説明

水素貯蔵用複合容器及び水素充填方法

【課題】多量の水素を貯蔵でき、水素充填時においてプレクールを必要としない、もしくは、プレクールが少なくてすみ、従来よりも簡便に水素を充填できる水素貯蔵用複合容器を提供すること。
【解決手段】ライナー2を繊維および樹脂4で補強した複合容器であって、内部に、温度303K、水素の平衡圧35MPaであるときの水素吸蔵能が0.5質量%以上である多孔性炭素材料8を5〜25体積%存在させた、水素貯蔵用複合容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵用複合容器及び水素充填方法に関する。より詳しくは、水素吸蔵能に優れた材料を使用することにより、耐久性に優れた水素貯蔵用の複合容器、及び、プレクールを必要としない、もしくは、プレクールが少なくてすむ簡便な水素の充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、環境に配慮し、水素をエネルギーとし、燃料電池で発電し走行する燃料電池車(FCV)の開発が進められている。一般にFCVは、水素を何らかの形で自動車に貯蔵するものである。例えば、ボンベのような容器に水素を気体や液体として貯蔵したり、あるいは、水素吸蔵合金で固形化し貯蔵する。自動車においては、軽量化が必要であり、水素吸蔵合金のような重量があるものは敬遠される傾向にある。しかし、容器で保存するには、いくつかの解決しなければならない課題がある。一つは、限られた容器のスペースでできるだけ多量の水素を貯蔵する必要があること、もう一つは貯蔵する速度を早くすることである。例えば、FCVへの水素充填時間は3分以内であることが求められている。
【0003】
FCV用水素燃料容器は、軽量化のためにアルミライナーや樹脂ライナーを用いた複合容器(CFRP容器)が使用されている。しかし、樹脂ライナー層やCFRP層の熱伝導率が低いため、70MPaFCVへ水素を高速充填した場合に水素の温度がCFRP容器の許容温度を超えてしまう。
【0004】
例えば、150Lの樹脂ライナー製CFRP容器に水素を70MPaまで85℃を超えないように充填しようとすれば50分以上の時間がかかる。また、同容器に3分充填を目指した高速充填を行うと、10MPaで85℃に到達してしまい、フル充填時の40%も水素を充填することができない。
【0005】
このため、水素ステーションでは水素の充填直前にプレクール装置を使用し、水素を冷却する手法を取り入れている。しかし、3分で充填するためには、−50℃での冷却能力が必要であると言われており、設備コスト、ランニングコストが上昇し、水素供給コストも上昇し、せっかく環境に配慮した燃料だとしても、普及に足かせがかかってしまう。例えば、特許文献1では、水素を活性炭で貯蔵し燃料電池に使用することが記載されている。しかしながら、これらは一般的な活性炭であり、また、活性炭を容器に導入する効果的な方法については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−287905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような状況下、できるだけ多くの水素を貯蔵でき、水素充填時においては、従来の充填よりも簡便な充填ができる水素貯蔵用複合容器が求められている。よって本発明は、できるだけ多くの水素を貯蔵でき、水素充填時においてプレクールを必要としない、もしくは、プレクールが少なくてすみ、従来よりも簡便に水素を充填できる水素貯蔵用複合容器、及び、その複合容器への水素充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、ライナーを繊維および樹脂で補強した複合容器であって、内部に、温度303K、水素の平衡圧35MPaであるときの水素吸蔵能が0.5質量%以上である多孔性炭素材料を5〜25体積%存在させた、水素貯蔵用複合容器を提供する。上記ライナーの材質はいかなるものであっても良い。
【0009】
本発明の水素貯蔵用複合容器によれば、内部に上記多孔性炭素材料を存在させることで、水素貯蔵量を増大させることができるとともに、多孔性炭素材料が熱を吸収することで、水素温度の上昇を抑えることができる。そのため、本発明の水素貯蔵用複合容器は、多くの水素を貯蔵できることに加え、プレクール設備を不要とする、あるいはプレクール能力を削減することが可能となる。本発明の水素貯蔵用複合容器は、FCV用水素燃料用容器として好適である。なお、温度上昇を抑える目的であれば、単純な吸熱材を用いてもよいが、その場合は水素貯蔵量を維持するために容器の容量を増やす必要がある。これを避けるために、本発明においては吸熱材に水素吸蔵能を持たせることで、容器容量を変えることなく目的を果たすことができる。
【0010】
ここで、上記多孔性炭素材料は、BET法により測定される比表面積が800〜3000m/g、ミクロ孔容積が0.5〜2cc/gであるものであることが好ましい。上記多孔性炭素材料は、2回以上の賦活工程を経て形成された植物原料由来の活性炭、または、Li原子を含む活性炭であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、ライナーを繊維および樹脂で補強した複合容器であって、内部に、温度303K、水素の平衡圧35MPaであるときの水素吸蔵能が0.5質量%以上である多孔性炭素材料を5〜25体積%存在させた水素貯蔵用複合容器に、上記多孔性炭素材料の熱容量が水素の吸着熱と吸着されない水素の圧縮熱とを吸収することで、容器内に充填された水素の温度が上記樹脂の耐熱温度以下となるように、水素を圧縮し充填する水素充填方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多量に水素を貯蔵でき、水素充填時においてプレクールを必要としない、もしくは、プレクールが少なくてすみ、従来よりも簡便に水素を充填できる水素貯蔵用複合容器を提供することができる。また、本発明によれば、上記水素貯蔵用複合容器を用い、プレクールを必要としない、もしくは、プレクールが少なくてすみ、従来よりも簡便に多量の水素を充填できる水素充填方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る水素貯蔵用複合容器の概略部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
(水素貯蔵用複合容器)
図1は、本発明の一実施形態に係る水素貯蔵用複合容器の概略部分断面図である。図1に示すように、水素貯蔵用複合容器1は、ライナー2を繊維および樹脂4で補強した容器部6を備える。
【0016】
ライナー2は、両端部をドーム状(半球状)に形成した円柱体であり、内部は中空をなし、少なくとも一方の端部に、水素を充填するための構造を有するものである。両端部以外の円柱状の部位は、一定の直径で形成されていてもよいが、中央部の直径が多少大きい構造であってもよい。ライナー2を構成する材料としては、ステンレス、アルミニウム等の金属、あるいはポリエチレン等のプラスチックなど一定の強度が得られるものであればいかなるものであっても良い。
【0017】
ライナー2の少なくとも一端に設けられた水素を充填する構造は、一般的に口金12と、ライナー2の外部にノズル状に伸びた水素供給管14とで構成される。水素供給管14は、必要に応じ、図1に示すようにライナー2の内部にも伸びていてもよい。その場合、水素供給管14のライナー2内部に伸びた部分(内部ノズル)は、例えば、無数の穴が開いたフィルター状の管となっており、この内部ノズルによって均一に水素が吹き込まれるようにしてあってもよい。
【0018】
本発明においてライナー2は、繊維および樹脂4で補強される。補強の方法は任意であるが、容器部6は、例えば、樹脂で含浸した炭素繊維をライナー2に巻装することによって、製造される。巻装の方法は任意であり、例えば、あらかじめ樹脂を炭素繊維等に含浸してあるトウプリプレグを使用したり、炭素繊維を巻装時に液体状の樹脂に含浸し使用するなどの用法がある。使用する樹脂は一般的に熱硬化性の樹脂であり、典型的なものはエポキシ樹脂である。巻装の方法は、フープ巻き、ヘリカル巻き等により連続的に密に巻回する方法が挙げられる。こうした樹脂は、ライナー2に巻装した後、加熱され硬化される。
【0019】
繊維および樹脂4を含む補強層の厚みは、水素充填圧力によって異なるが、一般的には5mm〜10cmであり、ライナー2の直径の3%〜20%程度である。
【0020】
本発明においては、こうしたライナー2を繊維および樹脂4で補強した容器部6内に、温度が303Kであり、水素の平衡圧が35MPaであるときに、水素吸蔵能が0.5質量%以上、好ましくは、0.6〜3質量%である多孔性炭素材料8を、5〜25体積%存在させるものである。
【0021】
かかる多孔性炭素材料8は、一般的なものでも良いが、特に好ましいものは、水素の吸蔵能が高い、2回以上の賦活工程を経て形成された植物原料由来の活性炭である。さらに、多孔性炭素材料8は、Li原子を含む活性炭であることが好ましい。
【0022】
2回以上の賦活工程を経て形成された植物原料由来の活性炭とは、ヤシガラ、モミガラ、竹、木材チップ等の植物原料を炭化させた後に2回以上賦活させたものである。こうして得られる活性炭は、表面積が大きく水素の吸蔵しやすいミクロ孔の発達した活性炭であり、炭素以外の植物由来の成分が好ましく作用することによって、高度な水素吸蔵能を有する活性炭である。
【0023】
本発明においては、植物原料をそのまま、あるいは300〜1,000℃の温度で炭化処理したものを第一段の賦活処理に供する。必要に応じ、賦活の前に植物原料の粉砕を行っても良い。
【0024】
賦活方法は、水蒸気賦活、アルカリ賦活等があり、どのような賦活方法でもよいが、特に好ましいのは、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物を使用した賦活方法である。
【0025】
例えば、植物原料を炭化して得られた炭化物1質量部に対して、アルカリ金属水酸化物を0.2〜5質量部加え、温度500〜800℃程度で0.1〜5時間程度処理を行う。この際、アルカリ金属水酸化物として特に好ましいのは、水酸化カリウムである。この後、未反応のアルカリ金属水酸化物を洗浄によって除去する。洗浄では、必要に応じ塩酸等を使用してアルカリを除去することも可能である。その後、乾燥させた後、再度賦活する。この際は、水蒸気賦活をすることも良いし、同じようにアルカリ金属水酸化物を反応させても良い。この際は、水酸化カリウムを使用しても良いし、ミクロ孔の形成がしやすいことから、水酸化リチウムを使用してもよく、いくつかのアルカリ金属水酸化物を併用しても良い。この後、同様に、必要に応じて洗浄して、乾燥させる。さらに賦活を繰り返しても良い。
【0026】
こうして製造された植物原料由来の活性炭は、BET法により測定される比表面積が800〜3000m/g、ミクロ孔容積が0.5〜2cc/gである。
【0027】
植物には、炭化しても炭素以外の成分が含まれており、水素との相互作用により、単なる活性炭よりも水素吸蔵能が優れるものである。一方で、炭素以外の成分は、賦活を妨げることがあり、二回以上賦活することにより、好ましい賦活と、細孔の形成が可能となるものである。
【0028】
Li原子を含む活性炭とは、一般の活性炭において、表面の含酸素官能基にLiイオンを結合(担持)させたものである。ここで、含酸素官能基は、フェノール性水酸基、キノン基、ラクトン性カルボキシル基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0029】
多孔性炭素材の表面の一部と、その表面に形成されたフェノール性水酸基の構造の一例を、下記化学式(1)に示す。
【化1】



【0030】
多孔性炭素材の表面の一部と、その表面に形成されたキノン基の構造の一例を、下記化学式(2)に示す。
【化2】



【0031】
多孔性炭素材の表面の一部と、その表面に形成されたラクトン性カルボキシル基の構造の一例を、下記化学式(3)に示す。
【化3】



【0032】
多孔性炭素材の表面の一部と、その表面に形成されたカルボキシル基の構造の一例を、下記化学式(4)に示す。
【化4】



【0033】
下記化学式(5)は、含酸素官能基としてカルボキシル基と水酸基が形成された多孔性炭素材の表面の一部にLiが結合していない状態を示す。下記化学式(6)は、下記化学式(5)に示す多孔性炭素材の表面の一部にLiが結合している状態を示す。
【化5】



【化6】



【0034】
上記化学式(5)及び(6)に示すように、Liが、含酸素官能基に含まれる酸素に結合し、LiO基が形成されていることが好ましい。LiO基は、水素分子を強く吸着する性質を有する。したがって、LiO基が多孔性炭素材の表面に形成されることによって、水素吸蔵材における水素分子の吸着密度が増加して、水素吸蔵能が従来に比べて著しく向上する。
【0035】
含酸素官能基は、上述した官能基の中でも、フェノール性水酸基であることが特に好ましい。水素吸蔵能を向上させるためには、フェノール性水酸基に結合したLiのほうが他の含酸素官能基に結合したLiよりも好ましい。
【0036】
水素吸蔵材に含まれるLiの量は、0.1〜3mmol/g程度であればよい。ただし、水素吸蔵材に含まれるLiの量はこの範囲に限定されない。水素吸蔵材へのLiの導入量が大きいほど水素吸蔵能が向上する。
【0037】
こうしたLiを担持した活性炭は、上述の2回以上賦活をした植物原料由来の活性炭を使用しても良い。
【0038】
また、多孔性炭素材料8としては、繊維状原料の賦活物を用いてもよい。繊維状原料の賦活物は、賦活されたPAN(ポリアクリロニトリル)であることが好ましい。繊維状原料の賦活物は、上述した植物原料由来の活性炭と同様に、「炭化」及び「賦活」の2工程を含む製造方法により製造される。繊維状原料の賦活物も、2回以上賦活させたものであることが好ましい。また、繊維状原料の賦活物も、上述したようにLiを担持させたものであることが好ましい。こうして製造される繊維状原料の賦活物も、BET法により測定される比表面積が800〜3000m/g、ミクロ孔容積が0.5〜2cc/gである。
【0039】
本発明においては、こうした多孔性炭素材料8をライナー2の内部に存在させる。存在させ方は任意であるが、例えば、多孔性炭素材料8の粉末を蒸発の可能な有機溶媒に分散させた後、紙などの柔軟性のあるシートにキャストし、それを端部ドーム部材と一体成形された気体が表面から噴出自在な内部ノズルに巻きつけた後、円柱の側面ともう一方の端部ドーム部材を成形するなどの方法がある。また、多孔性炭素材料8の粉末をキャストしたシートを、ライナー2の円柱部分や端部ドーム部材の内面に貼り付けてもよい。
【0040】
この後、ライナー2は、繊維および樹脂4で補強され、本発明の水素貯蔵用複合容器1となる。
【0041】
複合容器1内部の多孔性炭素材料8の量は、ライナー2内部の水素が存在する空間で実質的に水素を貯蔵する場所の容積の5〜25体積%であることがよい。
【0042】
ただし、多孔性炭素材料8の量は、水素を充填するときに発熱する熱量と、多孔性炭素材料8の吸収する熱量と、水素を吸蔵する際に発熱する熱量との関係において、複合容器1内に充填された水素の温度が樹脂の耐熱温度以下、または法令等に定められた温度以下となるように、調節することが望ましい。
【0043】
すなわち、水素を高圧で充填すると発熱し、容器の最高使用基準温度を超えてしまうことがある。本発明においては、多孔性炭素材料8の熱容量によってそれを防ぐことができる。
【0044】
また、多孔性炭素材料8に一定の量の水素が吸着すると吸着熱が生じ、吸着された分、圧縮熱が減少する。すなわち、
(水素の圧縮による熱放出量)+(水素の多孔性炭素材料8への吸着による熱放出量)
−(水素の多孔性炭素材料8への吸着による体積減少による熱放出量の減少)
−(多孔性炭素材料8の熱吸収による熱放出量の減少)
−(自然冷却による大気への放出)
の熱量からの発熱により、上昇した温度が、樹脂の耐熱温度(安全温度)以下となるように、多孔性炭素材料8を存在させるのが良い。この際、別途規格によって、使用できる温度が決まっていれば、それに併せて多孔性炭素材料8の量を決定することがよい。
【0045】
この際に必要な多孔性炭素材料8の量は、例えば、現在の自動車工業会の基準で、70MPaを3分充填とすると、貯蔵する場所の容積の5〜25体積%、好ましくは8〜15体積%であり、かつ、必要な水素吸蔵能が0.5質量%以上、好ましくは0.6〜3質量%の範囲である。この範囲を外れると、十分な温度低下がなされない。
【0046】
また、図1に示すように、ライナー2の内部の表面に一定の量で多孔性炭素材料8を存在させれば、その熱容量による温度上昇の抑制効果に加え、断熱効果も生じるため好ましい。この製造方法は任意である。例えば、ライナー2内部の表面に樹脂等のバインダーを用いて多孔性炭素材料8を付着させてもよいし、先と同じように、多孔性炭素材料8の粉末を蒸発の可能な有機溶媒に分散させた後、ライナー2内部の表面にキャストしたのち、通気性のある網状の材料で押さえることで保持しても良い。
【実施例】
【0047】
本実施例では、自動車工業会の安全基準の85℃以下に保てるように検討した。なお、この温度では使用された樹脂(耐熱温度120度以上)になんらの影響もないことを確認した。
【0048】
(実施例1)
1μm以下の無数の穴が開いたフィルター状の水素供給管を備えたアルミライナー製CFRP容器を作製した。作製した容器の仕様は、内容量10L、内径160mm、長さ520mm、最小破裂圧力180MPaであった。
【0049】
PAN系繊維状炭素材料を600℃で焼成し、焼成後の繊維状炭素材料1gあたり0.08molのKOHを加え、不活性ガス雰囲気下、600℃で2時間賦活処理した。その後再度、賦活後の繊維状炭素材料1gあたり0.1molのKOHにより、不活性ガス雰囲気下、750℃で再度賦活処理を行なった。得られた多孔性炭素材料は、BET法により測定される比表面積が2281m/g、ミクロ孔容積が1.276cc/gであった。得られた多孔性炭素材料の水素吸蔵能は、水素の平衡圧35MPa、温度30℃(303K)で0.6質量%であった。
【0050】
この多孔性炭素材料を作製した容器に4kg(17.7体積%)導入し、初期温度25℃の水素を3分間で70MPaまで高速充填した。充填直後の容器内水素の温度は85℃、充填された水素量は0.28kgであった。
【0051】
(実施例2)
PAN系繊維状炭素材料を600℃で焼成し、焼成後の繊維状炭素材料1gあたり0.08molのKOHを加え、不活性ガス雰囲気下、600℃で2時間賦活処理した。その後、賦活後の繊維状炭素材料1gあたり0.1molのLiOHにより、不活性ガス雰囲気下、750℃で再度賦活処理を行い、材料にLiを導入した。導入されたLi量は0.3質量%であった。得られた多孔性炭素材料は、BET法により測定される比表面積が2128m/g、ミクロ孔容積が1.316cc/gであった。得られた多孔性炭素材料の水素吸蔵能は、水素の平衡圧35MPa、温度30℃(303K)で1.2質量%であった。
【0052】
この多孔性炭素材料を実施例1と同じ仕様の容器に4kg(16.5体積%)導入し、初期温度25℃の水素を3分間で70MPaまで高速充填した。充填直後の容器内水素の温度は84℃、充填された水素量は0.30kgであった。
【0053】
(実施例3)
もみがらを500℃で焼成し、焼成後のもみがら1gあたり0.05molのKOHを加え、不活性ガス雰囲気下、750℃で1時間賦活処理した。その後、賦活後のもみがら1gあたり0.1molのLiOHにより、不活性ガス雰囲気下、750℃で再度賦活処理を行い、材料にLiを導入した。導入されたLi量は0.2質量%であった。得られた多孔性炭素材料は、BET法により測定される比表面積が2348m/g、ミクロ孔容積が1.158cc/gであった。得られた多孔性炭素材料の水素吸蔵能は、水素の平衡圧35MPa、温度30℃(303K)で1.0質量%であった。
【0054】
この多孔性炭素材料を実施例1と同じ仕様の容器に4kg(18.0体積%)導入し、初期温度25℃の水素を3分間で70MPaまで高速充填した。充填直後の容器内水素温度は83℃、充填された水素量は0.29kgであった。
【0055】
(実施例4)
コークスを700℃で焼成し、焼成後のコークス1gあたり0.07molのKOHを加え、不活性ガス雰囲気下、750℃で2時間賦活処理した。その後、賦活後のコークス1gあたり0.1molのNaOHにより、不活性ガス雰囲気下、750℃で再度賦活処理を行った。得られた多孔性炭素材料は、BET法により測定される比表面積が2048m/g、ミクロ孔容積が1.208cc/gであった。得られた多孔性炭素材料の水素吸蔵能は、水素の平衡圧35MPa、温度30℃(303K)で0.5質量%であった。
【0056】
この多孔性炭素材料を実施例1と同じ仕様の容器に4kg(16.8体積%)導入し、初期温度25℃の水素を3分間で70MPaまで高速充填した。充填直後の容器内水素温度は85℃、充填された水素量は0.28kgであった。
【0057】
(実施例5)
やしがらを700℃で焼成し、焼成後のやしがら1gあたり0.05molのKOHを加え、不活性ガス雰囲気下、750℃で2時間賦活処理した。その後、賦活後のやしがら1gあたり0.1molのLiOHにより、不活性ガス雰囲気下、750℃で再度賦活処理を行い、材料にLiを導入した。導入されたLi量は0.3質量%であった。得られた多孔性炭素材料は、BET法により測定される比表面積が2118m/g、ミクロ孔容積が1.402cc/gであった。得られた多孔性炭素材料の水素吸蔵能は、水素の平衡圧35MPa、温度30℃(303K)で1.3質量%であった。
【0058】
この多孔性炭素材料を実施例1と同じ仕様の容器に4kg(17.5体積%)導入し、初期温度25℃の水素を3分間で70MPaまで高速充填した。充填直後の容器内水素温度は85℃、充填された水素量は0.31kgであった。
【0059】
(比較例1)
市販の脱臭用粉末活性炭を実施例1と同じ仕様の容器に4kg(18.2体積%)導入し、初期温度25℃の水素を3分間で70MPaまで高速充填した。充填直後の容器内水素温度は98℃、充填された水素量は0.26kgであった。この活性炭の水素吸蔵能は、水素の平衡圧35MPa、温度30℃(303K)で0.0質量%であった。
【0060】
(比較例2)
実施例1と同じ仕様の容器に多孔性炭素材料を入れずに、初期温度25℃の水素を上記実施例1と同じ速度(1.6g/秒)で高速充填したところ、圧力が3MPaに達した時点で水素温度が85℃となったため、充填を中止した。再度充填速度を落とし(0.5g/秒)水素を充填したところ、2分、10MPaで85℃となった。このときの水素充填量は0.06kgであった。
【0061】
(実施例6)
やしがらを700℃で焼成し、焼成後のやしがら1gあたり0.05molのKOHを加え、不活性ガス雰囲気下、750℃で2時間賦活処理した。その後、洗浄の後、450℃になった時点で、第二段の酸素賦活処理を、酸素濃度5体積%の窒素との混合ガス(流速3Nm/h)により行った。得られた多孔性炭素材料は、BET法により測定される比表面積が1988m/g、ミクロ孔容積が1.305cc/gであった。得られた多孔性炭素材料の水素吸蔵能は、水素の平衡圧35MPa、温度30℃(303K)で1.4質量%であった。
【0062】
この多孔性炭素材料を実施例1と同じ仕様の容器に4kg(17.7体積%)導入し、初期温度25℃の水素を3分間で70MPaまで高速充填した。充填直後の容器内水素温度は84℃、充填された水素量は0.31kgであった。
【0063】
(実施例7)
実施例1と同じ仕様の容器に対し、実施例4の多孔性炭素材料4kg(16.8体積%)をアセトンに溶解して容器の内表面にできるだけ均一になるようキャストした後、アセトンを除去した。その後、不織布で覆い多孔性炭素材料を保持した。この容器内に、初期温度25℃の水素を3分間で70MPaまで高速充填した。充填直後の容器内水素温度は85℃、充填された水素量は0.31kgであったが、外部への熱伝導が緩やかであることを確認した。
【0064】
(実施例8)
実施例1と同じ仕様の容器の内表面にできるだけ均一になるように、実施例5の多孔性炭素材料4kg(17.5体積%)をアセトンに溶解して容器の内表面にできるだけ均一になるようキャストした後、アセトンを除去した。その後、不織布で覆い多孔性炭素材料を保持した。この容器内に、初期温度25℃の水素を3分間で70MPaまで高速充填した。充填直後の容器内水素温度は84℃、充填された水素量は0.31kgであったが、外部への熱伝導が緩やかであることを確認した。
【0065】
(実施例9)
実施例1と同じ仕様の容器の内表面にできるだけ均一になるように、実施例6の多孔性炭素材料4kg(17.7体積%)をアセトンに溶解して容器の内表面にできるだけ均一になるようキャストした後、アセトンを除去した。その後、不織布で覆い多孔性炭素材料を保持した。この容器内に、初期温度25℃の水素を3分間で70MPaまで高速充填した。充填直後の容器内水素温度は84℃、充填された水素量は0.31kgであったが、外部への熱伝導が緩やかであることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の水素貯蔵用複合容器は、来る水素社会において、水素を輸送のインフラに使用し、あるいは水素自動車に備え、エンジンの燃料のタンクとして使用できる。また、家庭用の水素用の燃料電池に、かつてのプロパンガスボンベのような使用も可能である。すなわち複雑で経費のかかる設備を持たない水素供給場所でも使用することができ、水素のエネルギーとしての普及に大きく貢献するものである。本発明を実施することで、環境に貢献でき、継続性社会の実現の一助となることは明らかである。
【符号の説明】
【0067】
1…水素貯蔵用複合容器、2…ライナー、4…繊維および樹脂、6…容器部、8…多孔性炭素材料、12…口金、14…水素供給管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナーを繊維および樹脂で補強した複合容器であって、内部に、温度303K、水素の平衡圧35MPaであるときの水素吸蔵能が0.5質量%以上である多孔性炭素材料を5〜25体積%存在させた、水素貯蔵用複合容器。
【請求項2】
前記多孔性炭素材料が、BET法により測定される比表面積が800〜3000m/g、ミクロ孔容積が0.5〜2cc/gであるものである、請求項1記載の水素貯蔵用複合容器。
【請求項3】
前記多孔性炭素材料が、2回以上の賦活工程を経て形成された植物原料由来の活性炭である、請求項1又は2記載の水素貯蔵用複合容器。
【請求項4】
前記多孔性炭素材料が、Li原子を含む活性炭である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素貯蔵用複合容器。
【請求項5】
ライナーを繊維および樹脂で補強した複合容器であって、内部に、温度303K、水素の平衡圧35MPaであるときの水素吸蔵能が0.5質量%以上である多孔性炭素材料を5〜25体積%存在させた水素貯蔵用複合容器に、前記多孔性炭素材料の熱容量が水素の吸着熱と吸着されない水素の圧縮熱とを吸収することで、容器内に充填された水素の温度が前記樹脂の耐熱温度以下となるように、水素を圧縮し充填する水素充填方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−112409(P2012−112409A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260031(P2010−260031)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】