説明

水素製造用水蒸気改質反応器

【課題】炭化水素系燃料を水蒸気改質して製造する水素製造装置であって、水蒸気改質反応と炭酸ガスの吸収反応を同時に進行させる反応器において、水蒸気改質反応時の吸熱量と炭酸ガス吸収反応時の発熱量の差による蓄熱を防止すること。
【解決手段】枕型圧力容器内にルーバー壁111〜114で仕切られた多数の充填層を設け、その中に水蒸気改質用触媒、炭酸ガス吸収材あるいは炭素変成触媒などを自由に分割して必要量を充填し、その充填層内の反応熱(吸熱あるいは発熱)を流下するガスの顕熱で制御することで触媒加熱用バーナーをなくし、原料ガスの改質運転時は加圧状態を、吸収材の再生運転時には減圧状態を保持することで改質温度と再生温度と差を少なくし触媒への熱負荷を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気改質反応を利用した水素製造用反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素系燃料(以下原料ガスという)から水蒸気改質反応によって水素を製造する水素製造装置における水蒸気改質反応器は改質反応に必要な熱量を管外の高温燃焼ガスから反応管を通して受熱する間接加熱方式が一般的である。
【0003】
この反応管内に水蒸気改質触媒と炭酸ガス吸収材を一定比率で混在させて水蒸気改質反応と発生した炭酸ガスの吸収反応とを同時に進行させる所謂非平衡型水蒸気改質反応器が開示されている。(特許文献1)但し炭酸ガス吸収材を使用した非平衡型水蒸気改質反応の場合は副生成した炭酸ガスを吸収する吸収材を再生して再使用することが必要であり改質温度と再生温度のギャップを軽減する手段として改質反応時は加圧運転を再生反応時は減圧運転することが効果的であることが開示されている(非特許文献1)
【0004】
また、水素製造装置の収率をあげるための手段として、水素選択透過膜と炭酸ガス分離装置を併用する方法も開示されている。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開2008−024566公報
【特許文献2】特許3839599公報
【非特許文献1】朴海洋ら、Journal of Japan Society of Energy and Resources、Vol.29、No2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水蒸気改質反応はその反応平衡から750℃〜900℃の温度を必要としさらに吸熱反応のため205KJ/molの熱を加える必要があるにも拘らず水蒸気改質炉の反応管の耐熱性あるいはコストの制約から原料ガスを加熱するための燃焼ガス温度を高温にすること出来ないこと即ち伝熱のための有効温度差を大きく採れないために反応管の直径を100mm程度に抑えることで総括伝熱係数と伝熱面積を確保している間接加熱式の水素製造設備においては水素製造量に比例して反応管の本数を増加させる必要がありスケールメリットが少ないく間接加熱のためエネルギーロスも大きいという課題がある。
【0006】
水蒸気改質触媒(以下A触媒という)と炭酸ガス吸収材(以下吸収材という)を一つの反応器内混在させた場合、水蒸気改質反応時の吸熱量(205KJ/mol)と炭酸ガス吸収反応時の発熱量(たとえばチタン酸バリウムの場合は240KJ/mol)とには差があるため反応器を大型化する場合には蓄熱防止のための熱バランスをとる手段が必要となるし、触媒と吸収材の寿命が異なるにも拘らず抜き出す時は同時となるという課題がある。
【0007】
また、開示された水素分離型反応器は構造が複雑で大容量の水素製造設備に適応させるには、設備面積的にもコスト的においても困難であるいう課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、反応器自体が加圧運転および減圧運転に耐えられるよう枕型圧力容器とし、ルーバー壁で仕切られた触媒Aの充填層を4〜8層に分割することで各層の熱負荷を分割する。即ち各層における水蒸気改質反応に必要な熱量が充填層の数に分割されるため原料ガス(炭化水素系燃料と水蒸気と燃焼ガス)の顕熱でその反応熱で賄うことが可能となる。逆に言えば各触媒A層に流入するガスの持つ有効利用可能顕熱分の改質反応しか起こらない。
この顕熱を利用した部分改質反応を原料ガスあるいは触媒Aの種類のより4〜8回繰り返すことで完結させる。同様に非平衡型水蒸気改質を行う場合は、炭酸ガス吸収時に発生する吸収熱も生成ガスの温度が上がり過ぎないよう分割するために吸収材の充填層の数を触媒充填層の数に合わせると効果的である。
【0009】
請求項2の発明は、原料ガスの一部を酸化燃焼させて触媒A層入口原料ガス温度を触媒Aの耐熱温度を越さない程度に、一般的には1000℃以下に昇温させるためのものでルーバーに穿たれた0.5mm以下の細孔を通して酸素あるいは空気を噴出させ、その酸素量あるいは空気量は充填層入り口部温度により制御する。但し水素分離膜を接合させたルーバーを使用しない場合即ち水素分離を行わない場合は原料ガスが希釈されるため空気を使用は避けることが望ましい。
【0010】
また原料ガスの燃焼に必要な空間の大きさは、酸素あるいは空気噴出用細孔径および孔数によりルーバーの形状および大きさを変えることで自由に設定できる。
【0011】
請求項3の発明は、水蒸気改質反応により副生した炭酸ガスを吸収材で吸収させる際に発生する吸収反応熱が改質反応で吸収した熱量より大きく原料ガスが触媒の耐熱温度をオーバーする場合には吸収材充填層内に冷媒を通す中空のルーバーを設けルーバーを介して原料ガスを冷却できるようにする。
【0012】
また、水蒸気改質のみを行う反応器の場合は、生成ガス中の一酸化炭素を炭酸ガスにシフトさせるための変成反応を行うことが重要であり触媒B充填層の上流側のルーバー内に冷媒を通して生成ガスを変成反応に適した温度まで冷却する。
【0013】
請求項4の発明は、多孔質金属管で出来た中空ルーバーの表面に水素分離膜を接合させ、改質反応により生成した水素お含む原料ガスがルーバー間の充填物のない空間を通過する間に水素を選択的に抽出できるようにする。この水素分離用のルーバーは吸収材充填層の上流側に配備する。
【0014】
請求項5の発明は、機能の異なるルーバーを最も効果的に配備するためのものでその配備は順番によるものではなく充填物の種類によって決定される。
【0015】
なお、充填物の組み合わせの内、触媒Aと吸収材Bの組み合わせにした非平衡型水蒸気改質を行う場合は、吸収材の再生が必要となるため、吸収材の再生時は原料ガスの供給を止め容器の圧力を真空ポンプで負圧にした上でオフガスあるいは少量の原料ガスを供給して各触媒A充填層の上流側に配備された前記ルーバーより噴出される酸素あるいは空気により燃焼させて吸収材を昇温し吸収された炭酸ガスを脱離させて燃焼ガスと共に排出させる。但し燃焼ガスの温度が触媒Aの耐熱温度をオーバーしないように管理することが重要となる。
【発明の効果】
【0016】
本願発明により、熱効率の良い水素収率の高い水素製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本願発明の水素製造用反応器に関する実施の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために説明するものであり、特に指定しない限り、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0018】
図1は、触媒Aと触媒Bを組み合わせたメタンを原料ガスとした平衡型水蒸気改質反応器の断面図で改質反応容器100の内部には耐熱金属に細孔を穿った中空の触媒加熱用ルーバー101を一定間隔で積み上げたルーバー壁111の6段と生成ガス冷却用ルーバー105を一定間隔で積み上げたルーバー壁115とでできた空間に触媒Aを充填して6層の触媒A充填層を形成する。その下流には前記生成ガス冷却用ルーバー壁115と充填物を保持するための充填物保持用ルーバー103を積み上げた充填物保持用ルーバー壁113でできた空間に触媒Bを充填して触媒B充填層を形成し原料ガス入口ノズルより流入した原料ガスは各充填層をクロスフローする間に改質反応および変成反応することにより水素と炭酸ガスを主成分とする生成ガスとして生成ガス出口ノズルより流出する。
【実施例2】
【0019】
図2は、触媒Aと吸収材を組み合わせたメタンを原料ガスとした非平衡型水蒸気改質反応器の断面図である。改質反応容器100の内部には最上流に耐熱金属に細孔を穿った中空の触媒加熱用ルーバー101を積み上げた前記ルーバー壁111を建て、続いて建てる充填物保持するための前記ルーバー壁113との空間に触媒Aを充填する。更に吸収材冷却用のルーバー104を積み上げたルーバー壁114と充填物保持用の前記ルーバー壁112を建て充填物保持用ルーバー112間に吸収材を充填し2層の吸収材充填層を形成する。以下充填物保持用前記ルーバー壁112間に触媒Aを充填した触媒A充填層と、充填物保持用ルーバー壁112と吸収材冷却用ルーバー壁114と充填物保持用ルーバー壁112の間に吸収材を充填した吸収材充填層を1セットとして5セットの充填層を形成した非平衡型水蒸気改質反応器である。
【実施例3】
【0020】
図3は、触媒Aと吸収材を組み合わせ更に生成水素を水素分離膜で抽出するメタンを原料ガスとした非平衡型水蒸気改質反応器の断面図である。改質反応容器100の内部には最上流に耐熱金属に細孔を穿った中空の触媒加熱用ルーバー101を積み上げた前記ルーバー壁111を建て、続いて金属多孔材表面に水素分離膜を接合した中空の水素分離用ルーバー102を積み上げたルーバー壁112を建てそこにできる空間に触媒Aを充填する。以下吸収材冷却用ルーバー壁114、水素分離用ルーバー壁112、充填物保持用ルーバー壁113の順で繰り返した触媒Aと吸収材の充填層を6層形成したものであり炭酸ガスの除去と水素の抽出を同時に行う非平衡型水蒸気改質反応器である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本願発明により、改質反応に必要な熱を直接供給できるため加熱ガス発生燃焼器が不要となるとともにスケールアップが容易にできる水素製造装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】平衡型水蒸気改質反応器の内部構造を示す断面図である。
【図2】改質反応途中で副生成した炭酸ガスを除去する非平衡型改質反応器の内部構造を示す断面図ある。
【図3】改質反応途中で水素を分離抽出するとともに副生成した炭酸ガスを除去する非平衡型改質反応器の内部構造を示す断面図である。
【図4】各種ルーバーの断面図である。
【符号の説明】
【0023】
100 水蒸気改質反応器 101 触媒加熱用ルーバー
102 水素分離用ルーバー 103 充填物保持用ルーバー
104 吸収材冷却用ルーバー 105 触媒冷却用ルーバー
111 触媒加熱用ルーバー壁 112 水素分離用ルーバー壁
113 充填物保持用ルーバー壁 114 吸収材冷却用ルーバー壁
115 生成ガス冷却用ルーバー壁 201 触媒入口ノズル
202 触媒排出口ノズル 203 吸収材入口ノズル
204 吸収材排出口ノズル 205 原料ガス入口
206 オフガス出口 301 触媒A
401 吸収材 501 触媒B







【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系燃料から改質反応により水素を製造する水素製造設備において、耐圧容器内にルーバーを積み重ねて作った複数のルーバー壁を設け、当該ルーバー壁で仕切られた空間に水蒸気改質触媒、炭酸ガス吸収材あるいは炭素変成触媒などを必要SV(空間速度)に見合った量充填するに際し、その夫々の必要量を当該ルーバー壁により更に複数層に細分して前記触媒や前記吸収材を充填し、前記炭化水素系燃料と水蒸気を充填層に対しクロスフローさせて改質反応あるいは吸収反応あるいは変成反応を別々にあるいは組み合わせて行うことができるようにしたことを特徴とする水素製造用水蒸気改質反応器。
【請求項2】
充填物を仕切るルーバーを中空にして酸素あるいは空気を通し、ルーバーと充填物に囲まれた空間部に当該ルーバーに穿たれた細孔から噴出させることにより前記炭化水素系燃料の一部を燃焼させて改質原料(炭化水素系燃料および水蒸気の混合ガス)を水蒸気改質反応に必要な温度まで昇温させることを特徴とした請求項1記載の水素製造用水蒸気改質反応器。
【請求項3】
充填物を仕切るルーバーを中空にして冷媒を通し、高温になりすぎた生成ガスあるいは吸収材を冷却することができるようにしたことを特徴とした請求項1記載の水素製造用水蒸気改質反応器。
【請求項4】
充填物を仕切るルーバーを中空にしてルーバー表面に接合された水素分離膜を通して生成ガス中から選択的に分離した水素を抜き出すことが出来るようにしたことを特徴とした請求項1記載の水素製造用水蒸気改質反応器。
【請求項5】
前記改質原料を昇温させるルーバーは水蒸気改質触媒層の上流側に、生成ガスを冷却させるルーバーは炭素変成触媒充填層の上流側に、炭酸ガス吸収反応により高温となった吸収材を冷却するためのルーバーは吸収材充填層中央部に、水素分離抜き出し用のルーバーは吸収材充填層の上流側に配備することを特徴とした請求項1記載の水素製造用水蒸気改質反応器。





























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−95424(P2010−95424A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269455(P2008−269455)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(302070534)有限会社アイエンジ (12)
【出願人】(592263115)富士工機株式会社 (8)
【Fターム(参考)】