過側ガス)(ライン108)、水素分離膜のオフガス(非透過側ガス)(ライン114)およびCO2液化装置のオフガス(ライン116)を合わせたガス流(ライン118)は改質器バーナー1−1bに送られ燃料として利用される。
【0094】
このプロセスの圧縮機で消費されるエネルギー(回収された液化二酸化炭素1kmolあたり)は10.8kW/kmol−回収CO2、シフト反応器出口ガス(ライン102)中に含まれるCO2量を基準とした時の、液化CO2としての二酸化炭素回収率は85%である。
【0095】
二酸化炭素分離膜の透過係数比α、高純度水素回収量、二酸化炭素回収量、および回収された液化二酸化炭素1kmolあたりの圧縮機の消費エネルギー(合計)を表1に示す。熱物質収支を表5に示す。
【0096】
〔実施例2〜4〕
CO2分離膜装置5に使用する膜(透過係数比α)を変化させた以外は実施例1と同様に熱物質収支をとった。二酸化炭素分離膜の透過係数比α、高純度水素回収量、二酸化炭素回収量および圧縮機の消費エネルギー(合計)を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
〔実施例5〜8〕
実施例1〜4においては、ポリイミド膜を備えた水素分離膜4の透過側に得られる第二の水素富化ガスをPSA装置2の上流にリサイクルした。ここでは水素分離膜4は使用せずPSAオフガスの内、水素リッチオフガスはそのまま改質器バーナー燃料として用いた。つまり図3に示すように、図1に示したプロセス構成から、昇圧機8および水素分離膜4を取り去り、またリサイクルライン119および昇圧機10を取り去ったプロセスについて、熱物質収支をとった。このとき、CO2分離膜の透過係数比αを表2に示すように変化させ、実施例5〜8とした。二酸化炭素分離膜の透過係数比α、高純度水素回収量、二酸化炭素回収量および圧縮機の消費エネルギー(合計)を表2に示す。水素をリサイクルした表1と比べ圧縮機で消費されるエネルギーは少ないが回収高純度水素量、回収液化CO2は若干少なくなる。
【0099】
また、実施例7について、熱物質収支を表5に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
〔比較例1〜4〕
図4に示すプロセスにつき、熱物質収支をとった。実施例1〜8では、脱着工程を高圧脱着工程と低圧脱着工程とに分け、低圧脱着工程から得られるPSAオフガス(CO2リッチオフガス)をCO2分離膜で処理し、高圧脱着工程および洗浄工程から得られるPSAオフガス(水素リッチオフガス)はCO2分離膜で処理しない。これに対し図4に示すプロセスでは、脱着工程を高圧脱着工程と低圧脱着工程とに分けず、再生工程で得られるPSAオフガスをまとめてCO2分離膜に送り、CO2分離膜オフガス(ライン108)をバーナー1−1bに燃料として供給した。その他は実施例5と同様に実施した。このとき、CO2分離膜の透過係数比αを表3に示すように変化させ、比較例1〜4とした。その結果を表3に示す。比較例1〜4は、実施例5〜8(水素透過膜を用いず水素のリサイクルを行わないがPSAオフガスを分割して取得する)と比較して、水素収量は同様であるが、回収液化CO2量が少ない。また、圧縮機で消費されるエネルギーも多く必要となっており、これは特にαの小さな分離性能が高くないCO2分離膜を用いた場合において顕著である。
【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、高純度の水素を製造するとともに、高濃度の二酸化炭素を回収するために好適に用いられる。製造した水素は燃料電池などの燃料として好適であり、回収した二酸化炭素は地中や海中に貯留するに好適である。また、副生物として比較的高純度の水素を得ることもできこれは有機化合物の水素化など合成反応に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明において用いることのできるPSA装置の例を示す概念図である。
【図2】本発明を実施することのできる装置の例の概要を説明するためのフロー図である。
【図3】本発明を実施することのできる装置の別の例の概要を説明するためのフロー図である。
【図4】比較例におけるプロセスを説明するためのフロー図である。
【符号の説明】
【0107】
1:水素製造装置
1−1:改質器
1−1a:改質反応管
1−1b:バーナー
1−2:シフト反応器
2:PSA装置
4:水素分離膜
5:二酸化炭素分離膜
6:二酸化炭素液化装置
7、8、9、10:昇圧機
A、B、C、D:吸着塔
P:真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含炭素燃料から水素を製造するとともに二酸化炭素を回収する水素製造および二酸化炭素回収方法であって、
含炭素燃料を改質して水素と二酸化炭素を含有する水素含有ガスを得る水素含有ガス製造工程;
吸着剤を収容する吸着塔を備える圧力スウィング吸着装置を用いて、該水素含有ガスに含まれる水素以外の成分を吸着剤に吸着させ、水素が富化された水素富化ガスを得る吸着工程;
前記吸着剤に吸着した成分を、相対的に高圧下で脱着させる、高圧脱着工程;
前記吸着剤に吸着した成分を、相対的に低圧下で脱着させる、低圧脱着工程;および、
二酸化炭素分離膜を用いて、前記低圧脱着工程から得られるガスを、二酸化炭素が富化されたガスである二酸化炭素富化ガスと、二酸化炭素以外の成分が富化されたガスである二酸化炭素分離膜オフガスとに分離する二酸化炭素膜分離工程
を有する水素製造および二酸化炭素回収方法。
【請求項2】
前記吸着工程から得られた水素富化ガスを用いて前記低圧脱着工程を終えた吸着塔内部を洗浄する洗浄工程を有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記高圧脱着工程から得られたガスと前記洗浄工程から得られたガスとを混合して混合ガスとする混合工程を有する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記高圧脱着工程から得られたガスを燃焼させて発生させた燃焼熱を、前記水素含有ガス製造工程において改質のために利用する請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄工程から得られたガスを燃焼させて発生させた燃焼熱を、前記水素含有ガス製造工程において改質のために利用する請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記混合ガスを燃焼させて発生させた燃焼熱を、前記水素含有ガス製造工程において改質のために利用する請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記高圧脱着工程から得られたガスを、前記吸着工程にリサイクルするリサイクル工程を有する請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
前記リサイクル工程において、前記高圧脱着工程から得られたガスを、水素分離膜を用いて水素濃度を高めたうえで、前記吸着工程にリサイクルする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記二酸化炭素分離膜の、水素透過係数に対する二酸化炭素透過係数の比αが、5以上である請求項1から8の何れか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−273802(P2008−273802A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122380(P2007−122380)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】