説明

水素製造システムおよび発電システム

【課題】小型の設備により効率的に燃料電池に用いることのできる水素を製造できる水素製造システムを提供する。
【解決手段】(1)主としてシクロヘキサン環を有する炭化水素よりなる原料油から、該シクロヘキサン環を脱水素して芳香族環とすることにより水素を発生させる水素製造装置、および(2)該水素製造装置で製造された水素含有生成物から芳香族炭化水素を分離した後、さらに水素中に残存する芳香族炭化水素を水素化および/または水素化分解することにより飽和炭化水素に転換する水素精製装置から構成される水素製造システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素製造システムおよび発電システムに関する。特に、燃料電池に用いるのに好適な水素の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素は石油精製、化学産業などをはじめとしてあらゆる産業分野において広く用いられている。特に近年、将来のエネルギーとして水素エネルギーが注目されてきており、燃料電池を中心に研究が進められている。しかしながら、水素ガスは熱量あたりの体積が大きく、また液化するには非常に低い温度が必要であり、さらに液化に必要なエネルギーも大きいため、水素の貯蔵、輸送のシステムが重要な課題となっている。そこで水素吸蔵金属の利用が提案されているが実用化には程遠いのが現状である。また水素供給のために新たなインフラストラクチャーの整備が必要である(非特許文献1参照)。一方、液状の炭化水素は水素ガスに比べてエネルギー密度が大きく取り扱いやすいことに加え、既存のインフラストラクチャーが利用できるという利点もあることから、炭化水素の形態で貯蔵、輸送して、必要に応じ炭化水素から水素を製造する方法は重要である。
【0003】
このように固体または液体の炭化水素の形態で輸送すれば、気体もしくは液体水素輸送の不便さも解消できる。すなわち、燃料電池等の水素消費設備・装置等に隣接ないし近い個所に、炭化水素、好ましくは液状炭化水素から水素を製造する設備・装置を配置し、該隣接ないし近い個所で水素を製造し、製造した水素を隣接ないし近い水素消費装置・設備で利用するならば、炭化水素の形態で輸送・貯蔵するために気体水素の貯蔵・輸送の不便さが解消ないし軽減できるので好ましい。特に、水素消費設備・装置が自動車等の移動性の設備・装置等に搭載されるような場合、共に移動するべく該移動性設備・装置に搭載すれば更に好ましい態様となる。小規模装置ではこのような複数設備の搭載も容易である。
【0004】
水素の大規模な製造はメタンや軽質パラフィンの水蒸気改質法、部分酸化法など公知の技術により広く行われている。しかしこれらの反応は高温を必要とするとともにプロセスが複雑であり、小規模の製造では一般に効率が悪く適していない。小規模の水素製造方法としてメタノールの改質反応による方法もあるが、この反応で得られる水素には一酸化炭素が混入しており、その後に一酸化炭素の転換および転換して生じた二酸化炭素ないしメタンの分離除去、の各工程が必要となるという欠点がある。
【0005】
これに対し、液状の炭化水素を脱水素して水素を製造する方法では、反応が単純であるため反応に関するプロセスが少なくてすむことに加え、生成物が水素と常温で液体である不飽和炭化水素であるため両者の分離が容易であるという特長がある。特にシクロヘキサン環を有する炭化水素を原料油とし、そのシクロヘキサン環を芳香族環に脱水素する反応は、適宜の脱水素触媒の存在下、容易に脱水素するため反応条件を適切に設定すれば転化率をほぼ100%とすることができ、さらに生成物の水素と芳香族炭化水素の分離も沸点差が大により容易であるために、小規模の水素製造に適した方法である(非特許文献2参照)。
【0006】
しかし、燃料電池、とくに水素を燃料とする固体高分子形燃料電池においては、水素中に含まれる不純物が燃料電池に影響を与えることが知られている。一般に、硫黄化合物、一酸化炭素、不飽和炭化水素、芳香族炭化水素などが存在する場合、燃料電池での反応の触媒を被毒し反応を阻害するためにその含有量を厳しく制限する必要がある。一方、メタン、エタン、プロパン、ブタンなど大気圧下、常温でガスである軽質の飽和炭化水素はその影響が極めて小さく、相当量の混入が許される。
【0007】
液状のシクロヘキサン環を有する炭化水素を原料油とし、そのシクロヘキサン環を芳香族環に脱水素して水素を製造する方法において、生成した水素と芳香族炭化水素の温度を常温まで下げれば大部分の芳香族炭化水素は液化して水素と分離できるが、常温での蒸気圧に応じた量の芳香族炭化水素は水素ガス中に混入する。たとえば、ベンゼンは15℃において8kPaの蒸気圧があり、%オーダーの混入となる。
この対策として冷凍機を用いて冷却して分離する方法が考えられるが、冷却に要するエネルギー消費が大きくエネルギー効率が低い点、および設備が大きくなる点で好ましくない。
【0008】
分離の方法としては、この他に吸着剤に吸着させて分離する吸着分離の方法がある。この方法では吸着後の吸着剤から芳香族炭化水素を脱離させて回収するとともに吸着剤を再生することが必要である。この中で、圧力の変動により吸着および脱離を行わせる圧力スイング吸着法(PSA法)が知られているが、水素ガスの回収率が低く、また昇圧、降圧などの操作が必要でシステムとして大型化する欠点がある。
【0009】
上記以外の分離方法として、膜分離法が挙げられる。膜分離法はエネルギー効率が良いという特徴をもっている。分離膜の種類としては、主に、パラジウム膜、高分子膜、セラミック膜、カーボン膜がある。水素の精製では、一酸化炭素、窒素、メタンなどの炭化水素ガスなどとの分離に高分子膜を用いた膜分離が実用化されている。また高純度水素精製の目的でパラジウム厚膜が実用化されている。しかしながら、パラジウム厚膜による高純度水素精製を除くと、膜分離法では精製された水素純度は高くても99.9%程度であり、数百ppmのオーダーの不純物が残る。本発明の目的である芳香族炭化水素の分離においては、この量は固体高分子形燃料電池の燃料用水素には使えない。また、パラジウム厚膜による高純度水素精製は、純度は十分であるが、水素透過速度が遅く効率的でない上、パラジウムの使用量が多く高価であり、また資源的な制約も大きい。以上のように車載を可能にするような設備としてはデメリットが大きいという問題点があった(非特許文献3参照)。
【0010】
【非特許文献1】小林紀,「季報エネルギー総合工学」,2003年,第25巻,第4号,p.73−87
【非特許文献2】市川勝,「工業材料」,2003年,第51巻,第4号,p.62−69
【非特許文献3】中垣正幸監修,「膜処理技術体系(上巻)」,フジ・テクノシステム,1991年,p.661−662およびp.922−925
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、小型で効率よく脱水素反応により水素を製造する水素製造装置と小型の水素精製装置を組み合わせて効率的な水素製造システムを提供することにあり、併せて発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、主としてシクロヘキサン環を有する炭化水素を原料油とし、そのシクロヘキサン環を脱水素して芳香族環とする反応により水素を発生させる水素製造装置と、該水素製造装置で製造された水素含有生成物から生成した芳香族炭化水素を分離した後、水素中にさらに残った芳香族炭化水素を水素化および/または水素化分解することにより飽和炭化水素に転換する水素精製装置を組み合わせることにより、また脱水素反応の廃熱を利用して効率的に燃料電池に用いることのできる水素を製造できるシステムを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、少なくとも下記の水素製造装置および水素精製装置から構成される水素製造システムに関する。
(1)主としてシクロヘキサン環を有する炭化水素よりなる原料油から、該シクロヘキサン環を脱水素して芳香族環とすることにより水素を発生させる水素製造装置。
(2)該水素製造装置で製造された水素含有生成物から芳香族炭化水素を分離した後、さらに水素中に残存する芳香族炭化水素を水素化および/または水素化分解することにより飽和炭化水素に転換する水素精製装置。
【0014】
また本発明は、少なくとも下記の水素製造装置、水素精製装置および燃料電池から構成される発電システムに関する。
(1)主としてシクロヘキサン環を有する炭化水素よりなる原料油から、該シクロヘキサン環を脱水素して芳香族環とすることにより水素を発生させる水素製造装置。
(2)該水素製造装置で製造された水素含有生成物から芳香族炭化水素を分離した後、さらに水素中に残存する芳香族炭化水素を水素化および/または水素化分解することにより飽和炭化水素に転換する水素精製装置。
(3)該水素精製装置から得られる水素が供給される燃料電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水素製造システムによれば、小型の設備により効率的に燃料電池に用いることのできる水素を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明の水素製造システムは、少なくとも水素製造装置と水素精製装置からなり、該水素製造装置は、主としてシクロヘキサン環を有する炭化水素よりなる原料油から、そのシクロヘキサン環を脱水素して芳香族環とする反応により水素を発生させるものである。
【0017】
この脱水素反応には触媒を用いることが好ましい。触媒としては脱水素活性を有する任意の触媒を用いることができるが、固体触媒を用いて固定床流通式反応の形式で反応を行うことが好ましい。この固体触媒には、安定で表面積の大きい金属酸化物を担体として、触媒活性主成分を担持した触媒を好適に用いることができる。また、例えば特開2002−119856号公報に開示されている熱伝導性触媒体も好ましく用いることができる。
【0018】
該触媒活性主成分は脱水素活性を有する成分であり、任意に選択することができるが、好ましくは周期律表第8族元素、第9族元素および第10族元素であり、具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などが挙げられ、好ましくはニッケル、パラジウム、白金である。またこれらの元素の2種類以上を組み合わせても良い。なお本発明において、周期律表の族番号は国際純正および応用化学連合無機化学命名法委員会命名規則1990年版に基づく。
これらの触媒活性主成分を担体に担持させる方法は任意であるが、含浸法が好ましい。具体的には、Incipient Wetness法、蒸発乾固法などが挙げられる。用いる元素の化合物は水溶性の塩が好ましく、水溶液として含浸することが好ましい。水溶性の化合物としては、塩化物、硝酸塩、炭酸塩が好ましい。
担体としては、機械的強度が高く熱的に安定で表面積が大きい金属酸化物が好ましい。具体的には、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカアルミナなどが挙げられ、アルミナ、シリカがより好ましい。
【0019】
触媒には必要に応じ添加物を共存させても良い。好ましい添加物としては塩基性物質が挙げられる。塩基性物質が共存することにより、酸性に起因する分解などの副反応が抑制されるとともに、炭素質析出による触媒の劣化が抑制される。塩基性物質の種類は任意であるが、周期律表第1族元素および第2族元素の化合物が好ましく、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の化合物が好ましい。より好ましくは第1族元素の化合物であり、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の化合物が好ましい。これらの化合物としては、水溶性の物質が好ましく、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩がより好ましい。塩基性物質の含有量は触媒活性主成分に対して重量比で0.1〜100の範囲が好ましい。これらの塩基性物質を触媒に含有させる調製法は任意であるが、含浸法が好ましく挙げられる。具体的には、Incipient Wetness法、蒸発乾固法などが挙げられる。
【0020】
本発明に用いられる反応物はシクロヘキサン環を有する炭化水素である。具体的には、シクロヘキサン、シクロヘキサンのアルキル置換体、デカリン、デカリンのアルキル置換体、テトラリン、テトラリンのアルキル置換体などが挙げられる。好ましくはメチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン類、デカリン、メチルデカリン類である。さらに好ましくはメチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン類である。これらのシクロヘキサン環を有する炭化水素は純物質であっても良いが、複数の炭化水素の混合物であっても良い。なお、反応物はすべてシクロヘキサン環を有する炭化水素である必要はなく、ある程度の量の他の化合物、たとえばシクロヘキサン環を持たない炭化水素などを含んでいても良い。
【0021】
脱水素反応により得られる生成物は、主として水素および芳香族炭化水素である。芳香族炭化水素は回収して再度水素化することにより、原料のシクロヘキサン環を有する炭化水素に戻し再利用することができる。あるいは必要に応じて脱水素反応に必要な燃料としても用いることができる。また芳香族炭化水素は一般にオクタン価が高いので、沸点が好適な物質はガソリン基材として用いることもできる。あるいは化学製品として用いることもできる。
【0022】
脱水素の反応条件は原料の種類、反応の種類に応じて適宜選択することができる。シクロヘキサン環から芳香族環への脱水素反応は可逆反応であり、化学平衡上は高温低圧の条件が好ましい。反応圧力の下限は好ましくは0.05MPa以上、さらに好ましくは0.1MPa以上であり、上限は好ましくは1MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以下である。なお、本発明においては、特に断らないかぎり圧力は絶対圧で示す。反応温度は化学平衡上では高温が好ましいが、エネルギー効率の点では低温のほうが好ましい。反応温度の下限は好ましくは200℃以上、さらに好ましくは300℃以上であり、上限は好ましくは450℃以下、さらに好ましくは400℃以下である。また化学平衡上は不利であるが、触媒の失活を防ぐ目的あるいは装置の運転上の理由で、原料に水素を加えても良い。水素と原料の比は、モル比で0.01以上、1以下が好ましい。LHSV(液空間速度)の好ましい範囲は、触媒の活性に依存するが、好ましくは1v/v/hr以上、100v/v/hr以下である。
【0023】
本発明における水素精製装置は、水素製造装置(脱水素反応器)から得られた水素を含有する生成物中から炭化水素を分離した後、水素中に残存する炭化水素を水素化および/または水素化分解して飽和炭化水素に転換するものである。これらの炭化水素は主として芳香族炭化水素であるが、未反応の原料油も含まれる。
炭化水素の分離方法は任意であり、冷却、吸着、膜分離など公知の方法を採用できるが、装置の単純さの点では室温程度の冷却により炭化水素を液化させ気液分離する方法が好ましい。分離する際の圧力の下限は好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.2MPa以上であり、上限は好ましくは2MPa以下、さらに好ましくは1MPa以下である。分離する際の温度は、下限は好ましくは常温以上、さらに好ましくは40℃以上であり、上限は好ましくは100℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。
【0024】
また本発明では、水素分離膜による分離も好ましい。水素分離膜は芳香族炭化水素に対する耐性、耐熱性の点からセラミック膜や、パラジウム膜をはじめとする金属膜が好ましい。本発明においてセラミック膜は分子篩作用により分離を行うものが好ましい。選択的分離を行う膜の部分の孔径は0.3nm以上、0.7nm以下が好ましく、0.3nm以上、0.5nm以下がさらに好ましい。セラミック膜の材質は、公知のセラミック材料が使えるが、シリカ、アルミナ、チタニア、ガラス、炭化ケイ素、窒化ケイ素が好ましい。このセラミック膜は通常、機械的に膜を保持する支持体上に形成されるものである。この支持体には多孔質のセラミックが好ましく、多孔質のアルミナ、シリカ、窒化珪素がさらに好ましく挙げられる。
【0025】
金属膜の場合、管状で細孔を有する多孔質金属支持体もしくは管状で細孔を有する多孔質セラミック支持体の内表面もしくは外表面に金属薄膜を形成させた水素分離膜が好ましく、金属薄膜として、パラジウムを100〜1mass%含む金属膜、もしくは、銀、銅、バナジウム、ニオブ、タンタルより選ばれる少なくとも一種の金属を80〜10mass%含む金属膜が好ましい。金属薄膜の形成方法は任意の方法を選択できるが、具体的には、無電解メッキ法、蒸着法、圧延法などが挙げられる。
【0026】
膜分離の分離条件は、原料の炭化水素の種類、分離膜の性能、要求される水素の純度により変わるが、圧力は0.1MPa以上、2MPa以下が好ましく、0.1MPa以上、1MPa以下がさらに好ましい。分離膜の差圧は0.01MPa以上、2MPa以下が好ましく、0.1MPa以上、1MPa以下がさらに好ましい。温度は、水素から分離する炭化水素の沸点以上で行うことが好ましく、すなわち常温に比べて高い温度が好ましい。好ましくは100℃以上、450℃以下、さらに好ましくは120℃以上、400℃以下である。この熱源は脱水素反応の反応生成物の持つ熱を用いることで効率的に行うことができる。膜分離に必要な温度に応じ、脱水素反応器から出てくる生成ガスをそのままの温度で膜分離器に導入しても良いし、熱交換器を通して適当な温度に冷却してから導入しても良い。冷却する場合、熱を原料油の予熱に使うことによりエネルギー効率を高めることができる。
【0027】
このようにして芳香族炭化水素を分離した後の水素中には、まだ少量の芳香族炭化水素を主とする炭化水素が残存する。本発明の水素精製装置は、この芳香族炭化水素を水素化して飽和炭化水素に転換する、または水素化分解して軽質の飽和炭化水素に転換する点に特徴がある。
【0028】
この水素化および/または水素化分解反応には触媒を用いることが好ましい。この触媒には水素化活性を有する任意の触媒を用いることができるが、固体触媒を用いて固定床流通式反応の形式で反応を行うことが好ましい。この固体触媒には、安定で表面積の大きい金属酸化物を担体として、触媒活性主成分を担持した触媒を好適に用いることができる。
【0029】
この触媒活性主成分は水素化活性を有する成分であり、任意に選択することができるが、好ましくは周期律表第8族元素、第9族元素および第10族元素である。具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などが挙げられ、好ましくはニッケル、パラジウム、白金である。またこれらの元素の2種類以上を組み合わせても良い。これらの触媒活性主成分を担体に担持させる調製法は任意であるが、含浸法が好ましく挙げられる。具体的には、Incipient Wetness法、蒸発乾固法などが挙げられる。用いる元素の化合物は水溶性の塩が好ましく、水溶液として含浸することが好ましい。水溶性の化合物としては、塩化物、硝酸塩、炭酸塩が好ましい。
【0030】
担体としては、機械的強度が高く熱的に安定で表面積が大きい金属酸化物、複合金属酸化物が好ましく、具体的には、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカアルミナ、シリカジルコニアアルミナなどが挙げられ、アルミナ、シリカがより好ましい。さらに炭化水素を水素化分解する場合には、酸性の金属酸化物、複合金属酸化物が好ましく、具体的には、シリカアルミナ、シリカジルコニアアルミナが好ましく挙げられる。
【0031】
触媒には必要に応じ添加物を共存させても良い。好ましい添加物として、酸性物質が挙げられる。酸性物質が共存することにより、酸性に起因する水素化分解反応が促進される。酸物質の種類は任意であるが、酸型のゼオライトおよび粘土鉱物が好ましい。ゼオライトおよび粘土鉱物の例として、フォージャサイト、Yゼオライト、超安定Yゼオライト(USY)、モルデナイト、MFIゼオライト、βゼオライト、フェリエライト、Aゼオライト、スメクタイト、モンモリロナイト、活性白土が好ましく挙げられる。さらに好ましくは酸型のゼオライトであり、Yゼオライト、超安定Yゼオライト(USY)、モルデナイト、MFIゼオライト、βゼオライト、フェリエライトが好ましく挙げられる。酸性物質の含有量は担体に対して重量比で0.1〜80%の範囲が好ましい。
【0032】
水素中に残存する芳香族炭化水素は水素化されてシクロヘキサン環を有する飽和炭化水素になり、さらに水素化分解されると水素消費量が多くなるが、より軽質の飽和炭化水素となる。これらの飽和炭化水素は燃料電池への影響が小さいため、相当量の混入があっても差し支えない。
【0033】
反応条件は芳香族炭化水素の種類に応じて適宜選択するができる。芳香族環からシクロヘキサン環への水素化反応は可逆反応であり、化学平衡上は低温高圧の条件が好ましい。水素化分解反応は事実上不可逆反応であり、高温の条件が好ましい。反応圧力の下限は好ましくは0.1MPaであり、上限は好ましくは1MPa、さらに好ましくは0.5MPaである。反応温度は反応速度の点では高温が好ましいが、芳香族炭化水素を分離した後の反応生成物の持つ熱を利用してエネルギー効率を高める観点からは低温の方が好ましい。反応温度の下限は好ましくは100℃、さらに好ましくは200℃であり、上限は好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃である。LHSV(液空間速度)の好ましい範囲は、触媒の活性に依存するが、好ましくは1v/v/hr以上、100v/v/hr以下である。
【0034】
この熱源は芳香族炭化水素を分離した後の反応生成物の持つ熱を用いることで効率的に行うことができる。水素化および/または水素化分解反応に必要な温度に応じ、芳香族炭化水素を分離した後の生成ガスをそのままの温度で水素化および/または水素化分解反応装置に導入しても良いし、熱交換器を通して適当な温度に冷却してから導入しても良い。冷却する場合、熱を原料油の予熱に使うことによりエネルギー効率を高めることができる。また逆に、冷却した後の生成物を加熱して反応させても良い。
【0035】
図1に、水素分離膜を用いた水素製造システムの好適な例を示す。この例は原料油にメチルシクロヘキサン(MCH)を用いることを想定しているが、他のシクロヘキサン環を有する炭化水素を原料油にする場合にも有用である。原料油は原料油タンク1からポンプ2を経由して熱交換器27において膜分離器の非透過ガスにより予熱される。さらに熱交換器28において膜分離器の透過ガスにより予熱された後、加熱器12で加熱され脱水素反応器13で反応が起きる。生成した水素と芳香族炭化水素はリサイクルされた水素ガスと混合され、膜分離器14で分離される。水素の少ない(芳香族炭化水素の多い)非透過ガスは熱交換器27において原料油に熱を与えた後クーラー23により冷やされ、セパレーター24において気液分離される。分離された芳香族炭化水素は芳香族炭化水素タンク3に回収される。セパレーター24により分離されたガスはコンプレッサー25によって昇圧され、膜分離器14の手前で生成ガスと混合されてリサイクルされる。また必要に応じ、その一部は破線のラインを経由して加熱器12にリサイクルされる。一方、膜分離器22で得られた透過ガス(製品ガス)は、水素化(分解)装置15において少量含まれるトルエンが水素化および/または水素化分解された後、熱交換器28で原料油に熱を与えて製品水素となる。必要に応じ、さらに冷却してもよい。
【0036】
図2に、水素を冷却により分離する水素製造システムの好適な例を示す。原料油は原料油タンク1からポンプ2を経由して熱交換器27において生成物により予熱される。さらに熱交換器28において製品水素により予熱された後、加熱器12で加熱され、脱水素反応器13で反応が起きる。生成した水素と芳香族炭化水素は熱交換器29、27で冷却された後、クーラー23により冷やされ、セパレーター24において気液分離される。分離された芳香族炭化水素は芳香族炭化水素タンク3に回収される。セパレーター24により分離されたガスは熱交換器29によって加熱された後、水素化(分解)装置15において少量含まれるトルエンが水素化および/または水素化分解され、熱交換器28で原料油に熱を与えて製品水素となる。
【0037】
図3に、水素分離膜を用いた発電システムの好適な例を示す。図1と概ね同じであるが、製品水素を燃料電池の燃料極に送り発電を行う。製品水素に少量含まれる軽質な飽和脂肪族炭化水素は燃料電池の燃料極を通過してブリード水素となり、気液分離器24から得られる水素ガスとともに燃焼され反応器の加熱に使用される。このようにすれば図1で必要であったコンプレッサー25が不要となるとともに構造をシンプルにすることができる。
【0038】
図4に、水素を冷却により分離する発電システムの好適な例を示す。図2と概ね同じであるが、製品水素を燃料電池の燃料極に送り発電を行う。製品水素に少量含まれる軽質な飽和脂肪族炭化水素は燃料電池の燃料極を通過してブリード水素となり、燃焼され反応器の加熱に使用される。このようにすれば構造をシンプルにすることができる。なお、ブリード水素ガスのみでは加熱器12、脱水素反応器13の加熱に不足する場合には、原料油ないし回収された芳香族炭化水素を燃料にすることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0040】
<比較例1>
(脱水素反応および冷却分離)
内径9.5mmの反応管に、平均直径1.5mmの球状のγ−アルミナ担体に0.3mass%の白金を担持した市販の触媒2gを充填した。反応管の中心には温度測定のため直径1.6mmの内管をいれ、内管の中に0.8mmの細さの熱電対を挿入し、触媒層の中心の高さの位置に固定して触媒層の温度を測定した。反応管の入口に気化器を設け、原料油のメチルシクロヘキサンを気化して反応管に供給できるようにした。反応管の出口にレシーバーを設け、5℃の冷媒を循環させて冷却し液状生成物を捕集した。また生成したガスもガスメーターを用いて流量を測定し、回収し分析した。
【0041】
水素により触媒を300℃で1時間還元した後、メチルシクロヘキサンを0.22ml/分の速さで気化器に流して反応を開始した。反応温度は370℃、圧力は0.4MPaに設定した。反応開始後は水素の供給は停止した。反応を開始して1時間後にいったんレシーバーに溜まった液生成物を抜き出し、その時点から改めて定常状態での液生成物を捕集した。またガスを採取しガスクロマトグラフでガス中の水素、メチルシクロヘキサン、トルエンおよび分解生成物の量を測定した。レシーバー内の液状生成物もガスクロマトグラフを用いて分析した。反応結果を表1に示す。転化率は100%で生成物はトルエンであり、極微量のメタンの副生が認められた。水素中ガス中のトルエンの量は1.7vol%であり、冷却(冷媒温度5℃)による分離では水素純度は98.3vol%であった。
【0042】
(燃料電池発電評価)
固体高分子形燃料電池の単セルの評価装置を用いて、評価試験を行った。セル温度を80℃とし、まず純水素を燃料極側に、空気を空気極側に流して、水素利用率60%、酸素利用率40%、電流密度を0.5A/cmの条件で定常状態とした。このときの起電力を測定した。その後、純水素を、水素に1.7vol%のトルエンを混入させたガスに切り替えて実験を行った。10分後、純水素に比べて72%の起電圧に低下した。
【0043】
<比較例2>
(脱水素反応および膜分離)
比較例1で用いた脱水素反応装置を用い、レシーバーの代わりに膜分離の実験装置を結合して膜分離の実験を行った。膜分離に用いたセラミック膜は、多孔質のアルミナでできたチューブ状の支持体の外表面にシリカ膜をコーティングした構造であり、シリカ膜には0.4nmの微細孔があるものである。水素をチューブの外側から内側へ透過させる形式で分離を行った。
比較例1と同じ条件で脱水素反応を行い、得られた生成物を膜分離実験装置にフィードした。入口側の圧力は0.4MPa(絶対圧)、透過出口側の圧力は大気圧とし、差圧が0.3MPa、300℃の条件で、比較例1の脱水素反応の生成物ガスを流し分離実験を行った。結果を表1に示す。透過した水素ガス中のトルエン濃度は0.5vol%であり水素純度は99.5vol%であった。
(燃料電池発電評価)
水素に1.7vol%のトルエンを混入させたガスの代わりに、水素に0.5vol%のトルエンを混入させたガスを用いた他は比較例1と同様に評価実験を行った。ガス切り替えから10分後、純水素に比べて78%の起電圧に低下した。
【0044】
<実施例1>
(脱水素反応および冷却分離)
脱水素反応は比較例1と同じ条件で行った。転化率は100%で、水素ガス中のトルエンの量は1.7vol%であり、水素純度は98.3vol%であった。
(水素化反応)
水素に1.7vol%のトルエンを混入させたガスを水素化反応装置に流し反応を行った。平均直径1.5mmの球状のシリカ担体に1mass%の白金を担持した触媒2gを用いた。温度は250℃で行なった。得られた生成ガスにはトルエンは検出されず、生成物はメチルシクロヘキサンのみであり、メチルシクロヘキサン1.8vol%と水素98.2vol%であった。
(燃料電池発電評価)
水素に1.7vol%のトルエンを混入させたガスの代わりに、水素に1.8vol%のメチルシクロヘキサンを混入させたガスを用いた他は比較例1と同様に評価実験を行った。ガス切り替えから10分後、純水素に比べて98%の起電圧であった。
【0045】
<実施例2>
(脱水素反応および膜分離)
脱水素反応および膜分離は比較例2と同じ条件で行った。透過した水素ガス中のトルエン濃度は0.5vol%であり水素純度は99.5vol%であった。
(水素化分解反応)
水素に0.5vol%のトルエンを混入させたガスを水素化分解反応装置に流し反応を行った。触媒としては、γ−アルミナ39mass%、USYゼオライト(SiO/Al比 6)39mass%、白金2mass%の組成からなる触媒2gを用いた。温度は300℃で行なった。得られた生成ガスにはトルエンは検出されず、生成物には含まれるのはメタンと極微量のエタン、プロパンであり、メタン3.6vol%と水素96.4vol%であった。
(燃料電池発電評価)
水素に1.7vol%のトルエンを混入させたガスの代わりに、水素に3.6vol%のメタンを混入させたガスを用いた他は比較例1と同様に評価実験を行った。ガス切り替えから10分後、純水素に比べて99%の起電圧であった。
【0046】
表1に示すとおり、脱水素反応において残存するトルエンを水素化反応または水素化分解反応によりメチルシクロヘキサンおよびメタンに転換した実施例1および実施例2では、比較例1および比較例2に比べて、燃料電池発電評価において低下が小さい。
【0047】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】水素分離膜を用いた水素製造システムの例を示す。
【図2】水素を冷却により分離する水素製造システムの例を示す。
【図3】水素分離膜を用いた発電システムの例を示す。
【図4】水素を冷却により分離する発電システムの例を示す。
【符号の説明】
【0049】
1 原料油タンク
2 ポンプ
3 芳香族炭化水素タンク
12 加熱器
13 脱水素反応器
14 膜分離器
15 水素化(分解)装置
23 クーラー
24 セパレーター
25 コンプレッサー
27 熱交換器
28 熱交換器
29 熱交換器







【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記の水素製造装置および水素精製装置から構成される水素製造システム。
(1)主としてシクロヘキサン環を有する炭化水素よりなる原料油から、該シクロヘキサン環を脱水素して芳香族環とすることにより水素を発生させる水素製造装置。
(2)該水素製造装置で製造された水素含有生成物から芳香族炭化水素を分離した後、さらに水素中に残存する芳香族炭化水素を水素化および/または水素化分解することにより飽和炭化水素に転換する水素精製装置。
【請求項2】
少なくとも下記の水素製造装置、水素精製装置および燃料電池から構成される発電システム。
(1)主としてシクロヘキサン環を有する炭化水素よりなる原料油から、該シクロヘキサン環を脱水素して芳香族環とすることにより水素を発生させる水素製造装置。
(2)該水素製造装置で製造された水素含有生成物から芳香族炭化水素を分離した後、さらに水素中に残存する芳香族炭化水素を水素化および/または水素化分解することにより飽和炭化水素に転換する水素精製装置。
(3)該水素精製装置から得られる水素が供給される燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−76982(P2007−76982A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270101(P2005−270101)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】